ゴンになったのでクソ親父をぶん殴りに行く 作:GON2929
長く続く階段を上り終わると、外の光が受験生達を襲った。
その眩しさに目を細めたゴンは、全身が汗だくになるのを感じた。
マラソンとかで走りつづけ急に止まると、身体中から汗が噴き出すよくある現象だ。
片手で汗を拭うと、後方のレオリオたちを確認する。
レオリオは最後の力を振り絞り階段を上り切った。
「良かった、二人とも大丈夫みたいだね!」
「ハァハァ、ど・こ・が、大丈夫だぁ〜!?
こちとら、ハァ、一生分走ったわ!!」
裸ネクタイ姿で吠えるレオリオにクラピカは少しだけ距離を取っていた。
正直笑える光景だが、ゴンはレオリオの名誉のために我慢した。
「ヌメーレ湿原、通称“詐欺師の塒“。
騙されたら死にますよ」
試験管は息も乱さずそう宣言する。
途中人面猿に邪魔されつつも、ヒソカによってあっさり解決した。
概ね原作通りに二次試験会場までのマラソンが再開された。
相変わらず二人並んで無駄話をしながら走り続ける。
徐々に眼前の霧が濃くなってきた。
すぐ近くにいるはずの受験者の姿が消えるくらい。
「おいゴン」
来たか…
「どうしたのキルア?」
「もっと前へ行った方が良い、ヒソカの野郎、人を殺したくてうずうずしてるぜ」
「そうなの?」
「なんでそんなこと分かるの?って顔してるね。
何故ならオレも同類だから、臭いでわかるのさ」
人を殺したい臭いって正直理解しがたいが、キルアがいうなら間違い無いのだろう。
「同類?あいつと?そんな風には見えないけど」
「それはオレが猫を被っているからさ、そのうち分かるさ」
そう話すと一瞬キルアの表情が怖くなったのに気付かないフリをして、ゴンは後ろを振り返った。
「うーん、わかった!
レオリオー、クラピカー!
キルアがもっと前に来た方が良いってさー!」
ずっと後ろからレオリオの雄叫びが届く。
「バッキャロー!行けたらとっくにいっとるわ!!」
「そこを何とかー!!」
「…お前、緊張感ねーの?」
呆れた顔をしたキルアがゴンを見やる。
「ボヤッとすんな。仲間の命よりまず自分の心配しろよ。
オレ、お前のこと助けねーからな。」
「だって、もしかしたら回避できるかもしれないし」
「は?」
「ううん、何でもない」
キルアの言う通り、しばらくするとヒソカの試験官ごっこが始まった。
それとは別にそこかしこでヌメーレ湿原に騙された者たちの断末魔が響き渡る。
二人は試験官の後ろをぴったりとくっついている為、騙される心配はないだろう。
ゴンに不安がつきまとう。
レオリオとクラピカはヒソカに見込まれ、青い果実認定された筈だ。
命は助かる、が、その後二人はどうなるのだろう。
意識を失ったレオリオはヒソカが担ぎ、それを追いクラピカは追いかけるなんて都合の良い話があるのだろうか。
本来はゴンがレオリオの香水の匂いを辿り、2次試験会場まで辿り着けたのだ。
やはりゴンが行くべきなのか…
「…え」
気がつくと薄暗い霧の中、ゴンは一人ぼっちで走っていた。
隣で走っていた筈のキルアも、前の試験管も見えない。
キルアは?試験官は?
嘘でしょ、ボーッとしすぎて見失ったの?
不安になり思わず立ち止まる。
薄暗い霧の中では、方向感覚すら狂わされる。
自分が何処を向いているのかゴンはわからなかった。
ふらふらとあてもなく彷徨うしかない。
先ほどまで至る所から聞こえてきた断末魔すらも、今は聞こえない。
世界にただ一人きりの様で、ゴンは身体が震えるほどの恐怖を感じた。
その時前方に人影が薄らと見えた。
良かった、キルアかな?
希望に胸をときめかせ、その人物に近寄る。
その人物は走ることはせず、手元の光る機械を見つめ歩いていた。
見覚えのあるブレザーに、チェックのズボン。
両肩には流行りのリュックを下げ、耳から垂れ下がったイヤホンは手元の機械に繋がっている。
170cmくらいの平凡な体型の男は、機械をポケットに仕舞うと、イヤホンから流れる音に合わせ、口ずさんだ。
♪〜♪〜〜♪
「な、んで、その歌は」
数十年ぶりに聞いた流行りのヒットソングは、ゴンの頭に、いや“○○“の頭にすごく馴染んだ。
“○○“は都内の公立高校に通う平凡な男子高校生だ。
好きなものは漫画で、人より少しだけオタク。
カラオケで歌うのはもっぱらアニソンで、よく女性歌手の歌を、下手くそな高音で歌って友達に揶揄われている。
その日もいつも通り登校しようと、少し早めに家を出発していた。
“○○“はイヤホンで音楽を大音量で聴きながら、ゆっくり登校するのが日課だった。
“○○“は
俺の名だ。
突然左側から眩しい光が現れた。
急スピードで迫ってくる巨大な影に、俺は気付く様子もない。
「待ってよ、そのままじゃ、俺は……」
全てがスローモーションに進んでいるように感じた。
危険を知らせるクラクションは無情にも、両耳の音楽によって遮られていた。
___________
「ン!……ゴン!!おい起きろって、ゴン!!」
「ッ!はぁ、はぁ......」
キルア......?
どうやら、自分は眠っていたようだ。
目を開けると、側にはキルアの他に何故かクラピカまで居た。
「ビックリしたぜー!突然お前倒れるんだもん」
「たぶん原因はあれだな」
クラピカの指差した方向には蝶がふよふよ浮遊していた。
「サイミンチョウの一種だろう。酷くうなされていたから、幻覚効果もあるらしいな。我々も気をつけなければ」
「そっか…」
サイミンチョウ…
言われた通り、とても嫌な夢を見た気がする。
その証拠に全身汗だくだ。
そういえば
「クラピカ、レオリオは…?」
気になっていたことを尋ねる。
レオリオはヒソカの試験官ごっこに合格し、頬に一撃を喰らわされ気絶したらしい。
ヒソカはレオリオを担ぎ上げ、そのまま2次試験会場まで向かったようだ。
「問題は我々だ。このままでは試験会場まで辿り着けないぞ。」
「それなら大丈夫だよ」
ゴンはクンクンと犬のように周囲の匂いを嗅ぐ。
「こっちだ!レオリオの香水の匂いは独特だから追っていける!」
「なんだと…本当かゴン!」
「お前、犬かよ」
キルアはつっこみ、クラピカは嬉色の笑みを浮かべゴンを褒めたたえた。
三人は急いで二次試験会場まで走り始めた。
「でもキルア、何で私のこと見捨てなかったの?」
キルアなら、余裕でゴンのことを置いていくと思っていた。
事実、助けないって宣言されたし。
「…別に、理由なんかねーよ」
ぶっきらぼうに答えられる。
なるほど、ただの気まぐれか。
「ありがとうキルア」
ゴンは素直にお礼を述べたけど、キルアからの返事は無かった。