山奥に住む、炭焼きの一家。
父親は亡くなったが、その長男の炭治郎があとを継ぎ、一家は生計を営んでいた。
だがある日。
里で炭を売り、夜になり。帰宅した炭治郎が目にしたものは、変わり果てた家族の姿だった…!
「テ… テェェ…… テキィッ!」
「やめてお姉ちゃん! 落ち着いて!」
「禰豆子! やめて家を壊さないで!」
「テキ…… テキ…… テキサス! スマァッシュ!! 」
筋肉ムッキムキになった妹が、よくわからない言葉を叫んで、拳を振り上げ。
その巻き起こした暴風は、屋根を飛ばし、降り積もっていた雪を巻き上げ。
空の雲を一部吹き飛ばして、きれいに輝く月の姿が見えた。
「ええぇ……」
それしか、口に出来なかった。
事態が、炭治郎の理解を色々と超えていたのだ。
妹(?)の巻き起こした衝撃で軽く吹き飛ばされて。
尻餅をついたままだが、立ち上がろうという発想すらも、まだ出てこない。
そんな彼の耳に、愉快そうな声が聞こえてきた。
「HAHAHAHAHA! また有力な後継者を増やしてしまったな! 竃門少女! 君ならランキングトップ10だって狙えるぜ!」
「俺の家族に何をしたぁー!!」
コイツのせいか。
そう直感した炭治郎は、発言者の大男に即座に殴りかかった。
反射的な行動だった。
急激に襲い掛かってきていたストレスに潰されそうになっていた時に、ぶつけ先を見つけたとも言う。
大男は筋肉ムキムキで、明らかにこの異常事態に関わりがあるように見えたし、実際正解なのでいいのだが。
「おっと。君も竃門家の人間かい? なら君もヒーローにしてあげ――」
「――そこまでだよ、オールマイト」
殴りかかった拳をアッサリと受け止められ、絶体絶命の危機に陥った炭治郎を、横合いからひとりの怪人が救った。
口と耳以外の顔のパーツが存在せず、ただれた皮膚のみが本来、目や鼻があるところも含めて覆っている。
そんな、まるで
「オール・フォー・ワンか。私の前に出てくるとは、いい度胸じゃないか」
「日の呼吸を継ぐ一族に、個性など持ってもらっては厄介だからね。今のうちに潰しておかないと」
助かったと思ったら、助かってなかった。
炭治郎には、事態が自分と関係なく進んでよくわからなかった。
だが助けてくれた人が、自分たちを始末しに来たとか言ってるのは、何となくわかった。
最初からいた筋肉の化け物は、こちらを筋肉モリモリのヒーローとやらに改造するつもりらしいし。
後から来たのっぺらぼうの妖怪は、こちらを殺すつもりだという。
どっちがマシかと言ったら、たぶん筋肉の化け物の方だけど。
本当に助けてもらっていいのだろうか?
というか、助けてくれるんだろうか?
いや、でも助けてもらえないと、俺、死ぬよな。
いくら長男って言っても、妖怪は無理だよ。
よし、そうだな。言おう。言ってみよう。筋肉の、いや筋肉さんに助けてって言ってみよう。
死に際の集中力といわれる、ギリギリまで追い詰められた人間が稀に見せる、並外れた集中力でゆっくりと流れる時間の中。
言葉にするまでもなく、刹那で考えて答えを出した炭治郎は、実際に助けてと口にしようとした。
「たす――」
ユナイテッド ステイツ オブ スマッシュ!!
言い切る前に、消えた。
化け物も、妖怪も。
彼の前から、拳一つで、煙のように消えうせた。
「大丈夫だった? お兄ちゃん」
「お、おう…」
だが筋肉ムッキムキになった妹は消えていなかった。
むしろ圧倒的な存在感を放っていた。
夜なのに、なんか輝いて見えた。
「あーーーーー……」
気持ちを切り替えようと、声を出して頭をガシガシと掻いて。
「とりあえず………… 今日、どこで寝よう」
戦いの余波で見事にぶっ壊れた家の方を見て、そのまま頭を抱えた。
マジでどうしよう、これ。
異常が。もとい。以上が、俺、竃門 炭治郎の経験した長い旅のはじまりだ。
超常は日常に。
これは、俺が最後のヒーローの終わりを見届けるまでの物語だ。
続く。