朝が来た。
日が昇り、大地を照らす。
何だかんだがありすぎて、疲れているけど眠れない夜を過ごした竃門一家も、ようやく人心地が付いた。
のだが。
「なんか変なガイコツがいるー!?」ガビーン!
さっきまでは確かにいなかったはずの、骨と皮のみの、ガリガリの金髪のオッサンがいたのだ。
炭治郎の叫びに、スマッシュする? スマッシュする? と握った拳をフリフリする禰豆子に、ガイコツさんがあわてて言った。
「ヘイ、禰豆子少女、ストップ! やめて! 私だ! オールマイトだよ!」
誰?
竃門一家は、そろってそんな顔をした。
だって今の今まで、オールマイトって名乗ってないもん。
彼らのオールマイトへの認識は、筋肉の化け物、よくて筋肉さんだ。
そして今、オールマイトには筋肉が無いわけで。
「いや、私だってば! ほら、昨日からここにいたでしょ! 筋肉ムッキムキで! 昼間のうちは私はこうなっちゃうの!」
必死でアピールするオールマイト。
だって今は弱体化してて、禰豆子に殴られたらシャレにならないのだ。
禰豆子の方は、相変わらずムッキムキのままだし。
「そっかあ。つまり……」
事態を理解した、炭治郎の目が光った。
「今なら、殺れるんですね!」
さわやかな笑みだった。
影や悪意など、ひとかけらも見当たらない、さわやかな笑みで彼はそう言い切った。
良く考えたら、禰豆子を鬼にしたのもこいつだし、殺っちゃっていいなと気付いたらしい。
昨日の晩から日常が壊れっぱなしで、いい加減キレていたというのもある。
あと疲れていて、その上徹夜で寝不足で、気が立っているというのもありそうだ。
オールマイト。結構なピンチであった。
だが救いの手はやって来た。
「先制必縛 ウルシ鎖牢!」
オールマイトを捕まえ、太陽の下へと放り投げようとしていた禰豆子を、木の触手が襲った。
顔は可愛いのに、身体が不自然に大きくてバランスが悪く、しかもムッキムキの筋肉で全身を武装した少女… 少女? への特殊なプレイ――
――ではない。
これは、こういう技なのだ。
血鬼術。
鬼に変えられた存在が、ある程度の強さを持った時に覚える、それぞれの独自の力である。
もっとも、オール・フォー・ワンが個性と名前を変えてしまったが。
オールマイトの側も、個性と呼んでいる。極一部は忍法と言い張っているが。
彼も、その一人だ。
「そこまでだ。オール・フォー・ワンとは違い、オールマイトは殺してもヒーローへと変えられた者たちは、弱体化するくらいで滅びないが…… 君は成り立てだろう? 悪影響が出るぞ」
それで日光をさえぎっているのだろう。全身が木で覆われている、黒い忍者服を着込んだ存在がそこにいた。
ああ、また不審者か。
炭治郎の目が、また死んだ。
こんな格好で旅をしてきたとか、間違いない。こいつは間違いなく不審者だ。
後ろにいる男も、きっと不審者に違いない。
堂々と刀を腰に差してるし。目の前の、よくわからない光景にも動じずに、どこかぼうっとした目をしてるし。
筋肉さんの話によると、そもそも彼らが来たのは、うちに伝わってるヒノカミ神楽めあてらしいけど。
ああ。うちはどうして、こんなのを代々伝えちゃったんだろうなあ……
朝日が昇ったばかりだというのに、炭治郎は たそがれの空気をまとい始めた。
そんな彼に、刀を差した男が近付き、ぽんと肩を叩いてこう言った。
「お前は、俺と同じだな」
「えっ」
どういう意味なのかまったくわからず、炭治郎は混乱する。
いや、ホントに何が同じなんだ。
「滅ぼす順番は、鬼が先で、ヒーローが後だ」
「いやいやいや、ホントに何の話ぃ!?」
「…………戦うんじゃないのか?」
「ナニと!?」
まあ、事情がわかっていれば、刀の人の言葉もわからないでもない。
妹はこうしてヒーローという名の鬼になってしまった以上は、オール・フォー・ワンや配下の鬼と戦わなくてはならない。
隠れ住んでいようと、向こうは見つけ次第に襲ってくるからだ。
どうもオール・フォー・ワンがゲーム感覚で、ヒーローをボーナスキャラに設定しているらしい。
ヒーローを倒したらボーナスをあげるよ、と力の元である彼の血をくれたり、場合によっては新たな個性をくれるのだ。
そりゃあ見つけ次第、襲ってくるというものである。
兄というならば、そんな妹を放っておくべきではないし、仲が良さそうなので一緒に戦おうとするだろう。
まさかヒーローに進んでなるとも思えないので、剣と特殊な呼吸で戦う、自分たち鬼殺隊に入るべきだ。
人外と戦うべき理由が出来て、力が必要になって、剣を取る。
そういう意味で、刀の人と炭次郎は同じなのだ。
そしてヒーローは改造人間… もとい、改造鬼なので人は食べないが、鬼は普通に人食いをしている。
なので滅ぼす順番は、鬼が優先。というか、ヒーローと鬼殺隊はオール・フォー・ワンを倒すまでという条件で同盟を組んでいる。
そう、言おうとしていたのだ。
伝わらなかったが。
伝わらない事に困惑する、刀の人こと富岡さんと、意味不明さに困惑する炭次郎。
それらに触れず、ヒーローとしての常識や現状を禰豆子に説明している木の忍者ことシンリンカムイ。
とりあえず家財道具や金目のものを、家の跡地から探し始めた竃門一家。
ありあわせのもので、朝食の用意を始めたオールマイト。
そんなまとまりのない集団を、念のための確認にと飛ばされた鎹カラスと、一人の鬼が個性で遠隔地から見つめていた。
「やれやれ、彼らは大丈夫なのかねえ? どう思う、当代産屋敷どの」
「さて。オールマイト殿の目は、あれで確かですよ。オール・フォー・ワン殿。私の勘も、意外とイケるといっています」
といったところで。続く。