ストライフトリガー号が万国海域を外周する。航海士デラウェアの言う通りに舵を取り船を進ませていく。
今万国では一か所に集中して戦火が広がっている。喧嘩屋一行はその地点から抜け出そうとしている連中を待ちかまえようというのだ。
そしてその連中こそが今回のターゲット麦わらの一味であることを願うばかりである。そもそもここに麦わらがいるという保証もないのだ。
しかし可能性が少しでもあるのなら賭けてみるのがこの海を生きるコツである。
そして到着したポイント、デラウェア命名の麦わらポイント。
彼の読みでは必ずこの麦わらポイントを通過するはず。
「いや正確にはここにいれば逃げる船を観察できるポイントだな。」
「なんだそりゃ。」
「だってビッグマム海賊団ともぶつかるかもだろ?だったらまずは様子見できるポイントに来る方がいいだろ。」
「デリが正しい、いくらなんでも正面から接触するのは危険だ。向こうが取り込み中だとしても漁夫の利を狙える相手じゃない。」
ビーフが賛同する。
穏やかな彼も今だけは張りつめている。
この後に起こることは今までで一番恐ろしい経験となることを彼は察知している。
「でも兄さん本当にここでいいの?周りも凄い静かだし。」
ウイが落ち着かない様子でデラウェアに問いかける。
いくら一流の航海士といえど他の船の進路を読むことは並大抵のことではない。
「だからギャンブルだっつってんだろ。来ねえかもしれねえし、そもそも麦わらがいるのかも怪しいんだ。」
「麦わらがビッグマムにもう殺されてる可能性もあるわね~」
皆が船内で準備を整え迫る嵐に備える中、ホーマーは一人甲板で遥か彼方の水平線を望遠鏡で覗く。
あの水平線の向こうから最悪の世代、或いは四皇が現れるかもしれないのだ。
今日死ぬかもしれない、そんな恐怖が身体中を駆け巡っている。そのはずなのに何故だろうか、楽しくてたまらなかった。喉がヒリヒリ焼けつくような感じが心地いい、手足が震えることに優越感を感じる。
自分は今からとんでもなく大きなことをやろうとしている。
そんな気持ちで胸がいっぱいだった。ここ数年感じたことのない生きているという実感。
「ようホーマー。」
そこにデラウェアが現れる。
「なんでえお前やけにうれしそうじゃねえか。」
「私が?・・・そうかもな、正直楽しい。」
「頼むぜホーマー、ボスがそんなヘラヘラしてたら決まらねえだろ。」
「・・・ごめんなデリ。こんなことやらせて。」
「別に、俺はお前から金もらってここで航海士兼賞金稼ぎやってんだ。今更文句もクソもねえよ。それにな、正直俺もちょっと楽しい。」
二人で顔を見合わせ歯を見せ笑う。
しかしすぐにホーマーは少し笑みを押し込める。
「今私・・・久々に自分が生きてていいって一瞬思えたんだ。自分は世界に影響を与える意味のある人間なんだって。」
「お前なあ・・・縁の下の力持ちって言うだろ?この海で誰にも名を知られないまま酔っ払いに酒注いで
一生を終える奴だっているんだぜ?そういうやつには生きる意味がないってのかよ。」
「そうは言わないけどさ・・・私はそれ嫌だなって思う。自分が死んでも世界が何事もなかったかのように回り続けるのが嫌だ、生きるなら意味のある自分でありたい。デリはそうは思わない・・?」
「だって俺ただの元海賊の航海士だもん、海軍に言わせりゃ俺に生きる価値なしだろ。だからって死んでやる義理もねえし。まあ、いい意味で俺は無意味な人間ってとこかな。」
「わけわかんね。」
「おめえの方がわけわかんねえよ、難しく考えて自分で自分の首絞めて楽しいのか。」
「うるせー、そういう性分なんだよ。」
デラウェアは後ろから手を回してホーマーから望遠鏡を奪う。
「あってめ!」
「これ俺の望遠鏡だろうが!」
言い争いをしながらデラウェアは望遠鏡を覗く。
しかし何かが見えてくる気配はない。
「・・・・読み違えたか?それとも・・・」
「総長!兄さん!ヤバい!やばいよおっ!!」
突然ウイが二人の間から現れる。
「うわ!?おめいつの間に!?」
「もういいよそれは!それより来た!来たよ!」
「なに・・・!?」
デラウェアはもう一度望遠鏡を覗く。しかし見る先には何の影もない。
「そっちじゃない!こっちから来てんの!」
ウイがデラウェアの首を強引にねじ回す。
「ぐふっ」
首の骨が折れるギリギリのところまで首を回されたがそのおかげでウイが慌てている理由が分かった。
「デリ!奴ら来たのか!?麦わらか!?ビッグマムか!?」
「・・・すまねえホーマー、完全に読み間違えたみてえだ・・」
ホーマーはデラウェアから望遠鏡を奪い自ら覗く。
そしてそこに見えたものは
麦わら帽子をかぶったドクロの海賊旗、そしてそれを追う悪魔のような巨大な女。
紛れもなくそれは麦わらの一味と四皇ビッグマムであった。
「・・・・まじで来やがったか・・・。なんだよデリ、流石お前の読み合ってんじゃねえか。」
「いや、お褒め頂き恐縮だがホーマー。これはマズい。どうやらここは本当に麦わらポイントだったようだ。」
「それって・・・・?」
「奴らまっすぐここに来るぞ。」
「!!?」
中にいた他のメンバーも甲板に飛び出してくる。
「総長、このままだと衝突だ。どうする。」
「まだこっちに気づいてないみた~い。」
「ホーマー!」
「総長!逃げよ!」
ホーマーは遠くから刻々と近づいてくる嵐を見据える。
波も荒れ始めこのままでは離脱も容易ではなくなる。
逃げるなら今しかない。
「・・・・ここまで来たんだ。やるぞお前ら、喧嘩の時間だ。」
「な・・・・!?」
ウイが何か言いかけるしかし言葉が出てこない。
逃げるべきだ、そう言いたい。だがホーマーの意思も尊重したい。
「・・・ビビるな、ビビるな。お前ら恐いのは分かる、私も恐い。だがここで逃げたら・・・」
「ホーマーさん逃げましょうよ。」
マジックマンがワインを片手にしれっと言いのける。
「なんだと・・?」
「だってこれ勝てるわけない。え?皆さんで心中するおつもりかな?」
「ふざけんな・・・」
「皆さんだってそう思ってる。あなたリーダーなのに皆さんの気持ちが分からないので?」
「てめえ!雇われ傭兵が偉そうなこと言ってんじゃねえぞ!!いいから来い!ここで麦わらをとっ捕まえる!邪魔するならビッグマムだろうがぶっ飛ばして―」
その時黒い拳がホーマーの顔面に打ち付けられ彼女は吹き飛ばされマストに激突する。
そのまま彼女は気を失ってしまう。ホーマーを殴り飛ばした彼女は気絶したホーマーを抱きかかえ皆に視線を送る。
「ごめんね~・・・総長~・・・・」
「ブルーお前・・・」
「この子~立ち向かうべき時と~逃げるべき時が分からなくなってるから~こうするしか~。」
「ブルーよくやっってくれた。」
ビーフが舵を取る。
「みんな、逃げよう。アレはあり得ない。」
海の向こうでビッグマムが暴れているのが見える。
ビーフの言う通り、あれはあり得ない。
ストライフトリガー号は急ぎ旋回しその場から離れていく。
情けなくも怖気付き逃げる。
だが人は知るべきだ、逃げるべき時を。
この場合ブルーレットとビーフの決断は英断だったと言わざるを得ないだろう。
ToBeContinued