新世界の海原をストライフトリガー号が征く。目指すは聖地マリージョア。
甲板に一人、喧嘩屋総長がマストに手を当て遠くを見つめる。
昔から何かを成し遂げたことのない彼女は唯一持っている暴力だけを武器に新世界を生きている。
弱小海賊を狩ることから始め今ではトータルバウンティ億越えの海賊団を相手にすることも厭わない強豪チームとなった。
しかし未だに彼女が見たい景色は見えてこない。頂上の見えない山を登り続けていつかその景色は見えるのだろうか。疲れ果て足を止めてしまうのではないかと不安が暗雲となり彼女の視界を遮る。
「いい船だ」
ホーマーの後ろから天竜人ミョスガルドが声をかける
「なにやら貴女の部下たちがえらく私に媚びを売ってくる。私が天竜人であることを随分と恐れているようだが・・・心配はいらない。私は他の天竜人とは違う。」
「違うっすよね・・・」
「余計な心労を与えてしまったかな?」
「そんなことないですよ、ただ仲間のこと考えずに仕事安請け合いしちゃって・・・ああ、こう見えても自分総長なんで、もっと考えてやればよかったなって。あ、すんません。お客さんにする話じゃないっすよね。」
「いや分かるよ。」
ミョスガルドは一歩前に出てホーマーの顔を覗き込み優しく微笑みかける。
「権力には責任が伴う。」
その一言を聞いたホーマーはうつむいてしまう。
今の自分には重い言葉だと。
「だが苦しい方に考える必要はないと思う。逆に私は権力をもって責任を果たすことができると考えるようにしている。天竜人たるこの身分が人の役に立つのならそれは素晴らしいことだと。だから貴女も総長という立場が重く感じられたら自分にできることがどんなに素晴らしいことかを考えてみてはどうか?」
「・・・ミョスガルド様・・・マジで天竜人っぽくないっすね。」
「ああ分かっているよ、よーく分かっている。」
二人は笑い合う。
「・・・とはいえ私も昔は他の天竜人と変わらず傲慢で残虐な男だった。」
「なんかきっかけがあったんすか?」
「うむ、ある人のおかげだ。」
「人ってそんな簡単に変われるもんですか・・・?」
「・・・どうだろう。変わる・・・というのは無理なのではないだろうか。」
ミョスガルドは神妙な面持ちになり考え慎重に言葉を選ぶように話す。
「過去の愚かな私も今の私も全部私だ。どちらが本当の私というわけでもない。ただ私はある人に諭され目線を変えただけなのだ。」
「目線?」
「うむ。目線の位置を変える。どこから見るかで物事は変わる。かつて私は天竜人の目線でしか物事を見ることができなかった。だがあらゆる立場から見ることで私の世界は激変した。それに合わせて私は自らの行いを改めたのだ。」
「目線が変わっただけ・・・」
「しかしそれが一番難しいことでありその目線を維持することは尚更だ。それに目線が変わることは必ずしもいい結果を生むわけじゃない。我が一族にも地に降り世界の闇を見た結果凶悪な犯罪者になったものだっている。」
「要は見聞を広めろってことっすよね。」
「そうだな。」
「ありがとうございます。なんかちょっと前の方晴れてきた気がしますわ。」
「結構。」
「っていうか本当に前の方、靄が晴れてきたな。水平線が見える・・・ん?」
ホーマーは水平線に動く影を見る。
「ウイ!」
「はい総長!」
ウイがホーマーの背後から現れる。
「うわお前いつの間に!」
「ずっといたよ私は!」
「じゃなくて!ウイ!ミョスガルド様を船内に!」
「アイアイサー!」
ただならぬ様子のホーマーを見てミョスガルドも警戒し彼女に問う。
「何か見えたのか・・・?」
「そうっすね、多分嫌な感じの客っす。」
ウイがミョスガルドを船内に連れていき。その間にホーマーはマストへと昇り望遠鏡を覗く。
海の中を何かがこちらに向かって接近している。
そのまま一分もしないうちに喧嘩屋クルーが甲板へと出てくる。
航海士デラウェア、料理人ビーフ、整備士ブルーレット、見習いウイ。
そしてマスト頂上にて仁王立ちし接近する怪しい影を睨み付ける総長ホーマー。
「よし、やるか。」
「まだ料理途中なんだが。」
「ぱぱっとぶっ壊しちゃうわね~」
「ウイ頑張るよー!」
喧嘩屋が取り扱う商品、それは暴力。
この狂った世界においてはベストセラーであり廃れることのない大ヒット商品。
暴力。
「野郎ども、喧嘩の時間だぜ。」
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