Fate/Serving with Smile   作:コント黄色信号

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なんとか二話目を投稿できました。あと、タグに「オリ鯖」を追加しました。完全に忘れてた⋯⋯。


六過警察署にて

 

 

2014年12月19日—六過警察署大会議室

 

 

「自殺、なんですかねぇ」

 六過警察署の霊安室に並ぶ十四体の遺体袋、それらが全てここ数日で発見されたものであるという事実に、その場の警察関係者たちは言葉を失った。未曾有の連続自殺事件(・・・・・・)、見つかった遺体は全て、頸動脈を剃刀のような鋭利な刃物で切断されたことによる失血性ショックが死因である。被害者にこれといった接点は無く、遺体発見場所も駅周辺に集中しているにはいるが、よりミクロな視点で見れば、全く以てランダムで、何一つ事件性が見当たらない。天罰の如き公平性がむしろ事件性と言っても過言でない。遺体の損壊度合いは様々で、首筋以外に傷が見受けられないものもあれば、全身の筋繊維に一様に細かい断裂が見られるもの、腹腔が空っぽのもの、下半身がひどく損傷しているもの、憎たらしいほどにバリエーション豊かである。

「クソッ、舐められたもんだぜぇ、ご丁寧に体の一部に焼印まで入れてゆきやがってよ。ああ、今すぐにでも法廷に引き摺り出してやる」

「そう熱くなんなよ、冷静さを欠いたら終わりだ」

 激昂した初老の刑事を、聡明そうな青年が宥める。当の刑事は不機嫌そうな顔付きのまま、パイプ椅子にどっかと腰を下ろした。

「取り敢えず、捜査会議を始めましょう。遺族の方々にも示しがつきませんよ」

「貴方は、確か今回六過市に派遣された自衛隊の⋯⋯」

 信楽の狸のような立派な腹回りの刑事が、ホワイトボードの前で指示棒を手にしているオールバックの小柄な男に視線を向ける。

「今回捜査に参加させていただきます。陸上自衛隊所属の氷川、と申します。最近六過で発生している犯罪について、警視庁の方から協力要請がありましたもので」

「てめっ、アーミーを捜査に参加させるとか聞いてねぇぞ」

 パイプ椅子から立ち上がり、氷川に掴みかかろうとする初老の刑事を、先ほどの青年が後ろから羽交い締めにする。

「ゲンさん、一回落ち着け」

「そうだ、一旦頭を冷やせ吉川」

「落ち着いてられっか、このボケナスが!!」

 暴れようとする吉川と呼ばれた刑事は、他の刑事たちに取り押さえられ、部屋から強制的に引き摺り出されていった。

「さて、まずは情報整理、と行きましょうか。あと、会議の内容は、吉川刑事にも伝達のほどお願いします」

 

 氷川一は魔術師である。そして長らく、防衛省直属の対魔術部隊に所属していた。日本国内で魔術師や魔獣、死徒による被害が発生した場合、原因を排除し、魔術協会や聖堂教会と言った魔術組織に引き渡すのが、氷川が長年担ってきた使命であった。しかし、1994年、そして2004年、二度の聖杯戦争によって発生した大災害を、日本政府はただ傍観する立場を取った。冬木の御三家との約定によるものであるとは聞いていたが、みすみす失われていく命を前に、氷川は憤慨した。なぜ行動を起こさないのか、そもそも、なぜこのような非倫理的な儀式の開催が許されるのか。第四次、第五次と繰り返される惨状に、その思いは一層強くなった。そして今、氷川はこの街で開催される聖杯戦争に対する抑止力として、聖杯戦争の参加者(・・・)として派遣された。召喚したクラスはキャスター、触媒は聖堂教会から聖遺物を借り入れるとの話だったが、敢え無く拒否され、代わりに防衛省が用意したものだ。噂によると、宮内庁にも同様の要請をしたようだが、撥ね付けられたらしい。代わりに、聖堂教会からは聖別済みの武器、宮内庁からは陰陽師が何人か派遣された。もちろん、上層部にこの作戦を提案したのは氷川自身である。警視庁と連携して、聖杯戦争による被害軽減を図る。

 しかし、氷川は内心、苛立ちを隠せずにいた。聖堂教会は、日本政府に”聖杯は聖堂教会に回収させる”という条件を提示してきた。なぜあの様な紛い物を欲するのかは理解に苦しむが、聖堂教会との全面戦争は避けたい日本政府の意向で、渋々氷川は引き下がった。しかし、これでは聖杯戦争の開催そのものを妨害することが出来ない。魔術教会は今回、参加に消極的であるというのに、聖杯の降臨とその過程で引き起こされる惨劇をただただ、傍観せざるを得ない。

 取り溢される命は必ず出る。それは余儀ないことだ。我々は全能ではないから。

 その上で、吉川の怒りも理解できる。ここは、日本国、我々(国民)の領分であって、貴様ら(魔術師)の実験場ではない。

 マムシの如く塒を巻く怒りは、静かに燃える炎となって、氷川の瞳の中で揺らめいていた。

 

遺体(ホトケ)には全て、体の一部に黒い幾何学的な紋章があった。これがその写しだ」

 模様をB5のコピー用紙に拡大印刷した紙を、科捜研の制服を着た強面の男がホワイトボードに貼り付けていく。氷川は、その模様が令呪であることに直感で気付く。

「成分分析の結果、染料の成分は検出されなかった、つまりこれは刺青ではないってことだ」

 実際、令呪の発現メカニズムは明らかでない。が、化学分析ではそれが令呪であることを示す証拠は出ないだろう。犯人の魔術師も通りがかりの連続殺人鬼であれば、この街には既に居ない可能性がある。

「何れにせよ、もう少し証拠が欲しいですね」

 氷川は二重の意味で、自分の本心を述べた。何が如何であれ、判断するには時期尚早だ。

「あれ、皆さんの携帯が鳴ってませんか?」

 先ほどの太鼓腹の刑事がそう指摘するまで、作戦会議室にいる全員が、そのことに気づかなかった。正確には、音の出所がこの部屋ではない。どこからとも無く、低いバイブ音が鳴り響く。

「なんなんですかね」

 青年が口を開く、そして程なくして聞こえる叫び声。

「行きましょう」

 ドアを開けると、数人が忍足で叫び声が聞こえた部屋、下の守衛室に向かう。先陣を切るのは、青年田附、先ほどの太鼓腹室伏、そして氷川。

 

 

「自殺じゃぁ、ないですね」

 後ろから続々と到着する警察官の前にあったのは、回転椅子に力無くもたれ掛かる、首と眼窩から血を流す女性の死体であった。

「どうします?」

「どうするもこうするも、取り敢えず鑑識を呼べ、話はそれからだ」

 

「〜♪」

「ちょっと失礼」

 

 氷川は刑事たちを掻き分けて守衛室の外に出ると、胸ポケットからスマートフォンを取り出す。

「もしもし、此方氷川、須磨、どうした、何かあったか?」

『氷川さん、中々戻ってこないから心配してましたよ、まぁ、それとこれとは別件でですが』

 電話の相手は、氷川の部下の須磨であった。普段通りの不気味なほどに落ち着いた声で、氷川にある事実を告げる。

『どうやら、呪詛科が聖杯戦争への介入を開始した様です。内通者からもこれに関する情報は聞いていませんし、時計塔としての総意に基づくものかは今のところ図りかねますが』

 氷川の頭上を、無数のカラスが群れをなして飛んでゆく。

『そして、先程魔術師らしき人物の襲撃を受けました。幸いにも死者は出ませんでしたが⋯⋯』

「バレたな」

『はい?』

「全部だ、取り敢えず戻って作戦会議を始める。机と椅子の準備をしておけ」

 そう言って、早々に電話を切る。空を旋回する無数のカラス、そして連続殺人事件(・・・・・・)。恐らく聖杯戦争は開始されている。しかし、今更になって参加枠を狙う魔術師、そして、増え続ける令呪のある死体。

 

「主はどう見る、ワシは相手方の術計は極めて合理的だと思うがのぉ」

「私は貴方の意見がどうも信じられないのですが?一方的に喋るだけ喋って消える貴方には、極力頼りたくありません」

 召喚当時から霊体化し続け、もはや背後霊と化しつつあるキャスター。真名も明かさず、作戦の進行に横槍を入れるだけ入れて沈黙するため、半ばBGMとして聞き流されている。

「まあそれは主の勝手だがの、撹乱戦術は間違いなく陽動だのう。それでいて、此方の手札を晒しおった。他の陣営も監視用に使い魔を放っとるから、暫くは厳しくなるの」

「想定内です。貴方を召喚した時点から、とるべき戦術は決まっています」

「それは何かの、ワシ、気になるのぉ」

 陣営として、致命的な事実を告げられてなお、氷川は余裕な表情を崩さない。

「そもそも、キャスター陣営など存在しない(・・・・・)んですよ?キャスターさん」




Q&Aコーナーです。後書き欄が煩いのはあまり宜しくないかもなので、今回から少なめで行きます。


Q.氷川さんの階級は?

A.二等尉官です。対魔術部隊は規模が小さいので、佐官など幹部クラスの人が各隊の隊長を兼任し、作戦にも参加します。宮内庁の陰陽師軍団とか、浄土宗系列の魔術組織の方が規模は上です。あと、名前の一は「はじめ」と読みます。念のため。


Q.仰木は何故聖杯戦争に気付かなかった?

A.基本的に、聖杯戦争が終了してから、御三家が日本政府に報告している、という妄想です。情報漏洩の危険がありますし、変な奴らが乗り込んでくるのも厄介ですからね。
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