Fate/Serving with Smile 作:コント黄色信号
2014年12月19日—六過警察署大会議室
「自殺、なんですかねぇ」
六過警察署の霊安室に並ぶ十四体の遺体袋、それらが全てここ数日で発見されたものであるという事実に、その場の警察関係者たちは言葉を失った。未曾有の
「クソッ、舐められたもんだぜぇ、ご丁寧に体の一部に焼印まで入れてゆきやがってよ。ああ、今すぐにでも法廷に引き摺り出してやる」
「そう熱くなんなよ、冷静さを欠いたら終わりだ」
激昂した初老の刑事を、聡明そうな青年が宥める。当の刑事は不機嫌そうな顔付きのまま、パイプ椅子にどっかと腰を下ろした。
「取り敢えず、捜査会議を始めましょう。遺族の方々にも示しがつきませんよ」
「貴方は、確か今回六過市に派遣された自衛隊の⋯⋯」
信楽の狸のような立派な腹回りの刑事が、ホワイトボードの前で指示棒を手にしているオールバックの小柄な男に視線を向ける。
「今回捜査に参加させていただきます。陸上自衛隊所属の氷川、と申します。最近六過で発生している犯罪について、警視庁の方から協力要請がありましたもので」
「てめっ、アーミーを捜査に参加させるとか聞いてねぇぞ」
パイプ椅子から立ち上がり、氷川に掴みかかろうとする初老の刑事を、先ほどの青年が後ろから羽交い締めにする。
「ゲンさん、一回落ち着け」
「そうだ、一旦頭を冷やせ吉川」
「落ち着いてられっか、このボケナスが!!」
暴れようとする吉川と呼ばれた刑事は、他の刑事たちに取り押さえられ、部屋から強制的に引き摺り出されていった。
「さて、まずは情報整理、と行きましょうか。あと、会議の内容は、吉川刑事にも伝達のほどお願いします」
氷川一は魔術師である。そして長らく、防衛省直属の対魔術部隊に所属していた。日本国内で魔術師や魔獣、死徒による被害が発生した場合、原因を排除し、魔術協会や聖堂教会と言った魔術組織に引き渡すのが、氷川が長年担ってきた使命であった。しかし、1994年、そして2004年、二度の聖杯戦争によって発生した大災害を、日本政府はただ傍観する立場を取った。冬木の御三家との約定によるものであるとは聞いていたが、みすみす失われていく命を前に、氷川は憤慨した。なぜ行動を起こさないのか、そもそも、なぜこのような非倫理的な儀式の開催が許されるのか。第四次、第五次と繰り返される惨状に、その思いは一層強くなった。そして今、氷川はこの街で開催される聖杯戦争に対する抑止力として、聖杯戦争の
しかし、氷川は内心、苛立ちを隠せずにいた。聖堂教会は、日本政府に”聖杯は聖堂教会に回収させる”という条件を提示してきた。なぜあの様な紛い物を欲するのかは理解に苦しむが、聖堂教会との全面戦争は避けたい日本政府の意向で、渋々氷川は引き下がった。しかし、これでは聖杯戦争の開催そのものを妨害することが出来ない。魔術教会は今回、参加に消極的であるというのに、聖杯の降臨とその過程で引き起こされる惨劇をただただ、傍観せざるを得ない。
取り溢される命は必ず出る。それは余儀ないことだ。我々は全能ではないから。
その上で、吉川の怒りも理解できる。ここは、日本国、
マムシの如く塒を巻く怒りは、静かに燃える炎となって、氷川の瞳の中で揺らめいていた。
「
模様をB5のコピー用紙に拡大印刷した紙を、科捜研の制服を着た強面の男がホワイトボードに貼り付けていく。氷川は、その模様が令呪であることに直感で気付く。
「成分分析の結果、染料の成分は検出されなかった、つまりこれは刺青ではないってことだ」
実際、令呪の発現メカニズムは明らかでない。が、化学分析ではそれが令呪であることを示す証拠は出ないだろう。犯人の魔術師も通りがかりの連続殺人鬼であれば、この街には既に居ない可能性がある。
「何れにせよ、もう少し証拠が欲しいですね」
氷川は二重の意味で、自分の本心を述べた。何が如何であれ、判断するには時期尚早だ。
「あれ、皆さんの携帯が鳴ってませんか?」
先ほどの太鼓腹の刑事がそう指摘するまで、作戦会議室にいる全員が、そのことに気づかなかった。正確には、音の出所がこの部屋ではない。どこからとも無く、低いバイブ音が鳴り響く。
「なんなんですかね」
青年が口を開く、そして程なくして聞こえる叫び声。
「行きましょう」
ドアを開けると、数人が忍足で叫び声が聞こえた部屋、下の守衛室に向かう。先陣を切るのは、青年田附、先ほどの太鼓腹室伏、そして氷川。
「自殺じゃぁ、ないですね」
後ろから続々と到着する警察官の前にあったのは、回転椅子に力無くもたれ掛かる、首と眼窩から血を流す女性の死体であった。
「どうします?」
「どうするもこうするも、取り敢えず鑑識を呼べ、話はそれからだ」
「〜♪」
「ちょっと失礼」
氷川は刑事たちを掻き分けて守衛室の外に出ると、胸ポケットからスマートフォンを取り出す。
「もしもし、此方氷川、須磨、どうした、何かあったか?」
『氷川さん、中々戻ってこないから心配してましたよ、まぁ、それとこれとは別件でですが』
電話の相手は、氷川の部下の須磨であった。普段通りの不気味なほどに落ち着いた声で、氷川にある事実を告げる。
『どうやら、呪詛科が聖杯戦争への介入を開始した様です。内通者からもこれに関する情報は聞いていませんし、時計塔としての総意に基づくものかは今のところ図りかねますが』
氷川の頭上を、無数のカラスが群れをなして飛んでゆく。
『そして、先程魔術師らしき人物の襲撃を受けました。幸いにも死者は出ませんでしたが⋯⋯』
「バレたな」
『はい?』
「全部だ、取り敢えず戻って作戦会議を始める。机と椅子の準備をしておけ」
そう言って、早々に電話を切る。空を旋回する無数のカラス、そして
「主はどう見る、ワシは相手方の術計は極めて合理的だと思うがのぉ」
「私は貴方の意見がどうも信じられないのですが?一方的に喋るだけ喋って消える貴方には、極力頼りたくありません」
召喚当時から霊体化し続け、もはや背後霊と化しつつあるキャスター。真名も明かさず、作戦の進行に横槍を入れるだけ入れて沈黙するため、半ばBGMとして聞き流されている。
「まあそれは主の勝手だがの、撹乱戦術は間違いなく陽動だのう。それでいて、此方の手札を晒しおった。他の陣営も監視用に使い魔を放っとるから、暫くは厳しくなるの」
「想定内です。貴方を召喚した時点から、とるべき戦術は決まっています」
「それは何かの、ワシ、気になるのぉ」
陣営として、致命的な事実を告げられてなお、氷川は余裕な表情を崩さない。
「そもそも、キャスター陣営など
Q&Aコーナーです。後書き欄が煩いのはあまり宜しくないかもなので、今回から少なめで行きます。
Q.氷川さんの階級は?
A.二等尉官です。対魔術部隊は規模が小さいので、佐官など幹部クラスの人が各隊の隊長を兼任し、作戦にも参加します。宮内庁の陰陽師軍団とか、浄土宗系列の魔術組織の方が規模は上です。あと、名前の一は「はじめ」と読みます。念のため。
Q.仰木は何故聖杯戦争に気付かなかった?
A.基本的に、聖杯戦争が終了してから、御三家が日本政府に報告している、という妄想です。情報漏洩の危険がありますし、変な奴らが乗り込んでくるのも厄介ですからね。