遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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第十一話 英雄と魔術師の調和

 

「ちょっと待てよ、何で十代が制裁デュエルを受けるんだ?」

 

大衆の目の前で制裁デュエルのタッグを組んでほしいと言われた聖星。

一瞬十代が何を言ったのか理解できなかったが、すぐに彼を自室に連れ込んだ。

心配そうに三沢がこちらを見ていたが今は十代が優先だ。

 

「いやぁ、昨日校長に一昨日の事を話したんだけどよ……」

 

一昨日明日香の身に起こった事件。

十代を指名して廃寮まで呼び寄せ、タイタンと名乗る男とデュエルをした。

運悪く倫理委員会に廃寮を荒らしたと誤解され、退学を宣言されたが明日香の証言のため取り下げになると思った。

 

「あのメール、俺を指名してただろ?

だから倫理委員会のやつら、俺が原因だ、俺がアカデミアにいたら他の生徒に迷惑がかかるとか言いがかりをつけてきたんだ。

それでアカデミアの秩序を守るために俺だけは退学だってよ」

 

「……………………」

 

十代が事情を話し終えると、聖星は勢いよく拳を机に叩きつけた。

部屋に響く音に十代は肩を震わせ、恐る恐る聖星を見る。

見てみればそこには無表情の聖星がいた。

 

「……何、それ?」

 

言葉が出てこないとはまさにこの事だろう。

倫理委員会の理不尽な言い訳に聖星は声が低くなる。

彼らの言うとおり十代がタイタンの目的だったのは事実だろう。

だが、だからといって十代をアカデミアから追い出す理由にはなりはしない。

 

「クロノス教諭といい、倫理委員会といい……

この学園にはバカしかいないのかな?

そんな話通ってたまるか」

 

「お、おう……

俺も横暴だって言ったぜ。

でもよ、理事長も認めているからダメだって、って聖星何してんだ?」

 

「倫理委員会のバカとその理事長の個人情報を特定して晒す。

俺達より長く生きてるんだ。

人に知られたくない事の1つや2つくらいあるよなぁ」

 

「何やろうとしてんだよ!?

そんな輝く笑顔で言う言葉じゃないだろ!!」

 

どこからかPCを取り出し、さっそく個人情報を集めようとしている聖星。

十代は慌てて止めてさらに事情を説明する。

 

「で!

流石に校長もそれは酷いって言ってくれて、じゃあクロノス教諭が制裁タッグデュエルで勝ったら見逃すって言ってくれたんだよ!」

 

「あ、だから俺にタッグを申し込むわけか」

 

「あぁ」

 

未だに不機嫌だがなんとかPCを閉じてくれた聖星に十代はため息を零す。

倫理委員会の言い分もぶっ飛んでいると思ったが、友人の行動も十分にぶっ飛びすぎている。

それほど怒っているというのが分かり、少しだけ嬉しいと思いながらも改めて聖星に頼んだ。

 

「だから、俺とタッグ組んでくれないか?」

 

「それくらい別に良いぜ。

それで、相手は誰がするんだ?」

 

「それは当日のお楽しみだってさ」

 

「そっか……」

 

倫理委員会が十代を退学させるのには、他に理由がある。

でなければここまで強引にするわけがない。

恐らくその理由は聖星が言った倫理委員会側の責任だ。

十代を退学に追い込み、その責任を全て十代に押し付けるつもりなのだろう。

そんな簡単な事で上手く責任逃れ出来るとは思えないし、それどころか倫理委員会の理不尽さに保護者側が激怒する未来しか見えない。

逆に自分達の無能さを曝け出しているのに気付かない程向こう側も必死という事か。

 

「じゃあ試しにデッキを確認するか?

タッグデュエルとなると、互いのデッキをカバー出来るよう構築しておいた方が良いだろう?」

 

「あぁ。

俺もそう思うんだけどよ、聖星と俺のデッキってそこまでシナジーねぇだろ?

相性だって悪いしよ」

 

「だよなぁ。

戦士族と魔法使い族両方サポートできるカードっていったら【連合軍】と【迎撃準備】くらいだし……」

 

デッキを広げた2人は真剣な表情で互いに話し合う。

聖星は魔法使い族、十代は戦士族がメインのデッキ構築だ。

しかも聖星のデッキにはその種族をサポートするカードばかり入っており、それに対し十代は【E・HERO】をサポートするカードばかりだ。

まぁ、聖星は【魔導書】に他種族を混合したデッキでも使おうと使えるため戦士族を投入するという手もある。

すると【星態龍】が現れ、聖星と十代のカードを覗き込む。

 

「なぁ、聖星……」

 

「ん、どうした十代?」

 

十代の魔法・罠カードにもう少しだけ汎用性カードを入れたらタッグでも良い線いけるだろうか。

そう考えていると十代の声が聞こえ、顔を上げる。

すると彼は聖星を見ておらず、聖星の隣を見ていた。

 

「聖星ってさ、もしかして赤い竜のカードとか持ってる?」

 

「え?」

 

十代の視線の先には彼の言う赤い竜、【星態龍】が浮かんでいた。

まさかと思い声を掛けようとすると【星態龍】の目の前に【ハネクリボー】が現れる。

 

「クリクリ~!」

 

「グフッ!」

 

「あ」

 

「おい、何やってんだよ相棒!」

 

現れた可愛らしい天使の精霊は無邪気な笑顔で【星態龍】の顔面に突撃する。

いくら毛玉のような存在とはいえ、人の顔くらいの大きさである【ハネクリボー】がぶつかるのは痛い。

特に今【星態龍】はこの部屋に収まるためサイズを小さくしている。

無邪気にじゃれてくる【ハネクリボー】と【星態龍】を引き離し、十代は一息つく。

 

「ふぅ~

ったく、相棒。

挨拶も無しにぶつかったら驚くだろ」

 

「クリ~?」

 

十代は笑いながらも咎めるように言っているが、当の本人(?)はどうしてと聞くかのように体を傾ける。

2人の会話を聞きながら聖星と【星態龍】は確信し恐る恐る尋ねた。

 

「なぁ、十代」

 

「ん。

どうした?」

 

「君、いつから精霊が視えるようになったんだ?」

 

聖星の記憶が正しければ十代は精霊を視る目を持たない。

時々声は聞こえていたようだが、はっきりと視る事は出来なかったはずだ。

 

「あぁ、一昨日タイタンとデュエルしてからさ。

なぁんかタイタンとデュエルしてたらよ、何か真っ黒な饅頭みたいな連中が現れて俺を襲おうとしたんだ。

けどその時相棒が助けてくれたんだ。

な、相棒?」

 

「クリィ!」

 

「……真っ黒な、饅頭?」

 

「そうそう。

俺は相棒がいたから助かったけど、タイタンはその饅頭に飲み込まれちまってよ……

そーいやその後からタイタンの様子がおかしかったな」

 

不思議がる十代の言葉に聖星は言葉を失う。

ゆっくりと【星態龍】を見れば、微かだが彼も目を見開いていた。

聖星は十代を観察するかのように見て尋ねた。

 

「十代、体とか大丈夫なのか?」

 

「あぁ、大丈夫だって」

 

にかっ、と歯を見せて笑う十代を何度も見る。

特に違和感もないし、そういう事に敏感な【星態龍】も反応を示さない。

きっと悪影響は無かったのだろう。

良かったと胸を撫で下ろした聖星は改めて十代を見た。

 

「じゃあ改めて紹介するな。

こいつは【星態龍】。

本当はもっと大きいんだけど、部屋に入りきらないから基本的にこのサイズなんだ」

 

「【星態龍】だ」

 

「あぁ、よろしくな【星態龍】」

 

「クリクリ~!」

 

**

 

タッグデュエルの相棒が決まったため、その報告にとクロノス教諭の元へ向かう十代と聖星。

廊下を歩いていると行き違う生徒達が十代の顔を見てヒソヒソと話をする。

どうやら今回の事はすでに学園内に広まっているようだ。

同情するような眼差しもあれば、青い集団からは見下すような眼差しを覚える。

聖星は心配そうに十代を見るが当の本人は気にした様子もなく【星態龍】の事について喋っていた。

 

「くっそ~、早く【星態龍】とデュエルしたいぜ!」

 

「ごめんな、十代。

【星態龍】を召喚するためのモンスターが揃ってないんだ」

 

「別に構わねぇって。

だってさ、相当のレアカードだろ?

召喚に必要なカードが揃うのが大変な事くらい俺にも分かるからさ!」

 

申し訳なさそうに言う聖星だが十代は気にするなと笑顔を見せる。

【星態龍】はまだこの時代に存在していないシンクロモンスターのため、何があっても見せるわけにはいなかった。

だからまだ召喚に必要なカードが揃っていない、【星態龍】は恥ずかしがり屋だから等と理由を並べた。

仕方がないと分かっていても素直に受け入れられると少しだけ罪悪感を覚える。

 

「それよりさ、さっきのアレ凄かったなぁ。

聖星、本当にあのデッキにする気かよ?」

 

「あぁ。

その方が十代にとっても都合が良いだろう?」

 

「まぁ、そうだけどよ。

俺としては制裁デュエルの時じゃなくて、今あのデッキと戦ってみたいんだ!

なぁ、あとでデュエルしようぜ!」

 

「別にいいぜ。

調整の意味も兼ねてデュエルしようか」

 

「よっしゃ決まり!

……って、聖星」

 

「ん?」

 

「あれ、取巻じゃねぇのか?」

 

十代が指差した方向には1人で立っている取巻がおり、彼も自分達を視界に入れたようで一瞬気まずそうな表情を浮かべた。

聖星が何度も声をかけており、さらに龍牙先生の時の事があるので十代は特に気にせず歩み寄った。

 

「お、取巻じゃん。

珍しいな1人でいるなんてよ。

万丈目と、え~っと……」

 

「慕谷」

 

「そうそう。

慕谷達と一緒じゃないんだな」

 

「……あいつは今頃天狗になってるだろーな」

 

「え、何で?」

 

「何か良いことあったのか?」

 

2人の言葉に取巻は明らかに嫌そうな顔を浮かべる。

取巻としてはここで喋りたくはないが、この2人、特に聖星がそう簡単に引くとは思えないので仕方なく話した。

 

「俺と万丈目がお前達に負けたから、俺達の立場がなくなったんだよ」

 

「は?」

 

「あ、なるほどな」

 

このアカデミアは良くも悪くも実力主義。

そのせいでオベリスク・ブルーには無駄にプライドの高い生徒が大勢いる。

そんな環境にいるのにオシリス・レッドに負けたとなれば白い目で見られるのは当然だ。

お蔭で周りのブルーの生徒は万丈目と取巻に対してかなり厳しい目を向けている。

見下す相手が身近にいて嬉しいのだろう。

深くため息をついた険しい顔で取巻は尋ね返す。

 

「そういうお前はどうなんだよ。

アカデミア中で噂になってるぞ。

校則を破って退学だって?」

 

「(校則って……)」

 

「あ~、まぁ、なんとかなるさ。

なんたってタッグデュエルで勝てばお咎めなしだしな!」

 

「アカデミアらしい解決法だな」

 

どうやらアカデミアには事の真相は広まっていないらしい。

倫理委員会が意図的にそう流したのだろう。

だが正直に話せば被害者である明日香も好奇の目で晒されるかもしれない。

それを危惧した2人は訂正する事はせず苦笑した。

 

「ま、せいぜい頑張れよ」

 

「俺と十代なら楽勝さ。

な?」

 

「あぁ!

どんな相手でもどんとこいだぜ!」

 

「……お前達、デッキの相性最悪だろ」

 

自信満々に答える2人に取巻は呆れたように呟いた。

タッグデュエルとは自分のターンが回ってくるのが遅いため、上手く動けない場合が多い。

だから互いをサポートできるようなデッキを組む事がある。

だがこの2人がそんな事をするのだろうか。

 

「(やるとしたら不動のほうだな。

だが、【魔導書】と【E・HERO】ってどう混ぜるんだ?)」

 

いくら融合素材代用モンスターが存在するとはいえ、デッキバランスが悪くなるのは確実。

少しだけ想像したがうまくまとまらない。

取巻が何を考えているのか分かったのか聖星は微笑んで自信満々に言う。

 

「ま、【HERO】にも色々あるんだよ」

 

「は?」

 

**

 

それから数日が過ぎ、制裁デュエル当日となった。

十代と聖星はイエロー寮の部屋で最終チェックをして会場へと向かう。

既に会場には生徒達がおり、今回のデュエルを見に来たようだ。

その生徒の中には入学当初から聖星達と関わりのある三沢の姿もあった。

 

「ついに始まるか……」

 

「タッグデュエル。

聖星はともかく十代は初めてだって言ってたけど」

 

「君はオベリスク・ブルーの天上院明日香……」

 

「貴方も少なからず十代と聖星の2人と関わりがあるようね」

 

明日香は三沢の隣に腰を下ろし、デュエルフィールドを見渡す。

そして数日前の事を思い出しながら拳を強く握った。

 

「私のせいでこんな事になって……

本当なら私がパートナーになるべきだった……」

 

十代が廃寮に入ったのは捕らわれた自分を助けるためだ。

だから十代が退学処分を受けるのは間違っていると明日香は抗議した。

しかし倫理委員会やクロノス教諭は全く耳を貸そうとしなかった。

自分のせいで誰かの人生が狂わされる。

それを食い止めたくても出来ない。

強く握っている拳が微かに震えているのを三沢は見逃さず質問する。

 

「十代が廃寮に入ったのは好奇心によるもの。

だが一部では君を助けるためだと噂になっている。

君の言葉を考えると後者が真実か?」

 

「えぇ。

私が不審者に囚われてしまって……

だから十代に私と組んでほしいと頼んだんけど、聖星と組むから気にしないで欲しいって言われたわ」

 

「十代の奴も馬鹿だな。

気にしないでくれと言われて、気にしないわけがないだろう」

 

聖星と明日香のデッキを考えると、十代のパートナーになりやすいのは同じ戦士族デッキの明日香。

それなのに十代は聖星を選んだ。

自分の退学がかかっているのに分かっているのだろうかと思うが、もしかしたら何も考えていないのかもしれない。

すると十代と聖星が教室に入ってくる。

2人は周りの生徒達の姿に感心しながら知り合いを探す。

 

「お、隼人と翔だ」

 

「間に合ったみたいだな」

 

慌てて来たのか、2人は息が上がっているようだ。

しかしすぐに息を整えて自分達に声援を送ってくれる。

それに微笑みながら別の席にも目をやった。

 

「お、あっちには三沢と明日香だぜ」

 

「丸藤先輩もいるな」

 

「ではこれよ~り、タッグデュエルを開始する~の!」

 

2人の姿を確認したクロノス教諭はフィールドでマイクのスイッチを入れ、一気に盛りあがる。

レッドの生徒が叩き潰されるのが嬉しいのかブルーの生徒達はいやらしい笑顔で十代を舐めるように見ていた。

そんな生徒達がいるなか鮫島校長はクロノス教諭に問いかける。

 

「それで対戦相手は?

教員かオベリスク・ブルーの生徒かね?

もしや君かね?」

 

「いいえ、伝説のデュエリストを呼んであります~の!」

 

「「え?」」

 

マイクのせいで会場内に響くクロノス教諭の言葉に、皆は彼に注目した。

すると微かな物音が聞こえ、聖星はそちらに顔を向けた。

 

「十代」

 

「ん?」

 

どうしたんだよ、聖星。と十代が聞く直前だった。

目の前に何者かが横切り、目にも止まらない速さで空中を回転する。

普通の人間には出来ないような動きでフィールド内を勇ましく舞う姿に釘付けになる。

するとパフォーマンスを見せてくれた2人は背中合わせに動きを止め、十代と聖星を見る。

 

「な、何だ!?」

 

「凄い……」

 

「我ら流浪の番人」

 

「迷宮兄弟」

 

現れたのは同じ顔の男性で、額に『迷』『宮』がそれぞれ書かれている。

着ている衣服も中華風のもので動作は全て左右対称になるよう一切のずれもなかった。

 

「彼らはあのデュエルキング武藤遊戯と対戦した事がある伝説のデュエリストなの~ね」

 

「へぇ、伝説のデュエリストが相手か……」

 

「お主等に恨みはない」

 

「故合って対戦する」

 

「我らを倒さねば」

 

「道は開けぬ」

 

「「いざ、デュエル!!」」

 

静かに宣言した迷宮兄弟は十代と聖星を見る。

ピリピリと伝わってくる威圧感に十代は楽しげな、聖星は優しげな笑みを浮かべた。

 

「凄いぜ、聖星!!

まさかの伝説のデュエリストが俺達の相手だぜ!

面白いデュエルになるぜ、絶対!!」

 

「あぁ。

本気で行こうぜ」

 

「おうよ!」

 

「では両者、位置について!」

 

クロノス教諭の言葉に4人は位置につく。

聖星の前に迷宮兄弟の兄がおり、十代の前に弟がいる。、

4人が配置についたのを確認したクロノス教諭は確認事項を言った。

 

「タッグデュエルで~わ、パートナーへの助言はダメです~の。

です~が、パートナーの墓地、フィールドは自分のものとして使える~の。

よろしいの~ね?」

 

説明されたデュエルのルールに聖星達は頷いた。

そしてデュエルディスクを起動させ、同時に宣言する。

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

デュエルディスクの一部が光り、それは聖星が先攻である事を示した。

自分のターンに聖星は迷宮兄弟を見渡し少しだけ深呼吸をする。

 

「俺のターン、ドロー。

俺は【魔導書士バテル】を守備表示で召喚」

 

「はっ!」

 

「【魔導書士バテル】の効果発動。

デッキから【魔導書】と名のつく魔法カードを1枚手札に加えます」

 

「【魔導書】だと?」

 

「ふむ、聞いた事のないカードだな」

 

「彼らは特別ですから。

俺は【グリモの魔導書】を選択します。

そして魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【魔導書】と名のつくカードを1枚手札に加える事が出来ます。

加えるのは【セフェルの魔導書】です」

 

守備表示に召喚された【バテル】は1冊の書物を取り出す。

と思えば書物は淡い光に包まれていき黒いオーラを纏った書物へと変わっていく。

 

「魔法カード【セフェルの魔導書】を発動。

手札の【魔導書】を見せる事で墓地の通常魔法の【魔導書】の効果をコピーします。

手札の【魔導書院ラメイソン】を見せ、【グリモの魔導書】をコピー。

そして俺はデッキから【ゲーテの魔導書】を加えます。

さらにフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】を発動」

 

加えたのは除外する【魔導書】の枚数によって効果が変わる速攻魔法。

魔法使い族の攻撃力を上げる【ヒュグロの魔導書】または魔法・罠カードの耐性をつける【トーラの魔導書】ではなかった事に十代は意外だと心の中で呟いた。

するとフィールドに光が差し込み、轟音を鳴り響かせながら巨大な建物が現れる。

 

「カードを2枚伏せてターンエンド」

 

伏せられた2枚のカード。

何を伏せたのかは分からないが、【ゲーテの魔導書】の可能性が1番高い。

すぐに確認した十代は思わず聖星を見た。

始めて聖星と戦う迷宮兄弟はこのターンに発動されたカードを思い出しながら言葉を発する。

 

「随分と忙しいな小僧。

まだデュエルは始まったばかりだというのに」

 

「もう少しデュエルを楽しんだらどうだ?

私のターン、ドロー!

私は手札から【天使の施し】を発動!

デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てる」

 

「え?」

 

「【天使の施し】?」

 

「手札事故か?」

 

1ターン目から発動された手札入れ替えカードの名前に様々な生徒達は首を傾げる。

耳に入ってくる言葉に迷宮兄弟は内心やれやれと肩をすくめた。

だが十代と聖星は簡単に想像がつき身構えた。

 

「そして装備魔法【早すぎた埋葬】を発動する。

私はライフを800払い、墓地から【水魔神-スーガ】を特殊召喚する!」

 

発動されたのは墓地からモンスターを1体特殊召喚する装備魔法。

兄のライフが7200になるとフィールドが裂け、裂け目から大量の水が噴き出す。

聖星達のフィールドにまで飛んできそうな程水の勢いは強く、中から【スーガ】が姿を現す。

武藤遊戯と戦った事があるモンスターの登場に十代と聖星は嬉しそうに笑った。

 

「そして【地雷蜘蛛】を召喚。

私はこれでターンを終了する」

 

【スーガ】の隣に現れたのは1体の巨大蜘蛛。

レベル4のモンスターにしては高い攻撃力を持つが、デメリット効果を持つため積極的な攻撃には向かない。

攻撃力2000越えのモンスターが2体も揃った状況に十代は不敵に笑った。

 

「くぅ~~!

わくわくしてきた!

俺のターン、ドロー!

スタンバイフェイズ時、【魔導書院ラメイソン】の効果発動するぜ!

墓地の【セフェルの魔導書】を俺のデッキの1番下に戻し、デッキからカードを1枚ドローする!」

 

「何っ!?」

 

「何を考えているの十代!?」

 

十代が元気よく宣言した言葉に三沢と明日香は目を見開く。

彼らだけではなく、聖星のデュエルを知っている取巻も信じられないとでもいうような顔をして舌打ちした。

 

「あのバカっ……!

【魔導書】は不動のデッキ、手札、墓地に存在して真価を発揮するのに……!

それを自分のデッキに戻すなんて不動の可能性を潰す気か!?」

 

取巻の言った通り、【魔導書】は墓地に存在する時コスト、またはカード効果のコピー等で使う事が多い。

別にデッキに戻してもサーチして手札に加えればいい話なのだが、問題は戻した人物が【魔導書】を使わない十代だという事だ。

【魔導書】を使わない者のデッキに【魔導書】を戻すと、相棒である聖星の可能性を奪い、自分のデッキ枚数を多くしてキーカードを引く確率を減らしてしまう。

いくらデッキからカードを1枚引くことが出来るとはいえ、十代のしている事が理解できなかった。

 

「手札から【E・HEROフェザーマン】を守備表示で召喚!

カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「私のターン、ドロー!

私は手札から魔法カード【生け贄人形】を発動する」

 

「【生け贄人形】?」

 

あまり聞き慣れないカード名に十代は聖星を見る。

視線を向けられた聖星は思い出すかのように言った。

 

「え~っと、自分の場に存在するモンスターを1体生贄に捧げて手札のモンスターを特殊召喚するカードだっけ?」

 

「おしいな小僧。

特殊召喚できるのはレベル7と限定されている」

 

「あ、そうそう」

 

「私は兄者の場に存在する【地雷蜘蛛】を生贄に捧げ、【風魔神-ヒューガ】を特殊召喚する!」

 

【地雷蜘蛛】の足元が輝きだし、その光から強烈な風が吹き荒れる。

風の中に包み込まれた【地雷蜘蛛】は歪んでいき、代わりに【ヒューガ】が風と共に姿を現した。

【水魔神-スーガ】と【風魔神-ヒューガ】の2体が並ぶ光景は妙な威圧感を覚える。

 

「攻撃力2400と2500のモンスターが2体か」

 

「流石は伝説のデュエリストだぜ!

な、聖星!」

 

「あぁ」

 

いや、十代も1ターンに攻撃力2000以上のモンスターを平気で複数並べるだろう。

ピンチになればなるほど驚異のドロー力を発揮し、場を整える十代の言葉にそう思ってしまった。

喉から出そうだった言葉を慌ててしまい、彼の言葉に同意する。

 

「十代。

【水魔神】と【風魔神】が来たんだ。

【雷魔神】とあいつも来たら最高だろうな」

 

「え、あいつ?

あぁ、あいつか!」

 

聖星が口にした言葉に十代は疑問符を浮かべた。

だがすぐにどのモンスターを指しているのか分かり、そのモンスターの姿を思い浮かべる。

アカデミアの生徒の憧れの的である武藤遊戯を苦しめたといわれる伝説のモンスター。

そのモンスターを操るのが目の前のデュエリスト達。

 

「来ると思うか?」

 

「そりゃあ来るだろう!

あの遊戯さんと渡り合えたデュエリスト達だぜ。

次のターンには出てくるんじゃねぇの?」

 

「だよな」

 

【三魔神】が全て揃い、自分達の敵として立ちはだかる。

そして彼らの最強のモンスターも君臨するかもしれない。

もし現れたらどう攻略しよう。

魔法カードで攻撃力を上げて戦闘で破壊するか、それとも単純に除外するか。

聖星は自分のデッキに眠るカード達で出来る攻略法を考えながら迷宮兄弟を見据えた。

 

「ふっ、兄者よ。

どうやら彼らはあのモンスターをご要望のようだ」

 

「そのようだな弟よ。

ならばお望み通り、貴様らに見せてやろう!」

 

聖星と十代の会話が聞こえていた2人は互いに顔を見合わせて言葉を交わす。

伝説のデュエリストと呼ばれている彼らも1人のデュエリスト。

自分達が操るモンスターに対し純粋な期待を寄せられて悪い気はしない。

しかも聖星と十代は真っ直ぐ自分達を見据えている。

久々に度胸のある相手とのデュエルに自然と口が弧を描く。

 

「しかしいくら我らのデュエルを披露するためとはいえ、兄者のモンスターを勝手に使ってしまったのは心苦しい」

 

「なぁに、弟よ。

これくらい軽いものよ」

 

「すまない兄者。

だがそれでは私の気が済まない。

償いをさせて欲しい。

私は手札から魔法カード【闇の指名者】を発動する!」

 

「え?

何でここで【闇の指名者】?」

 

 

弟が発動したのは1枚カードを宣言し、相手のデッキに指定されたカードがあれば手札に加えるもの。

普通なら相手のデッキに眠る厄介なカードを手札に加えさせ【マインドクラッシュ】等のハンデスカードで破壊する戦術に活用する。

先程の迷宮兄弟の会話を聞いている限り何かを仕掛けてくるのは明白。

しかし【闇の指名者】を発動するなど何をしたいのか理解できなかった。

 

「私は【雷魔神-サンガ】を宣言する!」

 

「え?」

 

「【サンガ】!?

マジかよ!?」

 

「あれ?

【闇の指名者】ってそんな効果だっけ?」

 

弟が宣言したのは何と兄のデッキにいるモンスターの名前。

同時に兄のデッキから【サンガ】は加えられた。

デュエルディスクがエラーを認識しないという事はこの使用に誤りはないという事。

前代未聞な使い方に聖星は自分の時代と裁定が違うのだろうか?と真剣に考えた。

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターンです」

 

デッキからカードを1枚ドローした聖星は改めて場を見渡す。

相手の場には【スーガ】、【ヒューガ】の2体。

自分達の場には守備表示の【バテル】と【フェザーマン】の2体。

攻撃力では圧倒的にこちらが不利である。

 

「スタンバイフェイズに【魔導書院ラメイソン】の効果発動。

俺は【グリモの魔導書】をデッキの1番下に戻してカードを1枚ドローします」

 

引いたのはモンスターカード。

目当てのカードではなかったが、次へと繋げることが出来るものだ。

聖星はそのカードを手札に加えず周りを見渡す。

自分達が叩き潰される事を望んでいる生徒。

伝説のデュエリストのデュエルが見れて感激している生徒。

心配そうに自分達を見ている生徒。

絶対に勝つと信じている生徒。

様々な表情を持つ者達がこの会場に揃っている。

さて、こんな状況、自分がこのカードを使ったら皆はどんな反応をするだろう。

楽しみな聖星は微笑んでモンスターの名前を宣言する。

 

「俺は手札から【E・HEROエアーマン】を守備表示で召喚」

 

「はぁ!」

 

「「「え、【E・HERO】!?」」」

 

会場に響いたカードの名前に生徒達は一気に騒ぎだす。

するとソリッドビジョンにより機械の翼を持つ英雄が風を纏いながら現れた。

彼は守備表示のためその場に膝をつき両腕をクロスさせる。

その風貌は明らかに魔法使い族ではなく【HERO】だと実感させられるものだ。

場に召喚されたモンスターの姿に明日香と三沢は開いた口が塞がらなかった。

 

「まさか聖星が【E・HERO】を使うだなんて」

 

「いや、十分あり得る可能性だ。

聖星は基本的に魔法使い族を使用しているが別の種族を混合している場合もある」

 

しかもこれは相手のデッキより相方のデッキを重視した方が良いタッグデュエル。

もし十代と聖星が自分のスタイルを一切崩さずタッグデュエルをしたらうまく回らなかっただろう。

だが聖星が【E・HERO】を使う事で十代は自分のカードで聖星をサポートする事が出来る。

 

「けど【E・HERO】は殆ど下級モンスター。

攻撃力の高いモンスターは融合モンスターばかり。

そう都合よく手札に融合素材のカードが来るかしら」

 

明日香達の中で【E・HERO】というものは十代の影響もあり『融合』して強くなるというイメージがある。

しかも融合には融合素材が必要であり、例外を除けば最低でも3枚は手札、場に必要になる。

自分のスタイルを貫くため【魔導書】も入れている聖星のデッキに【融合】を加えたら手札の消費が激しくなり事故を起こしてしまうかもしれない。

心配そうに見ている明日香達とが違い翔と隼人は必死に応援している。

 

「頑張れ―!

兄貴~、聖星君~!」

 

「きばるんだぞ!」

 

「【エアーマン】の効果発動。

このカードが召喚に成功した時デッキから【HERO】を1枚手札に加えることが出来ます。

俺は【E・HEROエアーマン】を手札に加えます」

 

2人の声に手を上げて応えた聖星は【エアーマン】の効果を発動する。

デッキから加わった同名カードに迷宮兄弟は面倒くさそうな表情をしていた。

そんな彼らの様子を伺いながら【三魔神】を見比べる。

 

「(あの3体の効果って確か攻撃された時に相手の攻撃力を0にするんだったよな……

下手に攻撃しない方が良いか。)

俺はカードを1枚伏せてターンエンド」

 

新たに伏せられたカード。

モンスターを守備表示にだし、カードを伏せただけ。

一向に動こうとしない聖星に迷宮兄弟は挑発するように言う。

 

「ふっ、我々の場に【水魔神】と【風魔神】がいる」

 

「守備に徹して逃げ切る気か小僧」

 

「「だが、守備だけでは我らを倒す事は出来ん!!」」

 

「私のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、永続罠【DNA改造手術】を発動します」

 

「何?」

 

表側になった罠カードの名前に兄は怪訝そうな表情を浮かべる。

それに対し観客席にいる三沢と明日香達は気付いたかのように十代の場と聖星の場を見比べる。

 

「このカードが存在する限り俺達の場のモンスターは全て俺が指定した種族です。

俺は魔法使い族を選択します」

 

「上手い!

【E・HERO】のサポートカードは【E・HERO】の名を必要としている。

だから種族を変更されても問題はない」

 

「それに対して聖星の【魔導書】は魔法使い族が必要不可欠。

聖星は【DNA改造手術】を入れる事で十代のモンスター達も【魔導書】のサポートを受けられるようにしたのね」

 

微かに聞こえてくる三沢達の言葉に兄は納得し、不敵に笑う。

 

「私は手札から【スター・ブラスト】を発動する!

ライフを500の倍数支払う事で、その分だけ私のモンスターのレベルを下げる。

私は1500ポイント支払い、レベル7の【雷魔神-サンガ】をレベル4にする!」

 

「っていう事は……」

 

「通常召喚が可能って事か!」

 

「その通り!

現れよ、【雷魔神-サンガ】!!」

 

パチッ!!とカードを置く音が響きソリッドビジョンによって生み出される雷がフィールドを覆う。

フィールドを走り抜ける雷は強烈な光を発しながら一か所に集まり、巨大な魔神へと姿を変える。

僅かな雷を纏っている【サンガ】の登場に迷宮兄弟は不敵に笑った。

 

「【水魔神-スーガ】」

 

「【風魔神-ヒューガ】」

 

「【雷魔神-サンガ】」

 

「「この3体が我らの場に存在する。

そしてこの3体を生贄に捧げる事で【ゲート・ガーディアン】を特殊召喚する!!

現れよ、【ゲート・ガーディアン】!!!」」

 

手を高く上げた迷宮兄弟の言葉に【三魔神】の目が光り、共鳴するかのように変形し始める。

【スーガ】は全てを支える足となり、【ヒューガ】は上下のバランスを保つ胴体に、【サンガ】は全てを破壊を行う腕と頭部になった。

3体のモンスターが合体したモンスターの大きさは今まで出会ってきた中でも圧巻である。

伝説といわれるモンスターの登場に十代は聖星に振り返った。

 

「攻撃力3750か……

やっぱり伝説のデュエリストってすげぇな!!」

 

「あぁ。

やばい、楽しくなってきた」

 

楽しげな表情を浮かべる2人に兄は言い放つ。

 

「行くぞ、小僧!

【ゲート・ガーディアン】で【E・HEROエアーマン】を攻撃!」

 

巨体の【ゲート・ガーディアン】は重い足を動かしながら【エアーマン】に歩み寄る。

守備表示の【エアーマン】は自分の数倍の大きさの有るモンスターをただ見上げるだけだ。

自分に向かって振り下ろされる拳に対し【エアーマン】は微動だにもせず砕け散った。

粉々になったモンスターを見つめながら聖星は静かに宣言する。

 

「【エアーマン】が破壊された時、罠を発動します。

【ヒーロー・シグナル】」

 

暗い夜に射出されている1つの光。

それはヒーローが仲間を呼ぶサイン。

【エアーマン】は最後の力を振り絞りサインを送った。

 

「俺の場のモンスターが破壊された時、デッキから【E・HERO】を特殊召喚します。

俺は【E・HEROフォレストマン】を守備表示で特殊召喚」

 

「はっ!!」

 

「守備力2000……

更に守りを固めたか」

 

「だが【ゲート・ガーディアン】の攻撃力の前では意味がない。

私はこれでターンエンドだ」

 

「行くぜ、俺のターン!

ドロー!」

 

デッキからカードをドローした十代は聖星を見る。

十代からの視線に気が付いた聖星は小さく頷き、迷宮兄弟を真っ直ぐに見る。

口元に弧を描いた十代はすぐに宣言する。

 

「俺は【E・HEROフォレストマン】の効果を使うぜ!

スタンバイフェイズ時、こいつが表側表示で存在する時デッキまたは墓地に存在する【融合】を手札に加えることが出来る!

俺はデッキから【融合】を加え、そして【融合】を発動!」

 

「何!?」

 

まさかの効果に迷宮兄弟は目を見開く。

しかしすぐに表情を変えてフィールド全体を見渡す。

聖星は【DNA改造手術】で自分のモンスターにしか使えないカードを十代にも使えるようにし、場のモンスターが戦闘で破壊されたら十代に有利なモンスターを特殊召喚した。

自分の事だけではなくパートナーの事を考えての行動。

そして十代はそれを全力で使う。

 

「成程、貴様達もタッグデュエルが分かるようだな」

 

「へへっ。

場の【E・HEROフェザーマン】と手札の【バブルマン】を融合し、【E・HEROセイラーマン】を特殊召喚する!」

 

「はっ!」

 

守備表示の【フェザーマン】の隣に【バブルマン】が現れ、2体は歪みの中に吸い込まれる。

代わりに現れたのは細身の英雄で手にアンカーを備えている。

その攻撃力は1400.

 

「【セイラーマン】は俺達の場に伏せカードがある時、相手プレイヤーにダイレクトアタックが出来る!」

 

「何!?」

 

「行け、【セイラーマン】!

アンカー・ナックル!!」

 

「はぁ!」

 

自分に指示された攻撃宣言に【セイラーマン】は高く飛びあがる。

そして狙いを兄に定めて構えた。

しかし迷宮兄弟は笑みを浮かべてカードを発動させる。

 

「罠発動、【炸裂装甲】!」

 

「ゲ!」

 

表側表示になった罠カードの名前に十代は嫌そうな顔をする。

それは攻撃してきた相手モンスターを破壊する罠カード。

十代でなくても嫌な顔をするだろう。

 

「リバースカード、オープン。

速攻魔法【トーラの魔導書】。

このカードは魔法使い族モンスターに魔法または罠カードの耐性をつけます」

 

「しまった!」

 

「【DNA改造手術】の効果で場のモンスターは全て魔法使い族!!」

 

「その通り。

当然、俺は【セイラーマン】に罠カードの耐性をつけます。

よってこの攻撃は有効です」

 

兄の周りが光り、モンスターを吹き飛ばすほどの突風が吹き荒れる。

アンカーを投げようとした【セイラーマン】は一瞬だけ守りの体勢に入った。

しかし目の前に1冊の書物が現れ、その書物が持つ魔力によって風から護られた。

行けると確信した【セイラーマン】はそのまま勢いをつけて両腕のアンカーで兄を貫いた。

 

「ぐぁ!」

 

「兄者!」

 

「くっ、なんの……

これしきっ!」

 

これで迷宮兄弟のライフは5700から4300になる。

3000以上のライフの差をつけ、十代は握り拳を作った。

 

「さんきゅー、聖星」

 

「良いって事さ」

 

「俺はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「私のターンだ!

【ゲート・ガーディアン】!!

その軟弱なモンスターを攻撃しろ!!」

 

今迷宮兄弟にとって厄介なのはダイレクトアタックを可能にする【セイラーマン】。

幸いにも【セイラーマン】は攻撃表示。

攻撃力3750を誇る【ゲート・ガーディアン】の敵ではない。

 

「速攻魔法、【融合解除】!

【セイラーマン】の融合を解除し、【フェザーマン】と【バブルマン】を特殊召喚する!」

 

向かってくる攻撃に【セイラーマン】は分裂し、【フェザーマン】と【バブルマン】に戻る。

2体は共に攻撃表示でありいつでも攻撃できるよう構えていた。

しかしその姿に弟は笑い声を上げる。

 

「ははっ、どうした小僧?

【バブルマン】と【フェザーマン】を攻撃表示で特殊召喚だと?

せっかく【ゲート・ガーディアン】からの戦闘ダメージを0にするチャンスだったというのに無駄な事をしたな」

 

2体のモンスターの攻撃力は1000と800.

明らかに【セイラーマン】より低く、さらに多量の戦闘ダメージを受ける事になる。

 

「【ゲート・ガーディアン】で【バブルマン】に攻撃!」

 

「俺のする事に無駄な事なんてない!

リバースカード、オープン!!

速攻魔法、【バブルシャッフル】!」

 

「あ」

 

十代が発動したカードに聖星は【ゲート・ガーディアン】を見上げる。

そしてあのモンスターのステータスを思い出すがどうも曖昧で正確な数値を思い出せない。

 

「十代。

【ゲート・ガーディアン】の守備力っていくつだっけ?」

 

「確か3400だったはずだぜ」

 

「うわ、固いなぁ」

 

攻撃力3750に守備力3400.

特殊召喚するまでの手段が面倒で出すのにも一苦労だが、出たら出たで厄介だ。

しかし倒せないわけでは、いや、倒す方法など無数にあるので問題はない。

どうやって破壊しようかと考えていると十代が進めた。

 

「俺の場に【バブルマン】が存在する時、【バブルマン】と相手モンスターを守備表示にする!」

 

「なっ!

まさか【ゲート・ガーディアン】を!?」

 

「あぁ、そうさ!

【ゲート・ガーディアン】には守備表示になってもらうぜ!」

 

【バブルマン】と【ゲート・ガーディアン】は共に守備表示となり両腕をクロスして膝をつく。

攻撃をかわされただけではなく、これ以上追撃出来ない事に2人は舌打ちする。

だがまだこのカードの効果は終わらない。

 

「そして守備表示になった【バブルマン】を生贄に、手札の【E・HERO】を特殊召喚する!

俺は【ネクロダークマン】を特殊召喚!」

 

「はぁ!!」

 

「くっ……!」

 

「私はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「行くぜ、俺のターン」

 

相手の場に伏せカードは弟が伏せた2枚のみ。

モンスターゾーンには守備力3400の【ゲート・ガーディアン】。

それに対し自分達の場には【バテル】、【ネクロダークマン】、【フェザーマン】、【フォレストマン】の4体。

 

「俺は【魔導書院ラメイソン】の効果により【トーラの魔導書】をデッキの1番下に戻し、デッキからカードを1枚ドロー。

そして【フォレストマン】の効果でデッキから【融合】を加えます」

 

「聖星が【融合】を加えたか」

 

「やっぱり、彼のデッキも融合モンスターを使うのね」

 

「俺は手札から【融合】を発動。

場の【魔導書士バテル】と【E・HEROネクロダークマン】を融合」

 

「え!?」

 

「何ですって!?」

 

「バカな、【E・HERO】と【魔導書士バテル】の融合だと!?」

 

【E・HERO】は仲間と力を合わせる事で強くなるカテゴリ。

だが融合には融合素材モンスターが必要であり、融合素材のモンスターは名前を指定されている。

【沼地の魔神王】のような例外も存在するが【魔導書士バテル】はその例外ではない。

それなのに聖星は融合素材に指定した。

守備表示の【バテル】と【ネクロダークマン】は歪みの中に消えて行く。

 

「一体どんなモンスターが現れるの?」

 

エラー音も何もないという事はこの融合は有効という事。

聞いた事もない組み合わせに明日香達は聖星の場を凝視した。

すると聖星の場に一筋の光が差し込み、その光がフィールドの一部を氷漬けにする。

 

「冷徹の力で永久の世界を作れ、融合召喚。

【E・HEROアブソルートZero】!」

 

「はあぁっ!!」

 

凍て付いたフィールドに吹雪が吹き荒れ、色を持たない氷の戦士が現れる。

純白のマントを翻しながら現れた戦士は一瞬で魔法使いとなり、力強く着地し地面に張った氷を粉々に砕く。

同時に砕け散った氷を核に空気中の水分が凍りついて雪の結晶が舞い上がる。

氷の世界に膝をついた彼はゆっくりと立ち上がり【ゲート・ガーディアン】を見上げた。

 

「【Zero】、来たぁ!!」

 

「な、何が起こっているのだ……!?」

 

「理解が出来ん」

 

「【アブソルートZero】は【E・HERO】の名を持つモンスターと水属性の融合で特殊召喚できるニューヒーローだ!」

 

「【バテル】は水属性。

だから融合召喚出来たんですよ」

 

「モンスターではなく、属性を指定しての融合だと!?」

 

「何だ、その融合は!?」

 

彼らの中での融合は決められた名前を持つモンスター同士、または融合素材代用モンスターによる融合でしかない。

しかし目の前で起こった融合はその常識に当てはまらないもの。

デュエルの世界は日々進化しているが、この融合はそれを証明しているものの1つなのだろうか。

 

「そして俺は【E・HEROエアーマン】を攻撃表示で召喚。

【エアーマン】の効果で俺はデッキから【E・HEROオーシャン】を加えます。

そして【フォレストマン】を守備表示から攻撃表示に変更」

 

再び現れたのは風を纏う戦士。

【Zero】と同じように魔法使いへと変わった彼は聖星の手札に仲間を呼ぶ。

 

「手札から魔法カード【ヒュグロの魔導書】を発動します。

これは魔法使い族の攻撃力を1000ポイント上げるカードです。

【Zero】の攻撃力は2500から3500にアップ。

そして【ゲート・ガーディアン】の守備力は3400」

 

「くっ!」

 

「行けぇ、聖星!」

 

「【アブソルートZero】、瞬間氷結」

 

聖星からの攻撃宣言に【Zero】は手をかざし【ゲート・ガーディアン】に氷の波導を放つ。

みるみるうちに【ゲート・ガーディアン】の足元は凍りつきこのままでは全身氷漬けになってしまう。

 

「舐めるな、小僧!

リバースカード、オープン!

【強制脱出装置】を発動する!」

 

「手札から速攻魔法、【トーラの魔導書】を発動します。

効果の説明はいらないですよね?」

 

【ゲート・ガーディアン】を守ろうと弟はモンスターを手札に戻す罠カードを発動する。

だが聖星はすぐに罠カードの効果を防ぐ速攻魔法を発動する。

【DNA改造手術】の効果で魔法使いとなっている【Zero】は授かった英知により融合デッキに戻る事はない。

【Zero】の魔力で【ゲート・ガーディアン】は冷たい氷の彫刻に閉じ込められ、そのまま砕け散ってしまう。

その様子に迷宮兄弟は信じられないという表情を浮かべた。

 

「そんな……」

 

「【ゲート・ガーディアン】がこうもあっさりと……」

 

「よっしゃぁあ!

【ゲート・ガーディアン】突破!

流石聖星だぜ!」

 

「十代だって、俺が戦闘破壊できるようサポートしてくれたじゃん。

守備表示にしてくれなかったら無理だったな」

 

「なぁに、これくらい当然だろ!」

 

へへっ、と笑う十代に聖星は微笑む。

だがすぐに真剣な表情となり効果を発動させた。

 

「モンスターを破壊した事で俺は【ヒュグロの魔導書】の効果により、デッキから【グリモの魔導書】を加えます。

【E・HEROフォレストマン】、【フェザーマン】、【エアーマン】でダイレクトアタック」

 

「っ!

ぐぁあ!」

 

【ゲート・ガーディアン】が破壊された事実に動揺していた弟は一瞬だけ反応が遅れ、モンスターの攻撃をまともに受けてしまう。

個々の攻撃力は大したことではないが、3体同時になるとかなりのダメージとなる。

弟は攻撃の衝撃によって吹き飛ばされてしまいライフは4300から3300、2300、500という順に減っていく。

 

「そしてメインフェイズに【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【セフェルの魔導書】を加えて発動します。

手札の【ゲーテの魔導書】を見せ、【グリモの魔導書】をコピー。

俺は【ヒュグロの魔導書】を手札に加えます。

カードを1枚伏せ、ターンエンドです」

 

淡々とカードを発動し、それを処理していく聖星。

今のところ聖星達とライフは無傷のまま。

それに対し迷宮兄弟のライフは500という数値。

そんな状況に誰かが呟いた。

 

「すげぇ……」

 

「オシリス・レッドが伝説のデュエリストをおしている……?」

 

「このままじゃあいつらマジで勝っちまうのか?」

 

落ちこぼれが伝説のデュエリストに勝つ。

別に迷宮兄弟が弱いわけじゃない。

伝説の名に相応しく、カードの効果、使い方を熟知し召喚の難しい【ゲート・ガーディアン】を特殊召喚した。

もし他の生徒達が彼等を相手にしたら勝てるかどうか分からないだろう。

だが聖星と十代は勝とうとしている。

 

「良いぞ、兄貴――!!

聖星君―――!!」

 

「そのままなんだな!

一気にライフを削れ――!」

 

目の前の事実を上手く受け入れる事が出来ない生徒達。

だが誰よりも聖星と十代に近い翔と隼人は声を張り上げて声援する。

その言葉に明日香と三沢は微笑み、取巻はフンと鼻を鳴らす。

そしてフィールドに立っている2人を見る。

 

「そうだ、十代、聖星!

もう少しだ!」

 

「2人なら出来るわ!

頑張りなさい!!」

 

「相手のエースを倒したんだ!

さっさと終わらせろ!」

 

翔と隼人のように3人も声を張り上げる。

特に皆は取巻の言葉に驚き、思わず彼に視線が集まる。

しかしそんな事など知った事か!とでも言うかのように取巻は素知らぬ顔をしている。

当然聖星と十代にも取巻の声は届いており、2人は顔を見合わせて笑った。

 

「フフフ……」

 

「ん?」

 

次々と聞こえてくる応援の声。

そんな中笑い声が聞こえてくる。

2人は迷宮兄弟に顔を向けて不思議そうな表情をする。

 

「「アハハハハハ!!!」」

 

顔を伏せていた迷宮兄弟は同時に顔を上げて笑い声を上げる。

いつまでも続く笑い声に聖星は思わずきょとんとしてしまう。

すると迷宮兄弟達は嬉しそうに不敵な笑みを浮かべてた。

 

「面白い、面白いぞ小僧共!」

 

「アカデミアの落ちこぼれと聞いていたから一瞬で終わると思っていたが、どうやら違うようだ」

 

「一見シナジーのないようなデッキ。

だが魔法・罠カードを巧みに利用してそのデメリットを無かったことにしている」

 

「そして、我らを相手にしても平常心を失わない。

それどころか楽しむ精神力!」

 

「「久しぶりに手ごたえのある相手が現れたというものだ!」」

 

同時に響く楽しそうな言葉。

彼らの言葉には嘘など全く感じない。

それは迷宮兄弟が聖星と十代を認めたという事。

彼らの言葉を理解できた2人は不敵な笑みを浮かべた。

 

「何言ってるんだ。

伝説のデュエリストと戦えるんだぜ!

ビビってられるかよ!」

 

「あぁ。

一生に1度あるかないかのチャンスなんだ。

本気で楽しんで、勝たせていただきます」

 

「ここからは本気で行くぞ、小僧共!

私のターン、ドロー!」

 

【ゲート・ガーディアン】は【Zero】の手によって倒された。

属性を指定する融合とは完全な想定外だが、久しぶりに腕のあるデュエリストとのデュエルに胸が高鳴る。

このデュエルは十代の退学を賭けた制裁デュエルだという事を完全に忘れた兄は勢いよくデッキからカードを引く。

 

「私はライフを半分支払い、手札から魔法カード【ダーク・エレメント】を発動!

この効果によりデッキから【闇の守護神-ダーク・ガーディアン】を特殊召喚する!」

 

【ダーク・エレメント】は墓地に【ゲート・ガーディアン】が存在する時発動できる魔法カード。

迷宮兄弟のライフは500から半分の250になってしまうが、場に禍々しいオーラが漂い始めた。

そのオーラは1体の巨大なモンスターとなりフィールドに降臨する。

攻撃力3800と【ゲート・ガーディアン】を超える数値である。

 

「【闇の守護神-ダーク・ガーディアン】で【E・HEROアブソルートZero】を攻撃!

ダーク・ショックウェーブ!!」

 

ここで攻撃力の低い【フォレストマン】達を攻撃しても良かった。

だが次のターンに【Zero】の攻撃力を上げられるわけにはいかない。

真っ先に強いモンスターから叩き潰す。

そう決めて兄は攻撃宣言をした。

【ダーク・ガーディアン】は自分を軸に闇の波導を放ち、【Zero】を闇の中に引きずり込んで破壊した。

聖星達のライフは8000から1350削られ、6650となる。

すると迷宮兄弟のフィールドが一瞬で氷漬けになってしまった。

 

「な!?

何が起こった!?」

 

「【ダーク・ガーディアン】が氷に包み込まれただと!?」

 

「ダイヤモンド・ワールド」

 

「何?」

 

「【Zero】は場から離れた時、相手の場のモンスターを全て氷漬けにします」

 

「これで【ダーク・ガーディアン】は砕け散るぜ!」

 

十代の言葉の通り氷の世界に閉じ込められた【ダーク・ガーディアン】は砕け散った。

ライフを犠牲にしてまで特殊召喚したモンスターをあっさりと破壊されてしまった事に顔を歪める。

 

「クッ、おのれ……

私はカードを3枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!

俺は【フォレストマン】の効果でデッキから【融合】を手札に加え、【融合】を発動!

場の【フェザーマン】と手札の【バーストレディ】を融合し【E・HEROフレイム・ウィングマン】を融合召喚する!」

 

「はっ!」

 

現れたのは十代のお気に入りのヒーロー。

今迷宮兄弟の場にはモンスターがおらずがら空きである。

 

「【フレイム・ウィングマン】でダイレクトアタック!」

 

「させるか!

罠発動、【聖なるバリア-ミラーフォース―】!

これで貴様の場のモンスターは全滅だ!」

 

【フレイム・ウィングマン】の腕から放たれる炎は銀色に輝く結界に跳ね返される。

罠カードの効果によって跳ね返された炎は2人の場に存在するモンスター全てを焼き尽くした。

 

「くっそぉ。

やっぱりそう簡単には勝たせてくれないか」

 

「ライフじゃ押しているんだけどな」

 

「俺は【フレンドッグ】を守備表示で召喚。

カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

召喚されたのは犬の形を模したロボット。

可愛らしい声で鳴いた【フレンドッグ】は十代を守るように身構える。

 

「私のターン、ドロー!

私は兄者のリバースカード、【魂の解放】を発動する!」

 

「【魂の解放】?」

 

「ここで除外って事はまさか……」

 

「ふふふっ。

そう、私は墓地に眠る【三魔神】と【ゲート・ガーディアン】を除外する。

さらに罠カード【異次元からの帰還】を発動!

ライフを半分払い、ゲームから除外されている【三魔神】、【ゲート・ガーディアン】を特殊召喚する!」

 

次々と除外されていくモンスター達。

除外ゾーンがデュエルディスクには用意されていないため、弟は4枚のカードを胸ポケットにしまう。

【異次元からの帰還】が発動した事でライフを250から125へ削られたがその見返りは大きい。

 

「「我が兄弟の元に降臨せよ!」」

 

【異次元からの帰還】は除外されているモンスターを可能な限り特殊召喚するカード。

【魂の解放】によって墓地から除外された【三魔神】と【ゲート・ガーディアン】は轟音と共にフィールドに戻ってくる。

場にモンスターは存在しなかったのにカードのコンボで4体もモンスターが並び、生徒達は伝説の本気を見た気がした。

 

「すげぇ、もうこんなにモンスターが揃っちまった!」

 

「行くぞ、小僧!

【風魔神-ヒューガ】で【フレンドッグ】に攻撃!!

風魔波!」

 

【三魔神】の中で最も攻撃力が低い【ヒューガ】は風を操り【フレンドッグ】を破壊する。

攻撃によって爆発した【フレンドッグ】は墓地へと送られ効果が発動する。

同時に十代の伏せカードも発動した。

 

「【フレンドッグ】が破壊された時、【ヒーロー・シグナル】を発動!

デッキから【E・HEROスパークマン】を守備表示で特殊召喚する!」

 

「はっ!」

 

「そして【フレンドッグ】が戦闘で破壊された事により、俺は墓地から【融合】と【E・HEROエアーマン】を手札に加える」

 

【フレンドッグ】は戦闘で破壊された時墓地から【融合】と【E・HERO】を手札に加える効果を持つ。

十代はサーチ効果を持つ【エアーマン】を加えた。

 

「だが終わらんぞ!

【水魔神-スーガ】で【スパークマン】を攻撃!!」

 

「罠カード、【ヒーロー・バリア】!

【スーガ】の攻撃を無効にする!」

 

「ならば【サンガ】で攻撃!」

 

【スーガ】の波を使った攻撃は十代のカードに防がれてしまう。

また場にモンスターが残ってしまったが弟は諦めず【サンガ】に攻撃させる。

 

「速攻魔法、【ゲーテの魔導書】を発動。

俺達の場に魔法使い族が存在する時、墓地の【魔導書】を除外して発動します。

俺は【ヒュグロの魔導書】、【セフェルの魔導書】、【トーラの魔導書】をコストとして除外。

そして相手の場のカードを1枚除外します!」

 

「ならばそれにチェーンして【王宮の鉄壁】を発動!」

 

「あ」

 

墓地から3枚の【魔導書】を取り出した聖星はデッキケースに仕舞う。

そして効果を説明すると弟はニヤリと笑い、永続罠を発動した。

それには城全体を囲う鉄壁が描かれている。

 

「【王宮の鉄壁】?

何だ、そのカード」

 

「除外を封じる永続罠だよ。

あのカードがある限り、俺達はカードを除外できなくなった」

 

「はぁ!?

って事は、【ゲーテ】の除外効果は不発って事かよ!?」

 

「あぁ」

 

【ゲーテの魔導書】は【魔導書】をコストとして3枚除外して発動する。

その後に【王宮の鉄壁】が発動された事で【ゲーテの魔導書】は場のカードを除外する事が出来なくなった。

これで除外したコストが無駄になってしまった。

それだけではない。

【異次元からの帰還】はエンドフェイズ時にこのカードで特殊召喚したモンスターを除外する。

しかし【王宮の鉄壁】の効果によりそれが出来なくなってしまう。

聖星のカードを封じるだけでなく、自分達のデメリットまで打ち消してたのだ。

【サンガ】は両腕に雷を纏い、【スパークマン】を叩き潰した。

これで十代と聖星の場にモンスターはいない。

 

「【ゲート・ガーディアン】でダイレクトアタック!!」

 

「ぐぁあ!」

 

【ゲート・ガーディアン】の直撃を受けた十代はその場から吹き飛ばされる。

6650もあったライフが2900まで削られた。

ライフの半分近く削られた事で安心できなくなった。

 

「十代、大丈夫か?」

 

「へっ、これくらいへっちゃらだぜ!」

 

「私はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

引いたのは【融合】。

聖星は融合デッキに残っているモンスターを確認する。

 

「(【王宮の鉄壁】……

どんな状況でもカードの除外を封じてしまう永続罠。

これじゃあ【ゲーテの魔導書】だけじゃない。

【ミラクル・フュージョン】で上級モンスターを呼べないじゃないな)

俺は【魔導書院ラメイソン】の効果で墓地の【ゲーテの魔導書】を戻し、カードを1枚ドロー」

 

スタンバイフェイズ、【ラメイソン】の効果で新たにカードをドローする。

加わったカードと手札を見比べ戦略を考える。

正直上手くいくかは分からない。

 

「(ま、やってみるか。)」

 

もし上手くいかなかったら次の手を考える。

そう決めた聖星はカードを掴む。

 

「俺は手札から【融合】を発動。

手札の【E・HEROオーシャン】と【魔導剣士シャリオ】を融合」

 

「また【E・HERO】と属性の融合か!」

 

「荒ぶる風を纏いし英雄よ、道を開くため苦境を吹き飛ばせ。

融合召喚。

【E・HERO Great TORNADO】!」

 

【オーシャン】と【シャリオ】は互いの武器を高く上げて刃を合わせる。

すると2人を中心に暴風が吹き荒れる。

全てを吹き飛ばすほどの暴風の中から2つの光が輝き、漆黒の衣を纏った風の戦士が現れる。

 

「【E・HERO Great TORNADO】の効果発動。

このカードが融合召喚に成功した時、相手のモンスター全ての攻守を半分にします」

 

「何!?」

 

「タウン・バースト」

 

特殊召喚された【E・HERO Great TORNADO】は両手を高く上げ、風を呼び起こす。

風は【ゲート・ガーディアン】達4体のボディを傷つけた。

 

「【Great TORNADO】で【ゲート・ガーディアン】に攻撃」

 

「ならば【炸裂装甲】!」

 

「あ…………

やっぱり伏せカードがやっかいだよな」

 

発動されたモンスター破壊カードに聖星は頬を掻く。

鎧の中に閉じ込められた【E・HERO Great TORNADO】は一直線に聖星の墓地へと送られてしまう。

破壊する事は出来なかったが、相手モンスターの攻守を半減できたので良しとしよう。

 

「カードを1枚伏せてターン終了です」

 

「私のターン!

行くぞ!

【ゲート・ガーディアン】でダイレクトアタック!」

 

「罠カード、【和睦の使者】を発動します。

これでこのターン、戦闘ダメージは0です」

 

「ふっ。

カードを1枚伏せ、ターンを終了する」

 

「俺のターン、ドロー!

行くぜ!

俺は手札から【E・HEROクレイマン】を守備表示で召喚!

そして【速攻召喚】を発動!

【エアーマン】を召喚する!」

 

光との中から粘土の英雄が現れ、その隣に風の英雄が現れる。

特に【エアーマン】は3度目の登場である。

もう効果を覚えた迷宮兄弟は不敵に笑って尋ねる。

 

「ふっ、デッキから新たな【HERO】を呼ぼうという考えか」

 

「いいや、違うぜ」

 

「何だと?」

 

「【エアーマン】の効果はこれだけじゃない!

【エアーマン】のもう1つの効果発動!

このカード以外の【HERO】が存在する時、その枚数分相手の魔法・罠カードを破壊する!」

 

「何っ!?」

 

今、十代達の場に【E・HERO】は【クレイマン】のみ。

よって【エアーマン】は1枚のみ破壊できる。

 

「俺は【王宮の鉄壁】を破壊!」

 

十代の宣言に【エアーマン】は羽にから風を巻き起こし、【王宮の鉄壁】を破壊する。

 

「そして魔法カード、【ホープ・オブ・フィフス】を発動!

墓地の【E・HERO】を5枚デッキに戻し、デッキからカードを2枚ドロー!」

 

十代は墓地に存在する【アブソルートZero】、【Great TORNADO】、【フレイム・ウィングマン】、【セイラーマン】、【エアーマン】の5体を選択する。

【アブソルートZero】、【Great TORNADO】、【フレイム・ウィングマン】、【セイラーマン】の4体は融合モンスターのため融合デッキに戻り、メインデッキに戻るのは【エアーマン】のみだ。

デッキに戻した十代はデッキをシャッフルし、デュエルディスクにセットする。

 

「手札から魔法カード、【ミラクル・フュージョン】!

墓地と場に存在する【HERO】で融合する!」

 

「なっ、墓地だと!?」

 

「墓地の【E・HEROオーシャン】と【フォレストマン】を除外!

融合召喚!

【E・HEROアブソルートZero】!!」

 

墓地に存在する海と大地の英雄は半透明の姿で場に現れた。

2体のモンスターは歪みの中に吸い込まれていき、十代の場を氷漬けにする。

再び場が氷の世界となり、その世界の中心に現れたのは相手モンスターを氷漬けにする【Zero】。

 

「行くぜ!

【Zero】で【ゲート・ガーディアン】に攻撃!!」

 

今、【ゲート・ガーディアン】の攻撃力は【Great TORNADO】の効果で1875になっている。

迷宮兄弟の残りのライフは125でこの攻撃が決まれば十代達の勝ちである。

しかし彼等だってそう簡単には終わらせない。

 

「無駄だ!

罠発動、【聖なるバリア-ミラーフォース-】!」

 

「くっ!!

けど、これで【Zero】の効果が発動し、あんたのモンスターも破壊されるぜ!」

 

相手を氷漬けにする【Zero】の攻撃は【Zero】自身に返ってくる。

全てを凍て付かせる魔術に【Zero】は砕け散ってしまった。

だが、同時に【Zero】を軸に氷の世界が迷宮兄弟の場まで広がった。

 

「くっ……」

 

「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「私のターン!

手札から魔法カード、【死者蘇生】を発動!

墓地から【ゲート・ガーディアン】を特殊召喚する!」

 

勢いよくドローした弟は引いたカードに笑みを浮かべ、そのまま発動する。

何とそのカードは墓地からモンスターを特殊召喚するカードで、この状況では願ってもいないカードだろう。

氷が広がるフィールドの大地が裂け、そこから【ゲート・ガーディアン】が現れる。

 

「【ゲート・ガーディアン】で【クレイマン】に攻撃!」

 

特殊召喚された【ゲート・ガーディアン】は守備表示となっている【クレイマン】に狙いを定め、その拳を叩き落とした。

攻撃力が3700以上もあるモンスターの攻撃を守備力2000の【クレイマン】が耐えられるわけもなく押し潰されてしまう。

 

「私はこれでターンエンドだ」

 

「……いい加減ヤバくなってきたな」

 

迷宮兄弟のエンド宣言に聖星はつい零してしまった。

【Zero】や【Great TORNADO】を特殊召喚したというのに、何度も【ゲート・ガーディアン】は蘇ってしまう。

流石は伝説のデュエリストとしかいいようがない。

だがこのデュエルは十代の退学がかかっているのだ。

これ以上長引かせるわけにも、追い込まれるわけにもいかない。

 

「(絶対にこのターンで決める!)」

 

聖星はチラッ、と十代を見る。

十代は立ちはだかっている【ゲート・ガーディアン】に不敵な笑みを浮かべており、その表情に焦りは一切ない。

恐ろしいくらい自然体な十代に聖星はつい笑ってしまった。

 

「俺のターン、ドロー!!」

 

カードをドローした聖星はすぐにドローしたカードを見る。

それは1枚の魔法カード。

聖星はその名前にカードを手札に加えず宣言した。

 

「俺は【強欲な壺】を発動。

デッキからカードを2枚ドローします」

 

新たに加わったカード。

新たに来たカードの名前に聖星に強く頷いた。

 

「俺は【魔導書士バテル】を召喚。

デッキから【トーラの魔導書】をサーチ。

そして手札から【ミラクル・フュージョン】を発動!

墓地の【Zero】と【クレイマン】を除外する!」

 

墓地から現れた2体の周りの大地が大きく盛り上がり、彼らの姿を隠してしまう。

すると大きく隆起した地面にヒビが入り、粉々に砕けてしまう。

 

「融合召喚、【E・HEROガイア】!!」

 

聖星の宣言と共にフィールドがさらに割れていく。

そこからゆっくりと鋼の肉体を持ち、剛腕を持つ英雄が姿を現した。

 

「【ガイア】の効果発動!

こいつが融合召喚した時、相手モンスター1体の攻撃力を半分にし、その数値分攻撃力を上げる!」

 

「なんだと!?」

 

「攻撃力の減少と吸収……

まさか!」

 

「そう、俺は【ゲート・ガーディアン】を指定する!

【ガイア】!!」

 

名前を呼ばれた【ガイア】は両腕を勢いよくフィールドに叩きつける。

その時の威力は凄まじく大きく大地は揺れ、【ゲート・ガーディアン】は膝をつく。

これで【ゲート・ガーディアン】の攻撃力は3750から1875に下がり、【ガイア】の攻撃力は2200から4075になる。

 

「【E・HEROガイア】で【ゲート・ガーディアン】に攻撃!」

 

「させん!

罠発動、【次元幽閉】!

このカードは攻撃してきた相手モンスターを除外する!

悪いが消えてもらうぞ!」

 

腕を構えた【ガイア】の目の前に異空間へと繋がる歪みが現れる。

その歪みはどんどん大きくなっていき【ガイア】を飲み込もうとする。

しかしその光景に十代は不敵に笑い、聖星は焦った様子もなく静かに宣言した。

 

「甘いぜ、迷宮兄弟!

さっき聖星が何を加えたのか忘れちまったのかよ!?」

 

「ハッ!」

 

「し、しまった!」

 

「俺は手札から速攻魔法、【トーラの魔導書】を発動!」

 

「これで【次元幽閉】の効果は【ガイア】には通用しないぜ!」

 

【ガイア】は自分の魔力を歪みに向けて放ち、広がっていく歪みを閉ざす。

一瞬で消えてしまった歪みと共に【次元幽閉】のカードは粉々に砕け散った。

迷宮兄弟は破壊された【次元幽閉】から慌てて【ゲート・ガーディアン】へと目をやった。

 

「「【E・HEROガイア】、コンチネンタルハンマー!!!」」

 

聖星と十代の力強い宣言に応えるよう【ガイア】は両腕の銃口に魔力を集中させ、塊を生み出す。

大地の力を纏うパワーは凄まじい勢いで【ゲート・ガーディアン】へと向かって行き、【ゲート・ガーディアン】を貫く。

大きな風穴があいた部分から全身にひびが走り、【ゲート・ガーディアン】は崩れ落ちる。

地面に落下した肉体はその場で大きな爆発を起こし、爆風と炎は迷宮兄弟を飲み込む。

 

「「うぉおおお!!!!」」

 

体全身を焼き尽くすほどの炎に2人は悲鳴を上げ、残り125だったライフは0になった。

そしてデュエル終了のブザーが鳴り響きソリッドビジョンが消えて行く。

場から消えるモンスター達を見届け終えた聖星は十代に目をやる。

十代も聖星と同じようで、目が合った二人はそれぞれ笑みを浮かべた。

そして同時に手を上げて勢いよくハイタッチする。

 

「やったな、聖星!!」

 

「あぁ!」

 

「最後に出した【E・HEROガイア】、凄くかっこよかったな!

ってか俺と調整した時、あんなカード入れてなかっただろ?

いつ入れたんだ?」

 

「今朝だよ。

融合はあくまで【Zero】と【Great TORNADO】だけにしようと思ったんだけど……

そういえば地属性の【フォレストマン】もデッキに入っていたから入れてみようかなぁって思ってさ」

 

【E・HEROガイア】。

【HERO】の名を持つモンスターと地属性モンスターが必要な融合モンスター。

聖星自身、上級は【Zero】と【Great TORNADO】を軸にしようと決めていたから初めは入れようとは思わなかった。

しかし【フォレストマン】が存在し、もしかしたら活躍するかもしれないと思い土壇場で入れたのだが……

まさかフィニッシャーになるとは夢にも思わなかった。

 

「遊城十代に……」

 

「不動聖星だったな」

 

背後から聞こえたのは迷宮兄弟の声。

2人はすぐに振り返り、自分達より背の高い彼らを見上げる。

彼らの表情はどこか満足げであり悔しさが微塵にも感じられなかった。

 

「先程も言ったと思うが、お前達のデュエルは実に素晴らしいものだ。

1枚のカードで互いにサポートカードを共有できるようにし、その状況を存分に活用する」

 

「我ら兄弟が戦ったタッグデュエリスト達の中でもお前達は5本の指に入るほどの名タッグだ。

お前達とデュエルが出来た事を誇りに思う」

 

そう言い終えた2人は聖星と十代に手を差し出す。

すぐに察した聖星達はその手を強く握り、無邪気な笑みを浮かべた。

ただの学生が伝説のデュエリストに認められ、誇りとまで言われた。

感動的な光景に鮫島校長は目を輝かせ、大徳寺先生は安心したように微笑む。

そんな場面に生徒達は揃って立ち上がり、それぞれ拍手を送る。

 

「また機会があればお前達とタッグデュエルをしたいものだ」

 

「だが、今度は我ら迷宮兄弟が勝つ!」

 

「何言ってんだよ。

今度も勝つのは俺達さ!

な、聖星!」

 

「はい。

次のデュエルも本気で楽しんで、絶対に勝たせていただきます」

 

互いに再戦を口にする4人。

実に素晴らしい雰囲気を称えるよう、鮫島校長がフィールドに上がって言葉を発する。

その言葉は本当に今のデュエルが素敵で仕方がないと表現しているものばかりだった。

十代に迷宮兄弟、生徒達は鮫島校長の言葉を真剣に聞いていたが聖星だけは違った。

 

「(次、か……)」

 

この場で聖星達は再戦を誓った。

だが、その次は実現するのだろうか。

誰も知らないが聖星は未来の人間でいつかは帰るつもりである。

【星態龍】の力も着々と戻ってきており、この調子なら2年に上がる前に未来に帰ることが出来る。

もし自分が帰ってしまえば再戦は叶わないだろう。

 

「(出来たら、それまでに次のデュエルをしたいなぁ……)」

 

END

 




ここまで読んで頂きありがとうございます!
リアルとの格闘の末、やっとタッグデュエルを書き終えました。
前回の更新から3週間以上も経ってしまって…
あぅ、次の更新がいつになるやら。


迷宮兄弟とのデュエルで使用したデッキはその名の通り【魔導HERO】です。
属性を指定している【Zero】や【GreatTORNADO】なら【魔導書】デッキでも平気で入ると思って書いてみました。
【Zero】は比較的にポンポン出てきます。
【バテル】に【氷の女王】がいるからですかね…?


え、隼人の退学話?
見事に飛ばしましたよ。
そして取巻がデレてきやがった……


そして【Zero】の効果名ですが、オリジナルです。
始めはブリザード・ワールドとか、エターナル・クリアとか色々思い浮かんだのですがダイアモンド・ワールドだったら綺麗かなぁと思ってこれにしました。


追記
まさかの【エクシーズ・ディメンション・スプラッシュ】の効果を間違えていて最後をほとんど書き直しました。
恥ずかしい…!

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