遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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第十五話 新たな扉の鍵、4体のドラゴン

デュエル大会に参加した聖星達。

しかしそのデュエル大会は何者かのサイバー攻撃のせいで滅茶苦茶にされ、聖星達は犯人である男2人組を倒した。

そこまでは良かったのだが……

背後から声をかけてきた伝説のデュエリストの存在に動揺が走った。

 

「え、え?

どうして遊戯さん達がここに!?」

 

流石の十代でも伝説のデュエリスト3人に会えた事は衝撃だったようだ。

いつもと違い緊張気味の声で恐る恐る尋ねる。

取巻は完全に硬直しており、海馬コーポレーションにハッキングをした聖星はどうやってこの場を切りぬけるか必死に考えていた。

海馬は聖星達を見定めるように見ながら十代の言葉に答える。

 

「ふぅん。

何者かがこの俺にここに犯人がいるというメールを寄越してきた。

半信半疑だったがメールの通りここにくると俺の海馬ランドを乗っ取ろうとしたクズ共とお前達がいたという事だ」

 

つまり海馬達は聖星のメールでここに来たという事だ。

メールを出した張本人である聖星はある程度こうなる事を予想はしていた。

しかしこんなに早く急行し、さらに海馬だけではなく遊戯、ペガサスまで来るとは全く予想しなかった。

すると海馬は何かを思案するかのように黙り、ゆっくりと聖星達に歩み寄る。

 

「我が海馬ランドに仕掛けられたらサイバー攻撃を全てかわし、かつ逆探知までしたのは貴様か?」

 

そして聖星の前で立ち止まった。

 

「っ…………」

 

真っ先に自分まで進んできた海馬の言葉に聖星は僅かに目を見開きながら彼を見上げる。

何の迷いもなく自分にまで歩み寄った彼の言葉には確信の色があった。

じっと海馬の目を見たが誤魔化せる気がしない。

聖星は体中から冷や汗が流れるのを覚えながら慎重に言葉を選んでいく。

 

「はい。

いくら事態を沈静化させるためとはいえ、勝手に海馬コーポレーションのシステムに侵入してしまい申し訳ございません」

 

大企業の社長からしてみれば例え助けるためとはいえ勝手に侵入した事は腹が立つ事。

なるべく大事にはしたくない一心で素直に頭を下げる。

それでも海馬から放たれる威圧感は全く衰えなかった。

すると緊張しながら頭を下げる聖星と海馬の間に慌てて遊戯が入ってくる。

 

「そんな……

君がしたことは正しいとは言い切れないけど、友達や今日の大会を楽しみにしていた人達を助けたんだ。

たから顔を上げて。

海馬君も許してくれるよ。

そうだよね海馬君」

 

確認するかのように海馬を見上げる遊戯。

だが海馬は遊戯の言葉など全く耳を貸さず別の言葉を発した。

 

「貴様、名は?」

 

海馬からの問いかけに顔を上げた聖星は小さく息を吐き、しっかりと海馬の目を見て名乗った。

 

「聖星……

不動聖星です」

 

「(不動聖星……

俺と社員が全力を上げても防げなかったサイバー攻撃をいともたやすく防いだ。

コンピューターに関する頭脳はずば抜けているといっていい。

そして武器を持っている相手でも怯まず、それどころか瞬時に気絶させるだけの力量……

俺相手で怯んでいるのは緊張ゆえ、ではなさそうだな。

不都合なところを見られてしまいどうやって誤魔化そうか考えている顔か。

先ほどの時点で度胸があるのははっきりしている。)」

 

人一倍優れている知識。

そして武術。

誰もが羨むような技術を彼は持っている。

海馬は会社を出るとき、この人物を特定した後どうしようかと様々な事を考えていたがこの若さなら問題はない。

 

「貴様、俺の下で働く気はないか?」

 

「…………え?」

 

「はぁ!?」

 

「えぇ?!」

 

海馬の言葉に驚きの色を表す少年達。

やっと硬直状態のとけた取巻だが海馬の発言に再び固まり思考が停止した。

聖星は意外な言葉でも投げかけられたような表情で、一気に緊張が抜けたのか首をかしげている。

 

「あの……

俺は学生ですよ?

まだ15ですし。

そんな俺を引き抜くのですか?」

 

「構わん。

貴様は幾度となく対応を変えたサイバー攻撃をものともしなかった。

更には先程の身のこなし。

コンピューターに関する知識、武術、並大抵のものではない。

今すぐ俺の下で働け。

無論、俺が引き抜くのだ。

それなりの地位を与えてやる」

 

まさかそっちの方面の言葉が来たか。

意外すぎる勧誘に聖星は困ったような表情を浮かべる。

別に聖星からしてみれば古い技術を最新の技術で対処したようなもの。

あの海馬瀬人にここまで言わせる程の事をしたとは思っていない。

 

「えっと……」

 

「すげぇじゃん、聖星!

まさかお前、あの海馬コーポレーションで働けるんだぜ!」

 

「え?」

 

「まさか断る気か、不動!

あの海馬コーポレーションだぞ!

こんな話、千載一遇のチャンスだ!」

 

「落ち着けって2人とも。

それに働けるって、俺地方出身だぜ。

どうやって通えっていうんだよ」

 

十代は純粋に目を輝かせており、取巻は今までに見たことがない程の真剣な表情だ。

2人からしていれば友人が大企業に勤めるかもしれない場面だ。

しかもデュエリストとして憧れの会社で別に悪い話ではないはず。

だが肝心の聖星には未来人という理由があり、どうしても断りたい。

嘘も方便で理由を並べようとしたが、海馬がこう言ってくる。

 

「それがどうした?

身一つで構わん。

学校もこの近辺に転校させてやる。

どこに通っている?」

 

「あ~……

デュエルアカデミアです」

 

「デュエルアカデミアだと?

ならば特例で卒業させてやろう」

 

やはりこうなるか。

遠ければ近いところまで引っ越せば良い、と実に簡単に断言されてしまい頭を抱えた。

聖星は必死に他の理由を考え、何とかこの状況を切り抜けようとする。

だが十代と取巻は顔を見合わせ不思議そうな表情を浮かべた。

 

「と、特例!?」

 

「どうしてだ?」

 

「海馬さんはデュエルアカデミアのオーナーなんだよ」

 

「マジかよ!?」

 

「なら卒業させるのは簡単って事か」

 

海馬がアカデミアのオーナーというのなら聖星を早期卒業させる事などいとも容易い。

聖星も海馬の言葉に頷けば互いに同意したという事で鮫島校長も笑顔で判を押すだろう。

 

「いや、その……」

 

上手く言葉が発せられない聖星。

様々な事を理由にして断ろうとするが、海馬の権力、財力、頭脳があれば全て理由をへし折られそうな気がしてならない。

 

「海馬君、急に話をせかしすぎ!

聖星君困惑しているでしょう!」

 

「何だ遊戯。

これは俺の仕事だ。

邪魔をするな」

 

「あのねぇ、君にとってはビジネスでも彼にとってはそうじゃないんだよ!

君ってさ、本当昔から強引だけど聖星君の意見もちゃんと聞いてあげようよ」

 

「遊戯ボーイの言う通りデ~ス。

それに今は聖星ボーイの勧誘より、彼等を警察に引き渡すことが優先のはずデ~ス」

 

自分の前に入ってきた遊戯。

僅かに身長が低いためつい見下ろしてしまうが、彼の背中はこの中の誰よりも頼もしく見えた。

ペガサスも遊戯の言葉に同意し伸びている男達を見下ろす。

 

「それに海馬君は聖星君の事より今回の事、記者会見しなくて良いの?」

 

「ぐっ……!」

 

「きっと今頃マスコミが大騒ぎだよ」

 

「チィ!」

 

そう、仮にも大企業が主催の大会中にトラブルがあったのだ。

主催者側として記者会見をし参加者に詫びる必要がある。

海馬は忌々しそうに男達を見下ろし聖星達に背中を向ける。

 

「ならば俺はひとまず先に戻る。

不動聖星、貴様にはまた後日こちらから連絡する。

話はそれからだ」

 

そう言い残し、海馬は車が待つ場所へと向かった。

彼の背中を見送ると聖星はゆっくりと息を吐き出す。

 

「俺、目をつけられたかな」

 

予想外の展開にどうしようかと真剣に頭を抱えたくなった。

聖星の言葉の意味を理解した遊戯は苦笑を浮かべる事しかできない。

するとペガサスが手をたたき皆は彼を見る。

 

「そうで~す、大会を妨害した彼らに立ち向かった勇敢なボーイ達。

ここで会ったのも何かの縁デ~ス。

私と遊戯ボーイ、そしてユー達で食事にでもしませんカ?」

 

「ペガサスさん達と食事!?」

 

「マジですか!?

是非ご同行させてください!」

 

「では、改めて自己紹介をさせていただきマ~ス。

私はペガサス・J・クロフォード、デュエルモンスターズの創始者デ~ス」

 

「僕は武藤遊戯。

よろしくね」

 

「俺は遊城十代です!

よろしくお願いします、遊戯さん、ペガサスさん!」

 

「取巻太陽です。

お二人と一緒にお食事できるなんて光栄です!」

 

分かりやすいくらい目を輝かせる十代と取巻。

聖星もこんな状況でなければ素直に喜んでいるのだが、海馬の事もあり聖星は今後の事でお腹が痛くなった。

正直にいうと食事どころではない。

このまますぐにデュエルアカデミアに退学届を出し、住んでいるアパートも解約して別人として生きていきたいレベルだ。

 

「…………家に帰りたい」

 

**

 

それから警察に彼らを引き渡し、聖星達はそのままレストランへと足を運んだ。

流石は有名人であるペガサスが選んだというべきかあまりにも高級品溢れる場所で3人とも硬直してしまった。

それに対し遊戯はもう慣れたようで動揺もなく対応している。

彼らとの会話はとても楽しく、ペガサスと遊戯の武勇伝を聞くだけだというのにあっという間に時間が過ぎていった。

十代と取巻は次のどんな事が彼らの口から語られるのか楽しみで仕方がなく、食事にはほとんど手を付けていない。

 

「そういえば十代ボーイ、太陽ボーイ。

ユー達のデュエルは実に素晴らしいものデシタ」

 

「うん。

十代君の【E・HERO】も見た事ないモンスターだったよね。

何処であのカードを手に入れたの?」

 

実にさりげない会話。

この2人の会話にどんな意味があるのか聞かれた十代と取巻が見抜けるはずがない。

大した疑問も抱かず十代は笑顔で答える。

 

「はい。

あのカードは聖星にもらったんです。

取巻の【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】もだよな」

 

「あぁ」

 

「ほぉ、あのカードは元々聖星ボーイのものだったのですカ」

 

創始者であるペガサスはカードを全て把握している。

以前は自分が全てを手掛けていたが今は社員にもカードのデザインを頼み、それを世にはなっている。

当然社員が作るカードすべてに目を通し、カードの名前、絵柄、効果、ステータスも完璧に覚えた。

それなのに聖星が持っていたというカードは全く覚えがない。

ペガサスは聞き手に回り大人しく自分達の会話を聞いている少年に気づかれないよう目をやった。

 

「そうデ~ス、実はユー達に見てもらいたいものがありマ~ス」

 

「見てもらいたいもの?」

 

ペガサスの言葉に遊戯達4人は彼に視線を集中させる。

自分がアメリカから持ってきた愛用のカバンを膝の上に置き、その中から一冊のスケッチブックを取り出した。

まだ真新しくほとんど傷がないもので、中に描かれているものも少ない。

 

「実は私は夢の中でとても素敵なドラゴンと出会いました」

 

「ドラゴン?」

 

「イエ~ス」

 

ペガサスの言おうとしている事に唯一話を聞いた遊戯はすぐに気づき、3人に目をやる。

聖星達は純粋に不思議そうな表情を浮かべ彼の言葉を聞いていた。

 

「そのドラゴン達は実に勇敢で美しく、思わず絵に描いてしまったのデ~ス。

それで、そのドラゴン達をモンスターのデザインとして採用しようと思っていマ~ス」

 

自分に何かを訴える形で夢の中に現れたドラゴン達。

彼らの姿は本当に神々しく、目が覚めたペガサスは赤い竜の言葉を理解したと同時に彼らの姿を忘れまいとスケッチブックに描いていた。

まだ着色まではしていないが、ある程度の線は引けている。

 

「ペガサスさんの描いた絵を見せてくれるんですか!?」

 

「はいはい、是非見たいです!!」

 

「え、え?

食事にまで誘って頂けただけでも光栄なのに原画まで拝見して良いのですか??」

 

モンスターのデザインとして採用されるかもしれない絵を見る事ができる。

十代と取巻は年相応の反応を示し、聖星も嬉しそうだがどこか遠慮気味に恐る恐る尋ねてきた。

創始者、決闘王の2人と一緒に食事だけでも世界中のデュエリストから羨望されるというのに、さらには原画を見せてもらえるというのだ。

性格が出る反応にペガサスはにっこりと笑った。

 

「ノ~プロブレムデ~ス。

よろしければ、彼らに相応しい名前も考えてくだサ~イ。

もし素晴らしければカードの名前に採用しマ~ス」

 

「本当ですか!?」

 

「わ、分かりました!」

 

ペガサスからスケッチブックを受け取った十代はすぐに表紙を開く。

 

「すげぇ――!」

 

「なんて迫力のあるドラゴンなんだ……」

 

表紙を捲って自分達の目に入ったのは、雄々しく翼を広げ全ての頂点に立つかのような迫力がある。

悪魔のような角を持つドラゴンは本当に勇敢なドラゴンとしか言いようがなかった。

まだ線しかないのだが今にも動き出しそうで十代と取巻は興奮で鼓動が高鳴った。

次のページを捲ると2体のドラゴンが出迎えてくれた。

 

「これは……

薔薇ですか?」

 

「そうデ~ス。

そのドラゴンはまるで薔薇のようにビューティフル。

夢の中では薔薇の花びらが舞う炎で攻撃していましタ」

 

「やべぇ、かっけぇ、すげぇかっけぇ!」

 

美しく、とても気高い薔薇のドラゴン。

その隣には体が細長いドラゴンが描かれている。

高貴なドラゴンなのか体中に宝石等の装飾品を纏っており、その眼は不思議と優しさを覚えた。

ただの絵なのにここまで感じてしまうのは、描き手であるペガサスの画力が凄いからなのだろう。

そして次のページを捲った。

 

「…………綺麗だ」

 

これを呟いたのは取巻だ。

最後のページに描かれていたのは最初のドラゴンと対をなすかのような存在。

薔薇のドラゴンとは違う美しさを持つ姿に心を奪われそうになった。

十代は興奮の容量が超えてしまったのかもう耐えきれないとでも言うかのように顔を上げ、目を輝かせながら話し始める。

 

「凄いです!

俺、今までいろんなドラゴンを見てきましたけどこいつらはそのドラゴン達に全く劣りません!

早くカードになったこのドラゴン達と戦ってみたいです!

きっとかなりの強敵になるに決まっています!

それにこんなに凄いドラゴン達が夢に出てくるだけじゃない、それを再現できちまうなんて流石ペガサスさんです!

お前もそう思うだろう、あ……」

 

聖星、と十代は呼ぶつもりだった。

だがその言葉は聖星の顔を見た時何故か続かなかった。

隣に座っている彼は今まで見た事がないような表情を浮かべ、ただそのページに描かれているドラゴンをみつめている。

 

「(何だ、この違和感……?)」

 

自分と取巻のように興奮し、感動しているわけじゃない。

今の聖星には嬉しさだけではなく別の何かが混ざっている。

だがその何かが上手く言葉に表現できない。

胸にもやもやとすっきりしない疑問が浮かび十代は聖星の名前を呼ぶ。

 

「聖星……」

 

「ん?

どうした、十代?」

 

「あ、いや……

なんかさ、このドラゴン凄いよな。

どんな名前が似合うかな~って。

聖星はどんな名前が良いと思う?」

 

顔を上げて自分を見てきた聖星に十代は慌てて言葉を並べる。

何故か焦っている友人の様子に聖星は怪訝そうな表情を浮かべたが、十代の言葉に微笑んでこう続けた。

 

「そうだな…………

―――――なんてどうだ?」

 

聖星が提案した名前に遊戯が顔を上げた。

 

**

 

「今日は本当にありがとうございました」

 

「俺、今日の事は絶対に忘れません!」

 

「貴重なお話をしていただきありがとうござます!」

 

外はすっかり茜色に染まり、行きかう人々は慌ただしい。

聖星達はペガサスと遊戯に深く頭を下げ、改めて礼を述べた。

 

「いえ、ミーの方こそとても楽しい時間を過ごせましタ~。

もし機会があれば、またユー達と食事をしたいデ~ス」

 

「うん。

その時は皆ともデュエルしたいね」

 

「本当ですか!?

じゃあ、今すぐデュエルしませんか!」

 

「遊城。

今から帰らないと真夜中だ」

 

「そうだぜ十代。

ご両親に怒られてもいいのか?」

 

「うぐぅ…………」

 

的確な2人の突込みに十代は返す言葉もない。

本当なら遊戯さんとのデュエルだぜ!?お前達だってデュエルしたいだろ!?と押し切りたい。

だが遊戯とペガサスには多くの事を話してもらい、さらにはサインも書いてもらったのだ。

これ以上我儘を言うのは失礼な気がして大人しく引き下がるしかない。

 

「では、ミーと遊戯ボーイは海馬ボーイのところに行きマ~ス」

 

「海馬君、不機嫌だろうなぁ」

 

聖星達と別れ、海馬のもとに向かおうとするペガサス達。

ペガサスはにこやかに笑っているが遊戯はこれからの事を思うと少し憂鬱である。

同時に磯野達に胃薬等の差し入れを買った方がいいだろうかと考えた。

 

「聖星も、もしかしたら今日中に海馬さんから連絡があるかもな」

 

「嫌な事思い出させないでくれよ」

 

「嫌な事って、不動。

お前自分がどれほど羨ましい状況か分かってないだろ?」

 

十代の軽い冗談に聖星は再び頭を抱えた。

ただ大会に参加しただけなのに、次から次へと不安な事が起こる。

今日は厄日だと思いながら聖星は曖昧に返す。

 

「じゃあ、今から一緒に海馬君のところに行く?」

 

「「「え?」」」

 

まさかの言葉に3人は遊戯を凝視する。

微笑みながら聖星を見ている遊戯はもう1度繰り返す。

 

「きっと海馬君の事だから十代君の言う通り、今日中に連絡をすると思うよ。

今日が駄目なら明日の早朝かな。

彼、凄く執念深いから早めに説得しないと後々大変だよ」

 

かつてはライバルと言われ、海馬のデュエルを間近で見てきた遊戯だから言える台詞だろう。

昔を懐かしむように海馬の性格を口にした遊戯だが、その対象となっている聖星にとっては笑いごとではない。

 

「けどよ、聖星の家ってここから遠いんだろ?」

 

「それは大丈夫デ~ス。

きっと海馬ボ~イが送ってくれるでしょう」

 

「それなら今日行こうかな」

 

たった数分しか言葉を交わしていないが海馬の性格はだいたい把握した。

それに遊戯の言葉を考えると今日中に話をつけておいた方が良いかもしれない。

彼らと一緒に行く事には聊か不安はあるが1人で海馬と会うのも不安である。

聖星は腹を括って行く意思を示した。

 

「じゃあ聖星。

またメールするからな」

 

「どうなったのか、ちゃんと詳しく話せよ」

 

そろそろ時間も時間故、2人は少し残念そうな表情を浮かべながら聖星と別れる。

友人達の後ろ姿をみつめながら聖星は遊戯とペガサスを見て十代達との会話を思い出す。

 

「(遊戯さんはともかくペガサスさん、絶対に俺について怪しんでるよな)」

 

「そうだろう。

食事の最中、何度もお前に鋭い目を向けていた」

 

聖星の心の中での呟きに【星態龍】は同意する。

この世に存在するカードはあまりにも多すぎて把握しているネットワークも書籍もない。

だから取巻と十代に異世界のカードを譲る事が出来たのだ。

しかし【Great TORNADO】と【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】の話題になった時ペガサスの表情が微かに変化した。

あの時の顔は自分が知らない物の存在がある事への驚き。

つまりペガサスはあの2枚のカードは正規のカードではないという事を見抜いている。

 

「(このまま一緒にいたらちょっとした言葉で余計に怪しまれると思うけど。

今は遊戯さんがいるから大丈夫かな)」

 

「いくらペガサスといえども決闘王の前なら下手は発言はしないだろう。

最悪燃やす」

 

「(おいおい、仮にも【星態龍】の生みの親でもあるんだぜ。

そんな事言うなって)」

 

流石にペガサスと2人きり、という状況なら聖星は海馬と会う事を後日にしただろう。

だが今回は遊戯もいるためペガサスも下手な事は言ってこないと思って今日にしたのだ。

当然その選択が大きな間違いである事に聖星と【星態龍】は気づかなかった。

 

「そういえば聖星ボーイ。

先ほど尋ねるのをすっかり忘れていましたが、ユーはあのカードをどこで手に入れたのですか?」

 

「(うわ、いきなり来た)

え、あのカードですか?

あのカード達は地元にあったカード店で買ったんです」

 

この言葉は十代達にも使った台詞だ。

十代はその店を訪れたかったようだが聖星に潰れたと教えられ、酷く残念そうにしていた。

調べればすぐに嘘だとわかる言葉だがこの場を凌げれば良いと思っている。

ペガサスは友好的な笑みを消し、獲物を狩るかのような顔をする。

 

「ふむ……

確かに嘘は言っていないようです、バット、大事な事を話していませんね」

 

「大事な事って……

俺は別に何も隠していませんよ」

 

いつものように微笑み、そのまま言葉を続ける聖星。

あくまで話す気はない聖星は遊戯に意識を向けようと彼に目をやった。

 

「……そうですか。

実は1つ。

十代ボーイ達には話していない事がありマ~ス」

 

「え?」

 

いきなり話題が変わり、聖星はペガサスに振り返る。

自分の鞄を開けてスケッチブックを取り出したペガサスは1枚1枚ページを捲りはじめた。

 

「先ほどユー達にはドラゴンの絵を見せましたね。

その夢にはもう2体、ドラゴンがいたのデ~ス。

バット、何故かその2体のドラゴンを描くことができませんでした。

実にワンダフ~ル。

そのうちの1体、赤いドラゴンが「今日のデュエル大会にデュエルモンスターズの新たな扉を開くデュエリストが現れる」とミーに教えてくれたのデ~ス」

 

「赤い竜……?」

 

「なるほど、赤き竜がこの男に見せたのか。

それならこの男があのドラゴン達を描くことが出来たのも納得だな」

 

肩に乗っている【星態龍】の口から放たれた言葉に聖星は小さく頷いた。

赤き竜とはかつて父から聞いた事がある名称。

詳しい事は忘れてしまったが、父が大切な仲間と巡り合えたきっかけを作った竜だと聞いている。

 

「十代ボーイと太陽ボーイが使う見た事もないカード。

それの元々の所有者だった聖星ボーイ。

誰がそのデュエリストかは明白デ~ス」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。

新しい扉?

俺がそんな凄いデュエリストなわけないじゃないですか」

 

いや、上辺ではそう言っているが本当は思い当たることが多すぎる。

デュエルモンスターズの新しい扉、そしてペガサスが描いたドラゴン達のデザイン。

今の聖星の頭にはシンクロモンスターの事が思い浮かんでいる。

 

「決定的な確信はユーにドラゴンの絵を見せたときに得ました。

最後のページに描いたドラゴンを見たときのユーの目は、初めて見るものに向ける目ではありまセ~ン。

懐かしいものに再会し、嬉しかった目でしょう。

他にも悲しみが伝わってきましたが……

外れていますか?」

 

「っ!?」

 

『再会した喜び』と『悲しみ』。

ペガサスが口にした言葉はあまりにも的を射ていた。

そしてペガサスは最後のページに描かれているドラゴン、【スターダスト・ドラゴン】の姿を聖星の前に差し出した。

 

「ユーは何故このドラゴンを知っていたのですカ?」

 

「そ、それは…………」

 

それは聖星が未来人で、聖星の父である遊星のエースが【スターダスト・ドラゴン】だから。

口にすれば簡単な事だがあまりにもその内容はバカバカしいもの。

いくらデュエルモンスターズの創始者であり赤き竜の夢を見た男でも馬鹿にされるに決まっている。

口籠っていると遊戯が聖星の肩に手を置いた。

 

「あ、遊戯さん」

 

「聖星君、大丈夫?

ペガサスもそんな怖い顔で詰め寄ったら駄目だよ。

ただでさえ聖星君、海馬君の事もあって疲れているんだからさ」

 

「ソーリー、ついデュエルモンスターズの事となると熱くなってしまうのデ~ス。

気を悪くしてしまったら申し訳ございまセ~ン」

 

遊戯の言葉にペガサスは悪戯っ子のような笑みを浮かべ軽く頭を下げる。

どう返せばいいのか分からない聖星はとりあえずペガサスから距離をとる。

 

「そうだ、折角だし気分転換に僕とデュエルしない?」

 

「え、遊戯さんと!?」

 

「うん。

どうせ海馬コーポレーションはすぐ近くだし。

少しくらい遊んだって大丈夫だよ。

それとも僕じゃ役者不足?」

 

「いえ、とんでもありません!

俺、遊戯さんとデュエルしたかったから今日のデュエル大会に参加したんです!

むしろこちらからお願いしたいくらいです!」

 

先ほどまで口籠っていた聖星はまさかの誘いに目を輝かせ嬉しそうに笑った。

今日は厄日だが同時に最高の日でもあるに違いない。

生きる伝説とデュエルが出来るだなんて嬉しくて仕方がない。

傍から見ても楽しそうな少年の笑みに遊戯は微笑み、ペガサスも肩から力を抜いた。

 

「場所はここで良いかな?」

 

「はい。

大丈夫です」

 

遊戯が選んだのは少し人影の少ない場所。

あまり目立たない場所で人目を気にせずにデュエルをするのならうってつけだ。

遊戯は昔から使っているデュエルディスクを身に着け、聖星もデュエルアカデミアのを腕に付ける。

互いにデッキをセットしライフポイントが表示される。

 

「「デュエル!!」」

 

END

 




中途半端なところで切るなよ!!と言われそうですが社長に勧誘される聖星が書けたので満足です。
次回は最初から最後までデュエルにしたいと思います。
本当なこのお話でデュエルも書くつもりだったのですが、そうなったら更新日がいつになるやら……
なのできりの良いここで区切らせて頂きました。


遊戯とのデュエル…
近くのレンタル店が本気で私に喧嘩を売るレベルで遊戯王DMのビデオとDVDがありません。


そして今月は十代のSDが発売しますね!
【M・HERO】の全属性が揃って嬉しい限りです。
これは絶対に買いますね!
【C・HEROカオス】さんも今後の環境にどう対応するのか気になります。


あとARC-Vを毎週見ていますが。
早くシンクロ来い。と祈りながら見ています。
遊戯王の召喚の中では1番シンクロ召喚が好きなので早くアニメで動く姿が見たいです。

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