遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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第十八話 墓場より出でし存在

「「デュエル!!」」

 

レッド寮とイエロー寮の間にある森の中。

そこでデュエルに丁度良い場所があるため、神楽坂と十代はそこで新たなデッキのテストデュエルをする事にした。

観客であるのはデッキ編集を手伝った聖星、三沢に十代と同室の翔と隼人だ。

 

「それにしても酷いっすよ。

デッキの編集なら僕達も呼んで欲しかったっす」

 

「俺も呼んで欲しかったんだな……」

 

「悪い、悪い。

急な話だったからさ」

 

何故十代が見知らぬイエローとデュエルする事になったのか、今朝2人に尋ねられた聖星は昨日あった事を話したのだ。

彼が組んだデッキも気になるが、2人は聖星が持っている知らないカードに興味があるようで非常に残念がっている。

もし機会があれば2人にも見せよう。

そう思った聖星は十代達を見る。

 

「行くぞ十代!

先攻は俺だ、ドロー!

俺は手札から【手札抹殺】を発動!」

 

「いきなり【手札抹殺】かよ!」

 

「このカードは互いの手札を全て捨て、捨てた枚数分カードをドローする。

俺達の手札は互いに5枚。

よって5枚ドローだ」

 

「畜生、せっかく【融合】が手札にあったのに……」

 

少し残念そうに手札を捨てる十代。

デッキに愛されている彼の手札にはおそらくだが、正規融合するための素材は揃っていたはず。

それなのに捨てる事になるとはまさに痛手だ。

しかし神楽坂は不敵な笑みを浮かべ、宣言した。

 

「この瞬間、墓地に捨てられた【暗黒界の術師スノウ】、【暗黒界の狩人ブラウ】のモンスター効果発動!」

 

「このタイミングで発動するカードっすか!?」

 

デッキを組むとき一緒にいなかった翔はまさかの発動タイミングに目を見開く。

しかもそれが複数枚存在するのだ。

神楽坂は笑みを浮かべたまま初めて見る翔と隼人に説明するように口を開く。

 

「【暗黒界】のモンスター達は手札から捨てられることで真価を発揮するモンスターだ」

 

「だからいきなり【手札抹殺】を発動したんすね……」

 

この時代では【手札抹殺】や【天使の施し】のカードは手札事故を回避するための手段という認識が強い。

そのため【手札抹殺】を使うという事はデッキの構築が下手という印象を持つものが多いのだ。

しかし【暗黒界】ではその手札交換のカードはメリットとして働く。

 

「こいつらは手札を整えるための下準備。

まずは【ブラウ】!

このカードが手札から捨てられたとき、デッキからカードを1枚ドロー!

【スノウ】の効果!

このカードが手札から捨てられたとき、デッキから【暗黒界】と名の付くカードを1枚手札に加える!

俺はフィールド魔法【暗黒界の門】を加える!」

 

加えられたのは何者かが立ち、1つの扉が開いているとこを描いているカード。

カード名が共通しているので、何らかのサポートカードだろう。

 

「そしてフィールド魔法【暗黒界の門】を発動!」

 

パチッ、と軽い音が聞こえたと思えば神楽坂の背後に巨大な門が現れた。

数メートルは高さのある門に聖星達はそれに合わせて顔を上げる。

 

「【暗黒界の門】の効果発動!

墓地に眠る悪魔族モンスターを除外し、手札の悪魔族モンスターを捨てる事でデッキからカードを1枚ドローする!

俺は【ブラウ】を除外し、手札の【暗黒界の尖兵ベージ】を捨てる」

 

神楽坂の背後に弓矢を持つ【ブラウ】が半透明の姿で現れ、歪みの彼方へと消えていく。

すると閉じていた門が地響きのような音を発しながらゆっくりと開いていく。

門が開くことで別世界の光があふれだし、武器を持つ【ベージ】がその門の中へと消えていく。

消えていったと思えば再び門はゆっくりと閉まっていった。

流石はソリッドビジョンといえばいいのか、かなりこだわっている演出に皆は言葉を失う。

 

「……すげぇ。

すげぇな、この演出!

マジでカッコいい!!」

 

「……【門】ってこういう感じの演出だったんだ」

 

「知らなかったのか、聖星?」

 

「あぁ。

俺、【暗黒界】のカードは使ったことがなかったから」

 

【暗黒界】は悪魔族で構成され、しかも手札から捨てられる必要がある。

【魔導書】と組み合わせようと思っても上手くいかないのは明白。

だから使わずケースの中に秘蔵入りしていたのだ。

 

「そして手札から捨てられた【ベージ】の効果発動!

このカードが手札から捨てられたとき、俺の場に特殊召喚される!

甦れ、【ベージ】!」

 

暗い紫色の渦がゆっくりとフィールドに広がり、その中から槍を構えた【ベージ】が現れる。

表示された攻撃力は1600だがすぐに1900へと変わる。

 

「え、攻撃力が上がった?」

 

「どうしてなんだな?」

 

「【暗黒界の門】の効果さ。

【暗黒界の門】は悪魔族モンスターの攻撃力と守備力を300ポイント上げる効果を持つ。

だから【ベージ】の攻撃力は1900に上昇した」

 

不思議そうな顔を浮かべる2人に三沢が解説する。

流石勉強熱心な三沢、昨日の時点であのカードの効果を把握したようだ。

 

「300って地味に痛いよな」

 

味方からしてみればありがたい効果だが、敵からしてみれば面倒くさいと思うほどの上昇値。

 

「俺はモンスターをセットし、ターンエンドだ」

 

「モンスターをセット?

っていう事はリバースモンスターか」

 

神楽坂のデッキに入っているリバース効果を持つモンスター。

デッキ構築を手伝っていた聖星達は当然それが何なのか想像がつく。

十代も答えにたどり着いたようで少しだけ面倒くさそうな顔を浮かべた。

 

「行くぜ、俺のターン!

俺は手札から【E・HEROエアーマン】を召喚!

【エアーマン】の効果発動。

このカードの召喚に成功したとき、デッキから【HERO】と名の付くモンスターを1体手札に加える。

俺は【E・HEROキャプテン・ゴールド】を加えるぜ!」

 

「【キャプテン・ゴールド】?

そんな【HERO】いたっけ?」

 

十代が手札に加えたモンスターは黄金のスーツを着た筋肉質の男性がビルの頂上に立っているカード。

今まで何度かデュエルしてきたが、あんなカードを十代は持っていただろうか。

もしかすると買ったパックに入っていたのかもしれない。

聖星が首をかしげていると十代は宣言する。

 

「そして【キャプテン・ゴールド】の効果発動。

このカードを墓地に捨てる事でデッキから【摩天楼―スカイスクレイパー―】を手札に加えるぜ」

 

「フィールド魔法サーチ効果か。

これなら【暗黒界の門】を破壊できるな」

 

「あぁ。

手札のカードを都合よく捨てるカードは限られている。

それを補うのが【暗黒界の門】の役目だ。

そのカードを破壊さるという事は神楽坂のデッキの回転力が落ちるという事になる」

 

聖星の言葉に三沢は頷き、解説するかのように言葉を述べる。

三沢はプロのデュエリストより解説者の方が活躍できると思ったのはここだけの話だ。

 

「フィールド魔法、【摩天楼―スカイスクレイパー―】を発動!」

 

十代の手札に加わったカードはすぐに発動され、暗黒界の入り口ともいえる巨大な門が崩れていく。

代わりに地面から無数のビル街が現れ十代達の周りを覆い囲んだ。

 

「これで【暗黒界の門】の効果はなくなり、【ベージ】の攻撃力は元に戻るぜ!」

 

「くっ……!」

 

「行け、【エアーマン】!

【暗黒界の尖兵ベージ】に攻撃!」

 

【エアーマン】は大きく両腕を広げると翼についている羽が周り、強風を生み出す。

その風は【ベージ】を飲み込み、一瞬で破壊した。

これで神楽坂のライフは4000から3800に下がる。

 

「俺はカードを3枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!

俺は裏側守備のモンスターを反転召喚!」

 

「ワン!」

 

光とともに現れたのは武装した白い犬。

威嚇するかのように唸り声を上げた犬は十代を睨み付ける。

 

「うわ、おっかない目だなぁ」

 

「【ライトロード・ハンター ライコウ】のリバース効果発動!

このカードがリバースしたとき、デッキからカードを3枚墓地に送り、場のカードを1枚破壊する!

俺は真ん中の伏せカードを破壊!」

 

【ライコウ】は低い遠吠えをし、狙いを定めたのか十代の伏せカードを噛み砕いて破壊する。

その素早さはハンターの名にふさわしいものだ。

 

「やっぱりおっかねぇ」

 

自分のカードを破壊された十代は冷や汗を流しながら自分を未だに睨む【ライコウ】に呟く。

十代は仕方なく破壊されたカード、【サイクロン】を墓地に送った。

 

「さらに俺は手札から魔法カード、【テラ・フォーミング】を発動!」

 

「【テラ・フォーミング】!?」

 

「あ、また【門】が出てくるか」

 

【テラ・フォーミング】はデッキからフィールド魔法をサーチする効果を持つ。

先程三沢が言った通り、【暗黒界の門】はコストが必要とはいえ、毎ターン手札を捨てる事が出来るため【暗黒界】にとって重要なカードだ。

そのため破壊された後はすぐに発動する必要がある。

 

「(けどよく【テラ・フォーミング】なんてカード入れたよな。

普通に【暗黒界の術師スノウ】のサーチ効果だけで十分だと思うけど……

念には念を、か?)」

 

「このカードの効果により、俺はデッキからフィールド魔法【暗黒界の門】を手札に加える。

そして再び【暗黒界の門】を発動!」

 

光り輝くビル街は一斉にライトが消え、そのビルは崩れ去っていく。

その光景と入れ替わるように不気味な門が再び現れる。

 

「【暗黒界の門】の効果発動!

墓地に存在する【暗黒界の術師スノウ】を除外し、手札の【暗黒界の龍神グラファ】を捨てる。

そしてデッキからカードを1枚ドロー!!」

 

またゆっくりと開く重苦しい扉。

今度はその扉の前に禍々しい鱗を敷き詰めた巨大でなドラゴンが現れる。

紫の煙と共に現れた姿は暗黒界の神と名乗るのに相応しいもので、その威厳ある姿に翔は小さく悲鳴を上げる。

 

「この瞬間、【暗黒界の龍神グラファ】の効果発動!

カードの効果で手札から捨てられたとき、相手のカードを1枚破壊する!

俺は左側の伏せカードを破壊!」

 

「くっ……!!」

 

門から姿を現した巨大なドラゴンは半透明の姿で十代を見下ろし、その鋭い爪で十代の伏せカードを切り裂いた。

一瞬だけ見えたが、破壊されたカードは【異次元トンネル―ミラーゲート―】だ。

 

「そして【トランス・デーモン】を召喚!」

 

「キャキャキャキャキャ!!」

 

「うわ、気持ち悪いっす……」

 

「【暗黒界】のカードじゃないんだな」

 

現れたのは攻撃力1500の小型の悪魔。

翔の言う通り、パッと見て悪魔らしく綺麗な外見とは言えない。

歪んだ表情で周りを見ながら奇妙な声で笑っている。

 

「【トランス・デーモン】の効果発動。

手札の悪魔族を1枚捨てる事でこのカードの攻撃力を500ポイント上げる!

俺は【暗黒界の尖兵ベージ】を捨てる!

そして【ベージ】は自身の効果で特殊召喚される!」

 

これで神楽坂の場には3体のモンスターが揃った。

【暗黒界の門】の恩恵を受けた事で【トランス・デーモン】の攻撃力は2300、【ベージ】は1900。

【ライコウ】は200のままだ。

 

「まずいっす。

兄貴の場には攻撃力1800の【エアーマン】と伏せカードのみ」

 

「いや、翔。

これからもっと凄い事になるぜ」

 

「聖星の言う通りだ」

 

「え?」

 

同級生の言葉に不思議そうな表情を浮かべる翔と隼人。

墓地と場にモンスターが揃い、条件は整った。

神楽坂は不敵な笑みを浮かべ高く手を上げる。

 

「これで条件は揃った!

墓地に存在する【暗黒界の龍神グラファ】は場の【暗黒界】を手札に戻す事で墓地から蘇える!

さぁ、牙を研ぎ澄ました龍神よ、再び羽ばたき、恐怖を与えろ!」

 

神楽坂がそう叫ぶと【ベージ】は姿を消し、その場から禍々しい邪気が溢れ出る。

ゆっくりと場に漂う重苦しい空気は1つに集結し、何かを形成していく。

強靭な爪に巨大な肉体。

その体を支える漆黒の翼。

暗闇の中光り輝くトパーズの眼。

獣の髑髏と悪魔の角という恐ろしい風貌を現したドラゴンは尾をゆっくりと動かし、その場を揺るがす雄叫びを上げた。

 

「グォワァアアアアアアア!!」

 

「来たー!!

そのデッキのエース!!」

 

「ふん。

【グラファ】の攻撃力は2700。

だが俺の場には【暗黒界の門】がある。

これで【グラファ】の攻撃力は3000だ!」

 

「攻撃力3000!?」

 

「場のモンスターを手札に戻すだけで蘇生するなんて、滅茶苦茶っすよ!」

 

「……翔、聖星は手札を見せるだけで攻撃力2500のモンスターを出すんだな」

 

「……そうだったね。

神楽坂君も聖星君もずるいっす!!」

 

「え、何が?」

 

攻撃力が高ければ高いほど相手の場を制圧する可能性は上がる。

しかしそれだけ強いカードを場に出すためにはそれ相応のリスクや召喚条件が伴う。

それなのに神楽坂や聖星の使うカードは簡単に召喚できる。

それに対し文句を言う翔だが、目の前の【グラファ】や【ジュノン】並みに簡単に召喚できるモンスターを沢山知っているため聖星は首を傾げた。

 

「別に攻撃力が高いモンスターなんて簡単に出ると思うけどな……」

 

「え?」

 

「天使族なら【神の居城-ヴァルハラ】があるし、アンデット族なら【馬頭鬼】で墓地から特殊召喚。

植物族は【ローンファイア・ブロッサム】ですぐに出てくる。

俺の幼馴染が使う鳥獣族の最上級モンスターなんて魔法カード1枚で出てきて、消えたと思ったら墓地から現れてモンスター全部破壊。

姉さんは墓地にモンスターを落として【ダーク・アームド・ドラゴン】を特殊召喚して、俺の場のカードを破壊してくるし。

取巻の持っている【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】だってドラゴン族を除外すればすぐに出てくるだろう。

あとは【征竜】かな」

 

いや、よく考えれば今上げたモンスター達は何らかの形でカードを消費して手札が減っている。

そう思えば手札が一切減らずに出る【グラファ】や【ジュノン】はずるに入るのだろうか。

 

「(あ、でもその考えで行くと【馬頭鬼】と【ダムド】は手札が全く減ってないよな。

【ロンファ】と【ガルドニクス】もデッキから出てくるから、手札消費は1枚しかないし)」

 

等と考えると懐から鈍い機械の音が聞こえる。

すぐにPDAが鳴っていると気が付き、それを取り出す。

 

「あ」

 

「どうした、聖星」

 

「取巻きから電話。

悪い、ちょっと抜ける」

 

「あぁ」

 

せっかく面白いところだというのに。

しかし彼から連絡があるなど珍しいと思いながら聖星は静かに会話できる場所へと移動する。

聖星の後姿を見送った三沢は十代と神楽坂のデュエルに向き直した。

 

「行くぞ!

【暗黒界の龍神グラファ】で【E・HEROエアーマン】に攻撃!

ダークネス・アブソリュート・ブレス!!」

 

【グラファ】は黄色の目を光らせ、その紫の雷を纏いながら大きな口を開く。

赤い舌が覗く口には巨大な冷気の塊が集まり、それが【エアーマン】を襲う。

【エアーマン】は飛行してかわそうとしたが、飛び立つ前に氷漬けにされてしまう。

冷気の波動は十代にまで襲い掛かり、彼のライフを1200ポイント奪った。

 

「ぐぅ!!

罠発動、【ヒーロー・シグナル】!!

俺の場のモンスターが破壊されたことで、デッキから遺志を継いだ仲間達が現れる!

来い、【E・HEROバブルマン】!」

 

「はぁ!」

 

氷が砕けた場所から仲間を呼ぶサインが放たれ、答えるように【バブルマン】が守備表示で現れる。

 

「特殊召喚された【バブルマン】の効果発動!

このカードの召喚、特殊召喚に成功したとき、このカード以外にカードが存在しなければ俺はデッキからカードを2枚ドローする」

 

「だが守備力はたったの1200!

【トランス・デーモン】の敵ではない!

やれ、【トラスト・デーモン】!!」

 

「キャキャキャキャキャ!!」

 

不気味な笑みを浮かべながら【バブルマン】に向かっていく【トランス・デーモン】。

あまりの不気味さに翔や隼人は引いた表情を浮かべるが、幾度なく戦場を潜り抜けた【バブルマン】は動じず、反撃しようと構える。

だが【トランス・デーモン】の前に敗れ去ってしまった。

 

「【ライトロード・ハンター ライコウ】でダイレクトアタック!!」

 

「ぐっ!」

 

「俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

今十代の手札は【バブルマン】の効果のおかげで5枚。

ライフは2600.

場にはカードが存在せず、それに対し神楽坂の場には攻撃力3000、1800、200のモンスターに伏せカードが1枚とフィールド魔法。

ライフは3800だ。

手札を見渡した十代は笑みを浮かべ、カードを掴む。

 

「俺は手札から魔法カード、【強欲な壺】を発動!

このカードの効果でデッキからカードを2枚ドローする。

そして手札から魔法カード【死者蘇生】を発動!

【E・HEROエアーマン】を攻撃表示で特殊召喚するぜ!」

 

再び風を纏いながら現れた【エアーマン】。

そして特殊召喚された事で効果が発動する。

 

「【エアーマン】の効果発動!

デッキから【E・HEROエッジマン】を手札に加える。

そして墓地の【E・HEROネクロダークマン】の効果発動!」

 

「【ネクロダークマン】?

さっきの【手札抹殺】か!」

 

「【ネクロダークマン】は墓地に存在してこそ真価を発揮する。

こいつが墓地に存在するとき1度だけ【E・HERO】を召喚するとき、生贄が必要なくなる」

 

「……という事は……」

 

「【E・HEROエッジマン】を生贄なしで召喚!」

 

「はっ!」

 

十代の背後に現れたダークヒーローのような風貌の代わりに、金色に輝く戦士が場に現れる。

最上級ヒーローの登場に翔と隼人は十代にエールを送った。

その攻撃力、2600.

 

「そして魔法カード、【ミラクル・フュージョン】を発動!」

 

「来たか……!」

 

「墓地の【バブルマン】と【キャプテン・ゴールド】を融合し、現れよ、凍てつく世界を生み出す絶対的ヒーロー!

【E・HEROアブソルートZero】!!」

 

「はぁっ!!」

 

墓地に眠る2体の英雄が相手を倒すため、力を合わせて生まれた英雄。

光柱が立ち上り、それは一瞬で氷漬けとなる。

砕け散った氷は光を反射しながら輝き、純白の英雄が凍りを纏いながら現れる。

 

「さらに【エッジマン】に【H-ヒートハート】を発動!

【エッジマン】の攻撃力を2600から3100にアップ!」

 

「なっ!?」

 

「まだだぜ、神楽坂!

俺は【Zero】に【エレメンタル・ソード】を装備!

このカードを装備したモンスターが違う属性のモンスターとバトルする時、攻撃力を800ポイントアップする!」

 

「っ!?」

 

十代の言葉に神楽坂は自分のモンスターと相手のモンスターの攻撃力を比べ、自分のライフを計算した。

【Zero】の攻撃力は実質3200となり、【エッジマン】は【H-ヒートハート】の効果で3100.

攻撃力200と1800のモンスターに攻撃されたら終わりである。

 

「させるか!

リバースカード、オープン!

【サイクロン】!

これで【Zero】の【エレメンタル・ソード】を破壊する!」

 

「ゲ!」

 

【Zero】に力を与えるはずだったソードは雷を発しながら場を荒らす風に飲み込まれ、粉々に砕け散る。

折角決める事が出来ると思ったのに破壊された十代は楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「やっぱりそう簡単には勝たせてくれないか」

 

「当たり前だろ。

これは俺が持てる知恵を全て使って作ったデッキだ。

絶対に勝つ」

 

「あぁ。

行くぜ!

【エッジマン】で【トランス・デーモン】を攻撃!

パワー・エッジ・アタック!!」

 

燃えたぎる力を手に入れた【エッジマン】は輝く拳を振り下ろし、【トランス・デーモン】を打ち砕く。

攻撃力の差1300が神楽坂のライフからマイナスされ、2500となった。

 

「【トランス・デーモン】の効果発動!

このカードが破壊された時、ゲームから除外されている闇属性モンスターを1体手札に加える。

俺は【暗黒界の狩人ブラウ】を手札に加えるぜ」

 

「【アブソルートZero】で【ライトロード・ハンター ライコウ】に攻撃!

瞬間氷結!!」

 

手をかざした【Zero】の標的になった【ライコウ】は一瞬で氷の彫刻となり、粉々に砕け散る。

その時発生した冷気は神楽坂を襲い、更にライフを2300奪った。

 

「俺は永続魔法【悪夢の蜃気楼】を発動。

そしてカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

【H-ヒートハート】の効果が切れ、【エッジマン】の攻撃力は2600に戻った。

ドローしたカードを見た神楽坂は十代が発動した【悪夢の蜃気楼】を見る。

 

「【悪夢の蜃気楼】の効果発動!

相手のスタンバイフェイズ時、デッキからカードを4枚になるようドローする。

今、俺の手札は0.

よって4枚のドローだ!」

 

相手のスタンバイフェイズに手札を増やし、自分のスタンバイフェイズに増えた分だけ手札を捨てる永続魔法。

4枚引いたという事は次のターン十代は4枚捨てる事になる。

 

「ならば、俺はフィールド魔法【暗黒界の門】の効果発動!

墓地の【トランス・デーモン】を除外し、【暗黒界の狩人ブラウ】を捨て、デッキからカードを1枚ドロー!!」

 

「【ブラウ】の効果ってなんだっけ?」

 

「デッキからカードを1枚ドローする効果なんだな」

 

「さらに俺は魔法カード【ブラック・ホール】を発動!」

 

「【ブラック・ホール】!?」

 

神楽坂が発動したのは場のモンスターカードを全て破壊する除去カード。

場の中心に黒い球体が現れたと思ったらそれが一気に肥大化し、巨大な重力を発生しモンスター達を取り込んでいく。

これで互いの場のモンスターはいなくなった。

 

「俺は【天使の施し】を発動!

デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てる!

俺が捨てたのは【暗黒界の鬼神ケルト】と【暗黒界の尖兵ベージ】だ!」

 

次々と捨てられていくカード達。

だが背後にその2体が現れ、周りに紫色の輝きを放つ。

 

「【ケルト】と【ベージ】はカードの効果で墓地に捨てられた時、特殊召喚する!

来い、【ケルト】、【ベージ】!!」

 

「はぁ!」

 

「はっ!」

 

【ケルト】は自慢の肉体美を披露し、【ベージ】はそれに戸惑いながらも武器を構える。

攻撃力が表示され、互いに【暗黒界の門】の効果で攻撃力が300ポイント上昇する。

力がみなぎるのか攻撃力2700となった【ケルト】はさらに強い雷を纏う。

 

「そして【ベージ】を手札に戻し、墓地の【グラファ】を呼び戻す!」

 

「やべっ!」

 

先程と同じように【ベージ】は姿を消すが、神楽坂のフィールドはゆっくりと裂けていきその奥底から【グラファ】が蘇る。

白い息と紫の煙を纏いながら蘇った【グラファ】はその眼に十代を映し、静かに見下ろす。

 

「行くぞ!

【暗黒界の鬼神ケルト】で十代にダイレクトアタック!」

 

「うわっ!!」

 

【ケルト】は一際激しく雷を鳴らし、十代にその拳を叩き付ける。

まともに受けた十代は少しだけ吹き飛ばされ、ライフは残り100となる.

十代はすぐに顔を上げ、神楽坂を見る。

その顔は楽しくて仕方がない事を物語っていた。

 

「【暗黒界の龍神グラファ】でダイレクトアタック!!」

 

「うわぁあああ!!!」

 

フィールドに響く十代の声。

同時に残りのライフは0まで削られ、ソリッドビジョンが消えていく。

その様子を見ながら神楽坂は自分のデュエルディスクを見下ろす。

 

「…………勝てた」

 

小さく呟いた神楽坂は胸に手を当て、自分の鼓動の音を聞く。

破裂するのでは中と思うほど煩く鳴る心臓の音が聞こえてきて、体が震えてくる。

 

「すげぇ、すげぇな神楽坂!

お前達凄く強いじゃん!

なぁ、もう1回デュエルしようぜ!」

 

走りながら突撃した十代はマシンガンの如く言葉を放つ。

しかし当の本人から返答がなくすぐに怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「神楽坂?」

 

「悪い。

その、上手く言葉で表せないんだが……

俺、自分で考えた自分だけのデッキで勝つのが久し振りで……」

 

その記憶力ゆえ、初心者の頃はともかく今ではすっかり誰かに似たデッキ構築をするようになってしまった神楽坂。

しかし聖星が貸してくれた見知らぬカードで組んだこのデッキは誰も知らない、似ない、自分だけのデッキである。

初めはどう回せばいいのか理解はしているのに実行できるのか不安だった。

戸惑いながら言葉を口にする神楽坂に十代は笑みを浮かべた。

 

「楽しかっただろ?」

 

「…………あぁ」

 

「よ~し、今度は俺が勝つぜ!

神楽坂、もう1回デュエルだ!」

 

「望むところだ!」

 

神楽坂が力強く頷くと十代も満面な笑みを浮かべ、もう1度距離を取ろうとする。

少し観客となっている三沢達に目をやれば、翔と隼人は十代を応援し、三沢は楽しそうな笑みを浮かべている。

 

「あれ?

聖星は?」

 

「あぁ、彼なら取巻から連絡があったから席をはずしているよ」

 

「ふぅん」

 

そういえば彼の姿だけが見えなかった。

取巻もデッキ編集を手伝った者としてこのデュエルを見に来るはずだった。

何か用事でもできたのだろうか。

そう考えていると聖星がゆっくりと戻ってきた。

 

「どう、デュエルの決着ついた?」

 

「聖星」

 

「おう!

負けちまったけどな。

けど、これからリベンジ戦をするつもりだ!」

 

けっこう良い線までいったのに、最後に逆転されてしまった。

これだからデュエルは楽しい。

言葉にはしないが全身でそう言っている十代に対し、聖星は少し険しい顔を浮かべていた。

 

「どうしたんだ、聖星?」

 

「取巻のカードが奪われた」

 

「は?」

 

「取巻の【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】が奪われたんだ」

 

「はぁ!?」

 

END

 




ここまで読んでいただき有難うございます
神楽坂のデッキは【暗黒界】にしました。
登場した時期はセブンスターズ編だったので大丈夫かなぁ、と。
他のデッキの候補は【甲虫装機】、【水精鱗】、【アンデライロ】、【終世】、【剣闘獣】、【機械族】があったのですが…
あみだくじをした結果、【暗黒界】に決まりました!


それにしても…
これは3期の異世界編で神楽坂凄い事になるな…
アニメでは【グラファ】が出ていないから、狙われそうですね。


そして次回は彼らが登場です。


追記
誤っていたカード効果を修正しました
それとタグのアンチ・ヘイトは全く関係ないと思ったので外します

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