遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

2 / 50
第二話 入学試験

やっと元の世界に戻ってこられたと思ったら、実は過去だったという現実を目の当たりにした聖星。

彼はこの時代のデュエルアカデミアの筆記試験を済ませ、実技試験の為海馬ランドへと向かっていた。

 

「受験番号は23番か…

聖星、これは良い数字なのか?」

 

「倍率を考えればいい数字だと思うぜ」

 

海馬ランド行きのバスでデッキの最終調整をしている聖星。

筆記試験の後に郵送で送られてきた受験番号は筆記試験の成績順となっている。

彼の周りにも受験生がたくさんいるようで皆自分のデッキと真剣に向かい合っていた。

筆記試験の時に聖星は今まで見た事がないくらい大勢の中学生がいて驚いたが、その筆記試験を突破出来た生徒はほんの一握りといわれている。

 

「聖星は小学部からアカデミアに通っていたな」

 

「まぁな」

 

自分が暮らしていた時代のアカデミアでは小学部に入試制度はあったが、そこまで難しくはなくあくまで形だけの試験だった。

それを経験しているせいかこの時代の筆記試験の競争率が恐ろしいと感じられる。

 

「それにしても、この時代の筆記試験って凄いよな…

理科や数学は自信があったけどまさかカードのテキストからカード名を答えろ、って。

正直あまりわからなかった」

 

「お前はカードの効果ばかり勉強していたからな」

 

デュエルモンスターズはルールが複雑なカードゲームで、1枚のカードに10以上の裁定があるのも珍しくない。

しかも自分は優先権のルールが若干異なる世界に1年以上もいたため勘が鈍っていたのだ。

だから必死にカードの効果等を勉強したが…

以下のステータスを持つモンスター、以下のフレイバー・テキストを持つモンスターを答えろとか。

聖星は少し遠い目をしたが周りの受験生が騒がしくなったため意識を現実世界に戻した。

 

「あれが、海馬ランド……」

 

窓越しからでも分かる巨大な遊園地。

自分も父に連れられて遊園地に行った事はあるが、海馬ランドは初めてだ。

しかもゼロ・リバースが起こる前の海馬ランドだ。

一体どんな場所なのだろうかと思うと胸が高鳴る。

 

「それで、どんなデッキで挑む気だ?」

 

ここ数日、聖星は様々な【魔導】デッキを作っていた。

【星態龍】も最初は覗いていたが結局聖星がどのデッキで挑むのか知らない。

聖星は口元に人差し指を当てて微笑んだ。

 

「内緒」

 

**

 

会場に到着した聖星は受験生の人数に口笛を吹いた。

明らかに筆記試験より少ない。

ドーム内にいる人数は在学生もいるためか多いが、純粋な受験生なんて少ないとしか言いようがない。

聖星は試験の緊張感に深呼吸をしてフィールドを見下ろす。

そして受験生と思われる少年達に話しかけた。

 

「隣、良いか?」

 

「ん?

あぁ、構わない」

 

自分が話しかけた少年は白い制服を着ている。

友好的な笑みを浮かべると彼も笑みを返してくれた。

 

「俺は不動聖星。

君は?」

 

「俺は三沢大地だ。

よろしく」

 

「よろしくな」

 

それから2人は以前の筆記試験、目の前で繰り広げられる実技デュエルについて話していた。

どうやら三沢は筆記試験1番の成績優秀者のようで聖星が解けなかった問題を丁寧に教えてくれた。

 

「あ~…

あのフレイバー・テキストって【ルイーズ】だったんだ」

 

「武藤遊戯が使用しているカードでは【ブラック・マジシャン】や【暗黒騎士ガイア】【デーモンの召喚】が有名だからな。

まさか【ルイーズ】が出てくるとは思わなかったさ。

ま、流石はデュエルアカデミアの筆記試験といったところかな」

 

「あぁ。

これなら過去のデュエルの記録も見れば良かった」

 

三沢から教えてもらった答えに納得しているとアナウンスが流れ始める。

 

『次は受験番号1番から50番のデュエルを行います。

受験番号1番から50番は…』

 

「おや、どうやら俺達の出番のようだな」

 

「頑張ろうぜ、大地」

 

「あぁ、お互いベストを尽くそう」

 

優しく微笑んだ聖星に対し三沢は不敵な笑みで返す。

彼も相当な自信があるのだろう。

アナウンスで指定された場所に行った聖星は目の前にいる試験官を見る。

 

「君が受験番号23番の不動聖星君か」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

「……随分と大人しい子だな。

緊張でもしているのか?」

 

「多少はしていますね」

 

「安心しなさい。

緊張するのが普通だ。

この場で緊張していないのはかなりの自信の持ち主かただのバカだ」

 

随分とはっきり言う試験官だ。

聖星はふぅん、と薄い反応を返しながらもデュエルディスクを構えた。

同時に試験官も構え自然と表情が真剣な物へと変わった。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は受験生、君からだ」

 

「ありがとうございます。

俺のターン、ドロー…

俺は手札から【魔導召喚士テンペル】を攻撃表示で召喚」

 

「はっ!」

 

聖星が召喚したのは茶色の衣服を身にまとい、フードで顔を隠している女性モンスター。

手に持っているのは杯らしきアイテムで表示された攻撃力は1000.

その数値に試験官は真顔で言う。

 

「攻撃力1000か……

装備魔法で攻撃力を上げる戦術か?」

 

「いいえ、それは違いますよ。

俺は手札から永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動」

 

「ほう、見た事もないカードだな……」

 

「さらに俺は【魔導召喚士テンペル】の効果を発動します。

【魔導書】を発動したターン、このカードを墓地に送る事でデッキからレベル5以上の光または闇属性の魔法使い族モンスターを特殊召喚します」

 

「何!?

いきなり最上級モンスターを召喚できるだと?

思ったよりやるじゃないか」

 

「ありがとうございます」

 

試験官の言葉に聖星は微笑み、デッキから目的のカードを取り出す。

本来なら1ターン目からあのカードを出そうとは思わない。

しかしこの実技デュエルはインパクトも大事だという情報も入っている。

それならインパクトのある行動をしよう。

 

「俺は【ブラック・マジシャン】をデッキから特殊召喚」

 

「ぶ、【ブラック・マジシャン】だと!??」

 

聖星の宣言に試験官は目を見開き、会場にいる受験生、在校生も騒ぎ始めた。

そして召喚士の【テンペル】の周りに魔法陣が描かれ彼女はその中に消えていく。

と思えばその魔法陣から紫色の魔法使いが現れた。

 

「マジかよ!?」

 

「本物だと!?」

 

「すっげぇ、ブラマジ来たぁ!!」

 

「あんなレアカード、どうやって手に入れたんだ!?」

 

一気に騒がしくなった会場に聖星はばれないよう苦笑を浮かべる。

【ブラック・マジシャン】は伝説のデュエリスト武藤遊戯の代名詞と呼ばれる魔法使い族モンスターである。

相当入手困難のレアカードであり聖星も本当を言うと持っていなかった。

 

「(【星態龍】が出してくれたなんて口が裂けても言えないよな)」

 

しかし罪悪感を覚えた【星態龍】が精霊の力を使って聖星に望むカードを与えたのだ。

その中の1枚がこれだ。

 

「俺はカードを1枚伏せてターンエンドです」

 

「【ブラック・マジシャン】か。

私も長年デュエリストをしているが本物を見るのは初めてだ。

不動君、おかしいかもしれないが礼を言わせてほしい」

 

「いえ、礼を言われるほどの事はしていません」

 

「だが手を抜くつもりはない!

私のターン、ドロー!!」

 

デッキから勢いよくカードを引いた試験官は不敵な笑みを浮かべる。

何か仕掛けてくるか?

そう思いながら聖星は身構える。

 

「私は永続魔法【レベル制限B地区】を発動!」

 

「あ」

 

試験官の場に現れたのはロックカードの1つとして有名なカードだ。

聖星はゆっくりと【ブラック・マジシャン】を心配そうな表情で見上げた。

 

「このカードが場に存在する限り、レベル4以上のモンスターは全て守備表示になる!

さぁ、【ブラック・マジシャン】も守備表示になってもらおうか!」

 

「くっ……!」

 

悔しそうに表情を歪めて守備表示になる【ブラック・マジシャン】。

彼はその場に膝をついて両腕をクロスする。

だが【レベル制限B地区】は試験官のモンスターにも影響を及ぼすカード。

彼もレベル4以上のモンスターを召喚しても守備表示になる。

 

「(という事は彼のデッキに【絶対防御将軍】でも入っているのか?

それにしても【レベル制限B地区】なんて久しぶりに見たなぁ……)」

 

未来ではまだスタンディングデュエルで何度か見た事はあるが、遊馬達の世界では殆ど目にしなかった。

まぁ例え高レベルモンスターを守備表示にしてもエクシーズ召喚してしまえば意味がないので当然と言えば当然か。

 

「更に私はフィールド魔法【伝説の都アトランティス】を発動!

これで私達の手札・フィールドに存在する水属性のレベルは1下がる!

そして【アトランティスの戦士】を召喚!」

 

「はっ!」

 

無機質なデュエルフィールドが一瞬で深海の幻想世界に変わり、聖星は周りを見渡した。

深海に沈んだかつての大文明の遺跡が放つ威圧感。

そしてその遺跡を守るよう1体のモンスターが現れた。

手にボーガンのようなものを持つ【アトランティスの戦士】の攻撃力は1900と表示されたが、フィールド魔法の効果で2100へと上昇した。

 

「更に私は手札から装備魔法【デーモンの斧】を発動!」

 

「攻撃力3100か…」

 

装備魔法が表示されたと思えば【アトランティスの戦士】がその手に斧を持つ。

【ブラック・マジシャン】の守備力は2100で戦闘破壊される未来が簡単に見えた。

だがそう簡単に倒されるつもりはない。

 

「バトルだ!

【アトランティスの戦士】で【ブラック・マジシャン】に攻撃!!」

 

「罠発動、【強制脱出装置】。

【アトランティスの戦士】は手札に戻ってください」

 

「な、何!?」

 

聖星が発動したのは場のモンスターを手札に戻す通常罠。

指定された【アトランティスの戦士】は大きな機械に放り込まれ、勢いよく発射された。

 

「【ブラック・マジシャン】を護ったか。

だが【レベル制限B地区】をどう攻略する?

カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

試験官の言葉に聖星は微笑むが、内心は汗ダラダラ状態だ。

確かに【レベル制限B地区】を突破する方法はいくらでもある。

【サイクロン】、【大嵐】での破壊。

【魔導書】では【トーラの魔導書】による魔法カードへの耐性、【ゲーテの魔導書】による除外、そして【魔導法士ジュノン】で破壊するという手だろう。

だが…

 

「(【ジュノン】デッキに入れてないんだよなぁ)」

 

このデッキはあくまで【ブラック・マジシャン】を軸にした【魔導書】デッキ。

【黒・魔・導】で魔法・罠カードを破壊する手もあるが今手札にそのカードはない。

次のドローで引けるだろうか?

 

「俺のターン、ドロー」

 

さて、どんなカードがくる。

デッキからカードを引いた聖星はゆっくりとカードを見る。

 

「(あ、このカードが来たんだ)」

 

引いたのはモンスターカード。

そして今手札にあるカードと見比べる。

考え込むように顎に手を添える聖星は小さく頷いた。

 

「俺は手札から【魔導書士バテル】を攻撃表示に召喚」

 

「はっ!」

 

聖星の場に淡い水色の魔法陣が描かれ、その中から少年の魔法使いが現れる。

手には1冊の本を持っておりパラパラとめくっている。

水属性なのか【伝説の都アトランティス】の効果で攻撃力が500から700へと上昇する。

しかし試験官は先ほど以上に怪訝そうな表情を浮かべた。

 

「攻撃力500のモンスターを攻撃表示だと?

確かにレベルは低いようだがどうする気だ?」

 

「例え低くても効果はそれに似合うものを持っていますよ。

【魔導書士バテル】の効果発動。

このカードの召喚に成功した時デッキから【魔導書】と名のつく魔法カードを1枚手札に加えます。

俺は【グリモの魔導書】を手札に加え、装備魔法【ワンダー・ワンド】を発動」

 

【バテル】の持っている本が光り輝き、淡い輝きを放つ青紫色の本になる。

と思えば本を持っていない左手に宝石が埋め込まれている杖を持つ。

攻撃力が500ポイント上昇し1200になったが、聖星の目的はこれじゃない。

 

「さらに【ワンダー・ワンド】の効果発動。

このカードを装備した魔法使い族を墓地に送る事でデッキからカードを2枚ドローします」

 

「賢い選択だ。

例え攻撃力を上げようと次のターン、私のモンスターで破壊される恐れがある。

だが今私の場にモンスターは存在しない。

バトルフェイズの後に生贄に捧げた方が良かったんじゃないか?」

 

「伏せカードが恐ろしいので」

 

2枚ドローした聖星はすぐにカードを確認する。

ドローフェイズにドローしたカードと相性が良いカードが来た。

このターンで勝てる!

そう確信した聖星は微笑み手札から1枚のカードを掴んだ。

 

「俺は【ブラック・マジシャン】を生贄に捧げ……」

 

「【ブラック・マジシャン】を!?

何を考えている!??」

 

聖星の行動に試験官は目を見開いた。

【ブラック・マジシャン】は相当なレアカードで攻撃力も高い。

そのモンスターを生贄にするなど考えられないのだ。

このデュエルを見ている在学生達も信じられないという表情を浮かべ、中には小ばかにしている人もいる。

しかし聖星は特に気にもせずモンスターの名を宣言する。

 

「【黒魔導の執行官】を特殊召喚」

 

名前を宣言すると【ブラック・マジシャン】が紫色の光に包まれる。

そして杖や身にまとっている衣の形が変わり、光の中から威厳溢れる魔法使いが現れた。

カラーリングや雰囲気から【ブラック・マジシャン】の進化系のカードだというのが分かる。

 

「【黒魔導の執行官】……?」

 

「【ブラック・マジシャン】を生贄に捧げる事で特殊召喚できる魔法使いです。

攻撃力は変わりませんが効果は凶悪ですよ」

 

「効果だと?

例えどんな効果だろうと守備表示だ。

さぁ、どうする?」

 

そう、今試験官の場には永続魔法【レベル制限B地区】が存在する。

そのカードの効果で【黒魔導の執行官】は強制的に守備表示になった。

折角召喚したのにもったいない、というのが試験官の正直な感想だ。

 

「俺は手札から【グリモの魔導書】を発動。

このカードはデッキから【魔導書】と名のつくカードを1枚サーチします。

俺は【セフェルの魔導書】を加えます。

そして【黒魔導の執行官】の効果発動」

 

発動されたのは先ほど【バテル】によって手札に加わった【魔導書】。

淡い青紫色の本が【黒魔導の執行官】の目の前に現れ光を発し始めた。

聖星は新しい【魔導書】を加えるが、それに呼応するよう【黒魔導の執行官】は杖を試験官に向ける。

 

「何だ?」

 

「通常魔法が発動した時相手に1000ポイントのダメージを与えます」

 

「っ、1000ポイントもだと!?」

 

静かに言われた数値に試験官は目を見開く。

当然だろう。

1000ポイントは初期ライフの4分の1で、さらにバーンカードで有名な【デス・メテオ】と同じ数値なのだ。

【黒魔法の執行官】は不敵な笑みを浮かべて試験官に波導を放つ。

 

「うわぁ!!」

 

直撃した波導は凄まじい威力で試験官は衝撃で2・3歩ほど下がる。

だがまだ終わらない。

 

「さらに俺は【セフェルの魔導書】を発動。

手札に存在する【魔導書】を見せる事で、墓地の通常魔法の【魔導書】の効果をコピーします。

俺は【ヒュグロの魔導書】を見せます。

そして【セフェルの魔導書】も通常魔法です」

 

「な、何…?」

 

2枚目の通常魔法。

慌てて【黒魔導の執行官】を見たが、彼の杖の宝石は再び光を宿していた。

冷や汗を流すと【黒魔導の執行官】が攻撃してくる。

 

「ぐぁっ!!」

 

2度目の効果でライフが2000まで削られてしまった。

しかし聖星は容赦する気は一切なく、このターンで終わらせる気満々だった。

 

「そして俺は通常魔法【ヒュグロの魔導書】を発動します。

このカードの効果で【黒魔導の執行官】の攻撃力は1000ポイントアップします」

 

「ぐあっ!!」

 

3枚目の通常魔法。

これで試験官の残りのライフは1000.

あと1枚発動されたら勝負がついてしまう。

ゆっくりと顔を上げた試験官は聖星の顔を凝視する。

 

「最後に【マジック・ブラスト】を発動。

俺の場に存在する魔法使いの数×200ポイントのダメージを受けてもらいます」

 

「まさか、それも……」

 

「はい。

通常魔法カードです」

 

ふわっ、と擬音がつくように優しく微笑んだ聖星。

しかし対戦相手からしてみれば悪魔のような微笑みだろう。

宣言が敗北宣告のように聞こえた試験官は叫んだ。

 

「そんな、バカな--!!」

 

ドーム内に響く爆音。

【マジック・ブラスト】と【黒魔導の執行官】のバーン効果によって起きた爆発だ。

爆炎がゆっくりと晴れていき、そこには呆然と膝をついている試験官がいた。

聖星はそんな彼を不思議そうな表情で見て首を傾げる。

 

「ありがとうございました」

 

「っ!!

あ、あぁ。

【ブラック・マジシャン】を見ることが出来たのは嬉しかったが……

まさかあんな負け方をするとは思わなかった」

 

レアカードである【ブラック・マジシャン】、そしてその関連カードである【黒魔導の執行官】の特殊召喚は素直に評価しよう。

だが1度も攻撃宣言をせず、全てバーン効果でライフを削り取る事に対しては素直になれない。

 

「いえ、本当なら【ブラック・マジシャン】で攻める戦術をとるデッキなんですけど…

【レベル制限B地区】の突破方法が無かったのでこのような戦術で勝たせていただきました」

 

【サイクロン】と【大嵐】も一応入れているが、やはりサーチ手段が豊富な【魔導書】でダメージを与えた方が確実に勝てると思ったのだ。

もう【レベル制限B地区】がなければ素直に殴っていただろう。

 

「そうか…

合格通知は後日自宅へと送られる。

これで君の実技試験は終わりだ」

 

「分かりました」

 

優しく微笑んだ聖星は改めてお礼を言い、深く頭を下げる。

そして受験生がいる席へと戻ろうとした。

すると壁にもたれて自分を待っている少年がいた。

 

「お見事だよ、不動」

 

「あ、大地。

もうお前は終わったのか?」

 

「あぁ。

ついさっき終わったところだ。

しかし流石は試験官というべきか、手古摺った」

 

「俺も。

まさか【B地区】を張られるなんて思わなかった」

 

「恐らく君の試験官は君の動きを封じ、自分は【アトランティス】でレベルが下がり攻撃力が上がったモンスターで攻撃するデッキだったんだろう」

 

「だろうなぁ」

 

それにしてもあの伏せカードは一体なんだったのだろうか。

もしかするとロックカードをデッキに入れているためカード破壊を防ぐカウンター罠。

または更なるロックカードだったかもしれない。

今更考えても無意味なので考える事を止めた聖星は腰を下ろす。

 

「すっげえ強いなお前ら!」

 

「え?」

 

席に座った途端、背後にいた少年に声を掛けられた。

三沢と聖星に声をかけてきたのは甘栗色の髪の少年でとても眩しい笑顔を見せてくれた。

 

「お前達のデュエル見てたぜ。

2人ともバーンで決めちまうとはな」

 

「ありがとう。

俺は不動聖星。

君は?」

 

「俺は遊城十代。

よろしくな」

 

「あぁ、よろしく」

 

にっ、とVサインと決める十代に微笑む聖星。

すると十代の肩に1匹の半透明の天使が浮かんだ。

 

「クリクリ~」

 

小さくよろしくね、と言うように鳴いた天使はそれだけ言うとすぐに姿を消した。

それを見ていた聖星は持ってきている別のカードホルダーに目をやった。

聖星の意思が分かったのか小型の【星態龍】が姿を現す。

 

「この少年、精霊のカードを持っているな」

 

「(らしいな)」

 

まさか精霊のカードを持つデュエリストと出会うことが出来るとは思わなかった。

それにあまり見た事がないカードだ。

一体あの精霊の名前は何で、その精霊と一緒にいる彼はどんなデュエリストなのか。

一気に興味がわいた聖星は真剣に十代を見る。

すると構内に十代を呼び出すアナウンスが響いた。

 

「おい、あいつまだ受けてなかったのか?」

 

しかも受験番号は100番台。

確かすでに終わっているグループのはずだ。

それなのに今頃受けるとはどういう事だ。

呆れた表情を浮かべている【星態龍】に対し、聖星は静かにデュエルフィールドに立つ十代を見つめた。

 

「(天使っぽい精霊がいたから、光属性か天使族デッキかな?

それとも……)」

 

そして十代のデュエルが終わった。

彼のデュエルは素晴らしいとしか言いようがなく、対戦相手はデュエルアカデミアの実技最高責任者のクロノス教諭。

しかもクロノス教諭のデッキは試験用のデッキではなくどうみても本気のデッキだ。

互いの魔法・罠カードを破壊しそれを逆に利用してのトークンの特殊召喚。

ハンデスの中でも凶悪と言われている【押収】を発動した時は言葉を失ったほどだ。

 

「どう見てもあの先生本気だったよな」

 

先程のデュエルを思い出し、いまだにデュエルフィールドで騒いでいる十代を見下ろす聖星。

 

「あぁ。

【古代の機械巨人】を1ターン目から召喚する程だ。

しかしそのモンスター相手に勝ってしまうとは、110番…

良いライバルになりそうだ」

 

「同意。

楽しい学園生活になりそうだな」

 

END




ここまで読んで頂きありがとうございます。
今回聖星が使用したデッキは【ブラマジ魔導(仮)】です。
【テンペル】の効果で【ブラマジ】特殊召喚、【魔導書廊エトワール】【ヒュグロの魔導書】で攻撃力を上げて殴るという単純なデッキにしたつもりだったのですがどうしてこうなった。

始め十代と一緒に遅刻するパターンにするか、通常通りに受験するパターンにするか迷いましたが通常パターンにしました。

それにしても…
バーンデッキにしたつもりもないのにバーンで勝ってしまった場合、レッド寮所属っていうのは無茶がありそうですか?
聖星の場合はバーンでライフ全てを削ったので、アニメの世界では嫌われそうな勝ち方ですよね。
まぁロックカードを使う試験官も試験官ですけど。

本当は【スキルドレイン】とか入れたかったんだ…


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。