ペガサスが急遽用意した部屋。
冬休みに過ごした部屋と違って狭く、最低限のものしか置かれていないが聖星にとってはこの程度が丁度良い。
その部屋に置かれている机の前で聖星は友人の言葉に微笑んだ。
「それでさ、神楽坂の奴、前の実技試験じゃダメージを受けずに完勝したんだぜ!
これで14戦12勝2敗さ」
元気よく次から次へと言葉を発するのは日本にいる十代。
インダストリアルイリュージョン社に行くから暫く休む旨をメールで伝えた時、十代はたいそう驚いたようだ。
それで十代なりに気遣い、アカデミアでの授業や皆の事をこうやってテレビ電話で伝えてくれる。
ノートに関しては取巻が貸してくれるようだ。
「あれ、2回負けたんだ。
相手は誰と誰?」
「俺と三沢。
もうあのデッキには慣れたからって言って俺達は対戦相手に回ったんだぜ」
「ふぅん。
じゃあ神楽坂は12枚確保できたんだ」
自分なりのデッキが上手く組めない神楽坂のために聖星が出したゲーム。
神楽坂が1勝ずつする度に1枚譲り、1敗するたびに十代の勉強を見るという内容だ。
確か神楽坂に渡したのは23枚なので、あとは9戦すればこのゲームも終わりを迎える。
「今のところ【スノウ】、【ブラウ】、【ベージ】が2枚ずつ、【暗黒界の門】と【グラファ】を3枚って決めてたぜ」
「それだけでも十分デッキ組めそうだな」
【暗黒界の龍神グラファ】と特殊召喚をサポートする【暗黒界】達がそれなりの枚数を入手できたのなら、ある程度のデッキは組む事が出来る。
神楽坂が他にどんなカードを持っているかは知らないが、彼が今まで組んだデッキを考慮すると【暗黒界】と相性のいいカードくらいあるはずだ。
必要最低限のカードの入手は確定したので神楽坂も少しは肩の荷が下りただろう。
そういえば自分は神楽坂と1度もデュエルしていないと思っていると十代が真剣な表情となった。
「ところで聖星。
【レダメ】の行方は分かったか?」
「……いや、裏サイトや地下デュエルを色々探ってみたけど【レダメ】の情報は一切なかった。
多分、盗んだ奴がまだ持ってるはずだ」
「そっか……
ひでぇよな、取巻の奴、あのカードを凄く大事にしてたのによ……」
「あぁ。
それで、今取巻はどうしているんだ?」
言っては悪いが最近の取巻は【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】に頼った戦術をとっていた。
ただでさえ以前聖星が叩き潰したブルーのような生徒がいるのに、実技試験で連敗が続けば何を言われるか分かったものではない。
それを心配して尋ねてみると十代は頬を掻く。
「実技試験は何とか勝ってるけどよ……
新しいドラゴン族を集めようと必死だぜ。
俺や三沢も使わないドラゴン族を何枚か譲ったけど、やっぱり【レダメ】がないと回転力がな~」
「そっか……」
十代達が譲ったドラゴン族は【タイラント・ドラゴン】や【フェルグラントドラゴン】、【魔王ディアボロス】等癖の強いカードらしい。
場に出れば心強いかもしれないが、特殊召喚のさいに制限等があるためやはり扱いづらさが否めない。
「(取巻のデッキは多属性のドラゴン族を使うからなぁ。
もし、あいつのデッキが【カオスドラゴン】だったのなら【ライトパルサー・ドラゴン】や【ダークフレア・ドラゴン】を譲る事も出来るけど……
確か光属性と闇属性のドラゴン族ってあまりデッキに入れてなかった気がする)」
今まで彼が使ってきたのは風属性の【サファイアドラゴン】や【スピリットドラゴン】、【エメラルド・ドラゴン】、地属性の【密林の黒竜王】。
光属性と闇属性のドラゴン族といえば【マテリアルドラゴン】や【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】ぐらいだったはずだ。
「(【ストロング・ウィンド・ドラゴン】とか?
あれってレベル6で攻撃力2400だからそれなりに戦えるし。
でもテキストにアドバンス召喚やリリースって書いているからダメか)」
「ってか聞いてくれよ、聖星!
俺一昨日酷い目に遭ったんだぜ!」
「え、酷い目って?」
先程まで真剣な表情は消え失せ、十代は大げさにTV画面まで迫って一昨日の事を話し出す。
「テニスの時間にさ、俺が打ったボールが明日香の方に向かっていったんだ。
そしたら暑苦しいテニス部の部長が明日香を守るために別の方向に撃ったんだけど、それがクロノス教諭に当たってさ~」
「あ~……
で、罰は?」
「テニス部入部体験。
しかも何百球も打たされたんだぜ!
俺がクロノス教諭に当てた訳じゃないのに理不尽すぎねぇか!?」
「根本的原因は十代だけどな。
……あれ、でも部長なのに人がいる方に打った部長も悪いのか?
でも良かったじゃないか。
クロノス教諭の事だから反省文100枚、ってなるかと思ったのに」
いくらわざとでなくてもレッド寮の生徒を毛嫌いしている彼の事だ。
しかもコントロールミスしたのは入試の頃から何かと目立っている十代。
かなり理不尽なことを言うと思ったが、まだ現実的な内容である。
「それだけじゃないんだって!
なんかよく分かんねぇけど、その部長俺と明日香の仲疑ってよ、いきなり明日香のフィアンセ?
フィアンス?
まぁ、とにかくその座を賭けてデュエルだとか言ってきたんだぜ!」
「うん。
その人の頭の中、よほどお花畑なんだね」
何だ、そのぶっ飛んだ発想は。
十代と明日香はただの友人だし、何をどうしたら仲を疑ってしまうのだ。
別に疑うのならまだ誤解ですむ話だが何故婚約者の座を賭けてデュエルしなければならない。
確かに十代にとっては災難だっただろう。
「けど売られたデュエルは買う主義だからな、勿論勝ったぜ!
…………まぁ、その後が面倒だったけどな」
「あ~
明日香とか大変そう。
自分の婚約者を勝手に決められそうになったわけだし」
「へ?
フィアンセって婚約者って意味なのか?」
「え?
婚約者以外何があったっけ?
っていうより、知らなかったのか?」
「おう」
真顔で断言された聖星は日本にいる明日香達に同情した。
きっと十代の事だからその場で明日香に意味を尋ねたに違いない。
お世辞にも十代の頭は良くない。
興味のない分野に対して知識が乏しいのはある程度理解できるが、だからといってフィアンセの意味くらい一般常識的に知っていて欲しかった。
「その時皆呆れただろうな……」
「呆れた、っていうかさ。
その後取巻に無理矢理部屋に連れていかれて、そこでいきなり一般常識の勉強とか始めたんだよ。
何でだよ!?って突っ込んだら睨まれるし」
「……取巻、お疲れ様。
本当お疲れ様」
「何だよ、聖星までぇ!」
次に会ったときは朝食でも昼食でも飲み物でもカードのパックでも何でもいい。
奢ろうと決めた聖星は本当に疲れたかのように項垂れる十代に対し微笑んだ。
十代から皆の近状を聞いてみるが本当に楽しい。
シンクロ召喚の企画を進める事が楽しくないわけではないが、やはり十代達と一緒にその場に居たかったと思ってしまう。
三幻魔の事もあるし、もう少しこの学生生活に触れる事が出来ないと思うと寂しいものだ。
「それよりさ、お前ちゃんと寝てるのかよ?」
「え?」
十代の言葉に聖星は首をかしげる。
目の前の十代は難しい顔をして目元を指さした。
「目元に酷い隈があるぜ」
「え、嘘?」
「あぁ。
やっぱり自覚してなかったのかよ」
十代に指摘されて聖星はここ最近の日常生活を振り返った。
プロジェクトの書類に目を通したり、テストデュエルをしたり、三幻魔に対して調査をしたり。
定時に帰ってもこの部屋で独自に情報を集めている。
確かに多忙すぎて以前のような睡眠時間は確保できていなかった。
「一応睡眠は3時間とってるから平気だと思ったんだけど……」
「3時間!?
聖星、よくそれで倒れねぇな!
俺だったら絶対に無理!」
「そう?
慣れたら平気だけど」
たった1年程度の1人暮らしの間。
親の目がないというのは寂しさもあったが、自由もありよく夜遅くまで起きてはデッキを組んでいた。
その時は寝ずに学校に行ったことも多々あり別に苦ではなかった。
聖星の言葉に十代はひきつった笑みを浮かべている。
「あ、そうだ。
十代に紹介しないと」
「紹介?
誰を?」
聖星は自分のデッキケースから1枚のカードを取り出す。
小声で声をかければそのカードから宿っている白銀の竜が姿を現した。
液晶越しでも充分見えるようで、竜が姿を見せると十代は目を見開いて画面に食らいついてくる。
「何だ、その白いドラゴン!?
そっちで出会ったのか!?
凄くカッコいいじゃねぇか!」
「あぁ。
【閃珖竜スターダスト】っていうんだ。
【スターダスト】、彼は十代。
俺の友達だよ」
「グルゥ」
聖星の頭の上に乗った【スターダスト】は自分の姿が見える少年に戸惑いながら、小さく頭を下げた。
一応お辞儀らしい。
随分と人間らしい事をする、と思いながら言葉を交わす。
「なぁなぁ。
どこで出会ったんだ?
新しく買ったパックか?」
「秘密」
「何だよ、隠すなよ!
くぅ~~、聖星、日本に戻ってきたらすぐに俺とデュエルしろよ!」
「いや、ごめん。
こいつを召喚するパーツはまだ揃ってないんだ」
「何だ、【スターダスト】もかよ……
つまんねぇの~」
ふてくされ、心底残念そうに呟く十代。
それからも他愛もない事を話し、通話を終わらせた。
画面が黒くなると【スターダスト】と【星態龍】はドラゴン同士何かを話し始め、聖星はそんな2匹を微笑みながら見下ろした。
「(あ、でも少し頭重いかも……
丁度切らしていたし…………
コーヒー買いに行こう)」
「どうした聖星?」
「コーヒー買いに行く」
「そうか」
デッキケースを掴んだ聖星はそのまま宛てられたマンションを出た。
外はすっかり暗く、人通りは多いが自分の同年代の子供などあまり見ない。
デートのカップルや仕事帰りのサラリーマン等様々な人が行きかう中、スーパーに足を運ぶ。
するととある人の後姿を見かけた。
「あ、フランツさん」
「あぁ、君か」
外出用コートを羽織り、片手に鞄を持っているフランツ。
彼は指で眼鏡を少し上げ怪訝そうな表情で聖星を見下ろした。
明らかに仕事帰りの彼は周りを少しだけ見渡す。
「こんな時間までお仕事ですか?」
「えぇ。
シンクロ召喚に必要なカードのために新たなカードをデザインする必要があるからな。
同時にそのカードにも物語を作らないといけない。
完了期限までまだまだあるとはいえ、早めに終わらせたい」
指定された期間内に仕事を終わらせれば一定の報酬を支払われる。
アメリカは時給制としか知識がなかった聖星はこの事を聞かされた時ひどく驚いたものだ。
同じ社内なのにまるで個人契約しているかのように仕事の期間を決め、それまでに仕事を完了させる。
聖星達のシンクロ召喚プロジェクトはそれに該当するようだ。
「物語、ですか……
そういえばフランツさんが使っていた【異次元の偵察機】も【異次元の戦士】の足代わり、という設定がありましたね」
デュエルモンスターズは1つではなく、様々な世界観を描いているカードだ。
古き日本の事や異世界を交えた世界。
弱き者を助けるため異世界からくる光を司る騎士達。
たった1人の女性を執拗に追い回す男性。
シンクロモンスターの中にも当然様々な物語を担うモンスターが存在する。
【氷結界の龍トリシューラ】の物語には乾いた笑みしか出なかった。
「ところで聖星さん。
貴方、お1人で?」
「え?
あ、はい」
先程まで周りを見ていたフランツはその言葉に眉間に皺を寄せた。
この時間に中学生の子供が出歩くのは多少まずかっただろうか。
フランツはため息をつき、背中を向ける。
「子供がこんな時間に保護者同伴でもないのに外出とはいただけない。
自宅が近いのなら送ろう」
「いえ、これからスーパーに行く予定なので……」
せっかくの心遣いだが、流石に彼もいっしょにスーパーに行こうとは誘えない。
だから遠慮気味に首を振ったのだが彼は再び溜息をつき、スーパーがある方角へ歩き出した。
「フランツさん?」
「この辺りはまだ治安が良いとはいえ、完全に安全とは言えない。
貴方に何かがあればシンクロ召喚プロジェクトに支障が出る」
照れ隠しでもなんでもなく、心底そう思っているかのような眼差しを向けられた。
ここまでして貰ったら断れるわけもなく、聖星は小さく頷いた。
それからスーパーに行き、目当ての物を購入した。
今は送ってもらっている最中で2人の間に会話はあったと言えばあったが、殆ど聖星から話しかけていたようなものだ。
それが鬱陶しくなったのかついフランツは呟いてしまう。
「やはり子供だな」
「はい?」
微かに聞き取れた呟き。
聖星はフランツを見上げ、首を傾げた。
フランツはフランツで頭が痛むような仕草をしたがそのまま言葉を続けた。
「貴方がアドバイスをしているシンクロ召喚を快く思っていない相手とよく平気で話す事が出来るな、と感心しているだけだ。
子供特有の能天気さというべきか」
「子供相手に思ったことを口にする貴様も十分子供だと思うがな」
「(【星態龍】、それそっくりそのまま返されるよ)」
「むっ」
まさかの言葉に【星態龍】と心配そうな【スターダスト】がカードから現れる。
皮肉を言う相棒にツッコミを入れながら首を横に振って微笑んだ。
確かに普通なら気まずい雰囲気が流れると思うが、正直なところ聖星は反対意見を持つからと言ってその人物を快く思わないわけではなかった。
「別に俺は貴方がシンクロ召喚に反対している事には何も思っていませんよ。
いきなり自分が親しんだ環境が変わろうとしているんです。
反対意見を持つ方がいてもおかしくはありませんし、出るのは当然だと思っています」
ゆっくりと変わっていくデュエルモンスターズ。
この世界ではシンクロモンスターが生まれ、遊馬達の世界ではエクシーズモンスターが生まれた。
シンクロ召喚に慣れ親しんだ聖星がいきなりシンクロ召喚を否定され、エクシーズ召喚が主流の世界に放り込まれた時はかなりの嫌悪感を覚えたものだ。
きっとフランツも聖星程とはいかないがシンクロ召喚に嫌悪感を覚えたはず。
「ですが、カード達を馬鹿にするのは許せません」
「弱いカードの侮辱は許さず、強いカードの存在は快く思わない。
変わっているな」
「別に快く思わない、とは言っていません。
どんなカードにもそこにある以上、必要とされる理由があります。
ただ人間っていうのは複雑なんです。
強いカードが欲しいと言っているのに、いざそれが自分の驚異的な敵になったら手の平を返すかのように疎ましく感じます。
フランツさんだって【魔導書の神判】と直に戦ってみてどうでした?」
そこに存在する限り、必要とされる理由がある。
これは父である遊星の言葉だ。
しかし現実は残酷で必要とされる理由があったカードは驚異的な力ゆえに、必要とされなくなった。
それを持つ少年はそれと戦った男性に問いかける。
「確かに面倒なカードだったが……
だからこそ、私達がそれに対抗できるカードを生み出すべきだ」
「それじゃあ次にそのカードが疎まれる存在になります」
「弱いカードに活躍の場を与え、強いカードは生み出さない。
それで貴方や貴方の周りが納得しても、彼らは納得するだろうか?」
「彼ら?」
ゆっくりと頷いたフランツは横に目を向ける。
釣られて目を向けるとデュエル大会のポスターがあった。
そこにはプロデュエリスト達がデュエルしている姿が描かれ、その戦術に歓声を上げる観客達もいた。
「デュエルモンスターズとは世界を動かすゲーム。
そして観客である人々は見応えのあるデュエルを求める」
攻撃力の高いモンスターが低いモンスターを吹き飛ばす。
しかしその刺激も繰り返されると飽きが生じてしまう。
何度もTV越しで見てきた観客達を思い出しながらフランツは問いかける。
「なら、見応えのあるデュエルとは何だ?
弱小カードが並ぶ場面?
いや、強いカード同士がぶつかり合う激しいバトルだ。
シンクロ召喚という画期的な召喚で観客達を魅了する事も可能だろう。
しかしそれは一時的なもの。
人々はすぐにもっと見応えのあるデュエルを求める。
それに応えるため私達はカードを作っているんだ」
「強すぎるカードを使って一方的なデュエルをしても、周りは魅了されるでしょうか?
……俺が以前住んでいた街ではそんな事なかったですよ」
確かに初めは暖かかった。
しかし次第に彼らの目は冷たいものになっていった。
それを覚えている聖星はこれにどう答えるのか、彼の答えを待った。
フランツは悩む間もなく、さも当然のようにその言葉に返した。
「それは貴方の周りの話。
その目をもっと広い世界に向けてみろ。
世間は貴方ではなく、私に賛同すると思うがな」
そう言い切ったフランツは足を止め、上を見上げる。
そこは聖星が今暮らしているマンションだった。
もう着いてしまったのか、と思っているとフランツは背中を向ける。
「では、失礼」
「……送ってくれてありがとうございます」
目を合わせようとしない男性の背中を見つめながら聖星はお礼を言った。
そのままフランツは来た方向へ向かって歩いていく。
だんだんと小さくなっていく姿を見ながら【星態龍】は先程の言葉を思い出した。
「一時的、か。
生憎だがシンクロ召喚は世間に広く受け入れられ未来でも根強く残っている召喚法だ。
あの男の読みは外れだな」
世間が刺激的なデュエルを求めるのは認めよう。
その結果シンクロ召喚にも様々な強力なカードが現れた。
未来のデュエルを思い出しながら【星態龍】は友人を見下ろす。
「聖星?」
「いや……
シンクロ召喚プロジェクトの停止は免れたけど、やっぱり人の心っていうのはそう簡単には変わらないんだな、って思って……」
身をもって知れば分かってくれると思った。
あの世界の同級生達は分かってくれたのだから。
その結果が拒絶でも、その拒絶で理由を失う事を防ぐ事が出来れば。
しかし所詮子供の理想だった。
「父さんだったら、どうしてたんだろう」
**
ガラス張りにされ、外の景色が一望出来るペガサスの部屋。
そこに呼ばれた聖星は高級なソファに腰をおろし、目の前に座っているペガサスを見る。
「聖星ボーイ、【星態龍】に1つ尋ねたい事がありマ~ス。
よろしいでしょうカ?」
「【星態龍】に、ですか?」
デュエルモンスターズの生みの親であるペガサスは、カードに宿る精霊にも興味を示した。
精霊を視る目を持たない事にどれほどペガサスが残念がったか。
その彼が【星態龍】に尋ねたい事とはなんだろう。
すぐに【星態龍】は姿を現し、聖星の隣に浮かび上がる。
「私にだと?
何だ?」
「ユー達は【宝玉獣】というカードをご存じでしょうカ?」
「はい。
世界にたった1枚しかないカードだと聞いています」
ローマの支配者、ユリウス・カイサルはローマが世界に君臨する証として世界各国から7種類の宝石を集めて石版を作ろうとした。
その宝石の成分をカードに取り入れ、生み出されたのが【宝玉獣】。
歴史的背景、さらにそれぞれ1枚しか存在しないカード達という事で未来でも伝説のカードとして扱われている。
「確かに私は7つの宝石を見つける事は出来ました。
バット、宝石を収める石版……
【レインボー・ドラゴン】の石版だけが見つからないのデ~ス」
ペガサスの困ったような表情に聖星達はやっと理解した。
聖星と【スターダスト】は【星態龍】に目を向ける。
友人からの視線に【星態龍】は難しい顔を浮かべた。
「【星態龍】は高位の精霊だと聞きマシタ。
同じドラゴンの精霊デ~ス。
【レインボー・ドラゴン】の石版がどこに眠っているか分かりませんカ?」
「確かに知っている」
「え、知ってるの?」
「あぁ。
【レインボー・ドラゴン】の登場は我々精霊界でもかなりの衝撃だった。
自然とどこに石板があったのか知れ渡ったものだ」
自分も高位の精霊ではあるが、【レインボー・ドラゴン】は更にその上を行く存在だ。
長年行方不明だったかの竜の所在が発覚した時は、更なる混乱の幕開けだったため嫌でも記憶に残っている。
【星態龍】は昔を思い出すように呟き、聖星は改めて【星態龍】の凄さを認識した。
「だがそれを教える事は出来ない」
「え?」
まさかの言葉に聖星は再び【星態龍】を見る。
そんな彼の様子にペガサスは首を傾げた。
聖星は苦笑を浮かべそうになりながらも、【星態龍】の言葉をそのままペガサスに伝える。
「ホワット!?
何故デ~ス!?
【レインボー・ドラゴン】が世に現れる時期ではないというのですカ!?」
「そうだ。
少なくとも2年は待て。
そうすれば【レインボー・ドラゴン】は己の使命の為に、自分から姿を現す」
「……【レインボー・ドラゴン】の使命」
【星態龍】を超える精霊が背負っている使命。
その役目を果たす時が2年後に起こるという事は、それ相応の出来事が起こるという事。
一体どんな出来事なのだろうと聖星が考えていると、【星態龍】は微かに笑みを浮かべた。
「(【レインボー・ドラゴン】……
そういえばそれと同じ時期だったな。
………………覇王が現れたのは)」
2年待て、と言われたペガサスは納得したのか小さく息を吐く。
「仕方ありまセ~ン。
アンデルセンボーイには悪いですが、2年待つことにしマ~ス」
「アンデルセン?」
「ミーが【宝玉獣】を託したボーイの事デ~ス。
ユーと同じ高校生で精霊が見えるボーイデ~ス」
「え。
その人も精霊が見えるんですか?」
「イエ~ス。
ユーが赤き竜に選ばれたように、アンデルセンボーイも【宝玉獣】に選ばれたのデ~ス」
「へぇ」
自分と同じで精霊を見える存在。
興味があるといえば、あるに決まっている。
どんな人物なのだろうと考えているとペガサスが名案だ!とでも言うように笑顔を浮かべる。
「そうデ~ス!
聖星ボーイ!
ユーは今、表向きはデュエルアカデミアの姉妹校に留学している事になっていマ~ス!」
「はい」
鮫島校長や十代、取巻の3人には事情を話している。
しかし実際は彼の言った通り、姉妹港に留学している扱いなのだ。
何故今更ここでその話題を出すのだろうと思っていると、ペガサスは笑顔で言葉を続けた。
「アンデルセンボーイがいるアークティック校に留学してみてはどうですか!
きっと、楽しめるでショ~!」
「あの、ペガサス会長。
俺は三幻魔の情報を手に入れるためにここにいるわけで……」
「ノ~プロブレ~ム。
三幻魔の情報は我々インダストリアルイリュージョン社が全力を挙げて調べマ~ス。
ユーはまだ学生デ~ス。
思う存分遊んできてくだサ~イ」
「いえ、その……」
笑顔を浮かべながら力説してくる彼の言葉に聖星は上手く言葉が出ない。
日本人はノーが言えないと聞くが、こういう時にノーが言えない自分が恨めしくなった。
しかもピンポイントでアンデルセンという生徒がいるアークティック校。
これは明らかに狙っているだろう。
「どうせ行くならグレートバリアリーフが見られるオーストラリアにあるアカデミアに行きたいものだ」
「グルゥ…………」
ボソッ、と呟いた【星態龍】の言葉は当然2人には届いていなかった。
END
フランツは2期にならない限りもう2度と出ないと思った?
残念。
取巻という前例がいるんだ。
今後もちょくちょく出すつもり。
アメリカの会社の給料に関してはしょせん俄か知識なので突っ込まないでください。(何モ聞コエナイヨー)
フランツに関してはいくら1度デュエルしたからといって考えを改めるとは思えない。
アニメじゃペガサスが顔を見せたから改心しましたが「前回・今回」は状況が違いますしね。
5D’sでねじを締め直す必要がある某教頭が改心したのも「お前はえーよ」と突っ込みましたし。
まぁ、下手したら1時間以内に生徒から借りたカードでデッキを組んだ遊星に負けたんだし、即席で組んだデッキで【古代の機械巨人】がボロボロに負けたから改心してもおかしくはない。
聖星は別にフランツが嫌いじゃありません。
フランツはフランツで世間の言葉に耳を傾け、消費者の大部分を占める意見を尊重して仕事しているし、フランツ自身デュエルで負けたからって子供である聖星を嫌うような大人気ない真似しないと思いたい。
社会人(隼人)か学生(聖星)かの違いがあるので。
あとTF出るそうです。
タッグフォースきたぁあああああああ!!!!
発売時期的にシンクロン・エクストリームのカードが収録されるか、されないか微妙なところですね。
…あれ、発売日って14年冬だよね?
15年冬なら確定だけど。