遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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セブンスターズ編
第二十四話 7つの鍵と選ばれし者達


「あ~!

取巻、神楽坂、いい加減にしてくれよ~!」

 

「何を言っている。

ここで放り投げたらまた赤点だぞ」

 

「ただでさえオシリスレッドなんだ。

進級できなくなったらどうする!?」

 

「んなの進級テスト間近で十分じゃねぇか」

 

「今の段階で逃げ回っている奴が間近になって机に向かえるか!?」

 

オシリスレッドの食堂。

お昼の時間はとうに過ぎているというのに、そこには複数の生徒達がいた。

その中には教科書とノートを広げ、逃げないよう十代を壁に追い込む取巻と神楽坂もいる。

少し離れた席でその光景を見守っている万丈目は怪訝そうな顔をして隼人、三沢、翔に尋ねた。

 

「おい……

あれは本当に取巻か?」

 

「あぁ」

 

「そうなんだな」

 

「あれじゃあ兄貴のお母さんっす」

 

今にも匙を投げそうな十代を取巻が必死に面倒を見ている。

翔の言葉に内心で同意しながら万丈目は遅い昼食を食べる。

流石はレッド寮というべきか、お坊ちゃんの万丈目には合わないようだ。

普段ならあまりの不味さに舌打ちしているところだが今は取巻の変わりっぷりに驚いている。

 

「君と一緒にいた頃の彼はあんなふうに誰かの面倒はみなかったのか?」

 

「あの時あいつと関わりがあったのはオベリスクブルーが殆どだぞ。

あそこまで世話を焼くような奴なんていなかった」

 

オベリスクブルーは仮にもエリートが集まるところだ。

それなりに勉強はできたし、誰かの面倒を見るといってもあそこまで熱を入れる必要はなかった。

きっと取巻があそこまで力んでいるのは十代がバカで逃げようとするからだろう。

意外な面があったものだと思いながら水を飲みほす。

 

「あ、こら、逃げるな遊城!」

 

「三沢、翔、隼人、万丈目~!

助けてくれ~!」

 

「ふん、自業自得だ」

 

目の前に並んでいる文字に十代は頭を抱え、今すぐ逃げ出したいと叫んだ。

しかしここで逃がしてしまえば十代の成績がさらに下がってしまう。

これでは進級できるかも不安だ。

頭を抱えたい取巻達は十代を無理矢理座らせ、次に進める。

すると食堂の扉が開き、皆はそこに立っている人物の姿に驚いた。

 

「聖星!?」

 

「聖星君!?」

 

「久しぶり、皆」

 

そこにいたのは私服姿の聖星で片手にはキャリーバックを持っている。

数週間ぶりの再会に十代達は自然と聖星の周りに集まった。

 

「何だ不動。

お前、いつ帰って来たんだ?」

 

「ついさっきの船でな。

皆元気そうで良かった」

 

「ははっ、元気に決まってるだろう!

そういうお前はまだ目元に隈があるなぁ。

ちゃんと寝てるのかよ?」

 

「この隈は寝不足ではなく環境が変わったためのストレスと主張させて」

 

十代からの問いかけに聖星は苦笑で返す。

今は暖かい季節だが彼が留学したのは真冬の国。

しかも周りは殆ど馴染のないヨーロッパの人々なのだ。

季節の変化はまだ耐えられるとして、人との接し方は意外とストレスが溜まるのだろう。

 

「ところで十代。

さっき外で聞いていたんだけど、君、ちゃんと勉強してた?」

 

「ギクッ!」

 

わざとらしく首を傾げると十代の顔が一変する。

見る見るうちに青くなっていく十代に聖星は更に怖い笑みを浮かべた。

冷や汗がだらだらと流れる友人にトドメをさすように取巻はある物を取り出す。

 

「不動、これがこいつの小テストの結果だ」

 

手渡された1枚のテスト用紙。

そこに記されている点数に聖星は笑みを消した。

そのまま十代を見るが、彼は慌てて目を逸らすだけ。

 

「取巻。

次のテストっていつだっけ?」

 

「5日後だ」

 

「5日か……

ちょっときついな。

俺の分もあるけど、でも神楽坂と取巻も手伝ってくれるのならなんとかなるかな……

翔、隼人。

暫く十代は俺の部屋で預かるけど問題ないよな?」

 

「勿論っす」

 

「俺も同じ意見なんだな」

 

「なっ、マジかよ!?」

 

「文句を言うな」

 

前回の月一テストはなんとか平均点ぎりぎりだった。

神楽坂も手伝ってくれるし、この調子で頑張れば平均点を超える事も可能だろう。

そう思っていたのにまさかこんなに下がるとは思わなかった。

十代の意見など無視して同居している翔と隼人と話をつける。

 

「じゃあ俺はこれから校長先生に挨拶してくるから、また後でレッド寮に寄るよ。

それまで十代は荷物を纏めておいてくれ」

 

「やっぱし勉強……?」

 

「勉強」

 

「勉強よりデュエルしようぜ~」

 

久しぶりに会えたというのにデュエルではなく勉強など。

駄々をこねるかのように文句を言う十代を無視し、食堂から出ようとする。

しかしすぐに振り返って不思議そうに尋ねた。

 

「…………っていうか、どうして万丈目がいるんだ?」

 

「今更か貴様!」

 

「あ、ごめん。

十代への説教が先かと思って」

 

**

 

鮫島校長へ報告も終わり、十代達も各寮に帰った。

1人になった部屋でベッドに横たわった聖星はPCの電源を入れる。

すぐにメーカーのロゴが現れ、使いたいアプリを起動させる。

PCの向こう側に存在する友人に今から通話して良いか尋ねると、OKという文字が返ってくる。

 

「あ、もしもし。

ヨハン?

あぁ、今日アカデミアについた。

…………連絡が遅い?

ごめん、ごめん。

しょうがないだろう、すぐに校長室に行って留学の報告書を出してその後は友達と会っていたんだ」

 

その後は十代の学力がどれほど下がったのか確かめたり、取巻、神楽坂と自分の3人でどうやって次のテストを乗り越えるか頭を捻ったりした。

聖星の言葉にヨハンは納得したような表情を浮かべ、幾つか言葉を交わす。

 

「それでヨハンはいつこっちに来るんだ?」

 

「それがなぁ……

どれ程頼んでも校長が許可を出してくれないんだよ」

 

シンクロ召喚、【閃珖竜スターダスト】、星竜王、三幻魔がもたらす混沌。

聖星と共に闇のデュエルを体験し、三幻魔がアカデミアに眠っているとヨハンは知ってしまった。

だから彼は聖星と共に三幻魔の復活を阻止するため、日本のアカデミアに留学すると言っていたのだが…………

 

「今度姉妹校とのデュエル大会があって、俺はアークティック校の看板だから今は止めてくれって。

デュエル大会なんて2日で終わるんだから、その日だけ戻るって言っても譲ってくれないんだぜ」

 

三幻魔の事を素直に話すわけにはいかず、アカデミアへの留学理由は世界を見てみたいというもの。

何も知らない校長が大事なイベントの目前に看板に留学を許すわけがない。

面倒な時期に被ったものだとヨハンは頭を抱える。

画面に映るヨハンの様子に聖星は心の中で呟いた。

 

「(デュエル大会も理由かもしれないけど、俺がペガサスさんに圧力かけるようにお願いしたから当然だな)」

 

頬杖をつきながら笑みを浮かべる聖星は数日前の事を思い出す。

今のようにPCの画面にはペガサスの姿が映り、ヨハンが留学しないよう頼み込んだ。

当然ペガサスはすぐに応じなかった。

 

「何故アンデルセンボーイの留学に反対なのデ~ス?

彼らの実力なら貴方の力になりマ~ス」

 

「それは分かっています。

けど俺はヨハンに危険な目に遭ってほしくないんです」

 

「ですが三幻魔の問題は世界規模の話になりマ~ス。

ユー1人に立ち向かわせるわけにはいきまセ~ン。

味方は多い方がいいでショウ」

 

以前、世界が滅亡の危機に瀕した時決闘王である武藤遊戯、城之内克也やその仲間が必死に戦った。

彼らの優しさ、互いを思う友情。

それが悪しき力に打ち勝ち世界は滅亡を回避する事が出来た。

それを知っているからこそ、聖星が1人で立ち向かう事に反対なのだ。

 

「確かに俺1人では重荷かもしれません。

ヨハンが俺の事を想っている事はとても嬉しい事です。

だからこそ関係のない友達を巻き込みたくないんです」

 

「ユーは誰かを頼るという事が苦手なようデ~ス。

いや、失う事を恐れているというべきでショウ…………」

 

「確かにそうですね…………」

 

ペガサスの言葉に聖星は顔を伏せてあの戦いを思い出した。

ナッシュが見せた鉄男やアンナ達が消えゆく姿。

映像越しで光となっていく後輩達にあの時は足元が崩れ落ちそうだった。

それでも遊馬達に情報を届けようと、Ⅳの言葉に背中を押され、あの街を走った。

瞳に宿る感情にペガサスは険しい表情を浮かべ、再び問いかける。

 

「アンデルセンボーイはセブンスターズに狙われていマ~ス。

今後も彼を狙ってくるかもしれまセ~ン。

そしてアンデルセンボーイはシンクロ召喚と星竜王の良き理解者デ~ス。

それなのに彼の留学に反対しますカ?」

 

「はい」

 

彼は関係者ではないといえば関係者ではない。

しかし、関係があるといえば関係がある。

微妙な立ち位置の彼を傍におかなくても大丈夫か。

真剣な眼差しのペガサスに聖星は強い意志で返す。

 

「…………オーケー、この件に関してはミーに任せてくだサ~イ。

暫く彼には月行達の中から誰か護衛をつけマ~ス」

 

「ありがとうございます、ペガサスさん」

 

渋々納得してくれた彼に聖星は安堵の笑みを浮かべる。

こうしてヨハンが日本に来ないよう裏で手を引いてくれたのだ。

今は表立っては行動していないがヨハンの周りに誰かいるだろう。

それに気づいていないヨハンは真顔で言う。

「こうなったら校長にデュエルを挑むしかないな」

 

「ヨハン。

流石にそれは駄目だろう」

 

今のヨハンなら校長先生相手でも勝てるような気がする。

それだけ彼の目は真剣そのものだった。

 

**

 

久しぶりに受ける日本の授業に聖星は懐かしみを覚えながらペンを走らせる。

大徳寺先生の言葉をすぐにノートに記しているとチャイムが鳴り響いた。

やっとお昼休憩かと思い背伸びをすると眠っていた十代が起き上がるのが目に入る。

どうやら十代は子供騙しともいえるお面を被って居眠りをしていたようだ。

トメさんに作ってもらった弁当箱を持ち、聖星が座っている席に来ようとする十代に大徳寺が声をかける。

 

「あ~、遊城十代君。

お昼はちょっと待つのだにゃ。

私と一緒に校長室に来て欲しいんだにゃ」

 

「え、俺?」

 

弁当を片手に持っている十代はまさかの名指しに固まる。

呼び出しを受けるにしても校長室だ。

十代はあんな所に行くような事をした覚えはない。

何故だと首をひねると翔と隼人が顔を青くする。

 

「十代、お前…………」

 

「兄貴、校長室っすよ。

まさか退学とか…………」

 

「いや、そんな覚えなんてねぇよ」

 

「はははは。

貴様とは短い付き合いだったがどうやらここでさよならのようだな、十代」

 

「万丈目君、貴方も来てください」

 

「何ぃ!?」

 

同じレッド寮の万丈目はフン、と十代をバカにしたように笑う。

しかし彼自身も名指しされ目を見開いた。

2人にはある種の因縁のようなものがある。

もしかするとそれに関する事だろうか。

そう考えていると大徳寺先生は聖星達にも目をやった。

 

「それから三沢君に聖星君、明日香さんも」

 

「え?」

 

名前を呼ばれた聖星は隣に座っている三沢と目を合わせ、神楽坂も不思議そうな表情を浮かべていた。

ブルー寮の席を見れば取巻も目を見開いている。

 

**

 

生徒達の好奇な目に晒されながら、5人は大徳寺先生の後をついていく。

お昼ご飯を待てと言われた十代は少し不満そうに尋ねた。

 

「何で呼ばれたのさ」

 

「さぁ。

それは分かりませんにゃ」

 

大徳寺先生も呼ばれた理由を知らされていない。

一体どんな理由なのだろう。

 

「なぁ聖星。

お前、何で俺達が呼ばれたと思う?」

 

「どう思うって、難しいな……

ここにいるメンバーの共通点って特にないし。

明日香、俺がいない間に何かした?」

 

「するわけないでしょう」

 

「だよな~」

 

所属する寮もバラバラ。

特に共通する部分といえば全員1年生とアカデミア内での実力者という事実だけ。

もしかすると何かイベントがあるのかもしれない。

すると反対方向からクロノス教諭とカイザーがやってきた。

 

「そうそうたる顔ぶれです~ノ。

貴方達も校長に呼ばれたのです~カ?」

 

視線で何か心当たりがあるかカイザーに問うてみたが、彼は首を横に振るだけ。

どうやらカイザーにも心当たりはないようだ。

 

「ティラミスふぅみ。

これは間違い探しです~ノ?

1人だけ仲間はずれがいるのーネ」

 

「気にすんなよ、サンダー」

 

「お前だ!」

 

「サンダー?」

 

「ノース校にいた頃、万丈目はそう呼ばれてたんだとよ」

 

「ふ~ん」

 

アカデミアを退学したはずの万丈目がここにいる理由はある程度聞いた。

ノース校のキングとして君臨していた彼は下の者達からサンダーと慕われていたようである。

何故そのような渾名になったのか是非聞いてみたいものだ。

 

**

 

「三幻魔のカード?」

 

「っ!?」

 

校長室に通された8人は彼の口から放たれた言葉に聖星以外首をかしげる。

予想通りの反応に校長は真面目な顔をして言葉を続けた。

 

「そうです。

この島に封印されている、古より伝わる伝説のカード。

そもそもこの学園はそのカードが封印された場所の上に建っているのです」

 

「「えぇ!?」」

 

「学園の地下深くに三幻魔のカードは眠っています。

島の伝説によるとそのカードが放たれるとき世界は魔に包まれ、混沌が蔓延り、人々に巣食う闇が解放され、やがて世界は破滅し、飢えと帰す。

それ程の力を秘めたカードだと伝えられています…………」

 

「破滅…………」

 

三沢の呟きに皆は互いに目をやった。

いくら自分達がデュエルを学んでいるといっても、所詮はカード。

様々な曰くつきの神のカードならともかく、神の名を持たないカードが世界を破滅に導くなど想像出来ないのだ。

これも想定済みなのか鮫島校長はさらに続けた。

 

「そのカードの封印を解こうと、挑戦してきた者達が現れたのです」

 

「一体、誰が?」

 

「七精門。

セブンスターズと呼ばれる7人のデュエリストです。

全くの謎に包まれた7人ですが、もうすでにその1人がこの島に……」

 

「なっ!?」

 

既に敵の1人がアカデミアに潜入している。

明日香の誘拐の件でこの学園の警備体制が変わったため、部外者がそう簡単に侵入できるとは考えられない。

つまり相手はかなりの実力者という事になる。

鮫島校長は机の上に1つのケースを取り出し、それの中身を見せる。

 

「これがその7つの鍵です」

 

ケースに収められていたのは1枚のパズルのように組まれている7つの鍵。

パズルのピースのように複雑な形を持っているそれは謎の模様が描かれている。

 

「そこで貴方達にこの7つの鍵を守っていただきたい」

 

「守るって、どうやって……」

 

「勿論、デュエルです」

 

「デュエル!?」

 

古から三幻魔の伝説が伝わっているように、その復活を阻止する儀式の方法も伝わっている。

その方法がデュエルなのだ。

当然、世界を守るために守護者は強者である事が条件となる。

 

「だからこそ学園内でも屈指のデュエリストである貴方達を呼んだのです。

この7つの鍵を持つデュエリストに彼らは挑んできます」

 

この場にいるのは8人。

そのうちの7人がこの鍵を持ち、セブンスターズと名乗る連中と戦わなければいけないのだ。

話の大きさに皆が互いの顔を見ようとする前に聖星が鮫島校長の前に出た。

 

「鮫島校長。

その7つの鍵は俺に託してくれませんか?」

 

「聖星君?」

 

「聖星、何言ってんだよお前?」

 

まさかの頼みに真っ先に反応したのは十代だ。

十代はこの話に対して面白そうな事だという印象しか持たなかった。

だから安易に鍵に手を伸ばそうとしたが、聖星があまりにも恐ろしい表情だったので驚いた。

誰よりも事情を理解している鮫島校長は聖星を真っ直ぐ見上げながら言葉を返す。

 

「聖星君。

今説明した通り、敵は7人。

確かに君は丸藤君を倒した実力者です。

だからといって君1人に任せるわけにはいきません」

 

「では鮫島校長。

三幻魔は遠い昔に封印されたと仰いましたが、誰が封印したかご存知でしょうか?」

 

瞬間、鮫島校長の表情が変わる。

目を見開いた彼はすぐに頭を切り替え、慎重に言葉を選ぶ。

 

「まさか聖星君、君は封印した人物をご存じなのですか?」

 

「はい」

 

強く頷いた聖星は自分の前にある鍵を見下ろし、言葉を続けた。

 

「今から3000年前、三幻魔はこの世界に現れました。

鮫島校長が仰るとおり、三幻魔の出現でこの世界は混沌に陥り、数多くの命が失われました」

 

その時、南米アンデス山脈に存在した星の民の指導者、星竜王が神と崇める竜の星に祈りを捧げ、神の化身である赤き竜を召喚した。

召喚された赤き竜は下部達と共に三幻魔と戦い、封印に成功した。

 

「今、インダストリアルイリュージョン社にその当時を記した石板があります。

その石板には星竜王の意思が宿り、俺はその意思に三幻魔の復活を阻止して欲しいと頼まれました」

 

「なっ……!」

 

驚きの声を上げる鮫島校長。

まさか自分の学園の生徒に三幻魔と関わりのある人間が生徒として存在していたなど、思いもよらなかったのだろう。

しかもインダストリアルイリュージョン社の名前が出たという事は、ペガサスもこの事を知っている可能性がある。

聖星の言葉に様々な事を考慮しながら鮫島校長は口を閉ざす。

 

「これは俺の仕事です。

ですから校長、その7つの鍵は全て俺に任せてください。

お願いします」

 

「赤き竜に星竜王……

突拍子すぎて信じられない話ですね」

 

「信じられないのは百も承知しています」

 

鮫島校長もある人からこの島の伝説を聞かされた。

初めはそんな夢物語を語るその人物が正気なのかと疑った。

だが彼の真剣さから本当の事だと悟り、今に至る。

そんな鮫島校長でも聖星の言葉は実に信じがたかった。

だが三幻魔の存在を信じるのなら、彼のいう赤き竜も信じざるを得ない。

 

「聖星君、君の言いたい事は分かりました。

しかし…………

こう言っては何ですが、仮に君1人に7つの鍵を預けた場合、7人のデュエリスト達は君だけを狙います。

もし君が敗れた場合、どうするつもりですか?」

 

この鍵を賭けて行われるデュエル。

1度敗北すればもしかすると全ての鍵が奪われるかもしれない。

そうなってしまえば封印が解かれ、世界は混沌へと陥ってしまう。

尤もな意見に聖星は別の事を提案する。

 

「でしたらプロデュエリスト6人に鍵の守護を依頼してください。

そもそも三幻魔の復活を阻止する守護者を生徒達から選ぶ時点でおかしいです。

俺やクロノス教諭、大徳寺先生はともかく、世界の運命を背負うには皆は幼すぎます」

 

「何だ貴様。

俺達を子ども扱いか?」

 

「よく考えてくれ、万丈目。

今、皆は人類の未来を背負ってくれって校長に頼まれているんだ。

これがどれ程重大な事か分かるだろう?」

 

世界を混沌にし、飢えに帰す力を持つ三幻魔が放たれたら人類がどうなるかは簡単に想像できる。

聖星の言う通り、今十代達は人類の未来を無自覚のうちに背負おうとしているのだ。

 

「私達が…………」

 

「人類の未来を…………」

 

明日香と三沢が聖星の言葉を繰り返す。

そして今自分達が置かれている立場がどのような事なのか考える。

授業でやるようなお遊びではない。

華やかな舞台で繰り広げる競技ではない。

静かに動揺が広がるのを感じながら聖星はさらに言葉を続ける。

 

「それに俺はアークティック校に留学中、セブンスターズの1人と戦いました」

 

「何だって!

本当かよ聖星!?」

 

「あぁ」

 

「既に接触していたのですか…………」

 

小さく頷いた聖星はタイタンの名を伏せて語る。

ヨーロッパで起こった無差別デュエリスト襲撃事件。

犠牲者全てが意識不明という事に気味悪さを覚え、友人と調査した。

 

「犯人はセブンスターズの1人。

奴はセブンスターズのメンバーの候補者をテストと称して襲っていた。

留学先で出来た友達もその候補者だった」

 

「なっ!?」

 

聖星はセブンスターズと戦ったと言い、友人が候補者だった。

カイザーは念のため皆の心を代弁するかのように尋ねる。

 

「聖星、その友達は…………

まさか…………」

 

「安心してください、丸藤先輩。

勿論無事ですよ。

今は護衛がついています」

 

もしその友人がセブンスターズの1人になっていたら聖星には辛い戦いになるはず。

無事だという言葉にカイザーは安堵したかのように息を吐く。

聖星はカイザーから再び鮫島校長に向かいその時の事を語る。

 

「その時のデュエルはただのデュエルではありません。

ダメージが実体化し、敗者は闇の世界に引き込まれる闇のデュエルでした」

 

「闇のデュエル?」

 

聖星が口にした言葉に鮫島校長の顔が強張る。

流石はデュエルの学園を任されている者、噂ぐらいは耳にしているのだろう。

それはこの場にいる生徒達も同じで十代も思い当たる事があるのか聖星の背中を凝視する。

 

「信じないの~ネ。

そんなもの、ただの迷信で~ス。

きっと妙な催眠術にかかってダメージが実体化したと貴方が勘違いしたに決まってま~ス」

 

ふん、と鼻息荒く断言したクロノス教諭には目もくれず聖星は鮫島校長だけを見る。

彼らが闇のデュエルを否定したって別にかまわない。

今は優先すべき事は、鮫島校長がこの鍵の守護者を生徒ではなく、もっと腕が立つ者に変えるように説得する事。

 

「校長、俺、やります」

 

「え?」

 

背後から聞こえた十代の声に聖星は振り返る。

十代は驚いている聖星など放っておき、ケースの中に入っている鍵を1つ手に取った。

まさかの行動に聖星は十代の手を掴む。

 

「十代。

君、何をしているんだ?」

 

「何って、この鍵を守ってくれっていう話、受けただけだぜ」

 

「そうじゃない。

この鍵を守るっていう事は、闇のデュエルをするって事だ。

それを君は…………」

 

「分かってるって」

 

聖星の手を払いのけた十代は鍵を首から下げる。

自分の胸元にぶら下がっている鍵を握った十代は笑った。

 

「つまりとんでもなくすげぇカードが学園の地下に眠っていて、俺達は強い連中からそのカードを守ればいいんだろう。

おもしれぇじゃねぇか」

 

「十代、面白いって……」

 

「何だよ聖星。

そんなに俺が信用できねぇのか」

 

「そういう問題じゃないだろう」

 

「心配すんなって。

俺は決闘王になる男だぜ。

人類の未来の1つや2つ、守ってみせるさ」

 

事態を軽く見ているとしか思えず、同時にあまりにも無責任すぎる発言に聖星は言い返そうとする。

それより先にカイザーが鍵に手を伸ばした。

 

「丸藤先輩!」

 

遂に声を荒げた後輩にカイザーは鍵を首に下げ、彼と向き合う。

焦りの色を覗かせる緑色の瞳を見下ろしながらカイザーはデュエルの時以上に真剣な顔で話す。

 

「聖星、君の忠告は受け取った。

君が俺達をこの戦いから遠ざけようとしている気持ちもよくわかる」

 

「っ…………」

 

「確かに俺は君に言われるまでスケールが大きすぎて、事の重大さに気づく事が出来なかった。

カイザーと呼ばれていても俺はまだまだ未熟者だ。

そんな自分に人類の未来を背負えるのか考えてみた」

 

例えパーフェクトと呼ばれようと、カイザーという名で呼ばれようと自分だってまだ子供。

学園内屈指の強者であろうと人類の未来を背負う事は怖い。

誰よりも頭の良い彼はこの場にいる誰よりも深く考え抜いた。

 

「結果、背負えるという結論を出した。

だから俺はこの鍵を取ったにすぎない。

皆はどうだ?」

 

振り返ったカイザーは皆に尋ねる。

辞退しても軽蔑はしない、臆病者とはいわない。

共に戦おうとする者は快く受け入れよう。

だからといって見栄を張り、安易な考えで鍵を手にする事は許さない。

カイザーの言葉に明日香は顔を上げ、前に一歩踏み出す。

 

「私もその話、引き受けます」

 

「僕も引き受けます」

 

「フン。

ま、学園復帰早々、この万丈目サンダーの名を轟かせるには十分だろう」

 

次々に鍵を手に取る同級生達。

その表情には先程あった困惑はなかった。

 

「三幻魔だか、赤き竜だか私には理解不能です~ガ。

教育者として自分がどうすべきなのかは分かっていま~ス」

 

そして残った2つのうち1つの鍵をクロノス教諭が手に取る。

生徒達が自ら戦いに挑むというのだ。

教師である自分がどうあるべきか、長年教師をしているクロノス教諭は分かっているのか言い切った。

それぞれ決意を決めた十代達に鮫島校長は微笑んだ。

 

「ありがとうございます、皆さん。

聖星君。

どうやら皆の決心はついたようです」

 

「校長はそれでも良いのですか?

生徒が闇のデュエルの犠牲者になるかもしれないんですよ」

 

「貴方も私の生徒です。

そして私は私の生徒を信じています。

だからこの鍵を貴方達に託そうと思いました」

 

しっかりと前を向いて話す鮫島校長。

もうこれはどれだけ説得しても頷いてくれない顔だ。

彼から十代達に視線を移した聖星は、皆も鮫島校長と同じ顔をしているのに気が付いた。

これ以上自分1人が止めて欲しいと言っても無駄だろう。

そう悟った聖星は諦めたかのように微笑んだ。

 

END




明けましておめでとうござい。
もう2015年だなんて早いですね…
あと3か月もしたら投稿を開始してから1年です。
まだデュエル構成や技術に未熟な面があると思いますがよろしくお願いします。

そして今回はセブンスターズ編の第一話となります。
鍵の守護者の中に取巻も入れる予定だったのですが、そうなったら誰かを外す必要が出てきますし。
大徳寺先生は敵側ですから外す事に抵抗はありませんが、他のメンバーは少し抵抗があったので…

そしてヨハンの留学話。
聖星が思いっきりフラグをへし折っています。
だって鍵の守護者でもないのにアカデミアに来たってこいつ何するの…?という事になりますからね。
ペガサスのお蔭で護衛がついているヨハン。
やったね、闇堕ちフラグはまだへし折られていないよ(白目)


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