遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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第二十五話 調整デュエルという名の本気のデュエル

 

「ってなわけで、その鍵を守る事になったのさ」

 

「……おい、現実逃避していいか?」

 

もう少しで完全に青空が紅色に染まる時間帯、デッキ編集をしていた取巻はつい零してしまった。

主力だった【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】が盗まれ戦力が低下し、新たに構築しなおしたが未だに以前のような展開力には至らない。

自分が持っているカードで限界を覚えていた頃、十代から電話がかかってきた。

どうせ宿題を手伝ってくれという頼みだろうと思いながら通話ボタンを押すと頭を抱えたくなるような話が出てきて眩暈がする。

 

「墓守の一族との闇のデュエルが終わって平穏な日々に戻ったと思ったら次はセブンスターズ? 

三幻魔? 

あぁ、何でこの島はオカルトだらけなんだよ、訳が分からない!」

 

「何だよ、楽しいから良いじゃねぇか」

 

「お前はもう少し事態を重く見ろ!」

 

つい力んで机を叩いてしまった取巻。

その音が向こう側にも伝わったようだが十代は相変わらずヘラヘラと笑っている。

しかしその表情はすぐに消えてしまった。

 

「なぁ取巻」

 

「何だ?」

 

「聖星ってさ、いつからあんなものを背負ってたんだろうな」

 

「は?」

 

突然変わってしまった話題に取巻は疑問符を浮かべる。

聖星は十代と同じように鍵の守護者に選ばれた。

画面越しに映るめったに見ない表情に取巻はため息をついた。

 

「俺達は校長からこの鍵を託された……

けど聖星の奴、その前から三幻魔の封印について知っていたらしいんだ」

 

「何だって……?」

 

「三幻魔を封印した奴の魂に復活を阻止するよう頼まれたんだってよ」

 

「不動が?

それ、あいつが直接言ったのか?」

 

「あぁ」

 

「あいつ……」

 

「取巻、お前、闇のデュエルに関わったのってあの時が初めてだろう?」

 

「当たり前だろう。

そう何度もあってたまるか」

 

大徳寺先生が担当している授業の一環で行われた古代遺跡への探検。

取巻は行くつもりはなかったが、十代に誘われて行く事になってしまった。

しかしその場所に行くと自分達は異世界に飛ばされ、墓守の一族と名乗る者達に襲われた。

墓を荒らした罰として共に行動した翔達は棺の中に捕えられ、偶々別の場所に飛ばされた取巻と十代は皆の命を懸けて闇のデュエルをしたのだ。

 

「実はさ、冬休みにも精霊が襲って来たんだ」

 

「なっ!?」

 

「オベリスクブルーの向田達が召喚した【サイコ・ショッカー】が俺と聖星を生贄にしようとしてきてよ。

まぁ、その時俺は聖星に殴られて気絶していたから詳しい事は相棒から聞いた程度しか分からねぇ。

けど、そのデュエルも闇のデュエルだった……」

 

向田を助けるためにデュエルを申し出る自分を止める聖星を臆病と言った。

あの時の十代は向田を助ける事しか頭になく、そのデュエルがどれほど危険なものなのか全く想像しなかった。

けど今なら分かり、何故聖星が気絶させてまで代わろうとしたのか理解できる。

 

「お前の代わりに不動が、か……

確かに不動はここに来る前から闇のデュエルについて知っていた可能性はあるな。

それで、遊城は何をそこまで気に病んでいるんだ?」

 

「気に病むつーか、心配なんだよ。

【サイコ・ショッカー】の時は俺を気絶させて守ろうとしたし、鍵を貰う時も聖星は俺達を遠ざけようとした。

絶対あいつ、俺達を守る為に無茶な事するだろ」

 

「俺からしてみればお前も無茶な部類に入るがな」

 

だが十代の言いたい事も理解はできる。

彼の技術さえあれば、学園内の監視カメラをハッキングし、不審者を誰よりも早く発見する事は可能のはず。

他の鍵の所有者が接触する前に彼1人で片づけようとするかもしれない。

 

「そんなに心配だったら不動の傍にいたらいいだろう。

ついでに勉強も見てもらえばお前の学力も伸びて一石二鳥だ」

 

「うげっ、勉強は勘弁!」

 

明らかに嫌そうな表情をする十代。

そんなに嫌がって勉強から遠ざかり、成績が下がるから聖星が鬼になるのだ。

自分から悪循環の扉を開いているのに理解できていない十代にため息が出る。

 

「あ、そうだ取巻。

パック買ったらドラゴン族が何枚か当たってよ、いるか?」

 

「どんなカードだ?」

 

「実物見たほうが早いって。

じゃあ俺の部屋で待ってるからな」

 

「はぁ!? 

な、おいっ!!」

 

一瞬で暗くなる画面。

一方的に切られた通話に十代の言動に苛立ってくる。

だがこれが遊城十代という男だ。

諦めの境地が見え始めた取巻はデッキケースを手に取り、レッド寮へ向かった。

 

**

 

十代の部屋に並べられたカード達。

それを見ながら睨めっこをしている十代と聖星はあーでもない、こーでもないと言葉を放つ。

 

「とりあえず融合デッキにこの【HERO】達は全部入れておいたほうが良い。

融合デッキに枚数制限はないんだ」

 

「けどよ~、本当に良いのか、こんなにカードを貰ってよ」

 

「セブンスターズは闇のデュエルを仕掛けてくる。

絶対に勝たないといけないデュエルなんだ。

強化できる面は強化しておいた方が良い」

 

2人の間にあるカードは十代のデッキに投入できそうな新たなカード達。

以前聖星と交換しようとしたが、断られてしまったカードだ。

本来ならこの時代、またはこの世界には存在しない【E・HERO】ではあるが事情が事情のため聖星は手渡す事を決めてしまった。

 

「後は丸藤先輩に【サイバー・ドラゴン】関係のカードを渡して……

クロノス教諭には【歯車街】だな。

三沢は汎用性の高いカードとか? 

なぁ十代、万丈目と明日香には何を渡せば良いと思う?」

 

「聖星っさ、何気に俺達に対して過保護だよな」

 

「え、そう?」

 

「おう」

 

「……取りあえず、どうして不動がここにいるんだ?」

 

「取巻君を呼んだ理由とほぼ同じっすよ」

 

「十代、ドラゴン族だけじゃなく魔法使い族も当てたんだな」

 

「で、それを聞いた聖星君が丁度良いって事で兄貴にレアカードを渡そうとしているっす」

 

サイバー犯罪者を逆探知したり、監視カメラの映像をハッキングしたりした時には見せなかった表情を浮かべる聖星。

あの時の彼はただ息を吸うかのような自然な表情だった。

しかし今の彼は十代の勉強を見ている時以上に真剣で、傍から見れば少し怖い。

闇のデュエルを経験した取巻として聖星の警戒心は理解できる。

あんな苦痛で精神的にかなりまいってしまうデュエルなら心に余裕を持つため、強いカードを投入して安心したい。

 

「お、取巻、やっと来たか」

 

「やっとって、レッド寮まで何分かかると思ってるんだ」

 

靴を脱いで部屋に上がった取巻はその場で胡坐をかく。

2人と同じように並べられているカードを見下ろし、聖星に顔を向けた。

 

「不動、お前……

これをタダで渡す気か?」

 

「十代から魔法使い族7枚くらい貰うから、7枚渡そうって言ってるだけ。

トレードだよ、トレード」

 

「7対7でも釣り合ってないぞ!」

 

「だろ!?」

 

並べられているのは持っている属性を指定している融合モンスター4枚。

そして【E・HERO】の専用カード達。

十代が渡そうとしている魔法使い族も見せてもらったが釣り合っているとは思えない。

 

「神楽坂の時も思ったが、お前変なところで感覚がずれているな」

 

「おう、俺もそう思う」

 

取巻の言葉に十代は深く頷く。

言われている聖星としては神楽坂の時はともかく、今は命懸けの闇のデュエルをする目前だ。

デッキを強化し十代達が傷つく可能性が下がるのなら喜んで渡すつもりだ。

 

「お、そうだ。

ほら、取巻、渡そうと思ったドラゴン族のカード」

 

「悪い、俺も一応戦士族関連のカードを持ってきた」

 

「マジか、どんなカードだ?」

 

「そんなたいした物じゃないさ」

 

取巻からカードを受け取った十代はカードをさっそく並べる。

翔達も顔を覗き込み、どんなカードを持ってきたのか見てみる。

 

「んで、取巻。

お前はそれでトレードしても大丈夫か? 

俺はオーケーだぜ」

 

「あぁ、構わない」

 

「んじゃ、トレード成立って事で」

 

互いに新たなカードを手にした3人はその場でデッキを広げて構築し直す。

特に聖星は十代のデッキ構築に熱を入れ、自分のデッキ構築は後回しにしている。

 

「なぁ、聖星。

お前はデッキを見直さなくて良いのかよ」

 

「あぁ。

セブンスターズとの戦いは丸藤先輩とのデュエルで使うデッキに少しカードを入れ替えものだけで行くつもりだ。

今更見直すつもりなんてないさ」

 

入学して以来、この学園ではカイザーにしか使わなかった全力の【魔導書】デッキ。

【サイコ・ショッカー】の時のように窮地に陥らないためにもあのデッキで戦うしかない。

今まで1度もあのデッキと戦った事のない十代は若干セブンスターズが羨ましかった。

 

「だったら不動、後で遊城のデッキの回り具合を見るためにその【魔導書】デッキでデュエルしてみたらどうだ?」

 

「え?」

 

「お、ナイスアイディアだぜ取巻! 

聖星、これが終わったらすぐにデュエルな!」

 

「……それもそうだな」

 

まさかの提案に聖星は困った表情を浮かべたが、全力のデッキとデュエルして実力を見るのも悪くはない。

あのデッキとのデュエルで一方的に負けるようだったらまた構築し直さなくてはならない。

いつ攻めてくるか分からない以上、早いうちに確認しておいた方が良い。

もし全力のデッキと互角と戦う事が出来れば、聖星自身ある程度安心はできる。

 

「つ、ついにお兄さん以外の人があのインチキデッキとデュエルするんすね」

 

「翔、インチキは聖星に失礼なんだな」

 

「だって手札が0枚になったと思ったら6枚に増えてるんだよ! 

しかも3ターン連続!

インチキって言わずになんて言うんだよ、隼人君!」

 

「……翔、否定はしないけど地味に傷つくから止めてくれない?」

 

背後で断言している同級生に苦笑を浮かべてしまう。

中学時代を思い出してしまったが、あの時と比べたら断然マシな言い方だ。

少し遠い目をしている聖星を見ながら取巻は呟いた。

 

「俺からしてみればそんなカードを使わずに一気に手札を増やす遊城の存在自体がインチキだけどな」

 

「へへっ、運も実力のうちっていうだろう!」

 

**

 

デッキ編集を終え、夕食を食べずに聖星達は外に出た。

別に調整くらい卓上デュエルで十分じゃないか、と思ったが十代曰く「お前の全力との初戦が卓上デュエルなんて地味すぎるだろ!」らしい。

セブンスターズの事なんて頭の中からすっぽり抜け、ただ早くデュエルしたいと訴える十代に聖星は微笑んだ。

あのデッキを何度も目にしているのに、こんな風に接してくれるのは純粋に嬉しい。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は俺だぜ、ドロー! 

俺は【E・HEROエアーアン】を召喚!」

 

「はっ!」

 

デュエルディスクから光が発せられ、鋼の翼を持つヒーローが召喚される。

デッキにピン差しだというのに初手にそのカードを握っているとは流石十代。

 

「【エアーマン】は召喚した時、デッキから【HERO】を手札に加える事が出来る。

俺は【E・HEROフェザーマン】を手札に加えるぜ。

カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

十代の場には攻撃力1800の【エアーマン】に伏せカードが2枚。

先攻1ターン目としては良い布陣だろう。

カードをドローした聖星は加わったカードを見てみる。

 

「俺は【魔導教士システィ】を攻撃表示で召喚。

魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

【グリモの魔導書】はデッキから【魔導書】と名の付くカードを手札に加える魔法カード。

俺は【魔導書の神判】を手札に加え、ターンエンド」

 

「は?

もう終わりかよ?」

 

「手札が悪かったんだ。

けど、【システィ】の効果は発動させてもらう。

【システィ】の効果発動!

【魔導書】と名の付く魔法カードが発動されたターンのエンドフェイズ時、彼女は次元を超え、デッキから新たな【魔導書】とレベル5以上の闇または光の魔法使いを手札に加える。

俺は【グリモの魔導書】と【魔導法士ジュノン】を手札に加える」

 

珍しいものを見た気分だ。

対戦している十代も、観客となっている取巻達も同じことを思った。

普段の聖星のデュエルならもっと【魔導書】を発動し、デッキを圧縮するはず。

それなのに今回聖星が使用したカードはたったの2枚。

手札の枚数は今7枚となり、制限を超えてしまったがそれさえも彼は滅多な事ではしない。

 

「俺は手札から【魔導召喚士テンペル】を墓地に送り、手札を6枚にする。

さ、十代。

君のターンだ」

 

「普段のお前だったら場に【バテル】や【ゲーテの魔導書】が伏せてあるんだけど、今回はそれがねぇのか……

手札に【速攻のかかし】がいるとか?」

 

「さぁ。

それは攻撃してからのお楽しみ」

 

「違いねぇ。

行くぜ! 俺のターン、ドロー!」

 

手札を増やした十代は改めて聖星の場を見る。

彼の手札の枚数は6枚、場にカードは1枚も存在しない。

ここで十代が新たなモンスターを召喚し、ダイレクトアタックを決めてしまえばあっさりと勝負はついてしまう。

しかし聖星がそう簡単に攻撃を通すわけはないと経験上知っており、どうやって防ぐのか十代は楽しみにしている。

口元に弧を描いた十代は手札の魔法カードを使うんだ。

 

「俺は手札から魔法カード【融合】を発動! 

手札の【フェザーマン】と【バーストレディ】を融合し……

マイフェイバリット、カード! 【E・HEROフレイム・ウィングマン】を融合召喚!」

 

「ふんっ!」

 

炎と風を味方につける英雄が互いに合わさり、更なる英雄へとパワーアップする。

大きな翼を広げ、十代の前に立った【フレイム・ウィングマン】は腕を組みながらがら空きの場を見つめる。

 

「行くぜ、【フレイム・ウィングマン】! 

聖星にダイレクトアタック!」

 

攻撃力の高い【フレイム・ウィングマン】が先に大地から飛び立ち、聖星に向かって蹴りを入れようとする。

向かってくる攻撃に聖星は何かをしようとする動きがない。

それを不審に思いながら十代は叫んだ。

 

「フレイムシュート!」

 

「たぁ!」

 

「うっ!!」

 

「あ! 

聖星君、まともに受けちゃったっす!」

 

「これで聖星のライフは1900。

【エアーマン】の攻撃を受けたらライフは後100なんだな!」

 

デュエルディスクから発せられる電子音と共に聖星のライフが1900まで減っていく。

その様子に翔達は驚きを隠しきれない。

まさか先程聖星の言う通り、手札が悪かったのか。

十代は怪訝そうな表情を浮かべながらも次の攻撃を宣言しようとした。

 

「え?」

 

【フレイム・ウィングマン】が場に戻ると同時に聖星の足元から白煙が上がる。

じょじょに白煙は聖星の姿を隠し、そう思えば金属同士が擦り合うような音が聞こえ、何やら周りの温度が下がった気がする。

何かが起こったと悟った十代はすぐに不敵な笑みを浮かべ、白煙の向こう側に存在する何かを凝視する。

 

「特殊召喚、【冥府の使者ゴーズ】、【冥府の使者カイエン】」

 

聖星がカード名を宣言すると同時に煙は一瞬で晴れ、そこには巨大なゴーグルで目元を隠す男性と鎧のようなものに身を纏う女剣士が膝を着いていた

2人は身を屈めて地に膝を着きながらも、十代達を牽制するかのように武器を構えている。

 

「何なんすか、あのモンスター!?」

 

「初めて見るカードなんだな……」

 

「不動の場にカードはなかったのに、どういうことだ?」

 

身に着ける鎧、漂わせる雰囲気。

それら全てを考えて上級レベルのモンスターだと言うのは分かる。

だが何故それらが守備表示で特殊召喚されたのか理解できなかった。

 

「【冥府の使者ゴーズ】は俺の場にカードが存在せず、ダメージを受けた時手札から特殊召喚出来るモンスターなんだ。

今俺の場にカードは0。

よって特殊召喚の条件はクリアしている」

 

「だからお前、カードを場に出さなかったのか……

カイザーとのデュエルでも使った事のないモンスター、すげぇ、ワクワクしてきたぜ!」

 

「丸藤先輩が相手だったら【ゴーズ】より【速攻のかかし】や【一時休戦】の方が安心できるからな」

 

聖星の言葉に皆はカイザーとのデュエルを思い出す。

【ゴーズ】の特殊召喚の条件が、場ががら空きの状態でダメージを受ける事なら、カイザー相手にそれは無意味な事だ。

聖星を相手にしている時のカイザーは【パワー・ボンド】で【サイバー・エンド・ドラゴン】達の攻撃力を2倍にし、1度にライフを削りに来ている。

この程度の攻撃力ならまだライフポイントは大丈夫だと油断していると【リミッター解除】が発動される事も……

 

「そして【ゴーズ】は受けたダメージの種類によって新たな効果を発揮する。

効果ダメージなら受けたダメージと同じ数値分を十代に与える。

けど戦闘ダメージだった場合、【フレイム・ウィングマン】の攻撃力の数値と同じ攻撃力、守備力を持つ【カイエントークン】を特殊召喚するのさ」

 

「だから1度に2体も出てきたのか! 

って事は【カイエン】の攻撃力、守備力は2100で……【ゴーズ】の守備力は2500か……

攻撃できねぇな」

 

「【エアーマン】の攻撃力は1800。

仮に十代が攻撃しても反射ダメージを受けるだけなんだな」

 

「【スカイスクレイパー】があれば攻撃力を1000ポイント上げて、破壊する事は出来たんだがな」

 

「けど、どうして聖星君は【ゴーズ】と【カイエン】を守備表示で特殊召喚したんすか?

兄貴の場で攻撃できるのは攻撃力1800の【エアーマン】しか存在しないんすよ。

別に攻撃表示でもよかったんじゃないの?」

 

膝を着きながら十代のフィールドを見ている男女は間違いなく守備表示。

【ゴーズ】の攻撃力は2700、【カイエン】は2100と【エアーマン】より高い数値だ。

十代の場に攻撃力の高いモンスターがいるのならわかるが、いないのに守備表示で出す理由が理解できない。

翔の言葉に聖星は微笑みながら解説する。

 

「コントロールを奪われても大丈夫なように守備表示にしたんだ。

十代のデッキに相手モンスターのコントロールを奪うカードは少ないっていうのは分かっているけど……

攻撃表示の【ゴーズ】のコントロールを奪われて攻撃されると、特殊召喚する時に受けた戦闘ダメージと合わせてライフが0にされるかもしれないだろう」

 

「ふぅ~ん」

 

納得出来たような、出来なかったような微妙な顔を浮かべる翔。

デュエル後に改めて説明するかと思いながら十代に目をやる。

十代からしてみればダメージを与えたが、大型のモンスターが2体も現れ、次のターン反撃されるかもしれない状況。

さて、十代はこの状況をどうするのだろうか。

明らかに楽しんでいる十代に聖星は微笑んだ。

 

「へへっ、攻撃力2700と2100のモンスターか。

良いぜ、俺はこれでターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。

俺は手札から速攻魔法【魔導書の神判】を発動。

このターンのエンドフェイズ時、俺はこのターン発動された魔法カードの枚数までデッキから【魔導書】と名の付く魔法カードを手札に加える。

その後、加えた枚数以下のレベルの魔法使い族モンスターを特殊召喚する」

 

「来たか、【魔導書の神判】!」

 

目の前に現れた速攻魔法に十代はさらに深い笑みを浮かべた。

自分が未だに白星をあげていないカイザー相手に互角に戦う事が可能になる魔法カード。

聖星の全力の代名詞とも言えるカードはずっと十代が対戦してきたいと思っていたものだ。

それがどんな形であれ、こうやって戦う事が出来る。

絶対に勝つ、そう決めた十代は次の一手に構える。

 

「手札に存在する【グリモ】、【セフェル】、【トーラの魔導書】3枚を見せる事で【魔導法士ジュノン】を特殊召喚する!」

 

【ゴーズ】と【カイエン】の間に描かれるピンク色の魔法陣。

次々に魔法の文字が浮かび上がり、それは回転しながら光の柱を生み出す。

轟音と共に現れた光の柱はゆっくりと砕けていき、中から知性を司る女性が現れる。

 

「【ジュノン】の効果発動。

俺の墓地の【グリモの魔導書】を除外する事で十代の場のカードを1枚破壊する。

俺は右側の伏せカードを選択する。閃光の魔導弾(レイ・ジャッジ・ブラスト)!」

 

聖星の勢いのある声に応えるよう【ジュノン】はキレのある動きで書物を広げる。

目的のページを開くと彼女の周りに淡い光が集まりだし、手のひらに魔力が集まる。

ゆっくりと詠唱を始めた彼女は狙いを定め十代の伏せカードを破壊した。

対象となった罠カードは表になり、その姿を晒して粉々に砕ける。

 

「手札から魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【ヒュグロの魔導書】を手札に加える。

そして【セフェルの魔導書】を発動。

このカードは俺の場に魔法使い族が存在する時、このカード以外の【魔導書】を見せる事で、墓地に存在する通常魔法の【魔導書】の効果をコピーする。

俺が見せるのは【ヒュグロの魔導書】で、コピーするのは【グリモの魔導書】だ。

よってデッキから新たな【魔導書】を手札に加える」

 

場に現れたのは【魔導化士マット】が闇に侵されていく場面を描いたコピー能力を持つカード。

禍々しい紫色の光を纏いながら【セフェルの魔導書】は淡い光を纏う【グリモの魔導書】へと変わり、最後にフィールド魔法カードへと変わっていく。

 

「俺はフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】を選択し、発動」

 

デュエルディスクを付けている腕を前に出すと、ディスクから光が発せられ海が見える景色は一瞬で変わってしまった。

魔法の文字が浮かび上がり、鋼で出来た魔力の英知を学ぶ図書館のような場所が現れる。

聖星のドローソースの発動に十代は更に鼓動が高鳴った。

 

「手札から【ヒュグロの魔導書】を発動。

【ジュノン】の攻撃力を1000ポイントアップさせる。そして【ゴーズ】と【カイエン】を攻撃表示に変更。

行くぜ、十代。

【ジュノン】で【フレイム・ウィングマン】に攻撃。

女教皇の裁き(ハイプリーステス・ジャッジメント)!!」

 

灼熱の炎のように赤く燃えたぎる英知を授かった【ジュノン】は内側から溢れる力を感じていた。

ゆっくりと目を閉じた【ジュノン】は掌を高く上げ、先程のように魔力を集める。

魔力が彼女の手に集まる事で気流が生まれ、微かに服が靡く。

勢いよく目を開いた【ジュノン】は【フレイム・ウィングマン】に攻撃する。

 

「罠発動、【攻撃の無力化】!」

 

「あ」

 

「悪いな聖星!このターンのバトルは強制終了させてもらうぜ!」

 

【フレイム・ウィングマン】に向かっていく魔力は勢いを落とさずに直進する。

だが彼らを守るように異空間へと繋がる渦が現れ、彼女の魔力はそこに飲み込まれていく。

その光景に【ジュノン】は額に青筋を立て【カイエン】はやれやれと言うように両手を上げた。

 

「あちゃ~、不発か。

じゃあ俺はカードを2枚伏せてターンエンド。

そして【魔導書の神判】の効果が発動する。

俺がこのターン使用した魔法カードは4枚。

よって俺はデッキから【グリモ】、【アルマの魔導書】、【魔導書廊エトワール】を手札に加え、レベル3の【魔導教士システィ】を攻撃表示で特殊召喚する。

【システィ】を除外し、【魔導書の神判】と【魔導法士ジュノン】を手札に加える。

これで終わりだ」

 

「【ゲーテ】はなし、か……

俺のターン、ドロー。

俺は手札から【融合回収】を発動。

融合素材に使用した俺のモンスターと【融合】カードを墓地から手札に戻す」

 

十代の墓地に存在する融合素材モンスターは風を操る英雄と炎を操る英雄の2体。

彼の融合デッキに入っている融合モンスターを思い出し、どちらが加わるのか考えた。

 

「俺は【E・HEROバーストレディ】を選択。

そして魔法カード【融合】を発動! 

場の【エアーマン】と【バーストレディ】を融合させる!」

 

【エアーマン】の隣に現れた【バーストレディ】は凛々しい瞳で【ジュノン】と【カイエン】を見る。

2人の背後にオレンジと青い渦が現れ、2人が吸い込まれると眩しい輝きが放たれ十代のフィールドを照らす。

 

「融合召喚、【E・HERO Great TORNADO】!」

 

「はっ!」

 

荒々しい風を纏いながらマントを翻し【Great TORNADO】はフィールドに降り立つ。

すると彼の足元から風が舞い上がり、聖星の場のモンスターを吹き飛ばそうとする。

【カイエン】と【ゴーズ】は持っている武器を地面に突き刺してその場にとどまり、【ジュノン】は呪文を詠唱して結界を張る。

しかし風の勢いは止まらず、3人を後方に追いやった。

 

「【Great TORNADO】のモンスター効果!

融合召喚に成功した時、相手の攻撃力と守備力を半分にする! 

これでお前のモンスターの攻撃力は下がるぜ!」

 

「半分だから【ジュノン】は1250、【ゴーズ】は1350、【カイエン】は1050……

十代のヒーローを下回ったか」

 

「へへっ、まだ終わらないぜ!

手札から魔法カード【ミラクル・フュージョン】を発動!

墓地の【バーストレディ】と【フェザーマン】を融合し、【E・HEROノヴァマスター】を融合召喚!」

 

墓地に眠り、仲間の活躍を見守っていた【フェザーマン】達が再び場に現れる。

すると地面が裂け始め、地下から炎が湧き上がる。

共に灼熱を纏う男性型のヒーローが登場し、赤い肉体を見せるかのように回転して着地した。

 

「【ノヴァマスター】、兄貴の新しいヒーローっす!」

 

「これで十代の場にも3体の【E・HERO】が揃ったんだな!」

 

「遊城の場には攻撃力2100、2800、2600のモンスター。

不動のライフは残り1900。

これは冗談抜きでやばいんじゃないのか」

 

「バトルだ! 【フレイム・ウィングマン】、【ジュノン】に攻撃だ!」

 

十代は真っ先に聖星のエースである【ジュノン】を指さす。

特殊召喚が成功した以上、【ゴーズ】達は攻撃力1500以下の通常モンスターも同然。

それに対し【ジュノン】は破壊効果を持つ、妥当な判断だろう。

【フレイム・ウィングマン】は自慢の脚力で空高くに飛び上り【ジュノン】に向かって飛び降りる。

 

「罠発動、【和睦の使者】。

このターン、俺のモンスターは破壊されず、ダメージも受けない」

 

「あ~、やっぱし入ってたか、そのカード」

 

「フリーチェーンのカード程使い勝手が良いカードはないだろう」

 

「聖星、【強制脱出装置】もよく使うよな。

お前以外に使ってる奴ってあんまり見ないぜ」

 

「俺としてはどうして使わないのか分からないんだよ」

 

【強制脱出装置】はたった1枚で相手が苦労して召喚したカードを手札に戻し、水の泡にする事が出来る。

発売当初は評価が低いと未来で教わったが、聖星はそんなに低く評価されるような効果とは思っていない。

十代達が手札を3枚消費して特殊召喚した融合モンスターだって何度もデッキに強制退出してもらった事もある。

 

「俺はカード2枚伏せて、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。

スタンバイフェイズ時、フィールド魔法【魔導書院ラメイソン】の効果発動」

 

聖星の足元に紫色の歪みが発生し、そこから【グリモの魔導書】が現れる。

 

「俺は【グリモの魔導書】をデッキの1番下に戻し、デッキからカードを1枚ドローする。

手札の【グリモ】、【アルマの魔導書】、【魔導書の神判】を相手に見せる事で【魔導法士ジュノン】を特殊召喚する」

 

「はっ!」

 

「そして永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動。

【魔導書】と名の付く魔法カードが発動する度にこのカードに魔力カウンターを1つ乗せる。

そして俺の魔法使い族はカウンターの数×100ポイント攻撃力をアップ。

さらに速攻魔法【魔導書の神判】を発動。

効果は説明しなくてもいいよな?」

 

「あぁ。大丈夫だぜ!」

 

「俺は【グリモの魔導書】を発動し、デッキから【セフェルの魔導書】をサーチ。

そして手札の【アルマの魔導書】を見せ、【セフェルの魔導書】を発動。

【グリモの魔導書】の効果をコピーする。

俺は【グリモの魔導書】の効果でデッキから【ゲーテの魔導書】をサーチ」

 

十代が記憶している【魔導書】のカードが殆ど聖星の手札、場、墓地に揃った。

しかもフィールドには破壊効果を持つ【ジュノン】が2体と魔力カウンターが3つ乗った【魔導書廊エトワール】が存在する。

一気に攻めてくると分かった十代は気を引き締める。

 

「攻撃力の低い【ジュノン】の効果発動。

墓地の【魔導書の神判】を除外し、【E・HEROノヴァマスター】を破壊!」

 

【ジュノン】はページを開いて呪文を詠唱する。

【Great TORNADO】のせいで攻撃力が下がった彼女を助けるよう、もう1人の【ジュノン】も詠唱を始める。

互いに手を重ねながら続く詠唱の力は1体の時の比ではなく、【ノヴァマスター】を包み込めるほどの魔力を生み出す。

 

「【ジュノン】、閃光の魔導弾(レイ・ジャッジ・ブラスト)!」

 

「はぁあっ!」

 

「くっ、ぐぁ!!」

 

行けぇ!と言うかのように声を張り上げた彼女達が放った魔力は【ノヴァマスター】を直撃する。

体中に電撃が走るような衝撃に【ノヴァマスター】はそのまま爆発して消し飛んでしまった。

 

「墓地の【ヒュグロの魔導書】を除外し、もう1体の【ジュノン】で【Great TORNADO】を破壊。

閃光の魔導弾(レイ・ジャッジ・ブラスト)!」

 

聖星の宣言に2人は互いに目を合わせて頷き、再び詠唱を始める。

自分にも来ると分かった【Great TORNADO】は構えたが、2人はそのまま魔力を放った。

淡い光の攻撃に【Great TORNADO】は爆風の中に姿を消した。

一気に2体のモンスターが消え去った事に2人の【ジュノン】は【カイエン】を交えてハイタッチをする。

【ゴーズ】は親指を立て、【ジュノン】はVサインで返した。

 

「楽しんでいるところ悪いが、ヒーローはそう簡単には退場しないぜ!」

 

「え?」

 

十代の言葉に聖星は怪訝そうな表情をする。

それは【ジュノン】達も同じで、まだ場に残る炎と煙を目を凝らしてみるとそこに【Great TORNADO】が立っていた。

 

「え、どうして?」

 

「俺は罠カード【ボム・ガード】を発動させていたのさ!」

 

「【ボム・ガード】?

確かモンスターの破壊効果を無効にし、俺に500ポイントのダメージを与えるカード……」

 

「そういう事だ」

 

にっ、とVサインをした十代に聖星はつられて微笑んだ。

すると聖星の目の前に手のひらサイズの球体が飛んできて、それが目の前で爆発する。

これで聖星のライフは1400となった。

 

「(……今、俺の手札には【ゲーテの魔導書】がある。

墓地には【セフェルの魔導書】が2枚に【魔導書の神判】が1枚あるから、発動は可能。

問題は十代の伏せカード2枚と【Great TORNADO】に【ゲーテの魔導書】を使う価値があるか、ってところだな)」

 

いつもだったら【ジュノン】の破壊効果は伏せカードを除去する事を優先して使っている聖星。

しかし今回は【ジュノン】達の攻撃力を半分にされたおかげで、相手モンスターを戦闘破壊するのが難しくなってしまった。

だからモンスターを破壊したのに【Great TORNADO】が返ってくるとは思わなかった。

 

「(【魔導書廊エトワール】に乗っている魔力カウンターは3つ。

【ゲーテの魔導書】を発動すれば4つとなり、【ジュノン】の攻撃力は2900となり攻撃力2800の【Great TORNADO】を破壊する事は出来る。

……けど問題は)」

 

【Great TORNADO】の隣に存在する【フレイム・ウィングマン】。

攻撃力は2100で、仮に【ゲーテの魔導書】を発動して魔力カウンターを増やしたとしても攻撃力の低い【ジュノン】は1650。

戦闘破壊出来る数値ではない。

【ゴーズ】と【カイエン】は種族が違うので恩恵を受けることは出来ない。

ここで【Great TORNADO】を攻撃して破壊しても、次のターン【フレイム・ウィングマン】の攻撃で効果ダメージを受けてしまうのは確実。

 

「(あれ、【ゲーテの魔導書】で【フレイム・ウィングマン】の表示形式を変更すれば良いんじゃないのか?)

俺は手札から速攻魔法【ゲーテの魔導書】を発動。俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時発動できる。

墓地に存在する【セフェルの魔導書】2枚を除外し、【フレイム・ウィングマン】を裏側守備表示に変更」

 

「げ!」

 

墓地から現れた2冊の書物はそのまま光の粒子となって消え、同時に【フレイム・ウィングマン】が裏側守備表示となる。

これで新たに魔力カウンターが4つとなり、【ジュノン】達の攻撃力はそれぞれ2900と1650となる。

 

「さらに【アルマの魔導書】を発動。

このカードは除外されている【魔導書】を手札に加える効果を持つ。俺は【グリモの魔導書】を手札に加える」

 

「これで魔力カウンターは5つ。

【ジュノン】の攻撃力は3000と1750か…」

 

【フレイム・ウィングマン】の守備力は1200。

例え【Great TORNADO】の効果で攻撃力を半分まで下げられているとはいえ、十分に破壊出来る数値だ。

【ゴーズ】は好戦的な笑みを浮かべ、両手の関節を鳴らし始めている。

 

「攻撃力3000の【ジュノン】で【E・HERO Great TORNADO】を攻撃。

女教皇の裁き(ハイプリーステス・ジャッジメント)!!」

 

「罠発動、【聖なるバリア-ミラーフォース-】!」

 

「リバースカード、オープン。

速攻魔法【トーラの魔導書】。

攻撃力の高い【ジュノン】に罠カードの耐性をつける。

同時に攻撃力が100ポイントアップ。

これで【ミラフォ】の効果で破壊されるのは攻撃力の低い【ジュノン】と【ゴーズ】、【カイエン】だ」

 

「あぁ、3体には消えてもらうぜ!」

 

【ジュノン】が向けた魔力は目に見えない何かによって弾かれそうになる。

跳ね返ってきそうな自分の力に【ジュノン】は顔を歪めるが、足を踏ん張って声を張り上げ、無理に突破しようとする。

すると光は4つに分断し、それぞれ聖星の場の3体、十代の【Great TORNADO】に降り注いだ。

悲鳴と共に爆発音が聞こえ、十代のライフが3700となった。

 

「メインフェイズ2だ。

手札の【グリモの魔導書】を見せ、墓地に存在するレベル3の【魔導召喚士テンペル】を除外し、装備魔法【ネクロの魔導書】を発動。

墓地に眠る【ジュノン】に【ネクロの魔導書】を装備し、墓地から特殊召喚する」

 

「あれ、墓地から蘇ってきたって事は……」

 

「そう。

もう1度効果が使えるのさ。

【アルマの魔導書】を除外し、【ジュノン】、裏側守備表示モンスターを破壊!」

 

聖星の声に復活したばかりの【ジュノン】は頷き、裏側守備表示のモンスターを攻撃する。

これで十代の場にはモンスターも伏せカードも何もなくなってしまった。

 

「俺はカードを3枚伏せてターンエンド。

【魔導書の神判】の効果でデッキから【トーラ】、【アルマ】、【グリモの魔導書】を手札に加える。

そして加えた枚数が3枚により、レベル3の【魔導教士システィ】を特殊召喚。

【システィ】を除外して【ジュノン】と3枚目の【魔導書の神判】を手札に加える」

 

「3枚目の【魔導書の神判】か……

流石にこれ以上デュエルを長引かせたら辛いだろうな、聖星」

 

「あぁ。

俺のデッキに残り何枚【魔導書】が眠っているか、正直考えたくもないよ」

 

「へへっ。

お前の全力デッキでのデュエルなんだ。

デッキ切れで負けるなんて認めねぇからな」

 

「俺だってそんな負け方ごめんだな」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

十代の場にカードは存在せず、手札は今ドローしたカードのみ。

普通だったら絶望的な状況に諦めるだろうが目の前にいるのは遊城十代。

ピンチになればなるほど力を発揮し、逆転劇を披露する天才肌の少年だ。

どんなカードを引いたのか気になる聖星は楽しそうな表情で十代を見る。

 

「俺は手札から【E・HEROバブルマン】を特殊召喚する!」

 

「引いたのはやっぱりそいつか……」

 

「あぁ。

俺の手札がこのカードだけの時【バブルマン】は特殊召喚出来る。

そして俺の場にカードはない。

よって【バブルマン】の効果でデッキからカードを2枚ドロー!

魔法カード【強欲な壺】を発動! 

デッキからカードを2枚ドローする。

さらに魔法カード【大嵐】を発動!」

 

「え?」

 

「今俺の場に魔法・罠カードは存在しない!

悪いが、破壊されるのはお前のカードだけだぜ!」

 

「リバースカード、オープン。

速攻魔法【トーラの魔導書】。

【ジュノン】1体を選択し、魔法カードの耐性をつける」

 

フィールド上に存在する魔法・罠カードは突風に襲われ粉々に砕けようとする。

破壊される前に【トーラの魔導書】は英知を【ジュノン】に託し、光の粒子となる。

他の2枚、【サイクロン】と【神の警告】はあっけなく砕けてしまった。

 

「永続魔法【魔導書廊エトワール】の効果発動。

【エトワール】は破壊された時、乗っている魔力カウンターの数以下のレベルを持つ魔法使い族モンスターをデッキから手札に加える。

魔力カウンターは7つ。

俺はレベル2の【魔導書士バテル】を手札に加える」

 

「不動のデッキの【ジュノン】は3枚とも場と手札にある。

サーチ出来るのは下級魔法使い族だけだ」

 

「【天使の施し】を発動! 

デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てるぜ! 

そして【苦渋の選択】を発動!」

 

「あれ、そのカード入れてたっけ?」

 

「あぁ、ついさっきな。

俺は【E・HEROネクロダークマン】、【クレイマン】、【スパークマン】、【プリズマー】、【ブレイズマン】を選ぶ。

さぁ、聖星! 

1枚選ぶんだ!」

 

「全部【HERO】かぁ。

じゃあ手札に【ミラクル・フュージョン】を握っているのか?」

 

「さぁ、どうだろうな」

 

十代が【苦渋の選択】の効果で選んだカードは全て【E・HERO】。

この中から聖星が1枚だけ選び、十代はそのカードを手札に加え、残りの4枚を墓地に送らなければならない。

これ程の【HERO】を墓地に送るなど、【ミラクル・フュージョン】で融合しますよと宣言されているような物。

今彼の墓地には炎属性の【ノヴァマスター】、風属性の【Great TORNADO】、場には水属性の【バブルマン】が存在する。

選択されている4枚には闇、地、光属性のモンスターが存在するためどれを選んでも無意味な気がしてくる。

 

「(仮に【ミラクル・フュージョン】を握っているとして、あれは場と墓地の【HERO】しか融合素材に出来ない。

【ネクロダークマン】を加えさせたら場に出すためには【バブルマン】を生贄にしないといけない。

仮に【クレイマン】だったらすぐに場に出る。

光属性は【スパークマン】と【プリズマー】2体を選択されているからどっちを選んでも無駄……

あれ、これはどれを選んでも同じ結末じゃないか?)」

 

どれを選択しても、すべて属性HEROの素材が揃ってしまう未来しか見えない。

非常に厄介な状態だと思いながら聖星はカードを指さす。

 

「じゃあ俺は【クレイマン】を選択」

 

「よし、じゃあ俺は【クレイマン】を加えて残りの4枚を墓地に送るぜ。

魔法カード【ホープ・オブ・フィフス】を発動。

墓地の【フレイム・ウィングマン】、【Great TORNADO】、【ノヴァマスター】、【プリズマー】、【キャプテンゴールド】をデッキに戻し、シャッフル。

そして2枚ドロー」

 

「【キャプテンゴールド】? 

いつそんなカードが墓地に行ったんすか?」

 

「さっき遊城は【天使の施し】を発動しただろう」

 

【E・HEROバブルマン】特殊召喚時、十代の手札は0だった。

ドロー効果使用からの【強欲な壺】、【天使の施し】、【苦渋の選択】、【ホープ・オブ・フィフス】……

【バブルマン】でドロー出来るのは2枚のはず、そして【大嵐】を使用したにもかかわらず十代の手札はまだ3枚もある。

【ホープ・オブ・フィフス】の効果でドローを終えた十代は「お」と呟いた。

 

「【ミラクル・フュージョン】を発動! 

場の【バブルマン】と墓地の【スパークマン】を融合し、【E・HEROアブソリュートZero】を融合召喚!」

 

【バブルマン】の足元に落ちている小石達がゆっくりと浮かび上がると持ったら猛烈な吹雪が吹き荒れる。

舞い上がる雪の結晶は巨大な氷と変わり、その氷の中から光を纏いながら1人の【E・HERO】が現れた。

 

「さらに速攻魔法【瞬間融合】!」

 

「あ」

 

発動された速攻魔法の名前に聖星は小さく声を上げる。

同時に自分が敗北する可能性が大きくなってしまった。

 

「場の【アブソリュートZero】と手札の【クレイマン】を融合し、【E・HEROガイア】を融合召喚する!」

 

気品ある振る舞いをする【Zero】はマントを翻して姿を消す。

すると地面が大きく揺れ、亀裂が入り始めた。

【ノヴァマスター】の時とは異なり、灼熱の炎は出てこなかったが代わりに巨大な肉体を持つ英雄が現れる。

大きな腕を持つ【ガイア】は自慢の腕を振り上げる。

 

「【Zero】の効果発動! 

こいつが場から離れた事で、聖星の場のモンスターを全て破壊する!

それにチェーンして【ガイア】の効果!」

 

十代はチェーン1に【Zero】、チェーン2に【ガイア】の効果を発動した。

逆順処理により先に【ガイア】の効果が発動され、【ガイア】はその腕を振り下ろした。

地震並の揺れが起こり、振り下ろした衝撃により地面が深く抉れていく。

衝撃波はそのまま1体の【ジュノン】に向かっていき、彼女の足元は崩れ、膝を着いてしまった。

 

「これで【ジュノン】の攻撃力は半分になり、その数値分【ガイア】の攻撃力はアップするぜ!」

 

【ジュノン】の攻撃力が1250に下がると同時に【ガイア】の攻撃力は3550まで上昇する。

悔しそうに【ガイア】を見上げた【ジュノン】だが、半透明姿の【Zero】の登場に目を見開く。

【Zero】はそのまま両手から吹雪を出し、2人を氷漬けにし、砕けてしまった

 

「行くぜ! 【E・HEROガイア】でダイレクトアタック! 

コンチネンタルハンマー!」

 

「うわぁあ!」

 

氷の破片となってしまった2体の姿に顔を歪めていると、巨大化した【ガイア】の拳が向かってくる。

反射的に目を閉じた聖星はその拳により薙ぎ払われ、ライフが0になってしまった。

 

「やったぁ、勝ったぜ!」

 

勝敗が決まり、十代は握りこぶしを作って喜んだ。

聖星の全力のデッキに勝てたのだ、喜ぶのは当然の事である。

そんな十代に見守っていた【ハネクリボー】も笑顔を浮かべておめでとうと祝福した。

負けてしまった聖星はいつものように微笑んでおり、立ち上がって十代に近寄った。

 

「おめでとう十代」

 

「おう、ガッチャ。

楽しいデュエルだったぜ、聖星」

 

「それくらいで戦えるなら、セブンスターズが襲ってきてもデュエル面では安心かな」

 

「何だよ、なんか含みのある言い方だな」

 

十代の不思議そうな表情に聖星は微笑んで応える。

闇のデュエルは実際に精神的にも肉体的にもダメージを与えるデュエルだ。

デュエルで優位に立つことは出来たとしても、プレッシャーに押し負けてしまう事もある。

そう答えると十代はつい言ってしまった。

 

「別に平気だって。

この間の墓守の一族との闇のデュエルだって、結構楽しめたんだぜ。

……あ」

 

「……十代、それ、どういう意味だ?」

 

発言と同時に笑顔が凍り付いた聖星。

しまったと言いたくなっても後の祭り。

目が据わっている聖星から顔を逸らした十代は助けを求めるよう取巻を見た。

だが取巻は取巻で翔と隼人と話している。

 

「(あいつ、助ける気ねぇな!)」

 

「十代、怒らないから詳しく教えてくれ」

 

「えっと……

取巻から聞いてくれ! 

俺じゃあ説明下手くそで上手く出来る気しねぇからよ!」

 

「なっ、遊城! 

俺の名前を出すな!」

 

「何だよ! 

お前だって一緒にデュエルしただろう!」

 

「……取巻、君までそういう事に巻き込まれたのかよ」

 

「好きで巻き込まれたわけじゃない!」

 

同情の籠った眼差しで取巻を見ると、彼の怒鳴り声が返ってくる。

確かにあんなデュエル、好き好んで関わりたくはないものだ。

内心頷きながらも詳しく聞くため、十代の首根っこをひっつかんだ。

 

END




ガチ魔導を使った聖星vs十代のお話でした
属性HEROだったらガチ魔導相手でも勝てる気がする、ってか勝つ
【バブルマン】の便利さといったら本当に便利ですね。
【Zero】の素材にもなるし、特殊召喚も出来るし、ドロー出来るし。



アンケートを締めきりました。
今までの文章でも構わないと言う意見があり、改善した方が良いという意見はなかったので今まで通りで執筆していきたいと思います。
ありがとうございました。



追記
【エレメンタル・ミラージュ】で【Great TORNADO】は特殊召喚出来なかったのでアニメ効果版の【ボム・ガード】に差し替えました
十代が【ボム・ガード】を使うのに違和感?
……他によさそうなカードが見つからなかったんやorz

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