遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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第二十八話 Encounter

聖星とカイザーがデュエルをしている時、保健室に残っている十代はベッドに横たわりながら暇だとぼやく。

外の景色は相変わらず晴天に恵まれており大した変化はない。

面倒な座学の授業を受けなくてすむのはありがたいのだが、こうも長時間やることがないと体が別の意味で痛くなってしまう。

 

「そんなに暇なら小テストの復習でもするか、遊城」

 

「だ~か~ら!

何ですぐにお前は勉強に持っていくんだよ!」

 

「じゃあ1つ聞くが、体調が治ったあとにきちんと勉強するか?

お前がこうして寝ている間にも教科書は先に進んでいるんだ。

体調が治ったあとに泣きつかれるなら今のうちに俺が先生の代わりに教えたほうがまだマシだろう」

 

「ぐぬぬ……」

 

鞄の中から教科書とノートを取り出した取巻は呆れたように十代を見下ろす。

今までの経験上、十代が遅れを取り戻すため自主的に勉強するとは考えにくい。

そして分からないところを後回しにし、結果進級試験の時に泣きつかれるという。

簡単に想像できる未来など取巻からしてみたら御免こうむりたいもの。

だから暇な時間を見つけて教えに来ているのだ。

 

「よければ天上院さんも一緒に勉強しませんか?」

 

「それもそうね」

 

兄の為に授業を休んでいる明日香も勉強に多少遅れが出るだろう。

しかし彼女は優等生で授業の遅れなどすぐに取り戻すことができる。

だから成績の面ではあまり心配はないが、ずっと眠っている兄の傍にいるのも精神的につかれるはずだ。

そちらを心配している取巻は明日香の言葉を聞いた後鮎川先生に目を向ける。

 

「本当ならそういうことは図書室でやって欲しいし、十代君は怪我人だから止めて欲しいけど……

ま、吹雪君に迷惑がかからなければいいわよ」

 

「ありがとうございます」

 

「お礼なんていいわ。

その代わりちゃんと静かにしてね」

 

安心したように笑った取巻に対し十代は項垂れた。

もしここで鮎川先生が許可しなければ嫌いな勉強をせずにすんだのだ。

「怪我人相手に酷いぜ!」と訴えても笑顔で「安心しろ。要は体を動かさなければいいんだろ?」と返され、さらに顔を青くする。

2人の対話に明日香はくすくすと笑い、取巻の横に腰を下ろした。

 

「くそ~、今頃聖星達は楽しいデュエルしているんだろうな……」

 

「不動が?」

 

「十代」

 

目の前に広げられた教科書の山に顔を引きつらせた十代はつい零してしまう。

もちろんその言葉は取巻にも届いており、察した明日香は咎めるように名前を呼ぶ。

デュエルを禁止され、さらに新システムを生で見る機会を奪われているのだ、デュエル馬鹿の十代がつい零してしまうのも仕方がない。

しかしここには部外者の取巻がいるため、そのような発言は少しマズイ。

 

「そういえば丸藤と前田は授業だからまだ来ないのは分かるが……

三沢や不動はこの時間授業はないだろう。

それなのに来ないのは不思議だな」

 

「今聖星達はセブンスターズと戦うためにデュエルの特訓をしているんだ」

 

「なるほど、それに参加できなくて悔しいってことか」

 

「あぁ」

 

十代らしい理由に取巻は一応納得した。

明日香の態度からもっと別の理由はあると思うが、恐らく鍵の所有者ではない自分が知っても意味のないことだろう。

十代は鍵の話を受けた時すぐに取巻や翔、隼人に全てを話した。

その彼が誤魔化すのだからなおさら知ってはいけないことだと思う。

あっさり納得した取巻に明日香と十代は内心ほっと息をつき、明日香は十代を睨み付けた。

 

**

 

カイザーとのデュエルが終わったあと、聖星は試しにと三沢達にシンクロ召喚用のデッキを貸してみた。

1度見ただけのデュエリストにあのデッキが使いこなせるわけはないと予想してはいるが、デッキの扱いの難しさを体感してもらうためだ。

当然慣れていない皆は上手くデッキが回らず、万丈目など途中で聖星に対して怒鳴ったくらいだ。

「こんなデッキ、この万丈目サンダーの性に合わん!」という言葉に苦笑を浮かべるしかない。

そして今噂の中心となっている吸血鬼が現れた湖に来たのだが……

 

「【星態龍】、【スターダスト】、なにか感じるか?」

 

「微弱な結界を張ってはいるようだな。

人間の目を欺く程度なら充分だろう」

 

「突破は出来そうか?」

 

「これぐらいなら問題はない」

 

「分かった、だったら行くか」

 

目の前に広がっているのはいつもと全く変わらない湖。

穏やかな風が微かに波を立たせ、魚達が泳いでいる。

尤もその魚達は本能で湖の異変に気づき、なるべく遠ざかろうとしているのだが人間の聖星はそれに気づかなかった。

すると【スターダスト】が目の前に降り立ち、問いかけるように鳴く。

 

「グォオ?」

 

「十代達に知らせなくていいのかって」

 

「グォ」

 

聖星は今から敵陣に単身で乗り込むつもりなのだ。

いくら【スターダスト】や【星態龍】が傍にいてもセブンスターズ達が卑怯な手を使ってくるかもしれない。

もしもの時に備え、仲間は多い方がいい。

 

「けど仮に皆に知らせてここに集まっても、皆を人質に取られる可能性だってある。

皆をここに呼んで危険に晒すより俺1人で乗り込んだ方が100倍マシだろう」

 

優しく微笑む聖星に【スターダスト】は【星態龍】を見る。

なるべく聖星に危険な目に遭ってほしくない【星態龍】でも今回は彼の意見に賛成のようだ。

しかし【スターダスト】は素直に自分が感じていることを伝えた。

 

「嫌な予感がする?

そりゃあ今から闇のデュエルをしに行くんだ。

え、違う?」

 

「グォオ……」

 

闇のデュエルとしての嫌な感じではない。

タイタンの時のデュエルとも、ダークネスの時とも全く違う気配を感じる。

結界越しに存在する建物から漂う邪悪な気配に【スターダスト】の警鐘は鳴り続いた。

体中を纏わりつくような何かは正直に言って近寄りたくないものである。

もう1度聖星に声をかけようと顔を上げると……

 

「その必要はありません」

 

突然背後から聞こえた声に【スターダスト】と【星態龍】は聖星を守るようにふり返る。

まだ日が昇り辺りは明るいが、森の奥は日の光が届いておらず奥が見えない。

その陰からゆっくりと白いスーツを身にまとっている1人の男が現れる。

男は人懐こい表情を浮かべながらもその瞳は穏やかな色を宿していなかった。

彼はそのまま一礼し、言葉を続ける。

 

「初めまして聖星様、私はイリアステルからの使者です」

 

「イリアステル?」

 

男がはなった言葉に聖星は首をかしげ、【星態龍】は大きく目を見開き、ゆっくりと本来の大きさに戻っていく。

明らかに警戒している友人に怪訝そうな表情を浮かべながらも、今にも火を吹きそうな様子を手で制し、男を見すえる。

 

「一体俺に何の用ですか」

 

「はい。

私達の主が星竜王のお告げを受けた貴方様に是非お会いしたいとお迎えに参りました」

 

「……どうして星竜王の事を知っているのですか?」

 

流石に男が口にした王の名前に聖星は警戒心を抱くしかない。

聖星が知っている限りこの名を知っているのはインダストリアルイリュージョン社の関係者を除けばヨハンと【宝玉獣】、鍵の守護者と鮫島校長、大徳寺先生くらいだ。

かつて栄えた文明の王の名を知る者達がまだいたとは意外である。

 

「イリアステルの発祥はおよそ3000年前、星の民が繁栄していた南米アンデス高地です。

我々はその民の力を受け継ぎ、世の安寧を妨げる三幻魔、そして様々な邪神達を監視する役目を負っています」

 

「という事は、貴方達は俺の味方という事になるんですか?」

 

「その通りです」

 

にっこりという効果音が聞こえてきそうな笑みを浮かべた男性。

しかし相変わらず胡散臭さを覚え、【星態龍】達は警戒をとこうとはしない。

仮に彼らが星の民の力を継ぎ、聖星の味方なら【星態龍】はともかく【スターダスト】は警戒をとくはずだ。

星竜王から授かった精霊の様子を判断材料とすると、どうも彼を信用することはできない。

 

「せっかくのお誘いですがお断りします。

今、俺は三幻魔の復活を目論むセブンスターズにデュエルを挑むつもりです。

それに彼らがいつ俺達の鍵を狙いに来るか分からない以上、島を離れるわけにはいきません。

重要なお話があるのなら、大変失礼ですがアカデミアの校長室で話してください」

 

もしかすると着いていけば何かいい情報を掴むことができるかもしれない。

聖星が行こうと押し通せば2匹も機嫌を急降下するとは思うが渋々頷くはず。

彼が本当に星の民の関係者で、世の平和を願っているのならこの理由で引いてくれるはずだ。

そう願いながら彼を見つめると、男は笑い声をもらす。

 

「何がおかしいんですか?」

 

「いえ、主が申し上げた通りだと思いまして。

ですが貴方様には是非主とお会いしていただきたい。

多少強引ですが、強硬手段を取らせていただきます」

 

強硬手段という言葉に聖星はかまえる。

だが男はただ笑みを浮かべるだけで何も起こらない。

ただの脅しか?と疑問を抱いたと同時に強く風が吹き荒れ、一瞬で視界が光に包まれた。

 

**

 

一方、シンクロ召喚について知った万丈目達は鮫島校長に呼ばれ、校長室にいた。

ここに集まった顔ぶれに自分達が何故呼ばれたのかすぐに理解した。

 

「皆さん、よく集まってくれました。

おや、聖星君はまだですか?」

 

招集をかけたのは闇のデュエルでダメージを負っている十代、吹雪の看病をしている明日香を除いた5人だ。

しかし校長室を訪れたのは万丈目、三沢、カイザー、クロノス教諭の4人だけだ。

 

「そういえば、カイザーとのデュエルが終わってから姿を見ていないな」

 

「どうせ十代のいる保健室だろ。

ちょっと待ってろ、すぐに呼びだす。

……チッ、でないぜあの野郎」

 

不思議そうに呟く三沢の隣で万丈目は舌打ちし、PDAを手に取って連絡する。

何コールか待ってみるが電話に出る気配がない。

仕方なしに保健室にいると思われる少年の番号にかけた。

その画面には取巻の顔が映り、彼はまさかの人物からの連絡に戸惑った雰囲気を出している。

 

「おい、取巻。

お前、聖星を見ていないか?」

 

「不動を?

いいや、見てないぜ」

 

「そうか。

もし保健室に来たら校長室に来いと伝えろ」

 

短く用件を伝えた万丈目は取巻の返答など聞かず、通話を切ってしまう。

相変わらずな彼の態度に保健室にいる取巻は難しそうな顔を浮かべた。

そんな彼に明日香は苦笑を浮かべ、十代は不思議そうに首を傾げた。

万丈目と取巻の会話を聞いていた三沢はイエローの友人に連絡を入れる。

 

「もしもし神楽坂、聖星を知らないか?」

 

「聖星?

いいや、知らないぜ。

なにかあったのか?」

 

「いや、ちょっと彼に用があってな……

どこに行くか聞いていないか?」

 

「あ、そういえば……」

 

「どうした?」

 

「いや、一緒に飯を食べているとき、吸血鬼の噂について話したんだ。

あいつ、かなり気にしていたから湖に行ったかもしれない」

 

「吸血鬼?」

 

神楽坂の口から放たれた単語に皆は互いに顔を見合わせた。

吸血鬼に関する噂など彼らは一切耳にしていないため、このような反応は仕方がなかった。

しかし鮫島校長は心当たりがあるようで眉間に皺を寄せて呟く。

 

「すでに聖星君の耳には入っていたのですか」

 

「校長、吸血鬼とは一体どういうことですか?」

 

「実は……」

 

カイザーからの問いかけに鮫島校長はゆっくりと息を吐き、今学園内で盛り上がっている噂について語り始めた。

鮫島校長はこの噂の的となっている吸血鬼が新たな刺客だと思い、皆に注意を呼びかけるため彼らを集めた。

しかしそれより先に聖星が行動を起こしていたなど予想外だった。

 

「吸血鬼など空想の産物でス~ノ!

どうせセブンスターズ達~が、私達を驚かせるための演技なノ~ネ。

もっとも、そんな演技に引っかかるほ~ど、私達は臆病者じゃないでス~ノ」

 

「確かに演技の可能性もあるが……

チッ、あの野郎、この俺を差し置いてセブンスターズに挑んでいるってことか。

勝手なことをしやがって」

 

「とにかく俺達も湖に行こう。

もしすでに闇のデュエルが始まっていたら大変だ」

 

「おいおい、流石にそれはないだろう。

吸血鬼ってのは夜に動くもんだ。

こんな真っ昼間から外に出てるわけがないだろ。

せっかくの演技とやらが台無しだぜ」

 

「だが、念のため確認する必要性はある」

 

万丈目の言葉に三沢が懸念し、それに関しては心配など無用だと返す。

自分達の常識とアカデミア内の噂、自分達に混乱を引き起こすための演技という可能性を照らし合わせ、昼間は安全だと説いた。

しかしもしもの事を考えてカイザーは湖に行く事に同意する。

すぐに湖に向かった4人だが、訪れた先の湖はいつもと何ら変わらなかった。

 

「ここがその湖か」

 

「どうや~ら、シニョール聖星はここにいないようなノ~ネ」

 

「どうやら俺達の杞憂だったようだな」

 

特に禍々しい気配も感じず、どこかでデュエルを行っているような音も聞こえない。

自分達の考えすぎかと思いながら4人は吸血鬼が現れると思われる夜にここに集まると決めた。

 

**

 

微かに感じる穏やかな風と何かの機械音が耳に届く。

それを認識したと思ったら次に自分が何か冷たいものに横たわっている事に気が付いた。

一体どうしたのだろうと重たい瞼を上げると白い世界が視界に入ってきた。

まだ動ききっていない思考で状況を確認しようと、僅かに痛む頭をおさえながら顔を上げる。

 

「ここは?

……【星態龍】、【スターダスト】?」

 

意識を失う前の記憶を思い出しながら自分と共にいる2体の竜の名を呼ぶのだが、彼らは一切答えてくれず、姿さえも見せてくれない。

しかも自分がいる場所は白い床と天井は見えるがそれは果てしなく続いており、壁が全く見えない。

無限に広がる空間に1人きりという事に少しだけ心細くなってきた。

取りあえずここから移動しようと立ち上がると背後から声がかかった。

 

「お待ちしておりました」

 

「え?」

 

振り返れば機械音を立てながら浮かんでいる何かが自分を真っ直ぐと見つめていた。

自分の3倍近くの高さをほこり、全体的に白と黒の装甲をまとったロボットの姿に聖星は言葉を失った。

だが、ドン・サウザンドや星竜王等の常識では考えられない事を経験していたおかげか、すぐに自分の置かれている状況を確認しようと声をかける。

 

「貴方は誰ですか?

それにここは一体どこですか?」

 

「誰ですか、か……

まさか貴方の口からそのような問いかけをされるなど、仕方がないとは思っていますがいささか悲しいものですね」

 

「どういう意味ですか?」

 

何者かの問いかけに返ってきた悲しげな言葉に聖星は首を傾げる。

その口ぶりは自分と彼がどこかで会っている事を意味している。

だが、肝心の聖星の記憶の中に彼に該当する存在はいないはずだ。

 

「私はゾーン。

貴方がこの時代に来るのを待っていました――よ」

 

**

 

「で、結局聖星の奴は見つからなかったのか?」

 

「部屋や保健室にもいなかったんだな」

 

「あれから何度もPDAに連絡を入れたが全て返答がなかった」

 

陽はすっかり落ち、夕空から夜空へと変わってしまった時間帯。

聖星と同じように鍵の所有者に選ばれた少年達は昼間と同じように湖の前に集まっていた。

万丈目の疑問に隼人とカイザーが答えると、彼は眉間に皺を寄せて舌打ちをする。

すると風も吹いていないのに湖に波が立った。

静かな暗闇の中でその音は異様に響き、カイザー達は一気に視線をそこに向けた。

同時に真っ赤なカーペットが湖の上に敷かれる。

 

「何だ?」

 

「バージンロードってやつか?」

 

「いや、違うだろう」

 

「呼んでいるんだ、俺達を」

 

湖の上に絨毯がしかれているという非現実的な事に万丈目はつい零してしまう。

それを的確に三沢が突っ込み、警戒心をむき出しにしたカイザーが静かに告げる。

高校生という子供ゆえの怖いもの知らずのおかげか彼らは冷静に対処しているが、大人であるクロノス教諭と大徳寺先生は真っ青である。

大人達の逃げ腰姿に気づいていない4人は誰がデュエルをするかと話し合う。

するとクロノス教諭が前に出た。

 

「流石なんだな、クロノス教諭」

 

「真っ先に立候補するとは」

 

「教師の鏡なんだにゃ」

 

自分達の前に出た教諭の姿に皆は素直に感心する。

背中から送られる生徒達の言葉に、実は逃げようとして下がったら何かにぶつかって驚いてしまったとは言えなくなった。

一気に血の気が引くのを覚えながらも自分を奮い立たせ、クロノス教諭は笑みを浮かべた。

 

「当たり前なノ~ネ!

赤き道は紳士の道!

つまりはメディチ家の道!」

 

内心震えているクロノス教諭は乾いた笑い声を上げながら何かの音に気付き、耳を澄ませた。

それは絨毯の上をヒールの靴で歩いてくる音だ。

敵が近づいてきていると瞬時に判断した彼らは目を凝らせて霧の向こう側にいる誰かを見つめた。

 

「ようこそ、赤き闇への道へ」

 

ヒールの音と共に現れたのは暗い緑色の長髪を持つ絶世の美女。

艶めかしい体のラインや胸元を強調するような真っ赤なドレスを着こなす彼女は美しい笑みを浮かべた。

 

「あら、お相手は貴方なの?」

 

「いかにもなノ~ネ」

 

「(やだわ、私あっちの子が良いのに)

チェンジはありかしら?」

 

「だぁ!?」

 

不敵な笑みを浮かべながら現れた彼女はクロノス教諭の姿に少々残念そうな顔をする。

そして一瞬だけ誰かに目をやり、輝かしい笑顔で聞いてきた。

実技担当最高責任者であるクロノス教諭の前で堂々と言い放つ姿に彼は額に青筋を立てながら怒鳴る。

 

「失礼なノ~ネ!!

このクロノス・デ・メディチ、相手にとって不足はないノ~ネ!」

 

「そう。

でわ、始めましょう闇のデュエルを。

今回のお相手は私、セブンスターズの貴婦人、ヴァンパイア・カミューラ」

 

「「デュエル!!」」

 

**

 

一方、勉強もほどほどに終えた十代達はのんびりと過ごしていた。

流石に勉強漬けだと十代のストレスにつながると考えた取巻は、折角【レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン】が帰ってきたという事でデッキ調整に付き合ってもらう事にした。

デッキレシピの相談にさっきまでベッドに沈んでいた彼はすぐに目を輝かせ、翔と取巻は苦笑を浮かべ、明日香はくすくすと笑う。

このカードは要らない、けどこのカードがないと駄目だ等と話し合っていると扉が開く。

 

「お、聖星!」

 

「不動……

お前、一体今までどこに行っていたんだ?」

 

保健室に入ってきたのは昼過ぎから連絡が取れなかった聖星だ。

彼はひらひらと手を振り、何も答えずただ笑みを返すだけ。

机の上に広がるカードに何をしているんだと聞こうとしたが、それより先に明日香が言う。

 

「万丈目君達が探していたわよ」

 

「え、万丈目達が?」

 

「えぇ」

 

「あ、本当だ。

着信数が凄い事になってる」

 

ポケットからPDAを出して電話の着信数、メールの受信数を見てみたが桁数がおかしい。

10件以上の電話が来ているなど人生初めてかもしれない。

ベッド横に置いてある椅子に腰を下ろした聖星は1つ1つメールの内容をチェックする。

万丈目からのメールが1番多いとこぼすと明日香は困ったような顔をした。

 

「聖星君、ちょっと良いかしら?」

 

「え?」

 

仕方なく電話で連絡しようとすると鮎川先生が膝を曲げて顔を覗き込んでくる。

一体なんだと思うと額に手を当てられた。

 

「鮎川先生?」

 

「少し顔色が悪いわ。

熱はないようね。

どこか具合でも悪いの?」

 

「あ、いや……」

 

「マジかよ聖星」

 

「不動?」

 

流石は孤島にある学園の保健担当の教師だ。

保健室を任されている彼女の言葉に十代達も聖星の顔を凝視する。

まさか顔色の悪さを指摘されるとは思わず、言葉に詰まってしまう。

すると勢いよく扉が開き、隼人が焦った声で言い放った。

 

「大変なんだな!

クロノス教諭が闇のデュエルをするんだな!」

 

「何だと!?」

 

「そんな無茶よ、またあんな危険なデュエルを始めるなんて!」

 

隼人からの情報にこの場にいる取巻や明日香はダークネスのデュエルを思い出す。

デュエルはしなかったが、モンスター同士の戦闘で発生した攻撃や爆発、爆風は間違いなく本物だった。

現に十代はそのデュエルが原因でまともに体を動かす事ができないでいる。

 

「クロノス教諭……」

 

聖星は内心隼人の登場に安堵しながらも、闇のデュエルに挑むクロノス教諭の無事を願った。

 

END

 


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