遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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第二十九話 クロノス教諭vsカミューラ

 

「「デュエル!!」」

 

「レディファーストよ。

私のターン、ドロー」

 

ついに始まった闇のデュエル。

観客となっているカイザー達は、対戦相手に立候補したクロノス教諭を見守った。

美しくカードを引いたカミューラは微笑みながらモンスターの名を呼んだ。

 

「【ヴァンパイア・ソーサラー】を召喚。

カードを1枚伏せてターンエンドよ。

さ、どうぞ、先生」

 

場に召喚されたのは髪が長く、魔法使いのような帽子を被っている吸血鬼だ。

まとっている雰囲気はおどろおどろしいもので、霧が充満する夜というシチュエーションが不気味さを引き立たせている。

しかその守備力は1500であった。

未だに心臓が煩いクロノスは静かに息を吐いて笑みを浮かべた。

 

「ふっ、雑魚モンスターで様子見とは随分と堅実なデュエルナノ~ネ

しか~し、この私相手にその堅実さは意味がありませーん。

アンティパストで終わらせてあげル~ノ」

 

「アンティパストで終わるですって?

私からしてみれば貴方はアペリティーヴォにすらならないわ」

 

ふふふふ、と2人の笑い声がある種のコーラスとなっている。

怖がれば良いのか笑えば良いのか、少し反応に困る。

笑い声を除けば真剣なデュエルであるこの場に飛んできた言葉に大徳寺は首を傾げた。

 

「あんてぃ、何ですかにゃ?」

 

「アンティパストは前菜、アペリティーヴォは食前酒ですよ」

 

「へぇ~、流石は万丈目君。

博学ですにゃ」

 

「私のターン、ドロー。

私は【古代の機械素体】をしょうか~ん」

 

白い輝きと共に現れたのは1体の機械族モンスター。

普段目にしている【機械兵】達と異なり、いくらかボディが簡素化されている。

素体という名の通り、フレームをつける前の状態なのだろうか。

 

「【古代の機械素体】の効果を発動すル~ノ!

手札を1枚捨て~て、デッキから【古代の機械巨人】を手札に加えるノ~ネ」

 

早速手札に加えられたのは彼の代名詞と言えるカードだ。

しかし【古代の機械巨人】は原則特殊召喚が出来ないモンスターである。

既に通常召喚を行っているため、このターンで場に召喚される事はないだろう。

 

「【古代の機械素体】でこうげ~き!」

 

細い腕を持ち上げた【古代の機械素体】は、重量を生かした威力で【ヴァンパイア・ソーサラー】を叩きつぶす。

粉々に砕けた下部を静かに見届け、カミューラは妖艶な笑みを浮かべた。

 

「この瞬間、【ヴァンパイア・ソーサラー】の効果が発動しますわ。

デッキから【ヴァンパイア・アウェイク】を手札に加えます」

 

「(聞いたことのないカードナノ~ネ……)

カードを1枚伏せて、ターンエンドナノ~ネ」

 

「私のターン、ドロー」

 

ゆっくりとデッキからカードをドローすると、彼女はそのカードを手札に加えなかった。

不敵な笑みを浮かべながら彼女はその名を宣言する。

 

「手札から永続魔法【不死式冥界砲】を発動よ」

 

場に現れた怨念集合体のようなものの姿に、クロノス教諭は静かに顔を歪める。

黒い歪みの中から現れたのは青白い骨、それも1つや2つではない。

薄気味悪い様々な骨が組み上がり、1つの大砲となった。

 

「このカードは、私がアンデット族モンスターを特殊召喚することで先生に800ポイントのダメージを与えるわ」

 

「800……!」

 

「アンデットは墓地からの特殊召喚に長けている。

5回特殊召喚されたらライフは0だぞ」

 

説明された数値に万丈目と三沢は目を見開く。

ライフ4000であるこの世界において、800という数値は大きい。

特殊召喚を得意とする種族がたった1度の召喚に800のダメージを与えるのは高すぎる。

当然、ゲームバランスを崩さないため当然制約がある。

それを知っているカイザーは腕を組みながら冷静に口を開く。

 

「だが、あのカードの効果は1ターンに1度しか発動しない。

最短でも5ターンは必要だ。

クロノス教諭が相手に5ターンも許すとは思えない」

 

厄介な事に変わりは無いが、実技最高責任者であるクロノス教諭なら可愛い相手だろう。

それを自覚しているためクロノス教諭もたいして慌てはしなかった。

 

「そして、【ゾンビ・マスター】を召喚しますわ」

 

「ヒヒヒッ」

 

召喚されたのは攻撃力1800のモンスター。

ぎょろぎょろとした目を動かしながら地面に手を置くと、何もない地面にひびが入る。

 

「【ゾンビ・マスター】の効果発動。

手札を1枚墓地に送り、【ヴァンパイア・レディ】を特殊召喚」

 

軋む地面の音と共に現れたのは青い肌を持つ美女。

ワイン色とも血の色ともとれる美しいドレスを身に纏った彼女は、カミューラと似た微笑みを向けてくる。

すると彼女の登場と連動して【不死式冥界砲】が稼働し始めた。

骨がぶつかる音を立てながら材料にされている人や動物の恨みが集まっていく。

 

「食らいなさい!」

 

「ぐふっ!!」

 

腹部に衝撃を受けた瞬間、彼は思わず片手で口元を押さえた。

膝を付き、自分の身に何が起きたのか自覚するより先に、腹部から全身に激しい痛みが伝わっていく。

 

「(な、なんですーのこの痛みは!?

通常のデュエルでは、こんな痛みなどありえなノ~ネ!)」

 

ゆっくりと息を飲み込んだクロノス教諭は拳を握りしめる。

そのまま立ち上がり、小さく頭を振った。

そんな反応を示した事に気をよくしたのか、カミューラは頬に手を当てる。

 

「あら。

たった800のダメージなのに膝を付くなんて、そんなに痛かった?

不細工な顔がさらに不細工になってるわ。

【ゾンビ・マスター】で【古代の機械素体】に攻撃!」

 

「罠発動、【重力解除】!

残念です~が、貴方のモンスターの攻撃~は、私のモンスターに届かなイ~ノ!」

 

【ゾンビ・マスター】は手元にエネルギーの塊を作りだし、【古代の機械素体】に向けて放った。

同時に発動されたカードはモンスターの攻守を強制的に変更する効果を持つ。

攻撃表示だった【ゾンビ・マスター】、【ヴァンパイア・レディ】、【古代の機械素材】は守備表示となる。

これで攻撃はなかった事にされ、バトルフェイズを終了するしかない。

 

「強がった顔も不細工ね。

1枚伏せてターンエンドよ」

 

「私のターン!

フィールド魔法【歯車街】を発動!」

 

デュエルディスクから光が放たれ、2人の場に新しいフィールドが形成されていく。

地面から現れた歯車は1つ1つ意思を持っているのか、あるべき場所へと組み込まれ、大型の街となった。

1つの歯車が回り始めると、その動きに合せて街全体が音を立てながら活動を始める。

 

「このカードがあるかぎ~り、私は【古代の機械】を召喚する際に必要な生贄が減るノ~ネ。

【古代の機械素体】1体を生贄にささ~げ、現れる~ノ!

【古代の機械巨人】!!」

 

【古代の機械素体】は光の粒子に変わり、その粒子は竜巻のように舞い上がり、【古代の機械巨人】へと姿へ変えた。

表示された攻撃力は3000、効果は攻撃時に魔法・罠カードの発動を封じるものだ。

カミューラのモンスターでは到底敵わない存在のはず。

そのモンスターの登場に彼女は涼しい顔をしており、1枚のカードを発動させた。

 

「この瞬間、罠発動!

【和睦の使者】」

 

「ぬぬっ!」

 

「これで先生のモンスターは私のモンスターを破壊できないし、ダメージも与えられないわ」

 

「それならカードを2枚伏せてターンエンドなノ~ネ」

 

場には攻撃力3000のモンスターと、隠された効果を持つフィールド魔法に伏せカード2枚。

それに対しカミューラの場のモンスターは2体に、永続魔法1枚、伏せカード2枚である。

 

「私のターンよ、ドロー」

 

ドローで引いたのは1人の美女が描かれているカード。

彼女は小さく笑みを浮かべ、墓地に存在するヴァンパイアの力を借りる。

 

「墓地に存在する【ヴァンパイア・ソーサラー】の効果発動!

このカードを除外することで、このターン私は生贄なしでモンスターを召喚できるわ」

 

「なっ!

そんな効果があったノ~ネ!?」

 

「来なさい、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!」

 

高らかにその名を叫ぶと、半透明だった【ヴァンパイア・ソーサラー】は煙のように姿を消す。

【歯車街】の空の月がゆっくりと赤く染まり、【古代の機械巨人】の鈍い色を放つボディは僅かに月と同じ色になる。

フィールドに1つの影が差し、何事かと顔を上げると大きく翼を広げた美女が舞い降りる。

ゆっくりと目を開いた美女は小さな口で笑みを浮かべ、美しく色素の薄い髪を払う。

すると彼女は【古代の機械巨人】に襲いかかる。

 

「なっ、私の【古代の機械巨人】に何をするノーネ!??」

 

声を荒げるクロノス教諭に対し、見下すような笑顔を向ける。

と思えば、【古代の機械巨人】の首筋らしき部分に唇を落とす。

真っ赤な口紅の跡がどす黒く光り、【古代の機械巨人】は苦しみ出す。

 

「【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の効果ですわ。

このカードが召喚されたとき、相手のモンスターの血を啜り、彼女の下僕にするのよ」

 

「何ですーと!?」

 

そう、彼女自身または自分の場に【ヴァンパイア】が召喚されたとき、彼女より攻撃力が高い相手モンスターを装備カードにするのだ。

【古代の機械巨人】の赤い目は紫色に変わり、彼は【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の前に跪く。

満足げに微笑んだ彼女の攻撃力は、2000から5000へと上昇した。

 

「ふん。

錆びだらけの機械でも、紳士の真似事はできるようね」

 

「ぐぬぬぬぬっ」

 

「まずい。

これでクロノス教諭の盾となるモンスターはいない」

 

「それに対し、カミューラの場には攻撃力5000のモンスターか」

 

悔しそうに顔を歪めるクロノス教諭と同じように、三沢と万丈目も顔色を悪くする。

そんなデュエルの様子を、保健室では聖星達が見守っていた。

明日香のPADを囲っている翔は不安そうに呟く。

 

「攻撃力5000のモンスターなんて、どうやって倒すんすか?」

 

「伏せカードに賭けるしかないわね」

 

「そうなんだな」

 

幸いと呼べば良いのかは分からないが、彼の伏せカードは2枚。

その2枚にこの状況を凌ぐ効果があることを信じるしかない。

1つの画面に釘付けになっている皆に、十代は勢いよくベッドから起き上がる。

突然のことにぎょっとした聖星は慌てて傍に寄った。

 

「十代、何やってるんだよ。

大人しく寝とけって」

 

「クロノス先生が頑張ってるんだ。

こんなところで寝てられるか」

 

十代が浮かべる表情は、遊馬達の世界で何度も見てきた表情に似ている。

これは意地でも譲らないと悟った聖星は、頭を抑えて明日香と取巻に目をやった。

2人も同じ意見のようで、片方は呆れたような顔を浮かべ、片方は苦笑いを浮かべている。

 

「それで、遊城。

お前、歩けるのか?」

 

「聖星なら背負えるんじゃないかしら」

 

「いや、流石に無理」

 

「「えっ?」」

 

「何だよ、その顔」

 

車椅子でも借りるかと考えていたが、まさかの眼差しに聖星は納得いかないと不満げな顔をする。

確かに自分は皆の前で荒っぽいところを見せているが、力持ちというわけではない。

場面は戻り、カミューラは勝ちを確信しているのか自信に満ちあふれた声で宣言する。

 

「守備表示にされていた【ヴァンパイアイ・レディ】と【ゾンビ・マスター】を攻撃表示に変更。

バトルよ、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!」

 

「速攻魔法、【サイクロン】を発動するノ~ネ!」

 

「あら、【古代の機械巨人】を破壊するつもりかしら。

けど、【ヴァンパイアイ・レディ】の攻撃力は1500、【ゾンビ・マスター】は1800、下僕を失った【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は2000。

先生のライフは3200。

どのみち終わりよ」

 

「ふふふのふ~ん、それは違う~の!

私が破壊するの~は、【歯車街】なノ~ネ!」

 

「え?」

 

破壊対象として選ばれたカード名にカミューラは怪訝そうな顔を浮かべる。

同時に集めた情報の中から【歯車街】の効果を思い出した。

 

「しまった、このフィールドは!」

 

「どうや~ら、効果を知っているようでス~ノ。

ですが~、もう遅い~ノ!」

 

【サイクロン】は雷を伴いながら歯車で組み上がっている街を隅々まで破壊していく。

暴風の音と共に崩れ去る街はあっという間に廃墟同然となってしまった。

しかし、壊された歯車達が新たな何かに組み上がっていく。

 

「【歯車街】が破壊されたと~き、デッキ・手札・墓地か~ら【古代の機械】を特殊召喚すル~ノ!」

 

クロノス教諭が宣言したカード効果に、カイザー達は目を見開く。

【古代の機械】の上級モンスターは、特殊召喚出来ないモンスターが多い。

だから特殊召喚されるモンスターは下級モンスターであると予想出来る。

しかし、この状況をひっくり返す事が出来る下級モンスターなど彼らは知らない。

 

「出でよ、【古代の機械巨竜】!」

 

クロノス教諭の声と共に歯車は1体のドラゴンへと姿を変える。

見た事のないモンスターの姿にカイザー達は言葉を失った。

堂々と羽を広げて浮かぶ姿は下級モンスターのものではなく、【古代の機械巨人】と同じ上級モンスターの風格を持っているのだ。

特殊召喚された【古代の機械巨竜】の姿にカミューラは気に入らなさそうな顔を浮かべる。

 

「けど、攻撃力は3000!

行きなさい、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!」

 

「さらにリバースカードオープンなノ~ネ!

【リミッター解除】!!」

 

「何ですって!」

 

発動されたのは機械族モンスターの攻撃力を2倍にする即効魔法。

【古代の機械巨竜】は黄色の光を纏いながら巨大化していく。

そして攻撃力は倍の6000となり、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の5000を上回った。

 

「返り討ちなノーネ!

【古代の機械巨竜】!!」

 

「グォオオオオオオ!!!」

 

己の名を呼ばれた【古代の機械巨竜】は低い咆哮を上げる。

攻撃力が自分より上回った相手に【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は逃げようと背中を向ける。

それを逃さないというように、【古代の機械巨竜】は尾で彼女を地面にはたき落とした。

彼女が粉々に砕け散ると同時にカミューラのライフが3000となる。

 

「くっ!

(けど、【リミッター解除】の効果で【古代の機械巨竜】はこのターンのエンドフェイズに破壊される。

次のターンでこの男の場はがら空きね)」

 

伏せカードもフィールド魔法もこのターンを凌ぐために使い切った。

自分の優勢に変わりはなく、カミューラは余裕の顔で罠カードを発動する。

 

「罠発動、【ヴァンパイア・アウェイク】。

デッキから【ヴァンパイア・ロード】を特殊召喚するわ」

 

「はっ!」

 

新たに召喚されたのは【ヴァンパイア】の貴公子と呼ばれるモンスターだ。

マントを翻しながら場に現れた彼は【ヴァンパイア・レディ】の隣に並び、軽く会釈する。

そしてアンデッド族モンスターが特殊召喚されたことで、【不死式冥界砲】はその砲台を対戦相手に向ける。

再び集まっているエネルギーは勢いよく放たれ、クロノス教諭の腹部を貫いた。

 

「ぐふっ!!」

 

再び走る激痛に膝をつきかけるが、クロノス教諭は唇を噛んで耐え、真っ直ぐとカミューラを見た。

自分は800のダメージを受けて意識が飛びそうなのに、目の前の彼女は1000ダメージを受けても涼しい顔だ。

苦しげに立ち上がる様子のないクロノス教諭を見下ろしながらカミューラは更なるモンスターを呼び出す。

 

「さらに【ヴァンパイアイ・ロード】を除外し……」

 

先程特殊召喚された【ヴァンパイア・ロード】は紫色の風と共に姿を消した。

彼がいたフィールドには巨大な影が差し、その影に違わない巨体が現れる。

女性を魅了する美青年とはかけ離れる風貌を持ったアンデッド。

 

「【ヴァンパイアジェネシス】を特殊召喚!」

 

「グガァアアアア!!!」

 

紫色の逞しい腕を広げ、凄まじい咆哮を上げる。

咆哮による振動により体が震え、地面さえも揺れている。

 

「【ヴァンパイアジェネシス】の効果!

手札から【闇より出でし絶望】を墓地に捨て、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】を蘇らせる!」

 

【ヴァンパイアジェネシス】は手札のアンデット族を1枚墓地に捨てる事で、そのレベル以下のアンデット族モンスターを特殊召喚する効果を持つ。

【闇より出でし絶望】のレベルは8、それに対し【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】のレベルは7である。

 

「ターンエンドよ」

 

「くっ……」

 

何とか立ち上がったクロノス教諭はカミューラの場を見渡した。

攻撃力3000の【ヴァンパイアイジェネシス】に【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】、【ゾンビ・マスター】、【ヴァンパイアイ・レディ】が存在する。

それに対して自分の場にモンスターは存在しない。

 

「あらあら、顔色が悪いわよ先生。

今にも倒れそうって顔ね。

たった1600のダメージでふらふらだなんて、これじゃあデュエルで決着が付く前に先生が倒れるんじゃなくて?」

 

「ふっ、この程度、なんともない~ノ」

 

「強がりね。

けど、醜い男のそんな姿見ても楽しくないわ。

どうせなら、彼のような子を相手にしたいわねぇ」

 

明らかに強がりの発言をカミューラは嘲笑い、そのままカイザーに目をやる。

年老いて醜い男を相手にするより、若々しい青年をいたぶる方が良い。

獲物を見る目を向けられたカイザーは思わず後退った。

可愛い生徒にギラギラとした眼差しを向ける美女にクロノス教諭は啖呵を切る。

 

「冗談ではないノーネ!

彼は私の大事な生徒!

指一本触れさせはしませン~ノ!

そして、私は栄光あるデュエルアカデミア実技担当最高責任者。

断じて闇のデュエルなど認めるわけにはいきませン~ノ!」

 

「ふん、雑魚が吠えちゃって……」

 

「先生は弱くないぜ!」

 

「え?」

 

遠くから聞こえた少年の声。

その声はこの場にいる全員が知っている人物の物だ。

声がした方角に目を向ければ隼人に背負われた十代がいた。

十代は痛む体に耐えながらカミューラを睨み付け、クロノス教諭に笑みを向ける。

 

「戦った俺が言うんだ、間違いない!

クロノス先生、見せてくれよ!

闇のデュエルを打ち破る、最高のデュエルを!」

 

「……ドロップアウトボーイ」

 

まさかの生徒からの声援にクロノス教諭は思わず笑みが零れた。

クロノス教諭は鼻持ちならない十代に対し、何かと痛い目を見させようと画策していた。

その十代が自分に最高のデュエルを望んでいる。

手のかかる生徒からの激励がこんなに嬉しい物とは思いもしなかった。

 

「……このクロノス・デ・メディチ、断じて闇のデュエルなどに敗れるわけにはいきませンーノ!

なぜなら!

デュエルとは本来、青少年に、希望と光を与えるものであり、恐怖と闇をもたらすものではないノーネ!」

 

「クロノス教諭……」

 

「だよな……

クロノス先生」

 

「それで、闇のデュエルは存在してはならないと言っていたのか」

 

「私のターン、ドロー!!」

 

デッキからカードを引いたクロノス教諭は、この状況で最高なカードを引いた。

彼は真剣な眼差しをカミューラに向け、カードを発動させた。

 

「手札から【古代の機械工場】を発動!

墓地に眠る【古代の機械巨人】と【古代の機械巨竜】を除外すること~で、手札から【古代の機械巨人】を生贄なしでしょうか~ん!!」

 

【古代の機械工場】は手札から【古代の機械】と名のついたモンスターカード1枚を選択し、選択したカードの倍のレベルになるように墓地の【古代の機械】と名のつくカードをゲームから除外する事でそのモンスターを召喚するカードである。

クロノス教諭が手札から選択したのはレベル8の【古代の機械巨人】。

生贄を得ずに召喚された【古代の機械巨人】は大きな体でクロノス教諭の前に立つ。

 

「けど、【古代の機械巨人】の攻撃力は3000。

【ヴァンパイアジェネシス】と同じ。

私のライフは3000、攻撃力が1番低い【ヴァンパイア・レディ】に攻撃したところで、私のライフを削りきることは出来ないわ」

 

「ノノノノノ~ン!!

私の手札はまだあるノーネ!

魔法カード、【古代の機械融合】を発動!」

 

「まさか、そのカードを引いていたですって!?」

 

場に現れたのは様々な部品が渦の中に吸い込まれていくのを表現したカードだ。

初めて見るカードに十代達は目を輝かせ、そのカードの効果を想像した。

 

「私の場に存在する【古代の機械巨人】を融合素材とする場合、他の融合素材はデッキのモンスターを選択出来るノ~ネ!」

 

「デッキのモンスターの融合だと!?」

 

「すげぇ!

デッキからの融合なんて、初めて見たぜ!」

 

デッキから選ばれたのは【古代の機械兵士】と【古代の機械砲台】の2体だ。

その2体は【古代の機械巨人】の左右に並び立ち、融合召喚時に現れる渦の中に吸い込まれる。

渦の流れに沿ってモンスター達は様々な部品となり、巨大なモンスターへ組み上がっていく。

【機械兵】の肉体は四つ脚へと変貌し、【砲台】は【古代の機械巨人】の左腕になる。

 

「融合召喚!!

【古代の機械究極巨人】!!」

 

【古代の機械究極巨人】は勢いよく前脚で地面を踏みつけ、軽い地響きを起こす。

3体分の重量を持つモンスターの重厚感は凄まじく、その大きさは【ヴァンパイアジェネシス】を上回る。

その攻撃力は4400、カミューラのモンスター全てを上回った。

 

「(魔法カードゾーンには【不死式冥界砲】が存在するノ~ネ……

これ以上アンデット族を増やされては困る~ノ。

しか~し、ここで攻撃するのは【ゾンビ・マスター】か【ヴァンパイアジェネシス】か……)」

 

ダメージを優先するのなら【ゾンビ・マスター】だろう。

しかし蘇生可能なモンスターの範囲を考えると【ヴァンパイアジェネシス】が場に残り続けるのは厄介のはず。

 

「【古代の機械究極巨人】で【ヴァンパイアジェネシス】に攻撃!!」

 

【古代の機械究極巨人】は砲台がついた左腕を【ヴァンパイアジェネシス】に向け、歯車が加速する事で生まれたエネルギーを放った。

高エネルギーは不死の体を貫き、【ヴァンパイアジェネシス】は破壊された部位からひび割れていき砕け散った。

エースをねじ伏せた攻撃はカミューラにまで響き、彼女のライフを3000から1600へと削った。

 

「よし!

これでアンデット族を蘇らせる方法を1つ減らした!」

 

三沢の言葉に皆は頷く。

出来れば【不死式冥界砲】を破壊できる手段もあれば良かったが、贅沢は言っていられない。

 

「フフッ……」

 

「何を笑っているノ~ネ」

 

不意に聞こえたのはカミューラの笑い声。

攻撃力4000以上のモンスターを場に出されたことで戦意を喪失したのだろうか。

しかし、彼女が纏っている雰囲気は全く弱まっていない。

するとカミューラは伏せていた顔を上げた。

 

「ひっ!!」

 

「なっ!」

 

クロノス教諭や聖星達は小さく悲鳴を上げ、中には声を出せない者もいた。

美しい顔は頬まで口が裂け、目元や首筋に血管が浮かび上がっている。

先程までの風貌とは一変し、人間離れした姿にこの場にいる全員は背筋が凍った。

 

「先生。

やはり貴方はアペリティーヴォにすらならないわ!

私のターン!」

 

顔と同じように美しかった声までもエフェクトがかかったような声となり、彼女が人ではない現実を突きつける。

 

「手札から【ヴァンパイア・ベビィ】を召喚!

この瞬間、【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】の効果発動!

【古代の機械究極巨人】よ、跪きなさい!」

 

「何でスート!??」

 

【古代の機械巨人】の時と同じように【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は唇を落とし、【古代の機械究極巨人】が膝をつく。

そのまま【古代の機械究極巨人】は彼女の装備カードとなり、攻撃力が2000から6400へと上昇した。

信じられないという表情を浮かべるクロノス教諭に対しカミューラは綺麗な顔に戻り、手で口元を隠して聞いてきた。

 

「あらやだわ、先生。

私の話を聞いていました?

彼女は自分が召喚されたときだけではなく【ヴァンパイア】が召喚される度に下僕を増やすって」

 

「そんな説明聞いてない~の!!」

 

「おほほほほ。

退屈すぎて説明し忘れちゃったのかしら、ごめんなさい。

けどねぇ、先生…

弱くてつまらないデュエルしか出来ない、無知な貴方が悪いのよ」

 

「ぐっ……」

 

カミューラの気迫迫る言葉にクロノス教諭は言葉に詰まった。

今彼の場にモンスターどころか魔法・罠カードさえ存在しない。

この状況を凌ぐカードと言えば手札誘発のカードになるが、クロノス教諭が操る暗黒の中世デッキにそのようなカードが入っているとは思えない。

見えてしまった結末にクロノス教諭は生徒達に向き直る。

 

「皆さん。

例え闇のデュエルに敗れたとしても、闇は光を凌駕できない。

そう信じて、決して心を折らぬこと。

私と約束してくだサーイ」

 

闇のデュエルの恐ろしさを知り、生徒には荷が重すぎると気がついたのに、なんとも情けない話しだろう。

以前聖星がプロデュエリストを雇って欲しいと校長に要求していた理由も理解出来た。

同時に、何故あの時の自分はその言葉に同意しなかったのだろうと後悔の念にかられる。

 

「最後の授業は終わったかしら、先生?」

 

「来るがいいノーネ!」

 

「それならお望み通り、とどめを刺してあげなさい!

【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】!

ダイレクトアタック!!!」

 

「ふふっ!」

 

【ヴァンプ・オブ・ヴァンパイア】は触れるのも嫌なのか、掌をクロノス教諭に向け、衝撃破を放つ。

襲いかかってくる衝撃破は彼の体を一瞬で吹き飛ばし、ライフを0にした。

地面に転がるクロノス教諭の姿に皆が悲鳴を上げる。

 

「っ!!」

 

「クロノス教諭!!」

 

彼の身を案じる子供達の声を聞きながらカミューラは彼が持つ鍵を奪う。

 

「やっと1つ…

そして」

 

彼女が手にしている人形が薄暗い光を纏い始める。

その光はクロノス教諭を包み込み、彼の体を飲み込んだ。

顔も描かれていない、服も着ていない簡素な人形は徐々に姿を変えていき、クロノス教諭を模した姿となる。

 

「くっ、クロノス先生が人形に!?」

 

「これがこの闇のデュエルでの代償か……」

 

聖星が経験した闇のデュエルでは本当に死んだり、闇に飲み込まれたりするなどの結末が待っていた。

しかし、彼女とのデュエルは違うようで、人形という器に魂を封印された事に安心している自分がいる。

封印されたのなら、術者であるカミューラを倒せば助ける事は出来るからだ。

人形になったクロノス教諭を見下ろすカミューラは綺麗な笑みのままその人形を捨てた。

 

「それにしても、本当。

好みじゃないわね」

 

「っ、お前!!」

 

正々堂々と戦い、無念にも散ったクロノス教諭への扱いに十代は声を荒げる。

そのまま言葉を続けようとしたが、それを1人の手が制した。

そちらに顔を向けると眉間に皺を寄せている青年がいる。

 

「……カイザー」

 

「お兄さん……」

 

「……」

 

後輩と弟の声に反応せず、カイザーはカミューラに刺すような視線を向ける。

怒りが占める視線に彼女は気をよくし、聖星達と向き合った。

 

「それでは皆様、また会いましょう。

次は私の城へ招待してあげるわ」

 

「城?」

 

「っ!

皆、あれを見て!」

 

明日香の言葉に皆は湖を凝視する。

薄暗い霧は晴れていき、月光が湖を照らす。

その湖には本来あるはずのない物が存在した。

 

「あ、あれは!!」

 

月の光に照らされながら現れたのは巨大な城。

あれがカミューラの言っていた城だろう。

彼女が不敵な笑みを浮かべたと思ったら、どこともなくコウモリの群れが羽ばたき始める。

一面を覆う数のコウモリは夜空に消え、先程までそこにいたカミューラも姿を消していた。

 

END




お久しぶりです。
大学生活が楽しすぎて離れていましたが、復帰しました。
暫く離れるとカード効果などが分からなくなりますね。
VRAINSを見ていても、途中でカードの効果を把握できなくなり「うん、何が起こっているのか分からん」となってしまいます。
頼むからもうちょっと効果を単純にしてくれ、マジで。

クロノス教諭とカミューラの会話は高貴な心、高貴な心と念じながら考えました。
バカにそんな高度な会話は無理ですね(遠い目)

次回はカイザーvsカミューラにするか、それを省略して(アニメ通りに進んだと仮定して)聖星vsカミューラにするか色々と悩んでしまいます。
カミューラのお話しだけで3話も4話も使うのはちょっとしんどいなと感じながらも、書かないと満足できないと感じてしまいます。
カミューラはセブンスターズの中で大徳寺先生の次にデュエルする回数が多いんですよね。(大徳寺先生は吹雪、明日香、万丈目、十代の計4人だったはず)
そりゃあ話数も多くなりますよね……
様々な結末を考えながら納得のいく物を模索します。

では失礼いたします。

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