聖星がブルーへと昇格した翌日、突然全校集会が開かれた。
急な話のため、一部の生徒達は眠たそうに欠伸をしたり、何のための集会かと話し合ったりしている。
カイザーも同級生と何故急に開かれたのか、その理由について言葉を交える。
「隣、良いかしら?」
「あぁ、構わない」
頭上からかけられた言葉に頷くと、明日香は静かにカイザーの隣に腰を下ろす。
反対側に座っている同級生達は、オベリスク・ブルーの妖精といわれる彼女の姿に頬を赤く染めた。
親友の妹に向けられる眼差しに気分が良いとは言えず、カイザーは警告するように横目で彼らを見る。
それだけで察してくれたのか、彼らは苦笑を浮かべながら前を向いてくれた。
「今朝、聖星の様子がおかしかったの」
「何?」
「別に悪い意味じゃないわ。
森の中ですれ違った時、誰かを探していたみたいなの」
「誰か?
……十代か?」
「いいえ、違うみたい」
朝食を済ませ、校舎に向かう途中に見かけた青い制服姿。
彼の姿はイエローの期間が長く、青色のコートに身を包む姿は新鮮であり違和感がある。
挨拶をしようと近寄れば、聖星は誰かに電話をしていたみたいだ。
「え、湖、いや、海に出た?
何で、どうやったらそうなるんだよ??」
「どうしたの、聖星」
「明日香……」
「困りごと?」
そう、普段の彼はもっと穏やかで基本的に焦りの表情を見る事はない。
デュエルの最中でピンチになっても、たいていの場合笑っている。
だから珍しいという意味を込めて尋ねれば、聖星は困ったように笑う。
「ありがとう明日香。
けど、大丈夫」
「でも、さっきの会話を聞いていたけど、大丈夫そうには見えなかったわ。
また十代が何かしたの?」
「いや、十代は関係ないよ。
ただ、今日の集会に関係ある事で……」
「え?」
それ以上、詳しく聞くことは出来なかった。
携帯越しの相手の発言に頭を抱えたようで、聖星は「ごめん、急いでるから。また後で」という台詞を残して走り去ってしまう。
追いかけようと思ったが、聖星は足が速く、森の中に紛れた青を探すことは出来なかった。
1人森の中に取り残された明日香は難しい顔をするが、今日の集会で分かることなのだ。
ならば後で詳しく聞けばいいと結論を付け、ここまで来たのだ。
「集会に関係がある?
となるとI2社関係か?」
「さぁ」
自分達が知らず、聖星が知っているとなると、聖星の立場を考えてI2社関連の事が思い浮かぶ。
他に何かあるだろうかと考えていると、聖星と十代、取巻の3人が入ってくる。
十代は相変わらずだが、他の2人は少しだけ疲れたような表情を浮かべていた。
聖星と取巻はカイザー達より少し下の席を選び、十代は翔と隼人が待つレッド寮の席へ向かった。
「随分と疲れ切っているようだな」
「誰かを探すために森の中を走り回っていたみたいだし、当然ね。
取巻君と十代も一緒だったのかしら」
すると、舞台端からクロノス教諭が姿を現す。
何か良いことがあったのか、普段より深い笑みを浮かべている。
会場内にマイクのスイッチが入った音が響くと、にこにこと笑っているクロノス教諭が話し始めた。
「全校生徒の皆さん。
新しい友達が出来たノ~ネ」
「新しい友達?」
「転校生か?」
まるで小学校の教師が言いそうな台詞だが、これ以上分かりやすい言葉はないだろう。
しかしこの時期に転校生など珍しい。
いや、カイザーを追っかけてレイという少女も時期を気にせずアカデミアまでやってきた。
少し前に起こった出来事を思い出し、少し遠い目をしたカイザーは耳に入ってきた言葉を疑う。
「皆さん知っての通り、デュエルアカデミア~には、世界各国に分校があるノ~ネ。
そのなかの1つ、デュエルアカデミア・アークティック校から留学生が来てくれたノ~ネ」
「えぇ!?」
「成程、だから聖星は知っていたのか」
会場内響いた学校名に明日香は大きなリアクションをし、それに対してカイザーは聖星の様子に納得する。
聖星は短い期間だがアークティック校に留学していた経験がある。
恐らく、留学生は聖星と交友があったのだろう。
「それで~は、留学生を紹介するノ~ネ」
マイクを持っていない左腕を高く上げ、留学生が登場する方向を見る。
全校生徒の視線がそこへ向かおうと、奥から綺麗な青い髪を持つ少年が姿を現した。
人懐こい笑みを浮かべ、手をあげながら前へと歩む彼はクロノス教諭の隣に立つ。
「彼は1年生のヨハン・アンデルセンなノ~ネ。
皆さん、仲良くするように」
短くまとめたクロノス教諭はそのままヨハンにマイクを渡す。
受け取ったヨハンは人好きのする笑みを消し、好戦的な表情をして挨拶を述べ始めた。
「初めまして、ヨハン・アンデルセンです。
以前、俺が在学しているアークティック校にデュエルアカデミアから留学生が来ました。
その彼がこのアカデミアの素晴らしさ、そして、強いデュエリストがたくさんいることを話してくれました。
俺はその話を聞いて、絶対にこのアカデミアに留学すると決めたのです。
そして、それが今日叶いました」
好戦的な笑みに違わず堂々とした性格である彼は、全校生徒達を見渡しながらここへ来た経緯、目標を話していく。
力強く話される自己紹介は何か引き込まれるものがあり、生徒の皆は聞き入っている。
ただ立っているのではなく、マイクを持っていない手を動かしながら話す言葉は聞いていて心地が良い。
自然とデュエリストとしての闘志が刺激されるようで、カイザーも無意識に笑みを浮かべていた。
「(ヨハン・アンデルセン……
世界に1つしかない【宝玉獣】デッキの使い手)」
聖星が絶賛し、闇のデュエリストに狙われるほどの実力を持つ少年。
今後プロデュエリストになってもデュエル出来る機会がそう何度もあるとは思えない相手。
その少年が、自分と同じアカデミアにいるのだ。
二度とない好機にカイザーは自然と拳に力が手に入り、この後の予定を立てる。
「(彼が【宝玉獣】使いだと知っているのは俺達鍵を持つ者、そして聖星と親しい者……
恐らくだが、この後デュエルに挑む余裕はあるはずだ)」
もしヨハンのデッキがこの世に1つしかないものだと分かれば、アカデミア中の生徒がデュエルを申し込むだろう。
そうなってしまえば自分の番がくるのは数日後になる可能性がある。
そうなる前にデュエルをしたい。
獲物を狙う猛獣の眼差しをヨハンに向ける時、ヨハンは今までにないくらい不敵な笑みを零した。
「俺はこの学園に来たら、あるデュエリストにデュエルを申し込むと心に決めていました」
その言葉に会場内がざわめきだす。
海の向こう側から来た少年が最初に指名するデュエリスト。
自然とアカデミアの生徒達はこの学園の強者達に視線を向けた。
ある者は万丈目へ、ある者は明日香、ある者は三沢、そして、ある者は……
「オシリス・レッドの遊城十代。
君にデュエルを申し込む!」
全校生徒の視線が、オシリス・レッドの席にいる十代に注がれる。
当の本人は一瞬だけぽかんとした顔をしていたが、現状を把握できたのかその顔は満面な笑みになった。
そのまま勢いよく立ち上がった十代はヨハンに向けて不敵な笑みを浮かべた。
「おう、受けて立つぜ、ヨハン!!」
交わる視線。
とても良く似た表情をしている2人の背後には闘志が燃え上がっている。
これは面白いデュエルになるだろう。
これから行われるデュエルは盛り上がると確信したカイザーは早く全校集会が終わって欲しいと願った。
クールに見えてデュエルバカのカイザーがそう考えているとは知らない取巻は、隣で少し眠たそうにしている聖星に話しかける。
「まさか、いきなり遊城にデュエルを申し込むとはな。
てっきり不動を指名するかと思った」
「いや、それはないって。
俺とヨハン、何度もデュエルしたし」
「それもそうか」
欠伸を噛み殺しながら返された言葉に納得する。
流石に聖星の全力デッキとは戦ったことはないようだが、何度もしているのなら初めてデュエルする相手を指名するのは当然だ。
「とりあえず、集会が終わったらヨハンを迎えに行くよ。
また迷子になったら困るし」
「……よく昨日はイエロー寮まで辿り着いたな」
いくら何でも校舎内で迷子になる事はないと思いたい。
しかし、全校集会での打ち合わせもあり、校舎まですぐだからと1人でブルー寮を出たヨハンを思い出す。
精霊達を連れた背中を見送り、準備もできたから自分達も行くかと寮を出ようとした時。
聖星宛に「迷った、どうしよう」というメールが届き、2人揃って真顔になったのだ。
結局【宝玉獣】達の姿が見える十代にも協力してもらい、3人でヨハンをクロノス教諭達の元へ連れて行った。
今後はこのネタで弄ってやると心に決めた取巻は、どんなデュエルになるのか想像する。
**
場所は全校集会を行った会場からデュエル場へと移った。
留学生とオシリス・レッド期待の星のデュエルであるため、観客が非常に多い。
聖星は取巻、カイザー、明日香と一緒に万丈目達と合流する。
着席した皆はデュエルディスクを構えた2人に注目し、デュエルが始まるのを待った。
「「デュエル!!」」
「俺のターン、ドロー!
俺は【E・HEROクレイマン】を守備表示で召喚。
カードを1枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターン!」
先攻を取った十代は堅実に場を整え、ヨハンにターンを送る。
ゆっくりとデッキからカードをドローしたヨハンは笑みを浮かべ、手札に来てくれた家族の名前を呼ぶ。
「【宝玉獣トパーズ・タイガー】を召喚!」
「来るか【宝玉獣】!」
カードをディスクにセットする音と共に、場に煌びやかな黄色の光が満ち溢れえる。
十代や万丈目達は初めて見る輝きに目を見開き、ある生徒はその美しさにため息をついている。
「綺麗……」
「あぁ」
明日香とカイザーもその美しさに見惚れ、それ以上の言葉が出てこなかった。
光が治まるとその場には雄々しい虎のモンスターが現れる。
「ぐわぁああ!!」
「頼んだぜ【トパーズ】」
「成程、最初の相手は聖星が言っていた十代か。
ヨハン、先陣は任せろ」
自信家のようで勝気の笑みを浮かべた【トパーズ・タイガー】はヨハンから十代に視線を移し、どのような人物なのか観察するように見つめる。
十代の瞳に宿っているのはデュエルに対する熱い想いと、精霊に対する好意が見える。
「すげぇ、ヨハンの精霊って喋るやつが多いのか?」
「さぁ、それはデュエルを続けてからのお楽しみさ」
「……兄貴とヨハン君、何をしゃべってるんすか?」
「下らん社交辞令だ」
「不動、翻訳頼む」
「相手は十代か、俺に任せろって言ってる。
【トパーズ・タイガー】は【宝玉獣】の中でも1、2を争うほどの好戦的でね。
今にも【クレイマン】に飛びかかろうとしている」
聖星の説明に取巻は小さく頷き、再びフィールドを見る。
自分の目にはモンスター同士がその場に立っているようにしか見えないが、聖星と万丈目の目には違いものが見えているのだろう。
見えるとまではいかないが、聞くことが出来る隼人は好戦的と言った聖星の説明に同意した。
「【トパーズ・タイガー】に装備魔法【宝玉の解放】を装備。
これで【トパーズ・タイガー】の攻撃力は800ポイントアップする」
【トパーズ・タイガー】の攻撃力は1600と、守備力2000の【クレイマン】には届かない。
しかし、【トパーズ・タイガー】の宝石が輝きだし、攻撃力が2400まで上がった。
「バトル!
【クレイマン】に攻撃!」
「ガァアアア!!!」
ヨハンの攻撃宣言と共に駆け出した【トパーズ・タイガー】は【クレイマン】を切り裂き、爆発する。
モンスターが爆発した時に生じた煙で視界が悪くなるが、十代はすぐに伏せカードを発動する。
「くっ、罠発動!
【ヒーロー・シグナル】!
ヒーローが戦闘で破壊された時、意思を継いだ仲間を特殊召喚できる!
来い、【E・HEROフォレストマン】!」
「はぁ!」
「【フォレストマン】……?」
十代が召喚したのは、その名に相応しい体を持つモンスターだ。
肉体は木でできているのか、体から葉っぱが生えている。
ヨハンの知識では【E・HERO】と名がつくモンスターに【フォレストマン】というモンスターはいなかったはずだ。
初めて見るモンスターにヨハンは十代にデュエルを申し込んだのは正解だと実感した。
「場にモンスターが残ったか、しょうがない。
俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」
場をがら空きにしたかったが、状況は先程と殆ど変わっていない。
守備力2000のモンスターが場に残っているのは良い状況とは言えない。
何とかモンスターを繋げた十代は、次にどんなモンスターが出てくるのかわくわくした表情をしている。
「クリリ~」
不意に聞こえてきた可愛らしい声に、十代はデッキを見下ろす。
すると半透明の【ハネクリボー】が現れ、十代の肩に乗ってきた。
「ん、どうした相棒?」
「クリ~」
どうやらデッキの中からではなく、外に出てこのデュエルを見たいようだ。
珍しいなと思いながらも大切な相棒が隣にいる事を嬉しく思い、十代はヨハンに向き直る。
「へぇ、それが君の精霊の【ハネクリボー】?」
「あぁ。
俺の1番の相棒さ!」
「な~」と声をかければ、嬉しそうな声が返ってくる。
見ていて微笑ましい2人の様子にヨハンも自然と優しい眼差しになる。
ヨハンにとって【宝玉獣】達は大事な家族だが、十代と聖星にとっては相棒なのだ。
自分達とは違う関係を築いている彼らが微笑ましいのだろう。
「俺のターン、ドロー!
スタンバイフェイズ時、【フォレストマン】の効果が発動する。
【フォレストマン】はスタンバイフェイズ時に場に存在するとき、デッキから【融合】を手札に加える事が出来るのさ」
「【融合】カード……
来るか?」
「あぁ。
手札から【融合】を発動!」
十代が手札から見せたのは【融合】と2体のモンスター。
風を味方につけた英雄と、彼の相棒である凛々しい女性の英雄である。
十代の場に融合召喚を行うための歪みが現れ、その前に2人が光と共に場に姿を出す。
そのまま2人の英雄は融合し、お馴染みのヒーローとなって舞い戻る。
「手札の【フェザーマン】と【バーストレディ】を融合!
来い、【E・HEROフレイム・ウィングマン】!」
「はぁ!」
「こいつが俺のフェイバリットカード、【E・HEROフレイム・ウィングマン】だ!」
「へぇ、そいつが十代のフェイバリットカードか!
なるほど、かっこいいぜ!
だが、【トパーズ・タイガー】の方が攻撃力は上だ。
どうするつもりだ?」
そう、融合の力によって召喚された【フレイム・ウィングマン】の攻撃力は2100。
自身の宝玉の力を解放している【トパーズ・タイガー】には300ポイント届かない。
しかし、十代にとって敵がヒーローより強いのは燃える展開なのだ。
「確かに【フレイム・ウィングマン】じゃ【トパーズ・タイガー】には敵わない。
けどな、ヒーローが強敵と戦うために相応しい舞台があるんだぜ!」
「え?」
「手札から装備魔法【フェイバリット・ヒーロー】を発動!」
十代が発動したのは【フレイム・ウィングマン】が技を放っている絵柄の装備魔法だ。
彼は相応しい舞台と言ったから、てっきりフィールド魔法が発動されると思った。
そして装備魔法を装備したというのに【フレイム・ウィングマン】に変わった点は見られない。
不思議そうに首を傾げると、十代がバトルフェイズに入る。
「行くぜ、バトルフェイズだ!
この瞬間、【フェイバリット・ヒーロー】の効果でフィールド魔法を発動する!」
「はぁ、何だよ、その効果!?」
「フィールド魔法【摩天楼-スカイスクレイパー-】をデッキから発動」
1枚のカードをヨハンに見せた十代はそのカードを発動し、デュエルディスクから放たれた光がフィールドを包み込む。
すると地響きが起こり、2人の足元から高層ビルが出現し始めた。
ビルは次々と現れ、十代とヨハンを囲ってしまう。
明るかった天井は一瞬で夜になり、ネオンの光が街を包み込んでいた。
「へぇ、まるでアメコミの世界だな」
「へへへっ、行くぜ、ヨハン!
【E・HEROフレイム・ウィングマン】で【トパーズ・タイガー】に攻撃!」
「なっ!?
攻撃力は下だぜ?」
「それはどうかな?
【摩天楼-スカイスクレイパー-】がある時【フレイム・ウィングマン】の攻撃力は守備力の分だけあがるんだ!」
その言葉にヨハンは理解した。
この場で最も高いビルには腕を組んだ【フレイム・ウィングマン】が立っており、【トパーズ・タイガー】を見下ろしている。
狙いを定めた【フレイム・ウィングマン】は飛び上がり、重力による加速で攻撃の威力が上がる。
「攻撃力3300!?」
「フレイム・シュート!!」
十代の叫び声と共に【トパーズ・タイガー】は貫かれ、激しい爆発が起こる。
家族が破壊された衝撃と共にヨハンのライフが4000から3100に下がってしまう。
翔はその様子に嬉しそうにはしゃぐ。
「よし、これで【フレイム・ウィングマン】の効果が発動すれば、ヨハン君ライフは更に削られるっす!」
「いや、まだだ」
「え?」
会場の歓喜に飲み込まれた翔に対し、聖星は冷静にそれを否定する。
自分の前の席に座っている聖星を見下ろせば、彼はいつものように微笑んでいた。
「まだ、【トパーズ・タイガー】はあそこにいる」
「どういう事なんだな、聖星?」
翔の隣に座っている隼人にも聞こえていたのか、聖星へ問いかけた。
その言葉に返ってくる音はなく、聖星はただ穏やかに笑って高層ビルと爆風が映し出されるフィールドを見ている。
視界が晴れていくにつれ、十代は違和感を覚えた。
「何?」
ネオンの光が満ち溢れるこの世界に、科学の力では表現できない明かりがあるのだ。
考えていると、美しい宝石が姿を現す。
「えっ、どういう事だ?」
「残念だったな、十代。
これが【宝玉獣】の特殊能力。
【宝玉獣】達は破壊されても宝玉として場に残るのさ」
「何だよそれ、すっげぇ!」
普通のデュエルなら破壊されたモンスターは墓地に送られてしまう。
しかし、彼が扱う【宝玉獣】は宝石としてヨハンの前に留まり続ける。
今までにないタイプのモンスターに十代は目を輝かせる。
「そして【宝玉の解放】のもう1つの効果が発動する!
このカードが場から墓地へ送られた時、デッキから宝玉を出す」
ヨハンは【宝玉の解放】のカードを墓地に送り、デッキから1枚のカードを抜く。
それを魔法・罠ゾーンにセットすると、紫色の宝石が現れた。
彼が選択したのは【宝玉獣】の紅一点である【アメジスト・キャット】のようだ。
「あ~、どんなモンスターなんだ。
凄く見たいぜ。
だが、俺達だってまだ終わらない。
【フェイバリット・ヒーロー】の第3の効果が発動する」
「まだ効果があったのか!」
「あぁ。
相手モンスターを破壊した時、【フェイバリット・ヒーロー】を墓地に送る事で【フレイム・ウィングマン】はもう1度バトルできる」
「何!?」
説明された効果に驚くと、ヨハンの前に影が出来る。
見上げれば【フレイム・ウィングマン】が自分を見下ろしており、黄色の瞳と視線がかち合う。
無意識にやべっ、という声を漏らすと【フレイム・ウィングマン】が左手を出す。
ヨハンに向かって炎を吐き出す。
「うわぁああっ!!」
体を焼く程の熱に悲鳴を上げたヨハンはその場に膝をつく。
ライフが3100から更に2100削られ、残りは1000となる。
まさか1ターンでライフの4分の3を削られるとは思わなかった。
留学生ではなく、在学生が先にライフを削ったことに会場は大きく湧きあがる。
「俺はターンエンドだ」
「俺のターン、手札から【レア・ヴァリュー】を発動!
場の宝玉を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドローする」
2つの宝石が描かれている通り【レア・ヴァリュー】は、宝玉となっている【宝玉獣】が2枚場に存在するとき発動できる魔法カード。
1つの宝石を犠牲にすることで希望を掴む効果を持つ。
墓地に送られたのは【トパーズ・タイガー】の宝玉である。
「何だ、もう墓地に行くのか。
【アメジスト】、しっかりやれよ」
「あら、【トパーズ】。
誰にものを言っているの?」
選択されてしまった【トパーズ】は不敵な笑みを浮かべ光の粒子となって消えていく。
託された【アメジスト】は勝気な笑みで返し、家族を見送る。
2人の会話を聞いていたヨハンは【トパーズ】に敬意を払うよう目を瞑る。
「さらに【宝玉の絆】を発動!
デッキから【宝玉獣】を1枚手札に加え、そのカードとは別の【宝玉獣】を宝玉として場に出す。
俺は【サファイア・ペガサス】を手札に加え、宝玉は【コバルト・イーグル】を選ぶ」
綺麗な紫色の宝石の隣には深い青の宝石が現れた。
「手札から【サファイア・ペガサス】を召喚!」
「ヨハン、やっと私を呼んでくれたな」
「頼んだぜ、【ペガサス】」
「あぁ、任せてくれ」
2つの宝玉の前に現れたのは純白の肉体を持ち、コバルトとは違う美しさを持つサファイアの角を持つモンスター。
彼はヨハンに振り返って笑みを向けた。
「【サファイア・ペガサス】、サファイアコーリング!」
ヨハンが効果名を宣言すると、【サファイア・ペガサス】の角から光が溢れ出る。
彼の効果は効果名の通り、仲間を呼ぶものだ。
墓地から【トパーズ・タイガー】のカードが現れ、ヨハンの場に3つ目の宝玉が置かれる。
「そして魔法カード【宝玉の導き】を発動。
俺の場に宝玉が2つ以上あるとき、新たな【宝玉獣】をデッキから特殊召喚する!
来い、【ルビー・カーバンクル】!」
「ルビビッ」
「【ルビー】、ルビー・ハピネス!」
丸いフォルムを活かした登場をした【ルビー】は可愛らしい目を鋭くさせ、宝石がついている尾を高く上げる。
すると【ルビー】の宝石から仲間の宝石たちに向かって光が放たれた。
3つの宝玉がその光を浴びると、表面にゆっくりとひびが入っていく。
「何だ?」
何かが起こる。
そう直感した十代はこれから何が起こるのか楽しそうに笑う。
彼の期待の眼差しに応えるよう、ひび割れた宝玉から眠っていた【宝玉獣】達が場に特殊召喚された。
「ひぇ~、今日はギャラリーが沢山いるな!」
「ちゃんとやってよね、【イーグル】」
「勿論、相手はあの十代ってやつ何だろう?
良いとこ見せまくるぜ」
「そう、頼もしいわ。
そしてさっきぶりね、【トパーズ】」
「ふっ。
俺がいなきゃ始まらないということさ」
あぁ、何て楽しそうな精霊達なのだろう。
互いに冗談交じりの言葉を交わしながらヨハンと共に戦う意思を見せる。
精霊とのデュエルを経験している十代だが、ここまで精霊が生き生きしているデュエルの対戦相手として場に立った事はあっただろうか。
相手をしたとき大抵は命をかけたり、していないときは観客席でデュエルを眺めたりしているだけだった。
興奮からか、手に汗がにじみ出ているのが分かる。
「すげぇ、マジかよ!
一気にモンスターが5体になった!」
「どうだ、俺の家族凄いだろ!」
「あぁ」
「なら、次に行くぜ。
永続罠発動、【バーサーキング】発動!」
今まで伏せられていたカードが表になると、そこには赤い毛を逆立てるゴリラのモンスターが描かれていた。
そのカードの名前に隼人は目が鋭くなり、翔は首を傾げる。
「何、あれ?」
「簡単に言えば、獣族モンスターの攻撃力の半分を別の獣族モンスターに分け与えるカードなんだな」
「へぇ~」
今、十代の場には攻撃力2100の【フレイム・ウィングマン】と、守備力2000の【フォレストマン】が存在する。
それに対しヨハンの場のモンスターは、皆総じて攻撃力が低い。
1番高い【サファイア・ペガサス】でも1800なのだ。
仲間の力を借りて相手のモンスターを倒すのは自然な流れだろう。
「俺は【アメジスト・キャット】の攻撃力1200の半分、600を【サファイア・ペガサス】の攻撃力に加える。
これで攻撃力は1800から2400になる」
【サファイア・ペガサス】の周りに赤い光がまとわり、宣言通り攻撃力が2400になった。
表示された数値に十代は焦ったような顔をする。
「バトルだ!
【サファイア・ペガサス】、【フレイム・ウィングマン】に攻撃!
サファイア・トルネード!」
「はぁあ!」
翼を広げた【サファイア・ペガサス】は【フレイム・ウィングマン】に向かって突進する。
【フレイム・ウィングマン】は避けようとするが、それより先に【サファイア・ペガサス】の角が【フレイム・ウィングマン】を貫いた。
手応えを感じた【サファイア・ペガサス】はヨハンの前に戻り、取り残された英雄は爆発して散ってしまう。
「くっ!」
「【トパーズ・タイガー】で【フォレストマン】に攻撃!
さらに速攻魔法【M・フォース】!
【トパーズ・タイガー】の攻撃力を500ポイント上げ、貫通効果を与える!」
「攻撃力2100!?」
「それだけじゃないぜ、【トパーズ・タイガー】は相手に攻撃するとき、攻撃力を400ポイントアップする!
つまり攻撃力2500の貫通攻撃さ」
「何!?」
まさかのコンボ効果に十代は目を見開く。
身軽さを活かした攻撃を仕掛けた【トパーズ・タイガー】は先程と同じように【フォレストマン】を切り裂く。
これで十代のライフは4000から3700、3700から3200へと減少する。
「うわぁ!!」
連続して襲い掛かってくるダメージに十代は目を瞑るが、まだ終わりではなかった。
まだヨハンの場には3体の【宝玉獣】達が待っているのだ。
「【アメジスト・キャット】、【コバルト・イーグル】、【ルビー】!
ダイレクトアタック!!」
「さぁ、皆、行くわよ!」
「任せな!」
「ルビビッ」
壁を失った十代に【アメジスト】は飛び乗り、自慢の爪で顔をひっかく。
痛そうな悲鳴がデュエル場に響き、思わず翔や取巻は顔を逸らす。
それに続き、【コバルト・イーグル】は突撃し、【ルビー】は口から光線を放った。
「うわぁああ!!」
「兄貴!?」
次々に襲い掛かってくるダメージに十代はその場に膝をついた。
一瞬で逆転された事に明日香と取巻は難しい顔をする。
「まずいわね、一気にライフを900まで削られたわ」
「しかも場に遊城のモンスターは存在しない。
それに対しアンデルセンの場にはモンスターが5体」
ライフはお互いに1000と900で並んでいるが、どう見てもヨハンが有利だ。
だが、これで押し切られて終わるだろうか。
いや、終わるわけがない。
十代と何度もデュエルをしている取巻や聖星は分かっているのか、十代に目をやる。
そして万丈目がくだらなさそうに零した。
「ふん。
あんな状況でも逆転出来るのがあのバカの気に入らないところだ」
「流石、何度も大事なデュエルで遊城に負けてる万丈目の言葉は重いな」
「取巻ぃ!
貴様こそ、今まで十代に勝てたことがあるのか!?」
「ないが、それがどうした??」
「取巻君、開き直りすぎっす」
まさかの会話を繰り広げる2人に翔は呆れた表情を向ける。
この2人が、以前は偉そうに人を顎で使っていた男とその取り巻きだと言えば誰が信じてくれるだろう。
随分と関係性が変わったなと実感した翔は十代へと視線を向ける。
「俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」
「俺のターン、ドロー」
今、十代の場には自分達を囲う【摩天楼-スカイスクレイパー-】しか存在しない。
だが、手札は3枚もあり、充分に逆転出来るだけの希望はあった。
引いたカードを見た十代はまだまだデッキが諦めていないことを再確認し、カードを発動した。
「【強欲な壺】を発動!
デッキからカードを2枚ドロー。
そして、手札から魔法カード【ホープ・オブ・フィフス】を発動!
墓地の【HERO】を5枚デッキに戻し、シャッフル。
そして2枚ドロー」
「え、4枚もドロー??」
「おう、4枚ドローだ」
ヨハンの驚いた様子が楽しいのか、十代は満面な笑みを浮かべて指を4本立てる。
これで手札は5枚になった。
新たに加わったカードに【融合】はないが、ヨハンのモンスター達を倒すことは出来る。
「手札から魔法カード【ヒーロー・アライブ】を発動!
ライフを半分にすることで、デッキから【HERO】を特殊召喚する!
頼んだぜ、【E・HEROエアーマン】!」
「はっ!」
「また俺が知らない【E・HERO】!」
十代のライフ450を代償に特殊召喚された英雄は腕を組みながら静かに場に立つ。
「そして特殊召喚された【エアーマン】の効果により、デッキから【スパークマン】を手札に加える。
さらに【HERO’sボンド】を発動。
場に【HERO】が存在するとき、手札からレベル4以下の【E・HERO】を2体特殊召喚する!
俺が喚ぶのは【スパークマン】と【オーシャン】だ!」
「はぁ!」
「ふんっ!」
両手から光を放ちながら現れたのは金属のマスクをかぶっている英雄と、海を司る英雄である。
3体の属性が違う英雄が並ぶ姿は実に見応えがある。
それぞれの攻撃力は1800、1600、1500である。
仮に【バーサーキング】の効果で低攻撃力のモンスターの攻撃力をあげても、ヨハンの残りライフ900を削り切るのは充分だ。
それに気が付いたヨハンは先程伏せた1枚のカードを発動する。
「罠発動、【宝玉の砦】!
このターン、十代は攻撃力5000以下のモンスターじゃ攻撃できないぜ」
「何ぃ!?」
「うん、俺もよくやられた」
ヨハンが発動したのは、場に存在する【宝玉獣】の数×1000以下の攻撃力を持つモンスターは攻撃できないという効果を持つ罠カード。
今、ヨハンと共に戦う【宝玉獣】は5体。
よって攻撃力5000以下のモンスターは宝玉の威圧に押され、攻撃できないのである。
「ちぇ、カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」
勝てると思ったのだが、流石はアークティック校のデュエリストだ。
なかなか勝負が決まらない事が楽しいのか、十代は思考を切り替えてヨハンを真っ直ぐ見る。
「俺のターン、ドロー!
永続罠【バーサーキング】の効果で【ルビー】の攻撃力の半分、150を【コバルト・イーグル】の攻撃力に加える!」
【ルビー】の周りに青い光が集まり、その光は赤色に変わって【コバルト・イーグル】の周りに集まりだす。
力がみなぎるのか【イーグル】は両翼を広げて気持ちよさそうな顔をしている。
これで攻撃力は1550になった。
「これで【オーシャン】の攻撃力を上回ったぜ。
バトルだ!」
「カウンター罠【攻撃の無力化】!
悪いが、ヨハンの攻撃も通さないぜ」
「あ~、やり返されたか。
それなら俺は【ルビー】と【アメジスト・キャット】を守備表示に変更」
この中で最も攻撃力が低い【ルビー】は両足を揃えて座り、【アメジスト・キャット】はその場に伏せる。
表示された守備力はそれぞれ300と400である。
「そして魔法カード【マジック・プランター】を発動。
永続罠【バーサーキング】を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドローする。
カードを2枚伏せて、ターンエンドだ」
「俺のターン。
行くぜ、ヨハン!
【エアーマン】で攻撃!」
「罠発動、【重力解除】!」
「げ!」
「悪いが、全てのモンスターの攻守を変更させてもらうぜ!」
ヨハンの宣言通り、【重力解除】は場のモンスターの表示形式を変更する効果を持つ。
十代のヒーロー達は膝をついて守備表示になり、ヨハンの家族は翼を閉じたり、伏せたり、牙をむき出しに構えたりする。
しかし、この状況は十代にとって好機である。
「だが、まだ終わっちゃいない!
速攻魔法【瞬間融合】を発動!」
「何!?」
「【E・HEROスパークマン】と水属性の【オーシャン】で融合!」
守備表示だった2体のヒーローは勢いよく舞い上がり、光に包まれながら融合する。
鋭い光は青い光に代わり、その光は雪の結晶へと変わっていく。
その演出と、十代が選択した融合素材の種類で聖星達は誰が融合召喚されたのか理解した。
「現れよ、氷結のヒーロー、【E・HEROアブソルートZero】!」
十代の叫び声に呼応するよう、彼のフィールドに光の柱が立つ。
轟音と共に【スカイスクレイパー】が揺れ、場の一部が凍っていく。
光は大きな音を立てながら崩れていき、その中から純白のヒーローが姿を見せる。
一目見て強い、そう確信したヨハンは興奮を隠しきれない様子で騒ぎだす。
「すげぇ!!
何だ、そのモンスター!
かっこいいぜ!」
凛とした姿で敵対する姿は実に美しい。
かっこよさと美しさを兼ね備える姿は見ていて楽しいものだ。
だが、その攻撃力は2500と、見とれている場合ではない。
そう訴えている【アメジスト・キャット】の視線にヨハンは頬をかく。
「行くぜヨハン、【アブソルートZero】で【ルビー・カーバンクル】に攻撃!
瞬間氷結!!」
目を鋭くさせた十代は手を大きく振り、攻撃宣言をする。
主からの宣言に【Zero】の瞳は一瞬だけ輝き、手を刃に変えて【ルビー】に切りかかろうとする。
勢いよく向かって行く十代のモンスターに翔と隼人は身を乗り出す。
「【ルビー・カーバンクル】の攻撃力は300!」
「この攻撃が通れば十代の勝ちなんだな」
だが2人は忘れていた。
ヨハンの場にもう1枚伏せカードがある事に。
向かってくる冷たい敵にヨハンは不敵に微笑む。
「そう簡単に【ルビー】に攻撃させるわけないだろ!
罠発動、【宝玉の集結】!」
「あっ、ヨハン、それ駄目……」
自信満々に宣言されたカード名に、聖星は思わず零してしまう。
しかしその反応は驚きや焦りとは少し違った。
初めて見るカードの発動に十代は構え、ヨハンは説明する。
「このカードを墓地に送り、【サファイア・ペガサス】と【Zero】をお互いの手札に戻す」
「えぇ!?」
「やったな、あいつ……」
ヨハンの説明に【Zero】の効果を知っている翔や取巻は目を見開く。
数多くのギャラリーの反応に、ヨハンは怪訝そうな表情をして周りを見渡す。
「え?
何で皆そんなに驚いているんだ?
まさか……」
確かにギャラリーは困惑している。
だがそれは、十代の攻撃をうまくかわしたことへの驚きではない。
そして十代を見てみれば、せっかく融合召喚したモンスターを融合デッキに戻されるというのに、余裕な笑みを浮かべている。
彼の反応に、己の選択が自分の首を絞める行為だと結論付けた。
理解できたヨハンは背中に冷や汗が流れ、慌てて【宝玉獣】達を見る。
「っ、皆!」
焦った声で叫べば、自分を守ってくれていた【宝玉獣】達が一瞬で氷漬けになってしまった。
美しい氷の像は足元からヒビが入っていき、虚しい音を立てながら崩れ落ちていく。
氷の結晶はすぐに宝玉となり、ヨハンの場に帰ってくる。
戻ってきてくれた彼らに安堵しながらも、説明を求めるため十代に顔を向けた。
「十代、一体何が起きたんだ?」
「【Zero】の効果さ。
【Zero】は場から離れた時、相手フィールドのモンスターをすべて破壊する」
「そんな効果があったのか。
やっちまったぜ」
「へへっ。
このままダイレクトアタックと言いたいところだが、これ以上は無理だ。
俺はカードを1枚伏せて、ターンエンド」
十代の場に新たなカードが現れ、ヨハンにターンが移る。
ヨハンの場には4つの宝玉のみ。
それに対し十代は【スカイスクレイパー】と守備表示の【エアーマン】、そして1枚の伏せカード。
ヨハンの手札には【サファイア・ペガサス】が存在するため、まだまだ勝負は分からない。
自分を落ち着かせるため深呼吸をしたヨハンは、ゆっくりとデッキに指を置く。
「俺のターン、ドロー!」
デッキに残っているモンスターは【アンバー・マンモス】と【エメラルド・タートル】のみ。
そして手札には【サファイア・ペガサス】が存在する。
ヨハンは自分の手札に来たカードを見て、すぐにそれを発動した。
「手札から【天使の施し】を発動!
デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てる!」
手札に加わった、いや、駆け付けてくれたのは【アンバー・マンモス】と【エメラルド・タートル】。
そして1枚の魔法カード。
そのカードの名前にヨハンは無意識のうちに口角をあげ、視線をカードから十代に移す。
「十代、この勝負、貰ったぜ!」
「何?」
「魔法発動、【宝玉の氾濫】!」
「やばい!」
ヨハンが発動したカードの名前に、聖星は声を荒げる。
珍しく声を張り上げた彼の様子に、皆はあのカードがとんでもないものだと察した。
明日香やカイザー達が聖星を凝視している中、4つの宝玉は煌めき始める。
「俺の場に宝玉が4つあるとき発動できる。
全ての宝玉を墓地に送る事で、フィールド全てのカードを墓地に送る!」
「何!?」
破壊でもなく、墓地に送る効果。
まさかの効果に十代は驚きを隠しきれず、最後に伏せたカードを見下ろす。
しかし、このカードを発動しても意味がない。
紫と赤、青、黄色の光は合わさりながらフィールドを照らしていく。
【スカイスクレイパー】や【エアーマン】、伏せカードの【クリボーを呼ぶ笛】は光に飲み込まれ、墓地に送られた。
「そして、墓地に送られた十代のカードの枚数分、俺は墓地から【宝玉獣】を特殊召喚する!」
「墓地に送られた俺のカードは3枚……」
「そう、俺は3体の【宝玉獣】を特殊召喚する!
蘇れ、【サファイア・ペガサス】、【トパーズ・タイガー】、【エメラルド・タートル】!」
何もなくなった場に淡い光が差し込む。
その光の中からヨハンの声に導かれた【宝玉獣】達が姿を現す。
先程と状況が真逆だ。
ヨハンの場のモンスターを一掃したと思えば、今度は自分の場を一掃されてしまった。
十代は悔しそうに、だけど楽しくて仕方がないという顔をヨハンに向ける。
「行くぜ、十代!」
「来い、ヨハン!」
「【エメラルド・タートル】、ダイレクトアタック!!
エメラルド・カッター!!」
【エメラルド・タートル】から放たれた刃は十代を攻撃する。
鋭い風と共に受ける衝撃に十代は吹き飛ばされた。
「うわぁあああ!!」
残り450だったライフは0になり、デュエル終了のブザーがなる。
特殊召喚された【宝玉獣】達はゆっくりと消えていき、ヨハンはデュエルディスクの電源をオフにする。
大の字に倒れている十代は勢いよく起き上がり、目を輝かせながら決め台詞を言う。
「あぁ、最高だった!
ガッチャ、楽しいデュエルをありがとう、ヨハン!」
「がっちゃ?」
2本の指を向けられたヨハンは十代の言葉に首を傾げる。
笑みを絶やさない彼はガッチャの意味を説明する。
「俺の決め台詞。
楽しいデュエルをありがとうって意味さ」
「へぇ、良い言葉だな」
どんなデュエルでも楽しみ、最高のデュエルにする。
そんな十代の性格、ポリシーを詰め込んだ、まさに十代らしい言葉だ。
2人の笑いあっている姿に聖星は笑みを浮かべ、隣に感じた気配に顔をあげる。
「【星態龍】」
「ヨハンが勝ったのか。
どうする聖星、このままアークティック校でのリベンジを果たすか?」
「いや、それは後日にするよ。
今はあの人が戦いたそうにしているから」
「あの人?」
聖星は何も言わず、静かに背後にいる人物を見る。
釣られて見れば、好戦的な表情を浮かべているカイザーがいた。
この表情は早くデュエルがしたい時にしているものだ。
よく聖星に向けているから理解できる。
「なぁ【星態龍】」
「何だ?」
「ヨハンに【レインボー・ドラゴン】の石板の在りかを教えたいんだけど……
駄目?」
「歴史を変えたいのか?」
「だよな~」
今のヨハンのデッキにエースモンスターは存在しない。
それなのに十代相手にあそこまで戦えるのだ。
【レインボー・ドラゴン】を手に入れ、【宝玉獣】デッキが完成した時、ヨハンはどれ程のデュエリストになるのだろう。
とても興味があるし、1度でも良いからデュエルしてみたい。
【星態龍】曰く、あと2年は待たなければいけないらしい。
「(でも、その頃には未来に帰ってるんだよな……)」
【三幻魔】を倒し、Z-ONEを説得して、その後家族が待つ時代へ帰る。
それが当初の目的であり、その決意は今でも揺らいではいない。
だけど、一瞬だけでも良いからと夢を見てしまう。
複雑な感情を抱いていると、ヨハンと十代の2人がこちら側を凝視している。
目があえば2人は手を振ってくれ、聖星は手を振り返した。
END
十代vsヨハンはヨハンの勝利に終わりました!
いや~、やっぱり2人の楽しそうなデュエルを書くのは楽しいです
(表現できているとは言っていない)
今の十代には漫画版HEROがいるけど【ネオス】がいないからこんな感じかなと
勿論この後意気投合するし、夕日をバックにこのデュエルの反省会するよ!!
そして、明日はついに新パック!!
皆のデッキ強化!!!
【HERO】はぶっ壊れ(?)が来ましたね(`・ω・´)
もうメリットしかない
私はAiのトークンも欲しいので、3店舗くらい回って買ってきます
1番欲しいのは遊星の新規カード達です
当たると良いなぁ
最後にアンケートの現状ですが、ARCVが人気だと……!?
正直1番吃驚です
以前の活動報告にも書きましたが、
5D'sのIfでは、原作アニメ開始までの内容or遊星と一緒にシティに行くところから始めるか考えています
ただ、このルートだと鬼柳が死なない、セキュリティに喧嘩を売らない
どうしよう
私の中で鬼柳が暴走したのは、皆と目指す目標がなくなったためだと考えています
だけどIf storyでは聖星と遊星の仲がぎくしゃくしているので、遊星のために奮闘しており、満足状態です
でも、鬼柳をダークシグナー化させるためセキュリティを襲撃する理由を考えたのですが、真っ先に浮かんだのが
『聖星が治安維持局に連れていかれる』です
ゴドウィンだったら聖星が遊星の弟ではないと分かりますし、怪しんで連れていくかなぁと
ただ、これだと遊星も鬼柳と一緒に殴り込むし、下手したら遊星が死んでダークシグナー化してしまう
VRAINSのIfは以下のような感じです
・ヒューマノイドを開発した技術力をSOLテクノロジー社に目を付けられる
・部下に使用されたウイルスの内容がオーバーテクノロジーの領域で、興味を持ったリボルバーが聖星達に接触する
・同じくオーバーテクノロジーに目を付けたライトニングが、聖星か聖歌の意識データを奪う
やっぱり機械に強い設定だと便利ですね
ARCVは、正直言って何も考えていませんでした
すみません(;'∀')
間違いなく真澄がヒロインですから、柚子と一緒に真澄も浚われるルートを考えています
それなら聖星が激怒する
ARCVルートの聖星は他の聖星と比べて1番メンタル強いし、男前なんです
好きな子のために強くなるというの大好きなんです
こういうシーンが見たいという要望があれば、活動報告にコメントしていただけると嬉しいです
ただ書くとは約束できません
必ず書くとは約束できません(大事な事なので2回書いた)