遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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このお話は『もしも聖星が戻ってきた時代が5D'sの満足時代だったら』というのをテーマに書いています。
なので遊星達が出ます。
本編とは一切関係はありません。


If story
世界よただいま、と思えば若い父がいた★


遊馬達とバリアンの戦いを終え、シャーク達がヌメロン・コードの力により復活した。

アストラルと離れ離れになってしまったが、皆はその事を悲しまず前を向いて進みだした。

そして異世界からの住人である聖星も元の世界に帰る日が訪れたのだ。

だが……

 

「どこだよ、ここ」

 

右を見ても左を見ても廃墟、廃墟、廃墟。

ところどころにいる人々はテレビで見た事しかないような小汚い服を着ており、栄養が不十分ではないかと思いたくなるほど痩せている。

すぐに聖星は【星態龍】のカードを取り出し、どういう事かを問おうとした。

 

「……あれ、ない?」

 

デッキケースとは別のカードケースの中から白いカードを探すが、どこにも見当たらない。

見落としたか?と思ったがこんな状況でも【星態龍】は姿を現さず、しかも黒いカードの中で唯一白いため見落とすわけがないと思った。

まさか、と嫌な予感がして念のためデッキケース、そしてポケットの中も探してみた。

だがどこにも彼はいなかった。

 

「え、まさかはぐれた?」

 

冗談じゃない。

まだ周りに情報を集めるのに役立ちそうな本やPCがあればいいが、明らかにこんな廃墟にそれを期待しては無駄だ。

聖星にとってこれがどういう状況なのか教えてくれるのが【星態龍】で、その彼が傍にいないことは情報収集できない事を意味して非常にまずい。

どうしようかと思ったが、良くも悪くも聖星はもともと適応能力があり、さらにバリアンとの戦いで多少の事ではへこたれなくなったためすぐに思考を切り替えた。

 

「まぁ、なんとかなるか」

 

と。

ここでパニックに陥らなかった事を褒めるべきか、馬鹿だと突っ込めば良いのか……

 

「(見てみればジャンクの山とかも見えるし……

そこに行けば壊れたPCとかあるかなぁ。

もしあれば組み立てようか。

流石にPCを一から組め、って言われたら困るけど基が出来ていれば何とかなると思うし)」

 

すると不意に視線を感じた。

 

「ん?」

 

聖星が振り返ると複数の男達がにやけている。

揃いも揃って同じような服装を着ている男達は明らかに友好的ではない。

すると代表格とも取れる男が前に出てきて聖星を見下ろす。

 

「おいおい、どうした坊主。

サテライトに坊主のような身なりの綺麗な坊ちゃんが1人でいちゃあ危ないぜ。

ここがどんな怖いところかママから教わってないのか?」

 

「サテライト……?」

 

男が口にした名に聖星は不思議そうな表情を浮かべる。

その名には聞き覚えがある。

しかし、ここが自分の知っているサテライトなのかはまだ断定は出来ないので大人しく話を聞くことにする。

 

「ここはサテライトっていう所なんですか?」

 

全く動じずに問われた言葉に今度は男達が不思議そうな顔をする。

そしてまじまじと聖星の顔を見たが、ふざけているようには見えない。

 

「なんだ。

サテライトの事を知らねぇのか。

とんだ箱入り娘、いや、箱入り息子だな。

だったらおじさん達が教えてやるよ。

…………シティの人間がここでうろちょろしていたら、どんな目に遭うかってよ」

 

一気に声を低くし、拳の関節を鳴らす男。

すぐに彼らはデュエルディスクを構えた。

聖星は特にたいして慌てた様子もなく同じように構える。

 

 

**

 

 

「「「すみませんでした――!!」」」

 

「あ、いや……

そう謝られても……」

 

大の男達に全力で土下座され、聖星は困ったように笑った。

明らかにケンカを売られ、負けたら身ぐるみ全部をはぎ、勝ったら見逃すというルールでデュエルをした。

幸か不幸か、聖星が持っているデッキは丁度対バリアン用に組んだガチの【魔導書】のみ。

初めは相性が悪いデッキがない事を祈っていたが、どうやら彼らの扱うデッキは寄せ集めデッキのようなもの。

そんな凄いコンボがあるわけでもなく、ただ高い攻撃力のモンスターを召喚して殴るという単純戦略だ。

 

「で、俺が勝ったので質問に答えてもらいますけど。

ここはサテライトっていうんですか?」

 

「あぁ。

坊主、本当に知らねぇのか?」

 

「はい」

 

しっかりと肯定した聖星に男達は互いに顔を見合わせる。

嘘をついているようには見えず、彼らは恐る恐る聖星を見た。

 

「坊主、もしかするとお前……

記憶喪失か何か、か?」

 

「え?」

 

男性の言葉に聖星は不思議そうな表情を浮かべる。

だがよく考えるとこれは良い勘違いではないだろうか。

事実、聖星はここが何処なのか把握していないし、把握しても彼らが知っている常識を何一つ知らない。

だから記憶喪失としておけばこの後、変な行動を起こしてもその理由で片づけられる。

 

「……そういえば、どうして俺はここにいるんだろう」

 

顔を伏せて小声で言うと、周りの男達が騒ぎ出す。

そして憐みの目で聖星を見る。

自分に突き刺さる視線が居心地悪い。

聖星の感情を読み取ったのか、リーダー格の男、アーサーは丁寧に説明してくれた。

 

「ここはサテライトって名前だ。

今から14年前に起こったゼロ・リバースっていう天変地異によりあそこのシティと分裂した」

 

「ゼロ・リバース…………」

 

「見ろ、あれがシティだ」

 

アーサーが指差した方角にはこんな場所とは比べ物にならないくらい発達した街がある。

高層ビルが立ち並び、まだ昼だというのに華やかな電気の輝きが分かる。

 

「(……ゼロ・リバース、そっか、そうなんだ)」

 

廃墟の街に輝かしい街。

そして14年前に起こったとされる天変地異の名前。

どれもこれも歴史の授業、そして遊星から聞いた話と一致する。

自分が知っているサテライトとここが同一のものだと確信を持った聖星は、同時に自分がどんな状況に置かれているかも理解した。

 

「(俺、元の世界に帰って来たけど……

過去に来ちゃったんだ)」

 

心の中で呟くと体が重くなる。

異世界ではない分安心したが、【星態龍】がいない今どうやってこの時代で生きていけばいいのだろう。

遊馬達の世界では【星態龍】がいたおかげで最初から住居はあった。

だが、彼がいない分全部自分でどうにかするしかない。

 

「(こうなったら意地でも探すしかないか。

という事は当面の目標は【星態龍】探し?)」

 

「そうだ、坊主!

お前の腕を見込んで頼みがある!」

 

「頼み?」

 

「あぁ!

俺達チーム・ブルーウルフの代表になってチーム・サティスファクションと戦ってほしい!」

 

「チーム・サティスファクション?

代表ってどういう事?」

 

それからアーサーの話を聞くとこういう事だ。

ゼロ・リバースによってシティと分断されたサテライトでは、デュエルに飢えたデュエルギャングによって各地区の奪い合いが勃発している。

彼らのチームは今度、サティスファクションの名を持つチームと互いの地区を賭けてデュエルするそうだ。

 

「どうする?」

 

「どうするって……」

 

別に参加しても構わないが、問題はこれに自分が関わり未来に変化がないかだ

一瞬それを懸念したが、よくよく考えるとたかが地区を取り合うデュエルだ。

その程度の歴史を変えたぐらいで未来が揺らぐとは思えない。

 

「まぁ、デュエルするくらいなら別に良いけど」

 

「本当か、助かるぜ坊主!」

 

「坊主じゃなくて、聖星ですよ」

 

「……名前は覚えているか。

そうか。

なら聖星、俺達チームの代表になるんだ!

チーム・ブルーウルフのコスチュームを着てもらうぜ!」

 

「は?」

 

アーサーの口から放たれたセリフに固まってしまった。

今彼らはお揃いのTシャツとGパンを着ている。

デザインはいまいちだし、所々破れているし、まぁ何が言いたいかというと。

 

「(え、俺、こんなダサいの着なきゃいけないの?)」

 

こんな恰好、絶対に知り合いに見せたくない。

心底そう思った聖星は仕方なく彼らの衣装を受け取った。

 

 

**

 

「よぉーし、お前ら!

今日はついにチーム・サティスファクションとのデュエルだ!!

気合い入れろ!!」

 

「「うぉおおお!!!」」

 

「う、うぉ~……?」

 

廃墟が立ち並ぶ大通りのど真ん中で男達の野太い声が響き渡る。

正式なチームメイトではないが、一応代表となったため聖星も一緒に叫ぼうとする。

しかし妙にタイミングを外してしまい虚しくなってしまった。

 

「よし、行くぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

アーサーは手を高く上げ、デュエルディスクを構える。

一気に緊迫した雰囲気に包まれ、自然と聖星も静かになる。

すると遠い向こうから4人組の少年達がゆっくりと歩いてくる。

 

「へっ。

ついに来やがったぜ」

 

「俺の機械デッキでどう可愛がってやろうか……」

 

「期待しているぜ、坊主」

 

「ですから、聖星です」

 

対戦相手の数も一致しており彼らがチーム・サティスファクションなのだろう。

軽い冗談を交わしながらどんな人達なのか1人1人見る。

1人目は水色の髪で赤いバンダナを巻き、2人目はオレンジの逆立った髪で小柄な少年。

3人目は彼らの中で1番背が高く、どこか気品を漂わす少年。

そして4人目は……

 

「え?」

 

彼の姿を認識すると一気に周りが騒がしくなり、アーサー達は信じられないという表情を浮かべて聖星を見る。

聖星は自分に向けられる多数の目を気にせず、ただ向かってくる少年1人に釘付けだった。

 

「おいおい、なんだよお前ら。

随分と騒がしい出迎えだな」

 

「ふん。

俺達を倒すための作戦会議か?

今更あがいたところでどうにもならんぞ」

 

不敵な笑みを浮かべながら挑発の言葉を述べる少年達。

彼らもアーサー達が何かおかしいというのに気が付いたのだろう。

だが、何が原因なのかは分かっていない。

いや、分かるはずもない。

 

「おい、ジャック、鬼柳。

こいつらなんかおかしくねぇか?」

 

「あぁ。

何かに戸惑っている感じだ。

何かあったのか?」

 

違和感に気づき、素直に怪訝そうな表情を浮かべるのはマーカー付きの少年と……

自分にあまりにも似ている少年、遊星だ。

 

「(………………うぅわ。

何でこんなタイミングで父さんと出くわすの?

っていうか父さん本当に俺にそっくり。

いや、親子だから似ているのは当然っていったら当然だけどさ。

これって俺、絶対変な方向に勘違いされるフラグだよね)」

 

もしこのまま自分が代表としてデュエルしたらどうなるか……

ゼロ・リバースのせいで家族を失った遊星の気持ちを考えるとややこしい事になるのは必然である。

 

「アーサーさん……」

 

「聖星」

 

「はい?」

 

辞退したいと訴えようとした聖星はアーサーを見上げる。

彼は真剣な目で聖星を見下ろし言葉を続けた。

 

「辛い戦いだろうが、今のお前は俺達のチームメイトだ。

手を抜いたら承知しないぞ」

 

「…………分かりました。

頑張って叩き潰します」

 

頭上から聞こえてきた言葉に、ですよね。と心の中で返事をしながら聖星はデュエルディスクを構える。

覚悟を決めた聖星の表情にアーサー達は互いに視線を交わし一歩前に出た。

 

「よぉ、チーム・サティスファクション。

お前達と戦うチーム・ブルーウルフのメンバーは俺達4人だ」

 

やっと始まるのだと分かった鬼柳達は怪訝そうな表情を浮かべながらも、すぐに気持ちを切り替える。

だが彼らの視界に聖星が映ると4人は目を見開いた。

 

「なっ!?

おい、どーいう事だよ!?」

 

真っ先に声を上げたのはリーダー格である鬼柳だ。

皆の心を代弁した彼に対し、クロウとジャックは真っ先に遊星を見る。

注目を浴びている遊星は自分の目の前にいる聖星から目を離す事が出来ない。

 

「……君は、一体……?」

 

明らかに動揺している遊星達に対し、聖星は冷静に今後の事を考える。

はっきり言って全力でデュエルするつもりだったが、対戦相手が遊星のチームならば話は別となる。

 

「(終わったらさっさと逃げよう。

俺は正式なチームメイトじゃないし、大丈夫だよな)」

 

そう決めた聖星は静かに尋ねる。

 

「で、俺の相手は誰?」

 

目の前の事を処理できない彼らを正気に戻すため、あえて強めの口調で言ってみた。

すると遊星が慌てて尋ねてくる。

 

「待ってくれ!

君は、一体何者なんだ?」

 

「俺はチーム・ブルーウルフの代表。

そして貴方はチーム・サティスファクションの代表。

今はそれだけで十分です。

どうしても知りたければ……」

 

遊馬達の世界で使っていたデュエルディスクにデッキをセットし、電源を入れる。

独特だが耳に馴染む機械音を聞きながら聖星は微笑んだ。

 

「デュエルで聞いてください」

 

周りの状況に似合わない笑みを浮かべられ、遊星達は言葉を失うがすぐに納得した表情となった。

彼らはデュエリストで相手の事を知りたければデュエルを交える。

これが最も単純かつ有効な手段だ。

 

「鬼柳、ジャック、クロウ。

彼の相手は俺にさせてくれ」

 

「あぁ、勝てよ遊星!」

 

「ふん。

貴様に言われんでもそうしていた」

 

「じゃあ俺達3人の相手はどいつだ?」

 

まだ若干のざわめきはあるが、デュエルが始まるという事で次第に静かになっていく。

互いに適度な距離をとりデッキをセットした。

 

「「デュエル!!」」

 

同時に声を張り上げた聖星と遊星。

デュエルディスクは遊星を先攻と表示した。

 

「俺のターン、ドロー!

俺は【マックス・ウォリアー】を攻撃表示で召喚」

 

「はぁっ!」

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

遊星が召喚したのはレベル4で攻撃力1800の戦士。

彼とのデュエルで何度も戦い、何度も倒し、倒されたモンスターだ。

懐かしいモンスターの登場に聖星は感情が高ぶりそうになったが、すぐに無表情になり伏せカードを見る。

 

「(父さんのデュエルスタイルが変わっていない事を前提で考えると、あの伏せカードはモンスターを守る【くず鉄のかかし】かダメージを0にする【ガード・ブロック】)」

 

いや、次にモンスターを繋げるため【奇跡の残照】も考えられる。

今までの経験を基に考えながら聖星はドローした。

 

「俺のターン。

手札から速攻魔法【魔導書の神判】を発動」

 

「【魔導書の神判】?」

 

「このカードが発動されたターンのエンドフェイズ時、俺はこのターン発動された魔法カードの枚数分までデッキから【魔導書】と名の付くカードを手札に加えます」

 

「つまり、エンドフェイズ時にお前の手札は増えるという事か」

 

「はい」

 

遊馬達の世界に馴染むため手に入れたカード。

しかしあまりの強さに孤立してしまったが、代わりに遊馬やシャーク、カイト達と出会う事が出来た。

バリアンとの戦いで自分が生き残れたのも、様々な【魔導書】を加える事が出来るこのカードの力のおかげかもしれない。

 

「俺は魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【魔導書】と名の付くカードを1枚手札に加えます。

俺は【セフェルの魔導書】を加えます」

 

テンプレすぎる戦術に犠牲者となったチーム・ブルーウルフのメンバーはにやにやと笑っている。

観客の雰囲気に何かあると感じ取っている遊星はただ静かに身構えた。

 

「そして【魔導書士バテル】を守備表示で召喚します。

このモンスターを召喚した時、俺はデッキから【魔導書】と名の付く魔法カードを1枚手札に加えます。

俺は速攻魔法【トーラの魔導書】を加えます」

 

次々と減っていくデッキの枚数。

デュエリストとしてレベルの高い遊星は発動された魔法カードの枚数と聖星の手札を見比べる。

 

「そして魔法カード【セフェルの魔導書】を発動。

俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時、手札の【魔導書】を見せる事で発動します」

 

「今、お前の手札には【トーラの魔導書】……

そして【魔導書】の発動条件からお前のデッキは魔法使い族デッキか」

 

「メインは魔法使い族ですね」

 

「メイン?」

 

つまり、デッキにはそれ以外のモンスターも入っている事。

与えられた情報をしっかり記憶し、遊星は自分の手札と伏せカードを見る。

 

「俺の場には魔法使い族の【バテル】が存在し、【トーラの魔導書】を見せる事で発動。

このカードは墓地に眠る通常魔法の【魔導書】の効果をコピーします。

俺は【グリモの魔導書】を選択。

デッキからフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】を手札に加えます」

 

「(フィールド魔法……

一体どんな効果だ?)」

 

「そしてフィールド魔法【魔導書院ラメイソン】を発動」

 

デュエルディスクが【ラメイソン】のデータを読み込むと、モーメントの光が輝き始め廃墟の街が高度な魔法文明が築かれている世界へと変わる。

雲泥の空は鮮やかな青に変わり、空中に魔法の文字が漂う。

 

「俺はカードを3枚伏せて、ターンエンド」

 

「(エンドフェイズ時……)」

 

「そしてこの瞬間、【魔導書の神判】の効果が発動。

このターン発動した魔法カードの枚数分、デッキから【魔導書】を手札に加えます」

 

このターン、聖星は【グリモの魔導書】、【セフェルの魔導書】、【魔導書院ラメイソン】の3枚を発動した。

今聖星の手札は1枚と非常に少ないが、これで4枚になる。

 

「俺はデッキから【グリモの魔導書】、【魔導書廊エトワール】、【セフェルの魔導書】を加えます。

さらに【魔導書の神判】のもう1つの効果発動」

 

「何?

まだ効果があるのか?」

 

「はい。

このターン発動した魔法カードの枚数分以下のレベルを持つ魔法使い族を1体、デッキから特殊召喚します」

 

「手札の補充だけではなく、モンスターの特殊召喚だと!?」

 

「俺はレベル3の【魔導教士システィ】を特殊召喚」

 

青空に漂う魔法の文字が一か所に集まり、輝かしい光を発する。

その光は大地に降り注ぎ、魔法使いが召喚される魔法陣となった。

淡い光を放つ魔法陣の中から1人の女性が現れ、彼女はゆっくりと目を開き【マックス・ウォリアー】を見る。

しかしその攻撃力に遊星は怪訝そうな顔を浮かべた。

 

「(折角モンスターを特殊召喚出来たというのに攻撃力1600だと?

俺の【マックス・ウォリアー】の攻撃力は1800……

攻撃を誘っているのか?)」

 

攻撃表示同士のモンスターの戦闘では基本的に攻撃力が高いほうが勝つ。

それなのに聖星は攻撃力の低い【システィ】を守備表示ではなく、攻撃表示にした。

カードを3枚伏せているので、もしかするとそのカードが鍵なのかもしれない。

あまりに単純すぎる誘いに遊星はどう対処しようかと考える。

 

「『攻撃力1600だと?

【マックス・ウォリアー】の攻撃力は1800……

攻撃を誘っているのか?』って、思っていませんか?」

 

「っ!?」

 

前から聞こえた言葉に遊星は思わず聖星を凝視する。

目の前で穏やかに笑っている聖星は遊星の反応が嬉しいのか、無垢な笑みを見せてくれた。

 

「その顔、図星みたいですね」

 

しかしすぐに先ほどのように静かな表情に戻り、次の言葉を発する。

 

「【魔導教士システィ】の効果発動。

【魔導書】を発動したエンドフェイズ時、このカードを除外してデッキから【魔導書】と光または闇属性、レベル5以上の魔法使い族を1体手札に加えます」

 

「なっ!?

という事は君の手札はさらに2枚増えるという事か!?」

 

「そうなりますね」

 

信じられない。

遊星はこのターンの彼の行動、そして彼の場、墓地、手札、デッキを見比べた。

場にはモンスターが1体、さらに魔法・罠ゾーンにはフィールド魔法を含めて4枚。

墓地には幸いにもモンスターは存在しないが、手札は6枚。

さらにこのターンでドローを含めデッキから9枚のカードが加えられた。

 

「(彼のデッキ構成が40枚だと仮定すると残りは26枚。

まだ2ターン目だぞ?

いくらなんでも消費が激しすぎる。

だがその分場と手札のアドバンテージが高い。

なんてデッキなんだ……)」

 

「俺は【魔導書の神判】と【魔導法士ジュノン】を手札に加えます」

 

「やはりその魔法カードは加えるか……」

 

「はい」

 

小さく頷いた聖星は遊星の表情を見る。

2ターン目なのに場や手札等が凄いことになり、遊星はこのデッキの脅威を本能的に感じ取っているようだ。

手札に加えた【ジュノン】と【神判】を見比べながら聖星は考える。

 

「(うん、ここからどうやって手を抜こうか……)」

 

正直に言って聖星はこのデュエル、本気でするつもりはない。

対戦相手である遊星とチームメイト達には悪いが、ここで自分が勝ってはいけないような気がするのだ。

もしここで勝ってしまえば今後遊星達がどうなるかは分からない。

先程から煩い程勝ってはいけないと頭の中で警鐘が鳴っている。

 

「(けど皆の前だと手を抜いたってすぐにばれるからなぁ……)」

 

周りのチームメイトは良くも悪くもこのデッキの特徴を知ってしまった。

もし聖星が手を抜けば誰かが違和感を覚え、すぐに気づくだろう。

だからあからさまに手を抜くわけにはいかない。

 

「(他力本願だけど父さんの実力に賭けるか)」

 

「俺のターンだ!

ドロー!!」

 

未来の父ならきっとこのデッキでも勝つことは可能だろう。

それだけ彼はデュエルが上手い。

だがそれは頭の回転の速さ、デッキ構築だけではなく様々な経験を積んでいる要素も影響している。

この時代の彼にはその経験が不足しているだろう。

 

「俺は手札から魔法カード【調律】を発動。

デッキから【シンクロン】と名の付くカードを加え、デッキの1番上を墓地に送る」

 

「(来た、父さんのエンジンカード。

この状況だったら加えるのは……)」

 

「俺は【クイック・シンクロン】を手札に加える」

 

「(ま、召喚権を使いたくないから妥当だな)」

 

遊星が加えたのは【シンクロン】と名の付くチューナーの代わりにシンクロ素材に出来るレベル5のモンスター。

未来ではあのカードを使用し様々なシンクロモンスターを特殊召喚したものだ。

 

「墓地に送られたのは【レベル・スティーラー】だ」

 

「(うん、墓地で発動するモンスターが墓地送りになるのはいつも通りだ)」

 

「さらに俺は場の魔法・罠カードを墓地に送り【カード・ブレイカー】を特殊召喚する」

 

「え?」

 

遊星の場に巨大な手を模した杖を持つ男性が現れる。

彼は指定された伏せカードを粉々に砕き、場に特殊召喚された。

すると砕け散ったかけらが再び現れ、そのカードの絵柄が分かる。

機械の配線がオーバーヒートを起こしたのか、火花が散り、煙が出ている。

 

「それは【リミッター・ブレイク】……

まさか……!」

 

「どうやらこのカードを知っているようだな」

 

「……そのカードが墓地に送られたとき、デッキから【スピード・ウォリアー】を特殊召喚できる」

 

「そうだ。

来い、【スピード・ウォリアー】!」

 

カードから光が発せられ、その中から回転しながら【スピード・ウォリアー】が特殊召喚される。

互いに特殊召喚されたモンスターの攻撃力は低いが、先ほど遊星が加えたカードと墓地に送られたカードを思い出しこれからの事を考える。

 

「(【クイック・シンクロン】を特殊召喚し、【レベル・スティーラー】でレベルを4にして……

レベル2の【カード・ブレイカー】と【スピード・ウォリアー】でシンクロ召喚。

【ジャンク・デストロイヤー】を特殊召喚かな?)」

 

シンクロ素材に使用したチューナー以外のモンスターの数までカードを破壊できるガラクタの破壊者。

名前とは違い、かなり綺麗なボディをもつ破壊者が召喚される未来が見え、聖星は伏せカードを見る。

 

「手札から【ボルト・ヘッジホッグ】を墓地に送り【クイック・シンクロン】を特殊召喚する。

さらに墓地に存在する【レベル・スティーラー】の効果発動!

【クイック・シンクロン】のレベルを1つ下げる事で墓地から特殊召喚する!」

 

西部劇風のモンスターは特殊召喚され、その隣に星を背負った天道虫が現れる。

ここはでは予想通り。

さて、遊星は聖星の場のどのカードを破壊するだろうか。

 

「行くぞ!

レベル2の【カード・ブレイカー】と【スピード・ウォリアー】にレベル4となった【クイック・シンクロン】をチューニング!!」

 

【クイック・シンクロン】は自分の拳銃ホルダーからおもちゃの拳銃を取り出し、目の前に現れたカードたちを見る。

そこには遊星のデッキに存在するであろう【シンクロン】と名の付くチューナー達だ。

青い目はじっとカードの動きを見つめ、1枚のカードを打ち抜く。

それは…………

 

「集いし希望が新たな地平へ誘う。

光さす道となれ! 」

 

「(違う。

これは【ジャンク・デストロイヤー】じゃない)」

 

「シンクロ召喚!」

 

天を貫く光と共に轟音が鳴り響き渡る。

緑の光に照らされた遊星は手を高く上げ、モンスターの名前を宣言した。

 

「駆け抜けろ、【ロード・ウォリアー】!!」

 

「はぁ!!」

 

緑の光は一瞬で砕け散り、中に存在していた王が姿を現す。

黄色のボディは青空から降り注ぐ光を反射し、赤い目は敵である【バテル】を見下ろす。

無機質らしく感情を感じさせない眼はただ静かに敵を見ていた。

 

「(伏せカードの事があるから【ジャンク・デストロイヤー】かと思ったけど【ロード・ウォリアー】を召喚……

【ロード・ウォリアー】はデッキから機械族か戦士族モンスターを特殊召喚する効果がある……

何を特殊召喚するかによって変わるな)」

 

「【ロード・ウォリアー】の効果発動!

デッキからレベル2以下の戦士または機械族モンスターを特殊召喚する!

来い、【アンサイクラー】!」

 

【ロード・ウォリアー】が作り出した道筋から現れたのは一輪車のモンスター。

赤いボディを持つ【アンサイクラー】は小柄ながらも強気の目で聖星を見る。

 

「そして手札からチューナー【デブリ・ドラゴン】を召喚!!」

 

「……【デブリ・ドラゴン】。

あ……!」

 

通常召喚で呼ばれたのは小型のドラゴン。

攻撃力はたったの1000だが、墓地から攻撃力500以下のモンスターを呼ぶ事が出来るため遊星のデッキには必要なモンスターである。

そして今遊星の墓地に存在するモンスターは……

 

「【デブリ・ドラゴン】は召喚に成功した時、墓地から攻撃力500以下のモンスターを特殊召喚する。

甦れ、【カード・ブレイカー】!」

 

「はっ!」

 

再び現れたレベル2のモンスター。

攻撃力はたったの100なので【デブリ・ドラゴン】の特殊召喚条件を見事にクリアしている。

 

「行くぞ!

レベル2の【カード・ブレイカー】とレベル1の【レベル・スティーラー】、【アンサイクラー】にレベル4の【デブリ・ドラゴン】をチューニング!」

 

レベル4のチューナーモンスターは総じて何らかの制約を持っているモンスターが多い。

【デブリ・ドラゴン】も例外ではなく、ドラゴン族シンクロモンスター以外のシンクロ召喚には使用できないという制約がある。

この時代、遊星が持つドラゴン族シンクロモンスターといえば1体しかいない。

 

「集いし願いが新たに輝く星となる。

光さす道となれ!」

 

【デブリ・ドラゴン】は4つの輪と星となり、3体のモンスターを包み込む。

優しい星はそのまま非力なモンスター達に力を与えるように埋め込まれ、彼らを緑の光に包み込んだ。

 

「シンクロ召喚!」

 

遊星の背後に立った光は白い輝きとなり、純白の翼を持つ巨大なドラゴンが姿を現す。

 

「飛翔せよ、【スターダスト・ドラゴン】!!」

 

「グォオオオオオ!!!」

 

一瞬で輝かしい光を纏ったドラゴンは気高い咆哮を上げ、フィールドにその咆哮が響き渡る。

ついに現れたドラゴンの姿に聖星は高揚した。

黄色の瞳に身にまとう光。

逞しい純白の肉体に光を反射している宝石。

どれを見ても記憶の中にあるドラゴンと一致した。

 

「……【スターダスト】」

 

何一つ変わらないモンスターの姿に目頭が熱くなる。

だが気づかれまいと聖星は手札を見るふりをした。

そして小さく息を吐き、遊星を真っ直ぐにみる。

 

「貴方、デュエルが上手いんですね」

 

「何?」

 

「【カード・ブレイカー】は通常召喚が出来ず、特殊召喚する方法も自分のカードを破壊しなければいけません。

専用デッキでも組まない限り、普通ならただのデメリットの塊です。

それでも貴方はその効果を逆手に取りデッキから【スピード・ウォリアー】を特殊召喚し、さらに【デブリ・ドラゴン】の蘇生対象にした。

普通ならこんなデュエル出来ませんよ」

 

低レベル。

低ステータス。

使いにくい効果。

下位互換。

遊星が使うモンスターはそんな理由で見向きもされないカード達ばかり。

だけど彼が使えば、どんなモンスターも次の一手へと繋げる道となる。

こんな若い時からそんな上手いデュエルが出来たと思うと、本当に遊星は凄い人なんだと改めて感じた。

 

「…………名前……」

 

「え?」

 

「まだ、君の名前を聞いていなかったな。

俺は不動遊星。

君は?」

 

「……名前は聖星。

苗字は忘れました」

 

「何?」

 

こういう反応は当然だろう。

サテライトで特殊な環境上、名前を持たない子供がいてもおかしくはない。

例え名前はあっても苗字がない場合もある。

だから「苗字はない」という答えが来るのなら分かるが、忘れたと言われるとは思わなかった。

予想外の言葉に遊星は聖星を凝視した。

 

「どういう意味だ?」

 

「俺、デュエルに関すること以外記憶喪失みたいなんです。

それでアーサーさんに拾われました」

 

他人事のようにへらっ、と笑えば遊星の瞳が大きく揺れる。

酷く動揺している父の姿に聖星は胸が痛んだ。

 

「(あれ、でもこれって……

俺、父さんに精神攻撃仕掛けてる?)」

 

目の前に現れた自分に似ている少年。

名前を聞けば記憶喪失だと返される。

身寄りのない遊星にとってこの言葉はどれほどの影響力があるだろう。

 

「そうだ……

俺からも質問しても良いですか?」

 

「何だ?」

 

「【星態龍】というカードをご存知でしょうか?」

 

「せいたい、りゅう?」

 

どうやら知らないようだ。

可能性はかなり低いが、もしかしたら何か知っているかもしれない。

そう思って聞いてみたが無駄なようである。

 

「そのカードが君の記憶と関係があるのか?」

 

「…………まぁ、そんなところです」

 

「…………ならばこのデュエル。

もう1つ賭けてもらおう。

俺達が勝てば君をチーム・サティスファクションで引き取る。

異論はないな」

 

「え??」

 

「そして俺は、俺のデッキを賭ける」

 

「えぇ!?」

 

「はぁ!?」

 

「遊星、貴様正気か!?」

 

遊星が提案した内容に傍でデュエルしている鬼柳とジャックが声を荒げる。

特にジャックの言葉は聖星の言葉を代弁しており、聖星は同意するように頷いた。

 

「勝てばいいだけの話だ。

問題はない」

 

「随分と無茶な事を言い出しますね……」

 

未来での遊星はもっと理性的だったが、若さゆえかどこか強引だ。

しかしここまで自分の面影がある少年だ。

家族の大切さを知っている遊星が手元に置きたくなる理由も理解できる。

苦笑しか出てこない聖星は頭が痛くなった。

 

「俺は【スターダスト】のレベルを1つ下げ、【レベル・スティーラー】を攻撃表示で特殊召喚する!

【レベル・スティーラー】で【魔導書士バテル】に攻撃!!」

 

「罠発動、【聖なるバリア-ミラーフォース-】。

これで貴方の場のモンスターは全滅です」

 

「だが【スターダスト】の効果はその上を行く!

ヴィクティム・サンクチュアリ!!」

 

「でしたらそれにチェーンしてリバースカード、オープン。

速攻魔法【ゲーテの魔導書】」

 

「何!?」

 

「墓地に存在する【魔導書】を2枚除外する事で、場のモンスターの表示形式を変更します。

俺は墓地の【魔導書の神判】に【グリモの魔導書】を除外。

【ロード・ウォリアー】を裏側守備表示に変更します」

 

墓地から現れた2枚の【魔導書】は歪みの中に吸い込まれ、【ロード・ウォリアー】は裏側守備表示になる。

同時に聖星の場に七色に輝く結界が張られるが、【スターダスト】が白い光へと包まれ場から離れる事で粉々に砕け散る。

信じられない光景にチームメイト達は叫ぶ。

 

「【ミラーフォース】が破壊された!?」

 

「どうなってやがる!?」

 

「【スターダスト】はカードを破壊する効果が発動された時、自身をリリースする事でその効果を無効にし破壊する効果を持つ。

よってお前の【ミラーフォース】は無効になった」

 

「ですが【スターダスト・ドラゴン】はこれで墓地に送られました」

 

いや、【スターダスト】の効果はこれで終わりではない。

【スターダスト】はこの効果で墓地に送られた場合、エンドフェイズに戻ってくる。

あのドラゴンの効果をきちんと理解しているから、聖星はここで【ミラーフォース】を発動したのだ。

【スターダスト】によって邪魔な罠カードがなくなり、【レベル・スティーラー】は【バテル】に向かって突進した。

 

「俺はカードを1枚伏せターンエンド。

そしてこのエンドフェイズ時、【スターダスト】は戻ってくる。

戻ってこい、【スターダスト】!!」

 

遊星の周りに光の粒子が集まり出し、それは美しい【スターダスト】へと姿が変わる。

還ってきたモンスターの登場に周りは一気に騒がしくなる。

 

「俺のターン、ドロー」

 

遊星の場には【スターダスト・ドラゴン】と【レベル・スティーラー】、裏側守備の【ロード・ウォリアー】に伏せカードが1枚。

それに対し聖星の場には【魔導書院ラメイソン】と伏せカードが1枚。

だが手札は7枚だ。

 

「スタンバイフェイズ。

フィールド魔法【魔導書院ラメイソン】の効果発動。

墓地に存在する【魔導書】をデッキの1番下に戻し、カードを1枚ドローします」

 

「これで手札が8枚か……」

 

「はい。

俺は【セフェルの魔導書】を選択し、ドロー」

 

「この瞬間、罠発動!

【逆転の明札】!」

 

「【逆転の明札】……

って、あ」

 

遊星が発動した罠カードは赤と青い光に包まれているカードが描かれている。

【宝札】シリーズとよく似た名前通り、ドローに関係する効果を持つ。

当然聖星はそのカードの効果を知っており、遊星の手札と自分の手札を見比べた。

 

「【逆転の明札】は相手がドローフェイズ以外にカードを手札に加えた時に発動できる。

俺の手札が相手の手札と同じ枚数になるよう、デッキからカードをドローする」

 

「今、貴方の手札は0。

そして俺の手札は8枚……

って事は8枚ドロー?」

 

「そうなる」

 

そんな枚数を1度にドローするなど聞いた事もない。

モンスターを複数特殊召喚し、最後の1枚がまさかのドローカード。

しかも【魔導書の神判】で手札の枚数が増え、さらに【魔導書院ラメイソン】の存在により発動タイミングがいくらでもある状態で引いたのだ。

 

「…………貴方、本当にカードに愛されていますね」

 

「俺はカードを8枚ドロー!」

 

遊星がドローしたのを見届けた聖星はすぐに自分のカードを見た。

加わったのはモンスターカード。

しかし今この状況ではあまり必要とはしないだろう。

 

「俺は手札から永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動」

 

「【魔導書廊】?

(手札に【魔導書の神判】が存在するのに、それより先に魔法カードを発動させた?)」

 

【魔導書の神判】は発動ターンに発動した魔法の枚数までデッキから【魔導書】を加え、その枚数以下のレベルを持つモンスターを特殊召喚する強力なカード。

普通ならサーチする枚数を稼ぐために1番最初に【魔導書の神判】を発動するはずだ。

 

「このカードは【魔導書】が発動する度に魔力カウンターを1つ乗せます。

そして俺の場の魔法使い族はこのカードに乗っているカウンターの数×100ポイント攻撃力が上がります」

 

つまり聖星はデッキからくわえる枚数より、モンスターを倒す攻撃力を選んだのだ。

たかが100ポイントでもモンスター同士の戦闘となると馬鹿には出来ない。

【エトワール】を発動させた聖星は自分の前に立ちふさがる【スターダスト】を見上げる。

【星態龍】のお蔭か、精霊の存在に敏感になったため目の前のドラゴンが何を思っているのか手に取るようにわかる。

どうやら【スターダスト】も遊星に似ている聖星の存在に酷く驚いているようだ。

力強く、気高い姿しか知らなかったため意外な面に可愛いなと思ってしまう。

 

「攻撃力2500ですか……

しかも守護を司るドラゴン。

どうやって攻略しましょうか」

 

先程手札に加えた【ジュノン】では【スターダスト】との相性が最悪すぎる。

効果で戦えば一方的に【ジュノン】が敗れるだろう。

だが、それに臨機応変に対応できるのが【魔導書】の強みである。

 

「俺は手札に存在する【魔導書】を3枚見せる事で、手札から最上級モンスターを特殊召喚します」

 

「何っ!?

手札を見せるだけで最上級モンスターを特殊召喚出来るだと!?」

 

目を見開いて驚く遊星をよそに、聖星は手札に存在する【グリモ】、【セフェルの魔導書】、【魔導書の神判】を彼に見せた。

すると3枚のカードが場に現れ、それらから光が発せられる。

眩く、暖かい光はフィールドに巨大な魔法陣を描きさらに輝いた。

 

「絶望を打ち砕く、光を纏いし英知の祈り。

闇を照らし、一筋の希望を導け!」

 

淡い桃色の光は一気に空へと放たれ、薄暗い雲を裂き、さらに遠くにある青空まで貫く。

遥か遠い空まで続く光柱を見上げながら遊星はその中にいる魔法使いを凝視した。

 

「特殊召喚!

裁きの時は来た、【魔導法士ジュノン】!!」

 

バリン、とガラスが砕けるような音と共に柱は砕け散り中から桃色の髪を持つ女性が現れる。

彼女は品のある動作でその場に降り立ち、手に持つ書物を広げて遊星を見る。

 

「……それがお前のエースか」

 

「はい、彼女がこのデッキのエースです」

 

遊馬達の世界で手に入れた【ジュノン】。

彼女はどんなピンチでも聖星を助けに来てくれ、その小さな背中で聖星をどんな敵からも守ってくれた。

今日も小さい背中だが、今まで歩んできた経験のためかとても大きく感じる。

 

「俺は手札から速攻魔法【魔導書の神判】を発動。

エンドフェイズ、このターン発動した魔法カードの枚数までデッキから【魔導書】を加え、加えた枚数以下のレベルを持つ魔法使い族を1体特殊召喚します。

そして【グリモの魔導書】を発動し、デッキから【アルマの魔導書】をサーチします」

 

発動された【魔導書の神判】と【グリモの魔導書】はそれぞれ球体となり、フィールドに浮かぶ。

それが魔力カウンターを示すのだと遊星はすぐに気が付いた。

 

「次に【セフェルの魔導書】を発動。

【アルマの魔導書】を見せ、墓地に存在する【グリモの魔導書】の効果をコピー。

デッキから【ヒュグロの魔導書】をサーチ。

そして【ヒュグロの魔導書】を【ジュノン】に対して発動」

 

新たな【魔導書】が発動すると【ジュノン】が持つ書物は赤く輝きだし、それと共鳴するよう【ジュノン】も赤いオーラに包まれる。

【魔導書】はこれで4枚発動され、カウンターは4つ。

それで元々の攻撃力は2500のため、【ジュノン】の攻撃力は2900になると思ったが……

 

「攻撃力が3900まで上がった?

【エトワール】の効果だけではないのか?」

 

「【ヒュグロの魔導書】の効果です。

このカードは俺の場の魔法使い族モンスターの攻撃力を1000ポイント上げます」

 

「っ!?」

 

「さらに魔法カード【アルマの魔導書】を発動。

このカードはゲームから除外されている【魔導書】を1枚手札に加える効果です。

よって、俺は【グリモの魔導書】を加えます」

 

5枚目の【魔導書】が発動された。

聖星の目の前に黒い歪みが現れ、そこから1枚の魔法カードが戻ってくる。

そして役目を終えた【アルマの魔導書】はカウンターへと変わり、空中へと浮かんだ。

同時に【ジュノン】の攻撃力が3900から100ポイントプラスされる。

 

「攻撃力、4000……」

 

「行きますよ。

【魔導法士ジュノン】で【スターダスト・ドラゴン】に攻撃!

女教皇の裁き(ハイプリーステス・ジャッジメント)!」

 

【ジュノン】はゆっくりと呪文を唱え、手のひらに魔力を集める。

次第に大きくなっていった魔力は彼女の手から離れ、【スターダスト】の体を貫く。

攻撃の音に少し遅れて【スターダスト】の体は激しく爆発し、遊星のライフを1500も奪った。

 

「そして【スターダスト】を破壊した事で、【ヒュグロの魔導書】の第二の効果が発動します。

相手モンスターを破壊したとき、デッキから【魔導書】を1枚加えます。

俺は【ゲーテの魔導書】を手札に加えます」

 

「表示形式変更のカードか……」

 

「俺はカードを3枚伏せ、ターンエンド。

そしてこのエンドフェイズ時、【魔導書の神判】の効果が発動します。

このターン発動した魔法カードは4枚。

よって俺はデッキから【ネクロ】、【ヒュグロ】、【トーラ】の魔導書を手札に加えます。

そして【魔導教士システィ】を特殊召喚」

 

これで聖星の場の魔法・罠ゾーンがすべて埋まった。

遊星はそれの伏せカードを警戒するように見下ろし、特殊召喚された【システィ】に目をやった。

彼女は持っている剣を地面に突き刺し、祈るように膝をついた。

淡い光が【システィ】を包み込むと2枚のカードが現れた。

 

「俺は【ジュノン】と【魔導書の神判】を選択。

この時点で俺の手札は7枚なので【ブレイクスルー・スキル】を捨て、ターンエンドです」

 

「俺のターン!」

 

勢いよくカードを引いた遊星。

彼は9枚もある手札を見下ろし、ゆっくりと目をつむった。

と思えば目を開き、聖星を見る。

 

「行くぞ、聖星!

俺は手札から魔法カード【死者蘇生】を発動!

墓地に眠る【スターダスト・ドラゴン】を特殊召喚する!」

 

「させません。

カウンター罠、【神の警告】を発動します。

よって【スターダスト】は帰ってきません」

 

「ならば【ジャンク・シンクロン】を召喚!」

 

「はっ!」

 

破壊された【死者蘇生】の代わりに可愛らしい戦士族のモンスターが現れる。

オレンジ色のモンスターは【クイック・シンクロン】と同じくらい遊星が使っているチューナーモンスターで、思わず懐かしくなり頬が緩む。

 

「【ジャンク・シンクロン】の効果発動!

このカードが召喚に成功した時、墓地に眠るレベル2以下のモンスターを特殊召喚する!

来い、【スピード・ウォリアー】!」

 

「はぁ!」

 

【ジャンク・シンクロン】の隣に現れた【スピード・ウォリアー】は足を大きく開いて回転し、素早い動きでその場に着地する。

守備表示で特殊召喚されたため、そのまま【スピード・ウォリアー】は青色になる。

 

「さらに【ロード・ウォリアー】を反転召喚!

【ロード・ウォリアー】の効果発動!

デッキからレベル2以下の機械族、戦士族モンスターを1体特殊召喚する。

現れよ、【チューニング・サポーター】!」

 

再び【ロード・ウォリアー】は光の道を作り出す。

光に包まれながら現れたのはスカーフを巻き、シンクロ召喚に使用された際効果を発動する小柄のモンスターだ。

 

「【チューニング・サポーター】の効果発動!

このカードをシンクロ素材にするとき、こいつのレベルを2にする事が出来る!」

 

「レベル2……

【ジャンク・シンクロン】も含めてレベルの合計は……」

 

「俺はレベル1の【レベル・スティーラー】とレベル2の【スピード・ウォリアー】、レベル2となった【チューニング・サポーター】にレベル3の【ジャンク・シンクロン】をチューニング!」

 

4体の小柄のモンスターはそれぞれ宙に舞い上がり、非チュウーナーモンスターである3体は半透明となる。

それに対し【ジャンク・シンクロン】は3つの星と3つの輪へと姿を変え、3体のモンスターを包み込む。

 

「集いし闘志が怒号の魔神を呼び覚ます。

光さす道となれ!

シンクロ召喚!

粉砕せよ、【ジャンク・デストロイヤー】!」

 

「ハァッ!」

 

光の壁を中から打ち砕いたのは聖星が前のターンで予想していた魔神だった。

やはり出てくるのか、と思いながら【ジャンク・デストロイヤー】を見上げると黄色の目と視線が交わる。

 

「【チューニング・サポーター】はシンクロ素材になった時、デッキからカードを1枚ドロー出来る。

さらに【ジャンク・デストロイヤー】の効果発動!

このモンスターのシンクロ素材に使用したチューナー以外のモンスターの数までカードを破壊する!

シンクロ素材になったモンスターは3体!

よって、お前の伏せカード2枚と【魔導書廊エトワール】を破壊する!」

 

指定されたのは真ん中に存在する【エトワール】とその左右にある伏せカード2枚だ。

【エトワール】さえ破壊すれば【ジュノン】の攻撃力を下げる事が出来る。

【ジャンク・デストロイヤー】は両腕を前に突き出し、衝撃波のようなものを放った。

 

「タイダル・エナジー!」

 

自分の真横を通った衝撃波に【ジュノン】は驚き、後ろにある【エトワール】を見る。

 

「でしたらリバースカード、オープン。

速攻魔法【トーラの魔導書】を発動。

この効果により、このターン、【ジュノン】は魔法効果を受けません」

 

対象となってしまった3枚のうち1枚が表になる。

それには凛々しく【魔導書】を開く【ジュノン】が描かれていた。

女教皇に英知を託したカードにはゆっくりとひびが入り、そのまま砕け散ってしまう。

これで【ジュノン】は【エトワール】の加護を失い、攻撃力が2500に戻ってしまった。

デッキからカードをドローした遊星はそれを手札に加え、聖星を見る。

 

「この瞬間、【魔導書廊エトワール】の効果発動。

魔力カウンターが乗っているこのカードが破壊され墓地へ送られた時、このカードに乗っていた魔力カウンターの数以下のレベルを持つ魔法使い族モンスター1体をデッキから手札に加える事ができます」

 

「何!?

【エトワール】に乗っていた魔力カウンターは5……」

 

「俺は【魔導戦士ブレイカー】を手札に加えます」

 

「ならば俺は【シンクロキャンセル】を発動。

【ジャンク・デストロイヤー】を選択し、墓地から【ジャンク・シンクロン】、【レベル・スティーラー】、【スピード・ウォリアー】、【チューニング・サポーター】を特殊召喚する!」

 

「…………え?

っていう事は……」

 

【シンクロキャンセル】は簡単にいえば【融合解除】の通常魔法かつシンクロモンスターバージョンだ。

遊星の墓地にはシンクロ素材が揃っており、彼の場に特殊召喚できる条件は満たしている。

 

「(もう1度【ジャンク・デストロイヤー】をシンクロ召喚出来るって事か……)」

 

聖星の場には2枚の伏せカードに【ジュノン】、【ラメイソン】。

また【ジャンク・デストロイヤー】を特殊召喚されれば確実に伏せカードと【ジュノン】を破壊されるだろう。

 

「来い!

【ジャンク・シンクロン】、【レベル・スティーラー】、【スピード・ウォリアー】、【チューニング・サポーター】!」

 

ジャンクの破壊者は黄色の光に包まれるとエクストラデッキに戻り、代わりに明るい音と共に4体のモンスターが特殊召喚された。

再びモンスターゾーンが並んだ光景に、聖星は自分のデュエルディスクを見下ろす。

伏せカードを使えば遊星が行おうとしているシンクロ召喚は防ぐ事が出来る。

だがこのデュエルでは手加減をするつもりなので使うべきか否か迷ってしまうのだ。

 

「(難しいな~

ま、父さんの場には【ロード・ウォリアー】もいるんだし、やってみるか)

モンスターの特殊召喚時、リバースカード、オープン。

速攻魔法【ゲーテの魔導書】」

 

「何!?」

 

発動されたのは3人の魔法使いが向かい合っている速攻魔法。

先程のターン、このカードの効果で【ロード・ウォリアー】は守備表示となり攻撃を行えなかった。

シンクロ素材が揃っている今のタイミングで、表示形式を変更するというのなら真っ先に狙われるのはチューナーモンスターである【ジャンク・シンクロン】の可能性が1番高い。

 

「墓地の【魔導書】を3枚除外して、場のカードを1枚除外します」

 

「どういう事だ!?

そのカードは相手モンスターの表示形式を変更する効果じゃないのか!?」

 

「【ゲーテの魔導書】には3つの効果があります。

1つ目は1枚除外して伏せカードを手札に戻す。

2つ目はモンスターの表示形式の変更。

3つ目はモンスターをゲームから除外する効果です」

 

「墓地に左右されるが、その時の状況によって最適な効果を選べるというのか…………」

 

「俺は【ジャンク・シンクロン】を選択します」

 

「くっ……!」

 

【ジャンク・シンクロン】の目の前に漆黒の歪みが現れ、【ジャンク・シンクロン】は驚いて逃げようと走り出す。

しかし強い吸引力で【ジャンク・シンクロン】はあっさりとその歪みに吸い込まれてしまった。

これで遊星は【ジャンク・デストロイヤー】をシンクロ召喚する事は出来ない。

それにこのターン彼はすでに通常召喚も行っており、【クイック・シンクロン】も墓地に存在するためこれ以上チューナーモンスターは出てこないはずだ。

 

「(あと警戒するのは【ワン・フォー・ワン】による【ターボ・シンクロン】の特殊召喚かな)」

 

「ならば俺は手札から魔法カード【武闘演舞】を発動!」

 

「あ」

 

しまった、その手があったか。

遊星が発動したカード名に【ジャンク・シンクロン】は除外ではなく、裏側守備の方が良かったと後悔する。

 

「俺の場にシンクロモンスターが存在する時、シンクロモンスター1体を選択して発動する!

そのモンスターと同じ種族・属性・レベル・攻撃力・守備力を持つ【ワルツトークン】1体俺の場に特殊召喚する!

俺は【ロード・ウォリアー】を選択!」

 

「ハッ!」

 

魔法カードの効果を得た【ロード・ウォリアー】は2つの存在に分裂する。

オリジナルの【ロード・ウォリアー】は綺麗な黄銅の輝きを放っているが、コピーである【ワルツトークン】は全体的に白色のモンスターだ。

 

「行くぞ!

【ワルツトークン】で【魔導法士ジュノン】に攻撃!」

 

「ハァア!」

 

【ワルツトークン】はその薄暗い目を一瞬だけ輝かせ、後ろについてあるブースターで加速する。

激しい炎を吹き出しながら向かってくる相手モンスターに【ジュノン】は周りに魔法陣を描き、応戦しようとする。

淡い色の魔法陣から無数の魔弾が放たれ【ワルツトークン】を破壊しようと向かっていく。

しかし【ワルツトークン】は全ての魔弾をかわしきり、【ジュノン】をその鋭い爪で切り裂いた。

 

「っ【ジュノン】!」

 

切り口から爆発した【ジュノン】に聖星は叫ぶ。

するとその煙の向こう側に赤い目が光り、聖星は身構えた。

 

「【ワルツトークン】との戦闘では互いにダメージはない……

だが、俺の場にはまだモンスターは存在する。

【ロード・ウォリアー】!!!」

 

遊星の叫び声と同時に煙の中から【ロード・ウォリアー】が現れ、標的である聖星に狙いを定める。

自分の数倍もある大きさを持つモンスターの姿に聖星は両腕を下ろし、ゆっくりと目を閉じた。

その様子に遊星は目を細め、お腹の底から叫ぶ。

 

「ライトニング、クロォオオオオ!!!」

 

漆黒の爪を光らせた【ロード・ウォリアー】は一気に加速し、聖星を貫いた。

耳に届くライフカウンターが減る音に聖星は小さく呟いた。

 

「…………良かった」

 

彼の呟きは誰にも届かなかったようで、代わりにチームメイト達は聖星の敗北に目を見開いていた。

 

「…………聖星が負けた?」

 

「……マジかよ?

だって【ジュノン】も【魔導書の神判】も使ったんだぜ?」

 

微かに聞こえる震えた声に聖星は振り返る。

1人1人チームメイトの顔を見渡したが、皆聖星の事を信じていたのか負けた事実を受け入れられないようだ。

ついこの間出会ったのに、デュエリストとしてここまで信用されていたと思うと本当に申し訳ない。

寂しそうな眼差しでチームメイトを見ている聖星に遊星は声をかけようとした。

 

「【ジェネティック・ワーウルフ】で攻撃だ!!」

 

「【アーマード・ウィング】でダイレクトアタック!!」

 

「【ツイン・ブレイカー】、ダブル・アサルト!!」

 

次々に聞こえてくる仲間の声とデュエルディスクの爆発音。

そういえば、聖星の事に動揺するあまり彼のデュエルディスクに手錠をはめるのを忘れていた。

どうやらこの勝負はチーム・サティスファクションの完勝のようである。

 

「さぁて、チーム・ブルーウルフさん。

今日からこの地区は俺達チーム・サティスファクションが仕切る。

分かったな?」

 

「……あぁ。

約束だ」

 

鬼柳の相手をしていたのはこのチームの頭であるアーサーだ。

敗北した事により地に突っ伏しているアーサーは悔しそうにゆっくりと頷いた。

この地区も制覇し、自分達の目標にまた1歩近づく事が出来た。

 

「ところでよ、遊星。

聖星はどこ行ったんだ?」

 

「何!?」

 

クロウの言葉に遊星は慌てて先ほどまで彼が立っていた場所を見る。

そこには聖星の姿はなく、見渡しても自分とよく似た髪型を見つける事が出来ない。

 

「そんな……

いない、だと?」

 

確かにさっきまではそこにいたのだ。

敗北により膝をついている仲間を見つめ、寂しそうな背中を遊星に向けていた。

それなのに何処にも見当たらない。

遊星は焦りから険しい表情になり、近くにいるチーム・ブルーウルフのメンバーを掴んだ。

 

「おい、彼はどこにいった!?」

 

「し、知らねぇよ、少し目を離したらどっか行ってたんだ!」

 

彼も遊星同様、仲間の決着に気が向いていたようで気が付いたときにはいなかったようだ。

それを聞いた遊星はさらに顔を歪ませ、もう用はないとでも言うように彼を地面に叩き付けた。

 

「どうした遊星、クロウ」

 

「あいつがよ、少し目を離したらいなくなっちまったんだ!」

 

「何だと?」

 

「なっ、マジかよそれ!」

 

傍に寄ってきた鬼柳とジャックも周りを見渡す。

確かに彼の言う通り遊星に似た少年は何処にも見当たらない。

他のチームメイト達に目を向けるが、彼らもどこに行ったか分かっていないようだ。

彼らが混乱している間、当の聖星は…………

 

「さて、服も着替えたし……

なんか帽子代わりになりそうなものないかな」

 

チーム・ブルーウルフのアジトに置いてある自分の服に着替えていた。

あのままチームの証である服装を着ていては例え逃げても簡単に見つかってしまう。

だから着替えたのだが、彼らのコスチュームと違い、聖星の服は綺麗すぎてこの地区では目立ってしまう。

 

「(ま、この場しのぎにはなるかな)」

 

そのまま聖星は逃げようとした。

だが不意に足が止まってしまう。

 

「(……でもさ、ここで逃げて……

…………これから俺どうすれば良いんだ?)」

 

ここ数日はアーサー達の暮らし方を観察し、サテライトでの生活は少しだけ学んだ。

【星態龍】が何処にいるのか分からない今、もう少しここで暮らす必要性が出てくる。

だがこの数日で学んだ知識だけで自分は生きていけるだろうか。

 

「(ま、まずはここから離れて……

壊れた部品を使ってPCを組み立てないと。

それから情報を収集しないと今後の事は分からないしな)」

 

元々アーサー達と出会う前は自力でどうにかしようと決めていた。

その日に彼らと出会い、伸びただけ。

生活するのに必要な知識は多少身につけたし、これからももっと身につければ良い。

 

「(誰かの世話になるっていうのもありだけど、父さんのところは論外だな。

あのまま父さんのところにいたら未来に影響される可能性があるし。

あ、でもどうしよう。

俺ついノリで名乗っちゃったよ)」

 

流石に漢字までは教えていないが、呼び方を教えてしまった以上遊星が未来でその名をつけるのか怪しい。

いや、むしろここで名乗ったからつけたのか?

だがあの遊星が誰とも分からない少年の名前を息子につけるだろうか。

知らず知らずのうちに自分を追い込んでいたことに気付いた聖星はまた頭を抱えた。

 

「(ダークシグナーとの戦いの後なら、正直に話してもある程度は理解を得られたかもしれないけど、今は絶対に無理だよな)」

 

父がオカルトや非現実的な現象に巻き込まれたのは18歳の時。

今の遊星の年齢は分からないが、あれほどやんちゃな事をしているのだからもう少し若いはずだ。

 

「……今は逃げ切る事を優先するか」

 

自分に言い聞かせるように呟いた聖星はその場から立ち去った。

 

END




Q聖星はアストラルを助けるため遊馬達と一緒に動かなかったの?
A最終回のアストラルVS遊馬のデュエルを見届け、ヌメロン・コードでシャーク達が生き返った後すぐに帰りました。

Q聖星は遊星の黒歴史を知らない?
Aサテライトの時暴れまわった事は聞いていますが、あんなダサい服を着ていたことは聞いていません。遊星自身話したくないでしょう。

Q【星態龍】どこいったし?もしかして彼だけ未来に帰った?
Aいえ、ちゃんと同じ世界、同じ時代にいます。それでとある人物に拾われています。囚われのお姫様(笑)状態ですよ。

Qこれ聖星が本気でやってたらどっちが勝ってた?
A遊星です。主人公補正ぱねぇ、という意味で遊星です。

Q遊星との約束を破って逃げるなんて…お前それでもデュエリストか!?
A約束なんてしていません、遊星が一方的に言ってきているだけです。聖星は承諾していません。だが拒否もしていないのでそう罵られても仕方がありません。

Q今後この子どうする気?
Aまぁ、あくまでイフストーリーなので深く考えていないですが…ダグナー編が終わるまでは未来には帰られません。


あと、遊星達が満足するため暴れまわっていたのって本編開始から3年前でしたっけ?
そこがいまいち分からないんですよ。
ジャックがスタダとDホイを奪ったのが2年前ですから…
まぁ3年前かな、と。
違ったらどーしよー。


さて、【竜星】デッキを組むか。
ネクストチャレンジャーズのお蔭で【竜星】軸と【メタファイズ・アームド・ドラゴン】軸が出来そうですね。
くっそ、聖星のデッキは【ジャンク竜星】のつもりだったのに【メタファイズ・アームド・ドラゴン】さんも良いような気がして来た。
今後の小波に全裸待機ですね。


あと聖星の姉ちゃんと幼馴染組の子供もイフストーリーで出したい。

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