遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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主人公が満足時代にタイムスリップしたら、というif story.
前回の続きになります。


世界よただいま、有名人の身内は大変です★

「見つけたぜ、聖星!!」

 

「あぁ!!

しつこい!!」

 

廃墟が建ち並ぶサテライトのどこか。

無法地帯として有名なこの場所はとある事が切っ掛けで落ち着きを取り戻した。

それは各地区を支配していたデュエルギャング達が倒され、1つのチームが統一したからだ。

そんなサテライトで聖星はとある青年に追いかけ回されている。

 

「おらよっ!!」

 

「ヒッ!」

 

背後から迫ってくる青年は手錠のようなものを取り出し、それを聖星に向かって投げつける。

手錠は聖星の目の前にある配管にぶつかり、大きな金属音を立てた。

目の前で鳴った金属音に心臓が大きく跳ね上がった気がする。

反射的に振り返れば必死の形相を浮かべる鬼柳が迫ってきていた。

 

「逃げるんじゃねぇ!」

 

「逃げますよ!!」

 

近くの壁を乗り越えて、崩れかかっている民家に飛び移る。

足場はかなり悪いが、鬼柳に追いつかれるわけにはいかないのだ。

 

「何でそんなに俺に構うんですか!」

 

「そんなのお前と遊星を会わせるために決まってるだろ!」

 

「(ですよねー!!)」

 

そう、面倒な事に鬼柳達は聖星と遊星を生き別れの兄弟と勘違いしているのだ。

聖星は未来からきた遊星の息子なので、似ているのは当然のこと。

しかしそれを知らない彼らからしてみれば、遊星と似ている少年を生き別れの弟と勘違いしてもおかしくはない。

勘弁してくれと心の中で呟きながら、聖星は民家の中に入る。

 

「っ、待ちやがれ!!」

 

民家の中に逃げた聖星を追いかけて鬼柳も急いで中に入った。

しかしここに住民はいないようで、中は酷い有様である。

壊れた机にボロボロの布、歩けば床に靴の跡が残るほど埃まみれだ。

足跡を追えば壊れた窓から外に出たようだ。

 

「ちっ、外に逃げたか!」

 

荒い音を立てながら鬼柳は窓から飛び出し、周りを見渡して聖星の姿を探す。

しかしそれらしい少年の姿形もない。

誰かが逃げる足音も工場の騒音で聞こえない状態だ。

再び見失ってしまったことに鬼柳は唇を噛みしめ、近くにあった壁を思いっきり殴る。

 

**

 

肩を落としている鬼柳は重い足を動かしながらアジトへ向かった。

いつ見ても綺麗とは言えないアジトはいつもより小汚く思えてしまう。

どうにもならないが頭を大きく振り、扉を開くと皆の視線が集まる。

 

「お、鬼柳。

遅かったじゃねぇか」

 

「集合の時間は過ぎているぞ」

 

あまり汚れていないカードを整理しているクロウは手を上げて笑みを向けてくれる。

ジャックは両腕と両足を組んで窓から海を眺めていたようだ。

そして遊星はデュエルディスクのメンテナンスをしており、何も口にしなかったが気を許した者にしか見せない顔を浮かべている。

ぎこちない笑みしか浮かべられない鬼柳は、ぽつりと先程のことを話した。

 

「……聖星を見かけた」

 

「何!?」

 

「彼をか!?」

 

「悪い、遊星。

見失っちまった」

 

鬼柳の口から出た名前に遊星は目をも開くが、すぐにその顔から激しい感情はなくなる。

目の前にいるリーダーは明らかに顔色が悪く、声のトーンも重苦しい。

そんな彼の内に渦巻く思いを察してしまった以上、何も言えなくなってしまう。

 

「気を落とすな。

俺達は同じサテライトにいるんだ。

いつかまた聖星と会える」

 

「あぁ」

 

遊星からの励ましの言葉になんとか鬼柳は笑った。

聖星を追いかけるために体は疲れ切っており、だんだんと空腹を訴えてくる。

椅子に腰を下ろした鬼柳は小さく唇を噛みながら、机の上に置いてある食料に手を伸ばす。

 

「サテライトを統一できたってのに、遊星と弟を会わせる事が出来ねぇなんて情けない話だぜ」

 

小さくついたため息に、隣に座っているジャックが言う。

 

「そう焦るな、鬼柳。

遊星の言うとおり、奴がサテライトにいる限り俺達はまたどこかで出会う」

 

「おう」

 

**

 

一方、聖星は目の前に広がるジャンクに手を伸ばしていた。

もう使うことは出来ない冷蔵庫やライト、まだまだ使えそうな電卓や洗濯機等が積み上がっている。

内蔵されている基板を1つ1つ取り外し、使えるものはないか模索する。

 

「う~ん、これとこれで使えるか?」

 

HDDはなんとか綺麗なものを見つけた。

ディスプレイは少しヒビが入ったもの、キーボードはキーが壊れ、剥がれているものを手に入れた。

情報を集めるためのPCが完成するのはまだまだ先のようだ。

 

「ねぇ、お兄ちゃん。

何かあった?」

 

頭上から聞こえた声に顔を上げると、髪がぼさぼさな子供達が覗き込んでいた。

顔にマーカーが刻まれているこの子供達は聖星が最近お世話になっている子達でもある。

どこに盗人がいるか、騙されるか分からないサテライトでは警戒心なく話せる相手は貴重なのだ。

 

「あぁ、綺麗な部品がたくさん見つかったよ。

今日はご馳走を食べられるかもね」

 

「本当!?」

 

「今日はパン食べられる?」

 

「あぁ。

あと、スープも飲めるぞ」

 

「やったぁ!」

 

ジャンクの上ではしゃいでいる子供達は慣れたようにジャンクの山を飛び跳ねる。

危ないと声をかけそうになるが、ここは彼らにとって貴重な遊び場でもある。

毎日遊んでいるだけはあり、全く転んだり怪我をしたりする様子がない。

はっきり言って心配するだけ無駄だ。

 

「じゃあ、俺はもう少しこの山から使えそうな部品を探すから。

皆はあっちで遊んで良いよ」

 

「「はーい!」」

 

嬉しそうに笑う子供達の背中を見送り、聖星は再び作業に戻った。

ガチャガチャと音を立てながら奥にあるゴミを引っ張り出す。

たまたま掴んだドライヤーを分解し、モーターを取り出す。

その中から再利用できそうな、または売れそうな部品だけを取り出し、今日の収穫品をリュックの中に詰める。

それから場所を変え、子供達と手を繋いでサテライトの闇市へと向かった。

 

「あれ、お兄ちゃん。

足引きずってるよ」

 

「ん?

あぁ、さっき走るときこけちゃってね。

一晩放置しておけば治るよ」

 

「そう?」

 

昨日までは怪我をしていなかったので、恐らく今日足を挫いたのだろう。

鬼柳に追いかけ回されたことを知らない子供達は心配そうな眼差しで聖星と彼の足を交互に見る。

 

「こんにちは」

 

「こーんにちはー!」

 

「あぁ?」

 

薄暗く、オレンジ色の蛍光灯が照らす店に顔を出せば、厳つい顔の男性が低い声で振り返る。

マーカーだらけのその顔に2人の子供は聖星の後ろに隠れるが、他の子達は聖星のように暢気な挨拶をする。

男性は最近顔なじみになった少年達の姿に「やっと来たか」と表情を変えた。

 

「すみません、おじさん。

この部品、どれくらいになりますか?」

 

「今日も大量に持ってきたな」

 

目の前に迫ってくる度に地面が揺れる感覚を覚えるが、聖星は顔色一つ変えずに今日の収穫を差し出した。

男性は顎に手を当てて部品を1つ1つ観察すると、胸元のポケットからいくつかの貨幣を取り出した。

 

「ほらよ」

 

「ありがとうございます」

 

指で弾かれた貨幣をキャッチすると聖星は子供達を連れて食料の調達に向かう。

先程の闇市は機械の部品や雑貨系が中心だが、これから向かうところは食料専門のところだ。

明らかに腐っているものや、これは本当に食べることが出来るのか疑ってしまうものばかり売られている。

しかし、食べなければ生きていけない。

子供達は今日の晩ご飯について和やかに話しながら聖星の後を追っていた。

背後から聞こえる可愛らしい声に耳を傾けていると、目の前にいる集団に足を止めた。

 

「お兄ちゃん?」

 

「どうしたの?」

 

突然止まったことに疑問を抱いた彼らは、釣られて真正面を見るが、同時に彼らの表情は恐怖に染まる。

そこにいたのは鉄パイプやバッド等を持ち、顔にいくつもマーカーを刻まれている男達だ。

普段なら面倒なのがいると思って目を合わさないよう通りすぎるが、今回はそうはいかないようだ。

彼らは下品な笑みを浮かべながら聖星を見ている。

 

「お、お兄ちゃん……」

 

「皆はおじさんの所に行くんだ。

良いね?」

 

「でも…」

 

「お兄ちゃん1人じゃ無理だよ」

 

震える声で必死に服を引っ張る子供達の頭を撫でる。

 

「大丈夫、あのこわーいおじさんが来たらすぐに解決するさ。

なんたってあの人、凄く恐いからね」

 

「う、うん……」

 

小さく頷いた子供達は大人達の視線に脅えながら来た道を走っていく。

聖星はその背中を見届けることはなく、真っ直ぐと男達を見据えている。

デュエルディスクを身につけていないところをみるとデュエルで解決出来そうにもない。

さて、この痛む足でどこまで対応出来るのだろうか。

 

**

 

さて、敗因は何だろうか。

いや、何故彼らが自分にこのような事をするのか、その理由を探るのが先か。

薄暗い部屋に手を縛られている聖星は小さく咳き込む。

痛む足や腹部、頭に吐き気を覚えながら目の前にいるリーダー格を睨み付けた。

 

「とりあえず、どうして俺はこんな目に遭ってるのか……

俺、貴方に恨みを買うような真似をした覚えはないんですけど」

 

「はははっ、確かにそうだな。

まずは自己紹介からだ。

俺はチーム・ロイグネンのリーダー、ケリー。

お前の兄貴にちと用があってなぁ」

 

古びた椅子に座ってふんぞり返っている男は腕を組みながら笑う。

周りにいる男達も相変わらず下品な笑みを浮かべている。

大柄な男の口から語られた理由になんとも言えない気持ちになる。

同時にサテライトに来て間もない自分が狙われた理由に納得がいった。

 

「俺を捕まえてどうするつもりだ」

 

「決まっている。

チーム・サティスファクションをおびき寄せるんだよ。

お前があの不動遊星の弟だっていうのは確認済みだ。

しかも、何故か逃げ回っているそうじゃねぇか。

どうした、兄弟喧嘩でもしたのか」

 

「こっちにもこっちの事情があるんだよ」

 

自分の両腕の自由を奪っている手錠は意外と頑丈そうで、試しに腕を動かしたがそう簡単に外れる気配はない。

尤も、この状況で両腕を使えても逃げ切れる確証はないが。

しかし遊星を徹底的に避けている身としてはこの状況はかなり不味い。

父と接触するよりも、自分のせいで父が危ない目に遭うのは嫌だ。

 

「どんな事情かは知らないが、少しは自分の立場ってのを考えた方が良いぜ。

お前の兄貴に恨みを持つ奴はサテライトにいくらでもいるってな」

 

「……次からは気をつけるよ」

 

ケリーからのありがたい忠告に聖星は肝を煎る。

 

「それにしてもこいつのデュエルディスク、あまり見かけないタイプだな」

 

「っていうか初めて見るな」

 

「っ!」

 

背後から聞こえた声に振り返ると、男達が聖星のDパッドを興味深そうに見ている。

今のサテライトで主流なのはシティでは古いと言われている初期のデュエルディスクだ。

それしか知らない彼らからしてみれば遊馬の世界で手に入れたDパッドは珍しいものだろう。

 

「モニター部分がでけぇな。

なんだ、若いのにもう老眼か」

 

「お、何だこれ。

文字が表示されたぞ」

 

聖星達が使うDパッドは教科書の役割も果たしている。

まともに学校に通ったことがない彼らには表示されている内容を理解出来ないだろう。

使い方をまともに知らない男達が操作する姿を見ながら、触るなと声を荒げかけた。

だがすぐに言葉を飲み込み、唇を噛んで耐えた。

もしそんなことをすれば壊されるに決まっている。

肝が冷えるのを覚えながら壊さないでくれと心の中で祈った。

 

「ん?」

 

「どうした?」

 

「外が騒がしくないか?」

 

「何?」

 

Dパッドに興味を示さなかった男が隣の男に声をかける。

男の疑問は回りに伝染し、彼らは唯一の出入り口である扉に目をやった。

すると錆だらけの扉が激しい音を立てて突き破られる。

 

「ぐわっ!!」

 

「うぐっ!」

 

激しい音を立てながら部屋に突き飛ばされた男は白目をむいており、倒れたと同時に埃が舞い上がる。

相当な量のようで聖星や男達は激しく咳き込む。

窓から差し込む工場の光が逆行となり、侵入者の姿を照らし出した。

 

「彼から離れろ」

 

ゆっくりと部屋に侵入する足音と共に聞こえてきたのは地を這うような青年の声だ。

そちらに顔を向ければ怒りを露にしている遊星の姿があった。

 

「え、嘘……」

 

「来るの早すぎだろう!」

 

想定外の到着の早さに男達は咄嗟に聖星の前に出た。

そんな行動を取られた遊星は縛られている聖星を見て眉間に皺を寄せ、ケリーを睨み付ける。

 

「お前の目的は俺なんだろう?

さっさと構えろ」

 

「弟想いの兄貴だなぁ。

仲間を引き連れていないところを見ると、相当慌てて来たのか。

こっちとしては好都合だ」

 

デュエルディスクを構える遊星に対し、ケリーも子分からデュエルディスクを受け取る。

遊星とデュエルで決着をつけようとしている彼に、聖星は思わずじゃあ俺の時もデュエルしろよと心の中で悪態をつく。

デュエルの邪魔にならないよう子分達は部屋の隅に寄った。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は俺が貰う、ドロー」

 

先攻になったのは遊星である。

彼は手札に加わったカードを見て、表情を変えずにそのカードをデュエルディスクにセットする。

 

「【シールド・ウォリアー】を召喚。

カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「はっ!」

 

カードをディスクにセットすると、カードに描かれている【シールド・ウォリアー】が召喚される。

彼はその場に膝を付いて自分の盾を前に出す。

その守備力は1600と低くもないが、高くもない数値である。

 

「俺のターンだ、ドロー!

俺は手札から【スクリーチ】を守備表示で召喚!」

 

「ゲゲゲ」

 

召喚されると同時に不気味な声を上げたのは表現しがたいモンスターだ。

目と鼻がなく、大きな口と足しか持たない【スクリーチ】は威嚇するように声を上げた。

初めて見るモンスターに聖星は首を傾げ、遊星は次のどのような行動を移るのか警戒する。

 

「さらに【強制転移】を発動だ!」

 

「なに?」

 

「お前のモンスターは俺が頂くぜ!」

 

遊星は慌てて【シールド・ウォリアー】を見ると、彼らのモンスターは黄色の光に包まれ、一瞬で位置が入れ替わる。

ケリーは自分の場にやってきた【シールド・ウォリアー】の攻撃力を確認し、口角を上げた。

 

「攻撃力は800か。

それなら使えるぜ、【シールド・ウォリアー】で【スクリーチ】に攻撃だ!」

 

攻撃表示になった【シールド・ウォリアー】は槍を構え、【スクリーチ】にその槍を突き刺した。

守備力が400しかない【スクリーチ】は抵抗する間もなく破壊される。

 

「この瞬間【スクリーチ】の効果を発動する!

このカードが墓地に送られたとき、俺のデッキから2枚の水属性モンスターを墓地に送るぜ」

 

「1度に2枚のモンスターだと!?」

 

「俺は【フラッピィ】を2枚送る」

 

ケリーが墓地に送るために選択したのは七色に輝くスライムが描かれている2枚のカード。

レベル制限がないようなので上級モンスター、もしくはチューナーを送るかと思ったが違うようだ。

聖星同様、遊星も怪訝そうな顔をしており思わず声を漏らしてしまう。

 

「何?

レベル2のモンスターを2枚墓地に送るだと?」

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターンだ」

 

カードを引いた遊星はちらりと聖星を見る。

薄暗い部屋だから彼のはっきりとした顔色は分からないが、この男達の性格を考えると暴行を加えられているのは確かだろう。

もっと早く再会していれば彼をこのような目に遭わせずに済んだかもしれない。

臍をかむ思いを内に秘めながら遊星は1枚のカードを掴んだ。

 

「手札から【ボルト・ヘッジホッグ】を墓地に送り、チューナーモンスター【クイック・シンクロン】を特殊召喚する。

そして墓地に存在する【ボルト・ヘッジホッグ】を特殊召喚!」

 

「ハッ!」

 

「チュゥ!」

 

青い光が遊星の場に現れたと思えば、その光は赤いマントとなり、そのマントを翻してカウボーイ風のモンスターが姿を現す。

遅れて隣に特殊召喚されたのはたくさんのネジを背負ったネズミのモンスターだ。

1人と1匹はアイコンタクトを交わし、お互いの考えに小さく頷いた。

 

「1度に2枚のモンスターだと!?

しかも片方はチューナーモンスター……」

 

目の前に並ぶモンスターの特性を考え、この後に起こる事を想像した。

それは他の男達や聖星も同じようで、デュエルに釘付けになっている彼らは頭上から近づく者達に気がつかなかった。

気がついたときには遅く、屈強な男が醜い声を上げて地面に倒れる。

 

「ぐえっ」

 

「な、何だ!?」

 

「まさか!?」

 

床に転がった仲間の姿に男達は驚き、薄暗い室内を見渡す。

すると目の前に拳が迫り、同時に勢いよく殴り飛ばされた。

殴られた衝撃と壁にぶつかった衝撃に男は伸びきってしまい、ゆっくりとその場に座り込んだ。

 

「よっと、いっちょ終わり」

 

両手を軽く叩きながら爽やかに笑った少年は遊星に振り返り、元気な笑みを浮かべた。

 

「遊星、こっちは片付けたぜ。

遠慮することはねぇ、そんな卑怯者、一気にぶっ飛ばしちまえ!」

 

「クロウ!」

 

顔にマーカーが刻まれているクロウの姿に聖星は開いた口が塞がらなかった。

一体どこからと疑問に思っていると、天井の穴からジャックと鬼柳が降りてくる。

膝を付いて着地したチーム・サティスファクションのメンバーにケリーは吠えた。

 

「テメェら!」

 

「おっと、そう興奮するなよ」

 

今すぐデュエルを捨てて襲いかかってきそうなケリーに鬼柳は待ったをかけた。

なんたって今はデュエルの真っ最中。

ここで暴力に走ってしまえば彼らと同じ存在になってしまうからだ。

 

「安心しろ、デュエルの邪魔はしない。

もしお前が遊星に勝てばこの場は見逃してやる。

どうだ、こんな状況だ、お前にとってはいい話だろう?」

 

「……」

 

鬼柳達の足下に転がっているのは自分の子分達。

顔が腫れ、意識が飛んでいる彼らの様子を見る限り、彼らを囮にして逃げるという選択肢は自然と消える。

鬼柳から持ちかけられた条件にケリーは納得したようで、小さく舌打ちをしてから遊星に向き直った。

 

「デュエル続行だ!」

 

聖星の安全が確保されたことで余裕が出来たのか、遊星はケリーを真っ直ぐに見る。

滅多に浮かべない表情でデュエルをする幼馴染みにジャックは小さくため息をついた。

クロウは聖星の背後に回り、手錠を外す。

 

「ほら、外れたぜ」

 

「ありがとうございます……」

 

「どこか痛むところあるか?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

反射的にそう答えるとクロウが真顔になる。

一変した表情に、答えを間違えたと悟った聖星は思わず身構える。

すると軽く背中を叩かれ、体に激痛が走った。

 

「っ~~!!」

 

「で、どこが痛む?」

 

「っ、ちょっと!

酷くないですか!?」

 

「うるせぇ、隠そうとするお前が悪い。

ガキ共の方がもっと素直に言うぜ」

 

どうやら相当痛かったようで、聖星はクロウを睨み付けて声を荒げる。

当の本人は手をヒラヒラとさせながら正論を述べた。

何も返せない聖星は言葉を飲み込み、遊星とケリーのデュエルに目を向ける。

 

「行くぞ!」

 

遊星のかけ声と共に【クイック・シンクロン】が宙に舞い上がり、それを【ボルト・ヘッジホッグ】が追いかけていく。

【クイック・シンクロン】は5つの星と緑色の輪になり、共に戦う【ボルト・ヘッジホッグ】に自分の力を注ぎ込む。

 

「集いし思いがここに新たな力となる。

光さす道となれ、シンクロ召喚!」

 

遊星のフィールドを中心に風が吹き荒れ、その風は熱を持ち始める。

その風を吹き飛ばすほどの轟音が室内に鳴り響き、消えゆく音の代わりにエンジン音が聞こえてくる。

同時に2体のモンスターがいたフィールドに緑色の戦士が君臨した。

 

「燃え上がれ、【ニトロ・ウォリアー】!」

 

黄色の瞳を持つ戦士は目の前にいるケリーを見下ろし、時々自由を奪われている聖星へと目をやった。

何が起きたのかすぐに察したようで大きな手には自然と力が入る。

目の前のモンスターの様子に気がつかないケリーは、攻撃力2800のモンスターを特殊召喚されたのに笑い始めた。

 

「ついに来たか、不動遊星のシンクロモンスター!

だが、そう簡単にはいかないぜ。

罠発動【激流葬】!」

 

「なっ!?」

 

「さぁ、俺達の場から消えろ!」

 

ケリーが発動したのはモンスターの召喚・特殊召喚をトリガーとするモンスター破壊の罠。

今彼らの場に存在するのは【ニトロ・ウォリアー】のみ、よって遊星のモンスターだけが破壊される。

表側表示になった【激流葬】のカードから膨大な量の水が流れだし、【ニトロ・ウォリアー】を飲み込んでいく。

 

「更にリバースカード発動だ!

【グリード・グラード】!」

 

「あのカードは」

 

発動されたカードに身に覚えがあるのか、鬼柳は面倒くさそうな顔をする。

ケリーの場に1つの壺が現れ、壺は不気味な笑い声を上げた。

すると壺の中から2枚のカードが取り出される。

 

「【グリード・グラード】、こいつはシンクロモンスターが破壊されたとき、デッキからカードを2枚ドロー出来る」

 

「【シールド・ウィング】を守備表示に召喚。

カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「良かったな、通常召喚が残っていてよ。

行くぜ、俺のターンだ!

俺は手札から【フェンリル】を特殊召喚する!」

 

「ワオォン!」

 

場に特殊召喚されたのは墓地の水属性モンスターを除外することで特殊召喚出来る【フェンリル】だ。

ケリーは2枚存在する【フラッピィ】の1枚を除外し、この青い狼を喚んだようだ。

 

「さらに永続魔法【異次元海溝】!

場の【フェンリル】、手札の【フラッピィ】、墓地の【スクリーチ】を除外するぜ」

 

「え?」

 

場に現れたカードに描かれているのは深海で地面が割れている景色だ。

ジャックやクロウ達は初めて見るようで、どのような効果かと考えている。

しかし聖星はその名を知っており、懐かしそうな顔をした。

それに気がついた鬼柳は聖星と同じ目線まで屈んで尋ねる。

 

「何だ、聖星。

お前、あのカード知ってるのか?」

 

「え?

あぁ、はい。

【異次元海溝】、あれは手札と墓地、フィールドから1体ずつ水属性モンスターを除外するカードです。

ただ除外するだけじゃありません。

【異次元海溝】が破壊されたとき、除外されたモンスターを場に特殊召喚します」

 

「つまり、自分で破壊してモンスターを大量展開するのが目的ってところか」

 

「恐らくは」

 

除外されたモンスターの中にチューナーモンスターは存在しない。

通常召喚権を用いて、チューナーモンスターを召喚し、【異次元海溝】の効果でモンスターを帰還。

シンクロ召喚で高レベルモンスターを喚ぶという考えだろう。

しかしジャックは顎に手を当てて怪訝そうな顔をした。

 

「天井裏でデュエルの様子を見ていだが、何故あの男は【フラッピィ】を2枚墓地に落とした。

それと、既に手札に【異次元海溝】を破壊する手段があるのなら、通常召喚したモンスターを除外すれば良いだけの話。

わざわざ二度と戻ってこない【フェンリル】を選択する意図が理解出来ん」

 

もしかすると、手札に通常召喚出来るモンスターが存在しないのだろうか。

しかし、それなら場ががら空きになるような真似をする。

様々な可能性に思考を張り巡らせていると、ケリーが新たな魔法カードを発動した。

 

「そして【愚かな埋葬】を発動。

俺はデッキから【スパイラルドラゴン】を墓地に送る!」

 

「【スパイラルドラゴン】?」

 

ケリーが遊星に見せたのは青い体と桃色のひれを持つ海竜族モンスターだ。

カードに記されている攻撃力は2900とかなり高い。

 

「そして墓地の【フラッピィ】の効果で、【スパイラルドラゴン】を特殊召喚する!」

 

「なっ!?」

 

「はぁ!?」

 

ケリーの場に黒い歪みが現れ、そこからスライムの【フラッピィ】が姿を現す。

虹色に輝くスライムは姿形を変え、小さなモンスターから巨大なモンスターへと変貌した。

予期せぬモンスターの登場方法に遊星は目を見開き、一体何が起きたのか理解が遅れる。

 

「これは一体……」

 

「知らないようなら説明してやるぜ。

【フラッピィ】は墓地・除外ゾーンで合計3枚の時、1枚除外する事で墓地にある海竜族を特殊召喚出来るのさ」

 

自信満々に語られた効果に遊星達は納得する。

クロウは遊星と同じように目を見開き、ジャックは両腕を組み直した。

そして鬼柳は感心したような顔をして2人の言葉を引き継ぐ。

 

「そういうモンスターなんていんのかよ」

 

「なる程、墓地と除外ゾーンに揃うことで効果が発揮するカードだったのか」

 

「それならモンスターを墓地に送る【スクリーチ】、除外する【異次元海溝】はうってつけの効果って事か」

 

墓地・除外ゾーンに同名カードを揃えるなどそう簡単なことではない。

何故ならここはサテライト、墓地に有用なカードがあったとしても一癖も二癖もあるものばかり。

だからそんな癖のあるカードを使ってこのようなコンボを決めるなど、敵ながら天晴れとしか言いようがなかった。

攻撃力2900の【スパイラルドラゴン】に対し、遊星の場には守備モンスター1体。

普通なら焦りの色が見えるはずだが、遊星は顔色を一つも変えずに【スパイラルドラゴン】を見据えている。

 

「何を企んでいるかは知らねぇが……

さらに魔法カード【シールドクラッシュ】!」

 

「っ!」

 

「その鳥には消えて貰うぜ!」

 

【シールドクラッシュ】のカードから光が放たれ、その光を浴びた、いや、光に貫かれた【シールド・ウィング】は一瞬で粉々に砕け散る。

壁モンスターが存在しなくなった遊星は反射的に【スパイラルドラゴン】を見上げる。

 

「これでがら空きだ!

【スパイラルドラゴン】、やれ!」

 

【スパイラルドラゴン】は部屋全体が震えるほどの咆哮を上げ、巨大なひれで渦巻きを生み出す。

何もない場所から発生した攻撃に遊星は両腕をくろすさせて受けた。

同時に彼のライフが4000から1100へと削られていく。

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

「俺のターンだ」

 

直接攻撃を受けても微動だにしなかった遊星は引いたカードを見て目を瞑る。

恐らく引いたカードと場のカード、使えるカード全てで何が出来るか考えているのだろう。

頭の中で計画を練る遊星にケリーは良いカードが引けなかったのだと判断した。

 

「どうした、顔色が悪いぞ。

そうとう酷いカードを引いたようだな」

 

「さぁ、どうだろうな」

 

「は、強がりを」

 

いや、強がりじゃない。

遊星と付き合いの長い聖星達には分かった。

このターンで逆転勝ち出来るか分からないが、遊星の顔に焦りの色は一切無い。

少なくとも【スパイラルドラゴン】を片付ける方法はあるのだろう。

 

「だが、これから俺に負けて兄貴のプライドをボロボロにされるんだ。

せめてもの情けだ、罠発動【副作用?】!」

 

「え、何あのカード」

 

「初めて聞くカードだな」

 

情けと称して発動したカードはこの場にいる全員が初めて見るカードである。

イラストには1体の鬼が使用した薬が回りに転がり、腰痛を訴えている場面である。

遊星に利益をもたらし、同時に害も与えるのだろうか。

カード名、イラストから効果名を想像するとケリーから説明が入った。

 

「まず、お前はデッキからカードを1枚から3枚までドローできる」

 

「え?」

 

「そして俺は、お前がドローした枚数×2000ポイントのライフを回復する」

 

「は?」

 

最初に声を漏らしたのは聖星、次に漏らしたのは鬼柳である。

彼らが素っ頓狂な声をあげてしまうのは無理もないだろう。

カードをデッキから手札に加えることは可能性を増やすことである。

枚数を選択出来るとはいえ、最大3枚もドロー出来るなど、可能性がどれほど増えるのか想像に難しくない。

 

「敵に塩を送るどころか、敵に新品の武器を送るようなものだな」

 

腕を組みながら壁に背中を預けるジャックの言葉に3人は大きく頷く。

 

「ほら、引けよ」

 

「それなら俺は3枚ドローする」

 

やはりそうか、いや、そうじゃなかったら遊星の思考を疑ってしまう。

そもそもケリーの場に伏せカードはなく、手札は0、場に存在するのは攻撃力2900の【スパイラルドラゴン】のみ。

その状況でライフを6000回復されたところで充分におつりが来る。

デッキからカードを3枚ドローすると、ケリーが緑色の光に包まれ、ライフが10000になった。

 

「……面倒な事になったな」

 

新たに手札に加わったカードと墓地に存在するカード、伏せカードを見比べる。

全てのカードが1つの線に繋がった遊星はカードを掴んだ。

 

「手札から【死者蘇生】を発動!

蘇れ、【ニトロ・ウォリアー】!」

 

「ウォオオオ!!」

 

遊星の場に黒い歪みが現れ、そこから効果破壊された【ニトロ・ウォリアー】が特殊召喚される。

【ニトロ・ウォリアー】は再び戦えるという高揚感を落ち着かせるように深呼吸をする。

 

「更に装備魔法【ファイティング・スピリッツ】を【ニトロ・ウォリアー】に装備。

このカードは相手モンスターの数だけ装備モンスターの攻撃力を300ポイント上げる」

 

「なっ!」

 

ケリーの場に存在するモンスターは1体。

そして【ニトロ・ウォリアー】の攻撃力は2800である。

【ファイティング・スピリッツ】を装備した【ニトロ・ウォリアー】は気合いを入れるように唸り声を上げ、赤い光に包まれる。

 

「攻撃力3100!?

【スパイラルドラゴン】を超えただと!?」

 

「さらに速攻魔法【サイクロン】で【異次元海溝】を破壊する!」

 

「なっ!?

何を考えている!?

そうか、攻撃力を上げる気か!」

 

【異次元海溝】は破壊されたとき、最初に除外されたモンスターをフィールドに特殊召喚する効果を持つ。

つまり、ケリーの場のモンスターが増えるという事だ。

だが、遊星が狙っているのはそれだけではない。

 

「どうした。

早く除外したモンスターを喚べよ」

 

「くっ、俺は【スクリーチ】と【フラッピィ】を守備表示で特殊召喚するぜ!」

 

黄色い光と共にケリーの場に2体のモンスターが特殊召喚される。

【フラッピィ】は折角綺麗な色をしているのに、守備表示のため青一色で統一された。

場のモンスターが1体から3体に増えたことで【ニトロ・ウォリアー】の攻撃力は更に上昇し、3700になった。

 

「(だが、仮に【スパイラルドラゴン】を破壊されても俺のモンスターは2体も残る。

それに俺のライフは10000。

次のターン、逆転のカードを引けば……)」

 

「何を安心している。

俺の伏せカードを忘れているぞ」

 

遊星は不敵な笑みを浮かべ、燎原の火のように畳みかけた。

彼は手を前に出し、ずっと伏せられていた罠カードを発動する。

 

「罠カード【恐撃】!」

 

「【恐撃】?」

 

表側表示になったのは2体のモンスターに手足を掴まれている兵士の姿だ。

薄暗い洞窟の中での出来事はどこかホラーじみている。

 

「【スパイラルドラゴン】を見てみろ」

 

「なっ!」

 

遊星の言葉に【スパイラルドラゴン】を見ると、どこからか墓地に存在するはずの【クイック・シンクロン】と【シールド・ウォリアー】が現れる。

【クイック・シンクロン】は【スパイラルドラゴン】の目の前で猫だましをした。

そして【シールド・ウォリアー】は耳元でうるさく鳴き始める。

半透明のモンスターからの攻撃に【スパイラルドラゴン】は萎縮してしまう。

 

「【スパイラルドラゴン】がみるみる小さく……!?

どういう事だ!?」

 

「【恐撃】の効果だ。

このカードは墓地のモンスターを2体除外する事で、お前のモンスターの攻撃力を0にする」

 

「こっ、攻撃力0だと!??

これじゃあダイレクトアタックと同じじゃねぇか!」

 

「バトルだ!

【ニトロ・ウォリアー】!!」

 

仲間の声に【ニトロ・ウォリアー】は拳を強く握りしめ、エンジンブースターから炎を吹き出す。

高く飛び上がると重力・ブースター2つの力で加速した。

 

「【ニトロ・ウォリアー】の効果発動!

魔法カードを使用したことにより、【ニトロ・ウォリアー】の攻撃力は4700になる!」

 

「なにぃ!?」

 

そのまま振り上げた拳を【スパイラルドラゴン】の頭上に叩き付ける。

圧倒的な攻撃力に【スパイラルドラゴン】は悲鳴を上げながら爆発した。

破壊によって生じた爆風はケリーを包み込み、彼のライフを10000から5300まで削り取る。

 

「まだ終わらない!

【ニトロ・ウォリアー】が相手モンスターを破壊したとき、もう1度続けて攻撃を行う!!」

 

遊星の宣言と同時に、青一色だった【フラッピィ】が色鮮やかなボディを取り戻す。

これは守備表示から攻撃表示に変更したことを意味する。

何故そのような事が起きたのか理解出来ないケリーに、鬼柳が説明する。

 

「【ニトロ・ウォリアー】が続けて攻撃するには守備表示モンスターが必要だ。

まぁ、表示形式を変更するから、どのみちダメージを受けるんがな」

 

横から自信満々に説明する鬼柳の言葉にケリーは目を見開いた。

【ファイティング・スピリッツ】の効果も含め、最初のバトルを終えた【ニトロ・ウォリアー】の攻撃力は3400。

攻撃力0のモンスターでは盾になれない。

鬼柳から【ニトロ・ウォリアー】に視線を移すと、緑色の巨大な拳が【フラッピィ】を貫いた。

 

「ぐぁあああ!」

 

再び向かってきた熱風によりライフが5300から1900まで削られる。

耳障りな音を聞きながらケリーは遊星を睨み付けた。

モンスターは守備表示で特殊召喚された【スクリーチ】のみ。

そしてライフは10000もあったのが既に5分の1以下である。

 

「だが、俺のライフはまだ残っている……!!」

 

次のターンに賭けると、意地を見せようとする姿は一応認めよう。

だがケリーは忘れていた、いや、知らなかったというのが正しい。

自分が遊星の逆鱗に触れている事に。

 

「罠発動【イクイップ・シュート】。

そして速攻魔法【エネミーコントローラー】」

 

「あ」

 

「終わったな」

 

一切表情を変えない遊星が発動した2枚のカード名に勝敗が見えた。

【エネミーコントローラー】は場のモンスターの表示形式を変更する速攻魔法。

そして【イクイップ・シュート】はモンスター同士の強制戦闘を行う罠カード。

つまり……

 

「【スクリーチ】に【ファイティング・スピリッツ】を装備させ、【ニトロ・ウォリアー】と強制戦闘だ!」

 

「またそのモンスターとバトルだと!?

ふざけるなぁ!!」

 

遊星が発動したカードの効果に抗えず、青色だった【スクリーチ】は攻撃表示になり、本来の色を取り戻す。

その攻撃力は装備魔法【ファイティング・スピリッツ】の効果を含め1800と表示される。

だが、このバトルが成立しても受けるダメージは1000、ライフは900残る。

苦しいが、まだ負けないと確信しているケリーに、遊星は静かに言い放った。

 

「あぁ、説明するのを忘れていた。

【ニトロ・ウォリアー】の攻撃力を上げる効果は『魔法カード使用後の最初の戦闘』で適応される。

つまり、速攻魔法を使用したことで【ニトロ・ウォリアー】の攻撃力は再び1000ポイント上昇する」

 

「はぁあああ!?」

 

「【ニトロ・ウォリアー】!!

ダイナマイト・ナックル!!」

 

3度目の叫び声に【ニトロ・ウォリアー】の黄色い眼が光る。

再び攻撃力が1000上昇し、2800となった【ニトロ・ウォリアー】は【スクリーチ】を勢いよく叩き飛ばす。

最大限に加速された拳の威力に【スクリーチ】の体は粉砕された。

そしてケリーのライフが0になる。

自身の敗北にケリーはその場に膝を付き、呆然としている。

クロウは両腕を頭の後ろで組み、ジャックは胸元で組ながら笑う。

 

「あーあ、あいつ可哀想に。

放心状態だぜ」

 

「無理もない。

ライフ10000をたった1ターンで0にされたのだ」

 

当然の結果だと笑みを浮かべている彼らには悪いが、聖星は今すぐここから逃げ出したい気分だ。

口の中が乾き、胃が重く、背中には冷や汗をびっしりかいている。

助けに来てくれたのは純粋にありがたい、とてもありがたいのだが、彼らと接触するのは避けたいというのが本音である。

しかし逃げようにもここにはチーム・サティスファクションが4人もおり、そのうち3人は自分の隣で笑っている。

 

「聖星」

 

どうやって逃げようかと考えていると、不意に声をかけられる。

顔を上げれば心配そうな、だがどこか安堵している遊星がいた。

 

「手酷くやられているな……

すまない、俺のせいで」

 

「そんな、貴方のせいじゃないですよ」

 

どう言葉を返せば良いのか分からず、とにかくその場の雰囲気に合わせて言葉を選んだ。

ハハハと笑えば遊星の顔が微かに歪む。

無理に笑っていると捉えられたのか、自責の念に駆られているのか、はたまた両方か。

 

「歩けそうか?

子供達から足を怪我していると聞いたんだが」

 

「え?」

 

何故ここで子供達のことが出てくる。

そう顔に出ていたのか、クロウが苦笑いしながら説明してくれた。

 

「闇市でパーツのリサイクルしてるおっさんがいるだろう?

あいつが子供達を連れて来て、お前が襲われたって教えてくれたんだ。

まぁ、情報を提供した報酬に良い部品を寄こせって言われたけどな」

 

「ちゃっかりしていますね……」

 

あの厳つい顔で子供達を引き連れて遊星達のアジトに向かったのか。

確かに子供達に彼の元へ行くように指示したのは自分だ。

あわよくば助けに来てくれるかもしれないと期待したが、まさか父の元へ行くとは全く想像出来なかった。

そもそも遊星達のアジトを知っていたのか、何故だ。

痛む頭を押さえていると、遊星が自分に背中を向ける。

 

「え?」

 

「俺達が世話になっている医者のところまで連れていく。

乗れ」

 

「いやいやいや!

そんなの良いです、自分で歩けますから!

ほら、立てますし、もうどこも痛くありませんから!」

 

「ほお?

じゃあこのクロウ様が背中を優しく摩ってやろうか?」

 

遊星からの申し出を断り、大丈夫だと証明するよう慌てて立ち上がる。

痛む体について悟られないようポーカーフェイスをするが、クロウの言葉に体が強張ってしまった。

その反応でまだ体は痛むと言っているようなものだ。

 

「ほら」

 

「……分かりました」

 

今年で14歳だというのに、何故父親に背負われてしまうのか。

顔から火が出るとはまさにこの事かと思いながら聖星は大人しく遊星の背中に乗る。

周りにいる3人の目はとても優しく、遊星もどこか嬉しそうである。

 

「(ここから消えたい……)」

 

この後、医師、シュミットがいるマーサハウスへと連れていかれ、手厚く歓迎されたのは言うまでもない。

 

END




聖星と会って1番テンションが高くなるのはマーサですね。
遊星におめでとうと微笑むイメージもありますが、遊星を育ててきた身としては兄弟の再会は奇跡のようなもの。
これから遊星は聖星を構い倒します。
そしてぎこちなく接する聖星に対し、どうすれば良いのか1人悩むでしょう。

あと、20th ANNIVERSARY DUELIST BOXの収録内容が明らかになりましたね。
1箱、8000円。
なん、だと……??
ステンレス製のカードが付いてくるから仕方ないとはいえ、高い。
そして、デュエルフィールドはランダム。
コンプリート難しくないですかねぇ???
学生にはきついですよ!!
1番欲しいのは【スターダスト】です。

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