遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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世界よただいま、変なのに目をつけられた

空を覆う暗雲から絶えず流れ落ちる雨の中、その音をかき消す程の機械音が木霊している。

視界に広がる光は夜の闇をかき消す程に強く、自分に敵意を向ける明かりしかなかった。

地面で輝くサイレンの光と空で輝くヘリコプターの光は実に眩しく、目の前に立っている小柄な男の素顔が見えない。

震える拳を握り締めて振り返れば、セキュリティに取り押さえられ、何かを叫んでいる遊星達の姿が目に入った。

これ程の轟音が響くのだ、きっと自分の声は彼らに届かないだろう。

それでも言いたかった。

 

「ごめん、――さん」

 

唇の動きをどうとったのか分からないが、遊星の顔が酷く歪んだ。

 

**

 

肌寒い季節が過ぎ、本格的に寒くなってきた頃の話だ。

聖星が目を覚ませば目の前に遊星の顔があった。

最初の頃は慣れなかったが、サテライトという環境で暮らしていると別に珍しい事ではない。

サテライトはその性質上、暖房機というものがあまりない。

あったとしても、電源が入ったらラッキーと思う程度のものが殆どだ。

仮に調子のいいものがあったとしても、長時間使用して火事になったというケースもある。

だから少しでも寒さを紛らわせるために身を寄せ合って深い眠りにつく。

 

「お、目が覚めたか、聖星」

 

「クロウさん……」

 

「飯なら出来てるぜ、遊星起こしてくれねぇか?」

 

「はい」

 

聖星と遊星が眠っている部屋に顔を覗かせたのは、今日の食事当番であるクロウだ。

未来でも家事スキルが高いと知っていたが、やはりサテライトで暮らすとスキルが身につくのだろうか。

いや、ジャックの事を考えるとそれはない。

冷たくて凍える空気に体を震わせ、隣で眠っている遊星と、遊星の頭を陣取っている【スターダスト・ドラゴン】を見る。

遊星に合わせて小型サイズになっている【スターダスト】は丸まって眠っており、実に気持ちよさそうだ。

 

「ごめんな、【スターダスト】」

 

誰にも聞こえない程度の小声で謝罪し、半透明の【スターダスト】を撫でると、黄色の瞳がゆっくりと開く。

長い首を上げて聖星を見た【スターダスト】は、朝だと認識したのか欠伸をする。

気持ちよさそうな伸びのポーズは可愛らしく、聖星は自然と笑みを浮かべてしまう。

 

「遊星さん、朝です。

起きてください」

 

「っ……」

 

見慣れた青いジャケットに身を包んでいる遊星は小さく声を漏らし、ゆっくりと目を覚ます。

寝起きのため焦点が定まっていないが、すぐにその目は聖星を捉えた。

 

「あぁ、朝か……」

 

「はい」

 

「聖星、敬語じゃなくて良い」

 

「いえ、これは譲れません」

 

まだ暖かい毛布にくるまりたい欲を跳ね除け、起き上がった遊星はすぐに懇願する。

しかし、その願いを聞き入れるつもりなど聖星にはなかった。

首を左右に振って断れば、遊星は困ったように目元を和らげ、聖星の頭を撫でてくる。

遊星からしてみればやっと再会出来た弟を可愛がっているだけだが、聖星としてはとても複雑だ。

とりあえず、遊星の手を頭からどかせた聖星は立ち上がり、クロウ達が待つ部屋へ向かった。

 

「よぉ、遊星、聖星。

珍しく寝坊か?」

 

「昨日は夜遅くまでデュエルディスクの整備をしていたからな」

 

「少ないパーツで整備するのは大変でした……」

 

「ははっ、そりゃそうか。

けど、聖星も機械に強いなんて、流石兄弟だな」

 

鬼柳の言葉に聖星は何とも言えない表情をする。

遊星との兄弟関係を否定しようと色々考えたが、どうしても彼と繋がりがある事を証明する行動をしてしまう。

機械に強い事だって、本当は隠し通すつもりだったのだが……

 

「クロウ、これをとってくれないか?」

 

「これ?」

 

「これですか?」

 

「……あぁ、ありがとう」

 

足らない工具の傍にいたクロウに声をかけたが、聖星は遊星が欲しいものを何か理解し、すぐにそれを手渡した。

最初はデュエルディスクの整備に必要で、以前世話になっていたチームもよく使っていたから、その工具だと分かったと誤魔化した。

しかし、デュエルディスクに使われている細かいパーツの名称や、内部構造に関して口にしてしまい、努力が無駄になる。

 

「んじゃ、遊星と聖星も飯を食い終わったようだし。

今日の予定を話し合うぜ」

 

立ち上がった鬼柳はどこからかサテライトの地図を取り出し、それを机の上に広げる。

何か所か黒く塗りつぶされており、彼はここから少し離れた場所を指さした。

 

「今日はF地区に行く。

俺達が知っている手掛かりは已然、『せいたいりゅう』というカード名のみ。

聖星、カードの漢字は覚えてないんだよな?」

 

「すみません……」

 

「謝る必要はないさ。

このサテライトにあるのなら、必ず見つけ出すからよ。

安心しな」

 

「はい……」

 

そう、サテライトの統一を実現させ、聖星をチーム・サティスファクションで引き取る事に成功した遊星達は別の目標を持っていた。

それは、聖星が探している【星態龍】のカードを探すこと。

聖星からしてみれば未来に帰るための鍵だが、遊星達にとっては聖星の記憶を取り戻す鍵である。

何かあった時のために記憶喪失のふりをしていたのが、まさかこんな事になるとは全くの想定外だ。

顔を伏せて気まずそうにしている聖星にクロウが軽く肩を叩く。

 

「んじゃ、今日は俺と聖星が組む。

遊星はもしジャックが暴走した時に止める役として……」

 

「どういう意味だ、クロウ!」

 

「ジャック、以前売られた喧嘩をすぐに買って乱闘騒ぎになったのを忘れたか」

 

ジャックが反射的に勢いよく机を叩くが、遊星が冷静に宥めようとする。

事実を突きつけられたジャックは少し顔を歪め、深いため息をついた。

 

「じゃあ遊星とジャックはF地区の南側を。

クロウと聖星は北側を頼む」

 

「何だ、鬼柳は来ないのか?」

 

「俺は知り合いのところに行くさ」

 

「あぁ、あのおっさんか」

 

鬼柳の言葉にクロウは納得したようにその人物を思い出す。

誰の事だろうと興味はあるが、聖星は口を挟まず話が終わるのを待った。

そして、聖星達は3組に分かれてF地区で捜索を始めた。

 

**

 

「なぁ、聖星。

何でお前、そんなに遊星の事を兄さんって呼ぶのを拒絶するんだ?

もしかして自分が兄貴じゃないことが不満とか言うんじゃねーだろうな」

 

「え?」

 

F地区での捜索途中、素直な子供達にお菓子を与えて情報を集めていた。

しかし、目ぼしい情報はなく、休憩という事でジャンクの山に腰を下ろしている。

不味い飲料水を我慢して飲んでいると、隣からかけられた言葉に聖星は意外そうな顔をした。

 

「だってお前、今朝も遊星を起こすときさん付けだったろ」

 

「あ、はい……」

 

「喋り方だってそれがお前の素じゃないんだろ?

普通で良いんだぜ」

 

遊星の保護下に置かれてから数週間、遊星は何度も兄と呼んで欲しいと言ってきた。

しかし、弟と誤認されたまま必要以上に接するのは、未来へ悪影響を及ぼすと考えている。

だから明確な線引きをし、壁を作っているのだ。

俺は貴方の弟ではありませんと態度で突き付ける度に寂しそうな顔を向けられるが仕方ない。

クロウの厳しい眼差しから目を逸らした聖星は、手元のボトルを見下ろしながら言い訳を並べた。

 

「いえ、俺と彼が兄弟だなんて決まったわけじゃ……

それに、俺を待つ人がいると思うんです。

その人達に申し訳ない」

 

「はぁ?

あのなぁ、そういうのは鏡を見てから言えって。

仮に100人に聖星と遊星が兄弟に見えるか聞いてみろ。

全員が兄弟だって返すぜ」

 

なんたって、自分達が初めて聖星と会った時、あまりのそっくりさに二度見した程だ。

クロウ達だけではない、聖星が所属していたチーム・ブルーウルフのメンバーだって全員2人を交互に見たのくらいである。

ここまで似ているのに、兄弟ではありません、血の繋がりは一切ありませんと言われて納得できるわけがない。

 

「お前は記憶喪失。

本当に遊星と自分が兄弟なのか不安に思うのも当然だな。

けど、マジでそっくりなんだ、自信を持てって」

 

勢いよく背中を叩けば、苦しそうな声が返ってくる。

痛そうな顔を向けられるがこれは激励の痛みだ、ありがたく受け取って欲しい。

 

「それと、確かにお前の帰りを待ってくれる人達がいるだろうよ。

そいつらを大事にするのは別に悪い事じゃねぇ」

 

それが義理の両親なのか、義理の兄弟なのか、友達なのかクロウには分からない。

だが、人間は1人では生きられない。

だから聖星にも帰りを待っている誰かがいる。

 

「けどよ、遊星と自分が兄弟だってわかって、それでそいつらとの繋がりが切れると思ってるのか?

そんなわけねぇってさ。

人と人を繋ぐ絆ってのは、そう簡単に切れたりしねぇ。

しかも、お前らの再会は目出度い事だろ。

きっとそいつ等も喜んでくれるさ」

 

「……そ、そうですか」

 

「あぁ」

 

14年前に起きたゼロ・リバースのせいで、家族と死別、生き別れた者達は多くいる。

時を超え、離れ離れだった家族が再会を果たした。

一体誰がこの素晴らしい事を否定するのだろう。

もしそれを否定する人間がいれば、それは血が通った人間ではない。

断言したクロウは更に言葉を続ける。

 

「それに、遊星はお前に歩み寄ろうと必死なんだ。

ほんの少しでも良い。

お前からも歩み寄ってくれないか?」

 

そう笑いながら頼めば、聖星は不安げな表情を返してきた。

ここまで言っても聖星は自分と遊星の繋がりを肯定しようとしない。

記憶がないというのは、それ程まで現実を否定しがちになるのだろうか。

過去がなく、振り返った先に何もない人間は未来どころか、現在を信じられないということか。

これは先が長そうだとクロウは感じた。

 

**

 

結局、F地区でも【星態龍】の情報がなかった。

鬼柳の方も新しい収穫はなかったようで、難しい顔で地図を塗りつぶした。

そこで、何か思い出したかのように顔をあげる。

 

「そうだ。

お前らに話しておきたいことがある」

 

「話?」

 

「何だ、鬼柳」

 

ぬるま湯で薄く溶いたコーヒーを飲んでいたジャックはコップから口を離し、遊星はデュエルディスクから顔をあげる。

クロウと聖星もこちらに目を向けており、鬼柳は言葉を放った。

 

「どうやらここ最近、シティから何人かの人間が送り込まれているらしい。

それもシティで犯罪を起こした奴じゃない。

もっと別の目的を持った奴だ」

 

「何だと?」

 

「その目的とは?」

 

「そこまでは分からねぇ。

ただ、わざと汚らしい恰好をし、酔っぱらいのふりをしてサテライトを歩き回っているようだ」

 

「よく無事だな。

そんな連中、ここでは恰好の的だぞ」

 

ジャックの言葉に遊星達は同意する。

土地勘がなく知り合いもいない人間が酔っ払ってふらついているなど、追い剥ぎをしてくださいと言っているようなものだ。

鬼柳曰く、仕入れた情報では実際に追い剥ぎに遭遇しているようだが、見事返り討ちにしているという。

それだけではなく、今までにないくらいセキュリティが迅速に対応したそうだ。

 

「……つまり、そいつ等はセキュリティの関係者」

 

「そう考えるのが妥当だな」

 

「けどよ、何でセキュリティの連中がそんな下手な変装をして歩き回ってるんだ?

目的を考えようにも情報が少なすぎるぜ」

 

「勘弁してくれ、クロウ。

これでもあのおっさんから聞き出せた方だぜ」

 

「わーかってるって」

 

成程、今朝言っていた知り合いからの情報か。

鬼柳達の会話から、とても気難しい人なのだろう。

今後関わりを持ちませんようにと願いながら、聖星は窓から空を見上げる。

 

「聖星」

 

「はい」

 

横からかかった声に反射的に振り返れば、鞄を持った遊星と目があった。

 

「食料の買い出しに行く。

一緒に行かないか?」

 

「え?」

 

「俺1人で5人分は無理だ」

 

いや、それならそこで暇そうにしているジャックさんにお願いしてください。

絶対に俺より力持ちですから、と言う事が出来ればどれほど良かったか。

残念ながら聖星にはそこまでの捻くれた度胸はなく、素直に頷いてしまう。

 

「おっ、今から行くのか。

最近はすぐに暗くなるからな。

気をつけろよ、2人とも」

 

「分かっている、鬼柳」

 

「は、はい……」

 

暖かい眼差しを向けられてしまえば、もう拒否するという事は出来ない。

ジャックの心配そうな視線と、遊星にエールを送るクロウの視線に居たたまれなくなり、聖星は慌てて外に出た。

そんな彼の感情を理解しているのか、遊星は少しだけ悲しげに後を追う。

 

**

 

市場に来れば、先程のF地区と比べ物にならない程の人がいた。

 

「やっぱりこの時間は混みますね」

 

「あぁ。

シティから船が来た直後だからな」

 

サテライトで出回る食糧の中にも一応シティから来ている物もある。

尤も、質はとても悪く、生ごみ入れから掘り返したものと疑ってしまう食品も数多くある。

それを食べなければ生きていけない環境下で、よく遊星達は生きているものだと尊敬の念を覚えた。

聖星がそのような感想を抱いている事を知らない遊星は、自分とほぼ同じ目線の彼の名を呼ぶ。

 

「聖星」

 

「はい」

 

名前を呼べば、自分とは異なる色の瞳と視線が交わった。

兄弟なのに目の色が違うという事は、どちらかが父、どちらかが母譲りの目の色なのだろうか。

遊星の色がサファイアなら、彼のはエメラルドだろう。

 

「今度、D-ホイールを作るつもりなんだ」

 

「D-ホイール?」

 

「あぁ。

デュエルディスクの発展型だ。

シティではこれを使ったライディングデュエルが流行っているらしい」

 

たまたま自分がシティの回線をハッキングして、そこに映し出された映像。

それは2人のデュエリストがスピードの中でモンスターとモンスターを戦わせ、互いのプライドを賭けてデュエルしているものだった。

その場にいたラリー達は目を輝かせ、自分達もやりたいとはしゃぎだした。

当然、遊星もその気持ちに賛同し、彼らの想いに応えるつもりだ。

 

「聖星、君も手を貸してくれないか?」

 

「え?」

 

「必ず君の力も必要になる」

 

共に過ごしてまだ数週間程度しか経っていないが、彼の知識は本物だ。

ラリー達のためにも早くD-ホイールを作り上げるには協力者は多いほうが良い。

それに、もしかすると、これを切っ掛けに壁を作っている聖星の内側に入り込めるかもしれない。

やっと出会えた正真正銘の家族だ、何があっても手放したくないのだ。

焦る気持ちを抑えながら出来る限り優しく微笑むと、何故か苦笑いを返された。

 

「遊星さん、凄く緊張していません?

顔が固いですよ」

 

「そうか?」

 

「はい」

 

きょとんとした顔を浮かべられ、聖星は何とも言えない表情をする。

未来の父もどこか人付き合いが苦手で、人と話すとき緊張してぶっきらぼうになっていた。

その彼を知っている身としては、幼い彼がどこまで近寄れば良いのか分からず、距離を測りかねている姿は実に可愛く映ってしまうだ。

もし未来にいる父に知られたら睨まれそうな事を考えながら、聖星はクロウの言葉を思い出す。

 

「(歩み寄って欲しい、か……)」

 

本当ならこうやって遊星と話している事自体、あってはならない事だ。

皆が寝静まった後にアジトから脱出し、彼らと距離を置くべきである。

それでもここにいるのは、サテライトで生きていくのに不安があるからだろう。

頭で理解はしているが、家族が傍にいるという事は想像以上の安心感がある。

 

「遊星さんは俺の事を買いかぶりすぎです。

……でも、そんな俺でよければ手伝いますよ」

 

だから、これはいつか消える自分のために、今を必死に頑張っている彼への罪滅ぼしだ。

仮に【星態龍】が見つかっても、せめて1台目のD-ホイールが完成するまでは傍にいたい。

尤も、兄呼びだけは何があっても拒否させてもらうが。

優しく微笑みながら告げれば、遊星が安心したような表情を浮かべる。

 

「ありがとう、聖星」

 

「いえ、俺のために【星態龍】を探してくれているお礼です。

気にしないでください」

 

そこからは殆どD-ホイールについての話しかしていない。

足りない部品は何がある、2人で部品探しをしよう、探すことが出来なければ何を代用しようか。

ここサテライトでは手に入らない部品について、聖星は名前をあげることは出来たが、代用品についてはあまり名前が出なかった。

しかし、遊星はおもちゃの部品、ハンガーが良いなど様々な案が出てくる。

目当ての食糧を買い、後は鬼柳たちが待つアジトに戻るだけになった。

その途中、幼い声がひときわ響く場所があった。

そちらに目を向ければ、子供達が配管の周りに集まっている。

 

「あの辺りは子供達に大人気のようですね」

 

「暖を取れるからな。

夏は地獄だが、今の季節にはありがたい」

 

あの配管の中には、金属を溶かした時に生じる熱が通っているらしい。

夜遅くまで工場は稼働しているため、まともな家を持たない弱い者達にとっては天国のようなものだ。

すると、顔にマーカーを刻んだ男達が子供達に近寄る。

一目見て友好的ではないと分かり、次の瞬間には、暖を取っていた彼らを追っ払い始めた。

 

「聖星、少しここで待っていてくれ」

 

「分かりました」

 

傍から見てもわかるくらい顔を歪めた遊星は荷物を聖星に預け、すぐに男達の元へ向かう。

肩に手を乗せると、怒鳴り声をあげられるが、遊星は一切動じずに拳を叩きつけた。

あの一発で力の差を理解できればいいのだが、残念ながら相手もせっかく見つけた場所を逃したくないらしい。

これは長くなると思った聖星は、加勢しようか考える。

 

「貴方が不動聖星さんですね?」

 

「え?」

 

不意にかかった声に、聖星は後ろに振り返る。

その先には赤紫のコートを羽織った小柄の成人男性が立っていた。

目元に特殊なメイクをしている彼を聖星は知っている。

 

「どうして俺の名前を?」

 

「初めまして、私はイェーガーという者です」

 

「イェーガー……」

 

あぁ、間違いない。

彼は今から数年後、ネオ童実野シティの初代市長に就任した人だ。

イリアステルとの戦いで父と一緒に戦ったと聞いているし、聖星も何度か会ったことがある。

その彼が何故自分の前に現れたのか。

軽く頭を下げた彼は暴れている遊星に目をやり、口角をあげて言葉を続けた。

 

「ここは少々騒々しいですね。

静かな場所でお話ししましょう。

ご安心ください、そう時間はとりませんよ」

 

そう言った彼は、胡散臭い笑顔を浮かべてとある方角に手を向けた。

普通ならばここは行くべきではない。

しかし、聖星の中でイェーガーは父の友人の1人ということで、比較的安心感を覚える相手だ。

一応遊星に声をかけるべきかと迷ったが、そう時間はとらないということなので、小さく頷いた。

 

**

 

案内されたのは廃墟となっている工場だ。

周りの稼働している工場と違って煙たくなく、比較的に空気が澄んでいる。

さて、自分の知識が正しければシティにいるはずの彼が何故サテライトにいるのだろう。

 

「貴方、サテライトの人じゃないですね。

服装が綺麗すぎる。

つまり、セキュリティ?」

 

「おや、意外と観察眼があるご様子。

このイェーガー、感服いたしました」

 

背中を向けていたイェーガーはたいそう驚いたような表情をし、軽くお辞儀をする。

わざとらしい姿に、相変わらずだなと思う。

こういう仕草は幼いころから叩き込まれているので、無意識に出てしまう癖なのだろう。

 

「あの、回りくどい事を言うのは止めてください。

俺に何の用です?」

 

「失礼。

この私とデュエルしていただけませんか?」

 

「貴方と?

何故?」

 

「実は私も魔法使い族使いでして。

貴方様も魔法使いデッキを操る強者と聞き、はるばるシティからやって参りました。

強いデュエリストと戦いたいのは、デュエリストとして当然でしょう?」

 

「つまり、好奇心からと」

 

強く頷かれ、聖星は小さくため息をついた。

尤もらしい理由を並べられたが、恐らく嘘だろう。

いくらサテライトに強いデュエリストがいるという噂を耳にしたからといって、治安の悪いサテライトに来るなど考えられない。

身の安全など顧みずに飛び込むような性格なら話は別だが、イェーガーはどちらかというと用心深い性格だ。

 

「デュエルだなんて、めちゃくちゃ時間取るじゃないですか。

せっかくのお誘いですが、俺は今急いでいるんです」

 

早く遊星のところに戻らなければならない。

きっと完勝した事で子供達からヒーロー扱いを受け、困っている頃だろう。

簡単に想像できる光景を思い浮かべながら振り返ると、Dパッドから奇妙な金属音が聞こえた。

そちらに目を向ければ、拘束具のようなものがDパッドに嵌められている。

 

「何のつもりですか?」

 

「手荒い真似をして申し訳ございません。

私もはるばるシティからここまで来たのです。

このまま帰るつもりなど毛頭ございません」

 

あぁ、これは遊星に一声かければよかった。

今更後悔した聖星は、深いため息をついてイェーガーと向かい合う。

 

「分かりました、やれば良いんですね」

 

「えぇ、お願いします」

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は私から。

ドロー。

【ジェスター・クイーン】を攻撃表示で召喚します。

カードを3枚伏せ、ターンエンドです。

さ、聖星さんのターンですよ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

デッキからカードをドローした聖星は、イェーガーの場を見渡した。

先攻1ターン目から3枚の伏せカードがあるなど、実にやりづらい。

さて、モンスターの召喚を無効にするカウンター罠か、それとも攻撃をトリガーとする罠か。

何が伏せられているか様々な予想を立てながら、聖星はメインフェイズに移ろうとする。

 

「永続罠発動、【レイト・ペナルティ】」

 

「なっ、いきなりバトルフェイズスキップ?」

 

「おや、このカードを御存じで?

珍しいカードだと自負していましたが、博学なのですね」

 

両手をぱちぱちと叩きながら言われた言葉に、聖星は素直に喜べない。

あのカードはスタンバイフェイズ開始時、イェーガーの場にレベル2以下の魔法使い族が存在し、聖星の場にモンスターが存在しなければ効果が適応される。

その効果はえげつなく、聖星の言った通りバトルをスキップするのだ。

今、イェーガーの場にはレベル2の【ジェスター・クイーン】が存在し、条件をクリアしている。

 

「俺は【魔導書士バテル】を守備表示で召喚。

【バテル】の効果を発動」

 

「ふんっ」

 

召喚された魔導書庫の管理人は、両腕を組んでその場に膝をつく。

表示された守備力は400と、攻撃力800の【ジェスター・クイーン】ではあっさり突破されてしまう。

しかし、聖星は気にせず効果を発動させた。

 

「彼が召喚された時、俺はデッキから【魔導書】と名の付くカードを1枚手札に加える。

俺が加えるのは【魔導書の神判】だ」

 

全ての【魔導書】を記憶している彼は詠唱呪文を唱え、聖星が欲しているカードをデッキから呼び出す。

手札に加わったカードの絵柄を見た聖星は、とにかく早く終わらせようとそのカードを発動した。

 

「手札から魔法カード【魔導書の神判】を発動」

 

Dパッドにカードをセットすると、聞きなれた効果音が響く。

しかし、フィールドには何の変化もない。

 

「おや、特に変わった様子はないようですが」

 

「えぇ、効果が発動するのはエンドフェイズ時ですからね」

 

「ほう?」

 

顎に手を当ててカードを観察するイェーガーは、考えが読めない顔を浮かべながら自分の手札と聖星の場を見比べる。

 

「そして、魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

このカードはデッキから【魔導書】を1枚サーチできます。

俺は【セフェルの魔導書】をデッキから手札に加えますね」

 

「またもや見たことのないカード……」

 

聖星も、未来で生きていたとき【魔導書】のカードなど知らなかった。

恐らくだが彼らは遊馬達の世界にしか存在しないカテゴリなのだろう。

興味深そうに向けられる眼差しを無視し、聖星は次のカードを発動した。

 

「そして、【セフェルの魔導書】を発動。

俺の場に魔法使い族が存在するとき、貴方に手札の【魔導書】を見せることで、墓地に存在する【魔導書】の効果をコピーします」

 

「ほほう。

貴方の墓地に【魔導書】は1枚……

という事は【グリモの魔導書】の効果をコピーするのですね。

そのような効果を持つカードが存在するという事は、【グリモの魔導書】は1ターンに1枚しか発動できない制約付きでしょうか」

 

「ご名答」

 

流石は未来の初代市長である。

頭の回転力はそれなりにあるようだ。

聖星はデッキから差し出された1枚のカードを手に取り、それをイェーガーに見せる。

 

「俺は【魔導書院ラメイソン】を見せ、【ゲーテの魔導書】をサーチしました。

そしてフィールド魔法、【魔導書院ラメイソン】を発動。

カードを3枚伏せて、ターンエンド」

 

Dパッドから放たれた光は薄暗い工場を一瞬で青空に変え、聖星の背後に巨大な建物が出現する。

空中には解読不可能な文字が浮かび上がっており、緑色の光が円となって建物を囲んでいる。

その姿を見たイェーガーは、とある都市の駅前にあったといわれるモニュメントに似ていると思った。

 

「この瞬間、【魔導書の神判】の効果発動。

このターン俺が使用した魔法カードの枚数分だけ、【神判】以外の【魔導書】を手札に加えます。

俺がこのターン使用した魔法カードは3枚。

よって加えるのは【グリモ】、【アルマ】、【セフェルの魔導書】の3枚。

そして、加えた枚数以下のレベルを持つ魔法使い族をデッキから特殊召喚します。

来い、【魔導教士システィ】」

 

「はっ!」

 

聖星の説明にイェーガーは顎に手を当てたままだ。

普通ならこの説明をすると驚かれるのだが、彼は驚いているのだろうか。

デッキから差し出された4枚のカードを手に取った聖星は、頼りになる2人目の魔法使い族をフィールドに呼び出す。

 

「そして【システィ】の効果。

【魔導書】を発動したターン、彼女を除外する事でデッキから【魔導法士ジュノン】と【魔導書の神判】を手札に加えます」

 

特殊召喚された【システィ】は時空の歪みに吸い込まれ、代わりに凛とした女性のカードと、聖星が最初に加えたカードと同名カードがフィールドに現れた。

来てくれた仲間を手札に加えるため、聖星の視線が手札に向いている間、イェーガーは眉間に皺を寄せる。

 

「このターンで5枚のカードを……

1枚だった手札が6枚に回復ですか。

お見事です」

 

イェーガーも聖星と同じようにカードを3枚伏せたが、圧倒的に手札に差がある。

しかし妨害には成功しているため、大した焦りはなかった。

 

「私のターン、ドロー。

私は魔法カード【ディストレイン・カード】を発動します。

そうですね、1番左のカードを指定させていただきましょうか」

 

「え?」

 

その声と同時に、イェーガーから見て1番左端のカードが一瞬で黒ずんだ。

Dパッドに表示されている画面を見れば、そのカードには使用できないマークがついている。

 

「このターン、そのカードを使用する事は出来ません。

そして、貴方に800ポイントのダメージです」

 

「そんなっ……」

 

これで聖星のライフは3200.

しかし、伏せカードの1枚を封じられてしまったのは痛い。

聖星の表情からそれが読めたのか、イェーガーは不敵な笑みを浮かべてデュエルを続ける。

 

「さらに手札から魔法カード【財宝への隠し通路】を発動いたします。

これで【ジェスター・クイーン】は貴方にダイレクトアタックが出来ます」

 

道化の恰好をしている彼女は細い目をさらに細め、標的である聖星を見る。

睨まれた聖星は気味の悪い笑みについ下がってしまう。

 

「【ジェスター・クイーン】、ダイレクトアタック!」

 

「ふふふっ!!」

 

「くっ!!」

 

イェーガーの場にいた彼女は、【バテル】をあっさりと飛び越え、鋭利な爪で聖星を切り裂く。

10本の指で切り裂かれた痛みに声を漏らしてしまうが、すぐに落ち着いた表情を見せた。

 

「まだまだ行きますよ、【ジェスター・クイーン】は私の魔法・罠カードの数だけ更に攻撃できます」

 

「なっ!?

今貴方の場にはカードが3枚……!」

 

「そう、つまりあと3回攻撃出来るということです」

 

不敵な笑みを浮かべた【ジェスター・クイーン】はイェーガーの元へと戻ったと思えば、勢いよく聖星の元へジャンプする。

空中に浮かんでいる彼女の武器である爪は3倍の長さになった。

今、聖星のライフは2400.

つまり、この攻撃を全て受けてしまえば聖星の負けとなる。

 

「リバースカードオープン、【ゲーテの魔導書】を発動。

墓地に眠る【グリモ】と【セフェル】を除外し、【ジェスター・クイーン】を裏側守備表示に変更」

 

「おや?」

 

聖星の前にいる【バテル】は呪文を唱え始め、墓地から淡い紫色の書物と禍々しい書物を呼び出す。

2冊の【魔導書】は時空の彼方へ消え去り、空中にいた【ジェスター・クイーン】は強い力によってあるべき場所へ叩き返される。

 

「はぁ、良かった……」

 

「おや、指定するカードを間違えてしまったようですね。

私はこれでターンエンドです」

 

「俺のターン、ドロー。

フィールド魔法【ラメイソン】は俺の場または墓地に魔法使い族がいるとき、墓地眠る【魔導書】を回収し、デッキからカードを1枚ドロー出来ます」

 

【バテル】が存在する事で、条件はクリアしている。

墓地に存在する【魔導書の神判】をデッキの1番下に戻した聖星は、デッキから1枚カードを引いた。

 

「そして、さっき【システィ】の効果で加えた【魔導書の神判】を発動」

 

これで、聖星はこのターンのエンドフェイズ時、使用した魔法カードの枚数まで手札を回復する事が出来る。

先程のターンと同じことが繰り返されると察したイェーガーは静かに聖星を見ていた。

 

「俺は手札に存在する【グリモ】、【ルドラ】、【トーラ】を貴方に見せることで、このデッキの最高位魔導士を特殊召喚します」

 

「ほう。

最高位と来ましたか。

一体どのような魔導士なのでしょうか。

私の【ジェスター・クイーン】で翻弄してあげますよ」

 

「裏側守備のピエロに何が出来るんです」

 

嫌味の意味を込めて放った言葉だが彼もそれは分かっているようで、大した反応は返ってこなかった。

3冊の【魔導書】が円のように並び、回転し始める。

それは淡い桃色の光を生み出し、空を突き破る程の轟音を響かせた。

 

「来い、【魔導法士ジュノン】!」

 

「はぁ!」

 

光の柱の中から現れた【ジュノン】は目を鋭くさせ、【バテル】の隣に着地する。

表示された攻撃力は2500。

大抵のモンスターなら突破できる攻撃力だ。

 

「そして手札から魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

俺がデッキからサーチするのは【トーラの魔導書】です。

そして【セフェルの魔導書】を発動。

貴方に【トーラ】を見せることで、【グリモ】の効果をコピーし、【ヒュグロの魔導書】をサーチ」

 

フィールドに現れた禍々しい書物は【グリモの魔導書】へと変わり、次に赤く光る書物へと姿を変える。

 

「【ジュノン】の効果発動。

彼女は墓地または手札の【魔導書】を除外する事で、場のカードを破壊できます。

俺は墓地の【ゲーテ】を除外し、裏側守備の【ジェスター・クイーン】を破壊」

 

「おやおや、破壊されてしまいましたか」

 

裏側守備表示だった【ジェスター・クイーン】は破壊される寸前に姿を現し、悲痛な声を上げて砕け散った。

 

「【バテル】を攻撃表示に変更。

そして【ヒュグロの魔導書】を発動。

【ジュノン】の攻撃力は1000ポイントアップし、2500から3500になります」

 

今、イェーガーの場には伏せカードが2枚。

先程までは特殊召喚を封じるタイプ、攻撃宣言時に発動するタイプの罠等の可能性を考えていた。

しかし【ジェスター・クイーン】の効果を活かすためであり、単なるブラフの可能性も出てきた。

 

「バトルです。

【バテル】でイェーガーさんにダイレクトアタック」

 

「罠発動。

【進入禁止!No Entry!】、これで貴方のモンスターには守備表示になっていただきます」

 

露わになった罠カードの効果に、聖星の瞳は一切揺れなかった。

それどころかより力強い声で宣言する。

 

「【ジュノン】、行け!!」

 

「なっ、何故守備表示になっていないのです!?」

 

聖星が呼んだ名前に、イェーガーは場を二度見する。

確かに【バテル】は守備表示になっており、【進入禁止!No Entry!】の効果が適応されているのは明らかだ。

【ジュノン】は驚きを隠しきれていない道化など気にせず、掌に魔力を集め、イェーガーに放った。

 

「くぅうう!!」

 

自分に降り注ぐ魔力はイェーガーに大ダメージを与え、その衝撃の強さを示すようにコートや髪が激しく揺れる。

足元から焦げた煙が上がり、ライフが500まで削られた。

理解できないという表情をする彼に、聖星は1枚のカードを見せる。

 

「俺は速攻魔法【トーラの魔導書】を発動させていました。

このカードの効果で、イェーガーさんが発動した罠カードの効果を跳ね返しただけです」

 

「……そういう効果でしたか、厄介ですね」

 

「俺は【ルドラの魔導書】を発動。

【バテル】を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドローします。

カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

そして、エンドフェイズ時になった事で【魔導書の神判】が発動する。

今、聖星の手札は3枚ある。

聖星はデッキから【グリモ】、【セフェル】、【ゲーテの魔導書】3枚を手札に加え、レベル3の【魔導召喚士テンペル】を守備表示で特殊召喚した。

その守備力は1000である。

新たに特殊召喚された女性モンスターを見ながら、イェーガーは手元の端末を見下ろした。

 

「(ふむ、【魔導書】……

ゴドウィン長官の予想通り、海馬コーポレーションのデータベースには存在していないカードですね。

そして彼が使っているデュエルディスク……

モーメントエンジンを搭載していないようですが、旧式にしてはデザインが見たことのないタイプ)」

 

サテライトを監視している者から報告があったとおり、目の前の人物は不可解な点が多すぎる。

直接監視とデュエルをすれば何か得られると思ったが、今手に入れている情報以上の事は得られそうにない。

どうしようかと考えながら、イェーガーはデッキに指を置いた。

 

「私のターン、ドロー」

 

引いたカードはモンスターカード。

さて、このデュエルを早々に切り上げるためにはどうすれば良いだろうか。

無駄な事を嫌う彼は手札のモンスターを召喚した。

 

「私は【ジェスター・コンフィ】を召喚します。

さらに装備魔法【ミスト・ボディ】を【ジェスター・コンフィ】に装備します。

これで【ジェスター・コンフィ】は戦闘では破壊されません」

 

場に召喚されたのは小太りで少し愉快な笑い声をするピエロだ。

その攻撃力はなんと0であり、聖星は怪訝そうな顔をした。

 

「そして伏せカードオープン。

永続罠【スピリットバリア】を発動します。

これにより【ジェスター・コンフィ】がいる限り、私への戦闘ダメージは0です」

 

成程、これで一応ダメージ0のコンボは完成した。

しかし聖星の場には問答無用でカードを破壊する【ジュノン】が存在する。

墓地と手札に【魔導書】は豊富にあり、次のターンになればすぐに【ジェスター・コンフィ】は破壊されてしまう。

それくらいイェーガー程の人物なら分かっているはずだ。

ならば、別の狙いがあると考えるのが妥当だろう。

 

「バトルです。

【ジェスター・コンフィ】、【魔導法士ジュノン】に攻撃しなさい!」

 

「え?」

 

いくら戦闘破壊無効、戦闘ダメージが0になるからといって、攻撃力0のモンスターで攻撃してくる理由が分からない。

【ジェスター・コンフィ】はボールから飛び上がり、ジャグリングに使っていた道具を【ジュノン】に投げる。

 

「さらに永続罠、【悲劇の喜劇】を発動します」

 

「え、何、そのカード?」

 

「流石に博識な聖星さんでも、このカードはご存じないようですね。

では、教えて差し上げましょう。

お互いのモンスターが戦闘で破壊されなかったとき効果が発動します。

聖星さんには、【魔導法士ジュノン】の攻撃力分のダメージを受けてもらいますよ」

 

「なっ!?」

 

イェーガーの説明に、聖星と【ジュノン】の表情は一瞬で変わった。

【ジュノン】は慌てて振り返り、聖星はDパッドに表示されているライフを見る。

残りのライフは2400、それに対し【ジュノン】の攻撃力は2500だ。

 

「くっ、とにかく行け【ジュノン】!!」

 

動揺して揺れている瞳を閉じ、無理に顔をあげた聖星は力強く叫んだ。

その言葉に背中を押された【ジュノン】は目を鋭くさせ、手元の書物から魔力を解放し、【ジェスター・コンフィ】を吹き飛ばす。

凄まじい暴風に飲み込まれた【ジェスター・コンフィ】はケタケタと笑いながら綺麗に着地する。

 

「さぁ、【悲劇の喜劇】の効果を受けていただきましょう!」

 

「うっ!!」

 

罠カードが光り出し、聖星の足元から赤い光の柱が立つ。

体中に走る衝撃に聖星は歯を食いしばり、その場に膝をついた。

デュエルが終わり、シティに戻る手配をするためイェーガーは再び懐から端末を取り出した。

しかし、まだソリッドビジョンが消えていない事に怪訝そうな顔をした。

まさかと思い、聖星のライフを確認すると、ライフが0になっていなかった。

 

「意外としぶといですね。

今度はどのようなカードを使用したのです?」

 

煙が薄れていくにつれて、聖星の場に見慣れないカードの姿が現れた。

1人の女性が綺麗な衣服を持っている絵柄に、イェーガーは何故聖星のライフが残っていたのか納得した。

 

「【禁じられた聖衣】。

このカードにより【ジュノン】の攻撃力は600ダウンしたのさ」

 

「成程、これで【魔導法士ジュノン】の攻撃力は1900になったと……

お見事です」

 

全く、下手な抵抗をせずに先程の戦闘で負けていれば良かったものを。

笑顔を張り付けながら裏でため息をついたイェーガーは、ある事を思い出した。

 

「ところで聖星さん、貴方は記憶喪失のようですね」

 

「何でも知ってるんですね。

いつから俺を見ていたんです?」

 

「ふふふっ。

下調べはしっかりする主義なので。

そして不躾ですが、先程お兄様との会話を盗み聞きさせていただきました」

 

「遊星さんとの会話を?」

 

「えぇ。

D-ホイールを作るというお話ですが……

サテライトの人間がD-ホイールなど、猫に小判、いえ、ドブネズミにダイヤモンドですね」

 

「……いきなり何です」

 

「夢を見るのは勝手ですが、身の程を弁えた方が、いえ、現実を見た方がよろしいという事ですよ。

D-ホイールは私達裕福な者の象徴。

サテライトのドブネズミには勿体ないものです。

ましてや、サテライトに流れ着くパーツだけで作るなど不可能」

 

「止めてください」

 

今までにないくらい、はっきりとした声が響いた。

叫んだわけでも、怒鳴ったわけでもない。

だが、今まで交わした言葉の中で最も重い声だった。

微かに震える拳を見たイェーガーは、聖星に気づかれないようほそく笑む。

 

「これ以上、貴方の口からそんな言葉を聞きたくない」

 

「私の口から?

どういう意味でしょうか?」

 

「あの人の事をドブネズミと呼ばないで欲しいと言っているんです」

 

あぁ、まさかこの人の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。

遊星に尊敬の眼差しを向けているイェーガーしか知らない聖星は、頭でわかっていても、実際耳にすると酷く心にくるものがあると実感した。

確かに今の彼にとってサテライトで這いずり回っている遊星の姿はドブネズミに見えるのだろう。

だが、例え未来で良好な関係を築けているとしても、その発言は聞き逃せない。

 

「おや、何故です?

サテライトに生きている者には妥当な呼称かと思いますが」

 

「……妥当な呼称?

ふざけんな、あの人は好きでこんな所で生きているわけじゃない。

あんた達がそうさせているんだろ?」

 

シティとサテライトが完全な格差社会になったのはいつからだ。

サテライトで起こる戦火をシティに広げないための策とは言え、あまりにもひど過ぎる。

その策略のせいで、父は、遊星はこんな閉じた世界での生活を強いられている。

 

「あんた達に押し付けられた理不尽な現実に屈さず、あの人はこのサテライトで仲間と共に生き、未来を目指してる。

その目指す先が、あんた達にとっては価値のないものかもしれないけど、あの人は必ず掴み取る。

いや、掴み取るだけじゃない、それを積み重ね、いつかは俺達が想像できない事を成し遂げるんだ!

それだけの強さをあの人は持っている!」

 

自分だって男だ、いつかは遊星の背中を乗り越えたいと思っている。

だが、この時代で生き、自分と年が変わらない遊星を見て時々疑問に思ってしまう。

この時の遊星さえ超えられていない自分は、あの人の背中を超えることが、いや、そもそも掴むことが出来るのだろうか。

それだけ遊星の背中は大きくて、とても遠い。

勿論、そこまで辿り着くには遊星1人ではとうてい無理だっただろう。

数多くの人間と出会い、別れ、絆を結んだからこそ出来たもの。

しかし、それだけの人達と繋がりを持てたのは、遊星の人徳があったからだ。

 

「あの人と同じ血が流れている者として言わせて貰う。

あの人はドブネズミなんかじゃない。

勝手に人の周りを嗅ぎまわって、嘘を並べてこっちに近寄ってくるあんたの方がたちの悪いドブネズミだ!」

 

「ほう、私がドブネズミと来ましたか。

随分と大きな口を叩きましたね」

 

「大きな口だって?

俺はただ、身内の事をそんな風に言われて黙っていられないだけさ!」

 

身内、そして同じ血。

その発言に、イェーガーは自分の認識を改めなければならないと考える。

 

「(情報によると、記憶喪失とはいえ、彼は自分と不動遊星の繋がりを否定する節があるそうですが……

彼は不動遊星を家族と認めている。

これはますます不可解ですね)」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

引いたのは1枚のモンスターカード。

だが、場に存在する【魔導召喚士テンペル】を見た聖星は、このモンスターの出番はないと確信した。

 

「フィールド魔法【ラメイソン】の効果により、墓地の【ルドラの魔導書】をデッキの1番下に戻し、カードを1枚ドローする。

さらに手札から【グリモの魔導書】を発動!

デッキから【ルドラの魔導書】を手札に加える」

 

【ジュノン】の手元に集まった光は淡い光の書物となり、それは聖星の手元へと舞い降りた。

これで発動条件は満たした。

聖星は目を鋭くさせ、高らかに宣言する。

 

「そして【テンペル】の効果発動!

俺が【魔導書】を発動したターン、彼女をリリースする事でデッキからレベル5以上の魔法使い族を特殊召喚する!」

 

「(レベル5以上、上級モンスターが並びますか)」

 

「【テンペル】、カオス・ゲート!!」

 

このターンに使用された【グリモの魔導書】が【テンペル】の目の前に現れ、彼女はとあるページを開いた。

そのページから無数の文字が浮かび上がり、足元に六芒星の魔法陣が描かれる。

輝く光は彼女を包み込み、フィールドに純白の光が満ち溢れた。

 

「冥府と現の狭間を彷徨いし闇の隷属よ、そのか弱き手で曙光を掴み取り、俺に勝利をもたらせ!!

【魔導天子トールモンド】!!」

 

聖星の場には白い球体が現れ、それはゆっくりと柔らかい翼になっていく。

暖かな光を纏いながら召喚された彼は、その声に応えるよう顔をあげ、翼を大きく羽ばたかせた。

その動きによって多くの羽が舞い上がり、天井から差し込む光が虹色に輝く。

感情を読ませない表情を浮かべる青年の姿は、言葉を失う程美しい。

その攻撃力は2900。

 

「【トールモンド】の効果、このカードが魔法使い族の効果で特殊召喚に成功した時、墓地に眠る【魔導書】を2枚手札に加える。

俺が加えるのは【ヒュグロ】と【トーラ】だ!

そして、この瞬間、俺の手札に【魔導書】は4枚揃った」

 

聖星は手札に存在する4枚の【魔導書】をイェーガーに見せる。

彼の手札にある【ヒュグロの魔導書】、【トーラの魔導書】、【ルドラの魔導書】、【ゲーテの魔導書】は、【トールモンド】の背後に現れる。

4冊の書物はそれぞれ剣や秤等、仲間達が持つ武器へと変わった。

 

「【トールモンド】の効果で4つの【魔導書】が揃った時、【トールモンド】以外のフィールドのカードを全て破壊する!」

 

「なっ、何ですとぉ!?」

 

「【トールモンド】、ディヴァイン・クリア・フィールド!!」

 

4つの武器は【トールモンド】の周りで回転を始め、それを軸に衝撃波がフィールドに放たれる。

敵味方問わず放たれた力はイェーガーの罠カード達を粉々に砕き、【ジェスター・コンフィ】は一瞬で消え去った。

【魔導書院ラメイソン】も激戦の中、ついに耐え切れなくなったのか、静かに崩れていく。

青い空が広がった世界は、元の無機質な工場に戻っていった。

これでイェーガーの場はがら空き、これ以上抵抗する術はないだろう。

 

「【トールモンド】、ダイレクトアタック!

クリア・ノヴァ・バースト!!」

 

宝石のように美しい瞳でイェーガーを捕らえた【トールモンド】は、自分の魔力を集めた。

虹色に光った両手から魔力が放たれ、容赦なくイェーガーを貫く。

体に走った痛みに彼は顔を歪め、悲痛な声を上げた。

 

「くぅう!!!」

 

貫くと同時に爆発の演出が入り、ライフが500から0にカウントされる音が聞こえてくる。

工場が揺れるほどの爆音が治まり、煙が晴れていった。

さて、この後イェーガーをどうしてやろうか。

一発殴らなければ気が済まないほど腸が煮えくり返っている聖星は、指の関節を鳴らして彼が立っている場所に歩み寄った。

 

「あれ?

嘘、もういない?」

 

完全に煙がなくなると、そこには誰もいなかった。

慌てて周りを見渡すが、彼らしき人影はない。

まさかと思って上を見上げると、天井の穴から覗く鉛色の空に、異様な黄色が見える。

 

「……そういえばあの人、不気味な気球を隠し持ってたっけ」

 

流石はピエロ、音を立てずに脱出するのはお手の物という事か。

今更思い出しては意味がなく、聖星は深いため息をついた。

このやり場のない怒りをどうにか鎮め、遊星と合流しなくてはならない。

いや、そもそも遊星は喧嘩を終わらせ、今頃自分を探しているのではないか?

 

「(あ、ヤバイ。

どうして勝手に離れたんだって怒られる)」

 

いや、怒りはしないか。

それでも絶対に何か言われると確信した聖星は、憂鬱な気分になりながら振り返った。

すると、工場の出入り口に遊星が立っていた。

 

「あ、遊星さん」

 

「見事なデュエルだった」

 

「……あの、いつから?」

 

見ていたのですか?と暗に含ませて聞けば、遊星は少しだけ微笑んで答えてくれた。

 

「君が【ジュノン】を召喚した辺りからだ」

 

照れたような表情で告げられた言葉に、聖星は色々な意味で先程の発言を取り消したくなる。

遊星が素晴らしい人間だと言った点は良い。

問題は遊星の事を家族だと肯定するような事を言ったことだ。

ばっちり聞かれていたようで、遊星は一緒に暮らしていた中で1番素敵な笑顔を向けてくれる。

 

「君はさっき自分の事を買いかぶり過ぎだと言っていたが、聖星も充分俺の事を買いかぶり過ぎている。

俺はそこまで出来た人間じゃない。

だが、嬉しいものだな」

 

自分達がD-ホイールを作ろうとしている事を、あの道化は馬鹿にした。

それだけでも遊星にとってはあの場に乱入する理由になる。

しかし、ドブネズミという発言を聞いた瞬間に聖星の雰囲気が変わり、踏みとどまった。

その結果、遊星を大切に想っているという旨の言葉を聖星の口から聞くことが出来た。

きっとあれが嘘偽りのない彼の気持ちなのだろう。

傍から見ても分かるくらい嬉しがっている遊星に対し、聖星の目からハイライトが消えた。

 

「(……【星態龍】、助けて。

父さんの誤解が一向におさまらない)」

 

**

 

イェーガーとの出会いから3日が経過した。

あの日、アジトに戻った遊星はシティの人間と聖星が接触した事を報告した。

最初は真剣に聞いていた鬼柳達だったが、遊星が嬉しそうに聖星の言葉について話し始めたので、次第に視線が暖かい物へと変化していく。

居たたまれない聖星は顔を逸らし、デッキと睨めっこをするのが精いっぱいだった。

 

「にしても雨か。

これじゃあ今日は捜索しない方が良いな」

 

窓際で雨空を睨みつけているクロウの言葉にジャックは深く頷いた。

聖星のために【星態龍】を探すのも大切だが、冬に雨に打たれるのは正直勘弁してほしいものである。

仲良くD-ホイールの設計をしている兄弟に目をやれば、遊星が目を輝かせながら図面に線を引いていき、聖星が小さく頷いている。

次々出てくる専門用語についていけないジャックは、冷えた指先を温めるため薄いコーヒーが入っているコップに手を伸ばす。

瞬間、アジトが光に照らされる。

 

「何?」

 

「え!?」

 

「何だ、これ!?」

 

突然の事に皆は顔をあげ、デッキを編集していた鬼柳はデュエルディスクを掴んで外を見た。

雨の向こう側には緑色の光を発する車が無数に存在し、空にはアジトを照らす光の原因であるヘリコプターがあった。

それらの車体にはSECURITYの文字が印刷されており、彼等は自分達の敵だというのが分かる。

だが、何故彼等がここにいるのか、その理由が分からない。

 

「出てきなさい、不動聖星。

君達は完全に包囲されている」

 

「セキュリティ!?

何であいつらが!?」

 

「聖星、何かしたのか!?」

 

「した覚えなんてありません!」

 

確かにそうだ。

彼が自分達のチームに加わってから、聖星は誰かと一緒に行動をするのが殆どだった。

仮に聖星がセキュリティに追われるような事をすれば、遊星達の中の誰かが気が付くはず。

遊星は近くにあった古いシーツを聖星の頭にかぶせ、庇うように前に出る。

 

「遊星さん?」

 

「俺の後ろから出るな。

良いな?」

 

「だけど……」

 

「遊星」

 

「鬼柳」

 

「俺が時間を稼ぐ。

その間に聖星を連れて逃げろ。

集合場所はB.A.D地区だ」

 

「……すまない」

 

「良いって事よ」

 

軽く手をあげた鬼柳は窓から飛び出し、ゆっくりとセキュリティへ歩み寄る。

突然出てきた少年に、1人の男が手元にある資料と少年を見比べる。

そして、彼が首を横に振るとセキュリティはデュエルディスクを構えた。

 

「ちょっと待て、何故聖星を連れて行こうとするんだ!

あいつが何かしたっていうのか!

もしそうならそれは何かの間違いだ!」

 

「君は確か鬼柳京介だったね。

悪いが、君には関係のない話だ」

 

「何だと!」

 

外から聞こえる会話を背に、遊星は聖星の手首を掴む。

聖星はこの場にいる皆に視線で本当に良いのかと問うが、返ってきたのは小さな頷きだけだ。

自分ではどうしようもない事に聖星は顔を歪め、大人しく後についていく。

 

「裏口も抑えられてるな」

 

「という事は、地下しかないか」

 

「あぁ」

 

ジャックの言葉にクロウは頷き、ベッドの下にある隠し通路の扉を開けた。

もしもの時に作っていたのが役に立つとは、嬉しいような悲しいような、複雑な気分である。

物音を立てないように外に出ると、誰かの気配はなかった。

その事に安堵し、階段を上り切った。

すると、先程と同じように聖星達を無数の光が照らす。

 

「どうも、3日ぶりですね。

不動聖星さん」

 

「イェーガー……」

 

雨の音をかき消し、雨を薙ぎ払う力強さを持つヘリコプターからイェーガーが下りてくる。

綺麗に着地した彼は相変わらずの胡散臭い笑顔を見せてくれた。

 

「ピエロのような男……

貴様、以前聖星がデュエルしたという男か!」

 

「えぇ。

イェーガーと申します、どうぞ、お見知り置きを。

尤も、今後貴方達と関わる事はないと思いますが」

 

手を腹部に添えて深くお辞儀をする仕草に、ジャックは顔を歪める。

遊星はあの時の男の登場に目を鋭くさせ、聖星の前に立った。

 

「シティの人間が何の用だ」

 

「この度は治安維持局からの命令で聖星さんを迎えに来ました。

さ、聖星さん、どうぞこちらへ」

 

「え?」

 

まさかの言葉に、聖星は自分の耳を疑った。

何故シティの治安を守るのが主な仕事の治安維持局が自分に目をつけるのだ。

いや、イェーガーから接触があった時点で目をつけられていたという自覚はあった。

だが、何故自分を連れて行こうとするのだ。

 

「どうして聖星を……」

 

「別におかしいことではありませんよ。

シティの人間を保護するのも我々、治安維持局の役目です」

 

「シティの?」

 

「待てよ、じゃあ聖星はシティ出身だっていうのか!?」

 

「えぇ。

聖星さんは今から数か月前に誘拐され、それ以降行方不明でした。

犯人は捕らえましたが既に聖星さんは海に突き落とされたあと……

その時味わった恐怖は相当のものでしょう。

まさか記憶喪失になっていたなんて」

 

わざとらしく振る舞う姿に、聖星は噛みつこうとする。

何故そんな嘘を平然と並べることが出来るのだ!

だが、イェーガーが言った通り、聖星は表向きには記憶喪失という扱いになっている。

彼の言葉を否定する事が出来ないため、強く拳を握り締めた。

その拳の震えをどう判断したのか、遊星はイェーガーを睨みつけて前に出た。

 

「おや、邪魔をするつもりですか?

シティには彼を待っているご両親とご兄弟がいるんですよ?

まぁ、貴方様と違って血の繋がりはありませんがね」

 

「っ!」

 

家族が待っているとう言葉に遊星の瞳が揺れる。

イェーガーの言う通りならば、当然聖星には家族がいるはずだ。

ましてや誘拐されたという話だ、彼等が今の時間をどのように過ごしているのか簡単に想像できる。

 

「聖星さん、お兄様と再会出来て嬉しい気持ちは理解できます。

ですが、我々も仕事です。

仮に貴方が拒むようでしたら無理矢理にでも連れていきますよ。

勿論、邪魔をする方には容赦いたしません」

 

「っ!」

 

つまり、大人しく来なければ遊星達の身の安全は保障できないということ。

聖星は自分の前に出ている3人の背中を見る。

ゆっくりと息を吐いた彼は遊星達の間を通り、イェーガーの元へ行く。

 

「聖星!?」

 

「おい、待てよ!」

 

「貴様、前に出るな!」

 

真っ直ぐとイェーガーに歩もうとすれば、行く手を阻むかのように遊星達が手を伸ばす。

だが、それより先に近くに潜伏していたセキュリティが3人を取り押さえた。

離せと叫んでいる彼らの様子に、聖星は振り返らずにイェーガーの前に立った。

 

「幾つか条件がある」

 

「何でしょう」

 

「こんな形で俺と彼らを引き離したんだ。

今後、俺を取り戻すために皆がセキュリティに何かするかもしれない。

その際の彼らの罪を不問にしろ。

もっと穏便に事を運べる方法があるのにこんな手段をとったんだ。

それくらい良いだろう?」

 

「良いでしょう。

サテライト担当の者に、今後、彼らの事は不問にするよう伝えておきます」

 

「交渉成立だな」

 

後ろで暴れている彼らに振り返り、聖星は謝罪するように目を伏せ、そのままヘリコプターに乗り込んだ。

 

END




おい、遊星と一緒にシティに行くんじゃなかったのかよ(セルフ突っ込み)

これから2年間、確かに絆をはぐくむのも良いけど、2年間離れ離れになって「絶対に弟を取り戻す」と燃える遊星も良いかなぁと
なんか、これだとジャックが【スターダスト】を盗んでシティに行っても、裏切り者扱いされないかもしれない

【悲劇の喜劇】って、対象を取るのか取らないのか分からない
私は対象を取るか、取らないかの判断は『選択』『選んで』でしています
コンマイ語分からない……
誰か教えてください……

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