遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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こんにちは。
今回のお話は漫画版のキャラクターが出てきます。
と言っても出番は今回だけですが(笑)


第七話 一時休戦はトリガーである

「手札から魔法カード【ミラクル・フュージョン】を発動!」

 

「あ」

 

オシリス・レッド寮の前でデュエルしている聖星と十代。

あの日以降、1日に最低1回は十代にデュエルをしようと誘われデュエルをする日々が続いている。

十代は日によって変わる聖星のデッキと戦うのが楽しくて仕方なく、また、聖星もどんなピンチでも脅威のドロー力で逆転のチャンスを掴む十代とのデュエルが楽しくて仕方がない。

見た事もない魔法使い族。

驚異のドロー運。

逆転されるか、されないか。

スリルのあるデュエルに2人は夢中なのだ。

 

「墓地の【クレイマン】と【スパークマン】を融合し、【E・HEROサンダー・ジャイアント】を融合召喚!」

 

「はぁ!」

 

「【サンダー・ジャイント】の効果発動!

手札を1枚捨てる事で、このカードの攻撃力より元々の攻撃力が低いモンスターを破壊する!」

 

「俺の場には攻撃力3600の【魔導戦士フォルス】……

元々の攻撃力は1500」

 

「【サンダー・ジャインアト】の攻撃力は2400だ。

行くぜ【サンダー・ジャイアント】、ヴェイパー・スパーク!!」

 

十代の場に融合召喚された【サンダー・ジャイアント】の体から電気が発せられ、それは【フォルス】に向かって行く。

相手モンスターからの電撃に【フォルス】は悲痛な悲鳴を上げて砕け散った。

これで聖星の場には【魔導書廊エトワール】と【魔導書院ラメイソン】しか存在しない。

 

「【サンダー・ジャイアント】で聖星にダイレクトアタック!

ボルティック・サンダー!!!」

 

「うぁあああっ!!!」

 

【フォルス】を破壊した電撃がそのままの勢いで聖星を襲い、彼のライフを削り切る。

勝負がついた事でソリッドビジョンはゆっくりと消え去り互いにデュエルディスクの電源を切る。

 

「あぁあ。

今日は俺の負けか」

 

「へへん。

やっと白星更新したぜ!」

 

毎日デュエルしている2人の勝敗は凄まじい事になっており、今のところ聖星は54戦中29勝25敗である。

僅かな差で負け越している十代はその差が縮まった事に喜んでいた。

 

「本当、十代って強いよなぁ。

どんなにピンチになっても逆転のカードを引くし。

これがドロー運って奴か?」

 

「へへん、運も実力のうちさ」

 

「違いない」

 

「それで、今日はどんなデッキだったんだ?」

 

「今日は【魔導】と名のつく下級の魔法使い族モンスターだけのデッキだ」

 

「そういや、1体も上級モンスターが出なかったな」

 

聖星が召喚したのは有名どころでいえば【魔導戦士ブレイカー】。

他には【魔導剣士シャリオ】と【魔導戦士フォルス】、【魔導弓士ラムール】等を使っていた。

【魔導書】を発動して【魔導老士エアミット】と【フォルス】の攻撃力を大幅にあげ、殴るという実に単純な構築だ。

 

「(次はどんなデッキを作ろうかなぁ。

偶には別の種族を混ぜた【魔導書】も面白そうだよなぁ。)」

 

【魔導書】は魔法使い族モンスターのサポートカードが豊富なため自然と魔法使い族モンスターばかりになってしまう。

だがサポートとしてなら別の種族を入れても良いだろう。

新しいデッキ構築を考えながら聖星は十代と楽しそうに笑いあいながら食堂に向かう。

 

「あ、聖星君、聖星君。

丁度いいところに居たんだにゃ」

 

「あ、大徳寺先生」

 

「俺に何か用ですか?」

 

扉を開けて中に入れば、寮長の大徳寺先生が聖星を手招きする。

彼の膝上ではファラオが気持ちよさそうに眠っている。

椅子に座るよう促され、素直に座った2人は大徳寺を見る。

 

「聖星君と十代君は龍牙先生の事をご存じかにゃ?」

 

「龍牙?」

 

「教育実習の先生ですよね」

 

「そうですにゃ」

 

自分達が入学してから数日後、このアカデミアに実習生としてやってきた男性。

聖星と十代も何度か彼が教鞭を執っている授業に出た事もある。

 

「このデュエルアカデミアの教師の採用基準の1つに生徒と50回デュエルをするというものがありますにゃ。

それで龍牙先生が聖星君を対戦相手に指名してきたんですにゃ~」

 

「え?」

 

「マジかよ!?

すげぇじゃねぇか、聖星!

教育実習の先生に指名されるなんてさ!」

 

聖星はいまいち事情が呑み込めていないのか、首を傾げてきょとんとしている。

それに対し十代は自分の事のように興奮して聖星を大きく揺らした。

はっきりと反応に違いがある教え子に大徳寺先生は微笑んで言う。

 

「日時は明日の放課後にゃ。

聖星君、相手は連勝中のデュエリスト。

頼んだにゃ」

 

「あ、分かりました」

 

**

 

同時刻、アカデミア内のとある実技教室。

そこには2人の人間が対峙していた。

1人は万丈目と共に行動している取巻太陽。

もう1人は教育実習生としてアカデミアに来ている龍牙。

龍牙の場には巨大な恐竜のモンスターがおり、それに対し取巻の場にはほとんどカードがない。

 

「(そんな、何でだ……)」

 

「私のターン、ドロー」

 

静かに発せられた龍牙の言葉に取巻は顔を上げる。

彼の顔色は悪く、頬に冷や汗が伝っている。

明らかに動揺している様子で普通なら対戦相手も気にかけるはずだ。

しかし龍牙はそんな事など知るか、とでも言うように淡々とデュエルを続ける。

 

「(くそっ!

何で魔法カードが使えないんだよ!??)」

 

「【サイバー・ダイナソー】でダイレクトアタック」

 

「っ!!!」

 

容赦なく宣言された言葉に取巻はフィールドのモンスターを見上げる。

自分達より数倍の大きさを誇るモンスターは、その姿に違わず荒々しく突進してくる。

その攻撃力は自分のライフをはるかに上回り、モンスターが自分に凶暴な牙を向けた瞬間彼は大きく顔を歪めた。

 

**

 

「全く、何で教室に教科書一式忘れるんだよ」

 

「わりぃ、わりぃ」

 

「はぁ、僕も呆れちゃうっすよ」

 

今日の授業が終わり、さて皆で課題をしようと聖星が言い出した時だ。

十代が教室に教科書と筆記用具を忘れてしまったのだ。

よくあれほどの荷物を忘れる事が出来ると別の意味で感心しながら聖星達は廊下を歩く。

 

「ふざけるなよっ!」

 

「ん?」

 

「何だ?」

 

不意に前から聞こえた怒鳴り声。

しかもあの声は自分達が知っている人物のものだ。

3人は怪訝そうな表情を浮かべながらも好奇心が勝ったのか忍び足で様子を伺う。

 

「君もしつこいね。

悪いが私は会議に出席しなければいけないんだ。

用があるのなら後日にしてくれないか」

 

「そんな事言って逃げるつもりかっ!?」

 

「おい、あれって……」

 

「オベリスク・ブルーの取巻と龍牙先生だ」

 

「何であんなに揉めてるんすかね?」

 

廊下の前にいるのは万丈目と共に行動している取巻と、明日聖星とデュエルする予定である龍牙先生だ。

取巻は顔を真っ赤にしながら龍牙先生に噛みつき、それを龍牙先生は鬱陶しそうにしている。

取巻はエリート気取りで、自分より格下の相手を見下す事はあるが目上の相手にたてつくような人物ではない。

その彼が教育実習生とはいえ先生に対し激しい態度でつっかかるのは珍しいとしか言いようがなかった。

 

「これ以上は時間の無駄だ。

早く寮に帰りたまえ」

 

「俺のカードを奪っておいて何を言っている!!」

 

取巻の言葉に聖星達は大きく目を見開き自分の耳を疑った。

すると十代の表情が一変して出て行こうしたが、それを察した聖星が十代の腹に一撃放つ。

痛みのあまり言葉を失った十代は地に伏せ、翔は聖星から3歩ほど離れた。

 

「奪うだなんて野蛮な言葉を言うね。

私はただ譲ってもらった。

それだけだ」

 

「俺は一言も譲るなんて言ってない!!」

 

「どういう事だ、取巻」

 

「っ!

お前ら……」

 

「おや……」

 

熱くなりすぎて言葉が乱暴な取巻に声をかけた聖星はゆっくりと彼の隣まで歩み寄る。

龍牙先生は聖星、そして地に伏せている十代と翔に目をやる。

聖星は微笑みながら龍牙先生に軽く頭を下げて尋ねる。

 

「取巻。

今の話、本当か?」

 

「なっ!

お前なんかには関係ないだろっ!」

 

「関係あるって。

だって俺は明日、龍牙先生とデュエルするんだからな」

 

それでも関係ない、と自分のプライドのために叫ぼうとしたが先に龍牙先生が口を開く。

 

「明日……

ほほう、それなら君があの【ブラック・マジシャン】使いの不動聖星君か」

 

興味深そうにじろじろ見てくる彼に対して聖星は心の中で呟いた。

あぁ、この先生も誤解している人間か、と。

彼の口から放たれた言葉に聖星は苦笑を浮かべたかったが、内容が内容だ。

すぐに笑みを消して真剣な眼差しで尋ねる。

 

「それで龍牙先生。

取巻君からカードを奪ったという話は本当ですか?」

 

「先程の話を聞いていたのかい?

それは取巻君の言いがかりさ。

私はカードコレクターでね。

レアカードには目がなく、彼が私の持っていないカードを持っていたから譲ってもらっただけだ。

ただ名残惜しいのか……

このように返せと言ってくるのだよ」

 

「ふざけるなよ、あんたっ……!!」

 

白々しく言葉を並べる龍牙先生と、さらに顔を真っ赤にする取巻。

深くまで取巻の事を知っているわけではないが、先ほども記述した通り彼は基本的に目上には逆らわない。

それなのに逆らっているという事は取巻の言葉が真実と考えるのが普通だろう。

冷静に判断しながら聖星は龍牙先生を睨みつける。

 

「大変失礼ですが、取巻君は目上の方に対して礼儀正しい人です。

その彼がここまでするなんて、彼の言っている事が本当としか思えません」

 

「……お前」

 

慎重に言葉を放つ聖星に、取巻は信じられないような目を向けた。

確かに自分が言っている事は事実だが、会うたびに嫌悪感を示し、そしてこの間は見捨てた自分の言葉を信じるとは思わなかったのだ。

そんな聖星に対し、龍牙先生は話にならないとでも言うように肩をすくめる。

 

「そういえば不動君。

実は君が持っている【ブラック・マジシャン】のカードなんだが、私に譲ってもらえないか?」

 

「は?」

 

「先ほども言った通り私はカードコレクターだ。

それに君はオシリス・レッド。

もしここでカードを譲ってくれれば、君の成績を多少多めに見てあげよう」

 

【ブラック・マジシャン】はあの伝説のデュエリスト、武藤遊戯の代名詞ともいえる魔法使い族。

元々レアカードだったが、デュエルキングが使用していたという理由でさらに高騰してしまい、持っているだけでかなりのステータスになる。

カードコレクターならまさに喉から手が出る程欲しいカードだろう。

紳士的に振る舞っているが下心が隠れていない瞳に聖星は微笑みながら断言した。

 

「お断りします」

 

「不動君。

今私はこう言ったはずだ。

来年、君の成績を大目に見てあげると。

オシリス・レッドである君にとっても損な話じゃないだろう?」

 

オシリス・レッドは成績がギリギリラインの生徒達を集めたもの。

だから聖星の成績もかなり下だと思い、このように言うのだろう。

生徒からカードを奪い、さらには成績に対して甘くする代わりに自分が所持しているカードまで寄越せと言ってくるとは。

勝手に勘違いして自分の最低な人格を披露している事に気付いていないのだろうか。

怒りと同時に呆れもしたが、次の言葉でその感情は吹っ飛んだ。

 

「あぁ、【ブラック・マジシャン】だけではなく【魔導書】シリーズも譲ってほしいものだ」

 

「っ!!」

 

瞬間、龍牙先生の胸ぐらを掴み彼を壁に叩きつけた。

力いっぱい叩きつけたため、激しい音と苦しそうな声、驚く十代達の声が響いた。

しかしそんなもの今の聖星には関係ない。

聖星は苦しそうに顔が歪む龍牙先生を見上げ、低い声でゆっくりと言う。

 

「いい加減にしろよ、あんた。

【魔導書】をよこせ?

誰が貴様のような下衆にあいつらを渡すかよ」

 

あのカード達は聖星にとってとても思い入れが強い存在だ。

聖星は1年以上前、右も左もわからない異世界へと飛ばされた。

両親も、友人もいない。

デッキもない。

【星態龍】以外何もなかったあの世界がどれほど恐怖だったか。

だが【魔導書】のデッキを手にした事でシャーク、璃緒、遊馬、小鳥、カイト達と繋がりを持てた。

何も分からなかった自分を導いてくれたのだ。

そんな大事なカードをこんな奴が軽々しく譲れと言うなど、耐えられるわけがない。

聖星のそんな過去を知らない十代達はすぐに2人を引きはがす。

 

「落ち着けって、聖星!」

 

「聖星君、いくらなんでもこれは不味いよ!」

 

十代が聖星の腕をつかみ、翔が龍牙先生と聖星の間に入る。

2人の言葉にゆっくりと冷静を取り戻したが、それでもこの怒りは治まらない。

 

「ケホッ……

いい加減にしろよ、レッド如きのガキが……

こんな事をしてどうなるか分かっているのか?」

 

未だに咳き込んでいる龍牙は聖星を睨みつける。

まさかいきなりこんな事をしてくるとは思わず、一瞬だが本当に呼吸が止まってしまった。

せっかく自分が正式に教師になったら成績を大目に見てやろうというのに、暴行を加えるとは。

 

「随分と面白い事になっているようだな」

 

「ん?」

 

「あ、万丈目さん!」

 

振り返れば不敵な笑みを浮かべている万丈目が立っていた。

彼はいつものように極悪な笑みを浮かべながら聖星と龍牙先生の前に立つ。

 

「事情が事情です。

龍牙先生、聖星、すぐに校長室に行きませんか?」

 

**

 

「(アバババ、大変な事になってしまったノ~ネ!)」

 

万丈目の言葉に素直に従い、校長室には龍牙先生、聖星、取巻、クロノス教諭。

そして真剣な表情を浮かべた鮫島校長がいた。

聖星達が突然訪れたと思えばまさかの暴行、カードの強奪等の問題を話されてしまい、驚きを隠しきれなかった。

 

「成程、事情は分かりました。

龍牙君。

君は取巻君のいう事は言いがかりだと言うのですね?」

 

「はい。

私は取巻君ときちんと話をつけてカードを譲ってもらいました」

 

「っ!!」

 

校長の目の前でも白を切るつもりの龍牙先生を取巻は強く睨みつけた。

あまりにも剣幕な表情に鮫島校長とクロノス教諭は思わず龍牙先生を見た。

 

「です~が、シニョール取巻は嘘を言わない生徒でス~ノ。

それはオベリスク・ブルー寮長である私が保障しマ~ス」

 

クロノス教諭だって仮にも教師である。

十代のような気に入らない生徒を陥れようとしたことはあっても、生徒を愛し、生徒を信じる面を持つ。

しかも自分が自信を持って育ててきたブルーの生徒が被害に遭ったと叫んでいるのだ。

自然と厳しい眼差しを向けてしまうが龍牙先生は涼しい顔である。

 

「百歩譲って私が取巻君からカードを無理矢理奪ったとしましょう。

それを証明する方法はありますか?」

 

「………………」

 

龍牙先生の言葉に黙り込む校長。

確かに彼の部屋から取巻のカードが出てきても、譲ってもらったと主張している限り奪われたものだと証明するのが難しい。

取巻もそれが分かっているのか悔しそうに顔を歪める。

 

「それでは、不動君。

君への処罰ですが……」

 

「……はい」

 

事情が事情とはいえ、暴行を加えたのは事実。

退学になってしまう可能性はある。

 

「君には龍牙君とデュエルを行って頂きます」

 

「へ?」

 

「こ、校長!?

何故こんなオシリス・レッドと私が!」

 

「本来なら不動君は退学処分です。

しかし、君が龍牙君に暴力を振るったのは友人を傷つけられ、さらには君の命と言えるカード達を譲ってほしいと言われたため。

デュエリストとしては理解できます。

ですから救済措置として彼とデュエルして頂きます。

勝てば反省文20枚、負ければ退学処分となります。

よろしいですね?」

 

2人に確認はするが、異論は認めないと目で言っている鮫島校長。

彼の言葉に聖星は微笑み小さく頷いた。

 

**

 

「聖星!」

 

「聖星君!」

 

「十代、翔」

 

校長室から解放され、レッド寮に戻った聖星。

部屋の前には十代と翔が心配そうな表情で立っており、すぐに駆け寄ってくる。

相当心配させたようで2人の顔色はとても悪く、翔なんて真っ青だ。

自分の事でもないのにここまで心配してくれるとは何だか少し照れくさい。

 

「大丈夫かよ、お前」

 

「聖星君、一体どうなっちゃうんすか?」

 

「明日、予定通り龍牙先生とデュエルする」

 

「「デュエル??」」

 

「制裁デュエルをするって事さ。

もし負けたら退学。

勝てば残れる」

 

実に話しの分かる校長で良かった。

しかし聖星がする事は何1つ変わらない。

ただ目的が変更しただけ。

すると懐に仕舞っている生徒手帳が震え始め、聖星はすぐに取り出した。

 

「あ、メール」

 

「誰からだ?」

 

「取巻から」

 

「へ?」

 

これは何とも意外な人物からのメールだろうか。

先程の事に関するメールだというのはすぐにわかり、聖星は早速開いた。

 

『あんな事してお前バカだろう?

理由が理由でも暴力振るうってのはバカのする事だ

我慢って言葉を知らないのか?

とうぶんの間、お前は不良って言われるだろうな。

うっとうしいお前にはお似合いだぜ!』

 

挨拶も何もない侮辱のメールの内容に、聖星のメール画面を覗き込んでいる十代と翔は眉間に皺を寄せた。

何だこの内容は。

聖星は取巻の事を信じ、龍牙先生に意見を言い、このような問題まで起こしてしまったのだ。

切っ掛けを作ってしまった本人として他に書く事があるだろう。

 

「我慢を知らない?

デュエリストが自分のカードの事で怒って何が悪いんだよ!」

 

「……僕、やっぱり彼らの事好きになれないっす」

 

「まぁまぁ。

ただ素直になれないだけだろう」

 

「これのどこに素直になれないって解釈する要素があすんすか!?」

 

「縦読み」

 

「え?」

 

「1番最初の文字を縦読みしてみろよ」

 

画面を再び見せる聖星。

2人はすぐに文章の最初の文字を読む。

それが理解できたのか十代と翔は「ツンデレ……??」と同時に呟いた。

聖星は微笑みながら返信するために何と書こうか考えた。

 

**

 

それから一夜明け、デュエルフィールドには聖星と龍牙先生が立っている。

十代と翔は心配そうに1番前に座っており、取巻は少し離れた場所にいた。

彼ら以外にも観客はいるが、それは聖星と顔なじみの明日香と鮫島校長、クロノス教諭だった。

 

「「デュエル!!」」

 

「俺のターン、ドロー。

俺はモンスターをセット、カードを3枚伏せてターンエンドだ」

 

先攻を得た聖星は特に動くこともなく、カードだけを伏せた。

そんな単純な行動に龍牙先生は特に何かを言うわけでもなく鼻で笑う。

所詮オシリス・レッド。

良いカードが来なく、ブラフでカードを伏せたのだろう。

そんな2人のデュエルを明日香は上から観戦している。

 

「聖星が制裁デュエルをしているそうだな」

 

「亮」

 

背後から聞こえた上級生の声に明日香は振り返り、少しだけ目を見開いた。

明日香は十代からこの情報を得た。

しかし聖星とあまり関わりのないカイザーがこのデュエルの本当の目的を知っているとは思えない。

どうして知っていると視線で問いかければ彼は無表情のまま言った。

 

「クロノス教諭から聞いた話だ。

生徒からカードを強奪した龍牙先生に聖星が暴行を加えた、と」

 

「えぇ。

ただでさえ苛立っていた時に自分の大事なカードを譲れって言われたらしいの。

それで聖星は怒って龍牙先生を壁に押し付けちゃったそうよ」

 

「そうか。

確かに、それならアンティールールの容疑がかかっている龍牙先生と制裁デュエルをするのは妥当だな」

 

しかし、クロノス教諭から聞いた話だと龍牙先生が強奪している明確な証拠はない。

仮に聖星が勝ったとしても、彼にどのような処分が下されるのか……

デュエルアカデミアも面倒な人を教育実習生として迎え入れたものだ。

 

「ククッ……

私のターン、ドロー。

私は手札から魔法カード【化石調査】を発動する」

 

いつものように余裕な笑みを浮かべながらカードを引く龍牙先生。

彼は手札に加わったサーチカードをすぐに発動した。

 

「このカードはデッキからレベル6以下の恐竜族モンスターを手札に加える事が出来る。

私は【ハイパーハンマーヘッド】を加えて、通常召喚」

 

「ぐぉおお!!」

 

彼がデッキから手札に加えたのはレベル4の恐竜族モンスター。

召喚されると独特な頭を持つ恐竜は雄叫びを上げて聖星を見下ろす。

その攻撃力は1500

 

「【ハイパーハンマーヘッド】で裏側守備モンスターに攻撃!」

 

恐竜に恥じぬ勢いでフィールドを揺らし、自慢のハンマーとなっている頭で守備モンスターに突撃する。

すると裏側守備表示だったモンスターが光を発しながら表側表示になる。

そこにいたのは青白い肌を持つエルフだ。

 

「俺が守備表示にセットしたのは【ホーリー・エルフ】です」

 

「【ホーリー・エルフ】!?

武藤遊戯が使用したカードか!」

 

「守備力は2000

【ハイパーハンマーヘッド】より500高いから、500ポイントの反射ダメージを受けてもらいます」

 

「くっ」

 

突撃した【ハンマーヘッド】だったが、【ホーリー・エルフ】の周りに張られている聖なる結界にはじかれ龍牙先生のフィールドに吹き飛ばされる。

勢いよく吹き飛ばされた巨体は突進時以上の衝撃で落下した。

しかしすぐに起き上がり、もう1度【ホーリー・エルフ】に突撃する。

 

「だが、【ハイパーハンマーヘッド】の効果発動!

このカードが戦闘で相手モンスターを破壊できなかった時、相手モンスターを手札に戻す!」

 

仕返しだ!と言わんばかりの速さで【ホーリー・エルフ】に頭突きをする。

それも結界に阻まれるが何度も頭突きを繰り返した。

とうとうあまりにもの乱暴さに彼女は驚き、慌てて聖星の手札に帰っていく。

 

「カードを2枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー」

 

ライフを削られたとはいえ、相手の伏せカードは一切発動されていない。

やはりただのブラフだったのだろう。

そう結論付けた龍牙先生は思い出す。

 

「(不動聖星。

アカデミア内では【ブラック・マジシャン】使いと有名だが、デュエルをするたびにデッキのモンスターを変えている。

だが、デッキの軸になっている魔法カードは全く変わっていない……)」

 

軸となっている魔法カードを封じてしまえば、彼のデッキに戦う力はないも同然である。

怪しい笑みを浮かべた龍牙先生は、自分の大事な大事な指輪を見る。

 

「(対策はさせてもらったさ、しっかりとな。)」

 

「俺は手札から【テラ・フォーミング】を発動。

デッキからフィールド魔法、【魔法族の里】を手札に加えます」

 

「なっ!?」

 

聖星が発動したのはデッキからフィールド魔法を加える通常魔法カード。

加わったのはまるで妖精がすむような可愛らしい住処がある森の中を描いているもの。

目を見開いて驚きの声を出す龍牙先生に聖星は笑みを浮かべる。

 

「おや、流石は教育実習生ですね。

【魔法族の里】をご存知で」

 

「あ、あぁ。

仮にも私は来年ここの教師になる人間だからね」

 

「校則違反のアンティールールをしている実習生がなれると本気でお思いで?」

 

「心外だな。

私はただ譲ってもらっただけだ」

 

「だったらこのアカデミアのセキュリティを任されている会社から、その時の監視カメラの映像を見せてもらいますか?

それを見ればしっかりと映っていると思いますよ。

……生徒からカードを奪うあなたの姿がね」

 

聖星の言葉に龍牙先生はハッとする。

そして一瞬だけ眉間に皺を寄せ、焦ったような表情を浮かべた。

鮫島校長はクロノス教諭と何かを話し、クロノス教諭は席を立つ。

一方、聖星の発言を聞いた明日香は十代に電話する。

 

「ねぇ、十代。

もしかして聖星……」

 

「おう。

凄かったぜ」

 

昨晩、龍牙先生の不正の証拠を集めようと聖星はPCでハッキングをしたのだ。

手慣れた操作で次々と映像を探す姿は流石としか言いようがなかった。

しかも証拠になる映像はなんと2桁もあり、彼の非道さが伺えてしまった。

 

「だったらそれを校長先生に見せたら……

ハッキングしたのがばれて別の問題が出るわね」

 

「ハッキング?」

 

「いえ、何でもないわ」

 

明日香の口からこぼれた言葉にカイザーは怪訝そうな表情を浮かべる。

すぐに彼女は作り笑顔を浮かべて電話を切った。

一方、監視カメラの映像の事に気づいた龍牙先生は別の理由でも動揺していた。

 

「(何故だ、何故魔法カードが発動できる!?)」

 

そう、龍牙先生は自分の持つ指輪から特殊な電波を発して相手のデュエルディスクの機能を低下させていた。

その結果、彼の対戦相手は全員魔法カードを使用することが出来ず敗北してしまった。

だから魔法カードを主軸とする聖星にも有効な手段だと思い、装置を作動したのだが……

聖星は魔法カードを発動できている。

信じられない現実に龍牙先生は大きく舌打ちした。

 

「手札からフィールド魔法【魔法族の里】を発動。

そして【魔法剣士ネオ】を攻撃表示で召喚」

 

ソリッドビジョンの光が新しいフィールドを作り出し、神秘的な空間へと変わる。

そのフィールドに金髪の青年剣士が姿を現した。

【ネオ】は持っている剣を抜き、【ハイパーハンマーヘッド】に向ける。

 

「手札から魔法カード、【一時休戦】を発動。

互いにデッキからカードを1枚ドローします」

 

すると場に1人の侍が現れ、彼は兜を脱いだと思ったら深く椅子に座り一息をつく。

そして互いにデッキを1枚ドローした。

 

「そして貴方がドローした瞬間、永続罠【便乗】を発動」

 

「【便乗】?

随分と扱いにくいカードを使うな」

 

「決まれば怖いですよ。

なんたって毎ターン【強欲な壺】を発動しているようなものですから」

 

現れたのは2人の男が目の前にある金貨を見て笑っているカード。

このカードは相手がドローフェイズ時以外にカードをドローした時に発動できる。

その後、相手がドローフェイズ時以外にドローした時自分のデッキからカードを2枚ドローするのだ。

ただ相手にカードを引かせるカードが少なく、発動するタイミングと自分がドローするタイミングにずれがあるため使い辛いとされている。

 

「俺は手札から【カップ・オブ・エース】を発動。

コイントスをし、表だったら俺が2枚、裏だったら先生が2枚ドローします」

 

ポケットから取り出したのは1枚のコイン。

聖星はそれを指ではじき、ゆっくりとコインを見上げた。

そして落ちてきたコインを手の甲に取り、コインをゆっくりと見る。

 

「裏、ですか。

どうぞ2枚ドローしてください。

しかしこの瞬間、【便乗】の効果により俺も2枚ドローします」

 

「ちっ。

表が出ようが、裏が出ようが君はカードをドロー出来るという事か」

 

「そういう事です」

 

龍牙先生がカードをドローすると聖星もドローし、手札に加える。

 

「手札から魔法カード【グリモの魔導書】を発動します。

デッキから【魔導書】と名のつくカードを1枚加える。

俺は【ヒュグロの魔導書】を手札に加えます」

 

1冊の淡い紫色の本は一瞬で燃えるような赤色となり、聖星の手に収まる。

【ネオ】は戦いたくて仕方がないのか、何度も聖星をチラチラとみる。

随分とせっかちな性格だなと思いながら微笑み静かに宣言した。

 

「バトルフェイズ。

【魔法剣士ネオ】で【ハイパーハンマーヘッド】に攻撃。

そして罠発動、【マジシャンズ・サークル】」

 

ディスクのボタンを押すと、六芒星が描かれているカードが表側になる。

このカードは互いのデッキから攻撃力2000以下の魔法使い族モンスターを攻撃表示で特殊召喚する効果を持つ。

 

「俺は攻撃力1900の【ジェミナイ・エルフ】を特殊召喚」

 

「私のデッキに魔法使い族は存在しない……」

 

「それならデッキを公開してください」

 

「何!?」

 

「え?

何を驚かれているのですか?」

 

あまりにも大袈裟に目を見開く龍牙先生に聖星はきょとん……と首を傾げた。

自分は何かおかしな事を言っただろうか?

あ、もしかするとこのカードの効果をちゃんと把握していないのかもしれない。

そう思った聖星は言いなおす。

 

「【マジシャンズ・サークル】の特殊召喚効果は強制効果です。

もしデッキに対象となるモンスターが存在しなければ、相手にそれを確認させるためデッキを公開するルールになっています」

 

「そんな事、出来るわけがないだろう!」

 

「出来るわけがない、って……

それじゃあ反則ですよ。

この勝負、俺の勝ちになります」

 

「なっ、何故そうなる!?」

 

龍牙先生の言葉に聖星は開いた口が塞がらなくなってしまう。

え、本当にこの人は何を言っているのだ?

信じられないものを見るような目をした聖星は恐る恐る尋ねた。

 

「何故って……

え、龍牙先生、本当にデュエルアカデミアの教師を目指しているのですよね?」

 

「貴様、バカにしているのか?」

 

「あ、すみません。

だってルールに従わないから反則負けになるのに、それを理解できない貴方の頭脳に驚いて……

普通これくらいアカデミアの生徒でも分かりますよ」

 

一応言っておこう。

聖星は別に嫌味を言うためにこの言葉を並べていない。

心底そう思っている事を言っているのだ。

しかし相手である龍牙先生からしてみれば十分な嫌味で額に青筋がたった。

オシリス・レッドの落ちこぼれにここまで言われるなど大人としてのプライドが許さないが、彼の言っている事の方が筋は通っている。

 

「くっそっ……!

これが私のデッキだ!!」

 

やけくそとでも言うようにデッキを公開した龍牙先生。

モンスターは一目見て魔法使い族は存在しない事が分かり、魔法・罠も特定の種族をサポートするカードばかりだった。

あとは【大嵐】、【聖なるバリア-ミラーフォース-】くらいだろう。

 

「デッキの確認は終わりました。

もう良いですよ」

 

「ならば罠カード【狩猟本能】を発動!

相手がモンスターの特殊召喚に成功した時、手札から恐竜族モンスターを特殊召喚する!

私は【暗黒恐獣】を特殊召喚する!」

 

「グォオオオ!!!」

 

【ジェミナイ・エルフ】と【魔法剣士ネオ】の3人を覆う程の巨大な影が現れ、影の主は力強く咆哮を上げる。

漆黒の肉体と鋭い牙、棘のように逆立つ皮膚を持つ大型恐竜。

肉食恐竜の王者ともいえる姿に聖星の魔法使い達に冷や汗が流れる。

 

「……攻撃力2600ですか。

なら俺は【ジェミナイ・エルフ】で【ハイパーハンマーヘッド】を攻撃します」

 

龍牙先生の場に新たなモンスターが特殊召喚した事により、攻撃対象が増え、攻撃の巻き戻しが発生した。

本来なら【ネオ】が攻撃するべきなのだが、聖星はあえて【シェミナイ・エルフ】を選んだ。

 

「【ハイパーハンマーヘッド】の効果発動!

【ジェミナイ・エルフ】を手札に戻してもらうぞ!」

 

「カードを1枚伏せてターンエンドです」

 

「私のターン、ドロー!

私は手札から【俊足のギラザウルス】を特殊召喚する!

そして手札から魔法カード、【大進化薬】を発動!!

【俊足のギラザウルス】を生贄に捧げる事でレベル5以上の恐竜族モンスターに生贄は必要なくなる!」

 

【大進化薬】は場の恐竜族を墓地に送る事で、3ターンの間恐竜族の生贄が無くなるカード。

このターン、龍牙先生はまだ通常召喚を行っていない為最上級モンスターを召喚する事が可能となる。

手札に存在する上級モンスターで魔法使い族を蹴散らそうと考えたが……

いつまでたっても【俊足のギラザウルス】は消えなかった。

 

「…………え?」

 

全く変わらないフィールドに龍牙先生は間抜けな声を出してしまう。

そんな彼に対し呆れるように聖星は説明した。

 

「フィールド魔法、【魔法族の里】の効果」

 

「っ!!」

 

「俺の場にのみ魔法使い族モンスターが存在する場合、貴方は魔法カードを発動できません」

 

「なっ、何だと!?」

 

「魔法カードが使えない!?

なんすかその効果!?」

 

「俺の【HERO】デッキにとっちゃ天敵じゃねぇか!」

 

魔法カードはフルモン等を除けばデッキの多くの割合を占めるカードであり、【魔法族の里】のようなカードはまさに天敵だろう。

しかし【魔法族の里】はあくまで聖星の場にのみ魔法使い族が存在しないと意味がない。

相手の場に魔法使い族が存在すればロックが解けてしまうのだ。

 

「魔法カードが使えないって辛いですよね~」

 

ちなみにこれは意図的な嫌味である。

 

「くっ……!!

私は【俊足のギラザウルス】を生贄に捧げ、【暗黒ドリケラトプス】を生贄召喚!

【ドリケラトプス】で【魔法剣士ネオ】に攻撃!!」

 

「攻撃宣言時にリバースカードオープン、【奇跡の軌跡】。

このカードは俺の場のモンスターの攻撃力を1000ポイント上げ、貴方にデッキからカードを1枚ドローさせます」

 

「なにっ!?」

 

「これで【ネオ】の攻撃力は1700から2700

【暗黒ドリケラトプス】の2400を上回りました。

そして貴方がカードをドローした事で、【便乗】の効果が発動。

デッキからカードを2枚ドロー」

 

【魔法剣士ネオ】に向かって走っている【暗黒ドリケラトプス】。

向かってくる巨大なモンスターに【ネオ】は不敵な笑みを浮かべ、剣を構える。

突進してきた【暗黒ドリケラトプス】をジャンプしてよけ、頭部に剣を突き刺す。

それにより悲鳴を上げながら砕け散り、龍牙先生のライフが4000から3700に減った。

ちなみに【ジェミナイ・エルフ】と【ハイパーハンマーヘッド】との戦闘でライフが削られなかったのは、【一時休戦】に龍牙先生のエンドフェイズ時までダメージを0にする効果があるためだ。

 

「くっ……!!

カードを3枚伏せてターンエンドだっ!」

 

「俺のターン、ドロー。

ところで龍牙先生、【魔導剣士ネオ】のフレイバーテキストはご存知ですか?」

 

「おや、この私の知識を試そうと言うのかい?」

 

監視カメラの映像、聖星が魔法カードを使える、デッキの公開、魔法カードを使用できない。

様々な事が重なり不機嫌が最高潮に達した龍牙先生は普段の紳士的な笑みからかけ離れた表情で返した。

人間とは色々な顔が出来るものだと妙に感心していた聖星は微笑む。

 

「【魔法剣士ネオ】は異空間を旅する剣士です。

彼は様々ない空間を渡り歩き、そして逞しく成長しました。

世界の素晴らしさを知った彼は新たな力を手に入れ、異空間から無事帰還する事が出来たのです。

凄いですよね」

 

「何が言いたい?」

 

「見てれば分かりますよ」

 

聖星の意味深な言葉に十代達は【ネオ】に注目する。

注目を浴びた【ネオ】は誇らしく剣を構えていた。

 

「俺は【魔法剣士ネオ】を生贄に捧げ、【魔法剣士トランス】を生贄召喚!!」

 

【ネオ】は剣先で自分を囲うように円を描き、自分の前に剣を突き刺す。

すると円から激しく光が溢れだし【ネオ】を飲み込んだ。

光は一瞬で砕け散り、中から高貴な鎧、大剣を肩に担ぐ剣士が現れた。

一目見て成長した【ネオ】だという事が分かり、剣士の成長に会場が沸き立った。

 

「攻撃力2600……!

だが罠発動、【奈落の落とし穴】!!

召喚、特殊召喚されたモンスターの攻撃力が1500以上だった時、そのモンスターを破壊し除外する!

よってお前のモンスターには消えてもらう!」

 

「手札から速攻魔法【トーラの魔導書】を発動。

このカードは場に存在する魔法使い族に魔法または罠カードの耐性をつけます。

勿論俺は罠カードを選択」

 

「なにっ!?」

 

【トランス】の足元に異空間に繋がる歪みが現れた。

歪みの登場に【トランス】はどこか懐かしい目をしたが、すぐに【魔導書】の英知を受けて歪みに向かって剣を振る。

すると歪みは真っ二つに裂けてしまい消え去った。

 

「俺は手札から速攻魔法【手札断殺】を発動。

互いに2枚手札を捨て、カードを2枚ドローします。

龍牙先生がドローしたので、【便乗】の効果により俺はさらに2枚ドロー」

 

「次から次へと……!」

 

「魔法カード【グリモの魔導書】を発動します。

デッキから【セフェルの魔導書】をサーチ。

そして【ヒュグロの魔導書】を発動。

【魔法剣士トランス】の攻撃力を1000ポイントアップ。

さらに【セフェルの魔導書】を発動。

俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時手札に存在する【魔導書】を見せる事で、墓地の【魔導書】をコピーします。

俺は【アルマの魔導書】を見せ、墓地に存在する【ヒュグロの魔導書】をコピー」

 

「まさか、攻撃力が2000ポイントも上がるだと!?」

 

【トーラの魔導書】の英知も受けている【トランス】は【ヒュグロの魔導書】の英知まで授かった。

攻撃力は2600から4600まで跳ね上がり、彼の持っている大剣に力強いオーラが纏い始める。

 

「行きますよ。

【魔法剣士トランス】で【暗黒恐獣】に攻撃!!」

 

「はぁっ!!」

 

聖星の声と【トランス】の声が重なり、【トランス】は【暗黒恐獣】を叩ききる。

大型恐竜を一瞬で叩ききった【トランス】は華麗に着地してあるべき場所へと歩み寄る。

彼が歩いている間に【暗黒恐獣】は大爆発を引き起こす。

 

「ぐぁあ!!」

 

爆発によるダメージを受け、ライフは3700から1700まで減った。

 

「【魔法剣士トランス】が相手モンスターを破壊した事で、【ヒュグロの魔導書】の効果が発動します。

このカードで攻撃力が上昇したモンスターが相手モンスターを破壊した時、デッキから【魔導書】を1枚サーチします。

このターン、【魔法剣士トランス】は2枚分の【ヒュグロの魔導書】の効果を得ています。

よって2枚サーチ」

 

「それにチェーンし、【大地震】を発動!

恐竜族モンスターが破壊され、墓地に送られた時相手の魔法・罠ゾーンを3つ使用不可能にする!」

 

魔法・罠ゾーンの使用を封じる。

龍牙先生の言葉に十代と翔は思わず立ち上がった。

 

「やべぇ、聖星のデッキは魔法カードを多用する!」

 

「今、聖星君の魔法・罠ゾーンは【便乗】と伏せカード1枚っすから……

3枚使えなくなったら何にも出来ないっすよ!」

 

聖星のデッキは魔法カードのサポートによって成り立っている。

いくら強力なサポートカードがあっても発動できる場がなければ意味がない。

焦った声で喋る2人に聖星は微笑んだ。

 

「大丈夫だって、十代、翔」

 

「「え?」」

 

「俺は更にチェーンし、カウンター罠【魔宮の賄賂】を発動。

貴方がデッキからカードをドローする事で、魔法・罠カードの発動と効果を無効にします」

 

「なっ!」

 

【大地震】のカードに微かなプラズマが走り、そのまま消滅してしまう。

まさかのカードに龍牙先生は舌打ちし渋々デッキからカードをドローした。

 

「そして俺は【グリモの魔導書】と【ゲーテの魔導書】をサーチ」

 

デッキから加わったのはサーチ効果と多数の効果を持つ【魔導書】。

そして【魔宮の賄賂】の効果により龍牙先生がドローしたことで、カードを2枚ドローした。

なんとか魔法・罠ゾーンの封印を対応する事は出来た。

それにしても先程のカウンター罠の効果を思い出しながら十代は呟く。

 

「しっかし【魔宮の賄賂】か……

相手にドローさせちまうけど、魔法・罠をなんでも無効に出来るってすげぇな。

しかも今回は【便乗】があるからそんなにダメージを受けたようには思えねぇし」

 

「そうっすね。

あれなら【神の宣告】と違ってライフが低くても、相手のカードを無効に出来るっす」

 

「けど1枚のアドバンテージを相手に与えちまうから、使いようだな」

 

「え、そうなんすか?」

 

「だってよ、折角無効にしても相手が引いたカードがそれ以上に使えるカードだったら意味がないだろう」

 

十代の言葉に翔は首をかしげる。

何か分かりやすい例はないかと思いながら、十代は自分の場合を例えた。

十代の【融合】の発動に対し聖星が【魔宮の賄賂】を発動したとしよう、しかしドローしたカードが【ミラクルフュージョン】ならば、すぐに十代の場にモンスターが特殊召喚される。

このように1枚のカードで状況が逆転されるかもしれないので、諸刃の剣のような気がするのだ。

簡単に想像できた光景に翔はやっと納得した。

2人の会話を聞きながら、聖星達のデュエルを見守っている明日香はカイザーに尋ねた。

 

「ねぇ、聖星はこのターンで何枚デッキからカードを加えたの?」

 

「ドローフェイズ時のドローと、デッキサーチを加えると9枚だな」

 

「……デッキ切れしないか大丈夫かしら?」

 

「彼のデッキが40枚で構成されていると仮定すれば、残りは15枚だ」

 

「15枚!?

ちょっと、5ターン目の枚数じゃないわ!」

 

「俺は手札からカードを2枚伏せ、ターンエンド」

 

「私のターン、ドロー……」

 

ドローしたカードは【ライトニング・ボルテックス】。

手札を1枚捨てる事で相手の表側表示のモンスターを全て破壊できるカードだ。

他のカードを見るも、ほとんどが魔法カードばかり。

しかし今龍牙先生は魔法カードを使えない。

魔法カードを使えないだけでこれだけデュエルがやりづらくなる。

知ってはいたが、される側になると心底腹が立つものだ。

 

「くそっ!

私は【首領亀】を守備表示で召喚!!

そして【首領亀】の効果発動!!

このカードの召喚に成功した時、手札から同名カードを特殊召喚する!!

私は2体の【首領亀】を守備表示で特殊召喚!!」

 

場に現れたのは甲羅に隠れている亀のモンスター。

自身の効果で次々と同名モンスターが特殊召喚されていく。

3体のモンスターが並んだことに翔は驚く。

 

「3枚も手札にあったんすか!?

運が良すぎるっすよ、あの先生!」

 

「いや~……

これは運っていうより、聖星が龍牙先生にカードを引かせすぎたのが原因じゃねぇの?

だってよ、聖星のやつ【便乗】を使うためにドローカードを5回くらい使ってたぜ。

しかも1枚ドローじゃなくて2枚ドローもあったし」

 

それだけ相手にドローさせておきながら聖星が優勢。

これは【魔法族の里】で魔法カードを封じているためだろう。

そうでなければ龍牙先生も反撃しているはず。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンドだ!!」

 

「エンドフェイズ時にリバースカードオープン、速攻魔法【ゲーテの魔導書】を発動。

俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時、墓地の【魔導書】を任意の枚数除外し効果を発動できます。

俺は【グリモの魔導書】1枚を除外。

貴方の伏せカードを1枚手札に戻します」

 

「くっ!!」

 

「俺のターン、ドロー」

 

龍牙先生の場に伏せカードはまだある。

手札に【グリモの魔導書】はあるため罠カードの耐性をつけるカードをサーチするのは容易だ。

しかし相手が3体もモンスターを並べたのは誤算だった。

まぁ、些細な誤算だが。

ドローしたカードを見た聖星は小さく頷いて発動する。

 

「俺は手札から魔法カード、【大嵐】を発動します」

 

「何!?」

 

「全ての魔法・罠カードを破壊します」

 

目を見開き慌てる龍牙先生に対し聖星は淡々と言葉を並べた。

場に小さく風が吹いたと思ったら凄まじい轟音となり、魔法・罠カードを飲み込んでいく。

成す術もなく巻き込まれたカード達は次々に砕かれ破壊された。

 

「やはり全て魔法カード……

破壊して正解でした」

 

「くっ……!!」

 

破壊したのは【大進化薬】と【エネミーコントローラー】、【テールスイング】だった。

仮に罠カードがあってもフリーチェーンのカードはデッキに入ってなかったので、このタイミングで発動する事はないと予想も出来た。

だがまだ龍牙先生の場には守備表示のモンスターが3体も存在する。

聖星は微笑みカードを発動した。

 

「手札から魔法カード【グリモの魔導書】を発動。

デッキから【トーラの魔導書】をサーチします。

さらに【ブラック・ホール】を発動」

 

「ぶっ、【ブラック・ホール】!??」

 

「このカードはフィールド上に存在する全てのモンスターを破壊します。

あ、【ブラック・ホール】にチェーンして【トーラの魔導書】を発動。

【魔法剣士トランス】に魔法カードの耐性をつけます」

 

「と、いう事は…………」

 

「【トランス】は【ブラック・ホール】の効果で破壊されません」

 

フィールドの中心部に小さな黒色の球体が現れる。

すると球体は急に膨張して凄まじい重力を生み出した。

重力によってモンスター達は引き寄せられ、次々と破壊される。

そんな中【トランス】は真顔で立っており、破壊される【首領亀】を見届ける。

 

「そんな、ばかなっ……!!」

 

自分のライフは残り1700

伏せカードもモンスターも存在しない。

手札から発動できるカードもない。

それに対し聖星の場には攻撃力2600の【トランス】が堂々と立っている。

まさか自分がオシリス・レッドに敗北するなどあり得ない。

受け入れられない現実に顔を歪める龍牙先生に対し、聖星は微笑んだ。

 

「どうですか、龍牙先生。

魔法カードを使えない状況って辛いですよね」

 

わざとらしく魔法カードの部分を強調した聖星は【トランス】に目をやる。

 

「【魔法剣士トランス】でプレイヤーにダイレクトアタック!!」

 

ホール内に響く聖星の攻撃宣言。

【トランス】は強く頷いて大剣を振り上げ、龍牙先生に切りかかる。

勢いよく体を切り付けられた龍牙先生は情けない悲鳴を上げる。

 

「ぐぁああ!!!」

 

瞬間、ライフが0にカウントされソリッドビジョンが消えていく。

デュエルが終わったのを確認した聖星は鮫島校長を見る。

目が合った鮫島校長は優しく微笑み、強く頷いた。

するとクロノス教諭が鮫島校長に小声で何かを話し始める。

穏やかだった鮫島校長の顔がだんだんと強張っていき妙な雰囲気になる。

 

「不動聖星君。

見事なデュエルでした。

このデュエルで見事に勝利を治めたので、君への処罰は不問といたします」

 

「なっ、ちょっと待ってください校長!

こんな危険な生徒をアカデミア内に残しておくのですか!??」

 

鮫島校長は聖星の傍まで近づき、素直に褒め称えた。

当然最後の言葉はフィールドにいる者にしか聞こえない程度の小声でだ。

しかし龍牙先生は立ち上がり声を張り上げて叫ぶ。

彼の言葉に何も知らない生徒達は騒ぎ出す。

 

「(聖星……

この大衆の目の前で自然発火現象なんて面白いと思わないか?)」

 

「(だから止めろって)」

 

余計な事を言いやがって、と【星態龍】は内心毒づき龍牙先生を睨みつける。

聖星は特に気にした様子もなく鮫島校長を見た。

 

「龍牙先生。

非常に残念です。

貴方ほどの優秀なデュエリストなら未来を担う教師になっていただけると思っていました。

しかしそれは上辺だけだったようです。

貴方が学園内で生徒達からカードを強奪しているという証拠を手に入れました」

 

「くっ!!

た、確かに私は許されない事をしたっ!

だが、その小僧も私に暴行を働いた!

その事実は揺るがない!」

 

「その理由が友を傷つけられ、自分のカードを護るためという事も揺るがない事実です」

 

どちらも揺るがない事実。

どちらも許されない罪。

だが、聖星の罪はまだ理解できる事だ。

それでも龍牙先生は引き下がらないようで、鮫島校長は静かに宣言した。

 

「龍牙先生。

後日倫理委員会が貴方の部屋を取り調べます。

貴方にもしかるべき処罰が下されるでしょう」

 

単調とした声だったが重みのある言葉に龍牙先生はその場に膝をついた。

周りの生徒達はまだ騒いでいる。

聖星はそんな彼らを見渡しながら苦笑を浮かべた。

 

「(うわ~、これ絶対変な噂たつな。)」

 

楽しい学園生活を送りたいのに、聖星は理想の学園生活が遠のく気がした。

 

「聖星~!」

 

「聖星君!」

 

「うわっ!!」

 

横から聞こえてきた十代と翔の声に振り返れば、2人が抱き着いてきた。

すると十代に頭をガシガシと撫でられたり、翔が涙目になり始める。

 

「痛い、痛いって十代!」

 

「俺達がどれほど心配したと思ってるんだよ!

これくらいいいだろ??」

 

「嘘言うな!

十代、デュエルが始まる前は全然心配した素振りなかったじゃん!」

 

「昨日しただろ?」

 

「昨日の話!?」

 

「僕は心配したっすからね!

特に【暗黒恐獣】が出たところとか、凄く心配したっす!」

 

「あ、ありがとうな、翔」

 

これからの事で憂い気味な聖星だったが、十代と翔の登場でそんな雰囲気は消し飛んだ。

それを間近で見ていた鮫島校長は微笑み安堵の息をつく。

良い意味でも悪い意味でもこの年代の少年少女は敏感である。

今回の事で聖星に対する目が変わり、彼が居づらくなるかもしれない。

だが十代や翔と一緒にいる様子を見れば自然と乗り越えられる気がした。

鮫島校長がそんな事を考えている事を知らない聖星はいつものように2人と喋っていた。

 

**

 

「そーいやよ、龍牙先生って指輪から妙な電波を発して魔法カードを使えなくしていたらしいぜ。

聖星はなんで魔法カードを使えたんだ?」

 

制裁デュエルから二日後。

反省文を書く事が難航している聖星を励ますため、十代が差し入れを持ってきた。

彼からのドローパンを食べている聖星はこう返した。

 

「あぁ。

俺のデュエルディスクはカスタマイズ済みでね。

外見はデュエルアカデミア仕様だけど、中身のプログラムは俺のオリジナルなんだ」

 

「は?

オリジナル??」

 

十代の言葉に小さく頷く。

龍牙先生の証拠映像を集める際、デュエルにおいて違和感を覚え注意深く見たのだ。

結果全ての生徒が魔法カードを一切発動していない事が分かり、龍牙先生が指輪から特殊な電波を発している事を突き止めた。

好物の具が入っていたのか、美味しそうにドローパンを食べる聖星の言葉に十代は首を傾げる。

 

「え、そんなの分かるのかよ?」

 

「別に映像さえあればどんな電波を使っているのか解析できるし、電波の種類も分かれば対策なんて簡単だぜ」

 

「……マジで?」

 

「マジで。

だから電波を受けても麻痺しないようプログラムを書き換えたのさ。

いやぁ、大変だったぜ。

一部のプログラムを書き換えたら、他の面で不都合が生じるから、不具合がないかいちいちチェックしないといけないし。

お蔭で徹夜したよ」

 

「なぁ、聖星。

お前さ、絶対に才能を別の方に生かした方がいいだろ」

 

「え、そうか?」

 

「そうだって」

 

END

 




ここまで読んで頂きありがとうございます!
カイザーとのデュエルを希望していた方もいらっしゃったのですが、聖星はカイザーのデュエルを見ないと判断しないため今回は全く別の人とデュエルしてもらいました。
龍牙先生は漫画版遊戯王GXのオリジナルキャラです。
出すとしたらこの人しかいねぇだろ!と。


取巻からの縦読みですが…
他にも巻き込んで済まない、悪かったな、等と沢山浮かびました。
ですが1番あれがしっくりしたので、あれにしました。


今回のデッキは一応【便乗】+通常モンスター(主に【魔法剣士】組)がメイン
のはずだったのに【便乗】しか仕事してないという事実。
どうしてこうなった。


それにしても【便乗】って難しいですね。
【便乗】はダメージステップ時にはカードの制限により発動できないと書いてありました。
(発動できるのは攻守を変更する速攻魔法等)
【奇跡の軌跡】は相手モンスターの攻撃宣言時(バトルステップ)に発動したので、デッキからカード2枚ドロー出来ると思います。
違ったら感想等で教えてくださいm(__)m

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