遊戯王GX~不動の名を継ぐ魔導書使い~   作:勇紅

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第八話 激突、青の竜使いと赤の魔術師!

 

「十代、翔。

何、この点数?」

 

レッド寮の聖星の部屋。

聖星は胡坐をかきながら目の前で正座している2人を見た。

十代と翔はそれぞれ聖星から目をそらし、決して合わそうとしていない。

 

「え~っと、なになに。

【魔草マンドラゴラ】、【火炎草】、【きのこマン】、【人食い植物】。

上記の中で1枚だけ他の3枚と違う点がある。

その点を2つ挙げよ。

十代。

1つ目、【魔草マンドラゴラ】は魔法使い族。

うん、俺が【魔力カウンター】デッキで使ったのを覚えてたんだな。

それで2つ目、【きのこマン】のみ平仮名とカタカナ。

……君、このテスト作った先生に喧嘩売ってる?」

 

「だ、だってよ!

そーじゃねぇか!

他になにがあるんだよ!?」

 

「問題文と十代の回答が噛みあってないだろ?

4枚中、仲間外れは1枚なんだぜ。

い・ち・ま・い。

分かる?」

 

十代の抗議を聖星は迫力のある笑顔で黙らせる。

ぐぬぬ、と悔しそうに唸る十代。

そんな彼は放っておき、次は翔に目をやった。

 

「翔」

 

「は、ハイ!」

 

「デュエルモンスターズの種族を全て答えよ。

君、魔法使い族、機械族、悪魔族、戦士族、天使族、ドラゴン族くらいしか答えられてないぜ。

海竜族は?

昆虫族は?

植物族は?

他の種族は?

これくらい答えようぜ」

 

翔が答えることが出来たのは、この時代で主流となっている種族ばかりである。

それにこの間、聖星は恐竜族使いの龍牙先生とデュエルした。

せめてあの種族だけは答えて欲しかったものだ……

今挙げた2つの答案はまだ可愛いもので、他の問題に関してはまともに答えられていない。

十代は実技があるからまだ希望は見えるが、翔に関してはどうだろう。

デュエルアカデミアに入学できるだけの実力はあっても引っ込み思案なところがあるため、緊張のあまりこけるかもしれない。

本来なら中学3年生として過ごすべき年齢の聖星でも解けるのになんという事だ。

 

「全く。

来週は月一テストなんだぜ。

こんな点数じゃ追試確定だな。

良いのかよそれで」

 

「良いって、良いって。

俺は実技さえできればいいんだから」

 

「十代。

実技は同じ寮の奴とやるんだぜ。

これはあくまで俺の予想だけど、俺と十代がデュエルするはずだ」

 

実技が出来る事は良い事だが、その実技でも敗北してしまえば意味がない。

しかも実技担当のクロノス教諭の事を考えると……

自分と十代がデュエルをして、仮に十代が負けた場合彼の成績が酷い事になるのは確定だ。

それを危惧して言った言葉だが十代は笑顔のままである。

 

「え、聖星とか?

何だよ、全然良いじゃん」

 

「分かった十代。

俺は十代と当たる事前提でアンチデッキ組むから」

 

「なっ、ちょ!?

アンチはやめろって!」

 

ジト目で十代を見た聖星は堂々と宣言する。

【魔導書】で【E・HERO】のアンチデッキを組むという事は彼とのデュエルを楽しむつもりはないという意味だ。

聖星の言葉に十代は大袈裟に反応しそれだけは止めて欲しいと言う。

 

「じゃあ十代、翔。

勉強しような」

 

「僕もっすかぁ!?」

 

「当たり前だろ。

1週間あれば平均点はとれる。

今日から勉強のノルマを達成するまでデュエル禁止」

 

「「えぇ~~!!?」」

 

**

 

それから1週間。

十代と翔は聖星の監視下の元、夜遅くまで勉強するはめになった。

翔は素直に褒めれば伸びる子のようで、悪い点を指摘してそれの10倍褒めればいい感じに知識が増えた。

意外に苦労したのが十代で、少し目を離したらその場にいないという事が何度もあった。

こいつ、どれだけ勉強が嫌いなんだ。

そしてテスト当日……

 

「あり得ない。

まさか寝坊するなんて完璧に油断した」

 

「徹夜のし過ぎだな」

 

十代と翔のテスト対策はまぁまぁ出来、赤点は免れるだろうと安心して眠った聖星。

しかし目を覚ませばテストが始まる10分前。

一気に血の気が引いた聖星は慌てて制服に着替え、朝食を食べずに教室に来た。

多少は遅刻したが内容は楽だったので何とかなった。

それに対し翔は途中で眠ってしまったようで、十代は聖星よりさらに遅れてやってきた。

午前中全てのテストが終了し、生徒達は我先にと教室から出ていく。

そんな中聖星は一限目のテストの問題用紙を見る。

 

「おや、聖星。

君は購買に行かなくていいのか?」

 

「大地。

購買って、今日何かあるのか?」

 

「今日は本土からレアカード入りの新パックが入荷するんだ。

皆、午後の実技授業の前にデッキを強化しようとパックを買いに行ったのさ」

 

「あぁ。

だから皆あんなに急いでたんだな」

 

新しいカード。

しかもレアカードが入っていると聞かされるととても気になる。

だが午後の実技のために買うというのは少し疑問が浮かぶ。

強力なカードが当たっても、デッキとのシナジーが薄ければ逆に足を引っ張り本来の力を発揮できない。

いくら入荷されるかは知らないが、シナジーのあるカードが当たるなどよほどの運の持ち主くらいだろう。

 

「君はいかなくて良いのか?」

 

「俺はテスト用のデッキを組んだし、それを崩したくないからパス。

そういう大地は?」

 

「僕も君と同じさ。

自分のデッキを信じているから新しいカードを買うつもりはない。

それより十代と翔を起こしてあげたらどうだ?」

 

「そうだな」

 

未だにすやすやと眠っている十代と翔。

自分はカードを必要しないが、2人がどうかはわからない。

軽く揺らすと2人はすぐに目を覚ました。

 

「ん~~?」

 

「……あ、れ?

聖星?」

 

「十代、翔。

早く起きないとレアカードがなくなるぞ」

 

「レアカード!?」

 

「何だよそれ!??」

 

「今日の昼休みに購買に入荷されるカードの事さ。

俺と聖星は買うつもりはないが、君達はどうする?」

 

「でも、もうこんな時間っすよね。

きっとカードはないっすよ」

 

「何言ってんだよ翔。

行ってみなきゃわかんねぇだろ。

まだカードは残ってるかもしんねぇしよ」

 

心配そうに顔を伏せる翔だが、十代は特に気にした様子もなく立ち上がる。

そのまま十代は購買へと走っていき、翔は慌てて追いかけて行った。

おいて行かれた聖星は三沢と顔を見合わせ、苦笑を浮かべた。

 

**

 

午後の実技デュエル。

通常なら実力が拮抗する者同士でデュエルし、実力を上げるため同じ寮の生徒でデュエルするのが普通だ。

だから十代と聖星はレッド寮の生徒とデュエルすると思っていたのだが……

 

「何で取巻なの?」

 

「お前のせいで巻き込まれただけだ」

 

「え?」

 

聖星の前に立っているのは若干苛立ちの表情を浮かべている取巻だった。

何故レッド寮の聖星がブルー寮の生徒とデュエルするのだろうか。

不思議そうな表情を浮かべると横から十代の驚きの声が聞こえた。

どうやら彼の相手は万丈目のようである。

 

「シニョール十代とシニョール聖星は、入学試験の時とても優秀な成績を収めたノ~ネ。

そんな貴方達~の相手は~レッド寮の生徒じゃ釣り合いがとれない~のデ~ス。

ですか~ラ、シニョール万丈目とシニョール取巻が貴方達の相手に相応しいと思いまシ~タ。

勿論、貴方達が勝てばラー・イエローへの昇格が認められマ~ス」

 

「あぁ、だから取巻が相手なんだ」

 

「……何で俺が」

 

万丈目と一緒に行動していた取巻はレアカードを求めて購買に行ったが、すでにカードは謎の男によって買い占められていた。

それに憤慨しているとその男、クロノス教諭が現れ、自分と万丈目にデュエルするよう提案した。

エリートである自分達が十代と聖星に現実を教えるためだという。

万丈目はノリノリであったのに対し取巻はどうも乗る気にはなれなかったが、前回の屈辱を晴らすためにいい機会と思いその話に乗った。

 

「そういえばカードはどうなったんだ?」

 

「どこかの落ちこぼれが余計な事をしてくれたおかげで昨日戻ってきたさ」

 

「へ、昨日?

遅くないか?」

 

「一応盗品だったからな」

 

「あぁ……

色々あるんだ」

 

だが、アカデミア側が試験の事を考慮して全員分のカードを急いで生徒の元へ届けてくれたらしい。

その割には時間がかかりすぎだと思うのだが、まぁ、大人の事情というものがあるのだろう。

苦笑を浮かべた聖星だがすぐに表情を変え、デュエルディスクを構えた。

 

「「デュエル!!」」

 

「先攻は俺がもらうぜ、取巻!

俺のターン、ドロー。

俺は手札から【バイオレット・ウィッチ】を守備表示で召喚。

カードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

光と共に現れたのは植物の葉の衣のようなものを纏う女性モンスター。

彼女は目を伏せたまま膝をつき、そのままの状態で動く気配がない。

 

「オシリス・レッドのお前に格の差を見せてやる!

俺のターン、ドロー!

俺は手札から【超再生能力】を発動!

このターンのエンドフェイズ時、手札から墓地に捨てたドラゴン族、場、手札から生贄に捧げたドラゴン族の枚数分デッキからカードをドローする!」

 

「へぇ、良いカード使うな」

 

確か遊馬達の世界であのカードは【征竜】デッキの貴重なドローソースとして活躍していたはず。

聖星も【征竜】使いとデュエルした事はあるが、あのデュエルは本当に追い詰められて肝が冷えた。

少し懐かしんでいると取巻が新たなカードを発動させる。

 

「俺は手札から【天使の施し】を発動!

デッキからカードを3枚ドローし、2枚捨てる。

俺は【エメラルド・ドラゴン】と【密林の黒竜王】を捨てる!

そして俺は【スピリット・ドラゴン】を召喚!」

 

「【スピリット・ドラゴン】?

確か手札のドラゴン族モンスターを墓地に捨てる事で攻撃力と守備力を1000ポイント上げるカード。

【超再生能力】と相性はばつぐん、って事か……」

 

「オシリス・レッドのくせにこのカードの効果を知ってるんだな。

行くぞ!

【スピリット・ドラゴン】で【バイオレット・ウィッチ】を攻撃!

そして【スピリット・ドラゴン】の効果発動!

手札からドラゴン族モンスターを1枚墓地に捨て、攻撃力と守備力を1000から2000にアップさせる!

スピリットブレス!」

 

墓地に送られたカードの力を得て【スピリット・ドラゴン】の宝石に光が集まる。

と思えば口から光を放ち【バイオレット・ウィッチ】を消滅させた。

 

「【バイオレット・ウィッチ】の効果発動」

 

モンスターが破壊されても焦った表情をしない聖星。

戦闘で破壊された時に発動するという事はリクルーターか何かだろうか。

そう冷静に考えながら取巻は聖星を見据える。

 

「このカードが戦闘で破壊され、墓地に送られた時デッキから守備力1500以下の植物族モンスターを1体手札に加える」

 

「しょ、植物族!?」

 

「はぁ!?」

 

「おいおい、あいつ魔法使い族しか使わねぇだろ!?」

 

「何であいつがそんなカードを!?」

 

「見てれば分かるさ。

俺は守備力0の【死の花-ネクロ・フルール】を手札に加える」

 

聖星がデッキから加えて取巻に見せたのは醜い植物族のカード。

カード名とイラストから見てどうも良いものではなさそうだ。

いや、それよりもあの聖星が植物族を使うという事の方が衝撃だった。

誰かが言った通り今まで彼は多彩な魔法使い族を使ってデュエルをしてきた。

それなのに植物族を使っている。

 

「守備力0?

しかも攻撃力が0じゃないか。

そんなクズモンスターで何する気だ?」

 

「それは見てからのお楽しみさ」

 

理解できない行動に取巻の動揺はさらに大きくなる。

だが微笑みながら言う聖星の言葉に警戒心を抱いた。

オシリス・レッドと言ってバカにしてやりたいところだが、彼は入学試験の時から攻撃力の低いモンスターを使っていた。

だからきっと何か考えがあるはずだ。

 

「……俺はカードを2枚伏せ、ターンエンドだ。

そしてこの瞬間、【超再生能力】の効果によりデッキからカードを3枚ドロー」

 

【天使の施し】と【スピリット・ドラゴン】の効果で墓地に捨てられたカードは全て3枚。

デッキからカードを3枚引き、手札を補充した取巻はこのターンを終わらせた。

 

「俺のターン、ドロー」

 

ゆっくりとカードを引いた聖星は少しだけ困ったような表情を浮かべる。

折角【死の花-ネクロ・フルール】を手札に加えたのに引いたカードがあまり良くない。

しかし戦えない訳ではないので、そのままそのカードを使った。

 

「俺は手札から【ローンファイア・ブロッサム】を召喚」

 

ソリッドビジョンにより光が集まり、重たそうな実をつけるモンスターが現れた。

高さは聖星の半分くらいだろう。

しかしその外見は明らかに魔法使い族とかけ離れていた。

 

「……そいつ、魔法使い族じゃなくて植物族だよな?」

 

「あぁ。

立派な植物族だぜ」

 

笑顔で肯定すると取巻の眉間に皺が寄る。

更に訳が分からないと言いたいのだろう。

 

「【ローンファイア・ブロッサム】の効果発動。

このカードが場に存在する時、場の植物族モンスターを生贄に捧げデッキから植物族モンスターを特殊召喚する。

俺は2体目の【ローンファイア・ブロッサム】を特殊召喚。

そして2体目の効果発動。

デッキから【ローンファイア・ブロッサム】を特殊召喚」

 

1番最初に召喚されたモンスターが消えたと思ったら同じモンスターが姿を現す。

お世辞にも綺麗とは言えない植物が消えては現れる様子に思わず言ってしまう。

 

「一体何を考えてるんだ。

同じことを繰り返して何の意味があるって言うんだ」

 

「見てれば分かるさ。

3体目の【ローンファイア・ブロッサム】の効果発動。

このカードを生贄に捧げ、デッキから【椿姫ティタニアル】を特殊召喚する」

 

デュエルでデッキに同名カードは3枚までなら入れても良いという決まりになっている。

3体目が現れた時、別のモンスターが特殊召喚されるとは予想していた。

その通りとなり、取巻はどんなモンスターが現れるか警戒した。

 

「特殊召喚、【椿姫ティタニアル】」

 

聖星が指を鳴らすと、【ローンファイア・ブロッサム】の足元から赤色の花びらが舞いあがる。

花びらは【ローンファイア・ブロッサム】を覆い隠すとさらに勢いをまし、中から光が溢れだした。

すると花びらの渦の中から巨大な蕾が現れ、赤い蕾がゆっくりと開花する。

美しく開花した蕾の中には気高い女性が眠っており、彼女は目を覚ますと腕を組んで取巻のドラゴンを見下ろした。

 

「こっ、攻撃力2800!?

しかも植物族……!!

おい、お前のデッキは魔法使い族が中心の【魔導書】だろ!

ついに自分のデッキのコンセプトを捨てたのか!?」

 

「いや、本当は別の目的があるんだけど……

まだカードが揃わないから【椿姫】を出しただけさ」

 

苦笑を浮かべながら弁解する聖星に取巻は頭が痛くなった。

自分とアンティルールでデュエルした時、彼は魔法カードばかりデッキに詰め込んでいた。

その時彼のデッキ構築を疑ったが、今回も別の意味で疑いたくなった。

 

「(だがあのモンスターは植物族。

確か【魔導書】は魔法使い族のサポートカードだ。

つまり今のあいつは殆どの【魔導書】を使えないって事になる。)」

 

下級モンスターが上級モンスターを簡単に倒せる【ヒュグロの魔導書】を最も警戒していたが、聖星に場には植物族しか存在しない。

今のところあのカードは警戒しなくても良いだろう。

だが攻撃力500のモンスターから2800のモンスターが出てくるのは誤算だった。

 

「バトル。

【椿姫ティタニアル】で【スピリット・ドラゴン】に攻撃」

 

「リバースカードオープン!

速攻魔法【月の書】!」

 

「あ」

 

「このカードの効果で【椿姫ティタニアル】を裏側守備表示になってもらう!」

 

美しい笑みを見せた彼女だが、取巻の発動したカードに僅かに目を見開いた。

勿論それは聖星も同じで【椿姫】のカードを見る。

 

「(【椿姫】は俺の場の植物族モンスターを生贄に捧げる事で、カードを対象に取る効果を無効にし破壊する効果……

けど今俺の場に植物族は【椿姫】しかない。

【椿姫】を生贄にしたら次のターン、俺の場はがら空き)」

 

そもそも【椿姫】の守備力は2600と高く、すぐに戦闘破壊される心配はない。

聖星は特に何もせず、彼女が裏側守備表示になるのを見届けた。

 

「それなら俺はカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!

俺は手札から【強欲な壺】を発動!

デッキからカードを2枚ドローする!

そして俺は【スピリット・ドラゴン】を生贄に捧げ、【マテリアルドラゴン】を生贄召喚!」

 

青色のドラゴンは光の中に包まれ、代わりに6枚の翼を持つ金色のドラゴンが現れた。

【マテリアルドラゴン】はゆっくりと目を開き、その姿に違わず気高い咆哮を上げてフィールドを揺らす。

 

「攻撃力、2400か……」

 

自分を見下ろす金色の竜。

その攻撃力は1体生贄では十分すぎる数値だ。

しかしもっと恐ろしいのはその効果。

ダメージ効果をライフ回復に変える効果は現時点ではあまり活躍の場がない。

一方、手札を1枚捨てる事でモンスターカードを破壊する効果を無効にし破壊するという能力は厄介だ。

 

「(【マテリアルドラゴン】……

父さんの【スターダスト】とだいたい似ている効果だっけ。

違うのは手札を1枚コストにして場に残り続ける事と、モンスターの破壊にしか対応していない事。

【スターダスト】は殆どの破壊カードに有効だけど、墓地に行くから場ががら空きになる場合が多いし……

一長一短なんだよなぁ)」

 

【スターダスト・ドラゴン】と比較するとどっちが良いかは言えないが、目の前に現れるとついこの2体が並んだ時のことを考えてしまう。

うん、厄介としか言いようがない。

こうなったらバウンスと除外しか手が残っていないじゃないか。

 

「そして装備魔法、【早すぎた埋葬】を発動!

ライフを800払い、墓地に存在する【エメラルド・ドラゴン】を攻撃表示で特殊召喚!

さらに永続罠【竜の逆鱗】を発動!

これで俺のドラゴンは貫通効果を得る!」

 

金色の竜の隣に並ぶのは翡翠色に輝く竜。

共に美しいドラゴンであり、思わず見とれてしまいそうになる。

それは周りの生徒達も同じようで一気に沸き立った。

 

「すげぇ、上級モンスターが一気に2体だ!」

 

「攻撃力は2400!」

 

「しかも貫通効果付きかよ……」

 

「行くぞ!

【エメラルド・ドラゴン】で裏守備モンスターに攻撃!

エメラルド・フレイム!」

 

体中のエメラルドが光によって反射し、その光を口元に集める。

取巻の攻撃宣言に聖星は思わず首をひねった。

【エメラルド・ドラゴン】は確かにレベル6としては良い攻撃力2400を誇る。

しかし【椿姫ティタニアル】の守備力は2600である。

もしかすると確認していないのだろうかと思ったが、彼の言葉にそれは間違いだと知る。

 

「この瞬間、手札から速攻魔法【突進】を発動!

これで【エメラルド・ドラゴン】の攻撃力は3100だ!」

 

「へぇ、そう来たか」

 

口から放たれた炎は植物である【椿姫】をいとも容易く燃やしてしまう。

炎に包まれた女王は苦しそうに顔を歪めながら、女性特有の甲高い声を上げて破壊されてしまう。

本来ならダメージはないが、【竜の逆鱗】の効果で守備モンスターに攻撃しても戦闘ダメージを与えることが出来る。

これにより聖星のライフは3500まで減った。

 

「マジかよ……

【椿姫】がこうもあっさり倒されるなんて……」

 

燃え尽きて破壊された女王の姿に聖星は思わず呟いた。

【椿姫】は何度もデュエルしてくれたアキがよく召喚してくれたモンスターだ。

父やジャック達は比較的あっさり倒していたが、彼ら以外のデュエリストは【椿姫】を倒すのに苦労していた記憶がある。

まぁ自分も苦労していた組なのは秘密である。

それなのに取巻はすぐに倒してしまい、オベリスク・ブルーの実力は伊達じゃないと感じた。

 

「【マテリアルドラゴン】でダイレクトアタック!」

 

「罠発動。

【リビングデッドの呼び声】。

墓地に存在する【椿姫ティタニアル】を攻撃表示で特殊召喚する」

 

「くっ、また攻撃力2800かっ……!

カードを1枚伏せてターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー」

 

流石にもう追撃のカードはなかったのだろう。

聖星は自分のターンが回ってきてドローする。

手札に加わったのもやはり目的のカードではなかった。

 

「(まだあのカード来ないなぁ)」

 

もし父なら欲しいカードへと繋げるカードを引き、遊馬なら欲しいカードをそのまま引き当てただろう。

下手をしたら創造している。

やはり自分は凡人なんだなぁと思いながらカードを発動した。

 

「俺は手札から永続魔法【増草剤】を発動。

このカードは自分のメインフェイズ時に墓地から植物族モンスターを特殊召喚する事が出来る。

俺は墓地から【ローンファイア・ブロッサム】を特殊召喚。

そして【ローンファイア・ブロッサム】の効果により、このカードを生贄に捧げデッキから【桜姫タレイア】を特殊召喚する」

 

先程と同じように【ローンファイア・ブロッサム】が花びらの渦に包まれる。

【椿姫】の時と違うのはそれが淡い桃色の花びらだという事。

花びらの渦の中から溢れる光は【増草剤】を破壊する。

光の中から現れた蕾は花びらと同じ色でゆっくり開くと黒髪で清楚感がある女性が現れる。

彼女は持っている扇子で口元を隠し、妖しく微笑んだ。

その攻撃力は【椿姫】と同じ2800。

また登場した上級モンスターに取巻の表情は険しくなる。

 

「【椿姫ティタニアル】で【エメラルド・ドラゴン】に攻撃」

 

「カウンター罠発動、【攻撃の無力化】!

このカードの効果でこのターンのバトルフェイズを強制終了する!」

 

「それなら俺はターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー!

俺は手札を1枚墓地に送り、魔法カード【ライトニング・ボルテックス】を発動!

これでお前の表側表示のモンスターは全滅だ!」

 

デッキから加わったカードを見た取巻はすぐに自信満々に溢れた表情となり、そのカードを発動させた。

すると聖星の場の頭上に暗雲が現れ雷が何度も光る。

今にも落ちてきそうな様子に【椿姫】と【桜姫】は難しい表情を浮かべた。

だがそれは一瞬で【桜姫】は扇を閉じ、扇を高く上げる。

 

「確かに【桜姫】は破壊されるけど【椿姫】は破壊されないぜ」

 

「何?」

 

「【桜姫タレイア】の効果。

このカードが表側表示で存在する限り、このカード以外の植物族モンスターはカードの効果では破壊されない」

 

「なっ!?」

 

聖星が説明すると、暗雲から雷が落ちる。

フィールド全体に落ちた雷は【桜姫】の扇子に集まり、彼女は雷撃を耐えるように顔を歪めた。

しかし耐えきれなかったのか悲痛な悲鳴を上げて破壊されてしまう。

燃えて消え去った友人に【椿姫】は悲しそうな表情を浮かべたが、すぐに凛々しい表情に戻る。

 

「くっそ……!

折角厄介なモンスターを除去できると思ったのにっ……!!」

 

だが、これで聖星のモンスターは1体。

彼女ぐらいならまだ何とかできる。

 

「それなら俺は装備魔法、【団結の力】を【マテリアルドラゴン】に装備!

これで【マテリアルドラゴン】の攻撃力と守備力は俺の場の表側表示モンスターの数×800ポイントアップ!」

 

今、取巻の場に表側表示のモンスターは2体。

よって攻撃力は1600ポイントアップし4000となる。

まさかの攻撃力にブルーの生徒達は叩き潰せ―――!!と声を張り上げた。

そんなにブルーがレッドを叩き潰す姿が心地良いのか。

 

「行け、【マテリアルドラゴン】!

【椿姫ティタニアル】に攻撃!」

 

「くっ、っ!!」

 

口から放たれた光によって【椿姫】は貫かれ、彼女は花びらとなって消えてしまう。

攻撃力の差1200ポイントのダメージを受け、これでライフは2300

 

「これで終わりだ!

そして【エメラルド・ドラゴン】でダイレクトアタック!!」

 

「手札から【速攻のかかし】の効果発動」

 

「て、手札から!?

それに今は俺のターンだぞ!」

 

【エメラルド・ドラゴン】の攻撃が聖星に向かっていく。

全てを燃やす勢いの炎に聖星は微動だにせず効果を発動した。

すると聖星の目の前に1体のかかしが表れ、【エメラルド・ドラゴン】の攻撃を一身に受ける。

 

「【速攻のかかし】は相手のダイレクトアタックの時、手札からこのカードを捨てることで発動できる。

このターンのバトルフェイズを強制的に終わらせてもらうぜ」

 

「くっ、変なカードばかり持っていやがって!」

 

「(変なカードって……

この時代には手札から発動するカード少ないっけ?

それにこのデッキ、無駄に上級モンスターが多いから場が空きやすいし……

【バトル・フェーダー】でも良かったんだけどやっぱり【速攻のかかし】の方が安心感あるんだよなぁ。)」

 

「これで俺はターンエンドだ!」

 

手札をすべて使い切った取巻は改めて聖星の場を見る。

彼の場にモンスターは存在せず、それに対し自分のモンスターは強力なドラゴンが2体。

強く握り拳を作った彼は自信満々に宣言する。

 

「ふっ、どうやら勝負はついたようだな」

 

「あれ、もう勝った気?」

 

「当然だろう。

お前の場にモンスターはいないし、ライフは2300。

それに対し俺の場は攻撃力4000のモンスターと貫通効果を与える【竜の逆鱗】がある。

例え守備モンスターで逃げても一瞬で終わらせてやる!」

 

攻撃力2800のモンスターを簡単に並べたのは驚いたが、聖星は得意の戦術が出来ていない。

自分のコンセプトはちゃんと残しているようだが、無理に普段使わないカードを使うからだ。

これだからレッドはバカなんだ。

そう自分に言い聞かせるように堂々と口にした取巻に聖星は微笑んだ。

 

「それはどうかな」

 

「何?」

 

「どうして俺が魔法使い族デッキなのに植物族デッキを入れたか、ってさっき聞いてきたよな。

俺はただ【死の花-ネクロ・フルール】を使いたかったからなんだ」

 

「何だと?」

 

【死の花-ネクロ・フルール】。

聖星が【バイオレット・ウィッチ】の効果でデッキから加わったカード。

あのカードは植物族で、魔法使い族を使う聖星が使いたがるようなカードではない。

それなのに使いたかった……

言葉の真意を探ろうと頭をフルで回転させ、ある可能性にたどり着いた。

 

「まさか、魔法使い族に関連がある効果か!?」

 

「正解、といえばいいのかな?

う~ん、まぁ、8割正解かな」

 

「何だ、その言い方……

バカにしてるのか!?」

 

「だってしょうがないだろう。

全部正解じゃないんだから。

まぁすぐに分かるさ。

準備が整えばな」

 

「そう簡単に整うわけないだろう!

整う前に俺のドラゴンで叩き潰してやる!」

 

取巻の言葉に聖星は微笑む。

手札に眠る【ネクロ・フルール】。

このモンスターを真価を発揮するにはあのカードが必要。

聖星はゆっくりとカードを引いた。

 

「俺のターン、ドロー」

 

取巻や観客達が見守る中、聖星は静かにそのカードを見る。

来てくれたのは魔法カード。

 

「俺は手札から【強欲な壺】を発動。

デッキからカードを2枚ドローする」

 

やっと最近見慣れた壺が場に現れ、聖星がカードを引くと砕け散る。

そして引いたのは目的の魔法カード。

聖星はそのカードに微笑み、小さく頷いた。

 

「俺は手札から永続魔法【魔導書廊エトワール】を発動。

そして手札から通常魔法【グリモの魔導書】を発動する。

このカードの効果により、デッキから【セフェルの魔導書】を手札に加える」

 

【魔導書廊エトワール】は【魔導書】が発動するたびに魔力カウンターがたまる効果を持つ。

【セフェルの魔導書】をサーチして英知が無くなった【グリモの魔導書】は魔力の塊となり、聖星の頭上に浮かび上がる。

 

「そして【死の花-ネクロ・フルール】を召喚」

 

デッキからサーチされ、やっと場に出された【ネクロ・フルール】。

何もない場に1つの亀裂が走り、ゆっくりと根を張る。

今にも枯れて朽ち果てそうな植物は1つの果実を実らせた。

しかしその果実はとても醜く、見ていて気分が悪くなる。

 

「この瞬間、罠カード【連鎖破壊】を発動」

 

「【連鎖破壊】!?

攻撃力2000以下のモンスターが召喚に成功した時、デッキ、手札の同名カードを破壊するカード!

普通は相手のカードを破壊するために使う。

そんなカードを自分に使って何の意味があるんだ!?」

 

「破壊されることに意味があるのさ」

 

「っ!」

 

あっさりと返された言葉に取巻は言葉に詰まる。

すると【連鎖破壊】のカードから2本の鎖が解き放たれ、聖星のデッキに突き刺さる。

その鎖は2枚の【死の花-ネクロ・フルール】を絡め取りそのまま破壊した。

 

「【死の花-ネクロ・フルール】はカードの効果によって破壊され、墓地に送られた場合デッキから【時花の魔女-フルール・ド・ソルシエール】を特殊召喚する事が出来る」

 

「【時花の魔女】……?」

 

「【連鎖破壊】の効果で破壊されたのは俺のデッキに眠る2枚の【ネクロ・フルール】。

これにより2枚の効果は発動した。

俺はデッキから2体の【時花の魔女-フルール・ド・ソルシエール】を攻撃表示で特殊召喚する!」

 

破壊された【ネクロ・フルール】の実は場に落ち、その実が破裂する。

破裂と同時に闇が広がり、その中から2人の魔女が姿を現した。

黒に近いバラの杖を持つ魔女は花びらの帽子を被っており、先ほどの醜い果実から現れたとは思えない程の美しさを誇っている。

だが取巻はその攻撃力に目を見開いた。

 

「攻撃力、2900……!?」

 

「特殊召喚に成功した時、【時花の魔女-フルール・ド・ソルシエール】の効果が発動。

このカードは相手の墓地に眠るモンスターを俺の場に特殊召喚する。

蘇れ、【サファイアドラゴン】」

 

1体の【フルール・ド・ソルシエール】が杖で魔法陣を描き、その中から漆黒のドラゴンが現れる。

元々【サファイアドラゴン】は美しい青色のドラゴンだったのに、【フルール・ド・ソルシエール】の力によって蘇ってたためこのような色になったのだろう。

何だか見ていて可哀そうになってくる。

 

「だ、だが俺の場には攻撃力4000の【マテラルドラゴン】が……!」

 

「【エメラルド・ドラゴン】を破壊すれば3200に下がるだろう?」

 

「それがどうした!?

仮に【エメラルド・ドラゴン】を破壊できたとしても攻撃力は3200!

攻撃力2900のそいつらじゃ勝てるわけがない!」

 

思わず強がってみる取巻。

だが彼はちゃんと覚えていた。

攻撃力を1000ポイントも上げる魔法カードの存在を。

そんな事を考えている取巻に対し聖星は【エトワール】の効果を説明する。

 

「【魔導書廊エトワール】は【魔導書】が発動する度に魔力カウンターを1つ乗せる。

そして俺の場の魔法使い族モンスターはその数×100ポイント攻撃力を上げる」

 

「何だと……?

今魔力カウンターは1。

攻撃力は3000……

つまりあと3枚発動したら……」

 

「【エメラルド・ドラゴン】を破壊した後の【マテリアルドラゴン】に勝てるって事さ」

 

だが、まだ使うつもりはない。

2体の魔女に挟まれている【ネクロ・フルール】に目をやり、聖星はカードを発動した。

 

「さらに俺は手札から魔法カード【フレグランス・ストーム】を発動」

 

発動されたのは1本の花に向かって植物族が吸収されているカード。

すると聖星の場にその紫色の花が現れ、【ネクロ・フルール】がその花に吸い込まれていく。

 

「このカードは俺の場に存在する植物族モンスターを1体破壊し、デッキからカードを1枚ドローする。

そしてそのドローしたカードが植物族だった場合、そのカードを取巻に見せてさらにもう1枚カードをドローする」

 

「……破壊って事は!」

 

【ネクロ・フルール】の効果を覚えていた取巻は険しい表情を浮かべる。

だがまだ【フレグランス・ストーム】の効果処理は終わっていない。

聖星は引いたカードを見せた。

 

「俺が引いたのは植物族の【紅姫チルビメ】。

よってもう1枚カードをドロー。

そして【死の花-ネクロ・フルール】の効果発動。

カードの効果によって破壊された事によりデッキから3体目の【時花の魔女-フルール・ド・ソルシエール】を特殊召喚する」

 

「攻撃力3000のモンスターが3体も……」

 

「まだ終わってないぜ、取巻。

俺の手札にはまだ【魔導書】が残ってる」

 

「っ!」

 

「俺は手札から【ヒュグロの魔導書】を発動。

【時花の魔女-フルール・ド・ソルシエール】の攻撃力を1000ポイントアップ!

さらに俺の場に魔法使い族モンスターが存在する時、手札の【ゲーテの魔導書】を見せて【セフェルの魔導書】を発動。

【ヒュグロの魔導書】の効果をコピーし、【フルール・ド・ソルシエール】の攻撃力をさらに1000ポイントアップ」

 

【ヒュグロの魔導書】の英知を受け、【フルール・ド・ソルシエール】の攻撃力は3000から4000になる。

そして新たに魔力カウンターがたまり4100

さらに【セフェルの魔導書】で【ヒュグロの魔導書】の英知をコピーし5100

魔力カウンターも3つ目になり5200となった。

攻撃力に比例して【フルール・ド・ソルシエール】のロッドの先端部にある薔薇はさらに美しくなっていく。

これで聖星の場には攻撃力5200のモンスター1体と、3200のモンスターが2体となる。

モンスターを見上げる取巻は強く手を握りしめた。

折角自分も攻撃力が4000に達するようモンスターを並べたと言うのに、破壊効果を無効にする効果を持つモンスターを召喚したというのに……

取巻は自分の両手を見て強く握りしめた。

 

「くっ、そっ……!

この俺がまたレッドのお前なんかにっ……!」

 

前回はまぐれだと思っていた。

ただレアカードを持つ落ちこぼれとしか思っていなかった。

だが自分が倒せなかった相手を難なく倒し、授業の時でも彼の知識が豊富だという事は嫌でも分かった。

だけど所詮彼は自分達より格下で、そんな彼がブルーより優秀などあってはいけない。

歯を食いしばる取巻の姿に聖星は問いかける。

 

「なぁ、前から思ってたんだけどさ。

レッド、レッドって何度も言って疲れない?」

 

「何……?」

 

「そもそも取巻って何の為にデュエルアカデミアに入ったんだ?」

 

「何の為って、お前に言う必要はないだろ!」

 

後は攻撃すれば良い。

そうすれば取巻のライフを0にし、無事勝利を掴むことが出来ると言うのに一体何を言い出すのだ。

それにこんな奴に話す義理など無い。

そう叫んだが、聖星は構わず言う。

 

「俺はさ、楽しいデュエルをしたいからこのアカデミアに入った。

取巻は?」

 

「人の話を聞け!」

 

「聞いてたら有耶無耶になるだろ。

だから勝手に進めさせてもらうぜ」

 

聖星の言葉に舌打ちする取巻。

この学園では上下関係がはっきりと別れているため、このように他者を見下し、見下される環境は自然と成り立ってしまうのだろう。

教師であるクロノス教諭さえレッド生を毛嫌いしているため更に拍車がかかったのかもしれない。

だがここに来る皆は本来、純粋に夢や希望を抱いていたに違いない。

それなのにこんな環境のせいで歪んでしまったとしか言いようがなかった。

 

「俺が乗った飛行機の中じゃ、皆綺麗な目をしてた。

それなのにさ……

レッドとかイエローとか、ブルーとか。

罵倒する側や、罵倒される側の同級生や周りを見ているせいか皆の目が曇っているんだ。

まだ入学してから1か月程度しかたってないんだぜ。

これおかしいだろ?」

 

「そんなもの、実力のない連中が悪いに決まってるだろ!」

 

「別に実力主義が悪いとは言わないさ。

デュエルってのはゲーム、つまり争い事だ。

勝つ者もいれば負ける者もいる。

けどさ、そうやって堂々と他人を罵倒して楽しい?

自分の方が優秀だって周りに見せつけて、自分のプライドを護って、疲れない?」

 

聖星は目の前にいる取巻だけではない。

周りにいる生徒にも問いかけるように目をやる。

もしレッドのくせに生意気だ!と罵倒が飛べば終わっただろう。

だが、今の聖星がブルー相手に勝利を掴める状況のせいか誰も何も言わなかった。

 

「……俺が、ここに入った理由……」

 

周りの空気のせいか、取巻も押し黙る。

そして小さく呟き、何かを考えるかのように顔を伏せた。

そんな彼を聖星は何も言わずただ見つめた。

すると取巻は勢いよく頭をふって顔を上げた。

 

「さっきからごちゃごちゃと……!!

お前には関係ないだろ!」

 

「………………それもそうだな。

悪い、変な話して。

じゃあ行くぜ。

攻撃力3200の【時花の魔女-フルール・ド・ソルシエール】で【エメラルド・ドラゴン】を攻撃」

 

聖星の宣言に【フルール・ド・ソルシエール】は杖を持ち上げ、先端部の薔薇から雷が解き放たれる。

それは【エメラルド・ドラゴン】を貫き、取巻のライフを3200から2400へと削る。

 

「くっ!!」

 

貫かれた衝撃で【エメラルド・ドラゴン】は爆発し、その時の爆風がフィールドを覆う。

視界が悪い中聖星は淡々と言う。

 

「これで【マテリアルドラゴン】の攻撃力は4000から3200にダウン。

攻撃力5200の【時花の魔女-フルール・ド・ソルシエール】で【マテリアルドラゴン】に攻撃」

 

3体の中で最も攻撃力の高い【フルール・ド・ソルシエール】が1歩前に出る。

そして【マテリアルドラゴン】に杖を向ける。

彼女を紫色のオーラが包み込み、そのオーラが薔薇に集中する。

紫色の薔薇は徐々に黒へと染まり、放った雷撃が【マテリアルドラゴン】を打ち砕いた。

 

「ぐあっ!!」

 

モンスターを打ち砕いた攻撃はそのまま取巻を襲い、彼の体に電撃が走る。

あまりにも脳を揺さぶる痛みに膝を折りそうだったが、まだ終わっていなかった。

 

「最後の【フルール・ド・ソルシエール】でダイレクトアタック!!」

 

「うわぁああ!!!」

 

自分に向けられる薔薇の杖。

冷や汗が頬を伝う前にそれから雷撃が放たれ、取巻に命中する。

体中にまだ帯電する電気がバチバチと音を鳴らし、残り400だったライフポイントが0になった。

そして取巻は膝をつき、荒い呼吸をする。

 

「すげぇ……」

 

「マジかよ……」

 

「レッドがブルーに勝った?」

 

「勝った―――!!」

 

「不動の奴やりやがったぜ!!!」

 

少しの静寂から一気に湧き上がる会場。

周りの生徒、特に同じレッドの生徒達は大盛り上がりでブルー達は信じられないという表情を浮かべている。

聖星はそんな彼らなど気にせず、取巻の元まで歩み寄る。

 

「取巻」

 

「っ……!」

 

また聖星に負けたのが心底悔しいのだろう。

取巻は鋭い眼光で聖星を睨みつける。

だが聖星は特に気にせず彼に手を差し伸べた。

 

「楽しいデュエルだった。

特に【マテリアルドラゴン】に吃驚したぜ。

もし、君が手札を温存してたら【ネクロ・フルール】の効果を使えなくて俺が負けてたかもしれない」

 

「チッ!

誰がお前の手なんて借りるか!」

 

自力で立ち上がった取巻は聖星から顔を逸らし、そのまま背中を向けてしまう。

傍から見れば嫌な行動と思うかもしれないが、メールの一件から聖星は素直じゃないと思ってしまった。

すると隣でも十代が勝ったようで彼のデュエルを見ていた観客達も騒ぎ出した。

 

「見事です、不動聖星君、遊城十代君」

 

会場内に響いた鮫島校長の声。

教師がいる方角に顔を向ければ微笑みながら喋っている彼の姿が見える。

 

「君達のデッキへの信頼感。

モンスターとの熱い友情。

緻密に計算された戦術。

そして何よりも勝負を捨てないデュエル魂。

それはここにいる全ての者が認める者でしょう。

よって遊城君、不動君。

君達はラー・イエローへ昇格です」

 

「おめでと―――!」

 

「おめでとう!!」

 

鮫島校長の言葉と同時に祝福する声が会場内に響く。

天井からは紙ふぶきが舞い上がり、自分達2人を本当に祝福してくれるようだった。

 

「そういえばさ、取巻。

3年生の実技テストっていつだっけ?」

 

「はぁ?

そんな事も知らないのか?

もうすぐ別の場所で始まる」

 

背中を向けていた取巻は呆れたように振り返り短く言う。

うん、やっぱり素直じゃないと思いながら聖星は首を傾げた。

 

「どこ?」

 

「それくらい自分で探せ!」

 

「あぁ」

 

**

 

「お、やってる、やってる」

 

十代や三沢達と昇格の喜びを噛み締めた聖星はすぐに3年生の実技試験の会場に来た。

周りの人達はやはり3年生ばかりで、下級生である聖星がいる事が珍しいのか時々こちらに視線を向ける人がいる。

特に気にせず聖星は進み、目当ての人を見つけた。

その人は同じ寮の人とデュエルしているようで丁度終盤らしい。

 

「あの男のデュエルを見に来たのか?」

 

「あぁ」

 

聖星の目当て。

それは先日助けてもらい、全力でデュエルをしたいと言ってきたカイザー亮の事だ。

柵に凭れて場を見下ろす聖星は【星態龍】の言葉に頷き、彼らの場を見た。

カイザーの場には【サイバー・ドラゴン】1体とライフは4000のまま。

それに対し相手の場には守備力3000の【千年の盾】と【ネオアクア・マドール】が存在する。

【神の恵み】、そして他にもライフ回復のカードがあったのだろう。

ライフポイントは7000程ある。

 

「俺のターン、ドロー……」

 

ゆっくりとデッキからカードを加えるカイザー。

彼は眉ひとつ動かさず手札のカードを1枚発動させる。

 

「俺は手札から【パワー・ボンド】を発動。

手札の【サイバー・ドラゴン】2体を融合。

融合召喚、【サイバー・ツイン・ドラゴン】」

 

手札に存在したのは場にいるモンスターと同じ【サイバー・ドラゴン】。

3体のモンスターが同じフィールドに並ぶ姿は圧巻だが、すぐに2体の【サイバー・ドラゴン】が歪みの中に消え去る。

するとその歪みの中から2つの頭を持つ機械龍が現れ高らかな咆哮を上げた。

 

「【サイバー・ツイン・ドラゴン】の攻撃力は2800

だが【パワー・ボンド】で融合召喚されたモンスターの攻撃力は倍となる」

 

「こっ、攻撃力5600!?」

 

対戦相手の生徒は目を見開いて驚き、周りの生徒達もその数値に目を見開く。

初めはカイザーの2.5倍くらいの高さしかなかった【サイバー・ツイン・ドラゴン】だが【パワー・ボンド】のエネルギーによりさらに巨大化していく。

温もりがない無機質な巨大モンスターに見下ろされるのは一体どんな気分なのだろう。

ただでさえカイザーが威厳ある風格でデュエルしているため更に恐ろしく感じる。

 

「何だよあの数値…………」

 

「あんなの、どうやって勝てって言うんだよ……」

 

「流石カイザーだ……」

 

圧倒的な攻撃力に生徒達は思わずと云った風に口にする。

そんな彼らの中で聖星だけ場違いな事を考えていた。

 

「(攻撃力5600……

凄いはずなんだけど、凄く感じられない。

遊馬の【ホープ】やカイトの【超銀河眼の光子竜】で感覚が麻痺してるのかな?)」

 

自分も先程は攻撃力5200のモンスターを出したし、取巻だって4000のモンスターを出した。

しかも遊馬だって軽く1万を超えるモンスターを出しているし、カイトは攻撃力6000を超えるモンスターの複数回攻撃をしてくる。

例えば【希望皇ホープ】と【H-Cエクスカリバー】を並べたのに、【超銀河眼の光子竜】に効果を無効にされ、更にオーバーレイユニットを4つ全部取り除かれた。

そして攻撃力が6500となった【超銀河眼の光子竜】の4回攻撃など…………

ただの地獄だろ。

それを防ぎ切った遊馬とアストラルも凄かったが……

 

「【サイバー・ツイン・ドラゴン】で【千年の盾】と【ネオアクア・マドール】を攻撃」

 

「え!?」

 

「複数回攻撃を可能とするモンスターか」

 

静かに宣言されるとそれぞれの首に光が集まり、相手の場のモンスターに向かって放つ。

【ネオアクア・マドール】は両手を広げて自分の前に波の壁を生み出すが、光は紙を破るかのようにあっさりと操り手と【千年の盾】を貫く。

絶対に鉄壁の防御を誇るモンスター達も、流石にあのドラゴンの前には無力のようだ。

 

「速攻魔法、【融合解除】。

【サイバー・ツイン・ドラゴン】の融合を解除し、墓地から【サイバー・ドラゴン】を2体特殊召喚する」

 

2頭を持つドラゴンは2つの光に分裂し、機械龍へと変わる。

これはバトルフェイズ中の特殊召喚のためあの2機には攻撃する権利がある。

相手の場にモンスターは存在しないためダイレクトアタックになるのは確実だ。

幸いにも2体の攻撃力は2100で、2体の同時攻撃を受けてもライフは2800残る。

聖星はまだ相手にもチャンスがあると思った。

 

「手札から速攻魔法【リミッター解除】を発動」

 

「りっ、【リミッター解除】!?

ここでっ!??」

 

カイザーが発動した【リミッター解除】は機械族の攻撃力を倍の数値にするカード。

これであの2体の攻撃力は4200となる。

体中から蒸気を出す【サイバー・ドラゴン】は機械で合成された音声で力強く鳴く。

相手も自分の敗北を悟ったのか、その表情はどこか諦めの境地だった。

 

「2体の【サイバー・ドラゴン】でプレイヤーにダイレクトアタック!!

エヴォリューション・バースト!!」

 

「うわぁあああ!!!」

 

勝利のブザーが鳴り響くと教師が勝者の名を宣言する。

カイザーは敗者に手を差し出し、彼の手を握った。

周りの上級生達はカイザーとその相手をした生徒に拍手を送り、凄かった、流石だと口にする。

先輩達の言葉を聞きながら【星態龍】は聖星に尋ねた。

 

「どうだ聖星。

あの男なら全力を出すのに相応しいか?」

 

「(いや、もう……

出すしかないだろ。

ってか、出さないと勝てないって)」

 

別に高い攻撃力を出したわけでもない。

それでも彼の落ち着いた雰囲気、威厳、風格。

全てが他の生徒達と違った。

 

「それで、軸はどうする?」

 

「(そんなの、あいつしかいないだろ?)」

 

凶悪な【魔導書】と共に戦うモンスター達。

様々な選択肢が存在するが、聖星が選ぶのはあの人しかいない。

カイザーのデュエルを見届けた聖星はすぐにその場から立ち去り、バリアン達と戦った時のデッキを思い出す。

 

**

 

「え、十代の奴レッド寮に残ったのか?」

 

「あぁ。

聞いていなかったのか?」

 

「あぁ。

初耳だぜ」

 

無事イエローに昇格した聖星は十代の姿を探したが、どこにも見当たらなかったため三沢に確認したのだ。

すると十代はレッド寮の方が自分に合っているという事で昇格を断ったそうだ。

十代らしいと言えばらしいが、少しだけ理解できなかった。

 

「十代の奴、忍耐力あるなぁ。

俺、レッド寮の飯の不味さが嫌だったから昇格したようなもんだぜ」

 

「そんなにレッドのご飯は不味いのか?」

 

「ご馳走がエビフライ」

 

「……俺もお断りだな」

 

もし食事がまだまともなら聖星も断っていただろう。

部屋は1人部屋だし、カードを隠すには困らない広さだった。

PCや工具類だって置くスペースはあった。

だがあの食事の酷さだけは我慢できなかったのだ。

 

「とにかく聖星。

ようこそ、ラー・イエローへ」

 

「あぁ。

これからよろしくな、大地」

 

END

 




Q【スピリットドラゴン】の攻撃って…
Aアニメで2体墓地に送る場合と、6体墓地に送る場合の攻撃名は出ていましたが1体はでていなかったので勝手につけちゃいました(オイ

Q【マテリアルドラゴン】って金色なの?
Aなんか木っぽい体でしたけど、隣に並ぶのが【エメラルド・ドラゴン】なら金色の方が良いかなぁと。
つまり勝手な捏造です。(…オイ

Q【椿姫】【桜姫】【紅姫】が来たんなら【姫葵マリーナ】出そうぜ!
A出したかったのに出なかったんや…orz

Q聖星はレッド寮の食事を入学前に調べなかったの?
Aレッドの扱いが酷いのは知っていたけど、食事まで見てなかったんだ。


そして最近思います。
魔導モンスターに攻撃名、効果名が欲しいと!
ラモール、ルード、ジュノン、トールモンドは思い浮かんだんですけど他が、ね。
とにかく中二病っぽい技名が良いさ!
日本語と英語の意味が食い違っても気にせん!
そんな気持ちで考えています。

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