決まってる通りに回ればいいだけだから、次はどうするかとか悩まなくていい。アトラクションに乗り込むまでの待機時間もあるわけだが、そこも考慮してコースが決められてる。
「わけじゃなさそうだなぁ」
「2時間待ちだって。人気なんだね」
「人気と、あとは単純に人の量だろうな」
これだけの時間をどこでも待つと仮定した場合、どう考えても決められてるコースを最後まで行けない。俺は閉園時間まで粘ってもいいが、ましろを連れてそうしようとは思わない。高校生なら閉園時間までは無理だろうけど、それでもギリギリまで連れ回すのはなしだ。
「……ぁ」
「? どうしたの紅葉くん?」
コースを眺め、待機列長いなぁと眺めていたら気づいてしまった。優先列なんてものじゃない。そんなのは関係ない。今一番大事なのは時間なんてことじゃない。
ましろがいるなら絶叫マシンは無理だという点だ。
「スキップしよう」
「え? でも絶叫系でしょ? 紅葉くんこういうの好きだよね?」
「好きだけど今日絶対に乗りたいってわけじゃないからいいよ」
「でも……私は紅葉くんにも楽しんでほしいな」
「それは嬉しいんだけどさ……。ましろ……服装がさ」
「へ?」
頬を書きながら明後日の方向を見る。指摘されたましろは自分の服装を見直し、一度顔を上げて俺の服の裾を掴んで俯いた。スカートじゃジェットコースターとかの絶叫系が無理だからな。
「……ごめん、なさい……」
「いいよ。また一緒に来たときに乗ろう。それに、馬鹿正直に全部並んでたら最後までたどり着けない」
「……うん」
俺がこういう場で一番楽しむアトラクションが絶叫系だってことをましろはよく知っている。ましろはそこまで得意じゃないから、俺もましろと一緒に乗るのは一つにして、ある程度マシなやつを選んでた。自由に動き回っていい時とか、父親が一緒の時ははしゃいで乗っていたものだ。その時にましろは下で待ってたから、よく覚えてるんだろうな。
自分のせいだと責めてるんだろうな。そんな勘違いをされてはその方が虫の居所が悪くなる。
「てい」
「あぅっ」
だから優し目にデコピンした。
下を向いていた顔が上げられて目が合う。申し訳なさそうに眉を下げられるのは遺憾だな。
「自分のせいとか思うなよ。その服新しく買ったんだろ? それを着てるましろを俺は本当に綺麗だと思ってる。落ち着いた色の服を着ることが多かったましろが、明るい色の服を着てる」
それはきっと勇気がいることだったはずだ。大人しいましろが、たとえ身内である俺相手とはいえ新たな自分を挑戦してきてる。どれだけ不安だったことか。
でも、申し分なくそれが似合ってるんだ。
それを伝えきれているだろうか。
俺はましろの不安を完全に払拭できているのだろうか。
それが分からないから、俺は実感できるまで言うんだ。
「それを選んで着てくれたことが嬉しい。そんなましろと二人でいられることだけでも、俺は十分この日を堪能できてるんだ。だから、そんな顔しないでくれ。ましろの笑顔があれば、俺はそれだけでいいんだから」
「……っ、ぐすっ」
「っ!?」
スーッとましろの頬を涙が伝う。
「なぁぁにましろちゃん泣かしてんだこの野郎ォォォ!!」
「ぐぉぉっ! どっからッ!」
その瞬間突如として現れた着ぐるみ野郎ことシュウに、お返しばかりに首を絞められて激しく揺さぶられた。こいつ力強いから冗談抜きで脳ごと揺さぶられるんだよなぁ!
「何すんだシュウてめ……!」
「誰だそいつは。俺はミッチェルだぜ! ミッシェルにすべてを奪われたミッシェルだ!」
なんでそんな闇が深そうな設定を積んでるんだよ……!
それはどうでもいいとして、仮にもマスコットキャラが暴れるなよなぁ。周りに家族連れいるんだぞ。子どもたちが大勢いるんだぞ。
「パパすげぇよあれ! ミッチェルVer.バイオレンスだぜ! 激レアだぁ!!」
「やっちゃえミッチェル!」
「あははは! やっちゃえー!」
なんだよその設定はぁぁぁ!!
「あ、あの……紅葉くんを、放してください」
「御意」
「単純だなぁお前」
ましろのお願い一つで止まるってどうなんだ。え、女の子のお願いは絶対に守る? なんだその設定。もう完全にこの馬鹿用の設定じゃねぇか。
おかげさまで解放されたわけだし、それには感謝しよう。ましろには絶大の感謝。シュウには何か仕返しだな。
「大丈夫?」
「ましろのおかげで。まだふらつくけど、すぐに治る」
シュウに小言でも言ってやろうかと思ったのに、俺を解放した途端どこかへと消えていった。あのナリをしといて身軽なのは素直に凄い奴だとは思うよ。
少しだけ休憩して次の場所へと向かう。行けるアトラクションは限られたけど、逆にそれはそれでありがたいな。好みが封じられた状態だと、普段行かない場所にも行くことになるわけだし。ましろが苦手な場所もあまり行かなくてすみそうだ。
──そんな事を思っていたこともありましたよ
「お化け屋敷?」
「一応そうみたいだけど、なんでこんなファンシーな外装なんだ……」
中は迷路になっているようで、入る前にリストバンドを渡される。それはストップウォッチみたいなものらしく、入ってから出るまでの時間が記録されるのだとか。一応どんなタイムでも景品があるらしい。最速タイムを塗り替えたら特賞だとか。
そういうのがあると記録を塗り替えてみたくなるんだが、迷路ってのがこれまた困りものだ。そしてましろはホラーに弱い。ここファンシーだけど。
「この規模の施設で迷路とか、山梨が泣くぞ」
「けどここは可愛らしい感じだよ? これなら私も頑張れるかも」
「ましろが嫌ならやめとくけど」
「ううん。さっきは駄目だったし、ここは私が頑張ったら何とかなるんだもん。やってみよ」
そう言って入ったのも束の間。
「ひゃぁっ!?」
外装のファンシーさが完全に詐欺でした。
「うぅっ……」
「大丈夫かましろ」
「だ、だいじょう──」
「いらっしゃぁい」
「──びゃぁぁぁぁ!!」
「ふぇぇぇ!?」
「いやなんで脅かす側が怯えてんだよ!?」
ましろを脅かせたスタッフがましろの悲鳴に驚き、そのスタッフに泣きつかれる。暗くてあまりよく分からないが、声と雰囲気からして女性スタッフらしい。この人ここ向いてないんじゃなかろうか。
「ゆっくり呼吸して落ち着いてください」
「……ふぅー。すみません、ありがとうございます」
「いえいえ。違う場所を担当した方がいいのでは?」
「きょ、今日だけなので。頑張ります!」
そこはかとなく不安だ。まぁでも、本人が頑張るって言うんだから応援しよう。そういうとこはましろにもあるな。
「あれましろは!?」
「た、たぶん奥に……」
「追いかけます」
「で、でもこの中迷路だから──」
「きゃぁぁぁ!!」
「これで分かります」
「……そ、そうですか。頑張ってください」
「ありがとうございます」
ましろの悲鳴を頼りに迷路内を駆け回る。たとえ違う方に誘導されようと、すぐに正しい道に行けばいいだけ。虱潰しになろうと全力で走り回ればましろに追いつけるだろ。
「あぁ、この暗闇に怯える仔猫ちゃんを助けられない役回りだなんて……。なんて儚いんだ」
「その女の子はどっち行きました!」
「この道の突き当りを右だよ」
「ありがとうございます!」
……あれも驚かす側のスタッフ?
「コロッケ美味しいよ!」
「自分で食ってろ元凶小娘!」
「あれ? 紅葉くんだ! 何してるの?」
「人を探してんだよ! お前くらいの身長で白い髪の子!」
「あの子ならコロッケ受け取らずにあっち行ったよ。ビュビュンって走ってた!」
怖さで限界突破してるのか。道理で全力で走ってても追いつけないわけだ。受け取ったコロッケをはぐみちゃんの口に押し込んでましろを追いかける。どれだけ進んでるのか分からないが、そんな事よりもましろだ。
「ばあぁぁ……」
「そんなやる気ないミッシェルはどうかと思うぞ……」
「普段のミッシェルとのギャップでいけるかなぁって。暗いし。ここ一応子供向けだし」
「どこが!? わりと本格的にホラーだよな!?」
作りが本格的な場所だ。普通に大人向けのホラーになってる。たしかに驚かすスタッフは子供向けかもしれないけども。
「ちなみに白い髪の女の子はあっち行ったよ」
「そりゃどうも!」
親切なミッシェルに感謝して止めていた足を動かす。全力で動き回ってるから体力もキツイ。息は上がってるし、心臓が破裂しそうなぐらい鳴ってる。
ミッシェルが教えてくれた道はもう一本道で、そこを最後まで進んで行ったらゴールで外に出てしまった。
「紅葉くん!」
「っと」
外に出たらましろに飛びつかれた。肩を震わすましろを落ち着かせようとそっと頭を撫でる。
「ごめんなさい……。私……びっくりしちゃって……」
「ましろが無事でよかったよ」
「おめでとう~! 凄いわ! 最速記録よ!」
「「へ?」」
ましろと再会してると隣からベルをカランカラン鳴らしながら少女が飛び出してくる。華奢な体からは想像できないほどに身軽な動き。新体操でもやったらいいんじゃないですかね。
「あれ? 弦巻こころ……?」
「ふふっ、ちゃんと来てくれたのね! 嬉しいわ!」
「……紅葉くん?」
「たぶんましろのそれは勘違いだ」
ましろの冷たい目が痛い。グサグサ胸に刺さる。
誓って弦巻こころと特別な関係はない。俺とこの子の間にあるのは、被害者と加害者の関係だ。ちなみに俺が前者。
「はいこれが景品よ!」
「なにこれ?」
「私は中身を知らないわ! でも、二人にとってとーっても素敵なものだって聞いてるわよ!」
「知らんのかい! ……まぁでも、ありがとう」
「お礼なんていらないわよ。だってそれは二人で手に入れたものだもの!」
どこまでも明るい子だな。こういう子のことを『太陽のような人』とか『お日様のような人』とか、そんな言い方をするんだろう。
「まだまだ楽しんでいってちょうだい! とーっても笑顔になれるわよ!」
「そうする。それじゃ次行こうかましろ」
「うん。弦巻さん、ありがとうございます」
丁寧にお辞儀したましろが外に出ていき、俺もその後に続いて出ようとしたところで呼び戻される。何か言い忘れたことでもあるのかと振り返ると、視界いっぱいに金色の少女が映る。両手で頬を挟まれ、目を強引に合わせさせられる。その目はどこか憂いてるようで、寂しげな笑顔だ。
「誰かに笑顔でいてもらうなら、あなた自身が笑顔でないと駄目なのよ」
「なに、言って……」
「笑顔にはいろいろあるって知ったわ。人によってちょっと出方が違うのも知ったの。でもあなたのそれは全然違う。笑顔になり切れてないわ」
「ーーッ!」
「リュウが駄目だって言うから私たちは何もしないけれど、コツくらいは伝えようと思うの」
コツ、ね。笑顔になることにコツとかあったんだ。
「──あなたが心から楽しむの! そうしたらちゃんと笑えるわ!」
弦巻から
地図を確認して道を確かめながら、隣を歩くましろに視線を向ける。それに気づいたましろが不思議そうにする。そんなましろの手をそっと握った。
「へっ!?」
「さっきみたいにはぐれたら大変だからな」
「そ、そうだよね」
「……建前だけど」
「え?」
「なんでもない」
自分が楽しむ、か。それなら少しだけ昔みたいに気楽でいよう。
紅葉くんと遊ぶのは本当に久しぶりで、それが楽しみだったし、初めて着るような服で行くのは不安だった。リサさんと白金先輩には太鼓判押されてたし、リサさんには朝メイクしてもらった。すっごい変わる感じじゃなくて、少しだけ小綺麗にしてもらう感じのやつ。
こういうのも慣れてるの凄いなぁって思った。リサさんがメイクしたらどこまで綺麗になっちゃうんだろ。モテる人ってあんな感じにいろいろ出来て、綺麗で、優しくて凄い人なんだよね。
「紅葉くん……あのね。私、その……」
「バンドのことか?」
「っ! なん、で……」
勇気を振り絞って言おうとしたことは、紅葉くんにお見通しだった。怒ったりしてなくて、すごく優しい雰囲気。なんでそうなるのか分からない。
私は……紅葉くんとの約束を──
「ましろは優しいから。思い詰めてるのはそれかなって。コンビニでリサがバンドの話をした時に気まずそうだったし」
「……私、紅葉くんと約束したのに……」
「ましろが笑えるならそれでいい。それは俺の本心だ。俺に言ったことを守ろうとして苦しむのなら、ましろはこのままバンドを辞めればいい。けど、もし引っかかってることにそれ以外にもあるのなら、全部精算してほしいかな」
全部の……精算……。
「メンバーが決まってるのなら、メンバー全員が納得できるまで話せばいい。一度みんなでライブを見るのもいいかもな。バンドってライブしてなんぼだから、目標を再確認するのは大切だ」
「私は……」
「悩んで自分で決めるんだ。ましろはましろ自身のために生きてるだろ? 自分の気持ちと向き合ってみたらいい。誰かとぶつかって分かることもあるけどな」
「あ、紅葉くんはよく喧嘩してたもんね」
「喧嘩するほど仲がいいってな」
紅葉くんにとっては恥ずかしいことなのかな。頬をかきながら目を逸らした。
たしかに紅葉くんはバンドの人とよく喧嘩してた……らしい。その場にいたわけじゃないから、話に聞く程度だったりする。
私の場合は……私たちの場合はどうなんだろ。それもまだわからない。けど、きっとそれがわかるのも大切なことなんだ。
「そういやRoseliaも喧嘩して解散危機になったことあるってリサが言ってたな」
「そうなの? リサさんたちが喧嘩するの想像できないかも」
「ましろっていつの間にリサを名前呼びに変えたの?」
「昨日の夜。寝る前に話してる時だよ」
「なるほど」
夕方になって、迷路の時に貰った特典を活用してる。今いる場所はパレードが上から見える特別な場所。完全個室でご飯まで貰えるのは豪華だよね。普通の家庭じゃ味合わないような豪華な食事だし。お父さんとお母さんには悪いなぁって少し罪悪感。
迷路の後もいろんな所を一緒に回った。スカートを気にしなくていいアトラクションだったり、屋内の3Dアトラクションだったり。本当にいろんな場所を紅葉くんと周れた。もちろん移動中は手を繋いで。
昔みたいだなって懐かしくて楽しめた。お互い成長してるからもちろん違いもあるわけで。それがなんだか
「周りの人にはどう見えるのかな」
「なにが?」
「私たちのこと。その……こ……」
「恋人か──」
だったら──
「──あるいは兄妹か。実際従兄妹だけど……どうだろうな」
「……わかんない、よね」
胸がズキズキするや。今週末はこんなのばっかり。リサさんはコレを教えてくれなかった。
食後にテラスに出て、始まったパレードを二人並んで眺める。パレードを見てる人たちでも男女のペアはいて。私にはその人が恋人に見えるのに。私たちのことは兄妹に見えちゃうのかな……。
「ましろ? パレードは──」
「いいの! ……今はこうさせて……」
「……うん」
紅葉くんの胸に飛び込む。ううん、縋りついてる。この胸の痛みが分からない。この寒さが何か分からない。なんで私がこれだけ苦しいことにならないといけないの? なんで私は……
なんで……
こんなにも紅葉くんの側にいたいの?
「風が冷えてきたな」
紅葉くんの腕が回される。私を優しくキュッて抱きしめてくれて、そうしてもらってたらなんだか痛みが和らいでくる。
私が泣いてた時はいつもこうしてくれてたな……。そういう時しかしてくれなかったけど……。
そっか。私は今、心が泣いてるんだ。
わからないことだらけで、悲鳴を上げてるんだ。
これをどう言葉に直すんだろ。昔みたいにしたら答えが分かるのかな。こうしてもらってた時って、何を言ってたっけ。
えっと……あぁ、そうだ──
「紅葉お兄ちゃん」
「ん?」
「
「うん。俺も好きだよましろ」
今回で一区切りです。作中での週末の3日間(金、土、日)が終わりました。
モニカのバンドストーリーが出て私が消化するまで更新が止まります。最短で一週間かからないくらいですかね。