秋桜の揺らぎ   作:粗茶Returnees

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11話 再確認は必要。ヨシ!

 

 私が通ってる月ノ森女子学園は、いわゆるお嬢様学校。挨拶とかでも「ごきげんよう」っていう人はいる。"普通"はそれが珍しい挨拶なんだけど、ここではその挨拶だって"普通"に含まれる。お金持ちの家の人とか、才能のある人がこの学校では多い。ここを出て活躍してる人だって珍しくない。

 そんな学校なんだけど、そこに通う私はお金持ちってわけでもなくて、周りの人みたいに才能があるわけでもない。本当に平凡で、体力テストの結果とかもパッとしない。ここに入るために勉強を頑張ったけど、入ってみればやっぱり埋もれるから勉強ができるとも言えない。

 

「ライブも休みの日にしてくれたらいいのにな~。倉田もそう思わね?」

 

「あはは……、たしかにそうだね」

 

 そんな私にも付き合ってくれる人はいて、そんな人たちと一度バンドを組もうとした。その内の一人が今話しかけてきた桐ヶ谷透子ちゃん。ノリが軽くてコミュニケーションが取りやすい。入学してすぐに人気者になったし、SNSでも人気が高いんだとか。

 

「それが普通なんじゃない?」

 

「アマなら珍しくもないのかもしれないけどさ~。学校帰りなのに八潮もよく来たな」

 

「別にこれくらい構わないでしょ。校則違反ではないのだから」

 

「じゃあ買い食いは?」

 

「それは校則違反でしょ!」

 

「ま、まぁまぁ」

 

 透子ちゃんにツッコミを入れたのは、クラスの委員長の二葉つくしちゃん。真面目で頑張り屋さんな人。バンドを組もうって透子ちゃんと一緒に言ってくれた子。たまに空回りすることもあって、だからかクラスの人に好かれてる。

 

「しろちゃん。平日のライブって普通なの?」

 

「普通だと思うよ。週末でやることのほうが多いけど、平日も珍しくないって聞いたよ」

 

「そうなんだ~。変わってるねー」

 

「えっ……。ほ、ほら、その分チケット代が安くなって、私たちみたいな高校生も来やすいし。今回はパスパレも来るらしいから、その予定合わせもあって平日なんじゃないかな」

 

「パスパレはアイドルだもんね」

 

 たぶん広町さんと面識のある誰もが、変わってるなんて言われたくないと思う。紅葉くんなら笑って流すと思うけど。

 平日なら安くてみんなで行きやすいし、放課後にこうして寄って行けて楽しい。

 この少し変わってる子こと広町七深ちゃんは、ちょっとズレたところがあるけど、いい人だって私たちは知ってる。本人はその事を気にしてる節がある。直接は聞いてないし、それをするのは怖いかな。

 

「八潮はお金回り気にしなさそうだよな」

 

「お金は演者に対する対価だもの。その人たちの演奏にそれだけの価値があるのか。高いか安いかでの話はそこで決まるわ」

 

「……じゃあ、もし満足できなかったら?」

 

「お金と時間の無駄。そう判断されるだけよ。もちろんそれを覚悟して、自分たちに自信があるからライブをするのでしょうけど」

 

 ドライな発言をするのは八潮瑠唯さん。学年で一番の才女で抜群なスタイルも相まって、すでに周りから憧れの的になってる。八潮さんのことを呼び捨てにしてるのは、先生とか目上の人ぐらい。

 

「そういえばしろちゃんは知り合いにバンドマンいるんだよね? その人は出ないの?」

 

「知り合いというか従兄妹なんだけどね。……紅葉くんのバンドは先月で解散しちゃったから」

 

「そうなの? なんで?」

 

「あれか。音楽性の違いってやつか!」

 

「ううん。それは違うと思う。3年間続いてたバンドだし、メンバーも仲良かったみたいだから。その……解散理由は私も知らないんだ」

 

「3年……ってことは、私たちみたいに高1から?」

 

 解散周りの話をすぐに避けてくれた。そういう気配りをしてくれる二葉さんの優しさというか、面倒みの良さはありがたい。抜けてる時もあるけど、そこはやっぱり愛嬌ということで。

 

「そう聞いてるよ。リーダーさんに誘われて始めたって」

 

「へ~。時期的にガールズバンドの黎明期ってやつ?」

 

「ううん。リーダーさんは女の人だけど、私の従兄妹は男の子だし、ガールズバンドとは言えないんじゃないかな」

 

「その二人付き合ってたりして」

「それはないもん!」

 

「え?」

 

「倉田さんも大声を出すことあるのね」

 

「あっ……。と、とにかく! 二人が付き合ってるとかはないから……!」

 

 八潮さんの冷静な言葉に引き戻されたけど、否定しなきゃって焦ったらまた熱くなっちゃった。そんな私の反応を見て黙っているわけもなく、透子ちゃんが目を輝かせてグイグイ迫ってくる。二葉さんも止めてくれないし、広町さんも透子ちゃんの真似をして顔を近づけてくる。

 

「倉田にとって従兄妹はどういう存在なわけ?」

 

「しろちゃん教えて~」

 

「えぇ……」

 

 困って八潮さんの方に視線を向けて助けを求める。八潮さんはいつも視線がちょっと鋭いんだけど、今はすっごく冷たいものになってた。一度ため息をついてから口を開く。

 

「あなたたち、他人を困らせるのはどうかと思うわよ」

 

「……これ普通じゃない?」

 

「私は普通じゃないと思うわ」

 

「そっかぁ。しろちゃんごめんね」

 

「う、ううん」

 

 八潮さんが止めてくれて、広町さんがあっさり引き下がってくれた。透子ちゃんは渋々って感じだったけど、後から追求とかもされなさそう。ところで二葉さん。ちょっと残念そうにしてるの見えてるからね。

 

「細かい関係はともかくとして、倉田とその従兄弟の関係は良好なわけだろ?」

 

「うん」

 

「その人もライブ見にくるのか? バンドやめたって行っても、音楽を全否定する勢いとかじゃないんだろうし」

 

「……それは、ちょっとわかんないや」

 

「えっ」

 

 その頃の紅葉くんを思い出すと気持ちがどんよりしちゃう。それが周りにも伝わって、話題を変えてくれた透子ちゃんが責められるような状態。

 

「あの時は……音楽を嫌いになりそうな感じだったから。でも、たぶん大丈夫だよ。音楽のこと話題に出しても嫌な顔しないから」

 

「あーよかった。あたしやらかしたかと思った」

 

「あはは、ごめんね透子ちゃん」

 

「それで倉田さん。その従兄弟さんは今日来るの? 来るならリーダーとして挨拶しないと駄目だよね」

 

 いや別にリーダーとして、とかはなくていいと思うんだけど。そんなに大層な人じゃないよ。

 

「今日のライブは来ないって言ってたよ」

 

「それはやっぱりバンド解散が尾を引いてたり?」

 

「ううん。今日はどうしても外せない予定があるんだって」

 

「そうなんだ。じゃあご挨拶はまた今度の機会にでもしようかな」

 

 なんか私が恥ずかしいからそんなに畏まったことはしてほしくないんだけどな。でもやっちゃうんだろうね。真面目だから。

 

「外せない予定ってなんだろうな? 倉田が頼み込んだら予定空けそうな気がするのに」

 

「透子ちゃん会ったことないよね?」

 

「ないけど。男って女子の頼みなら何でも聞く生き物じゃねぇの?」

 

「そんなことはないと思うよ!?」

 

「そっかぁ。うちの親だけか」

 

 どんなご家族!?

 気になるような気にならないような。たぶん知らなくていい世界のことだと思うな。透子ちゃんのご両親……ちょっと会ってみたい気もする。できればお母さんの方だけ。

 

「ライブハウスには初めて行くのだけど、何か決まりごととかあるのかしら?」

 

「ふふん。それはリーダーの私が説明するわね!」

 

「つーちゃん嬉しそうだね~」

 

 二葉さんが八潮さんにライブハウスのことを話していく。私たちもそれを聞きながらライブハウスへと足を運んだ。

 

「いや待て二葉! ペンライト振り回すのも限度はあるぞ!?」

 

「えっ!?」

 

 ……やっぱり少し抜けてる。

 

 

 ◇

 

 

 

 大学の授業が終わると家に戻ることなく集合場所に向かう。大学から家までは近いんだけど、授業が延長されてその余裕もなくなった。荷物を置く時間くらいはあるという甘い目論見は、教授の気まぐれによって呆気なく破綻させられた。授業開始が遅れることもあれば延長もある。早く終わる時もある。その違いは教授次第。それが大学の長所にして短所だと思ったり。

 信号が変わるのを待ちながらそんなことを思い、時間を確認してまだ間に合うことに安心。急げば間に合う。

 

 ましろはたしか友達とライブを見に行くと言ってたっけ。誘いたそうにしてたが、先手を打って丁重にお断りしておいた。バンドのことを決めるその場に、部外者の俺がいるのはどうかと思う。

 それはましろには言わなかったけど、今日は今日で予定があるからな。こっちの方を優先させてもらった。ましろに頼まれたとしても、今日という日は首を縦に振れない。

 

「ギリギリだな紅葉」

 

「授業が長引いたからな。おかげで荷物も置けなかった」

 

「時間にゆとりを持てるように設定しないからだろ」

 

「耳が痛いな。半分」

 

「半分かよ!」

 

 やっぱりシュウとリュウは先に来ていた。二人は俺と違って軽装。違う授業を取ってたからか、荷物は家に置けたようだ。

 

「んで、あとはトラ(・・)か。あいつ来るか?」

 

「来ないなんて一番考えられない奴だけどな」

 

「そりゃたしかに」

 

 一人足りないことにシュウが訝しむ。メンバーの中で、今日の予定で、不参加ということが一番考えられない奴だ。来なかったら事故に巻き込まれたのだと疑っていい。

 

「トラなら現地集合だけど?」

 

「そうだった。この駅が家からの最寄りじゃないもんな」

 

「聞いてないぞ!?」

 

 シュウ一人だけが喚く。それを適当にあしらいながら、俺達は改札へと向かう。

 三人でここに集合しているのは、ただ単に俺達三人の家の最寄り駅がここだから。残りの一人の最寄り駅は1つ隣の駅だ。現地集合ってことにしてるし、目的の駅で待ってるわけでもないだろう。

 

「1ヶ月ってのも早いもんだな」

 

「大学に入ると一気に体感時間が変わったな」

 

「本当にな。先輩が言うには20歳でまた体感が変わるらしいぜ?」

 

「まじか~」

 

 10代から20代に変わるだけでそんな変わるものなのか。そればっかりはその時が来るまで分からないんだろう。あまり来てほしくないものだが、逃れようのない現実(未来)の話。流れに任せるしかない。

 

「さてさて、1ヶ月ぶりのリーダーとのご対面だな」

 

「……そうだな」

 

 1ヶ月前のあの日。

 

 運命の日。

 

 あの日に俺達のバンドは解散した。

 

 




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