秋桜の揺らぎ   作:粗茶Returnees

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13話 ファーストコンタクト

 

 ましろはバンドメンバーと仲直りして再出発した。電話越しだったけど嬉しそうに話していたし、この前のライブで初心を思い出せたようだ。この辺で有名になったポピパやAfterglow。大会にも出てるRoseliaだったり、ぶっ飛んだライブをするハロハピ。芸能活動をしてるパスパレが集まったガールズバンドパーティー。それがましろ達の背中を押した。

 これからも何度だって壁にぶつかるだろうし、喧嘩だってするかもしれない。それは先の話だし、当面は楽しくみんなで活動していけるだろうな。

 

「紅葉さん機嫌がいいですね~」

 

「そうか?」

 

「はい。なんか今なら奢ってくれそうな感じがします」

 

「普段の俺の評価どうなってんだ」

 

 普段不機嫌そうにしてる覚えもないし、ケチ臭く生きてるつもりもない。そもそも、この子とシフトが被る頻度が増えたのも最近の話だよな。単に俺がよく入るようになったからだけど。

 

「モカちゃんの面白コンテンツですかね~」

 

「本人を前によくそんな事を言えたな青葉!」

 

「あ、リサさんがセットじゃないと半減ですよ? ご安心くださ~い」

 

「どこに安心する要素があるんだ!」

 

「もう二人ともちゃんと仕事しなよ~」

 

 俺と青葉が駄弁っていると、POP広告を貼っていたリサから注意が飛んでくる。店長に相談して自作したらしいのだが、リサが作るPOP広告は売れ行きに影響が出るほど効果があるようだ。やたらめったら作ればいいわけでもなく、何点かにだけ作るからそこも効果的とか何とか。特に子供向けのものは絶大な効果らしい。

 それ以外のところはリサのファンが確実に買っていくんだけど、そこは店長とリサには内緒にしようとバイト内で話し合ってる。

 

「けどリサさん。やることがないんですよ~」

 

「まぁコレはアタシがやりたくてやってるだけだしね」

 

「なので~、こうやって話すことで、紅葉さんがサボらないように見張ってるんですよ~」

 

「サボらねぇよ」

 

「見張りはそのまま続行でよろしく~」

 

「りょーかいで~す」

 

「おい」

 

 ひらひらと手を振るリサに、青葉が敬礼で返す。俺の意見をガンスルーすることは珍しくもない。リサを無言で睨んでも変わらずひらひらと笑顔とともに手を振ってくるだけだ。

 

「リサさんと進展ありました~?」

 

「お前が期待するようなことは微塵も起きちゃいないぞ」

 

「え~。っと、お客さんが来そうですね」

 

「月ノ森の制服……ここまで来るなんて珍しいな」

 

「よく知ってますね~。犯罪ですよ?」

 

「知るだけで!?」

 

 まさか学校の制服を知ってるだけで犯罪者扱いされるとは思ってなかった。冗談でも通報なんてしないだろうが、冗談でバイトリーダーあたりに曲解を招く言い方で話はしそうだ。

 そうならないように釘を差していると、青葉の予想通りその子達が中に入ってきた。三人組でそのうちの一人はよく知ってる。従兄妹のましろだ。

 

「しゃっせ~」

 

「寿司屋?」

 

「あー、バレちゃいましたか~。実はそうなんです~」

 

「マジで!?」

 

「何を客に嘘ついてるんだ……」

 

 同じ高校生が相手だからって適当に接客するんじゃない。そうしても大丈夫な相手だと見抜いたんだろうけど、それとこれは話が別だ。

 

「なぁなぁ、こっちの人が倉田の従兄妹なのか?」

 

「そうだよ。大学1年生なんだ」

 

「初めまして。倉田ましろの従兄妹の鷺森紅葉です。君たちはましろの友達でいいのかな?」

 

「はい! 倉田とバンド組んでる桐ヶ谷透子です! よろしくお願いします!」

 

 明るい髪と同じように明るく元気な少女だ。ハキハキとしてるし、行動力もあるんだろう。

 その子の隣にいるましろより少し小さい子が、続いて自己紹介する。礼儀正しくぺこりと頭を下げるし、お嬢様らしいのかスカートを軽く摘み上げてた。

 

「ごきげんよう。倉田さんと同じクラスで委員長を務めている二葉つくしです。私も倉田さんと同じバンドで、リーダーをしています。以後お見知りおきを」

 

「何固く挨拶してんだよ二葉。いつも通りでいいって」

 

「何を言っているのですか桐ヶ谷さん。私はいつもと同じですよ? ねぇ倉田さん?」

 

「えっと……」

 

 桐ヶ谷の冷めた様子と、ましろの困った笑顔で把握できた。この子は今皮を被っているんだと。でもま、それは後ろめたい理由とかじゃないんだろう。人の良さは滲み出ているのだから。

 

「彩先輩みたいな空気を感じますね~リサさん」

 

「あはは、だね~」

 

 リサと青葉は共通の知り合いに似ているのだと話す。たぶんパスパレの丸山彩の話だろう。頑張ろうとしてやらかすことも珍しくないらしいし。ということは、二葉もやらかすことがあるのかな。

 それをわざわざ引き出させるのも忍びない。この子がそうしたがっているのなら、俺はそれに合わせるだけでいいだろう。

 

「今日はどうしたんだましろ。月ノ森からここまで来なくてもコンビニくらいあるだろ」

 

「そうなんだけど、透子ちゃんと二葉さんが紅葉くんに会ってみたいって。あ、バンドメンバーはあと二人いるんだけど、今日は都合が悪くて」

 

「その二人はまた会う機会があればってことで」

 

 俺なんかに会っても面白くないだろうに。芸能人がバイトしてるとかなら、そこに行くってパターンがあるだろうけど。

 

「それで、会ってみてどうですか~? うちの紅葉さんは」

 

「うちのって何だよ」

 

「うーん、倉田が言った通りの人だなって感じですね」

 

「ましろ何話したの?」

 

「変なことは言ってないよ」

 

 そこは疑ってないけども。単にどういう話をしたのかが気になる。他人のことならまだしも、自分の話をされたと聞いてはどうしてもね。

 

「紅葉休憩行っちゃいなよ。勤務中のお喋りは感心しないぞ」

 

「リサに言われてもな……」

 

 どうせ休憩は回さないといけないし、ましろ達と話すのはまだまだ続きそうだ。休憩ついでに話すのも悪くないだろう。申し訳程度のイートインスペースもあることだしな。 

 タイムカードを押して休憩に入り、一応シャツだけ着替える。従業員が女子高生と駄弁ってたなんて言われるのも癪だからな。そういうしょうもないリスクは取り除いておこう。

 

「すみません休憩のところを」

 

「休憩は気分転換みたいなものだし、気にしないでいいよ。それより、ここに来たのは何か話したいことでもあったのかな? それともただ単に顔を見るだけ?」

 

「どっちもってところですかね。あたしは会ってみたいって気持ちが強かったですし、二葉は話したいことがあるって言ってましたから」

 

「なるほどね。質問とかなら答えられる範囲は答えるよ」

 

 どういう話題を持ってきたのかは知らない。それでも一応予防線を張っておく。俺にも話したくないことってあるからな。

 リサに頼んで4人分の飲み物を用意してもらって、それを飲みながら二葉が口を開くのを待つ。ましろみたいな子は年上と話す時に言葉が詰りがちだけど、二葉はそうでもない気がする。

 

「鷺森さんはバンドをしていたってお伺いしたのですが」

 

「そうだね。高校時代はバンドを組んでいたよ」

 

「どういうバンドだったんですか? その、うちは一人がバイオリンなので、バンドとしては変則的だと思いまして」

 

「バイオリンは変則的だね。初めて聞いたよ」

 

 それをやっていたプロがいるにはいるが、あれはあの時のライブでしか披露されてないって話だし。当事者に聞ければいいんだろうけど、そのコネを持ってる奴はあいにくと簡単に会える場所にいない。

 でもま、一応話しとくか。映像持ってる奴いたし、借りてみるのもいいな。

 

「プロでやった人はいる。バンドに混ざってバイオリンを弾いてた人はね。知り合いに頼んで、その時の映像が借りられたらましろに渡すよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「あとうちのバンドの話か。うちも少し珍しいかもしれないな」

 

「そうなんですか?」

 

「その辺りはましろから聞いてないんだ?」

 

「はい。バンドのことで倉田から聞いてるのは組んでたってことだけですよ」

 

 それ以外だとましろは何話してるんだろうな。どうやらバンドの話で軽く話題に出されたってだけじゃなさそうだ。何をどう話したのかでも印象が変わるし。桐ヶ谷はましろが言った通りとか言ってたし、変な印象は持たれてないんだろうけど。

 ちらっと横を見たらましろが慌てて視線を逸した。そんな反応をされると本当に何を話したのか追及せざるを得ないんだよな。後日会った時にでもするか。

 

「うちのバンドはツインボーカルでやっててね。メンバーは5人。ボーカルが二人、ギターとベースとドラムが1人ずつ。ドラムはライブの時に来てくれるってやり方だったから、準メンバーって感じだけど」

 

「? 一緒にライブしてたのにメンバーじゃないんですか?」

 

「本人がスタジオミュージシャンでさ。うちのリーダーの勧誘を断ったってのもある」

 

「なんかややこしいですね」

 

「俺達もそんなに気にしなかったから、結局最後まで準メンバーだったよ」

 

 桜愛は事あるごとに誘ってたけどな。踏ん切りがつかなかったのかな。タイミングを逃したらやりにくいこともあるし。

 

「鷺森さんはどれやってたんですか?」

 

「ボーカルだよ。俺とリーダーの二人でボーカルやってた」

 

「それなら倉田さん。これから鷺森さんに教えてもらったらいいんじゃないかな」

 

「それは……」

 

 ましろが髪を弄りながらこっちの様子を見る。一部しか知らないにしろ、あの時期を知ってるから気が進まないんだろうな。解散の後は気が荒んでたし。でも、ましろ自身は自覚ないだろうけどその時に助けられてるんだ。それを返すくらいのことはしないと筋が通らない。

 

「相談に乗るって形でしたらいいんじゃない? ましろが行き詰まった時にさ」

 

「リサ……」

 

 俺の真後ろに立って両肩に手を置いたリサがそう言う。そろそろ休憩も終わるってことなんだろう。高1の少女たちの帰りが遅くなるのも忍びない。話を切り上げろって暗に言ってるのもある。

 

「いつの間にましろを呼び捨てに?」

 

「前にね~。それよりも、紅葉とましろはどうするの?」

 

「そういう形でなら協力できると思うぞ」

 

「よかったぁ。紅葉くんよろしくね」

 

 安堵の笑みを浮かべたましろを見やりつつ、席を立って空になった飲み物の容器を捨てる。ましろ達も帰宅するために席を立ち、見送っていると桐ヶ谷が思い出したように振り返った。

 

「鷺森さんのことあだ名で呼んでいいですか?」

 

「変な呼び方じゃなかったら」

 

「じゃあ、読み方を変えてコウ(・・)さんで!」

 

 そう言った瞬間リサが俺の手を握る。そっちを向いたら思い詰めたような顔をしていて、なんでリサがそんな顔するんだよって苦笑した。

 

「心配性だなリサは」

 

「……大丈夫なの?」

 

「多少はね。悪い桐ヶ谷、その変え方はやめてくれ」

 

「? じゃあ無難に紅葉さんって呼びますね」

 

「ああ。悪いな」

 

「あのー、私もそう呼んでいいですか?」

 

「もちろん」

 

 そう言うと二葉が嬉しそうに頬を緩め、便乗したことを桐ヶ谷に指摘されていた。それをよそにましろがジーッとこちらを冷めた目で見てきて、その視線の先にはリサに握られている俺の手。気づいたリサが慌てて手を離して苦笑いした。

 

「ほうほう。知らぬ間に紅葉さんもやりますな~」

 

「モカはあとでゆっくり話そうか~」

 

「あはは~、遠慮させてもらいますねリサさん」

 

「お仕事中に失礼しました」

 

 三人を代表して二葉がぺこりと頭を下げた。バンドではリーダーを、クラスでは委員長をしてるようで、それらしくしっかり者でいたいのだとか。

 

「もう知ってるとは思うけど、ましろはネガティブなところがある。けど、頑張れる子だからさ、これからも仲良くしてほしい」

 

「ちょっ、恥ずかしいよ……」

 

「ふふっ、もちろん知ってますよ。倉田さんの良いところも悪いところも」

 

「でもそれ全部引っくるめて一緒にやっていくって決めたんで。倉田はあたしらの友達ですから」

 

 店を出ていった三人を見送り、接客を一人でこなしていた青葉のヘルプにリサが入る。それを捌いたら青葉がリサに詰め寄られていた。助けに入る理由もなく、俺は更衣室で制服へと着替えて休憩を終えた。

 

 

 

 

 

『紅葉……コウヨウって名前なのね!』

 

『いや、くれはだよ』

 

『コウって呼ぶことにするわね!』

 

『聞けよ!』

 

 




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