秋桜の揺らぎ   作:粗茶Returnees

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14話 注意報は信号で言う黄色

 

 ましろ達は練習場所を確保することができて、順調な滑り出しとなっているらしい。ガールズバンドのブームが起きている今では、スタジオの確保も難しくなっているとか。常連客となっているバンドですら、前ほどの頻度では借りられなくなったとリサがぼやいていた。

 そんな状況で練習場所を確保する方法は二つ。一つはコネだな。仲が良ければ確保しといてもらえる。Roseliaもそのおかげでなんとかなってるんだとか。それでも頻度は減らされるあたり、確保とは言い難いか。

 もう一つは、スタジオ以外で練習場所を確保するというもの。佐藤のとこはそうやってるようだし、ポピパやハロハピもそうらしい。そして、ましろ達のバンドもそうやって練習場所を確保している。

 

「ごきげんよう。広町七深で~す。しろちゃんたちと同じバンドに入ってます」

 

 今目の前にいる少女が、その練習場所の提供者。ましろと同じバンドにいる少女の一人。独特の雰囲気があって、ふわふわした印象。

 

「初めまして。鷺森紅葉です。ましろがお世話になってます」

 

「いやいや、しろちゃんに助けられることも……あるかもしれません」

 

「はははっ、軽くは聞いてるよ。ましろが迷惑をかけてしまったみたいで、ごめんな」

 

「いえいえ。私はそういうのをお互いに受け入れられたらなぁって思うので。友達ってそんな感じじゃないですか?」

 

「広町は優しいね」

 

 街中でばったり会って、向こうが一方的に俺のことを知っていたというこの状況。名前はともかくとして、顔がバレてるのはましろが原因かな。性格を考えたら、そういう流れになって見せたってところか。

 

「俺のことが分かったのは、ましろに写真でも見せてもらったから?」

 

「そうです。しろちゃんと廊下で話してて、その流れで見させてもらいました~。とーこちゃんとつーちゃんはこの前会ったって聞いてますよ」

 

 とーこちゃんとつーちゃん。とーこの方は桐ヶ谷のことか。つーちゃんが二葉か。ましろのことをしろちゃんって呼んでるし、独特にあだ名でもつけてるんだろうな。

 

「あとはるいるいと会えばメンバー制覇ですね」

 

「そんな目的を持ってるわけじゃないけどな。広町とも偶然会ったわけだし」

 

「私はくぅさんに会えるかな~ってぶらぶら歩いてたんですけどね~」

 

 くぅさん……早速あだ名をつけられたな。

 

「探してたのか? それならましろに言って予定合わせてもらうとかできただろ」

 

「会えたらいいな~くらいのノリだったので」

 

「なるほど。じゃ、とりあえずどこかに移動しようか」

 

「え?」

 

「道端でずっと立って話すのもな」

 

 肩をすくめてそう言うと、それもそうかと広町が納得する。ましろから多少は話を聞いているけど、お嬢様学校の人たちの金銭感覚は俺達と差がある。それは些細なことでも見え方に違いが出るだろうし、これからどこに移動するかもズレるんだろう。

 

「あの~、こういう時ってどこに行くんですか?」

 

「ん? どういうこと?」

 

「普通ならどこに行くのかなって」

 

「普通、か……。難しいこと言うね」

 

「え?」

 

「先に移動しようか」

 

 その話をする前に場所を移す。公園か喫茶店か。お嬢様学校に通う子が相手だとどう選んだものか悩ましい。とはいえ、普通ってことに何か思うことがあるらしいし、普通の部類にカテゴリされてそうな俺の金銭感覚で選ぶとしよう。

 そんなわけで少し歩くことになったけど商店街へ。青葉が好きなパン屋だったり、リュウの家こと北沢精肉店があったりする。その並びの一角に羽沢珈琲店があって、高校時代にはわりと来てた。落ち着いた空気で過ごしやすい店だからな。バンドの話し合いとかで来ることが多かった。

 

「いらっしゃいませ。あっ、紅葉さん! お久しぶりです!」

 

「久しぶり羽沢。生徒会に入ったんだって?」

 

「はい! ちょっと大変ですけど、やりがいがありますよ」

 

「会長が会長だからな」

 

「あはは……。席にご案内しますね」

 

 この店の愛娘である羽沢つぐみとは、当然ながら面識がある。Afterglowというバンドでキーボードを担当していて、決めたら挑み続ける頑張り屋。バイトの子でもう一人知ってる子はいるけど、忙しい子だから会うことも少ない。

 案内された席に腰掛け、対面に広町も座る。意外そうに羽沢がこっちを見てくるから、つまらない誤解が生まれる前に軽く説明。

 

「そうだったんですか。ご注文が決まりましたら声をかけてくださいね」

 

 羽沢が離れていって、俺はメニュー表を広町に渡す。ここに来て注文するものはいつも同じだからメニューを見る必要などない。広町は初めて来ただろうし、ゆっくり決めてもらえばいいだろう。

 

「ここって普通の喫茶店っぽいですね」

 

「まぁな。個人経営の店だし、わりと良心価格で居心地もいいから気に入ってる場所だよ」

 

「くぅさんは何にするんですか?」

 

「ブレンドコーヒー。ここではいつもそれ頼んでる」

 

「それなら私もそれにしますね」

 

「了解」

 

 一通りメニューに目を通してからそう言った広町の言葉を受け、羽沢を呼んで注文を取ってもらう。開口一番に「ブレンドコーヒー1つと他はなんですか?」って言われたのは頬を引き攣ったね。

 

「よく来るんですか?」

 

「それなりに。大学生になってからは今日が初めてだけど」

 

「行きつけの店ってなんだかいいですね」

 

「広町も見つけてみたらいいんじゃないか?」

 

「これから探してみます」

 

 自分で見つけることもあるだろうし、友達付き合いでできることもあるだろう。俺は後者だった。実家とこの商店街は近いわけじゃなくて、わざわざ来る理由もなかった。商店街があったことすら、高校に入ってから知った。話し合いがしやすい場所としてリュウにここを紹介され、桜愛が気に入ったことでここに通うことになった。

 少し話しているとコーヒーが届けられ、それを軽く飲む。広町も一口味わい、何やらコーヒーを見つめていた。味が合わなかったのだろうか。

 

「この味初めて」

 

「うちのオリジナルなんです。お口に合いました?」

 

「はい。好きな味です」

 

「よかったぁ。おかわりは一杯までならサービスですよ」

 

 店のオリジナルブレンドが好評だったことに喜んだ羽沢は、4割増しになった笑顔で厨房へと入っていった。お嬢様学校に通ってる広町に気に入ってもらえたことを親御さんに言いに行ったのかな。

 

「それでくぅさん。普通が難しいっていうのは?」

 

「うん。その話をする前に確認だな。広町は普通に憧れてる。そういう認識で合ってるか?」

 

「憧れ……とは少し違うかも。私は普通になりたいんです」

 

 思ったより深い話になりそうだ。そこを押さえずに話を進めなくてよかった。

 

「私、周りの人とズレてるんです。たいていのことなら少し調べてできます。才能があるみたいで、芸術分野とか特に。だけど、凄い人が集まるって言われてるうちの学校の中でも、私は周りとは違って。才能があると……普通じゃないと友達ができないんだなって。勝手に期待されたり、妬まれたり。そういうのが嫌で、本当の自分が好きになれないんです」

 

「そっか。ごめんな、初対面なのにそんな話をさせちゃって」

 

 話していて楽しくないだろうな。引き出させた張本人としても、広町にできるだけ応えてやらないといけない。正直に話してくれた広町に、俺も正直に話そう。

 

「はっきり言ってしまうと、俺は君の気持ちに共感できない。才能があるとか身内評価で言われたくらいだし」

 

 特に桜愛はそう言ってくれてたな。

 

「けど、広町みたいに周りとかけ離れた才能を持ってた人なら知ってる。だからその苦悩を察するくらいなら俺でもできるよ」

 

 反射的に広町の目が見開かれた。驚きと若干の疑い。天才の苦悩なんて俺に理解ができるわけがない。そう思われてるんだろうし、それは間違ってない。だけど、似た境遇にいた奴と活動してたから。ある程度なら広町のことも察することができるんだ。

 

「解散したうちのバンドのリーダーが非凡でね。仲間としてそれが見えることもあったんだよ」

 

「その人はどうしたんですか?」

 

「あいつは俺達に早く追いついてくれって笑いながら言ってたよ。ずば抜けた才能を持つ自分が目立たないぐらいにメンバーも成長すれば、独りにならないで済むってな」

 

 弱音なんて吐かない奴だったし、そういう妬みが向けられてることを俺達に気づかせないように立ち回ってた。だから俺は吐き出させて、あいつの願いをメンバー間で共有した。周りがなんと言おうと、追いつけないなんてことは考えずにひたすら練習した。

 

「広町には広町の考えがあるんだし、それを修正しろなんて言わない。それが間違ってるとは思わないからな」

 

 人の数だけ考え方も価値観も違う。それを否定するものなんて俺は持ち合わせていない。

 

「普通になるってのは難しいことではある。普通ってわりと曖昧だからな」

 

「価値観の違い、ですよね? しろちゃんのお弁当と私達のお弁当も全然違いました」

 

「そうだな。普段の生活ですら差が出るんだ。月ノ森での普通と、周辺の学校での普通だって違う。だから広町は、妥協点を見出さないといけない」 

 

「月ノ森での普通にするか。それともしろちゃんみたいな外部の普通に合わせるのか」

 

「賢いね。話が早いと楽なもんだ」

 

 俺の話が役に立ってるのかも分からん。この子は答え自体も出してる気がする。きっと月ノ森の中でならそれで済んでたんだ。ましろとの出会いがそこに波紋を呼んだ。外部の普通が、世間一般での普通というものが、月ノ森での普通とは違うのだと実感させるんだろう。

 

「俺が君に言えることなんてほとんどない。強いて言うなら、友達との相互理解を深めることかな」

 

「仲良くなるってことですよね?」

 

「仲良くなることだけじゃないさ。自分のことを知ってもらうんだよ。普通になりたいというその思いを受け止めてもらう。急ぐ必要はないけど、いつかはそうしてもらうといいよ」

 

 知ってもらうだけじゃなく、受け止めてもらう。一緒に活動を続けていくのならそれは欠かせない。変わりたいと願っていて、その具体像が見えているのなら尚更だ。

 

「けど、しろちゃんが……」

 

「……そこは気がかりだね。広町とましろはちょうど対極だから」

 

 特別なものを求める平凡なましろと、普通を求める特別な広町。ましろは目標を言っていて、広町はまだ明かしてない。そこが気がかりだし、面識がある人間としてその時は何かフォローに回りたいところ。出しゃばらない程度にな。

 

「何かあったら言ってくれ。可能な限り助けになるから」

 

「いいんですか? しろちゃんが頼ると思いますけど」

 

「だからこそだよ。俺は外野の人間だから、間を取り持ちやすい」

 

「そういうものですか」

 

「そういうものです」

 

 羽沢にコーヒーのお代わりを頼み、追加で二人分のショートケーキも頼む。初対面でも話してもらったのだから、今回は奢りということにしよう。ましろも迷惑をかけてしまったし。

 

「うーん、それならお言葉に甘えますね」

 

「ありがとう。さてと、堅苦しい話もこの辺で終わろうか。柄じゃないんだよね」

 

「あはは、そんな感じします」

 

 これはどういう評価なんだ……。良い意味で、ということにしておこうか。

 一方的に知ってしまうのはフェアじゃない。かと言って自分の話をするというのは苦手分野だ。

 

「くぅさんがバンドしていた頃の話が聞きたいですね。どういう風に活動していたのかとか」

 

「私も聞いていいですか?」

 

「……羽沢仕事は?」

 

「お父さんが話して来ていいって言ってくれたので、休憩です」

 

「なるほど。羽沢は知ってる方だと思うけどな」

 

「私が知ってるのは一部だけですから」

 

 知り合ってからの長さで言えば、今の高校生の中で一番羽沢が長いんだけどな。全然一部だけじゃないと思うんだけど、まぁいいか。

 苦手分野だけど、その日は俺なりにバンドのことを話した。無論、全部は語っていない。

 

 




 
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