秋桜の揺らぎ   作:粗茶Returnees

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16話 知らぬ間のスケジュール管理

 

 月ノ森の音楽祭までしばらく日程があるのだが、大学生になって変わった体感としては結構すぐな気がする。ましろ達のバンドがどれだけの演奏をできるのか。たぶん、俺達ほど酷い演奏はしないと思う。始めたての頃のあの演奏は今では笑い話だし、知る人ぞ知る伝説って扱いになってる。桜愛の歌声がなければ悲惨なものだった。

 高校からのスタートという共通点。重ねてしまいそうになるも、それは失礼だなと思い至る。バイオリンが入ったバンドの演奏。新鮮なものだし、どうなるか楽しみだ。

 

『もしも~し! 今何してる?』

 

 オンラインゲームで協力プレイしながらそんな事を思っていると、リサから電話がかかってきた。ちょうど一区切りついた時に電話が来たものだから、隠しカメラでもあるのかと疑いたくなる。

 

『そんなの仕掛けてないよ。失礼だな~』

 

「悪かったって。それで何の用?」

 

『今度の週末バイト休みでしょ?』

 

「リサが空けろって何回も言うからそうしたけど、どこかに出掛けるのか?」

 

『それもいいけどそれはまた今度かな。その日に羽丘と花女で合同文化祭が──』

「それは行きたくないな」

 

『むっ、なんで?』

 

 電話の向こうでしかめっ面をしているリサが簡単に想像できる。声色も変わったしな。

 けど考えてほしい。女子校の文化祭だぞ? なんで合同でやることになったのか知らないが、そこに行こうとは思えない。世の男子たちに聞けば喜んで飛び込む奴か全力で遠慮する奴の2択だろう。ちなみに俺は後者だ。

 

「女子だらけのところに行きたくない」

 

『男子は他にも来ると思うけどなー。それこそ女子目当ての人とか。そーゆーもんだって紅葉が教えてくれたんじゃん?』

 

「…………俺がそれの仲間と?」

 

『ううん。紅葉はそんな人じゃないって知ってるよ。だから(・・・)呼んでるんじゃん』

 

 あぁ、なるほど。そういう口実なのか。

 

『アタシを守ってよ紅葉』

 

「はぁ、いつの間にそんな言い回しをできるようになったんだか」

 

 そんな言い方をされてしまえば、行く以外の選択肢を無くされるじゃないか。月ノ森の音楽祭みたく、身内以外の外部の人間は招待券が無いと入れない。そうなっていたらしいのだが、今回は合同でやる大規模な文化祭になったために、それを撤廃したらしい。楽しむということをメインに据え置いたんだろう。

 一応警備員とかいるらしいが、来場者の数に対してどこまで通用するかも分からない。変な事案が発生しないことを願うしかない。この街の治安は良い方だと言われてるらしいし。実感ないけど。

 

「仰せのままに、お姫様」

 

『ふぇっ! な、なな、なに言ってんのバカ!』

 

 たぶんさっきの自分の発言で自滅してたんだろうな。そこに追撃を入れただけで面白いくらい慌てた反応が返ってくる。初心(うぶ)で乙女なところはまだ残ってたりするんだな。リサの周囲を考えたらそう簡単に無くならないものかと勝手に自己完結する。

 

『話聞いてる!?』

 

「あ、ごめん。聞いてなかった」

 

 必死の弁明でもしてたんだろうけど、それを全部右から左へと聞き流していた。リサの小言が始まり、すぐにため息をつかれた。

 

『紅葉の悪い癖だよそういうの。直したほうがいいと思う』

 

「そういうのって?」

 

『ちょっとキザな言い回しするじゃん。今みたいに揶揄う感じで』

 

「……そうだな」

 

『アタシの言い方が悪かったのもあるけど、こういうの頼むのって勇気いるんだよ? それに、紅葉にしか頼めないんだもん……』

 

「本当にごめん。俺が完全に悪かった」 

 

 リサに非なんて一切ない。言い方が悪かったわけでもない。去年度のことを考えれば、リサが頼んでくるのも何一つおかしくないんだ。リサが普段通りに過ごせてるからそれを俺が見落としてただけ。

 ほんっと、俺はこういうのがあるからダメ男なんだろうな。

 

「その日は一緒にいよう」

 

『うん! 2日とも(・・・・)ね!』

 

「……ふつか?」

 

『そうだよ? だから土日を休みにしてもらったんじゃん』

 

「あ、そういうこと」

 

 なんとなく疑問に思っていたことがこれで解決した。まぁ、合同文化祭なんだし、そりゃあ2日に分けて行ってもおかしくはないか。

 

「文化祭となると模擬店とかやるだろ。リサたちのクラスは何するんだ?」

 

『猫カフェだよ~』

 

「猫カフェ……高校の模擬店でやることなのか?」

 

『そうなっちゃった。もちろんセルフでね』

 

「すげぇな」

 

 猫カフェを自分たちだけでやるのか。クラスの子たちは猫を飼ってる人が多いのかな。もしくは大量に猫を飼ってるって子がいるのか。そういう家もなくはないだろうし、羽丘も月ノ森ほどではないにしても裕福な家庭があったりする。花女には弦巻のひとり娘がいるくらいだしな。

 

『クラスの模擬店の他にも楽しめるのはあるよ』

 

「たとえば?」

 

『えっと~。……あー、来てからのお楽しみ?』

 

 隠すのが下手だな。

 

「ライブするのか」

 

『えっ? いや、Roseliaはしないよ。友希那が乗り気じゃなくて』

 

「リサはするんだろ? 気を使わなくていいって」

 

『あははー、バレちゃうか……。うん、有志を集めてやるんだけど、その……()()()()()?』

 

「ははっ、リサは心配性だな」

 

『だって……!』

 

 軽く笑い飛ばしたら悲痛な声が響いてくる。そこまで心配してくれてるのは、素直にありがたいし嬉しい。

 

『だって紅葉……あの日からライブ見れなくなったじゃん……』

 

「……そうだな。桜愛が死んだ日から駄目になってたよ。会場に踏み入れるだけで頭痛がするし、ライブが始まったら胸焼けしそうになる。けど、いつまでもこのままじゃいられないからさ」

 

 ましろのライブを見に行くと約束した。月ノ森の音楽祭は合唱部や吹奏楽部が出演するし、それ以外にも希望者が出演する行事だ。ましろ達の演奏はきっと1曲で、多くても2曲だけなんだろう。それぐらい耐えられないといけないし、今後のためにも乗り越えないといけない。

 なによりも、このままでいると桜愛が化けて出てきて怒りそうだ。夢の中とか平然と出てきそう。それに、そういう理由がなくても俺はこのままでいたくない。好きになった音楽から遠ざかりたくない。

 

「だから、リサのライブにも行くよ」

 

『紅葉……。わかった。それじゃあ最っ高のライブを見させてあげる!』

 

「楽しみにしてる」

 

『うん! あ、ましろたちもライブ決まったみたいだね。音楽祭でやるんでしょ?』

 

「よく知ってるな」

 

『ライブ決まりましたって連絡来たからね。予定空いてたらよかったんだけど』

 

「リサは忙しいからな。無理するなよ」

 

『ありがと。紅葉もだけどね』

 

 そんなに忙しくしてるつもりはないんだけどな。心配性のリサからしたらそう映るんだろう。バイトのシフトも希望よりかは減らされてるし、何かとスケジュール管理は他人の手に委ねられてるような。

 

『紅葉はましろのライブに行くんでしょ?』

 

「誘われてるしな。シュウとリュウと一緒に行くよ」

 

 佐藤はその日は空いてないって話だったし、そこまで興味ないとも言ってたからな。ましろと面識がないわけじゃないけど、結成したばかりのバンドのライブには惹かれにくいか。

 

『追い出されないようにね』

 

「俺が何すると思ってんだ」

 

『あはは! じょーだんだよじょーだん。そのライブの感想も聞かせてね』

 

「わかった」

 

 リサたちのライブの感想は当然伝えるつもりだし、リサもそれを分かってて『も』って言ったんだろうな。信じられてるというか、見透かされてるというか。どっちにしてもこそばゆいものだ。

 

『っと、そろそろベースの練習しなきゃ』

 

「夜ふかしはするなよ」

 

『朝まではしないよ~』

 

「リサ」

 

『うん、わかってる。今からだと30分くらいかな。日付変わるまでには寝るよ』

 

「ったく、悪い冗談はリサも言うな」

 

『仲がいい人だとつい口が軽くなっちゃうんだ。……心配してくれてるんだ?』

 

 その質問にどう返そうか一瞬だけ悩んだ。悩む必要なんてなかったなって後から思った。こういう時は正直に話せばいいのだから。

 

「心配してるよ。リサに何かあったらって思うと怖いから」

 

『……そうなんだ。それってましろと同じくらい?』

 

「それは──」

『──紅葉は桜愛さんとアタシだと、桜愛さん優先する?』

 

 何を言われてるのかわからなかった。

 いや違うな。リサがなんでそんな事を聞いてくるのか理解できなかった。

 死人と比べてどうする。その答えをリサは本当に聞きたいのだろうか。心がざわめく。波はやがて荒れ始め、握ってるスマホに力が入る。

 

『ごめん。今の忘れて。アタシどうかしちゃってた』

 

「……リサ。答えた方が楽になるか?」

 

『……それがもう答えだよ。紅葉はこういうの不器用に優しいね。ごめんね、怒ったよね』

 

「怒ってはない。……うまく言い表わせられないな」

 

『あはは……、変な空気にしちゃったね。文化祭のことはまた連絡するね。おやすみ紅葉』

 

「おやすみリサ」

 

 電話を切り、しばらくスマホの画面をぼんやり見つめる。リサがなんであんな事を聞いてきたのか、なんてことは悩まない。確信を得てるわけじゃないが、おおよその見当はつけられるから。

 ゲームをする気にもなれず、ゲーム機の電源を切ってテレビの電源も切る。寝室に移動してベッドに身を投げ、暗闇の中天井を見上げながら自分が最低なやり方をしたなと反省。はっきりと言葉にするべきだったんだろう。体を起こして机にある一枚の写真を取り出す。色褪せないように保管してある一枚の写真。探られても見つかりにくい場所に保管してあるやつだ。

 

 暗闇の中でもそれがどんな写真かはっきりと見える。思い出が詰まったたった一枚の写真なのだから。もう少しくらい良い表情しとけよと過去の自分に言いたくなるぐらい、無理に笑った顔だ。嫌なことがあったんじゃなくて、気恥ずかしさから来てる。

 

「こういうのは……女々しいって言うのかな」

 

 一人の写真じゃない。二人で撮った写真だ。隣にいるのは、満開の笑顔を咲かせてる桜愛。二人で撮ったのは、これだけだ。

 

 

 

 

 

 私らの練習場所は、メンバーを集めたプロデューサーことチュチュが提供してくれてる。高層ビルの最上階にあって、屋上プールすらある謎の場所。なんでプールが必要なのかは知らないけど、そこに興味はないから聞いてない。

 メンバー集めはまだ続いていて、チュチュはギター担当を欲しがってる。今はまだそれが見つかってない。サポーターとして花園がいるけど、花園はポピパのメンバーだ。チュチュは引き抜きをしたがってるけど、そう上手く行かないだろう。花園の幼馴染らしいレイヤは……、まぁ私がどうこう言う段階でもないか。

 

「あら? 帰ったんじゃなかったのマスキング」

 

「忘れものがあったから戻ってきただけ。すぐに帰るよ」

 

「忘れ物? 何も残ってないはずよ?」

 

 チュチュが首を傾げのも当然。忘れ物があって取りに来たんじゃない。忘れてた用事があって戻ってきたんだから。そこを説明する必要もないし、目的の人物がここにいてくれたのは助かった。いなかったら明日に回さないとダメだったから。

 

「チュチュってパソコン使えるよな」

 

「わたしに何か頼みでもあるの? パソコンで?」

 

データの解析(・・・・・・)ってできるか?」

 

「What? 暗号解読でもさせる気かしら」

 

「たぶん暗号になってるけど、その暗号が見られる状態にしてほしい」

 

「何言ってんのかわかんないんですけど」

 

 そんな事を言われても、私だってその分野得意じゃないんだからうまく説明できるわけがない。ひとまずそのデータを見せたほうが早いと二人で結論づけて、持ってるCDをチュチュに渡した。チュチュがそれを立ち上げたパソコンに挿れて、再生させていく。

 

「CDくらいならマスキングでもできるでしょ」

 

「普通のCDならな。ほらそれ。ここで私は詰まった」

 

 画面から目を離してたチュチュに画面を見させる。CDを再生させて本当に最初の部分。大量の謎のデータ。何重にも重なるグラフ。それらがモザイク画みたいになって、ひとつのだまし絵になってる。

 

「…………は? なんなの……これ……」

 

「……」

 

 だから、私に聞かれてもわからないって。

 

 

 

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