羽丘と花女の合同文化祭。その名も羽咲祭。2日間に渡って行われる文化祭で、両日とも両校で行われる。午前中に羽丘、午後から花女というプランもよし、初日と翌日に分けるもよし。どう楽しむかはそれぞれの判断に任される。入場時は手に何やらスタンプを押されるらしく、それが受付の証となるらしい。だから、それがない奴は不法侵入というわけだ。
リサと合流しないといけないわけで、俺が向かうのは羽丘。スタンプを手に押してもらって入場し、リサがいるクラスへと向かう。正門には警備員がいたし、仮設の詰め所もあった。防犯対策は取ってるようだ。
「お前はよく引っかからなかったな」
「ははは! ひでぇ冗談だな紅葉。泣くぞこの野郎」
「シュウお前なんでついてきてんの?」
「リュウが彼女とデートしてるからですけど? さすがに邪魔できないし、こっち来るしかないじゃん」
「へー」
「なんだその『お前にもそういう気遣いできるんだな』って目は! 失礼だぞ本当に!」
当てられてしまった。まぁこの程度の茶番はいつものことで、適当に流しながら後者の中へと足を踏み入れていく。今日と明日はリサと周る予定だって話はしてないんだが、どうしたものかな。言っても言わなくても発狂しそうなんだよなこいつ。
リサの安全面を優先的に考えたら、シュウも入れて三人でいたほうがいいんだろうけど、リサがそれを望むかは微妙なところ。
「てか、俺がここに来るって話してないよな?」
「おう。女子校の文化祭ってどんなんだろうなって来たら紅葉がいたから合流しただけだぜ」
とんでもない偶然だな。いや、リュウがもし彼女と花女の方に行ってるのなら、シュウがこっちに来るのも当然のことか。
「俺としては紅葉がいたことが意外なんだよな。女子校とか興味ないはず……この裏切り者ォォ!!」
「察しの良さが鬱陶しいなぁ! 少しズレてるだろうけども!」
飛び掛かって来るシュウを押さえつける。廊下だし、他の人の邪魔になるからシュウもすぐに止まった。気づかれたのなら誤解を解くのも兼ねて説明するしかない。俺はリサと電話した時のことを掻い摘んでシュウに伝えた。
「リサちゃんと電話だと……!」
「そこ!?」
「このっ…………! 話はわかった。リサちゃんと合流したら適当にぶらつくわ。極力そっちを見れる場所にはいるようにするけど」
すっげぇ葛藤があったな……。
「助かるよ」
「それで、リサちゃんのクラスは何してんの?」
「猫カフェだってよ」
「……ねこ? 大丈夫か?」
「大丈夫らしい。ケージでもあんのかな」
文化祭で猫カフェとはこれいったい。シュウも首を傾げたが、真相はクラスにつかないと分からない。受付で貰っておいた校内の地図を頼りにリサがいるクラスを目指した。まだ人が並んでないのはありがたい。すぐに中には入れた。そこまではいいのだが、早速面倒そうなことが起きてた。
「君も一緒にどうだい?」
「いやー、仕事中ですから~」
「ご指名ってことで」
「そういうのはやってないですよ」
「いいじゃんいいじゃん! シフト何時まで? その後一緒に周ろうよ」
リサって絡まれやすいのかな。話しやすい雰囲気が出てるし、交友関係の広さもそれなんだろうけど。
「リサ。次のお客さんが来たから案内して」
「あ、うん。ありがとう友希那」
「なになに? 彼女の代わりに君?」
「営業妨害が目的なら摘み出してもらうわよ」
「強気だね。そういうタイプも──」
「友希那ちゃぁぁん! ひっさしぶり~ゲハっ!」
湊に絡んでる奴らをガン無視してシュウが飛び込み、湊が容赦なく手に持ってたメモ帳でビンタ。その冷めた行動は、羽虫を叩き落としてるように見えた。
「うわぁ、友希那相変わらずあの人に厳しいなー」
「あの二人はあんなもんだろ。それよりリサは大丈夫だったか?」
「うん。友希那のおかげで。この後は紅葉がいてくれるし」
「悪いな。もう少し早く来られたらよかったんだが……」
「いいよいいよ。シフトが終わるくらいに来るかなって思ってたから。早く来てくれてありがとう」
そういうことをさらっと言えるから、リサは人気が高いんだろうな。ライブのMCでも人の良さがよく出てる。メンバーも観客も気にかけて、その場にいる全員でライブを成功させる。
「文化祭でやる猫カフェに興味が湧いたからな。猫耳とは予想外だったけど」
「えー? セルフって言ったじゃん」
「わからんがな」
「あはは、どう? ネコっぽい?」
猫の手を真似て、にゃんにゃんと言いながら微笑んでくる。俺は今日死ぬのだろうか。
「えっと……紅葉?」
「すっげぇ可愛い」
「っ……もう~、そんなこと言って~。いつもなら高3になって何してんだーとか言うのに」
「そんな事を言う余裕がないくらい、リサが可愛いと思ったんだよ」
「~~っ! ……バカ」
ぐいっとメニュー表を押し付けられる。近すぎて何も見えないんだけど。離そうとしてもリサが押し付け続けるから何もできん。そうやってると、シュウが席に戻ってきたし湊も一緒に来た。さっきの客はもういなくなったらしい。シュウの機嫌がいいから、たぶん脅しつけたかなんかだろうな。
「リサ。お客さんが増えてきたし、あまりここに時間かけられないわよ」
「そ、そうだよね。ほら! 紅葉早く決めて!」
「近すぎて見えないんだよ!」
「あ、ごめん」
「いや~リサちゃん可愛いね~。ね? 友希那ちゃん」
「当然よ。リサだもの」
「友希那ちゃんも可愛いよ!」
誰にでも可愛いって言ってるよな。さすがに評価基準はあるんだろうけど、全員に言ってるようにしか聞こえないから駄目なんだ。俺からメニュー表を奪った湊がシュウに叩きつけてる。リサが宥めてるけど、湊は機嫌を損ねて他の接客に回った。
「いつつ。いやー、やらかした」
「注文は?」
「オススメで!」
「楽なの選んだな」
「紅葉もそれでいいよね?」
「まぁいいけど」
今明らかに俺に選択しなかったよな。照れさせられた仕返しってとこか。目でリサを追ってたら、振り向いたリサが軽く舌を出した。やっぱりそういうことらしい。小憎たらしいやつ。
「はぁ、お前のそういうとこが駄目なんだぞ」
「ぐっ、シュウに言われると来るものがあるな」
「年齢イコールのやつに言われたくねぇってか!? 残念だったな! 悪いとこは他人のほうがよく見えるんだよ! 俺みたいに自覚してるならまだしも、お前は後から気づくパターンが多い。癖になってるんだよ」
「リサにも言われたよ」
「……お前本当に酷い男になってるぞ今」
その言葉は重くのしかかった。距離感が狂ってるのは分かってる。リサが相手の時の距離感を変えないといけない。けど、それができないでいるのは……言い訳にしかならないか。過去の出来事を、事件と言えるあの出来事を免罪符にしてるんだ。一気に今の距離感になってしまったあれを。
俺はずっと止まったままだ。壊れた時計と同じ。俺自身が止まろうと、周りの時間は動いてる。世界が止まるなんてことはない。
動かすことが、変化することがどう転ぶかは、それこそ俺次第なんだろう。自分のことは、結局自分で解決するしかないんだ。
「時間は……かかると思う」
「だろうな。すぐやれとは言わんさ」
「おっ待たせ~! って、なんか空気重くない?」
「男だけだとこんなもんだよ」
「ふーん?」
注文したものを味わって食べ、クラスの子たちにお礼を言って金券で払ってから教室を出る。リサのシフトが終わるまでまだ時間があるわけで、シュウと適当に校内を歩き回った。
「ふむ、女子校の文化祭なのに男子が少ない」
「お前の理論で文化祭を語るなよ」
「同士を見つけてやりたかった遊びがあるんだけどなー」
「一応聞いてやるよ。何やる気だった?」
「ミスコン」
「ブレねぇなぁ」
そうやって適当に時間を潰し、着替えを済ませたリサと合流する。シュウとはそこで別れたんだが、あいつはあいつで目を離すといろんな意味で不安になるんだよな。追い出されるようなことはしないだろうけど。
「友希那と合流するのかな?」
「一緒に回ってるとこなんて想像できないんだが」
「案外あの組み合わせ面白いんだけどね」
「アイスみたいに言うなよ」
「アイスみたいに溶け合ったり…………忘れて!」
「自爆したな」
耳まで赤く染まったリサを窓のそばに移動させて立ち止まる。吹き込んでくる風に熱を冷ましてもらおう。というか、あの二人がくっつくのはないだろ。
「リサは行きたい場所あるのか?」
「……え?」
「行きたいところあるか? どこでも付き合うぞ」
「ありがとう。それなら──」
羽咲祭は土曜日と日曜日に行われる。ライブは日曜日にあって、ポピパもそのライブに出るって情報を入手することができた。私たちのライブも近づいて来てるんだけど、そのライブは見に行きたかった。ただ楽しむだけじゃなくて、どうライブをしてるのかを見ることで分かることもある。紅葉くんはそう言ってたし、透子ちゃんたちも納得してくれた。
それなら文化祭も楽しもうって話になっちゃったけど、さすがに丸2日を費やすわけにもいかない。日曜日は、練習をしてからライブを見に行くことになって、土曜日は文化祭を楽しむことになった。
「八潮と二葉も来たらよかったのになー」
「るいるいは練習熱心だし、つーちゃんは妹さんが風邪引いたみたいだから仕方ないよ」
「二人にお土産持って行けたらいいね」
「文化祭のお土産って何かあるかな? キーホルダー?」
「見かけたら買うくらいでいいんじゃないかな?」
何かあったらいいな。そういうのが買えるような店って、大人がやってる模擬店とかならありそうだけど。どうせなら生徒さんの模擬店で取れたらいいな。
「花女ってそんなに広くないんだね~」
「……月ノ森が広過ぎると思うんだけどなー」
「そうなの? 他の学校もこれくらい?」
「うーん、中高で繋がってるならこれくらいかな。紅葉くんのところは高校だけだったから、ここよりもう少し敷地が小さいはずだよ」
「え、そんなんで生活できるもんなの? すし詰め状態ってやつ?」
「そ、そうじゃなくて。その分生徒数も減るんだよ」
「そうなんだ~」
「生徒少ないとおもんなくね?」
少ないって言っても、田舎の学校みたいな少なさじゃないと思うんだけどな。紅葉くんのところは、全校生徒がだいたい500から600人って言ってたし。……少ないわけじゃないよね?
「あー、平均が分かんねぇからどうなのか分かんねぇや」
「それもそうだね。それよりどこ回ろっか」
「あたし行きたいとこあるんだけど、そっからでもいいかな?」
「私はいいよー。しろちゃんは? ……しろちゃん?」
「倉田ー」
「あっ、ごめん。どうしたの?」
私がある方向をジーッと見てたら二人の不思議そうな視線が向けられた。どうしたのって台詞は向こうが言いたいよね。
「あたし行きたいとこあるからさ、そっからでいいかなって話してたんだ」
「そうなんだ。私もそれでいいよ」
「しろちゃん向こう見てたけど、誰か知り合いいたの?」
「ポピパの誰かとか?」
「う、ううん。それっぽい人を見かけただけで、人違いだったよ」
「これだけ人がいたらそういうのもあるよね。それじゃあとーこちゃんの行きたいところにレッツゴー」
広町さんがゴーって言いながら手をグーにして上に伸ばした。私が遅れて控えめにゴーって真似したけど、透子ちゃんは何もしなかった。
「えー? こういう時ってこうするんじゃないの?」
「ごめんごめん。広町が急にやったからさ」
「じゃあ次やる時はやってね」
「任せろ!」
三人で談笑しながら、透子ちゃんを先頭に歩いていく。女子校は普通の学校ともまた違うと思うんだけど、二人には新鮮みたいで見て歩いてるだけでも楽しそうにしてる。
たぶん、見間違いだよね。
だって、紅葉くん今週末は予定があるって言ってたもん。
だから──リサさんといたのは紅葉くんじゃないよね?