女子校だし、合同での文化祭だから普通の学校の文化祭とは言えないだろうけど、月ノ森の文化祭とはまた違う文化祭ってのも楽しい。規模とかで言えば圧倒的に月ノ森なんだけど、なんかこっちにはこっちの良さがある。なんて言ったらいいか……とりあえずアガる感じ。ヤバいぐらいにアガるんじゃなくて、自分でもアガってるのを冷静に実感できるアガり方。
まじで八潮とか二葉も来られたらよかったんだけどな。羽丘の生徒会長がヤバい人だから持ち上がった話らしいし、来年もあるのか、成功するのかが怪しい。今年のこれは伝説の文化祭になるかもしれない。だから楽しまないと損なわけで、落ち着かない様子の倉田をどうしたものか……。
「しろちゃん楽しめてる?」
「うん。楽しめてるよ」
「それならいいんだけど」
広町は直球で切り込めるよなぁ。行動力あるっつうか、倉田がバンドやめたがってた時も動いてたのは広町だったし。今回は様子見でもしてるのか、何考えてるか読めねぇー。
「透子ちゃん何か考え事?」
「え? まぁ、ちょっとな。明日は回れないし、どう行動しようか迷っててさ」
「気になるところを絞って回るしかないよね」
「SNSで調べるのもいいんじゃない? タグで検索したら……ほら、結構出てくるよ」
倉田のことで考え事してるってのは言い出しにくいんだよなー。落ち着かない様子なのに、倉田本人は楽しもうってしてるんだから。広町もあたしが考えてることがそっちだって気づいてるだろうに。
スマホで調べながらチラって広町を見ると、あたしの方に気づいてフワッて笑いながら首を振る。今はその時じゃないってことか、それか考えなくていいってことなのか。どっちにしても今は文化祭を楽しもうってことらしい。それにはあたしも同意だ。倉田が他の何かを気にしないくらい三人で楽しめばいいんだよね。
「プラネタリウムに、おばけの喫茶店。和風の茶店」
「おばけの喫茶店ってなに?」
「行ってみてもいいんじゃないかな」
何が待ち受けているのか。それも楽しみの一つとして、あたしらはそれをやってるクラスに行った。人が多くて移動がちょっと大変だったけど、倉田が逸れなくてよかった。一人だけスイスイとすり抜けて進んでいく広町には逆に焦ったけどな。あたしがしっかりしないと駄目なやつか?
途中でハロハピの人とすれ違った気もするし、パスパレの人もいた気がするんだけど、いちいち足を止めて声をかける余裕もなかった。芸能人と相互フォローとか憧れるんだけどさ。今回は諦めよ。
「とーこちゃんしろちゃんこっちこっち! ここが待機列みたいだよ」
「順番取りサンキューな」
「先に着いちゃったからね」
「広町さんすごいね。葉っぱみたいにひらひらって先に行っちゃうんだもん」
「えっ、たまたまだよ~」
あれは本当にたまたまなのか。場所がわかってるように迷いなく歩いてたように見えたんだけど。倉田が納得してるなら、たぶんたまたまなんだろうな。
「おばけの喫茶店ってどんなの販売してるのかな?」
「こんなの初めて聞いたし、私にもわからないよ」
「そっかー。とーこちゃんはどう思う?」
「仮装はしてそうだよな。あとはメニューがおばけをモチーフにされてるとか? ……自分で言っててわけわかんなくなってきた」
「そういうメニューもあったら可愛いね」
倉田はどんなのを想像してるんだか。結構想像力豊からしいし、そういうところがあるから、理想と現実のギャップが周りの人よりも大きく感じるのか。それが損してるのか得してるのか。あたしには判断できないね。
三人で話しながら待ってると、思ってたよりかは早く中に入れた。入れたけど入り口で三人ともぽかんって固まった。まじでおばけの仮装してるし、おばけっぽいメニューも見えるし、教室の雰囲気もポップな雰囲気。ポップなおばけとかあたしでも理解が遅れる。
「いらっしゃい! さぁ座って座って!」
「あ、ハロハピの……」
「ライブに来てくれたことがあるのね! 嬉しいわ!」
「あの、なんでおばけで喫茶店なんですか?」
「おばけが怖いってかわいそうでしょ? だからおばけと楽しめるようにしたの!」
「おぉー! それはいい考えですね!」
「ふふっ、そうでしょ!」
「前のおばけ屋敷は……」
ハロハピのボーカル担当の弦巻こころさん。感性がすっげぇ独特というか、発想の根本はたぶん子どものまんまな気がする。けど、思いついたことを実行に移す行動力とか、周りを巻き込む力が凄まじいんだとか。赤いおばけの頭巾を被ってる姿が、先輩ながらに超可愛らしい。
広町は弦巻先輩の考えを絶賛してて、輝かしい笑顔を見せた先輩と手を取り合って飛び跳ねてる。仲良くなるの早すぎね? 倉田はおばけ屋敷がどうとか言ってるけど、なんの話してるんだ。
「あなたは前にも会ったわね!」
「は、はい」
「楽しめてる? って聞きたいところなのだけど、今日はあなたが少し暗いのね」
「そんなことは……ないです」
「あらそうなの? 一緒に考えるわよ?」
ぐいぐい行くなこの人……! 遠慮って言葉を知らないのかな。知らないんだろうな。どう制御したらいいんだ。倉田にそういう話でぐいぐい行くのはよくないと思うし。
広町に視線を向けると、広町は何か考えてるような表情してて、焦ってるのはあたしだけ。とりあえずこの場を落ち着かせたい。あたしも落ち着きたい。そのためにどうしたらいいのか悩んでると、教室に誰か入ってきた。少し気だるげで、慣れてる様子で弦巻先輩を捕まえる。
「なにしてんのこころ……」
「美咲! この子が悩んでるようだったから、私も協力しようと思ったの!」
「はぁ、人のことにあんま首突っ込まないようにって言っても聞かないんだから」
「だって協力したほうが解決に繋がると思うの! 悩みって一人だけで考えても解決しないから悩みなのでしょ?」
「そうだけども!」
あ、一応弦巻先輩には弦巻先輩の考えとか気遣いがあるんだ。一人で解決しないから悩みか。たしかに悩みってそういうもんだよね。少し強引にいった方が倉田の助けになるのか、それは短い付き合いじゃ分からない。そういうのも、こういう経験で知っていくのかもしれない。
「……なぁ倉田。嫌じゃなかったら話してくれない?」
「え……」
「しろちゃんの助けになるなら協力したいんだ。友達ってそういうものだよね?」
「透子ちゃん……広町さん……」
倉田はしばらく思い悩んで、それでもあたしらに話してくれた。紅葉さんと連絡を取ったということ。予定があるって言われたのに、今日別の人と文化祭に来てるっていうこと。それを聞く限り、紅葉さんが完全に悪いんだけど、あの人って倉田にそんなことをするような人だとは思えない。
「なぁ倉田。どう連絡取ったか見せてもらっていい?」
「いいけど、どうしたの?」
「ちょっと気になったことあって」
倉田のスマホを借りて、紅葉さんとのやり取りを見させてもらう。広町も画面を覗いてきて、弦巻先輩も反対側から覗いてきた。というか、頬当たってるんですけど先輩。距離感近過ぎどころかゼロじゃないっすか。
「あら? これ──」
たぶん全員が思ったことを言おうとした弦巻先輩の口を、奥沢先輩が手で塞いで黙らせた。弦巻先輩と倉田はきょとんとしてて、奥沢先輩が長いため息をついた。心労をお察しします先輩。
これ、どっちもどっちというか。言葉が足りてないというか。うん、ひとまずこの場で言えることがあるとすれば、倉田の悪い癖が出てるんじゃねってこと。
「しろちゃん。くぅさんと会って話した方がいいんじゃないかな」
「でも……怖いんだ。見ちゃうのが」
「どうすっかなー。明日は練習あるし」
「別にいいよ。文化祭が終わってからでも」
「駄目よ! 今行きましょう!」
「え!? ちょっ!」
弦巻先輩が倉田の手を掴んで教室を飛び出す。気のせいかな。窓から飛び降りたように見えたんだけど。倉田の悲鳴っぽいのも聞こえたんだけど。
「窓から飛び降りるのやめてくれないかな。今日は人多いし、こころスカートなのに」
「そういう問題ですか!?」
「……あたしの常識が毒されてる」
リサと花女の方に足を運び、プラネタリウムを楽しんだあとは中庭にあるベンチで休んでいた。そこにいると懐かしい面子とも再会した。
「二人で周ってたの?」
「あっちにシュウと湊もいるよ」
「そういう……。それにしても鷺森くん久しぶりだね。元気そうでよかった」
「そういう牛込もな。海外行ったって聞いてたけど、生活には慣れたか?」
「まだ戸惑うこともあるよ。一人だと大変だったかも」
「二言目に惚気けるなよ」
「惚気てません!」
声を荒らげることはないだろうに。リサと似てこの手のことには反応が初心で揶揄いがいがある。一回くらいで終わるけどな。やり過ぎたらあとが面倒だ。あのひねくれ者とは面倒事を起こしたくない。向こうは巻き込まれ体質らしいけど。
元Glitter*Greenのギターボーカルの牛込ゆり。理由は違えど俺達と同じで高校3年間でバンドを終えたグループの一人。他の三人は今リサと話してて、その奥からもの凄い勢いで弦巻が走ってくるのが見える。ましろが引っ張られてるなあれ。どういう状況なんだろ。
「そいやあのひねくれ者は?」
「今日はやることがあるんだって。明日は一緒だよ」
「はいはい惚気オツ」
「だから違うってば!」
「まぁでもよかったじゃねぇか。こういうことができるのも限られてるし、いつ何があるか分からないからさ」
「……うん。ごめん」
「気を遣われる方がキツイかな。好きなように楽しめよ」
なんてことを言っても、そうやって割り切れないのが牛込だよな。こいつのことは腐るほど聞かされたから、直接話した回数はそこまで多くないのにだいたい知ってる。友達とは言えないけど仲のいい知り合いではある。そんな距離感でいてくれるのはありがたい。
「く~れ~は~!」
「ん? うおっ!?」
「ふわぁぁ……」
「大丈夫かましろ……」
名前を呼ばれて振り返ったらましろが弦巻に飛ばされていた。それをしっかりと受け止めるも、常識外れの運動量を誇る弦巻に振り回されたことで目を回してる。いろいろと理解が追いつかないな。なんで弦巻に連れ回されてるのかとか、ましろがここにいることとか。
……いや、ましろに予定が空いてるか聞かれたのは、一緒に文化祭に行こうって話だったのか。ましろには悪いことしたな。意識が戻ったら謝ろう。
「その子は?」
「俺の従兄妹だよ」
頑張りますけど毎日更新途切れたらお察しください。