秋桜の揺らぎ   作:粗茶Returnees

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19話 答えがひとつとは限らない

 

 目を回してるましろをベンチで休ませ、ベンチから落ちないように肩に手を回して支える。具体的になにがあったのかは知らないが、弦巻のようなアグレッシブモンスターに振り回されては、ましろのキャパを超えるのも仕方ない。大まかな予想がつくだけで、細かなことは分からない。弦巻から話を聞くことにした。

 

「ましろと紅葉と会わせようと思ったの! それで窓から下りたわ!」

 

「窓から下りるもんじゃない!」

 

「どうして? その方が早いわよ?」

 

「危険って言葉を知らないのかな!? それで怪我したらどうする!」

 

「よくやるけど怪我したことないわ!」

 

「たとえ弦巻がそうでもましろはそうとは限らないんだよ! むしろ運動できないほうだから危険度高いんだよ!」

 

「まぁまぁ紅葉落ち着いて。こころ相手にその調子だと保たないよ」

 

 保たないってなんだよ。会話じゃないのかよ。それなら俺はいったい今弦巻と何してるんだ。耐久戦とでも言うのか。生憎だが一方的なのは勝負にすらならないんだわ。俺の完封負けだ。

 リサに宥められ、入った熱をため息とともに放出させる。そうしてる間に湊とシュウがこっちに合流してきた。

 

「シュウも来てたのね!」

 

「せっかくだしな! ところで窓から飛び下りたってまじ?」

 

「そうよ! ヒュンってして楽しかったわ!」

 

「分かるわかる! あの感覚堪らないんだよなぁ! スカイダイビングとかやりてぇわー」

 

「すかいだいびんぐ? なんだか面白そうな響きね! 今度一緒にやりましょ!」

 

「いいね! こころちゃんいつが予定空いてる?」

 

 混ぜちゃいけなさそうな人種が頭のネジを外した会話をしてる。面白そうなこと、楽しそうなこと、そういった事に対して行動力を全振りしてるような奴らだ。この二人だけで予定を組ませたらとんでもないことになる。主に黒服たちが大変そう。巻き込まれたくないから放置するけど。

 そんな話を繰り広げてるシュウを、湊が厳しい目で見ていた。ついさっきまで一緒にいた男が、あっさりと違う女子と楽しそうに話していれば、さすがに面白くないのだろう。湊ならそんな事一切思わなさそうだったから、少し意外だ。

 

「何かしら?」

 

「いや別に」

 

「友希那が嫉妬してるのが珍しいって思ってるんじゃない?」

 

「リサ。あなたの言ってることがまるで理解できないわ」

 

「そっか~」

 

 眉間にシワを寄せて、ありもしないことを言ったリサを咎める。リサは湊にシワができちゃうよって言いながら、湊の眉間に指を押し当ててぐりぐりする。その原因はリサにあるんだろうけどな。

 人が集まって話しているせい、というわけじゃないんだろうが、桐ヶ谷たちもこの場にやってきて、奥沢が弦巻に説教を始めた。説教のはずなんだが、弦巻はまったく堪えてない。むしろ奥沢がここに来たことを喜んでいるようで、微塵も笑顔を崩さなかった。

 

「はぁ。とりあえずこころは移動しようねー。あんたクラスの方放ったらかしでしょ」

 

「そうだったわ! みんなまた会いましょう!」

 

「嵐のように過ぎ去るな」

 

「まぁこころだし?」

 

 奥沢に手を引かれながら弦巻がいなくなり、騒がしい人間がいなくなった。なんてことにはならない。この場にはまだ周りを巻き込んで騒ぐ奴がいる。

 

「んー? 新顔だね~。君たちの名前は?」

 

「あたしは桐ヶ谷透子です。こっちが」

「広町七深です。今気絶してるしろちゃんと一緒で、月ノ森の一年生です」

 

「月ノ森!?」

 

「たしかお嬢様学校だよねワニちゃん」

 

「そうね。才能がある子が多いとも聞くわ」

 

 月ノ森と聞いて牛込が驚き、鵜澤が鰐部に学校のことを聞く。その認識は一般程度のもので、鰐部でも内側の細かなことは知らないらしい。そんな三人とは打って変わって、一切の動揺もないのが二人に話しかけた二十騎という人物だ。どの学校とか微塵も気にしていない。こいつの頭の中は常識とはズレているのだから。

 

「か~わいい~! 私のことはひなちゃんと呼んでくれたまえ!」

 

「え!? えぇ!?」

 

「分かりました。よろしくお願いしますひなちゃん」

 

「順応早くね!?」

 

「え?」

 

 二人に熱い抱擁をかまして二十騎が雑な自己紹介をした。桐ヶ谷の方は突然のことに驚きを隠せず、広町はあっさりと二十騎の要望を受けて入れていた。懐が大きいのか器が大きいのか。普通とのズレというものがここでも現れてるんだろうな。

 

「ひなハウス!」

 

「あちゃぁ、リィちゃんに怒られちゃった」

 

「ハウスって……」

 

「あはは、ひなちゃん面白い人ですね」

 

「私も二人が好きだよー!」

 

「こら!」

 

 離れたというのに、好評を受けたことに喜んでまたもや抱きしめ始める。広町はともかくとして、桐ヶ谷は完全に巻き込まれてるだけだな。

 

「あはは! ひな先輩は相変わらずだね!」

 

「そうね。相変わらず騒がしい人だわ」

 

「そんな話してると──」

 

「友希那ちゃん久しぶりー! 可愛くなっちゃってもう!!」

 

「きゃっ! や、やめ……!」

 

 ほらこうなった。この手のやつは黙ってその場を去るのが一番なんだよ。湊は被害を受けずに横で見ているだけのリサを恨めしそうに見つめる。

 

「一回くらいは、ね?」

 

「なにがね? よ!」

 

「友希那ちゃん雰囲気可愛くなったね~! 棘が消えた感じ~! プリティだよ!」

 

「何を言ってるんですか……!」

 

「Roseliaの成長はポピパ同様見守ってるよ。いいバンドになってきたね」

 

「っ! ……まだまだこれからよ」

 

 こういうところがあるから憎めないんだよな。自分の世界を持っていて、基本的にそこでしか生きていないような言動をするクセして、周りのことを細かいところまで見てやがる。面倒見がいいのもあって、わりと好かれてるんだよ。

 

「ひなちゃん俺にもばっちこい!」

 

「シュウが私を惚れさせられたら行ってやろう!」

 

「くっ、一生無理だ! この女見る目ないもん!」

 

「誰がB専だこのやろー!」

 

「きゃーー!」

 

 湊を手放したら、今度はシュウと取っ組み合いを始める。その活発さは見ている方が疲れてくる。この二人のこれはよくある事だったから、牛込たちもこの二人のやり取りだけは放置するようになっている。

 

「……紅葉さん。止めなくていいんですか?」

 

「近づいてみろ。巻き込まれるのがオチだから」

 

「あー。なるほど」

 

 さて、あれが長く続いた試しもないわけだし、終わったらここから移動しよう。さっきから騒いでるのもあって妙に注目されてて視線が痛いからな。男女比がおかしいのもよろしくない。

 

「しろちゃんおはよ~」

 

「ましろ起きたのか」

 

「というか、少し前から起きてましたよ?」

 

「ひ、広町さん!?」

 

「そうなの?」

 

「えっと……」

 

 ほぼ全員の視線が集まり、テンパったましろが髪をいじりながら一度こっちを見上げ、すぐに俯いた。その反応だけで広町が言ったことが当たっていることがわかる。それについて追及する必要もなく、俺はましろの肩に回していた手を離した。起きてるなら支える必要もないし。その時にぴくっと反応していたが、気づかなかったことにする。

 さて、ましろが起きたのならやることがある。ましろとの連絡のやり取りでの不備で生じた気まずい状況の改善だ。

 

「ごめんなましろ」

 

「え?」

 

「ほら、予定があるって断ったのに文化祭来ちゃってるだろ? ましろは誘おうとしてくれてたんだよな?」

 

「それは…………うん。誘おうとして断られて……だから紅葉くんを見かけた時にムカッてしたんだ」

 

「本当にごめ──」

「でも! ……でも、私も予定が空いてるか聞いただけだったから。だから、私もムカッてしてごめんなさい」

 

 俯いていたましろが、謝るときには顔を上げて目を合わせた。謝ると同時に頭を下げて、俺はなんて返したらいいか迷った。控えめな性格のましろが誘おうとしてくれてたんだ。その小さな一歩を俺は裏切ったというのに。

 

「ここは仲直りで終わりーってしたらいいんだよ~!」

 

「きゃっ!」

 

「っ! 二十騎いきなり出てくるなよ。シュウは?」

 

「そこで伸びてるよ~」

 

「あのな……」

 

 同年代で荒事があったらシュウとやり合えるやつなんて片手で数えられる程度だ。女子相手には一切手を出さないけど、相手に怪我させない上で勝つようなやつなわけで。そのシュウが伸びてるってことは、さっきの茶番の取っ組み合いで二十騎の体に触れ過ぎたんだろう。わりと満ち足りた顔してるし。湊が叩いてるけど。

 そっちを見てる間に二十騎に手首を掴まれ、反応する前にましろと握手。二十騎に何か言おうとした口ゆっくりと閉じ、ましろを見ると照れくさそうに微笑んでいた。

 

「次からはちゃんと言うね」

 

「あぁ。俺もちゃんと具体的に聞くよ」

 

「で、この後はどうするの? くれにゃんはリサちゃんと回ってたんでしょ?」

 

「あ、それなんだけど、アタシはもう大丈夫だよ紅葉」

 

「大丈夫って……」

 

「紗夜と燐子が花女にいるし、友希那と一緒にこれから合流しようって話してたんだ」

 

「俺も同行するから安心しな! ハーレム楽しんでくるから!」

 

「安心できない材料が増えたんだが!?」

 

 とは言ったものの、シュウなら信頼してるから大丈夫だろう。氷川と湊もいるし、白金もあれで芯が強いからな。

 

「アタシのわがままに付き合ってもらったんだもん。満足できたよ」

 

「……わかった。ましろ、よかったらこの後一緒に回らせてくれるか?」

 

「え……うん! よろしくね紅葉くん! リサさん、ありがとうございます」

 

「いやいや。取っちゃってたようなもんだから」

 

 なんだろうこの間に挟まれてる感じ。おかしいな。ましろとは従兄妹なだけなんだけど。いや、こういう位置に立ったら関係がどうであれこういう心境になるか。シュウが物言いたげな様子だけど、さっき聞いたことと同じだろうから反応しないぞ。

 この後の行動が決まり、この場でバラける流れになる。グリグリの面子はそのまま四人で行動するようなのだが、俺は二十騎だけを呼び止めた。他の人にもあまり聞かれたくないこと。特にましろたちには。

 

「どうしたのかにゃ? デートのお誘いなら──」

「ちげぇわ。お前なら察しついてるだろ」

 

「……それ(・・)ね。ゆりちゃんは海外だからあれだけど、ワニちゃんとリィちゃんも探してる。進展があったらワニちゃんから連絡行くから」

 

「ありがとう。助かるよ」

 

「その代わりそっちも何かわかったら教えること! 対等にね」

 

「もちろんだ」

 

 二十騎との話も終わり、今度こそ別れてましろ達の下へと戻る。なんの話をしたのか気になったようだけど、教えるわけにもいかないから大学のことだと話してその場を乗り切る。二十騎とは実際に大学が一緒だったりするからな。会うことはほとんどないけど。

 この後は、埋め合わせをするかのようにましろ達と文化祭を楽しんだ。高校生とはいえ数カ月前までは中学生だった三人だ。時間ギリギリまで、なんてことにはさせずに、少し早めに学校を後にさせるのだった。

 

 




 4月20日から始まるゆゆゆ杯に参加することにしました。(ルールで全員参加者全員匿名) それに伴い、この作品の投稿に影響が出ます。更新が途切れたら、ゆゆゆ杯用の作品書いてるんだなって見逃して。
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