秋桜の揺らぎ   作:粗茶Returnees

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21話 光あれば影あり

 

 月ノ森の音楽祭。招待券を貰ってそこに行くのは、結局俺とシュウとリュウの三人になった。いつメンだな。気楽なものではあるが、ここで一つ悩んでいることがある。

 

 『服装どうしよう』

 

 学校行事のひとつだし、この前の文化祭みたいに私服で行ってもいいんだろう。だけどお嬢様学校の月ノ森ってだけで、本当にそれでいいのかと悩んでしまう。父兄とか私服でもビシッと決めたやつな気がする。偏見だけど、金持ちの奴らってなんかオーラ的なものを放ってる気がしてならない。

 さてさてどうしたものか。招待券は誰から招待を受けたか分かるように名前が書かれてる。俺達の場合はましろと二葉だな。つまり、俺達が変に目立てばその二人に迷惑をかけかねない。

 

『服装これで行くことにしたわ!』

 

 シュウから送られてきたメッセージと写真を見て吹き出す。なんでお前はライブ衣装を着てるんだよ! ライブをするのはましろ達だっつうの!

 

『シュウふざけ過ぎ。目立っちゃいけないんだから普通なのを選びなよ』

 

『じゃあリュウのを見せろよ。ヘイヘイ兄ちゃんのファッション見てみたい!』

 

 悪ノリが始まってる気がするんだが、リュウはシュウみたいなぶっ飛んだ思考はしない。

 

 だからって安心ができるわけでもない。

 

「なんでお前はリクルートスーツ着てるんだよ!!」

 

『はははは! こいつ馬鹿だ!!」

 

『ライブ衣装にしてた人には言われたくないなぁ!』

 

 派手さはないけど、ズレたことはしてくる。素でやる時と狙ってやる時が半々なのは(たち)が悪い。

 話し合いの結果「俺らが持ってる服の中から月ノ森らしいものって無理じゃね?」という結論に落ち着き、それならもう諦めて堂々と普段着で行けばいいじゃんということになった。

 

「大学に行く感覚だなー」

 

「変に身構えても気が狂うだけだしね」

 

「それはシュウだけだろ」

 

「否定できないことが悲しいな!」

 

 ファストフード店の前で合流して、そこから三人で月ノ森へと向かう。女子校も女子校。お嬢様学校ともなれば箔が付いてるようで、妙な緊張感が出てくる。緊張感というよりかは、場違い感だな。文化祭の時もそうだけど、女子校に男子が行くってだけで気まずい。そして日本でも指折りのお嬢様ともなればそれも一際だ。

 月ノ森に近づくと、ここに通う生徒の保護者らしき人たちがちらほら見えてくる。正門まで行けばそれはもう多い。着ている服とか持ってる鞄とか、身につけてるアクセサリーとか、ブランド品なんだろうなあれ。

 

「高そうだなー」

 

「住む世界が違うってのはこういうことなんだろな」

 

「食べてるものも違いそうだね」

 

「そういや弁当の具材も全然違うってましろが言ってたな」

 

「ましろちゃんのお弁当!?」

 

「食いつくとこそこ!?」

 

 馬鹿なやり取りをしている間に受付の順番が回ってきて、持っている招待券を見せる。なぜか意外そうな顔をされたが、深くは考えないでおこう。たぶん俺達のメンタルがゴリゴリ削られる。

 月ノ森のどこをどう進めばいいのかさっぱり分からないが、案内板だったり矢印が書かれた張り紙があったり。それのおかげで分かるっていうのもあるし、他の保護者たちの流れに合わせれば迷うことはない。

 

「中庭綺麗だな」

 

「雰囲気出てるよね」

 

「年中何かしらの花が咲いてるって話らしいぞ」

 

「それもましろちゃん情報?」

 

「これは広町情報」

 

「リュウ。俺はこいつを殴っても許される気がする」

 

「駄目だってば」

 

 止める理由は悪目立ちするなってことだけなんだろうな。場所がここじゃなかったら一発軽く肩パンくらいはされてる。このやり取り自体グレーゾーンな気もするんだけど、幸いにも他の人たちも自分たちの会話で夢中のようだ。

 

「高校の講堂だよな?」

 

「イベントホールと言われても納得するかなー」

 

 講堂に入るとその内装に圧倒される。広さで言えば大学でもこれくらいの場所はあるだろう。収容人数は軽く1000人を超えるはず。ただ、壁だったり天井だったりと内装が鮮やかだ。派手な豪華さはなく、あくまで質素な白い壁。装飾として隆起してる箇所がいくつかあるだけなのだが、この部屋全体が一種の芸術作品。

 俺達は2階席で、在校生は1階席。ステージの舞台袖に入りやすい最前の両端が、おそらく演奏する人たちの席なんだろう。そこだけクラスの点呼がなかったし、ましろ達がそこにいる。

 

「何か応援メッセージ入れてあげた?」

 

「……楽しんでこいとだけ」

 

「薄情な兄貴分だなー」

 

「5人でやるのは初めてらしいし、バンドとしては仕切り直しの日だ。やる上で大事なのは"楽しむこと"だろ?」

 

「あはは、たしかにそうだね」

 

 経験者はただ一人。それもバイオリニストだ。従来のバンドとはまた違った形。その可能性を見せてくれるのだろうけど、他の4人は初心者。広町はひとまず置いとくとして、どこまでバンドとしての形を保てるのか。今後続けるためにも、演奏することを楽しめるのか。そこが大事だと思ってる。

 音楽祭が始まり、何組かの有志の演奏が始まっていく。ましろ達みたいなバンドじゃなくて、何人かでのコーラス。アカペラだったり、反対に楽器だけだったり。プログラムを見る限り、吹奏楽部や合唱部と言った部活は最後に持ってくるようだ。全国レベルだからだろうな。

 

「みんな上手いね」

「みんなかわいい」

 

「……シュウお前何見に来てるんだよ」

 

 こんな馬鹿と一緒に来ていることが馬鹿らしくなってくる。後悔はしないけど、外につまみ出してやろうかと頭を抱えたくはなる。いっそ他人のフリでもしようかと思ったが、その考えはもう遅い。

 やがてましろ達の順番が回ってきて、順次のためにステージのカーテンが一旦閉じる。演者が見えなくなる僅かな時間だけど、見えなくなることで気持ちも途切れる。数分間の休憩みたいなものだな。飲み物で喉を潤しながら、カーテンの奥にいるましろを見やる。朝のメッセージを見る限り、いいコンディションだとは思う。

 

「どんな演奏をするかな」

 

「どういう見方をするかで印象も変わるだろうさ」

 

「そりゃあな。……じゃあ俺は成長を見守るって立場で見ようかな」

 

「シュウはそういうとこあるよな」

 

 身内に対しては甘いんだよな。俺ですらそう思うくらいに甘い。特に年下に対してはそうだ。だから高校の時から後輩にわりと慕われてた。

 シュウはいつもそういう見方しかできないんだけどな。一観客として見る。だから感想も褒め言葉しか出ないし、評価も高いものになる。事前に見る視点を指定したらちゃんとそこを見るんだけど、今日は別にいいだろう。

 

「二人は評価厳しくするよな」

 

「シュウが甘口ならリュウが辛口で俺は中辛だろ」

 

「三人の分担はそんなところだよねー」

 

 そうやって話してるとステージのカーテンが開いていく。その奥からは純白の衣装に身を包んだ5人が現れた。ましろがボーカル。楽器はギター、ベース、ドラム、そしてバイオリン。

 

「ライブ衣装!?」

 

「ギターの桐ヶ谷の家が呉服屋らしい。アクセサリーとかは広町の自作だとさ」

 

「ちょっと何言ってるか分からないな」

 

「楽器の経験者は?」

 

「バイオリンの八潮だけ。それ以外は始めて1ヶ月程度」

 

「りょーかい」

 

 リュウは楽器隊のひとりひとりを見ていくんだろう。どれだけの期間を練習したのか。それを踏まえて演奏力を評価するんだろう。ライブ全体も見るだろうけど、そっちに注目するはず。シュウは知らん。ライブ楽しんでるからそれでいいんじゃないか。

 俺はと言うと、全体に目を向けながらもましろに集中してた。同じボーカルとしても、ましろを知っている身内としても。頭痛が鬱陶しいものの、集中しておけばマシになる。ましろ達が再起した舞台なのだ。ちゃんと見届けたい。

 

「……ましろちゃんは少し似てたな。ほんの少しだけだけど」

 

「そうだね。技量はそれこそ月とスッポンの差だけど」

 

「……そうだな」

 

 きっと楽しめたんだろう。精一杯歌ってる様子が強く見て取れたけど、楽しんでるのは間違いなかった。曲が終わりに近づくにつれて緊張も緩んでいて、ラスサビの時には一瞬だけ面影が現れてた。

 

 師弟が似るのは、家族が似るようなもんなのかな。

 

「頭痛は?」

 

「だいぶマシ。講堂だからかな」

 

「場の力ってあるらしいね」

 

「心理学の授業であったなーそんなの」

 

 シュウそれたしか先週の授業内容だよな。なんで忘れてるんだお前。リュウは学部が違うから単純に知識。知識キャラなんてポジションを確保できると思うなよ。

 

「ところで紅葉嘘ついたろ」

 

「なんのこと?」

 

 音楽祭が終わり、ましろから一緒に帰ろうと連絡が来たから三人で待ってる。ライブの感想を聞きたがってるようだし、向こうも集団で来るだろ。中庭にある銅像が分かりやすいと思ったから、そこの前を集合場所にしていて、ましろ達を待っている間にシュウに何か疑われてる。

 

「本当に4人初心者か? ベースの子とか絶対初心者じゃないだろ!」

 

「あー、広町か。あの子はそういう子(・・・・・)だよ」

 

「なるほど。パスパレの日菜ちゃん的な」

 

「そういうこと。本人はその事が嫌らしいから気をつけろ」

 

「おっけー」

 

 面倒なことかと思ったが、結果的にありがたい疑いだったな。これで広町の地雷が踏み抜かれることはない。1ヶ月程度であそこまでできるようになっているのなら、それこそ普通(・・)を遥かに超えている。才能があるというか、天才のそれだ。桐ヶ谷と二葉も上達が早い方だな。

 

「紅葉さんお待たせー!」

 

「おっ、来たか」

 

 ライブのあとの高揚感をそのままに、笑顔を弾けさせてる桐ヶ谷が声をかけてくる。桐ヶ谷を先頭に5人来たのだが、一番後ろにいる子は初めて会ったな。……あの子って本当に高1なの?

 

「お互い初対面の人もいるし、軽く紹介しておこうか」

 

 Morfonicaのメンバーのことはシュウとリュウに話してある。そのことをまず伝えて、5人に2人のことを紹介した。ましろは2人のことを知ってるけど、他の4人は知らないからな。

 そうやって紹介が終わったところで、思わぬ情報が出てきた。初対面のはずの八潮に、俺達のことが認知されてたらしい。これには全員驚いた。

 

幻想蝶(Fantasia)。リーダーだった白築桜愛さんとは知り合いだったのよ」

 

「……これは驚いたな」

 

「思い出話もいいけど、今日はやめておきましょう」

 

「そうだね」

 

「えー? あたしは聞きたいけどな」

 

「また今度で。それより、ライブ良かったよ」

 

「本当ですか!」

 

 食い下がる桐ヶ谷を受け流して、リュウがあっさりと話題を変える。気にしていたであろうライブの感想だ。食いつかないはずもなく、二葉がいの一番に反応した。リーダーとしてプレッシャーだったものもあるんだろ。リュウが本当だと頷くと胸を撫で下ろしている。

 てっきひバッサリと評価するのかと思ったが、流石にそんなことはしないらしい。感想理由も、「日が浅いわりには」とかだろうしな。

 

「あの程度で満足はできないわね」

 

「瑠唯ちゃんはドライだね」

 

「事実を言っただけよ。この程度で満足していたら結局その程度というだけ」

 

「満足はできなくても、結果を肯定的に受け入れることも大事じゃないかい? 観客の反応を見えていたかな? 良い結果は出せていた。それを認識した上で、反省点を出して今後に繋げる」

「そうすれば成長できる。そう言うのでしょ? 桜愛さんがよく言っていたわね」

 

 シュウの言葉を最後に奪ったな。桜愛が言っていたことは、どうやら俺達だけじゃなくて八潮の中にも残ってるらしい。それがなんだか嬉しくて、俺達は笑みを浮かべた。

 

「紅葉くん、どうだった?」

 

 遠慮気味な顔と声でましろが聞いてきて、不安そうにしてる顔に笑ってしまう。

 

「ライブは成功してるのになんでそんな顔してるんだよ。素直に喜んでいいんだぞ?」

 

 頬に手を添えて、緩やかに手を下げていくと、ましろがくすぐったそうに身を捩りながら笑いをこぼした。いかんな、癖になりそうだ。

 

「反応が良かったのは分かってるよ。私たちも楽しくできた。この道を歩いていったら、目指してる景色にたどり着けるって思えてる。でも、紅葉くんの感想は気になるよ」

 

「ましろへの感想か? ……甘口と辛口どっちがいい?」

 

「えっ…………甘口かな」

「しろちゃんらしいね~。中辛でお願いします」

 

「りょーかい」

 

 広町の横槍を入れられてましろが頬を引き攣らせる。それにふっと笑いを溢すとましろがすねて頬を膨らませた。広町にその頬をつつかれて空気が抜け、頬を赤く染めたましろが広町をぽかぽかと可愛く叩く。

 

「楽器隊は評価聞きたかったらリュウに聞いて。俺より細かく見てくれてるだろうから。全体のことはシュウが一番見てる」

 

 俺が今から話すのはましろのことだけだ。こっちに耳を傾けさせるよりかは、本人たちも聞いて損はない自分のことを聞いたほうがいいだろう。いきなり振ったからリュウからキツイ視線が送られてくる。ケラケラ笑ってるシュウには二葉が話を聞きに行ってた。リーダーさんは全体のことのほうが気になるのかな。

 

「……正直に言うとましろを過小評価してたよ」

 

「え?」

 

「おとなしくて、いつも一歩引いてるましろが大勢の前で歌ったんだからさ。堂々と声を出して歌えてた。身内としてはそれだけでも評価を高めたくなるよ」

 

「そう言われると恥ずかしいよ」

 

「一生懸命だって分かったし、ましろが楽しめてるのも分かった。緊張が抜けたのは後半だったみたいだけど」

 

「あ、あはは……そこまでわかっちゃうんだ」

 

 頬をぽりぽりと掻きながらましろが苦笑する。落ち着かないのか、その指は流れるように髪に触れていき、そのままくるくると弄りだした。

 

「分かってるだろうけど、技術面はまだまだだよ」

 

「……うん」

 

「辛いだろうけど、他の4人に飲まれてしまってる。このままだと4人の演奏のおまけになりかねない」

 

「……それは……」

 

 悔しそうにぎゅっと唇を噛むましろの頭をそっと撫でた。見上げてくる瞳は揺らいでいて、辛口が選ばれなくてよかったなって心の中で呟く。

 

「このままだとって言ったろ? ましろだって成長するんだ。はっきり言うと、他の4人のペースでは伸びないだろう。それで焦る時もあるだろう。だけど、ましろにはましろのペースがある。無茶したら喉を潰しちゃうからさ。自分の速度で進んでいけばいいよ」

 

「……私はどう進めばいいの? どうやったら置いていかれないの?」

 

「答えは周りにあるさ。メンバーと一緒に歩むこと。助けて、助けられて、そうやって絆を深めながら進むんだ。技術面はできることから少しずつな」

 

 ましろの肩に手を置いて後ろを振り向かせる。視線の先にはメンバーの4人がいる。話を聞いてる最中だけど、ましろとしっかり繋がっているんだ。頼もしいことこの上ない。

 こっちの話に一区切りついたことに気づいたのか、向こうも早々に切り上げた。気にせず話しててもいいんだけど、一区切りはついていたのかな。二葉がましろに近づいて手を取り合う。

 

「倉田さん! 今度の休みにみんなでライブ成功祝いをしない?」

 

「え……」

 

「いーねー。青春って感じする」

 

「あたしも賛成だな。八潮も来いよ」

 

「それ必要ないでしょ」

 

「えー? なんか予定あんの?」

 

「練習があるわ」

 

 ばっさりと言い切る八潮だったが、桐ヶ谷が粘りを見せて他のメンバーの視線が集まったこともあり、渋々といった様子で折れていた。メンバーと仲を深めていくことは、今後の活動にもプラスに働くと思うし、そういう交流はありだと思うんだよな。

 

「青春って眩しいねぇ」

 

「おっさんみたいな発言だな」

 

「大学生と高校生ってすごい差がある感じしない?」

 

 納得できてしまった。

 三人で話していると、話を終えたましろが手を引いてくる。

 

「帰ろう?」

 

「そうだな。ライブお疲れ様。輝けてたよ」

 

「ふふっ、ありがとう」

 

 手を引くましろの手を握り返した。

 

 

 

 


 

 

 

 

 音楽祭のあとに残ってる来場者は、紅葉たちを除いていなかった。保護者たちは皆、鑑賞を済ませたら粛々と帰宅をしていたのである。しかし、生徒たちはそうでもなく、残る者もいれば早々に帰っていくものもいる。部活動がある者は当然残るし、所属していない者が帰っていくわけだ。

 例外もあって、帰宅部でも私用で学校に残る人も当然いる。そういう人は比較的自由に行動できるわけで、中庭にある銅像の前にいた紅葉たちを目撃するのも自然なことだ。そうしたところで生徒たちは物珍しそうに流し見するだけで、視界に留め続けようとはしない。

 

 ほぼ全員の生徒がそうしている中で、彼女だけはずっとそこを見続けていた。そこにましろ達が合流してからも、帰っていくその時まで。

 

「ふーん? Morfonica……倉田ましろさん、ですか。ふふふ、彼と仲がよろしいんですね」

 

 見続けたそれを、ただただ愉しそうに彼女は笑い続けていた。

 

 




 
 これで一区切り。次章からモニカがもっと出てきます。
 次の更新までしばらく空きます。
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