高校時代からの付き合いである友人のうちの二人。シュウとリュウ。もちろんそれはあだ名だが、呼び慣れた言い方で呼ぶのは鉄板だろう。俺もあだ名で呼ばれていたが、諸事情で名前呼びにしてもらってる。話し合いの末受け入れてくれた二人には感謝しかない。
ましろに速攻で求婚したのはシュウで、差し入れを持ってきてくれたのがリュウ。軽く自己紹介を済ませ、缶ジュースやらお菓子やらをテーブルに出してゲームのセッティングを済ませる。
「ひとり暮らしのやつがいると溜まり場になるのは当然なんだよなぁ」
「俺としても、遊び場を提供するのはやぶさかじゃないしな」
「素直に嬉しいって言えよ~」
「燃やすぞ」
「こわっ!」
カセット選びですら楽しんでるシュウと軽口を叩き合う。
「はいはい、準備できたし始めるよ。ましろちゃんはこのゲームわかる?」
「はい。このゲームじゃないですけど、似たゲームなら友達とやったことがあります」
「ならよかった」
「分からないことがあったら遠慮なくお兄さんに聞いてくれよ!」
「はい! 紅葉くんに聞きますね」
「あ、うん」
「ふんっ」
「鼻で笑うなよリュウ!」
ナチュラルにましろに断られたシュウをリュウが笑う。今のは俺も笑ったが、シュウの隣にいるリュウだけがバレたようだ。ましろはなんでそうなってるのか分かってない。
「そういやこれバラバラとチーム戦あるけど、どっちにする?」
「俺らは経験者だし、ましろちゃんが初心者ならチーム戦でいいんじゃね?」
「紅葉くんと同じチームが……いいです」
「熱々だね~」
「ぅぅ……」
リュウがニヤニヤと愉しみ、シュウがソファにもたれかかって天井を見上げる。ましろと組めなかったことではなく、嫉妬とかでもなく、男と組むのがやる気でないらしい。
それでもいざゲームが始めれば元通りになるのだから、放っておいていいだろう。
「ましろも言うようになったな」
「だって、紅葉くんとじゃないとうまく話せないから」
「なるほど」
少し寂しい。
大喜びしてるシュウがうざい。
「ターンは少し短くしようか」
「15ってとこだな」
「ましろちゃんが寝ちゃうだろうからね」
「お、起きれますよ」
「高校生だし、あまり夜ふかしはさせられないよ」
「キザ野郎め! その甘いマスクで何人の女を落としてきたことか!」
「一人だね」
シュウとリュウが声量に気をつけながらガヤガヤ騒ぎ、それをよそにルール設定を確定させる。
「止めなくていいの?」
「いつものことだからいいんだよ」
「そうなんだ」
二人のやり取りを気にかけたましろだったが、いつものことと言ったら視線をテレビ画面へと移した。
シュウは生まれてこの方彼女がいない。「いい人なんだけど付き合うのはちょっと」という絶妙な感じを貫いている。リュウの方は今現在も交際中の彼女がいるのだとか。写真とかも見たことないから、どういう子かは知らない。
「設定終わったぞ。キャラ選べ」
「よし来た!」
呼びかけたらすぐに二人ともコントローラーを持って画面に向き合う。切り替えの速さにましろは軽く驚いてるようだった。
これからやるのはパーティーゲーム。チーム戦にはなったが、マップを移動して目的のものを集めればいいシンプルなもの。マスごとに意味はあるし、アイテムもある。途中でミニゲームもある。
「どのキャラでも変わらないよね?」
「ちょっとした違いはあるけど、そんな気にするものでもないな」
ましろの確認を肯定し、キャラ選択が終わればゲームスタート。順番が決まって、自分の番が来るまではお菓子を摘みながらプレイを見ていく。
「ヒャッホゥ! 金だぁ!」
「それ一つで喜べるとはね」
「深夜テンションだ!」
「知ってた」
眠気はないようだが、この時間に起きてるってだけで興奮してるらしい。そんなシュウに触発されて、ましろも楽しんでるようだ。
「このミニゲーム何?」
「Aボタン入力してジャンプ。それで障害を避け続けたらいいよ」
「操作は簡単だね」
「パーティーゲームだしな」
元からチーム戦になっているから、4人で勝負するミニゲームはない。というか、やるミニゲームは全部2対2だ。このゲームに慣れてる二人を相手にすると、初心者のましろと組んで勝つのは難しい。だが、コレみたいに操作が単純なものなら勝機もある。
「あ、飛んでっちゃった」
「「ましろちゃん!?」」
「お? 勝ったな」
「しまった!」
「ましろちゃんに気を取られたや」
まさか1個目の障害でましろが脱落するとは思ってなかったが、初心者のましろを気にかけてた二人がそれに動揺してミス。ある程度予想してた俺が生き残って勝利となった。
「あっはっは! ましろちゃん策士だな~」
「これが孔明の罠か!」
「ええ!? 私何もできてないですよ?」
「ま、勝ったからよし。ひとまず喜んどこうか」
「ぁ、うん!」
にこっと微笑んだましろとハイタッチ。横から温かい視線と鋭い視線が背中に飛んでくるも、ましろが楽しめてるならそれくらい構わない。
「紅葉くんごめんね。なんかお金半分になっちゃった……」
「うん!?」
少し目を離した隙に何があった!?
それを見てた二人はゲラゲラ笑って、ましろは申し訳なさそうに目を伏せる。始まってすぐのことだし、元より金は少ない。半分になったとはいえそこまでの痛手でもないのが事実だったりする。
「そんなに気にするな。ゲームは楽しむもんだぞ?」
「ありがとう」
勝ち負けなんぞ二の次。パーティーゲームは楽しんだ者勝ちだ。チーム戦とはいえ、俺のことは気にせずやりたいように楽しんでほしい。
「ましろちゃんは意外と表情豊かだな」
「馬鹿だなシュウ。紅葉の前だからだよ」
「それはちがっ! ……わない、ですけど……」
後半はゴニョゴニョ言ってたけど、否定はしてないようだ。恥ずかしそうに顔を隠すましろにシュウがノックアウトし、ミニゲームで最初にくたばる。
当然と言えば当然なのだが、俺は俺の前にいる時のましろしか知らない。俺と一緒にいない時のましろのことは、人から聞く程度で実感が薄い。性格は分かってるつもりだし、想像はつくんだけどその程度だ。
第一印象の時点で客観的に捉えられる二人がそう感じたのなら、従兄妹冥利に尽きるというもの。
「……紅葉くんと一緒に何かするの……久しぶりなんです」
「そうなんだ? 家もそんなに遠くないなら結構交流ありそうだけど」
「去年はお互い受験シーズンだったからな」
「それと……私、紅葉くんを見てることのほうが増えて……」
ましろの順番が回ってくるも、ましろのプレイが止まって二人の視線が集まる。
「私とは違うんだって……側にいるほど分かっちゃって……。ずっと遠くの人なんだって。だから──」
「はいドーン!」
「おわっ!」
「きゃっ!」
「ごめん、大丈夫かましろ」
「う、うん」
リュウに思いっきり突き飛ばされ、ましろを巻き込んで体勢を崩してしまった。俺がましろを押し倒してるような状態になり、眼前には目を大きく開いて驚いてるましろがいる。鼻が当たりそうなほど近く、徐々にましろの頬が朱に染まっていく。
犯人であるリュウを睨み、体を起こそうとするも背中をシュウに抑えられて体を起こせない。
「ぐおっ……! シュウてめっ!」
「しばらくそのままでどうぞ」
「なぜに!?」
「ましろちゃん。俺たちは男だし、君ではないから気持ちを分かってあげることはできない。せいぜい察したり、一緒に悩むぐらいしかできない。だからこれはお節介だ」
この押し倒してるような構図がお節介とかふざけるな!
と、言いたいところだが、リュウはバランサーだ。いろんな人から相談を受けては助言するし、落ち着くまで面倒を見る。今回も考えがあってのことだろう。
真下にいるましろは、視線があちこちに移っていて忙しない。それでもリュウの話はひとまず耳に届いているらしい。
「客観的に見て、ましろちゃんが思ってるほど紅葉は遠い人じゃないと思うよ。今目の前にいるように、手を伸ばせば掴める距離感が君たちの距離感だ。ましろちゃんはきっと、掴んでいた手を離してしまっただけ。もう一度伸ばしてみていいんじゃないかな?」
ハッとましろの目が開き、ゆっくりと天色の瞳が俺に向けられる。
揺らぐ瞳はいくつもの感情が渦巻いていることを語っている。
グリグリと背中を肘で押されて促される。
ましろの頬にかかっている美しい髪をそっと退かせ、安心させるように頬を緩ませる。
俺が一度起きようとして生まれた距離を無くすように、ましろの手が遠慮気味に伸ばされる。その手を優しく包み込み、シュウが離れるとすぐに体を起こしながらましろも起こさせる。
「ましろはましろの好きなようにしてくれたらいい。俺に遠慮しなくていいんだよ」
「っ、でも……私……!」
ましろが何か言おうとして、口を閉じる。震える唇は、何かを訴えようとしていて。だけどその言葉が紡ぎ出せていない。
それがましろの抱えているものだってわかる。ましろが思い悩んでいるもので、俺には言いづらいこと。
泣きそうな顔をするましろの額を指で優しく突く。
「無理に言わなくていいんだ。話せる時になったら話してくれ」
「……うん。ごめんね」
「いや、たぶん俺にも非があるだろうし──」
「そんなことないよ!」
食い気味に否定された。少し驚いたが、ましろの優しさから来ることなんだろう。憶測だけで話を続けていくわけにもいかないか。
「ましろ。俺はましろが笑っていてくれたらそれだけでいいんだ。今は難しくても、それを超えて笑えるようになってほしい。手助けできることならそうしたい」
「紅葉に相談しにくいことなら俺らでもいいぜ~。時間は作れるからな!」
「シュウに相談しても碌なことにならなさそうだね」
「なんだと!?」
二人が会話に混ざり、場の空気を掻き乱してくれる。首に腕を回されてちょいと苦しくなってるのは許さない。顎に優しめのアッパーをかます。
「顎が割れるかと思った」
「割れちまえ」
「イケメンになんてことを!」
「彼女できてから言え」
「ぐぉぉぉ!! 見てろよ紅葉! 今年中には作るからな!」
話が完全に逸れたことで、ましろとの話も一区切り入る。中断していたゲームを再開し、シリアスになっていた空気も次第に和らいでいった。
「あれ? なんか当たった」
「ふぁっ!? レアアイテムだとぅ!?」
「ましろちゃん運いいね~」
「これ凄いの?」
「だいぶな。ありがとうましろ!」
良いものを手に入れられたことを漠然と分かったからか、ましろが嬉しそうに綻びる。
気持ちの整理はできないかもしれないが、ひとまず今を楽しんでくれてるならこっちも嬉しい。
ましろがファインプレーをしたり、初心者らしくやらかしたり。プラス面でもマイナス面でも珍しいハプニングを発生させ、それでゲームも盛り上がっていく。敵チームに圧倒的な差をつけたと思いきや自滅して捲くられたり。パーティーゲームではそうそう見ない波乱万丈な展開になった。
「あぶね……ギリギリ勝った」
「いや~、負だけどなかなか楽しめたな」
「ぅん……」
ゲームが終わった時には深夜1時を過ぎていた。ましろの目が半開きになり、こくりこくりと舟をこいでいる。
「ましろは寝よっか」
「おき、れる……。くれはくんと、あそびたい」
「また今度遊ぼうな。予定合わせてさ」
「ん……」
ましろの瞼が完全に閉じて肩に寄りかかってくる。楽しみきれたのか心配していたが、穏やかな寝顔からして杞憂に終わったようだ。
「ま、高校生でこの時間はよく起きれたなって方だわな」
「入学したてだし、ましろちゃんは生活習慣良さそうだからね」
「悪の道に引き込んだけどな~」
「今日だけだバーカ。こういうのはましろにはやらせねぇよ」
「シスコンめ」
「従兄妹だ」
「似たようなもんでしょ」
反論が思い浮かばず、肩に寄りかかってるましろに目をやる。控えめな性格でも、踏み出す勇気は持ってる子。ただそれが軌道に乗るまでは苦労する子。それを支えてくれる友達ができたらいいなと兄気分で思っている。
「ベッドに運んであげたら? 俺たちはこの後も遊ぶんだし」
「そうだな。部屋のドア開けてくれるか?」
「お安い御用だぜ!」
シュウが寝室のドアを開けてくれた。寝ているましろを起こさないように気をつけ、背中と膝裏に手を回す。慎重にましろを抱き上げ、女の子は軽いなぁと思いながら寝室へ。
ベッドにましろを下ろし、布団をかける。慣れてない枕だと寝づらいかもしれないが、そこは我慢してもらうとしよう。
寝室を出て、光が入らないようにドアを完全に閉める。二人はソファでだらっと寛いでいて、さっきまではましろに気を使っていたのがよくわかる。
「あの子、よく
「よく覚えてたな」
「そりゃあいつも決まった位置にいた子だし、紅葉にべったりだったし」
「べったりってあのなぁ」
「あの頃は……まぁそこはいいか。二人の問題だし」
変なとこで区切られると余計に気になるんだが……。リュウが話さないと決めたことは絶対に話さないからな。聞き出すのは諦めよう。
「さすがに俺らのことは覚えてなかったなぁ」
「二人は髪染めれないからってウィッグ被ってたしな」
「今も染めてないけどな」
「……悪い」
「別に責めてるわけじゃねぇよ。俺らにも責任ある」
「ま、その話はいいとして、紅葉はましろちゃんともっと話さないと駄目だよ」
ゲームのカセットを変えながらリュウが言う。
「何をどこまで、とは言わないけどさ。紅葉も話すことがあるし、ましろちゃんから話を聞くならそうじゃないとフェアにならないよ」
「……そうだな」
「んじゃ、明後日……時間的には明日か。とりあえず日曜日はましろちゃんとどっか遊びに行け!」
「勝者が遊ぶ場所を決めようか」
「おっいいね! やる気出てきた!」
「野次馬根性丸出しかよ」
気持ちは分からないでもない。俺だって立場が逆ならそうする。そうやって楽しい空気を作り上げる。シュウほど自然にはできないだろうけどな。
「さぁ、阿鼻叫喚の宴を始めようかぁ!」
シュウの宣言とともにゲームが始まった。
何かを忘れてる気はしていて、結局それを思い出すことなく朝までゲームに興じた。
勝者がシュウになった時はげんなりした。
Q.モニカのMVの花の種類ってなんですか?
A.いとこって結婚できるらしいですね