秋桜の揺らぎ   作:粗茶Returnees

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9話 罠に気づいた時点で掌の上

 

 リサにとっては一泊。ましろにとっては二泊。

 どちらも想定外の出来事だったわけだが、それを窮屈に思うことなんてなかった。むしろその逆で、なんだかんだリラックスできる状態で過ごすことができた。そんなことを言っても、俺は日中のほとんどを睡眠に費やしてからバイト。三人揃っての時間はほとんどなかった。

  

 それでも、帰ったら誰かいるという環境は人の心を安らぐものだと実感した。

 どっちも気心が知れた相手だからっていうのもあるんだろ。

 

「駅前に9時だからね」

 

「わかってるけど、なんでリサが仕切ってるんだか」

 

「二人が全然話進めなかったからでしょ!」

 

 荷物を纏めたリサとましろを玄関まで見送る。今は7時半過ぎなのだが、荷物を一旦家に持ち帰ってから遊びに行きたいらしい。それにしては時間が早い気がするのだが、そこを聞いたらデリカシーがないって言われるのはわかってる。早く帰る理由は知らないが黙っておくのが吉だ。

 

「こんなんで大丈夫か不安になってきた……」

 

「遊ぶだけだから大丈夫だって」

 

「なんでそう言い切れるのやら」

 

 俺とましろの話し合いがなかなか進まなかったのは、お互いに気を遣いあっていたからだ。ましろと遊ぶに行くのは久しぶりだから、ましろがたくさん楽しめるだけの時間を確保したい。その考えとは裏腹に、ましろは俺のことを気遣って朝はゆっくりしようと考えてた。

 その話が並行した結果、第三者であるリサが時間を指定した。そんな経緯を知ってる当事者だから、何やら気が重くなっているらしい。お節介な性格は苦労性だな。

 

 そんな出来事が朝にあって、暇な時間を家事に費やして潰し、適当に服を見繕う。適当な服でもいいかと思ったが、さすがに高校生相手にそれは失礼かと思い直した。

 戸締まりやら電気やらを確認して家を出る。集合時間の15分前に集合場所にたどり着き、辺りを見渡してましろがいないか確認する。誘っておいて後から集合場所に来るっていうのは、他の人がやる分にはいいが自分は嫌だ。

 

「お、おはよう紅葉くん。待たせちゃってごめんね」

 

「おはようって朝一緒だったろ」

 

「あはは……だよね」

 

 電車の乗り継ぎを確認するために見ていたスマホから目を離し、ましろの声が聞こえた方に視線を向けた。

 

「えっと……変じゃ、ないかな?」

 

「……うん。変じゃない。凄い似合ってるよ」

 

「よかったぁ」

 

 月並みの言い方になってしまったが、似合ってるのは事実だ。ましろが普段着ないような少し意外な服だったけど、新たな可能性というか、ましろの服の幅も広がったんだなぁとか思っている。

 正直に言ってしまえば、ましろがオシャレをしてきて言葉を失った。それはもちろん良い意味で、ましろが言うとおり『もう子供じゃない』ということなんだろ。

 

「それじゃあ行こうか」

 

「うん」

 

 切符を買って改札を通る。日曜日ということもあって、人の通りが多いけどこの駅はマシな方だ。所謂ベッドタウンでこの時間に降りてくる人は少ない。圧倒的に乗客のほうが多い。

 

「この電車に乗るの?」

 

「これの次だな」

 

 まぁ圧倒的に乗客のほうが多いとか言っても、主要駅でもないからたかが知れている。電車の中はそれなりに混んでるかもしれないが。

 

「紅葉くんちゃんと寝られた?」

 

「ん? わりと快眠だったよ」

 

「ソファなのに快眠できたんだ……。寝られてたならよかった」

 

「ましろは?」

 

「へ?」

 

「ましろはちゃんと寝られたか? まぁ、隣にリサがいたなら少し寝づらかったかもしれないけどさ」

 

「えっと……、大丈夫、だよ?」

 

 なぜ疑問形なのか。

 待って待って。本当に寝られたの? ちゃんと睡眠取れたの? リサと話ししてて夜ふかしにしたとかそんな感じだろうか。リサなら寝かしつける方だと思うんだが。

 気になりはするのだが、ツッコみたいところだが! 流したほうがいいんだろうな。毛先を弄って視線を逸らすましろを見てると、その方がいい気がする。

 

「それならいいんだけど」

 

 そんなわけで流すことにして待っていた電車に乗る。乗り継ぎもスムーズに進み、国内最大規模である複合型施設の最寄り駅に近づくにつれて家族連れの人が多くなる。

 うちの家族とましろの家族で揃って旅行したことを懐かしんで話し、お互い落ち着いたらまた行くのもありだなぁと思ってみたり。そんなこんなで最寄り駅に着き、ましろと離れないように気をつけながら改札を通る。

 

「人多いね」

 

「新しい方だし、話題になってる場所だからなー。ネットで入場券を買えるってのも、ここに来て入場券を買う時間を省けて便利だしな」

 

「そっか。だからみんなすぐに入れてるんだね」

 

「そういうこと」

 

 俺達の入場券は少し違うが、他の人と同じ場所から入っても問題ないだろう。QRコードを機械に読み取らせて終わりっても楽でいいな。

 

 ──ピコーン

 

「ん?」

 

「えぇぇ……紅葉くんこれどうやるの?」

 

「まじか」

 

 コードを読み取らせるだけなんだけどなぁ。改札でICカード読み取らせるぐらいの楽さなんだけどなぁ。

 

「赤枠で囲われてるところあるだろ?」

 

「赤枠……あ、うん」

 

「そこにチケットのQRコードを読み取らせたら入れる」

 

「……できた!」

 

 すっごい嬉しそうにしてて、見てるこっちも和んでくる。パァッと明るくなったましろと話しつつ、ましろの後ろで入場待機してた人たちに会釈して謝る。

 

「紅葉くん誰かいたの?」

 

「……まぁ、うん」

 

 さすがにこれだけ嬉しそうにしてるましろに水を差すのは気が引ける。顔見知りがいたっていうことにして、ましろには気づかせぬまま奥へと進んでいく。

 豪華絢爛なエリア。その華やかさだけで十二分に来訪者の気持ちを上げさせてくれる。日本人はわりと西洋の街並みに心浮かれるから、その再現だけでまるでその場所を訪れたような感覚にもなる。現に隣にいるましろは目を輝かせて、きょろきょろとひっきりなしに目移りしてる。

 

「あ、マスコットキャラクターだ。ミッシェル……っぽい誰か?」

 

 ましろに指差された方を見ると、たしかにマスコットキャラクターがいる。弦巻こころがいるバンドでは、たしかクマのミッシェルがDJをしていて大人気なんだとか。その関連で新しいキャラでも作ったのかな。

 そのキャラクターは写真撮影もしているようだ。着ぐるみで写真撮れるとか芸達者だな。

 

「ミッシェルもDJしてるし、他のキャラでもできちゃうんだね!」

 

「それで片付けるのはどうかと思うぞ……」

 

 上機嫌なましろは思考能力が低下してるらしい。今ならどんな嘘でも信じちゃいそうだ。騙されないように俺が気をつけないとな。

 

「あ、私達も撮ってくれるみたいだよ」

 

「向こうから指名するってどうなんだ」

 

「せっかくだし、記念に撮ってもらおうよ。駄目?」

 

 上目遣いで言ってくるな……! 

 元から断る気もなかったけど、それはズルいぞましろ。本人は無自覚で一切狙ってやってるわけじゃないってのが困りものだ。

 

「これってサービスなのかな?」

 

「どうだろ。高かったら悪いけど諦めてくれ」

 

「うん。……あれ? サービスだって」

 

「どっから看板取り出したんだあいつ」

 

 カメラしか持ってなかったはずなんだけどなぁ。今は『撮影無料サービス』って看板を持ってる。その謎を気にしても仕方ないし、無料サービスならお言葉に甘えて写真を撮ってもらおう。

 何より、ましろが嬉しそうにしているんだ。

 

「ここに立てばいいのか」

 

「そうみたい」

 

「二人もう少し寄って~。もう少し~」

 

 この声……まさか……!

 

「ごめんなましろ」

 

「え、なにが──ひゃっ!?」

 

「すぐに撮ってもらおう」

 

「ひゃい……」

 

 ましろの肩を抱き寄せる。着ぐるみ野郎がやたらとテンション上がって連射。恥ずかしさからか、ましろがぷるぷると震え出したのを感じて写真撮影を終了させる。写真を確認するという口実を作り、ましろには少し待ってもらって着ぐるみの下へ。

 

「お兄さんいいの撮れたよ゙ぉっ!?」

 

 ましろには見えないように気をつけながら、着ぐるみの頭と胴体部分の隙間から手を突っ込んで首を絞めた。中は暑いのかと思いきやわりと快適そうだ。さすが弦巻製。

 

「何やってんのシュウ」

 

「お、俺はバイトしてるだけなんだけどっ……!」

 

「ゲームに勝ってテーマパークって指定したのお前だったな。ってことはあれか? 弦巻こころもお前の差し金か?」

 

「待って待って! まじで後半部分は初耳! 俺はお前らの様子を尾行する遊びがしたかっただけの人畜無害男!」

 

「どこだ人畜無害だ!? それただのストーカーじゃねぇか!」

 

 手に力を籠めると肩をタップされる。カメラを持ってる方でやるなよ。普通に痛いんだぞ。

 ましろに見られないようにするのも限界だし、他のちびっ子たちにも悪い。ひとまず手は離すことにして、本当に一切関わりがないのかを確認しないとな。

 

「まず俺はこころちゃんと接点ねぇよ? ここの会社に雇われてるだけだし」

 

「バイトは日雇いとか裏口じゃなかったのか」

 

「そこまで疑うなよ!? さすがにショックだぞ!?」

 

「まぁ偶然だとして、弦巻こころがどうにも引っかかる。俺もあの子と接点ないし、ましろもないんだよな」

 

「間に入れる奴は心当たりあるだろ」

 

 間に入れる奴……。俺と弦巻こころの共通の知り合い。もしくはそのましろパターン。俺はましろの高校での交友関係までは把握してないから分からないとして、ひとまず疑うべきは俺の交友関係の誰か。

 

「俺はコロッケだと思うんだけどなぁ」

 

「コロッケ? ……リュウか……!」

 

 狙ったのか偶然かはこの際どうでもいい。一番現実的な可能性は、リュウが妹にその話をして、そこから弦巻こころに話が行って今に至ったということ。

 ……偶然じゃねぇな。赤の他人である俺個人……でも動きそうだけども、リュウがそうなるように動かしてる。あいつさては、勝っても負けても自分が楽しめる状況を作れればそれでよかったって腹か!

 

「で、そこまでいけばお前が無関係なわけねぇんだよシュウ!」

 

「くそっ! やっぱりバレたか! でも変なことはしない! お前はどうでもいいけどましろちゃんには楽しんでもらいたいからな!」

 

「スタッフの口でよくそんな事言えたな!?」

 

「頼むからこのコースで行ってくんね? お前らをこのコースに行かせたらボーナス出るんだ」

 

「友達をダシに使うなよ」

 

「友達だから嵌めずに頼んでるんだ。俺の合コン代稼がせてくれぇぇ!! お前が好きな絶叫系もあるからさぁぁ!!」

 

 ええい! 大学生にもなった男が汚い声だして泣きついてくるんじゃねぇ!! しかもその着ぐるみで迫ってくるな! 圧が出てるんだよそれ!!

 

「分かったからその地図寄越せ。お前らには俺も世話になってんだし。持ちつ持たれつだろ」

 

「紅葉……ありがとよ!! その勢いでましろちゃんを俺に──」

「土に埋めるぞテメェ」

「ごめんなさい」

 

 写真は帰る時に貰えるらしい。俺はシュウから地図をもらって現在地を確認する。そこからどう動けばいいかは既にラインが引かれていて、ほぼ反時計回りという分かりやすさ。たしかに俺も楽しめそうな内容だし、ましろも楽しめるだろう。その辺りも考慮してるのはリュウらしい。……あいつ、高校の時とかデートの相談も受けてたし。

 

「待たせてごめんな」

 

「ううん。写真はどうだったの?」

 

「ちゃんと撮ってもらえてたよ。帰る時に渡してもらえるって」

 

「そうなんだ。地図も貰えたんだね」

 

「まぁね」

 

 地図のことを言われたから、内容を掻い摘んで説明する。コースを決められるのはどうか気にしたのだが、ましろも異論はないらしい。

 

「初めて来た場所だもん。決めてくれてる場所もオススメってことでしょ?」

 

「そういう考え方もあるか」

 

 ましろは純粋だなぁ。嵌められるってことを知らないんだろうな。どうかそのまま知らない状態でいてほしい。でも引っかからないようにするためには、そういうのがあるって知らないと無理なんだよな。悩みどころだ。

 

 なんにせよ、こういう時でも友達を疑わずにいたいものだ。

 

 




 Q.他のモニカメンバーは出ないんですか?
 A.いずれ出ます
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