元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ルーニー
「……嘘だろ?」
バリバリと魚の骨の咀嚼音が自分の耳まで響いている中でもその呆然とした声は確かに聞こえた。骨太の魚を噛み砕いて飲み込んでも問題ないくらいになったら飲み込み、小休止にコップの水を1杯分一気に飲む。
「すまん、もうちょっとくれると助かる」
「ちょ、ちょっとって……?」
「5人前ぐらい」
「5……!?」
皿を取りに来た少女にお代わりを要求して残っている皿の骨付き肉にかぶりつく。さすがに食い散らすような行儀の悪い食い方はしてないし、結構な量を食べれたからようやく落ち着いて食える。最初の方はさすがに餓死寸前レベルで栄養が無くなっていたから行儀が悪かったかもしれないが、まぁそれは許してほしい。
「あれだけ食べてまだ食うのか?」
「万が一に備えて貯めておきたいからな。さすがに一瞬で消化、吸収はできんが、消化を早めるぐらいはできるし、文字通り食い貯めできるからな。消化した物の栄養をある程度貯めておけるように訓練してきたおかげで1週間は食わないでいても生きていられるようになった」
ライラの呆れたような物言いに口の中を空にして返事をする。ガープさんによる文字通り死ぬ直前まで追い込んだ鍛錬にてようやく習得できた”生命帰還”擬きだが、常に食料が潤沢にあるわけではない軍艦の上での任務ではかなり重宝した力だ。
さすがに即座に消化、吸収はできないが意識すれば1人前程度なら1分もいらずに消化できるようにはなった。さらに栄養も吸収させずに体内に留めておくこともできるようにはなっている。
とはいえ1週間飲まず食わずは戦闘がなかったらの話ではあるが。普通の勤務程度ならそれぐらいは持つのだが、戦闘となればさすがに”六式”を使わなければマシとはいえ激しく動くからどうしても期間は削れていく。
今回はそこまで力を出すつもりはなかったんだが、アリーゼたちを見ていたらついコビーたちに修行をつけるようにしてしまった。おかげで餓死寸前まで使ってしまったのだが、まぁ今こうやって食べられているしコビーたちに似たやつらを見れたから良しとしよう。
「……本当に人間ですか?」
「失礼だな。1から10まで人間だぞ」
リューの呆れたような声に口の中を空にしてから反論する。確かに一般兵に比べたらかなり食ってはいるが、ルフィやエース、なんならガープさんに比べたら少し物足りないと言われそうな程度しか食ってない。いや、そう考えたら十分多いか。
とはいえそもそもの話、”六式”という超人技を使っていて普通の大食漢程度の食事で足りるわけがない。本部大佐以下まで衰えたのならまだしも、まだ本部少将レベルは保てている現状大量に食わないと力が出ずに力が発揮できないなんてことになりかねないしな。
「ふぅ。食った食った。ごっそさん。いや、マジで助かった。あと1時間遅かったら餓死してた」
最後の皿に乗っていた肉を飲み込み、口に付いたタレを舐めとって軽く息を吐く。腹が少しだけ膨れていたけど目に見えて引っ込んでいき、すぐにフラットな状態に戻っていった。さっきまで感じていた飢餓感も完全に無くなっているのもわかる。これで飢えを気にすることなく十全に動くことができるな。
「マジで全部食ったのかよ……」
「それであの体型だろ?マジでどうなってるんだ?」
「食った物胃袋じゃなくてダンジョンに送ってるんじゃねぇの?」
「そんな馬鹿な、って言いたいけどあれ見てたら否定できないな……」
「あんなに食べてるのに太る気配もないなんて……!?」
「う、羨ましい……!今の体型を維持するのに私たちがどれだけ努力していると思って……!」
ざわざわと普通じゃない喧騒が聞こえるが、戦場じゃないから別に内容まで聴きとる気はなく何日ぶりかもわからない満腹感に浸る。これで心置きなく全力が出せるものだと軽く背伸びをすると、さっきまでこの部屋にはいなかったはずの目つきの鋭い女が呆れたような表情を浮かべながらこっちに向かって来ているのが見えた。
「……まさかあれだけを毎日食べる気か?」
「いや、今回は餓死寸前まで来てたから食っただけだ。普段からあれだけ食うことはねぇよ」
海王類を食うことを考えたら特段海上でも食事事情を考える必要はないんだが、そう都合よく現れるとも限らないから船の上ではなるべく大量に食わないように命令されている。
さすがにあれだけ食うのは長期出航する時に万が一に備えて食いだめするぐらいだ。
「食うにしてもせいぜい十分の一程度だ」
「「「「「十分に多いわ!」」」」」
全員から一言一句違わない声がハモって食堂全体に振動が走った。声だけで建物を振るわせるところを見たのはいつぶりだろうか。ガープさんがウォーターセブンで自分の息子のことを言った時の周りの反応以来か?
「あんたどれだけ食べたと思ってるの!?60人分よ!?十分の一でも6人分なのよ!?それだけの量を1回で食べるっておかしいんじゃないの!?」
「おー。結構食ったんだな。いやぁ、食える量減ってなくてよかったわ」
「こっちは本気で詰めてんのにずいぶんとのんきだなお前!?」
のんきと言われるが、正直”六式”の鍛錬をすることを考えたらそれぐらいは食いたい。ただでさえ”六式”を使ったら体力をかなり消耗するのに、派生技の鍛錬や新しい派生技の鍛錬だけでなく、基礎トレーニングだって長期間やらないということはしたくない。毎日6人前を食わなければ消費に追いつかなくなる。
「いやぁ!確かに好きなだけ食べてもいいとは言ったが、さすがに1人でここまで食べるとは予想外だった!ガネーシャ困惑!」
元気よくそう言いながらこっちに歩いてきているガネーシャさんと、その後ろをついているアーディとハシャーナ。目付きの悪い女が憎々し気にガネーシャさんを睨みつけているが、ガネーシャさんはそれに気づいていないのか隣まで来た。いや、よく見たら震えているから睨みつけられているのはわかっているようではあるか。
「お疲れ様です。さっき模擬戦をやったわけなんですが、お眼鏡にかなっていたのです?」
「十分なんてものじゃない!むしろ多少融通してでも全力で囲うように指示が出るぐらいだ!」
「ならよかった。飯が食えなくなる心配はしなくてもよさそうだ」
ガネーシャさんの言葉に安堵を覚えながら水を飲む。あの程度で囲えと言われるレベルならしばらくはこの街の実力者の確認と金稼ぎ、そんで鍛錬に集中してもいいだろう。
「今から報告するにしても決定するまでそれなりに時間はかかるだろうし、しばらくは鍛錬と金稼ぎに時間を使おうかね」
実力者の確認は大して時間はかからないだろう。冒険者の情報が集まっているギルドに聞けば表面上のことは聞けるだろうし、アリーゼたちにも聞いたらある程度細かな情報もわかるだろう。
鍛錬は、まぁウラノスとやらに許可が取れるまではダンジョンに入ることはできないだろうしどこかいい場所を教えてもらうことにしようか。別に無断で入れるだろうけど、現状隠れる必要がないしバレた時が面倒だから無断で入るのは手が詰まった時でもいいだろう。
金稼ぎについては肉体労働で人員を募集しているところを探して応募すりゃいいか。現状戦争に近い状態なんだから木材の運搬だけでも募集をしている可能性は高いし、なければないで闇派閥の連中をノしてここに連れてきたらいいだろう。
「ねぇねぇ。さっきの模擬戦で使ってた、”鉄塊”だっけ?とかって私たちでも使えるの?」
ガネーシャさんとの会話も一息ついたと見たのか、アーディが興味を隠そうともせずに聞いてきた。その後ろにはハシャーナも興味があると言わんばかりにこっちを見ていた。
「さぁな。こればかりは才能がモノを言うから何とも言えん」
「才能?まぁ、あんな人間離れしたものがスキルでも魔法でもねぇなら相当身体が強くねぇとできそうにねぇもんな」
納得したように頷いているハシャーナだったが、確かにその考えは間違ってはいない。
「身体面もそうだが、一番に必要なのは精神面での才能だ。それさえあれば身体的に劣っていてもある程度は身に着けられる」
「精神面?」
「そうだ。誰でも持っているようで実際は持っている奴がそう多くないってのもあるんだがな。難しいものさ」
そもそもの話、”六式”は海軍で採用されている誰でも習得できる戦闘技術だ。もちろん習得するために必要な時間に差はあるし、習得するためにすべての時間を習得のための鍛錬に費やすこともできない。コビーとヘルメッポは文字通り寝る間も惜しんで鍛錬したから習得できたんであって、才能があったとしてもあんなに早く習得できるわけではない。
そんな中で自分と同じような鍛錬で身に着けた同僚を見て、向上心が上がるだけならいいが残念ながらほとんどは心が折れた。同じことをしても習得できない自分に見切りをつけるならまだいいが、自分自身に失望して自棄になるやつも一定数はいたからな。他にも文官に才能があったために戦闘職から離れる、習得できていないまま戦闘に参加した結果ケガを負ったことによる引退等、様々な事情や要因が折り重なった結果”六式”は才能があるやつしか習得できないということになっているだけだ。
「それならここにいる全員が使えるようになると?」
「可能か不可能かで言えば可能だが、俺はできるとは思えねぇな」
言葉では思えないとぼかして言ったが、全員が習得できるのは不可能だろうなと確信しながら言ったせいかリューの視線が鋭くなったのを感じた。
「なぜ?」
それに続くように俺に対してなめるなと言わんばかりの威圧感を発しているのがわかる。反骨精神があって何よりだ。コビーやヘルメッポは憧れに追いつくためにガープさんの鍛錬に食いついていたが、それに通じたものを感じる。
「例えばだが、毎日延々と走り続けたり重しを乗せて鍛え続けろと言われてできるか?」
「それぐらいならできそうですが」
「延々に、だぞ。それだけじゃなく、あ~っと、ここでは魔法か恩恵になるのか?とかは一切使うことなく、自分の肉体と精神力だけでそれを習得できるまで続けろと言われて続けられるか?」
「それは……」
リューが苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて何かを言おうと口を開閉させたがすぐに首を横に振る。周りもそんなことできるかと言わんばかりに首を横に振っているが、ここでできると即答しなかったのは評価できる。できそうにないと自分のことを理解できているだけずっといいだろう。
海軍にいた時、海軍支部大佐の息子で鼻持ちならないバカができると即答したことがあったんだが、まぁそういうやつは1週間も経たずに泣き言を言ってやめている。ここにはそういうやつはいないようだからそこは安心できるな。
「まぁ普通は無理だわな。さっきの例は”六式”とは別の基礎鍛錬になるが、”六式”を使えるようになるにはそれぐらいの無茶はしねぇとできねぇぞ。才能があったり身体が異常に強いのならもっと楽になるのは否めないがな」
さっき言ったのはあくまで基礎的な部分を鍛えているだけで厳密には”六式”の習得のための鍛錬とは違う。基礎ができてきてからようやく”六式”の鍛錬に移れるから、そこまでで脱落するようなら”六式”を習得することはまずできない。
「”六式”で本当に重要なのは諦めない意志だ。才能がなくても、時間がかかっても、周りが先に進んでいても、自分がどれだけ置いていかれていても、それでもと歯を食いしばって鍛錬した先に習得できるのが”六式”だ。それがなければどうやっても習得はできんよ」
実際”六式”のどれか1つだけを習得できたやつが1人出てからの方が心が折れてしまう人数が多い。もちろん意欲自体は上がるのだが、残酷なことだがそれだけで”六式”を習得できるわけじゃない。それ以降意欲は目に見えて下がり続けてしまって最後には数人が習得して残りは別の道を探すか、腐ってしまうやつもいた。
「それに、”六式”は使うやつによってその強さが大きく変わる。6つすべてを扱え、更に塔を切断するほどの力を発揮できる奴もいれば、4つしか使えずに強い兵士程度の力しか出せないやつもいる。”六式”を扱えるからと言って俺並みになるのかと言われたらはっきりと無理だと言ってやる」
確かに”六式”は強力な力だ。使える使えないで戦力の差はとてつもなく広がるのも事実だ。だからと言って”六式”が使える連中全員がCP9と比類するほどの強さがあるのかと言われたら絶対に違う。”嵐脚”1つをとっても石を容易に切断するほどの威力を出せる奴もいれば一般兵の剣と同等レベルの威力しか出せないやつもいる。
「身体的な才能がなくても諦めずに数年鍛え上げれば4つ、あるいは5つは使えるようにはなるだろう。それでも相当な無茶がいるけどな。それでも5000万の首を獲れるようになるのかと言われたら絶対にできるとは言えんし、1000万の首だとしても絶対はねぇよ」
正直おなじ額の賞金首だとしても実力差は天と地の差があるし、相性次第では額が下回っていたとしても勝てる場合だってある。3000万のルフィが元とはいえ8000万の王下七武海のクロコダイルを倒したし、1500万のバギーが7500万のダズ・ボーネスに負けることがないようにどうしても相性は存在している。
”六式”が扱えるからと言って絶対に勝てるわけでもないし、そもそも鍛錬に耐えれる精神と戦闘ができる精神は似てはいるが同じじゃない。
「なに、本当にやる気があるんなら脂肪がダルダルだったコビーでも1年も経たずに習得して戦場で扱えるようになったんだ。お前らが本気なら身体的に強化されてるんだからコビーたちよりも簡単に習得できるだろうし、それなり以上の力にはなるだろうよ」
とはいえ、コビーやヘルメッポは例外中の例外とも言える。ガープさんに見てもらっていたという幸運があったとはいえ、下積みの雑用以外にも深夜まで鍛錬や勉強を欠かさず行って来ていたからこそあれだけの力を習得できた。まだ恩恵の効果がどれだけあるのか細かくはわからないが、あそこまでの意欲があればもしかすると数週間でどれかを習得できるかもしれんな。
「私たちは剣や槍といった武器を使って戦うんだけど、武器を持ってても使えるの?」
「使い方次第だな。武器を使わず拳で戦っているやつが多かったが、別に武器を使いながらでも”六式”が使えないなんてことはない。そもそも”六式”は基礎だから派生させれば武器を持ってても使えるようにできる」
例を挙げればCP9のクマドリやカクがそうだろう。身長並の錫杖や両手に剣を持ち、”指銃”を錫杖で放ったり”嵐脚”で事実上4刀を操れる”六式”使いはCP9以外にもそれなりにいた。他にも”六式”すべてを使えなくても武器で補助することもできることも考えれば、習得できるのならという冠はあるが武器があるからと言って習得を諦める理由にはならない。
そもそも武器を使うなら、推奨はしないが”指銃”以外を集中的に鍛えるという手もあるし、なんなら”剃”と”月歩”だけでも戦力増強としては十分だ。
「俺には武器を扱う才能はなかったから拳で戦っているだけだ。鍛えても平凡の域から出ないと断言されてからは全く使ってないしな」
武器を使えるかの適性を見ている時に剣に触れた時もあったが、剣を振っても狙った場所に正確に切ることができなかったから適正無しだとボガードさんに断言されたっけ。一応斬鉄を身に着けるためにボガードさんに教示してもらって最低限を身に着けていたきりであとは一切触っていない。今剣を使ったとしても最後に触った時よりも腕はかなり落ちているだろうことは容易に想像できる。
「まぁ俺も納得して素手での戦闘をガープさんに鍛えてもらっていたよ。剣を使っていても動かない鉄を斬るぐらいしかできんかったからな」
「待て」
あの頃はがむしゃらだったと思いつつ郷愁に駆られている中、輝夜が唐突に言葉を遮ってきた。
「聞き間違いでしょうか?今鉄を斬るとおっしゃいましたか?」
「ん?そうだが、それがどうした?」
「それがどうした!?」
俺の肯定に輝夜がさっきまでの丁寧な言葉が消えて怒りに任せたような言葉遣いになった。
「お前、斬鉄ができて才能がないだと!?それができれば剣聖を名乗れるほどのことができて才能がないだと!?人のことをバカにしてるのか!?」
「あ?何言って……」
輝夜の言葉によくわからんと首を傾げそうになるが、よく考えたらここは海軍じゃねぇだったと思い至る。確かに海軍基準で、それこそ億越えの賞金首の海賊を想定しているような考え方はよくなかった。
「あ~。すまん。勘違いさせるようなこと言ってたみたいだわ」
確かにそうだわな。普通は剣を使って斬るわ。剣の才能がないのに鉄を斬ることができるのはおかしいと思ってもおかしくはないわ。
斬鉄自体はあらゆるモノからの呼吸を感じることでできるかの才能が必要になるから、剣を扱う才能とは大きく違う。斬鉄の才能はあったんだが剣を扱う才能がなかったというべきだったな。ボガードさんにそれを教えてもらった時には奇妙な者を見るような、憐れんだような表情を浮かべていて、それでいて妙に納得したような表情を混ぜ込んだ視線を送ってきていたのを今でも覚えている。
「別に武器を使わなくても斬鉄できるから剣に才能はないのは事実だぞ」
「余計におかしいこと言ってる自覚あるのかお前は!?」
ちゃんと訂正したのにさっき以上の怒りでこっちに大量の怒号がきた。解せぬ。
アラバスタ編でゾロが見せた呼吸の描写を見るに鉄を斬る技を使うのに剣士である必要はなさそうなので別にいいかなって。
鉄を斬るのに剣士じゃなくてもいいってなんだ???
ルフィ換算12日分を1回で食う化け物である。でもルフィは1回につき10人前は食べそう。そう考えたらサンジの功績やばすぎるな。
いや、でもエースもアラバスタで座高ぐらいの高さを2つ積み上げてたな。むしろ抑えてる方か?
生命帰還についていろいろと意見がありそうですが、クマドリが消化、吸収したあとも太ることができて々消化、吸収ができているのを見ると栄養を残すこともできるだろうと思っての設定です。
というか物資が限られる上に予測不能の海を航海している船上で満足に食事ができるかと言われたらまぁできないだろうことと、明らかに人並外れた食事を行うキャラが多いことから差はあれどデフォでこれぐらいはできるだろうとの予想です。
あと東の海~W7までの時間経過が調べてもわからなかったので1年は経過していない程度だとしています。どこかで1月も経っていない説もあると言っていた記憶がありますけど、それだとルフィがギア2でしか使えない”剃”をガープに叩きこまれたとはいえたった数週間で習得したコビーが誕生することになるわけで。
それだとルッチすらも霞むレベルの天才ということになりかねないし、そもそも実力主義であったとしてもたった1か月で雑用から曹長に昇進したことになります。いくらなんでもそれはありえない……。
1年で曹長になったとしても十分おかしいな?