元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:ルーニー

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もしもの世界11

 

「この、いい加減におとなしくしなさい……!」

 

 星屑の庭の中でも人目が付きにくく、かつ多少の鍛錬なら問題ない程度の広さを誇る部屋の中でリューは顔を怒りで赤くして自身の得物である木刀をフィースに向けて振るっていた。フィースはそれを軽々と避け続け、しかし同時に観察するようにリューを見ていた。

 その中で聞きなれた木刀の振る音を聞いたライラはどうしたんだと部屋に入ると、そこには木刀を振るリューと避けるフィースの他に、面白いものを見るかのような表情を浮かべているアリーゼと輝夜がそれを眺めていた。

 

「リューのやつどうしたんだ?」

 

「一緒にいたのに撒かれたのを怒っているみたいよ」

 

「なにやってんだあいつ」

 

 リューから逃げ出したフィースに向けてか、それともフィースにあっさりと逃げられたリューに向けてか。それはどちらに対してのものなのか、呆れたような物言いをするライラの言葉は攻め入ることに必死なリューの耳には届かず、ここでは気を抜けるようになってきたフィースは特に気にすることなくリューの剣を捌く。

 

「ほれ」

 

「あう!」

 

 スパン、とフィースが膝裏を軽く蹴るとリューは力が抜けたかのように膝を折りたたらを踏む。勢いよくフィースに向かっていたせいで地面に倒れこみそうになったが、木刀を持っていない手を地面につけてなんとか地面に倒れこむことなく体勢を整えてフィースを睨みつける。

 

「鍛錬が足りんな。もっと足腰を鍛えろ。疾いのはいいが、実力もないうちは腰を入れて攻撃をするようにしないと格上には通用しないぞ」

 

「この……!」

 

 フィースの指摘に顔を赤くして再びフィースへと斬りかかるがフィースは軽々と避けては膝裏に蹴りを入れる作業が始まるだけで何かが変わるようなことはなかった。

 

「ちょっといいかしら?」

 

 ぱしん、ぱしん、とリューの膝裏に軽く蹴りが入る気の抜けた音が鳴り響く部屋に、凛とした声が響いた。見学をしていたアリーゼ、ライラ、輝夜の3人が声のしたほうを向くとそこには優しく微笑みを浮かべているアストレアが部屋の中へと入ってきており、リューはそれに気づくことなくフィースに斬りかかっているがフィースはそれを軽くいなしつつ耳をアストレアへと向けていた。

 

「アストレア様。どうかしました?」

 

「フィースの件で重要なことを伝えに来たの」

 

「ウラノス様に報告する件ですか?」

 

「えぇ。そうなの。できればすぐにでも話を聞かせたいのだけれど、リューを鍛えるのに忙しそうかしら?」

 

「大丈夫だと思いますよ。ポンコツエルフが弄ばれているだけなのですぐに終わらせられると思いますわ」

 

 輝夜がチラリとリューの様子を見るが、リューは相も変わらず意固地になったようにフィースに木刀を振り続けており、フィースはそれを軽々と避け続ける。自分たちもリューの攻撃を避けることはできるが、恩恵も受けていない状態であそこまでできるかと言われれば不可能だと理解しており、改めてフィースの化け物染みた実力に内心驚きが隠せずにいた。

 

「おいフィース!アストレア様が呼んでるぞ!」

 

「はいよ~」

 

 ライラの声を聞いたフィースはリューの振るった木刀をかいくぐるとそのまま人差し指と中指をリューの額につけるとそのまま軽く押した。体勢も悪かったのもあっただろうが、フィースに力で負けているリューはそれに抗うことができずそのまま尻を地面につけるように倒れた。

 キッと睨みつけてそのまま続けようとしたリューだったがそれを阻止するようにフィースが指をアストレアに向けると、リューはつられて指されたほうを見る。そこには微笑ましいものを見るようにリューを見ているアストレアがおり、それを理解したリューはフィースへ斬りかかっていた醜態を見られていたことへの恥ずかしさで顔を赤くしてわたわたとした。

 

「どうかしました?」

 

 そんな様子のリューを流してフィースはアストレアの元へと歩く。あれほど激しく動いていたにもかかわらずフィースは息を荒げている様子はなく、汗をかいた様子はもなかった。わかっていたことだがここまで実力が違うかと改めて内心舌を巻いていたアストレアだったがそれを表情に出すことなくここに来た理由を告げる。

 

「ウラノスと会う約束を取り付けれたわ」

 

「あれま。本当ですか。意外と早かったですね」

 

「私とガネーシャができるだけ早くと伝えたらギルド側も対応してくれたの」

 

「了解です。いつ頃になります?」

 

「急で申し訳ないけど、今日の深夜に会うことになったわ。本当ならもっと時間が空くんだけど、あなたの境遇を考慮したらこればかりは急であっても会わないといけない事案だと判断したの。ガネーシャは有名で人気者だから人目につきやすいし、今の時期に顔を隠そうとすると余計に目立つことになりかねない。そうなったらあなたにも注目が行きかねないことも考えたらどうしても深夜に行動せざるをえなくなったわ」

 

「あ~。まぁ、そうなるか。了解です」

 

 アストレアの言葉にフィースは自身の特異性をそれなりに理解しているからか特に何も言うこともなかった。それまでは時間があるがやることも特になく、それならばとフィースはリューの相手をすることにし、それをからかわれていると理解したリューは再び顔を赤くしてフィースに襲い掛かり、ついでとばかりにアリーゼも鍛錬と称してリューと共にフィースに相手になってもらい、それを輝夜とライラは呆れたようにため息をつく。

 

 他が見れば何事だと騒ぎになるようなことだが、それをアストレアは止めることもなく微笑みを浮かべて眺めていた。

 

 

 

 

 

 時が過ぎ、闇派閥を警邏する者以外は誰もが寝静まった深夜。ガネーシャの配慮により警邏のルートを把握しているフィースとアストレアは素早くガネーシャの指定した場所へと移動する。そこには警邏を理由に辺りを警戒して仁王立ちをするガネーシャがおり、フィースとアストレアに気づいたガネーシャは手招きをしながら移動を始める。

 

「お疲れ様です」

 

 移動速度も落ちて周りに気配が無くなったことを確認したフィースはガネーシャを労わるように声をかける。普段は大声で応えるガネーシャだが、状況が状況であるため普段のガネーシャを知る者からは驚きで目を見張るほどに声を落として応えた。

 

「うむ。フィースもこの時間帯にすまないな」

 

「いえ。特に問題ないですよ」

 

 ガネーシャの労わりにフィースは何でもないようにひらひらと手を振る。アストレアとフィースが着いたことを確認したガネーシャはこのまま時間をかけるわけにもいかないため、渡されていた鍵を使ってギルトの扉を開けてすぐにウラノスがいる祈祷の間へと続く廊下を歩く。

 なるべく音を立てないように歩き、地下の祈祷の間に続く扉を開けるとフィースを案内するようにアストレアとガネーシャが先頭に立って階段を下っていく。

 

「……ふぅん?」

 

 道中フィースは何かを感じたのかしきりに視線を後ろへと向ける。時折足を止めて後ろを見るフィースにアストレアは心配する声を出す。

 

「どうしたの?」

 

「……いえ。まぁ、問題ないです」

 

 含みのある言葉だったが、それでも嘘をついているわけではない。何か問題でもあるのかと思ったが、時間もたくさんあるわけでもなくフィースほどの実力者が大丈夫だと言うのだから大丈夫だろうと判断してアストレアは地下へと歩みを進めていき、フィースもそれに続くように歩みを進める。

 いくばくか歩くと階段の先に部屋に入る扉が現れた。ガネーシャがそれを開けて中に入り、それにアストレアとフィースが続く。中は歩くのに苦労しない程度の明かりしかない広い空間だった。それなりの広さのある部屋にフィースはその奥に強い気配を感じ、神に対する憎しみが沸々と沸いてくるのを自覚しつつそれを抑えるように深く息を吐き、歩みを進めているガネーシャたちの後を追う。

 

「時間を割いてもらってすまなかったな、ウラノス」

 

 ガネーシャが歩みを止めて声をかける。そこには祭壇のような階段があり、その頂上には座っていてもフィースよりも背の高いとわかるほどの巨体の老人がいた。

 

「私に絶対に話さなくてはならん事があるとしか聞いていないが、何があった?後ろにいる子についてか?」

 

「それなんだが、これは他言無用、いや、我々への相談なしに他者には絶対に言わないでもらいたいことだ」

 

「……よほどのことか」

 

「えぇ。下手をすればこの子によってかなりの数の神が居なくなることを考慮しなければならないぐらいにはね」

 

 ガネーシャとアストレアの言葉を聞いたウラノスはジッとフィースを観察する。見下すかのような物言いにピクリとフィースは指を動かしたが、ここにいるのは天竜人とは違うと自分に言い聞かせて音がしないように深く息を吐き、そしてウラノスを睨みつける。

 

「……話してくれんか」

 

 数秒の間ウラノスはフィースを観察して視線をガネーシャたちへと戻す。視線が自分たちに戻ったことを悟ったアストレアはどう話したものかと前もって考えていた言葉を脳内で吟味し、時間もあまりないことも考慮して結論から伝えることにする。

 

「混乱しそうなことを言うけど、落ち着いて聞いてね。この子、この世界の子じゃないの」

 

「……話が掴めないな。どういう意味だ?」

 

「そのままの意味だ。フィースはこの世界に生まれた子じゃない。文字通りこの世界とは全く異なる世界からここにたどり着いた子だ」

 

 アストレアとガネーシャの言葉に信じられないと言わんばかりにウラノスは目を見開いて2柱を見る。同時に背後で動揺した気配を感じたが、それをフィースは意識を向けるだけに留める。

 

「なんだと……!?異なる世界からの子だと……!?」

 

 通常ではありえないと妄言と断定して捨て置くはずなのだが、これを言っているのがガネーシャとアストレアなこともあり嘘ではないだろうと思うことはできた。だがそれでもあまりにも現実的ではない言葉に動揺を隠せずウラノスはその視線をフィースへと向ける。

 

「なにか心当たりは、なさそうだな」

 

「この地に降り立ってから長い時間ここにいたが、異なる世界からの訪問者など一度も聞いたことがない。なるほど、確かにそう漏らせる話ではないな」

 

 この2柱がわざわざ人目を避けてまで報告しに来ていることを考えると嘘や遊びではないと判断したウラノスはガネーシャのわずかな期待の言葉を知らないと断言しつつも1度も起こったことのない未知にわずかばかりに心が躍ったが、それもすぐに収まり人目を避けてここに来た理由を悟る。

 同時に、この2柱がわざわざ時間を作ってまでここにフィースを連れてきたということはフィースには隠された何かがあるのだろうとも察する。

 

「どれだけの神が居なくなるかわからない、と言っておったな。この子に実力があるということか?」

 

「少なくともレベル5、いやシャディの様子を見てもレベル6は固い。俺はそう見ている」

 

「なんと……!?」

 

 異世界からの子どもが都市最強の実力を持つなどとは夢にも思わなかったウラノスは今度こそ言葉を失った。ガネーシャの断言する言葉を信じないわけではないが、それでもガネーシャの言葉を信じることはできるはずがなかった。

 

「アストレア・ファミリアのアリーゼとライラ、ガネーシャ・ファミリアのアーディとハシャーナの4人を相手に手を抜いてもなおかなりの余裕を持って勝っていたわ。もしあの時に私たちに害意があれば私とガネーシャの子は全員死んでいたわ」

 

「実際に本気を見たわけではないからわからんが、あれを見るとオッタルと戦っても簡単に負けることはないと思えてならんほどだ。フィースから聞き取ったアストレアの言葉を信じるならあのゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアと比類できるかもしれん」

 

「…………」

 

 アストレアの言うことを補強するように続くガネーシャの言葉にウラノスは今度こそ言葉を失った。

 

「……どうしたの?さっきからずっと黙ってるようだけど」

 

 アストレアは余りにも無口なフィースに声をかけた。神を殺したいほどに憎いと隠す様子もないフィースに内心ウラノスに手を出さないかわずかに不安に思っていたアストレアだったが、その不安に相反するようにフィースの表情からは怒りや憎しみと言った負の感情を感じるようなことはなかった。

 

「いや、スケスケの実と同じようなことができる奴がいるとは思っていなくてな。これが魔法かと感心していたところだ」

 

 スケスケの実、という物が何なのかアストレアにはわからなかった。しかしフィースの言葉からここに誰かがいるということが理解できた。

 

「誰かいるの?」

 

「敵意は感じられないから、多分監視だろう。そこのデカい爺さん、ウラノスだったか、の部下だと思って放置していたが、一応逃げられないよう警戒していた」

 

 フィースの言葉にウラノスは驚きで目を見張った。ガネーシャとアストレアから秘密裏に1人に会ってほしいとの話を聞き、この2柱なら大きな問題にはならないだろうとは判断できたがそれでも保険はかけるべきだと監視させていた人員がいたのだが、まさか察知されるとは思ってもいなかった。

 

「わかるのか?」

 

「攻撃する意志はないから厳密にどこかまでかはわからないが、まぁ大体あそこら辺だろうなとは。あんたの反応を見るにぶん殴って無理やり吐かせなくて正解だったみたいだな」

 

 そう言って誰もいないはずの空間に視線を送るフィース。嘘はついていない上に自分が指摘した場所へ意識を逸らしていない。そこに誰かがいるということを確信している様子であり、そしてそれを理解したその人物は観念するように姿を現した。

 

「驚いた。まさかバレるとは思ってもいなかった」

 

 誰もいないはずの場所から陽炎のような揺らぎが発生し、そして全身をローブで隠した1人、フェルズが急に姿を現れた。唐突に現れたことに驚きを隠せないアストレアだったが、フィースは感心したように言葉にならない声をもらした。

 

「どうやってわかったのか聞いてもいいかい?」

 

「感」

 

「……そんな野性的なものでバレたのか」

 

 フィースの言葉にフェルズは何とも言えないような声を出す。論理的な理由を求めていたのに返ってきた答えが感覚的なもので、フェルズは自身の失態だと深くため息を吐いた。

 

「さて。図らずもフィースの実力はわかっただろう。我々の意見としては是非ともフィースは仲間に引き入れたいと思っている。そのためにはギルドの協力も不可欠だと思っている」

 

「是非もない。少なくともレベル5はある実力者を仲間にできるのなら多少の融通もやぶさかではない」

 

 ガネーシャの言葉にウラノスは頷く。仮にレベル5ほどの実力がなかったのだとしてもレベル4の冒険者を複数人相手にして余裕だったという証言だけでなく、たった今姿を隠したフェルズを察知してみせた。これほどの実力者と協力関係を結べるのであれば、闇派閥に流れることを考慮すれば頷く以外はできないだろう。

 

「とはいえ、こんな実力者をフリーにしておくと大きな問題になるのは目に見えている。だからアストレアと相談してアストレアのところで面倒を見ることにした」

 

「なぜだ?」

 

「俺のところは人が多い。人が多いということはそれだけ情報が漏れる可能性が大きいということでもある。俺の子たちを疑うわけじゃ無いが、それでも可能性は低い方がいいだろう」

 

「それに、事故があったとはいえうちの子たちは全員フィースの出自を知っているわ。となればファミリア内での不自然な不和も限りなく少なくなる」

 

「なるほど。そういうことなら何も言うまい」

 

 ガネーシャ・ファミリアは人が多い。それが悪いということはなく、むしろこの街を警護するという意味ではそうであった方がいいのは間違いない。しかし今回はフィースが異世界の住人だったことを隠さなければならない。バレないようにするためにフィースの出身について黙る必要があることを考えればファミリア内に不和が生じる可能性も否定できない。その不和も人数が多ければ多いほど大きくなることを考えれば、そもそもフィースを知っているアストレア・ファミリアにかくまってもらえればその懸念も無くなる。

 

「うむ。ではギルドには外から来た冒険者がアストレア・ファミリアに改宗したということで話を通しておこう」

 

「改宗?」

 

 ウラノスの言葉にフィースは知らない言葉が出たと疑問を口にする。その様子にフェルズは何も知らずにここまで力をつけたのかとフィースの底知れなさに恐怖を覚えつつ疑問に思った改宗について説明をし始める。

 

「オラリオの外から来たのであれば知らないのもおかしい話ではないか。ここでは違うファミリアに移るときに恩恵を刻みなおしてもらうことになっている。前の神に恩を感じているだろうが、レベルを上げるためにも改宗はしたほうがいい」

 

 フェルズの言葉は間違っていない。この世界において力を得るということは恩恵を刻まれるということと同義だ。その常識で数百年も生きてきたフェルズにとってそれが当たり前の話であったことなのだが、ことフィースに於いてはそれは的外れのものだった。

 

「この子、恩恵を持っていないの」

 

「……は?」

 

 アストレアの言葉にフェルズは言葉を失った。フィースが異世界の人間だということは先ほどの話で知ってはいた。だがその言葉はあまりにも自分の常識から離れていたため、フェルズはその言葉を正しく噛み砕くのに時間がかかってしまう。

 

「まて。まさか恩恵もなしに4人と戦って勝っただけでなく、それでいてゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアに比類すると言ったのか!?」

 

「信じられないと思うけど、事実よ」

 

「そんな、まさか……!?」

 

「そもそもの話、フィースがここに、この世界に来て1か月も経ってないわ」

 

 アストレアの言葉に絶句するフェルズ。たった1か月、いや、1か月も経っていないのにアストレア・ファミリアとガネーシャ・ファミリアの強者を軽々と対処したというのか。

 

「……なるほど。これが異なる世界の子ということか」

 

「うむ。俺もフィースの口から聞いた時は嘘じゃないとわかっていても疑っていたからな。アストレアの言葉がなければそう思い込んでいる狂人とすら考えたぞ」

 

 ウラノスもフェルズと同じように恩恵もなくアストレア・ファミリアとガネーシャ・ファミリアを相手取ったと聞いて絶句したが、伊達に何千年も存在している超存在ではない。動揺した様子を表に出さずにいた。

 

「なら、今よりもより強くなれるということか。末恐ろしいものだ」

 

 恩恵を刻まないのにレベル5以上の実力を持つのであれば、恩恵を刻めばもしかするとこの世界の悲願である黒竜の討伐すらも夢ではないと、ウラノスはフィースの存在を喜んだ。

 しかし、フィースはウラノスの期待を裏切るかのように、ウラノスの言葉を拒否した。

 

「言っておくが、恩恵を刻む気はないぞ」

 

「……なに?」

 

 フィースの言葉にウラノスは言葉を失った。ここまで強くなったのだから力を欲していると言っても過言ではないだろう。恩恵を刻むだけで強くなれるというのに、フィースはそれをいらないと拒否した。

 

「俺はあの人を、ガープさんを裏切ってしまったけど、背中に背負うものを教えてもらった。これからもそれを背負っていきたいし、なによりこれ以上裏切るようなことをしたくはない。それに、恩恵なんて形で強くなったら俺はあいつらに、弟たちに顔向けできねぇ。強くなるなら、神の力なんて使わずに強くなる。ここにいる間もちゃんと仕事で来てれば問題ないだろ?」

 

 その言葉をウラノスとフェルズは正しく理解はできなかったが、それは決して譲れるものではなことは理解できた。同時にフィースの身の上をある程度把握しているアストレアとガネーシャはまぶしいものを見るかのようにフィースを見る。

 

「ならば改宗したということにすればいいか。開錠薬が気にかかるが、まぁそんなものを想定するようなことにはならんだろう。それに、この話も誰かに話すようなものでもない。このことについては内密に行動することにしようか」

 

「しかしウラノス。かのゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアと比類しかねない実力者をここだけで内密にはできないぞ。せめてロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアにはフィースの存在を知らせておく必要はあるだろう」

 

「ふむ。確かにそうか」

 

 フェルズの言葉にウラノスはこの都市の双璧であるロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアにもすべては話さずともフィースのことについては話しておくべきだろうことは間違いないと判断する。

 

「あの2柱か……」

 

 しかしガネーシャはそれを聞いて苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。フィースはその2つの神について何も知らないがゆえに特に何も思っていないが、神というだけで嫌そうな表情を隠そうともしない。

 

「何か問題でもあるのか?」

 

「フィースとの相性が悪すぎる」

 

「相性?どういうことだ?」

 

「この子、神が嫌いなの。憎悪してると言ってもいいわね。遊びできているような神はもちろん、ロキやフレイヤでも下手をすれば殺されててもおかしくはないと思ってるわ」

 

「は?」

 

 アストレアの言葉にウラノスとフェルズは思考が止まった。この世界における神殺しは地上で最も忌避される行為であり、同時に普通なら人類が行えるはずがない愚行ですらある。それをフィースがあろうことかこの都市の双璧と名高いファミリアの主神に手をかけかねないと伝えられれば思考も停止してもおかしくはない。

 

「し、正気なのか!?ここで神殺しをするというのか!?」

 

「それほどにフィースは神を憎んでいるということだ。世界が違うと言えばそうなのだが、それでもフィースの世界で神の末裔と呼ばれた愚か者共が行ってきた愚行を考えれば、我々もそう思っても仕方ないと思えるほどだ」

 

「ぬぅ……」

 

 アストレアとガネーシャすらもフィースの凶行の動機を否定しきれないのであれば、下手をすればこの都市から最強のファミリアが消えてしまう可能性が浮上してしまう。

 それを看過できるはずもなく、かといってこの場でフィースをどうにかすることもできない。どうにかできたとしても闇派閥に入られてしまえばこの都市の被害はより甚大なものとなることを考えればそうそう手を出すこともできない。

 どうしたものかと苦い顔を隠そうとしないウラノスに、フィースは軽くため息を吐いた。

 

「さすがに世話になってるところに迷惑はかけれねぇよ。我慢できるところはするさ」

 

「……頼むぞ」

 

 ウラノスとフェルズからすればすべてに我慢をしてほしいと思わなくはないが、それでも同じ神であったとしても許すこともできないふざけ切った神も存在している以上、それを強く否定することができない。

 それに下手をすればオッタルにすら手が届きかねないとなれば、この都市でフィースをどうにかできる方法はない。もはやフィースの良識にゆだねることしかできない現状にウラノスは苦い顔を崩すことはなかった。

 




正直この時代のロキはアストレアを嫌っている時点でだいぶとフィースと相性が悪いだろうなとは思う。フレイヤは、まぁ、うん。
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