元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ルーニー
「…………」
ギルドのとある一室。そこでロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリア、そしてフィースの顔合わせを行うことになっていた。
しかしフィースは座りながら不機嫌な表情を隠す様子もなく腕を組んで目をつむっていた。それをアストレアは申し訳なさそうな表情を浮かべてフィースの隣に座っている。
「ごめんね。今回の顔合わせはフィースにとっては苦痛になるかもしれないけど、でも今後のことを考えたらこの顔合わせは必要なの」
「……まぁ、現場でもめるようなことになるよりかははるかにいいのはわかってます」
アストレアの言葉にフィースは深く息を吐いて心を落ち着けさせようとする。
アストレアからはここに来る神について前もって聞いていたが、アストレアは内心フィースが暴れないか非常に不安だった。
ここに来るのはこの街の双璧と名高いファミリアの主神と団長であること。正直なことを言うとフィースとは相性が悪いこと。しかし眷族と人類に対するその愛は間違いなく本物であり、全員がこの街での騒動を解決するために動いていること。
他にも細々とした情報も伝えているが、とにかく手を出すようなことは絶対にしないでほしいことを何度も釘を刺しているアストレアだが、初めて自分と出会った時のことを思い出すとフィースの抑え役が欲しいと切望したくなるのは仕方ないだろう。そんなことができる実力者がいないこともアストレアの不安を助長しているが、今はフィースを信じるしかないだろう。
一言も話さなくなったフィースを心配そうに見るアストレアと、初めてアストレアと会った時のように覇気を出さないようにするために心を落ち着かせているフィースだったが、しばらくすると扉の向こうから荒々しく歩いてこちらに向かって来ている足音と落ち着いた足取りの足音がフィースとアストレアの耳に届いてきた。そしてその足音が扉の前で止まると同時に荒々しく扉が開いた。
「いったいなんなんやアストレア。うちらだって暇やないんやで」
薄く目を開いたフィースの目に入ってきたのは、ズカズカと荒々しい足取りで部屋に入ってくる細身の女神のロキとあまりにも失礼な態度をとる自分の主神を申し訳なさそうな表情を浮かべている背の低い少年にすら見えるフィン。それに続いて扇情的な姿格好をした女神であるフレイヤとそれに付き従うように静かに入る巨漢のオッタルが入る。フレイヤはアストレアに視線を送り、そのままフィースに視線を移すと驚きで目を見開かせ、興味深そうに笑みを浮かべて指定された椅子へと座った。
「ごめんなさいね。でもどうしても紹介したい子がうちに来たから紹介しないといけないと思って」
アストレアの言葉にロキは面白くなさそうに鼻を鳴らし、フレイヤは興味深そうにフィースに視線を送る。
「彼はフィース。外から来た子よ。重傷を負っていたところを私の眷族が助けて、実力があるのがわかったから私のところに来てもらったの」
アストレアは内容をかなりぼかしつつ、しかしフィースは十分に戦力になることをロキとフレイヤに伝える。それをロキは信じることをせず疑うように、フィンはアストレアが嘘をつくはずがないと考えて観察するように、フレイヤはアストレアの話を聞いて面白いものを見るように、オッタルはどれほどの実力者かを見定めるように、フィースを見ていた。
「はっ。大ケガしてる時点でそんな大した実力やないやろ。そんなのをわざわざ紹介するために呼び出したんか?」
そして口火を切ったのはロキだった。外から来たということはレベル1が普通ぐらいだが、アストレアが実力があるということはレベル2であっても不思議ではない。そういう意味では期待できる戦力であることに違いはないのだが、同時にロキの言う通りわざわざロキとフレイヤを呼び出すほどのことではない。
「そうね。あなたが言うほどならレベルは2はありそうだけど、それでも私たちに紹介するほどでもないわ。どちらかというとあなたのところに男の子を入れたことの方が驚きなのだけれど」
「あの正義厨が遂に男を連れ込んできたんか?」
ロキの小ばかにするかのような物言いを聞いたフィースはピクリと組んでいた腕を動かし、自身を落ち着かせるためにゆっくりと深く息を吐くとそのまま視線を下へと動かす。フィースの様子を見たアストレアはあまり時間をかけてフィースの負担になるのはよくないと判断し、早く本題に入った。
「彼がうちの子たちでは到底太刀打ちできないほどの実力者だと言っても?」
アストレアの言葉にこの場にいる全員が息をのんだ。ロキはアストレアのことを嫌ってはいるが、それでも彼女の眷族には一目置いてはいる。団長であるアリーゼ・ローヴェルはこの都市でも数が少ないレベル4だ。その性格こそそうは見えないがレベルにふさわしい実力はあるし、彼女以外もレベルが低くとも正義を名乗るに値できるほどの実力と誇りを掲げている。
それですらも到底太刀打ちできないほどと言われれば、確かにロキとフレイヤを呼ぶ理由足りえるだろう。なにせ闇派閥による襲撃が増えつつある現在、自分の眷族の負担が減るのであれば実力者が増えることについては両手を広げて構えるほどに歓迎する出来事になる。
「事実なんか?」
しかし、それも事実であればの話ではあるが。アストレアがこのようなことで嘘を言うはずもないことはわかっているが、それでも信じられるものでもない。
それに、そのような実力者がアストレアの下に行ったことが気に食わないロキは苛立ちを隠そうともせずフィースのほうへ視線を送る。
「あぁ」
ジロリと、そこらの冒険者ならその威圧感に体を震わせるほどに睨みつけていると言っても過言ではないほどの視線をロキは送ったのだが、それをフィースは何でもないように、むしろ不愉快だと言わんばかりに顔を歪ませながら鼻を鳴らして返事をする。
「口数少ないなぁ。一応うちらはこの街で2大ファミリアって呼ばれとるんやで?」
「……だから?」
「アストレアのとこにおるのに礼儀がなっとらんなぁ。身なりはええのに、どんな教育受けとったんや」
「ロキ!」
ロキの言葉にアストレアが非難するが、アストレアの言葉を聞き入れたくないロキはそれを無視する。それを聞いたフィースはピクリと指が動き、そして自分を落ち着かせるかのように視線を落として深く息を吐く。そしてそのまま視線をロキへと移し、愉快気に、しかし見下すような笑みを浮かべて口を開いた。
「あいにく、恩人からはカスに対する礼儀をどうすればいいか教えてもらってないんでな」
「……あ゛ぁ?」
フィースからの言葉を一瞬理解できなかったのかロキの目が見開かれたが、自分が何を言われたのかを理解した瞬間女神の口から出たとは思えないほどに荒れた声だった。
「お前が教えてくれるのか?ゴミカスに対してどうやって媚びへつらわせて靴を舐めさせるのかを?オラリオで強いと言われてるファミリアが教育もされていないガキに?へ~、強いファミリアってずいぶんと暇なんだな。猿山に引きこもって外に出たことないのか?ほら、恥かく前にお山に戻りな」
フィースの物言いにロキの額には血が噴き出しそうだと思うほどに血管が浮かび上がっており、そばにいたフィンも表情を変えることはしていなかったがフィースを見る目は怒りに満ちていたことはこの場にいる全員が感じ取っていた。
「フィース。落ち着いて」
こうなってしまったかとため息を吐きたくなる気持ちをこらえてフィースを宥めるアストレア。フィースとしてもここでもめてもいいことはないことはわかってはいたのだが、それでも触れてはならないことに軽々と触れたロキに対しての怒りは抑えられるものではなかった。覇王色の覇気が漏れていないだけマシとすら言えるだろうほどにフィースは怒りに溢れていた。
「口には気をつけろクソガキ」
「敬えないカスの敬い方の教育を受けてない人に何を期待してるんだ?脳みそハッピーなんだな。猿山の上で幸せそうに暮らしているようで何よりだ」
「……ちょっと面貸せや。足りてない教育をその体に叩きこんだる」
「何を教育するんだ?猿山の偉ぶりさんが教育できるのか?あいにく猿の言葉はわからないからその教育は受けれねぇな。逆に人の言葉の教育を受けてきたらどうだ?あぁ、そんな教育も受けられないから無理な話か。今のなしで」
ドガンッと怒りを抑えきれなくなったロキは机に拳を叩き落とし、椅子を蹴飛ばすように立ち上がる。それをフィンは抑えることをせず、非がないわけではないがそれでも敬愛する自らの主神をバカにされて最悪の気分のまま静かに怒りを込めてフィースを睨みつける。
「2人とも落ち着きなさい!」
「あ゛ぁ゛!?こいつ連れてきた原因がなにほざいとるんや!?」
「カスは責任転嫁が得意なんだな。いやぁ、嫌というほどに理解していたつもりだったが、改めて勉強になった。あぁ、そうやってこうなっちゃいけませんよって反面教師として教育する方法を取ってるのか。なるほど、それは天職だな」
「殺すぞクソガキィ!」
一触即発の雰囲気が部屋の中に満ちていた。ロキは今にも殴りかかりそうなほどに怒りを隠そうとせずフィースを睨んでおり、フィンは愛槍に手を伸ばしてはいないもののいつでもフィースを制圧できるように静かに体勢を整え、フィースは武装色の覇気を硬化しない程度に腕に纏わせて静かにロキと睨み、アストレアはこうなってほしくはなかった現状に悲観してため息を吐く。
「まぁ、落ち着きましょう?」
そんな中で制止するかのような声を出したのはフレイヤだった。蠱惑的な笑みを浮かべてフィースを見て、その視線をロキとアストレアの方へと向ける。
「私たちとしてもその子がどれほどの実力者かわからないわ。もちろんあなたとガネーシャの子たちに勝てるのだから相応の強さなのはわかる。でもそれを私たちが見たわけじゃ無い。つまりその子が強いという実感がないの」
フレイヤの言葉にロキはそうだと言わんばかりに口を挟まずにフィースを睨みつける。レベルが低い冒険者をさもレベルが高いかのようにふるまわせるなどというくだらない嘘をつくはずがないというアストレアへの信頼はあるが、それはそれとしてこれほどまでに神経を逆なでするような小僧がそこまでの実力者なのか疑わしいことも事実だ。
「このままだとその子とロキとの間に致命的な溝ができたまま終わってしまう。なら実力を見るためにロキの子たちと戦ってみたらいいんじゃないかしら?」
実力を知るという意味ではフレイヤの提案は渡りに船だろう。オラリオの双璧と名高いファミリアであるロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアが実力を確認し、例えフィースが負けたとしても闇派閥に対する戦力になりうると認定できればアストレアとしても十分納得できるだろう。
ロキとしてもアストレアの面子を少しだけでも潰せる上に自身をイラつかせた小僧を合意の上で甚振れるのだからその提案を蹴る理由はなく、アストレアとしてもフィースの実力を証明できる場を設けられるのだからこの提案を否定する理由もない。
「……ケッ。そこでオッタルたちと戦わせると言わん辺りちゃっかりしとるな」
「ここで私が出しゃばって納得するの?」
「アホか。このクソガキがどれだけ強かろうとうちらに勝てるわけないやろ」
「それでも実力を見る必要があるんじゃない?あなたとしてもその子を叩きのめす口実もできたってことで戦ってみたらいいんじゃない?」
あえて本人のいる場所で言っているのだろう。この街に来たばかりだとしても、世界でも頂点の実力者がいる街として知られている上に戦うのは街の外で実力者として名を轟かせるファミリアの人員だ。通常ならばその時点で十分な脅しになる上に向こう見ずな愚か者だとしてもこの街の強者を知らしめるいい機会となる。
「いいぜ。やろうじゃねぇか」
フィースはわずかに口角を上げて、しかし瞳孔が開きつつある目をロキとフレイヤ、そして護衛として同行していたフィンとオッタルへと向ける。同時にわずかながら覇気が漏れ出し、それを感じ取れたフィンとオッタルはわずかに目を見開き、すぐにそれを叩き潰さんとばかりにフィースを睨み返す。
「四の五の言わずぶつかってもいいってんなら話は早い。この世界最強の双璧の片割れなんだろ?どれだけ強いか見てやろうじゃねぇか」
その物言いはあまりにも不遜だった。フィースからすればこの世界の最強がどれほどのものなのかを確認できるいい機会であるし、海軍少将の名にふさわしい実力を持っていると自負している。アストレア・ファミリアとガネーシャ・ファミリアの合同模擬戦でのことを考えたら負けるようなことはあってはならないとすら思っている。
「まさか怖気づいて、やっぱりやめますごめんなさい、って言うか?それでも俺は良いぞ?」
フィースは鼻で笑うように言葉を吐き出すが、しかしその目は怒りに満ちていた。
目の前にいる
けど、それでも神を名乗るロキの傍若無人さは天竜人を思い起こさせ、更にはそんな意図はなかったのだろうがフィースの世話になった人たちを侮辱しているとフィースは感じていた。
「上等やクソガキ。そのデカなった鼻ブチ折って墓標にしたるわ」
そしてそれはロキも同じことだった。どこの馬の骨も知らないような小僧に自分の大切な
そして後日指定された場所、つまりはロキ・ファミリアの鍛錬場にてフィースの実力を見る
フレイヤは面白い物を見れたと笑い、オッタルはフィースを静かに見て、ロキはいかにフィースを痛めつけるかを考え、フィンは実力の有無による打算をうち、フィースは静かに拳に力を込め始め、アストレアはどうしてこうなったと言わんばかりに頭を抱えた。
気に食わない女神に呼び出されてイラついていたところ、会わせられたのが気に食わない態度のクソガキだったから煽ったらバチクソに煽り返されてバチギレるロキ神。マイナス印象からの神の傲慢さと最強ファミリアの誇りで仕掛けた結果こうなるだろうなぁと思いました。まぁマイナスの絶対値はフィースの方が圧倒的に大きい上にお互いマイナスからのスタートだから是非もないね!
なおフィースの状態はゼフをバカにされたサンジ並みとする。手を出してないのが奇跡的だな?