元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ルーニー
薄々感づいていた。わしちゃん曇らせ大好きおじさんなせいでギャグかけないからONEPIECEクロス物書けないし書いても面白さが1%になるなって。
常識の違いで突っ込まれるシーンを早く入れたい。
「こっち、だったか?」
ロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリアとの会合から数日。会合の内容を知ったアストレア・ファミリアの面々の反応は様々だった。アリーゼは珍しそうに見られ、ライラは呆れたようにため息をつかれ、リューからは苛烈に詰められ、輝夜からはネチネチと詰められ、その他様々な反応を見せてフィースの心に地味にダメージを与えていた。
さすがのフィースも自分の行動が悪かったことの自覚はあったのか反論もできず、ルフィみたいにいくつものたんこぶを腫らすようなことにならなくてよかったと内心ホッとしていたりしていたのだが、それはそれとしてロキに対する悪感情は薄れることはなかった。
そうして数日が経って当日になり、ロキ・ファミリアに向かおうとしたときに誰がフィースと一緒に行くのかということでもめることになった。
このバカがやらかさないように誰か監視するのか?という輝夜の疑問の声が出た後、誰も彼も行きたくないと不毛なやり取りが行われた後、めんどくさい後始末を押し付けられそうだからこいつだけにやらせるようにすればいいんじゃね?というライラの一声で誰も手を挙げることが無くなり、結局1人でロキ・ファミリアの場所まで移動することになったフィース。
理不尽じゃね?と文句を言ったが全員からの視線にいたたまれなくなり、更にはアストレアからすらもかばわれることがなかったため1人寂しく地図を片手にロキ・ファミリアへと向かっていた。
「……でけぇな」
遠く空でもわかるほどの大きさの建物に、王家にでもなったつもりかとわずかに怒りが沸いたフィースだったが、あれはちゃんと稼いだものだと思い直して怒りを治める。神のことになると沸点が低くなるのを直さなければならないなと自嘲していると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「どうしたの?」
その声に反応して後ろを向くと、そこにはジャガ丸くんが大量に入った紙袋を抱えているアイズがいた。まさかこんなところで知った子どもに会えるとは思っていなかったフィースは驚きで軽く目を大きく開いたが、同時にどうしてここにいるのかが気になった。
「なんでここにいるんだ?」
「帰るところだから。あそこ、私のファミリア」
「え?マジで?」
指を指した方向がロキ・ファミリアの方向だったことがフィースは驚きだった。こんな子どもがあんな神の下にいるのかと思うと思わず舌打ちをしそうになったが子どもの前であったこともあって何とか抑えることができた。
「無理やり下に付けさせられたってわけじゃないんだな?リヴェリアの様子からして無理やり戦わせられてるというわけでもなく、自分で戦うって決めてるんだな?」
「?うん」
「……そうか」
表情はあまり変わっていないが、それでもどうしてと言わんばかりに首を傾げたアイズを見てフィースは頭が痛いと言わんばかりに深く息を吐いて眉間をつまんだ。
「まいった。やりづらくなってきた」
この子がいるということはあの母親の代わりをしていたリヴェリアも一緒にいることになるだろう。知らなかったとはいえ、知り合いの家族をバカにするようなことを言ったのはフィースにとってあまりいい気分ではなかった。
「悪いんだが、ここの団長のいるところまでちょっと案内を頼んでもいいか?」
「うん。いいよ」
「ありがとうな」
偶然とはいえ目的地は一緒なのだからとフィースは案内を頼むと、アイズは無表情ではあるものの見る者が見ればやる気を出しているのがまるわかりなほどだった。
ロキ・ファミリアの拠点までちょっとした距離があったのもあってアイズがフィースに対してジャガ丸くん小豆クリーム味について熱心に語り、フィースはこれをルフィやエース、サボが食べたらどんな反応をするんだろうか、これがサンジが作ったらうまく作るんだろうかといろんなことを考えながらアイズの相手をしているとロキ・ファミリアの拠点の前まで着いた。
「止まれ」
拠点の前にいた門番に威嚇されるように制止される。アイズを見て門番はアイズを誑かしてロキ・ファミリアに入り込もうとしたのではないかと警戒を顕わにし、アイズは警戒を強くした門番にフィースは悪い人ではないと言おうとするが、フィースはそれを遮るようにここに来た目的を話す。
「ここに呼ばれてるはずのフィースだ」
「……お前が」
フィースの名前を出すと同時に門番の視線が強くなった。その視線には強い怒りが籠っているのがわかり、フィースはそれを何でもないように受け流していた。アイズはそれを見てオロオロと門番とフィースに視線をうろうろさせていて、それを見た門番がバツが悪そうに表情を歪ませた。
「こっちだ。早く来い」
「へいへい」
さっきよりもマシではあるがそれでも荒々しく中に入るように伝えると、フィースは肩をすくめてアイズの方へと顔を向けた。
「悪かったな。案内がちゃんといたみたいだったわ」
「うん……」
「じゃあな。またタイミングが合えば会おうな」
私が案内するはずだったのに、と内心不満たらたらなアイズの頭を乱暴に撫で、セットしてあった髪が乱れたことでほほを膨らませるかのような表情を浮かべたアイズに軽く笑って手を振って門番の後を追った。
中に入り、門番の後を歩いているフィースだったが、道中の会話は一切なかった。門番は背中から見ても怒りに満ちているのが目に見えていた上にフィースも特に話すことがないと拠点の中を見回しているだけだった。
しばらく歩いていると大き目の扉が見え、門番はその隣に立ち止まって怒りと嗤いを含んだ視線をフィースに向けて扉を指した。
「ここだ。早く入れ」
「はいはい。どうもご苦労様」
門番の内心を察して軽くあしらうように返答するとより強い怒りの視線を門番から感じた。そんな視線は受け慣れているどころかそれ以上に強い視線を何度も受けてきたフィースにとっては子犬がじゃれてきた程度でしかなく、それに反応することなく扉を開けると広々とした部屋と多くの人が壁に沿うように並んでいた。
「来たね」
部屋の奥から子どものような声が聞こえてきた。その声を辿るとそこには槍を片手にした少年、ロキ・ファミリアの団長であるフィンが表面上友好的な笑みを浮かべてこちらを見ているのが見えた。
「どうもご招待いただきありがとうございます、と言えばいいか?」
「それでいいさ。君の実力を確認するための場だ、君が主役と言ってもいいからね」
フィースの皮肉の言葉にフィンは返礼するかのような調子で皮肉を返す。お互いに笑っているが、内心ではとても友好的ではないことぐらいはこの場にいる全員がわかっていることだった。
「お前は……」
そんな中で出てきた困惑の混じった声はとても目立っていた。聞き覚えのある声にフィースは気まずげに表情を歪めて声のしたほうを見ると、やはりというかそこには顔立ちがとても整った女性、リヴェリアが信じられないと言ったような表情を浮かべてフィースを見ていた。
「あ~。あの子がいたからもしかしてとは思ってたけど、やっぱいたのね」
やりずれぇ、と言わんばかりに頭を掻いて深くため息を吐いたフィースとリヴェリアの様子にフィンは表情に若干の困惑を浮かべて視線をリヴェリアへと向けた。
「リヴェリア、知り合いだったのか?」
「前にアイズの相手をしてもらっていた。あの話のきっかけにもなった話を聞かせてもらったのが彼だ」
「あれの……?」
リヴェリアの言葉にフィンとガレスが軽く目を見開いてフィースを見る。何の話かと思考を巡らせようとすると、自分の後ろから扉が開いて門番の張り上げた声が室内に響いた。
「オッタルが来ました!」
ガシャリ、と剣が揺れた音が室内に響いた。フィースよりも高い背と筋骨隆々とした肉体がフィースの隣を通った。オッタルが流すようにフィースへと視線が移るが、フィースは一瞥するだけで興味が失せたようにすぐにリヴェリアの言葉を考え始める。
「わざわざ来てもらってすまないね、オッタル」
「構わん。俺としても奴の実力は気になっていたところだ」
フィンの言葉にそれだけを返答するとそのままフィンの隣を通ってリヴェリアの隣に立った。
「おう、来よったか」
全員が揃ったことを聞いたのか、ロキはゆったりと室内に入ってくる。フィースを見ると額に青筋が走って嫌味の1つも言いたくなったがそんなことをする時間が無駄だと思い、準備してあった椅子に座る。視界の端にロキが座る様子を確認できたフィースはあからさまに不機嫌そうにため息を吐き、視線をフィンの方へと向けて面倒そうな表情を隠そうともせずに蠅を払うかのようにロキの方を振った。
「そいつを目に入れたくねぇからとっとと始めてくれ」
「こ、の……!」
相も変わらず不遜、いや、もはやなめくさった態度を改めようともしないフィースにロキの額に浮かぶ青筋が増える。思いつく限りの罵詈雑言を浴びせようと腰を浮かしたが、すぐにフィンが滅多打ちにしてくれると思い直して深く息を吐くことで湧き上がる苛立ちを我慢して座り直した。
そしてその態度に苛立ちを隠そうとしなかったのはフィンも同じだった。貼り付けていた笑みは一瞬にして真顔に変わり、模擬戦では使うはずもない愛槍を手にしてフィースに切っ先を向けていつでも攻撃できるように構える。フィースはわずかに目を細めてフィンを見るが、すぐに目をつむって長く息を吐いて全身の力を抜いていた。
「……どうして構えないのかな?」
「吠えるだけの子犬に構える必要ってあると思うか?」
「……その余裕、いつまでもつのかな」
もはや笑みを浮かべることもせずに槍を構える。棒立ちとまでは言わないが、それでも模擬戦であるにしてもあまりにも相手をバカにし過ぎているほどに何もしていない様子にフィンは槍をより強く握った。
何もする気がないフィースを見たフィンは、様子見とは言えないほどの速度で接近してあえて刃の部分ではなく付け根をフィースに叩きつけた。
「“鉄塊“」
ガギンッ、とまるで鉄同士がぶつかったかのような轟音が部屋の中を響いた。ビリビリと槍を伝ってくる衝撃に手が痺れるという、おおよそ人を攻撃したとは思えない予想外の手ごたえにフィンは驚愕で声が漏れかけていた。
「ふぅん?意外と効くな。まぁ本気でかければ効きはしないのは予想通りではあるか」
なんでもないような声が聞こえた瞬間、フィンは思わずその場から離れた。直撃したはずの攻撃を受けたフィースは攻撃を受けた箇所を観察するように手で触れたりしていたが、その表情は痛みに耐えているようなものではなく軽い驚きを顕わにしている程度だった。
「え?今の、なんだ……?」
「今、直撃したよね……?」
今頃痛みでのたうち回っているだろうと思っていた観客は信じられないと言わんばかりにざわめきが部屋を埋めた。ロキも信じられないものを見るようにフィースを凝視し、リヴェリア、ガレス、そしてオッタルすらも目を見開いてフィースを見ていた。
「んで、それ本気か?」
「っ!舐めないでもらおうか!」
フィースの挑発する声にフィンはもはや頭の中に手加減する選択肢は消えていた。深層のモンスターに繰り出すような突き、払い、時には拍子をずらした攻撃すら全力で叩きこんでいく。
直撃すれば同レベルはおろかレベルが1つ上であったとしても相応のダメージを受けるはずの猛攻であるはずなのに、フィースの表情は何も変わらず飄々としたままだった。
「うそ、だろ……!?」
「団長の攻撃が効いてない!?」
「レベル5だぞ!?何もしてないはずなのに、なんであんな涼しげな顔してんだ!?」
もはや必死になって打ち込んでいるフィンの表情にこの場にいる全員動揺が隠せずにいた。一撃の大きさは魔法ではリヴェリアに、力ではガレスには劣るのは事実ではあるが、それでも冒険者としての総合的な実力は間違いなくロキ・ファミリアでは団長としてふさわしいものだ。レベル5という世界的にもそうそういない強さもあるのに、どうして誰かもわからないような男はその攻撃を受けて平然としていられるんだ。
「……ありえへんやろ、こんな……!」
その中でもロキの動揺は一際大きなものだった。自身のファミリアを立ち上げた時の初期の子どもであるフィンのことはより可愛く感じている。ひいき目は多分にあるが、それでもフィンの実力は十分にわかっている。だというのに、どこの馬の骨かもわからないクソガキがフィンをまるで子どもを相手にしているかのような光景は到底信じられるようなものではなかった。
「終わったか?」
「っ!」
全力で打ち込んだほどには攻撃したはずなのに、フィンの耳にはまるで何もされていないかのように何でもないような声が聞こえた。その声が聞こえたフィンは跳ねるようにフィースから離れて槍を構え直す。フィースの顔を見てもやせ我慢をしている様子はなく、全力で槍を打ち込んだはずの体には傷1つついていなかった。
確かにフィンは小人族であり、能力的には他の種族に比べて劣っている部分が多いのは事実だ。だからと言ってそれがレベルで埋められないようなハンデにはならないしなるわけがない。フィンはれっきとしたレベル5であり、その実力は現在では世界でも10本指に入ってもおかしくないほどだ。そしてそのレベルから出せる攻撃は、同レベルはもちろんレベルが1つ上であったとしてもまともに受ければ致命的なものになってもおかしくはないのだ。
だというのに、木偶人形に打ち込むかのように全力でフィースに攻撃を叩きこんだにもかかわらず、フィースの様子が変わった様子がない。それどころか体力を消耗した様子すらも全く見せていない。
あまりにも常識外れの様子に、フィンは理解不能という恐怖がじわじわと込み上がってくるのを槍を握り締めることで誤魔化すしかなかった。
「んじゃ、こっちから行こうかね」
ゆっくりと拳をフィンの方へと向ける。わずかに肘を曲げているが、それでも攻撃ができるような構えではない。何をする気だと警戒を途切れさせることなくフィースを観察していたフィンだが、フィースが親指で人差し指に力を溜めるように力を込めると、瞬間、フィンの親指が強くうずいた。
「”指銃・撥”」
ピンッと指を弾いた。ただそれだけのはずなのにこの場にいたらまずいと、フィンは直感と経験でその場を跳ねるように移動すると、自分がいた場所に空気を貫いたような甲高い音がかすかにフィンの耳に届いた。
「おぉ。避けれたのか。初見で避けられるとは思っていなかったな」
銃弾以上の速度で襲い掛かる不可視の指弾を避けたことに驚きを見せるフィースだが、フィンはそれ以上に驚愕の表情を浮かべていた。
「……なにを、した?」
フィンは冷汗が額から垂れおちるのを感じながらチラリと攻撃が通ったであろう空間を見る。視界の端で自分と同じく空気を貫く音が聞こえたであろうオッタル、リヴェリア、そしてガレスが驚愕した表情でフィースを見ていたが、それ以外は何が起きたのかを理解できていないのか視線をフィンとフィースとで右往左往としていた。
「さぁ?食らったらわかるんじゃねぇの?」
指の調子を確かめるかのようにフィースは両手の小指から親指までを順番に閉じては開いてを繰り返していた。視線もフィンの方を向いておらず、手首も動かしている姿は明らかに隙だらけなはずなのに、フィンは親指の疼きが止まらずどうしても動くことができなかった。
いったい何をした?視界はフィースを捉えつつ、フィンの頭の中では先ほどの空気を裂く音についてを考えていた。親指が強くうずかなかったら間違いなく受けていたし、親指のうずき具合から相応のダメージを受けていたことは想像に難くはなかった。あれがどういうものなのかを理解しなければ攻めに転じたところで不意を突かれて受けてしまうとフィンは判断した。
なにやら名前らしいものを口にしていたから魔法か?いや、それなら指を弾くなんて動作は必要ない。いや、そう誤認させるためのパフォーマンスか?それなら構えるなんてことをせずに魔法を使えばよかった。わざわざ構えなければ攻撃が来ると身構えることもできず不意打ちで避ける暇も無くなる攻撃を当てることができる。なぜだ?なぜわざわざ無駄なことを……。
「そんなごちゃごちゃ考えてる暇はあるのか?」
「っ!」
動きがなかったがゆえに思考に偏りつつあったフィンの意識がフィースの声によってフィースへと比重が戻った。そしてそれを待っていたかのようにフィースは腕をフィンの方へと伸ばし、小指以外の指を親指にかけて力を込める。
「”指銃・三撥”」
バシュンッ、と”指銃・撥”とは違い空気を弾く大きい音が響いた。同じ手は食わないと言わんばかりに体に力を込めるが、さっきよりも強く親指が疼いた。己の直感に従って転がるようにその場を大きく離れると、自分が通った場所に違う音の指弾が3つ、次々と避けた場所に迫るように通る音が聞こえた。何をしているのかわからないのに危険を察知する己の親指が強く疼くことに、フィンは恐怖を覚えながら冷汗が頬を伝うのを感じながらフィースへの警戒をより強くして槍を強く握った。
「また避けた?さっきのは運じゃなかったのか。まさか見聞色の覇気か?」
先ほどまでの面白がるような声色が消え、代わりに何かを考えるかのように眉間に力を入れてフィンを見ているフィースに、この場にいた全員がフィースに恐怖を覚えていた。
フィンは世界でもごくわずかしかいないレベル5であり、オラリオの街で最強の双璧の片割れであるロキ・ファミリアでも団長に就くほどの実力者だ。相手がオッタルほどの実力者であるのならまだ理解できる。レベルが上なこともあって1対1での対決であるなら圧倒されても何ら不思議ではない。
だが、今戦っているのは誰も知らない、フレイヤ・ファミリアやロキ・ファミリアすらもろくに知らない田舎者でしかないはずだ。アストレア・ファミリアに見いだされるほどの実力者だとしても、それでもどれだけ高く見積もってもレベル3でしかないはずだ。
なのに、どうしてレベル5の攻撃を防がずに受けたのに無傷なのか。どうして
「あれは、魔法か……?」
「いや、魔法ではない。魔力の動きを感じない。おそらくスキルだ」
「特殊なレアスキルというわけか。フィンが避けざるを得ないほどの威力を放つレアスキルといい、フィンの攻撃を身動き一つせず受けきるレアスキルといい、ここまでのレアスキルをいくつも持っていたとはのう。あれほどの傲慢さも納得がいくわい」
ガレスもリヴェリアも、フィースの強さに驚き戦慄いていたがそれでも冷静に目の前の戦いを見極めようとしていた。フィースの行動すべてに目を光らせ、周りで不自然な行動を起こしていないかすらも見逃すまいと意識を集中させていた。
「…………」
そんな中オッタルはガレスとリヴェリアの話を横で聞きつつ、しかし意識のほぼすべてをフィースへと注いでいた。周りから何かしらの支援があったとは思わず、ひたすらにフィースの一挙手一投足を観察していた。だからこそガレスとリヴェリアの考察を耳にしたとき、そうだろうなと思っているはずなのにどうしても頭の片隅からとある疑問から離れることができなかった。
「どうした、オッタル」
「……あれは本当にスキルなのか?」
「なに?」
唸るような声が聞こえたガレスは声をかけると、オッタルは自分の中で消化できていない疑問を口にする。
「外から来たことを考慮すればフィンよりレベルが低いことは確定的だろう。今の状況もそれをどうにかできるほどの力を持つレアスキルと思えば説明がつく。だが、それほどのレアスキルをわざわざこの場で披露するような愚かな真似を、それもロキ・ファミリアにケンカを売るような形ですると思うか?」
「それは……」
「普通ならそのレアスキルをエサにして双璧と言われている我々のファミリアに入れてもらおうとするはずだ。それこそここに来るまでにオラリオの話を聞く機会はいくらでもある。お互いのファミリアの話題などいくらでも出てくるはずだ。なのに奴はそうはせずむしろ我々にケンカを売った。我々のことなんて知ったことではないと言わんばかりにな」
あまりにも常識から離れている。そう断言するオッタルの言葉にリヴェリアとガレスはオッタルが何に疑問に思っているのかを理解した。
わからないことがあまりにも多すぎるのだ。フィースのことだけではなく、フィースの行動そのものがあまりにも常識から外れているのだ。それがレアスキルの強さによるものだと思っていたが、オッタルの言う通りそれだけでは説明がつかない行動があまりにも多い。
では、レアスキルだと思っていたあれらは本当にレアスキルなのか?
「んじゃ、ちょっと殴り合いといこうか」
カツン、とまるで街に出るかのような気軽さでフィースは歩みを進め始める。自分の攻撃が効かないことを実感しているフィンはフィースが何をしてくるのかわからないからうかつに動くこともできず、一挙手一投足に集中していつでも避けれるように、あるいは反撃できるように槍を構える。
カツン、カツン、と、尊敬する団長の攻撃が通用しなかったことで誰もが言葉を失ったこの場ではフィースの歩く音しか聞こえず、ついにはフィンの槍が届く範囲に入り込んだ。
「っ!」
また親指が疼いた。後転するようにその場から離れて再びフィースを見ると、自分のいた場所の前にフィースが拳を振りかぶってその拳を振りぬいていた。風を切るかのような音がフィースの拳から鳴り、直撃すればただでは済まないことを直感的に理解した瞬間にダンッと地面を叩く音と共にフィンの目の前にフィースが反対の拳を構えて接近していた。
ガンッ、と無我夢中で槍の柄でフィースの拳を全力で殴って拳の軌道を変えたがフィンはその手ごたえの驚愕の表情を隠せなかった。軌道をずらしただけなのにまるで岩を叩いたのような感覚と、レベル5の全力を何でもないかのような表情で次々と攻撃を仕掛けてくるフィースに、もうなりふり構っていられる余裕は無くなっていた。
「どうした?どこの馬の骨かもわからない田舎者の攻撃はくらえないってか?確かレベルが離れていたら大して痛くないんじゃなかったのか?」
もはや軽口に応える余裕はない。当たると判断した攻撃を槍で弾くことで直撃は避けているが、弾いた槍から伝わる衝撃は階層主にも匹敵している。ビリビリと槍から伝う衝撃が手を痺れさせ、全力で叩かなかければずらすこともままならないフィースの攻撃に、フィンは絶対に受けてはならないと息を止めるほどに集中する。
「そういやポーションをぶっかけて回復させるって聞いたな。打撲より切り傷とかの方が回復させやすいのか?」
まるで買い物で買ってきてほしいと言われたものを思い出すような軽口を叩くフィースにフィンは内心悪態をつきたくなった。
こっちは必死になって避けているというのに、そうやってなんでもないようにやってられると自分がひどく弱いように感じる。誰も知らないはずの若造にいいようにしてやられていると今までやってきたのは何だったんだと叫びたくなる。
負けたくない。こんな何も知らないような小僧にいいようにやられるなんて、まるで外を知らない子どもの相手をしてもらっているような屈辱を味わい続けるなんて、オラリオの双璧であるロキ・ファミリアの団長としての誇りと掲げ続けてきた信念が許せるはずがない。
「”指銃”」
「ッヅ!?」
ギュゥン、と空気を裂いたかのような甲高い音が聞こえたと思った瞬間、右肩に激痛が走った。思わず口から痛みによる苦悶が漏れ出てしまい、何をされたのかわからなかったフィンはなりふり構わずフィースから離れる。軽い構えだけをしているフィースの突き出した指には血が垂れおちていて、フィースへの警戒を解かずに自分の肩を確認するとそこには指ほどの大きさの穴が空いていて血がとめどなく流れ出ていた。
「え?は?」
フィンの肩から流れ出ている血が服を染めて腕を伝って地面に落ちる様子を見たロキは信じられないものを見るかのようにフィンを見て、そして怒りを爆発させるかのように顔を赤くしてフィースを睨みつける。かろうじて醜態をさらすような声を出すことはなかったものの、気を抜けば口から罵詈雑言を吐き出しそうになりたくなるほどの怒りを溜めていた。
「反応しきれなかったか?いや、あれはそうじゃないな。どういうカラクリかはわからんが、少なくとも見聞色の覇気じゃなさそうか?」
そんな神の怒りを無視し、フィンの様子を見てフィースは半ば確信にも近いような声を出すが、この場にいる全員がその言葉の意味が理解できていない。それ以上に何でもないかのように無傷でフィンを追い詰めているフィースへの恐怖が勝っていた。
トントン、とフィースは靴の調子を確かめるように地面を軽く蹴り、納得がいったかのように鼻を鳴らして軽く膝を曲げると同時に地面を叩く大きな音と共にフィースの姿が視界から一瞬消えた。
「ッ!?」
周りはフィースがどこに行ったのかがわからずに視線を右往左往させていたが、フィンの言葉にできていない驚きが聞こえた。慌てて視線をフィンのところに向けると、そこにはいつの間に移動したのかフィンの隣で腕をフィンの胸へと置いているフィースがいた。
「いつの間に……!?」
オッタルですら反応ができなかったのか、リヴェリアとガレスの耳にオッタルの驚愕する声が聞こえたが、今はそれどころではない。フィンもいつ自分の隣に移動してきたのか理解できず、指揮官としての癖で思考が回って反応することもできなかった。
察知することもできないほどの速度の移動とそれに驚いたことによる思考の回転にフィンの行動はワンテンポズレた。そしてそのズレは致命的なものだった。
「”拳骨”……」
フィンが行動する前にフィースの掌がフィンの胸をわずかに押し上げる。足が浮いて移動することもできなくなったフィンが次に見たのは、濁流にも似た景色の流れだった。同時にフィースの目がオッタルに向き、フィースの目を見たオッタルはわずかに目を見開いた。
「”
ボッ、と空気が弾けたような音がフィンから鳴った。同時にその体は射出されたかのように直線的に飛んでいき、フィンはオッタルの体にぶつかった。
「ゴボッ……!」
「ヌグゥ……!」
殺しきれない衝撃に、フィンは体内の空気と水をすべて吐き出すかのような音を口に出し、オッタルはフィンを落とすこと
「フィン!」
「オッタル!?」
満足に反応することすらもできなかったリヴェリアとガレスは2人の元へ駆ける。あれほどの衝撃を、オッタルを介したとはいえ受け身をとる間もなく体に叩きつけられたフィンは口から咳き込みながら血を吐いた。フィンに挟まれたオッタルはなんとか衝撃を逃がしたが、それでも内臓にまで響いた衝撃は殺しきることはできずに何度も咳き込んでいた。
「う、嘘やろ……!?フィンが、負けた……!?」
驚愕のあまり言葉を出すこともままならず、口を開閉させるロキ。かろうじてひねり出した心からの言葉はこの場にいるすべての人が認めたくはない現実だった。誰も言葉を発さず、聞こえてくるのはフィンとオッタルの荒い息と2人を介抱、治療するリヴェリアとガレスの慌ただしく動く音と声だけだった。
「なんだ?もう終わりか?それじゃ俺が来た意味ないだろ。なんで来たんだったかな?あぁ、そうだ。実力を
嘲るような声と共にゴキリッ、と物音が少ない空間の中で鳴った指の関節の音はこの場にいる全員の耳に聞こえた。普段であればそんな言葉を聞けば怒りですぐさま襲い掛かるはずなのに、この場にいる誰もがフィースを見る目が恐怖に染まって動くことができずにいた。
まぁダンまちの常識的に考えて、
・オラリオの外でレベル5以上になれるのはごく稀中の稀
・詳細はわからなくても高レベルであるならオラリオに情報があってもおかしくない
・襲撃されたら被害がでかくなるんだから要警戒としてマークされるし情報共有されていてもおかしくない
・なんならスカウトすらも視野に入れるから覚えてなくても記憶にひっかかるぐらいはあってもおかしくない
・上記の理由で高レベルの存在なら記憶に引っかかるはずなのに、2m近い身長と結構特徴的なのに記憶に引っかかるものがない
だし、
・前任より劣るとはいえ最強の双璧を名乗れるぐらいには実力はあるし自負もある
・呆れることもあるけど世話になっている主神が猿扱いされて軽んじられている
・自身の侮りや嘲りはかわいくて仕方がない眷族の侮りや嘲りになりかねない
から、前の話のフィースがやったことって【ド田舎から来た無知のクソガキに名誉棄損レベルでバカにされた】ことになるからブチギレてもおかしくないどころか反応や対応として当然なんだよなぁ。
One piece世界なら『賞金首にもなってない海賊が白ひげを笑いものにした挙句隊長格を下に見て嘲てるのを本人たちの前でやった』レベルなんだよね。そらブチギレますわ。