元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:ルーニー

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『鉄塊』に関するアンケートにご協力いただき本当にありがとうございました。アンケートや感想にてさまざまなご意見をいただけて考えた結果、『指銃』といった技のために手のみや足のみといったごく一部には可能であとは全身に強制的に『鉄塊』がかかるという仕様にしたいと思います。



14話

 

「まぁ、面接と言っても僕としてはよほどの悪人ではない限り入団を拒むようなことはしないんだけどね!」

 

 ふふん!と自慢げに胸を張るヘスティア神。どこに自慢する要素があるのかと思わなくはないが、自分は悪人を入れるようなことはない、見る目がある、と言いたいのだろうか。

 

「それで、君たちはこのファミリアに入ってなにがしたいんだい?」

 

 ヘスティア神はさっそくと言わんばかりに目を輝かせて聞いてくる。初めての面接ということもあって無駄に張り切っているのがわかる。

 ファミリアに入ってやりたいこと。それはもう決まっている。

 

「心身ともに鍛えるためです。自分たちでも鍛錬していましたが、実戦もなく鍛え続けることに限界を感じたのでダンジョンに入って鍛えようと思ったからです」

 

「そ、それはまた予想外な……」

 

 俺の答えに苦笑いを浮かべるヘスティア神。ヘファイストス神も予想していなかったのか目を丸くしている。まぁ、それもそうだろう。普通強くなりたいというならば大手のファミリアに行った方が手っ取り早い。大きいということはそれだけノウハウがあるということなのだから、無名のところで手探りで強くなるよりも早く、確実に強くなれるんだから。

 しかし、俺とベルに関しては海軍の鍛え方のノウハウと『六式』がある。正直朧気な部分もあるが、ベルの才能もあって徐々に『六式』を修めてきている。『六式』の鍛錬を見られて我も我もと言い寄られてくる方が時間がかかるがゆえに無名のファミリアに来たのだ。

 

「もっとこう、ないのかい?オラリオで有名になるためだ!とか、英雄になるんだ!とか、一攫千金のためだ!とかそういうのは」

 

「ないです。技を鈍らせないため、ベルを1人前にするためにオラリオにやってきたんです。満足に動けなくなるまで鍛錬して、その合間に稼いだ貯蓄で生きていく。それが目的です」

 

「……求道者みたいなことを言うねぇ……。嘘をついていないのがまた……」

 

 俺の言葉に呆れたような、見たこともないような存在を見るような目で見られる。

 失礼な。そんなふざけたようなことを言ったつもりはないぞ。

 

「君は、ベルくんでよかったかな、どうだい?僕のファミリアでやりたいこととかないのかな?」

 

「えっ?」

 

 俺の回答をどう処理すればいいのかわからなかったのか、俺からベルへと質問が変わっていく。ベルは突然自分に変わったことに驚いてしどろもどろになったが、少しして落ち着いたのかポツリポツリと言った。

 

「……僕は、おじいちゃんに、言われたんです。このオラリオにはいろんなものがあるって。見たこともない景色や人々、武器、料理、出会いも、何もかもがあるって。そんなオラリオに憧れてたんです。兄さんに鍛えてもらって、まだ1人前にもなれていない未熟者だけど、でも冒険者として生きてみたいって、思っていたんです」

 

 じいさんを思い出すように視線を宙に浮かべるベル。幼い頃からじいさんに聞かされていた物語の数々は幼かったベルの心を掴み、そしてそれは憧れになった。心の奥底にあった憧れは俺との鍛錬で火がついて、現実に見ることができるようになった。ポツポツ言い出す言葉は、ベルの想いなのだろう。

 

「僕は、いつか有名な冒険者になりたいんです。有名になるってことは、それだけ強い冒険者になっているって言うことだから、そうなっていれば、きっと兄さんも僕を1人前だと認めてくれていると思うんです」

 

 俺のいる前で1人前になりたい、というのは俺と自分に対する宣言なのだろう。かつて『六式』を習得したいと頭を下げた時に英雄になりたい、という気持ちも出していた。あの時と同じ決意に満ちた表情を見るに、その気持ちはまだもっているのだろう。

 

「……うん。君たちの想いも分かった。僕からは特に何か言うつもりはないよ。君たちが入りたいって言えば、それで入団してもらってもいいよ」

 

「……ずいぶんとあっさりと決めるんですね」

 

「最初にも言っただろ?よほどの悪人でもない限りファミリアに入ってもらっても問題ないって。さっきの質問がその確認だったってだけさ」

 

 よほどの悪人、というのがどれほどのことを言っているのか。一般的に犯罪とされていることを犯すことを許さないのか、それとも”おいた”程度なら許されるのか。

 まぁ、元海軍将校だった身としては犯罪を犯す気もないし、ベルも犯罪を犯すこともないだろう。悪人ではない、という入団規定は問題なくクリアできている。

 

「……それじゃ、逆にこっちから質問したい」

 

「おうふ……。まさかそっちから質問が来るとは思ってなかったよ」

 

 しかし、俺からすればここからが本番だ。『六式』を扱う身として、ここで確認を怠れば面倒なことが起こるのは目に見えている。ベル以外に『六式』を鍛錬するようになるのは面倒だし、俺の鍛錬する時間も削られる。そうなるのはまっぴらごめんだ。

 

「まず1つ。このファミリアにはまだ団員がいない。これは本当のことでいいんですね?」

 

「むぐっ!ま、まぁそうなんだけどさ。もっとオブラートに包んで言うとかしないのかい?」

 

 俺の質問に少々不機嫌そうに頬を膨らませている。神と名乗っているくせに子供らしいことを、と思わなくはないが、神はわがままな子供よりも質が悪いものだと思い直して次の質問を出す。

 

「次に、仮に俺たち兄弟が入ったとする。言い方は乱雑だけど、ファミリアの基本方針は俺たちが決めてもいいので?」

 

「う~ん。まぁ、悪いことをしない限り自由にやってもらってもいいよ。冒険者としてダンジョンに行ってもらってもいいし、何か道具なり武器なりを売ってもらう商人として行動してもらってもいい。何かするのもしないのも君たちの自由さ」

 

 よし。嘘はついていない。これで『六式』についてのことは俺たちで一任できるということ。それに、本心で自由にやってもいいという言質はとった。これでベルの鍛錬にも時間を取れる。

 

「次。ファミリアに入るからにはファミリアにお金を入れる必要があると思いますが、そのノルマ等は設定するつもりはありますか?」

 

「いや、そこまで厳しくするつもりはないさ。せいぜいがみんなで不自由なく食べていけるだけのお金を入れてくれれば僕としては問題ないよ。まぁ、それ以上入れてもらってもいいんだけどね」

 

 これもクリア。冒険者はモンスターを倒し、モンスターを倒したことによって落ちる魔石と呼ばれる石で以って生計を立てている、ということはじいさんから教わっているが、具体的にどれぐらい儲かるのかはわかっていない。ダンジョンに潜ればモンスターと戦い、戦闘の経験は積むことができるが基礎的な鍛錬も行わなければならない。その時間を取ることができるかどうかは今後の鍛錬にとって大きく関わってくる。

 

「……わかりました。それでは、最後に1つ問いたい」

 

 聞きたいことは聞けた。あとは、1番重要なことを聞くだけだ。

 

「あなたは、眷族を守る気はありますか?」

 

 俺は神のことについて無知だ。地上に降り立った際に多くの力は失っている、ということは知っているが、それ以外のことについては全く分かっていない。わからないがゆえに、同じ神であるヘスティア神がどれだけの意志を持っているのかを確認する必要がある。

 

「ど、どういう意味だい、それ?」

 

「言葉通りです。もし俺たち兄弟を眷族に入れたとして、あなたは俺たちを理不尽から守る気はありますか?俺たちを利用しようとする、そういったものを求める連中から守る気はありますか?」

 

 見聞色の覇気を全開にする。条件を見ればここでいいとは思っているが、この質問が一番問題だ。じいさんから神に干渉することはあまりよくないと言われているから少しでも俺たちを、最低でもベルを守れる手札が欲しい。ここでわずかでも嘘をついている様子があればここを諦めて別のファミリアを探すことにする。

 

「……僕の力がどれほど役に立つか、正直確約はできない。でも、これだけは約束できる。僕は、僕の全力を以って眷族を守る」

 

 ……嘘は、ついていない。自分の力を理解して、それでもやり遂げて見せると、そういう意思が伝わってくる。

 

「……その言葉、信用しましょう」

 

 守るつもりのある未熟と、守る気がない強者。海賊どもと戦っているときも感じていたが、前者の方がしぶとく、同時に予想外なことをすることが多い。未熟なりにも守ろうとする気持ちがある方が、俺としても安心できる。

 

「……ってことは?」

 

「入っても問題なさそうだしな。ヘスティア神、俺はあなたのファミリアに入りたい」

 

 パチクリと、俺の言葉が信じられなかったのかヘスティア神は目を瞬かせている。

 

「ほ、本当かい?本当に僕の眷族になってくれるのかい!?」

 

「えぇ。我々を守るというその覚悟を以って、ヘスティア・ファミリアに入ろうと思います」

 

「……や、やったー!やったよヘファイストス!ついに僕にも眷族ができたんだ!」

 

 ピョンピョンとソファの上で跳ね、傍にいたヘファイストス神へと飛びついた。ヘファイストス神も苦笑いをしていたが、特にまんざらじゃないのかよかったわね、と喜んでいるヘスティア神をなだめている。

 

「ベルはどうする?もし嫌だというのなら別のところにするけど」

 

「ううん。兄さんが決めたなら、僕もここに入るよ」

 

 ベルも特に入らない理由がなかったのか気にした様子もなくニコニコとしている。そうか、とベルに呟くと同時に体の力が抜けるのを感じた。無意識に体に力を入れていたようだ。ベルも気が抜けたのか背もたれに体を預けている。

 

「やっと、僕の憧れていた僕の眷族(かぞく)による眷族の物語(ファミリア・ミィス)が始まるんだ!」

 

 まだ嬉しさで落ち着けないのか、キャッキャッとはしゃぐヘスティア神。その様子を見ながら、自分たちの主神となる神を見て軽くため息をつく。

 ヘスティア神の言う通り、俺とベルの冒険はここから始まる。俺と(ベル)による冒険という言葉は、かつて海軍に入ることと引き換えにできなかった(ルフィ)たちとの航海を幻視させるようで、不思議な気持ちがした。

 

 





今回で『六式』について秘密にするのかという質問をしなかったのはまだ入るとも決まっていない神に情報を与えないため、という理由があります。『六式』についてしゃべって別の場所に行き、変に噂になる可能性があるという考えのもとです。浅い考えなのは正直わかってるんですが、こうしました。

ちなみに主人公はONE PIECE原作について2年後の航海については全く知りません。ですのでサボが実は生きていたことやルフィがどうなったといったことはほとんど知りません。

急には変えることはできないけど、投稿について

  • 出来たら即投稿
  • 週1のペースを保ってほしい

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