元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ルーニー
まぁそこまで需要はないでしょうから関係ないでしょうけど。
「っ……つ……」
胸の激痛で意識が覚醒する。喉が渇いているのか呼吸をするだけでヒリヒリと痛む。目から入ってくる光が強く、外の様子を見たいのにすぐに瞼を開けられないのがもどかしい。
光から目を慣らしながらゆっくりと瞼を開ける。最初に目についたのは、全く覚えのない天井だった。
「ここ、は……?」
口から出たのはかすれた声だった。筋肉が固まっているのか首を動かすにも痛いが、そんな痛みは慣れ切っている。ゆっくりと辺りを見回すが、木でできた寝具が大量に並んでおり、その上には包帯で身を包んでいる人が何人もいるのが見える。その中で1人、白い服を着た白い少女が俺が起きたことに気づいたのか慌てた様子でこっちに近づいてきた。
「お気づきですか?」
歳は、多分12か13くらいだろうか。そんな幼い子供がどうしてここにいるのかを聞こうとするが、乾いた喉でしゃべろうにも咳き込んでしまい言葉を出すことができない。それに気づいたのか少女は慌てて近くに置いてあった水差しから水を注いだコップを差し出してくれて、俺はそれを受け取って喉を潤わせるためにゆっくりと水を嚥下していく。
「よかった。胸部が焼けついて治らないかと思いましたが、峠は越えたみたいですね」
水を飲み終えたのを確認した少女は安堵するように息を吐いて俺の手からコップを取って水を注ぐ。それを受け取った俺は、改めて自分の姿を確認する。文字通り全身に包帯が巻かれており、その中でも胸の包帯は特に厚く巻かれている。素肌が見える場所もなく、鏡もない今、唯一肌が見えるであろう顔すらも見えないが少なくとも生きていることは自覚できた。
「なんで……?」
どうして生きているのだろうか。赤犬、サカズキ大将のマグマの腕で胸を貫かれたのは覚えている。いや、覚えている以前に胸を貫かれた感覚を忘れられるわけもない。その過程で
ふと、死の感覚を思い出したせいか体が震えているのを見た少女は落ち着かせるように俺の背中をさすり、ゆっくりと声をかけてくれる。
「落ち着いてください。闇派閥にやられたであろう傷は治してあります」
「……?」
少女の口から聞き覚えのない名前が出た。どこかの海賊でそんな名前の海賊がいたか思考を巡らせるが、そんな名前は聞いたことはない。
「イヴィ、ルス?」
試しに口に出しても全くピンとこない。いや、そもそも俺は海軍と白ひげ海賊団の戦争の中で死んだんだ。白ひげの家族の中にイヴィルス等と呼ばれている奴がいた覚えはないし、胸の傷もサカズキ大将のマグマで負ったものだ。あの戦争を見ていたのならイヴィスル等という言葉が出る理由がわからず頭が混乱する。
「失礼ですが、まだ怪我人がいるのでこれで」
俺が混乱していると思ったのか、実際そうなのだが、考える時間を作ったほうがいいと判断したのか少女はそれだけ言うと俺の近くに水差しを置いて他の寝具のところに移動していった。
「……どこだ、ここ?」
ぐるりと辺りを見回すが、本当にここがどこなのか全く覚えがない。インペルダウンの獄中か?いや、こんな快適な場所なんざ知らないし、海底に続いていく牢獄に日の光がさす窓があるはずがない。普通の牢獄?そんなはずもない。死刑囚を処刑からかばう等、海軍の顔に泥を塗るようなことをして普通の、少なくとも少将でもある俺をなんでもない牢獄に入れるはずもない。
そもそもあの子は誰だ?船医見習いか?いや、だとしてもあんなに幼い少女を雇う理由がわからない。俺が生きていると言うことは凄まじいレベルの治癒を可能とする悪魔の実の能力者で秘匿すべきだという理由で知らなかったのか?もっとありえない。少なくとも海軍の裏切り者である俺にそんな秘匿すべき力を使うわけがない。それはガープ中将の懇願でも覆るはずがない。
わからない。何が起きているのか、まったくわからない。
「あ、目が覚めたって聞いたけど、大丈夫?」
思考に囚われていたせいか、いつの間にかすぐそばに髪の赤い少女がいたことに気づかず体を震わせて少女の方を見る。頭の中の整理がついてないせいでうまく言葉も出ず、かろうじて出た言葉も少しの間言葉にならない音のようなものだった。
「おまえは……?」
「わたし?わたしはオラリオ一の美少女、アリーゼ・ローヴェルちゃんよ!」
ようやく出た言葉に少女、アリーゼは胸を張って自己紹介をするが、名前を聞いても全くピンと来ない。そもそもの話この少女が身に着けているものが海軍で支給される服装でもない。
「あなたアストレア・ファミリアの拠点の前で瀕死の重体で倒れてたのよ。正直助からないと思ってたわ」
また聞き覚えのない名前が出て来た。アストレア・ファミリア?西の海で裏社会を牛耳るほどの力を持つファミリーじゃなく?いや、西の海のファミリーはカポネ・ヘッジが滅ぼしたんだったか?西の海の方には滅多に行かないからわからん。
「もしかして、記憶がごちゃ混ぜになってる感じですか?」
「いや、記憶はそこまでだが、そもそもここはどこだ?マリンフォードにこんな場所はないだろ?」
そうだ。そもそもここはどこなんだ。マリンフォードではないだろうと思うが、それじゃどこになるんだ。裏切者をマリンフォードで助ける理由なんてないし、ましてや瀕死の裏切り者を救う理由も余力もないはずだ。かといってマリンフォードの外というのもあり得ない。意識を失っている以上、心臓の動きも無くなっていったのを感じていた俺は外に行くまでに死んでいるはずだ。ならここは死後の世界なのか?と思ってもあの世で寝ていたところを激痛で起きるなんてことが起こるはずもない。
そんな疑問を解決してくれるであろうと期待して聞いて返ってきたのは、そんな期待を裏切った答えだった。
「まりん、ふぉーど?」
アリーゼから出て来たのはそんな名前なんか知らないと言わんばかりの反応だった。
「えっと、それはどこなの?聞いたことないけど……」
「……は?」
いや、反応だけではない。本当に知らないと申し訳なさそうに聞いてくるなんて、まるで本当にマリンフォードという場所を知らないようじゃないか。
「マリンフォードを、知らない?」
偉大なる航路じゃ、ないのか?いや、ありえない。海に落ちて流されたなんて、悪魔の実を食べた俺は海に沈むだけなのだからそんなことは絶対にありえない。誰かが連れてきた?ならその連れてきた奴がいるはずだ。少なくとも交渉をするはずなのに今ここにいないなんて絶対にない。
「ちょっと待て。どれぐらい経ってる?白ひげと海軍の戦争からどれぐらい時間が経ってる!?エースは、ルフィはどうなった!?」
いや、もしかしたら今ここにいないだけかもしれない。何日も眠っていてようやく起きた今たまたま何も知らない子が来たのかもしれない。そんな希望を持って語気を荒げて聞いたのだが、返ってきたのは意味の分からないものだった。
「ちょ、ちょっと落ち着いて!戦争って、今は外の国の戦争なんて気にしている余裕はないし、そもそも白ひげってなに?」
「は?」
足元が崩れていく感覚を久々に感じた。サボが死んだと知った時、エースが捕まったと聞いた時と同じように足元が、いや、体が落ちていく感覚で気を失いそうになるが、意識を失わないように力の限りアリーゼの服を掴んで顔の前にアリーゼの体を持ってくる。
「何をバカなことを言ってる!?四皇の白ひげを知らない!?いや、そもそもエースの処刑は新聞でも出てたし全世界に映し出されてただろ!?いくらなんでも知らないわけがないだろ!?」
「ちょ、ちょっと落ち着いて!そんな一気に聞かれても答えられないわよ!」
俺の腕をつかんで引きはがそうとするが、死にかけたとしても海軍少将だ。
「……すまない」
「いえ。その、本当に大丈夫?」
「……正直、どうにかなりそうだ」
さっきまで乱暴に扱われていたのに、まるで何もなかったかのようにふるまってくれるアリーゼに感謝しながらも弱音を吐く。何がなんだかわけがわからない。なんだ、ここは。偉大なる航路じゃ、ないのか?
「……ここは、どこなんだ?マリンフォードを知らないなんて、偉大なる航路の中じゃありえないだろ」
自分でもわかるほどに弱弱しく出た言葉に、アリーゼは心配そうにしながら俺の質問に答えてくれた。
そして、それがこの世界が