元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ルーニー
まだ体力が残っていた時に散策してわかったのだが、ここはどうも小さな島のようだった。村も何もない、大きな動物もいない静かな島だった。正直大型の動物がいたら食い殺されていた可能性が高かったからいなくてホッとしたが、しかし同時に小型の動物もいなかったせいで食べ物がなかった。
遠くに船が通るのが見えてのろしを上げようにも俺の力ではすぐに火を起こすこともできず、火がついても船は通り過ぎていった後だった。
いっそのこと火をつけたままでいようと思っても、燃料となる草木も水分がある物ばかりでうまく燃え続けないことが多かった。
もう限界だった。泥水をすすっていたせいか腹の調子も良く無いし、空腹で動くこともままならない。あぁ。俺は死ぬんだ。なんとか燃え続けている火を見ながら漠然とそう感じていた。睡魔なのか、それとも死に近づいているのかわからないが段々と眠気が襲ってきた。そして俺は、ゆっくりと目を閉じて意識を失っていくのを感じた。
「どうかしたのか?何か投げやりなようじゃが」
目が死んでいくのを感じたのか、じいさんは少し心配したような表情を見せる。正直八つ当たりをしたい気分にもなっているんだが、さすがに命を落としかけていたらしい俺を救ってくれたじいさんに八つ当たりするのも大人げない。なんとか深呼吸で息を整えて気分を治め、最後に深く息を吐く。
「いや、なんでもない。ちょっと嫌なことに思い至っただけだから」
嫌なこと。あぁ、とても嫌なことだ。兄弟を守って死んで、恩人を裏切った俺は地獄に行くのかと思っていたら今度は田舎へ幼児としていた。ハハッ。たとえ2回目だとしても落ち着いていられるかってんだ。神か。神がいて俺を面白おかしくこんなことをしているのか。ファッキンゴッド。
「神死なねぇかな」
「ど、どうしたんじゃ物騒なこと言いだしおって」
「いや、自分の身に起きたことを神に恨んでいるところなんだよ」
「なんで神に恨み言を言っておるんじゃ。いや、まぁ周りに親らしきものもおらんかったから捨てられたと思えばそう思っても仕方ないかもしれんが、まさかこのご時世に死なないかまで言うとはな……」
このご時世、とは、もしかしてキリスト教のような宗教が跋扈している世界なのだろうか。まぁ確かに海軍の中でも正義に盲目になっていた人は何人もいたが、この世界でもそんな連中がいるということだろうか。つまり狂信者か教えをいいように解釈して好き勝手するような連中が存在するということになる。
となると、あまり神のことについて触れないほうがいいのかもしれない。いや、今後のことを考えたら主神となる神の宗教のことについて教えてもらっておいて回避するようにした方がいいか。
「……めんどくせぇ世界だなぁ」
海軍にいた時にも大将赤犬を筆頭に海賊は悪だの正義は我らにありだの鬱陶しい連中がいたのを思い出す。確かに吐き気を催す悪と言いたくなる海賊がいるのも事実だが、俺の兄弟みたいに一般人に何もしない海賊だっていた。それに海軍の中には一般人も巻き込んで海賊を倒そうとする連中や海賊と手を組んであくどいことをしている海兵もいるのだからそっちを捕まえろよと言いたいのは俺だけじゃなかったはずだ。
「……なんで目が死んでいっとるんだ。何か嫌なことでも思い出したのか?」
「……人生ままならねぇよなぁ」
「まだ子どもなのに何言っとるんだ坊主」
俺のため息に呆れたような声で否定するじいさん。うるせぇこちとら十年以上海軍で戦ってきてた身なんだよ。こう見えて少将だったんだぞ。六式と覇気使えてたからだと思うけど。
「まぁ、ええわい。それで、坊主。これからどうするつもりじゃ?傷だらけで山に捨てられておったからには行くところもないんじゃろ?」
死んだ目で見られるのが嫌なのか話題転換を図るかのようにじいさんが言う。確かに、じいさんの言うとおり、倒れていた俺の周辺に人がいた気配がなかったのだから俺はまた捨てられていたんだろう。傷だらけな理由が虐待によるものなのか、それとも動物によるものなのかはよくわからんが、確かに頼る場所がないのは事実だ。
「……ない。けど、いつまでも世話になり続けるわけにもいかないから、すぐに出ていくよ」
このままこの村を出て行っても頼れる場所はどこにもない。けど、このままずっといるわけにはいかない。幼い体になってどれほど六式が使えるのかわからないが、鍛え直しながら動物を狩って道中を歩いていくのもいいだろう。動物の相手ならエースたちと一緒に狩りを続けてきたから問題はない。
「……ふむ。なぁ、坊主。一つ提案があるのじゃが、いっそのことここに住まんか?」
じいさんの提案に俺は驚いた。いくら幼子の体とはいえ、人1人を養うのは相当な労力とお金がかかる。ガープさんの時は本人が中将でお金もそこそこ以上にあった上、ダダンのところに世話になってたし、結局は海軍で過ごしてきてたからお金のことについては心配はなかった。けど、ここは言っちゃ悪いがこの家を見る限りとても裕福には見えない。
「……迷惑になるだろ」
「なに。子供1人で旅をさせるほどワシもひどくはないってことじゃ。さすがに働かなくても住める、と言えるほど裕福ではないが、まぁ農業やら狩りやらの手伝いをしてもらえれば衣食住は保障してやる程度のものじゃ。どうじゃ?悪い条件ではないだろう?」
「……この体だからキツイ仕事はできるかわからないぞ」
「そこまで求めておらんわい。言ったじゃろ。せいぜいが手伝ってもらう程度じゃって。それに、すでに孫も1人おるんじゃ。今更1人増えたところでそう大差ないわい」
言葉だけを聞けば悪い条件ではない。けど、これが嘘だった場合奴隷のように働かされる可能性がある。だから、見聞色の覇気を使って真偽のほどを確かめる。
見聞色の覇気は心の声を聴くことができる。と言っても、俺の覇気はまだまだ修行が足りず、人の位置の把握、戦闘でどこに攻撃を仕掛けてくるか、会話をしていて嘘を言っているかどうか、少しだけ心の声を聴くことができる程度。噂に聞いていた未来予知にまで至っていない。正直、この体になって覇気がまだ使えていることに驚きはあるのだが、使えるものは使えると割り切ることにする。今疑問に思考を割く余裕はない。
見聞色の覇気を使って確認すると、嘘はついていない。本当のことを言っていないだけの可能性もあるが、まぁ衣食住が保障されているのだからその時は体が六式になじむまでここにいればいい。そしてある程度成長したら出ていけばいい。
「……それじゃ、お世話になります」
「なんじゃ、急にかしこまりよって。別にさっきのままでもいいんじゃぞ」
「……まぁ、じいさんがそういうならそうさせてもらうけど……」
にこやかに笑いながら手を差し出してくるじいさん。さすがに世話になるのだから繕ってでも敬語を使わないとと思っていたのだが、特にそういうことはきにしていないのか砕けた口調に戻す。
ガープさんといいこのじいさんといい、俺の周りのじいさんはどうしてこうフランクなのかねぇ。そう思いながら、俺はすぐにその手を握り返した。
「そういやまだ名前を聞いておらんかったな。坊主、名はなんという?」
握手を終え、ふと思い出したかのように言い出すじいさん。そういえばまだ名前を名乗っていなかった。
「俺はフィース。なんでもないただのフィースだ。よろしくな、じいさん」
何でもない。そうだ。俺は兄弟を助けたけど、結局何も変えられなかった元海兵。どうせ少将の身分もなくなったのだから、新たな気持ちで生きていくとしよう。
エース。ルフィ。俺、違う世界だけど、今度は天寿を全うするように生きていくよ。だから、お前らも生きていってくれよ。
原作前をどこまでやるか。これが問題だ。