元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ルーニー
「あ~。やっぱ自由に動けるのはいい……」
ゴキゴキ、と体を動かすだけで大きく体が鳴り、鳴らした張本人であるフィースはググッと体を反らしてより大きな音を立てていた。その隣であまりの音にやや引いた表情を浮かべながら引きつった笑みを浮かべているガネーシャがいた。
「んで、これから俺はどうすればいいんですかね?あのローブから何かしら来るまで自由でもいいんで?」
「まぁ、あのような挑発をした後だからな。少なくとも少しの期間はお前の様子見で留まるとは思うぞ」
さすがに対外的に完全な自由ということを見せるわけにはいかないため鎖のない手錠と首にチョーカーを付けてはいるが、それもパフォーマンス以外の何物でもない。それもガネーシャがフィースが闇派閥のような存在には程遠いことや自分たちの信頼を裏切るつもりはないと保証したために成り立っている状態だ。さすがにソーマ・ファミリアの時のようなことを起こせば極刑は逃れられないが、今回の件については細部まで情報を出せばギルドにも余計な騒動が飛び火しかねないものだったためにできたバグのようなものだ。そう何度もできることではない。
しかし、とフィースの疑問にガネーシャはローブの男、フェルズのことを思い起こす。アダマンタイトの鎖をいとも容易く壊したフィースの力にウラノスにどう説明したものかを悩ませているだろうが、もしフィースのことで悩んでいるようであれば自分かアストレアから口添えして指令を伝えてもいいと言ったほうがいいかとアストレアの頭が痛いと言わんばかりの表情を思い出しながら思った。
フィースの暴走による被害が最も大きかったのがソーマ・ファミリアであったのならその次は味方であるはずのアストレア・ファミリアなのはどういうことなんだと頭を抱えそうになるが、今一番頭を抱えたいのはギルドかアストレアなのだから自分がやることではないかと思わず自嘲が漏れる。
「しかし、アストレアから空間を掴めることは聞いていたがまさか空間を歪ませることができるとは思いもよらなかったぞ。神でもそう易易とできんことを意図も容易くやるとは、本当にその能力はとんでもないものだな」
「まぁ、使ってても原理とか全然わかってないんですけどね。向こうでも世界最高の頭脳と呼ばれていた人物ですら解明できていないほどですし」
「むぅ……。実物があれば解析できそうな
いらぬ気遣いというより、フィースの特異性を考えたらごく一部を除いて誰にもフィースのことを伝えるわけにはいかないかと考えを改める。今回は保護した子ども、リリルカ・アーデの境遇への怒りによる暴走だが、より強い憎悪を抱く神による好き勝手なちょっかいをかけられたら本当に人類による神殺しが発生してしまう。どれだけ注意しようとも好奇心で暴走する
「あぁ、そうだフィース。お前も気になっているだろうアストレアのところについてだが……」
「くたばれこの大馬鹿野郎がぁ!!」
「ブベラッ!」
「うお!?敵襲か!?」
ドロップキックのごとく勢いと全体重を乗せた蹴りをろくな受け身を取ることなく顔面に受けたフィースは土煙を上げながら数Mもの距離を転がっていく。あまりにも急な出来事にガネーシャが身構えながらフィースを襲った犯人に顔を向け、そして小さく声を漏らして身を小さくるようにしながら静かにその場から離れていった。
そこには怒りで顔を般若のごとく歪ませているライラが怒りで肩で息をしながらフィースを睨みつけており、その後ろからさすがに鞘から抜いてはいないがリューを除いた各々の武器を手にして全然目が笑っていない笑顔を浮かべてゆっくりとフィースへと歩みを進めている。
「やぁっとぶん殴れる状況になったなぁこの大馬鹿野郎が!テメェのおかげでこっちがどんだけ大変だったか、その詰まってもいねぇ頭に叩き込んでやろうかこの野郎!」
「ま、ぶっ、ぎゃああああああああ!」
数十M、下手すれば百Mは超えて響いているであろうフィースの叫びとアストレア・ファミリアの眷属達の暴力の音は、誰も声を出そうとしないその場に置いて余計に強くその場にいた人たちの耳に響いていた。
フィースを取り囲んでとてもとても淑女のやることには到底見えない殴る蹴るの集団リンチを憤怒の表情を浮かべてやっているアストレア・ファミリアに、それを見ている周りは顔を引きつらせて見ていた。普段なら止めている立場にいる者も含めた、その迫力はもはや階層主に挑むのかとすら思えるほどだった。
もはや殺気立っているそのあまりの迫力に
「今はこれで済ましてやるが、お前また同じようなことしやがったらこれで済むと思うなよ!」
「あい!ずびばぜんでじた!」
顔中に痣やたんこぶを膨らませ、もはや誰なのかすらも判別つかないほどになっているフィースは動きにくいかろうじて口を動かして謝罪をする。
「どういうわけかギルドからの追及がなくなったので一時よりはマシにはなりましたが、それでもいまだに忙しいのは変わりません。言っている意味、わかりますよね?」
「あい!まごどにもうじわけございまぜん!」
「私たちが聞きたいのは謝罪じゃないの。言っている意味、わかる?」
「…………」
「おい、黙るな」
フイ、と顔を背けるフィースに殺意すらも隠そうともせず容赦なく鞘に収まったまま各々の武器を押し付けるアストレア・ファミリアの眷属達の面々。ゴリゴリと骨を削っているかのような音を立てているそれにフィースは悲鳴を上げながらも動こうとはしていない。正義を掲げている実績のあるファミリアであっても、さすがの野次馬すらも事情を知らないとはいえあまりの仕打ちにその矛先がこっちに向かないように声を潜めるほどだった。
「オラ、テメェのやることは腐るほどあるんだ!とっとと働け犯罪者!」
「イエスマム!」
「おい、何勝手に立とうとしてる。指示があるまで勝手に動こうとするんじゃない」
「え、いや、今働けって……」
「随分とご立派な理由があるんでしょうね?勝手に動いて、勝手に暴走して、街全体に多大な迷惑をかけた犯罪者なのに、勝手に動くことができるぐらいには私たちが納得できる理由がねぇ……?」
「…………ないです。すいませんでした」
理不尽だ。いきさつを見ていた人々はフィースの方に責はあるんだろうことは察してはいたが、それでも意見や行動を誘発させては封殺させる物言いに、さすがにフィースに同情を浮かべていた。同じ被害を受けていたリューですらもさすがにやりすぎではと思うぐらいには理不尽だった。やはり女は怖い。
「……なんというか、随分と馴染んできたというべきか?」
「それだけ心を開いてくれたと思うと嬉しくは思うけど、あの子のやってきたことを考えると頭が痛くなるわね……」
フィースの実力を鑑みればこんなことになるはずもなく、むしろ逆の立場になってもおかしくない実力差があるはずなのにフィースは抵抗することなく流れに身を任せている。フィースの事情を知っているアストレア・ファミリアの眷属達の行動にガネーシャは頬を引きつらせながら、アストレアは頭が痛そうに手を頭に遣りながら深くため息を吐いた。
特にアストレアからすれば、出会ったころを思えばそうしてもいいと思えるほどには気を許してもらえているのだろうと思う。それはそれとしてもうちょっと、こう、かわいげのある気の許し方をしてもらえないだろうかとも思わなくはなかった。
「お前な、好き勝手やるのは100歩、いや1000歩譲ってもいいとしてもファミリアの壊滅まで追い込むようなことをするんじゃねぇ。リリが自分のせいでお前があんなことをしたって目も当てられないぐらいに落ち込んでるんだぞ」
「……あ~……」
ライラの呆れ果てて吐き出したため息交じりの言葉にフィースは視線をしどろもどろに動かしながら思考を逡巡させる。子どもは好きだが、それはそれとして扱い方を心得ているわけではない。むしろ幼いころから山賊、海軍にいたという特殊な環境に居続けていたせいで出会う子どものほとんどが特別癖の強い子どもだらけだ。普通の子どもにしても海軍の任務の最中で出会うことがほとんどで大した時間を費やすことなく別れることばかりだったために子どもの扱い方については苦手な分類だったりするのだ。
「…………」
「気色わりぃ目で見んな。自分で考えろ」
「嫌ですねぇ、そんな吐気がするような目で見ないで欲しいですね」
「自業自得って奴ね!今回ばかりは私でも頭にキてるんだから!」
「ガッデム……!神は殺す……!ぜってぇ殺す……!」
「本当に反省してるのですか?」
逡巡の末に目の前に助けを求めるフィースだが、誰もが見てくるフィースを手厳しく見捨て、フィースは自業自得なのに自身の立場に神への殺意をさらに募らせる。フィースの環境を知っているがゆえに神嫌いであることを知っていても、あまりにも理不尽すぎる神への殺意に頭が痛そうに顔をしかめながら輝夜は深くため息を吐いた。
「……あぁ、そうだ。アストレアと子どもたちよ。おそらくギルドからも通達はあるかもしれんが、先に伝えておこうと思う。フィースはしばらくギルド預かりになるからしばらくはアストレアのところに戻ることはないかもしれん」
騒ぎがひと段落したと見たガネーシャはアストレアも含めてフィースのこれからについて話し始める。ガネーシャの言葉にアリーゼ達はきょとんとした表情を浮かべ、フィースは苦虫をかみつぶしたかのような表情を浮かべて居心地悪そうに体をもぞもぞさせた。
「どういうことです?」
「ギルドとの取引でな。しばらくはギルドの言うことを聞くように行動することになる。恩を返しきれてねぇのが心残りだが、そもそも体裁的に1つのファミリアを潰した犯罪者が正義の組織にいるわけにはいかねぇだろ」
「……後先考えず動くくせにそういう事考えれたのですね」
「俺は将校だっつってんだろ。いや、まぁあんな事やっておいて将校だの言うのはどうかとは思われても仕方ないけどよ」
「というか私たちに恩を感じてるならあんな事しないと思うんだけどどう思う?」
「…………反省はマジでしてる。けど後悔はしない」
「……本当に、この人は……」
悪びれている様子はあるが、それでも堂々とした態度でいるフィースにもはや怒りよりも呆れが出てきているアリーゼ達。フィースの正義の在り方、そして目指すべき正義とは何かに悩んでいるリューも悩まし気な表情を浮かべてフィースを見ている中、誰も思いもしていなかった声がこの空間の中に響いた。
「……見つけたぞ」
その声を聴いたアストレアとガネーシャは目を見開いて声のした方を見、フィースとアリーゼ達も同じようにその方を見ると、そこにはフラフラとまるで幽鬼のような様子でフィースへと歩みを進めているソーマが、髪で隠れているはずの目がフィースだけを見据えていたのがこの場にいる全員が分かった。
「……テメェは……」
ソーマの登場を予想していなかったフィースは怒りや憎しみよりも困惑が先に出てきていた。牢屋の中で聞いたが、ソーマは眷属がほぼ全員殺された上に酒蔵すらもフィースの怒りの癇癪で大部分を破壊されているのに咎めることはしないと言っていた。誰もその理由が思い当たらない中、ついにはフィースの前まで足を進めたソーマは、まるで教えを乞うかのようなか細い声を出して足を止めた。
「……なぜだ」
「あ?」
「なぜだ。なぜお前は自分の望みに怒りを持てるんだ。なぜお前は望んだ未来に囚われずにいられた?なぜ、お前は自分の幸せを、切り捨てられるんだ……?」
その声は困惑しかなかった。神とは多くが己のやりたいことばかりをやる快楽に忠実な存在だ。比較的常識的な神ですらも己の司っているモノについては並々ならぬこだわりを持っていてむしろ狂気的な面すらも持っている。もしそのような神が人と同じような効果をもたらす酒を飲めば堕落した人間たちと同じような存在になっていたことは予想するまでもないことだ。
それなのにフィースはそうならなかった。むしろ幸せな光景をあろうことか怒りを露わにしたのだ。神ですらそのようなことになるはずがないのに、そうならなかった、そうなろうとせずにいられた。どうしてそうあれたのかを、ソーマはどうしても知りたかった。
「……俺の尊敬する人がそうしていたからだ」
「……なに?」
ソーマの真剣な表情にフィースはしばらく目をつむって思考に耽り、そして思い出すのは恩人であるガープの顔だった。
「あの人は、ガープさんはやろうと思えば無理やりエースたちを海軍に連れていくことだってできたはずなんだ。あの人の功績を以ってすれば、エースたちを守りながら育てる事だってできたはずなんだ。やろうと思ったら、エースたちを無理やりにでも海軍に入れられたはずなんだ」
ガープは自分の孫たちと一緒に海軍をやりたかった。自分の持つものをすべて教えたかったのだろう。実際俺と話をしている中でそうこぼしたこともあった。けれどエースもルフィも海賊になることを夢見ていた。そして実際は海賊になった。
ガープからすればはらわたが
そうでなくても片や海賊王の息子であり片や革命軍ボスの息子だ。その素性が知れたら命を狙われるのは必然。そうなる前に海軍に入ってもらって自分の庇護下に置き実績を以ってして生きることを良しとされるように下地を作ってこうとした。それができずに終わってしまったのだからその心境はとても推し量れるものではなかった。
「けど、あの人はそれをしなかった。厳しい環境の中でより強く育ってほしかったからなのかもしれない。俺が思いもよらない理由があったのかもしれない。それでもあの人は自分の心からの願いや望みじゃなくてエースたちの夢を、自由を尊重してくれたんだ」
とはいえ強制的に、それも強い海兵になってもらいたいというある意味自分勝手な願いで知り合いの山賊ダダン一家のところに置いて行ったのだから自由があったとは言い難いが。それでも規律重視である海軍に入れずに自由に過ごせる上に、ある程度の助けをしてくれるダダンの庇護下に置けれるという点を考えればルフィや俺たちの自由を尊重してくれていたのだろう。
「それがあの人の愛なんだろうな。自分の願いを隠すことをせず、自分の望みのためにいろいろとやらかすけど、それでも最後には自分の意思を尊重してくれるあの人なりの愛。それを本来部外者でしかなった俺にも与えてくれた愛を、俺は裏切りたくないんだ」
エースとルフィが海賊になった後でも身内の恥だと言って2人を殺すようなことはしなかった。海賊になった後で海軍になって欲しかったと嘆いていても海賊をやめて今すぐに海軍になれ、とは言わなかった。白ひげの家族となった後は無理だろうが、それでも2人とその一味の実力を考えればガープの保証もあれば万年人手不足の海軍は一部を除けば警戒はしつつも受け入れてくれる可能性はその血筋も明らかになっていないこともあって十分にあった。
それでもガープはそうしなかった。海賊であることを否定せずに追うもの追われるものとしての立場だと言ったうえで己の孫だと言い切って愛していた。
ガープはその愛をフィースにも惜しみなく与えていた。だからフィースは部外者でしかなかった自分に家族としての愛を惜しみなく与えてくれたガープを、その愛を裏切るようなことはしたくなかったのだ。
「……愛、か……」
フィースの言葉に、ふと初めて己の酒を眷属に与えたことを思い出す。
あの時は誰も酒の亡者になっておらず、誰もがソーマとともに働いていた。作りたいものもなかなか作ることもできない不自由な環境ではあったものの、それでも充実した日常を送れる程度には幸せな日々だった。
ある日その中で一際一生懸命に働いていた眷属に褒美として自分が作った酒を与えたのだが、たったそれだけのことでそれまでのファミリアは一転して酒を求めるだけの餓鬼、あるいは欲望に従う亡者しかいなくなったのだ。
それを見たソーマは、己の手で幸せだった日常を壊したのだと思いたくなかった
その時は酒を造ることにしか興味がなかったからそうしていたのだと思っていた。けど、今思えば酒造りにだけ集中していたのは幸せだったあの頃に戻りたいがために、もはや掃溜めと化したあの光景から逃げるためだったのだろう。
自分は何のために酒を造っていた?自分はどうして酒を造りたかった?自分は、何が欲しくて酒を完成させようとしていたんだ?
「感謝する。見るべきものがやっとわかった、そんな気がする」
まるで憑き物が取れたかのような様子で去っていくソーマに困惑の表情を隠せずに見送るアリーゼ達とフィース、そしてアストレアとガネーシャだったが、納得できるものを見つけれたのだからよかったのだろうと気にすることをやめる。
「……何だったんだあいつ?」
「おい。誰が立っていいと言った?」
「あ、はい。すいません」
フィースの味方からの襲撃対応好感度別Ver
屑……殺す
無……虫を払うように壁や地面、天井にめり込ませる程度には容赦なく反撃する。
低……特に反応を見せることなく避けるし受けた上で反撃する。中寄りの低であれば煽りが追加される。
中……鉄塊や武装色硬化で受け止めるだけになる。気が済むまで受け続けた後でどこが悪かったかを伝える。
高……特に対策なく受ける。骨折等重傷を負わなければ抵抗することもない。
神……殺すか逡巡して死ぬギリギリまでボコる。
※なお、例外はあるし申し訳なさも加味すると対応に差は出る模様。