元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ルーニー
「こっちだったか……」
地上の迷宮とすら呼ばれるダイダロス通りの奥まった場所。無秩序に建てられた建物の中からちらほらと気配を感じつつもう迷子になりつつあるのを自覚しながらローブ野郎改めフェルズからの依頼を頭の中で確認していた。
「ダイダロス通りの確認。理由として怪しい人影が複数。けどファミリアを動かすには確証がない。だったか。斥候の動きをするの何年ぶりだ?」
曹長までは自分から斥候の動きをしてきていたが、少佐になってからは下の経験を積ませるということから俺が斥候をすることはほぼなくなった。そこからより上に上がって行けばどうなるかは自明の理だ。
とはいえ下に教えるために知識はちゃんと残っている。痕跡を探してはそれを辿る。その繰り返しをしていく中でだんだんと分かってくる情報に思わず鼻を鳴らした。
「……なるほどな」
「……さすがに穿ちすぎか」
アストレアさんのところやガネーシャさんのところを見たらそう思うのはさすがに偏見が過ぎるか。となればこれは最近作ったものだと考えるのが妥当か。今までできていなかったのに最近できたとなるとバカがとちったのか、もしくはわざと作られたのか。今までろくに見つけられていなかったのを考えたら後者と考えた方がいいか。
となると、これは果たして俺を狙ったものなのか、少数で来たところを狙ったものなのか。少人数を狙うにしては調査をするにしても失っていたい戦力を動かすわけもないから与えれる打撃はないと言ってもいい。わざわざ少人数を狙う理由が理解できない。となれば、狙いは俺と考えた方が自然なような気もするか。
となると、調査に入る数日前には痕跡ができていることを考えたらこうなることはこっち側の情報は知られていると言ってもいいか。ギルドの情報は漏れているかもしれないな。もし本当にそうならあの松ぼっくりは仕事をロクにこなしてない無能ということになるが、果たしてどうなることやら。
「……なるほど」
痕跡を辿って奥へ奥へと歩き続けると見聞色の覇気で複数の悪意を感知できた。襲撃を目的としたものだということが確定したか。
軽くため息を吐く。あの松ぼっくりマジで仕事できねぇのかと鼻で笑い悪意の巣窟へと足を運ぶと、広くはないが狭くもない開けた場所にたどり着いた。
「やけにわかりやすくしてあったとは思っていたが、なんだ血生臭い歓迎をしてくれるじゃねぇの」
十数人にも及ぶ闇派閥のクズどもが手に武器を持って気色の悪い笑みを浮かべていた。
「バカが。これだけの人数、しかもレベル4以上も複数人いる中でのこのこと来るとは、よほどむごく死にてぇようだな?」
地面が、そして金属がこすれる音が背後からも聞こえる。後ろを見る必要もなくそこには目の前の半分程度の人数がこっちに敵意を見せているのが分かる。殺意、悦、嘲り。俺が感じ取れる範囲からそういった感情が読み取れたが、
なるほど。確かにこれだけの人数がいれば面倒だろう。それなりに戦えそうな奴はごく少数だが、俺がまだ理解の浅い魔法を使われたら時間はかかるだろうし、こんだけ多ければ余計なことをしていれば何人か逃がす可能性もある。
「役者不足だ。おとなしく地面に這いつくばってろザコ共」
それが斥候としての働きを優先したならの話だが。こんだけ人数がいたらいくつもある拠点の1つだけを発見するよりこいつら全員豚箱にぶち込んだ方が総合的な被害は少なくなるだろう。どうせこいつらは捨て石だ、それぐらい想定してるだろうし罠を仕掛けられてても不思議じゃない。
それに、こいつら全員ぶちのめしてもまだ意識が残っているのならそいつを追いかけた方が重要な拠点に着く可能性が高い。いくら人数がいたとしても実力者を失うのは向こうも痛手だろうし、拠点で幹部クラスが待ち受けていたとしても今の最強があの猪野郎程度なら同格がいたとしても大した実力でもない。全員ぶちのめす程度どうってことはない。
「死ね!」
闇派閥の冒険者だけでなく魔剣からも放たれる多種多様な魔法。炎、氷、風、その他わからん色をした物、ありとあらゆる魔法が地面に放たれて土煙を上げ、後発の魔法が見えないように目隠しをしたうえで次々に襲来する。
土煙の中へ方々から次々と魔法が放たれ、建物の壁にも当たって壁を砕きながらより土煙が濃くなっていく。濃くなりすぎて人影すらも見えなくなったが、あれだけ魔法が放たれていたらどれだけ防ぐことが得意だとしても確実に当たっていただろうことは容易に想像できた。
「バカが!こんだけの人数で勝てるわけがねぇだろ!」
ゲラゲラと嘲る声が辺りから響いてくる。悲惨な状態になっただろう死体を見るためか次々と顔を出すバカ共だが、これだけ感情が剥き出しになればどこに誰がいるか容易に察知できる。
「”
ドンッ、と拳を振るうと同時に大太鼓を強烈に叩いたかのような音が鳴った。拳圧によって圧縮された空気が数十Mに至る直径まで至り、数秒も経たずにそれが地面へと向かっていく。拳圧に触れた建物は石程度になるまで砕かれ、バカ共が回避をする前に地面へと到達する。地響きが鳴りながら拳圧は地面にめり込んでいき、それが消えることには地面には深さが数Mはあろうクレーターが出来上がった。
悲鳴も上がる暇もなく、拳圧に押し潰されたバカ共は熟れたトマトのように潰れていた。その中で生き残れたのは5人にも満たなかったが、それでも手足は潰れてタコのように揺れ、息も絶え絶えの状態で何とか生きているという程度でしかなかった。
「やっぱ、捨て石か」
クレーターの縁に着地して改めて周りの気配を探る。クレーターの中には肉塊にしか見えないバカ共の残骸とかろうじて人型を保ててるバカ共。見聞色の覇気で感じた敵意と見える範囲での肉塊の数に差異はない。一般人の気配はなかったから間違いなく一般人の被害はないだろう。見える範囲で意識を保てているのは誰もいない。瓦礫の山の中からは生きている気配はなく、
「で?こいつらを俺の食費に充てるだけで終わらせてくれるのか?」
敵意は動く気配はない。それぞれが見えない場所で待機したまま動くことはなく、代わりに俺が視線を送った方向から苦笑いを浮かべたまま肩をすくめているモノクロ野郎がこっちに歩いてきているのが見えた。
「いや、驚いた。強いことは知っていたけど、まさかこんなわずかな時間で全滅するとは思ってもいなかったよ」
これがここまで血生臭いことじゃなかったら拍手を送っていたよ、とおどけた様子で笑う
「テメェ、あの時の神か」
「そうさ。同時に今回の騒動の主神さ」
そう言い放った
「なら、テメェをぶちのめせば闇派閥の騒ぎも収まるんだな?」
ゴギリ、と手を鳴らして強く握りしめる。神は殺すなと言われているが、手足を壊して逃げれないようにする分には問題はないだろう。
軸足は、右か。右足を砕くか、面倒だから殴り飛ばすかと足に力を入れた瞬間、モノクロ野郎は降参するかのように苦笑いを浮かべながら両手を上げて首を横に振り始めた。
「待ってくれ。こうやっておめおめと正体を現したんだ。せめてこちらの言い分を聞いてほしい」
「なんだ?最期に辞世の句でも詠いたくなったか?」
「いや、まだその時期ではないよ。このままだとこちらの計画が台無しになりかねないから交渉をしたいだけさ」
モノクロ野郎の言葉に顔をしかめる。こいつ俺がどういうやつなのか聞いていたはずなのに、それでも言い訳でもすれば見逃すとでも思っているのか?
「交渉?好き勝手やりやがるバカ共の頭に交渉してやるとでも思ってるのか?」
「普通はしないだろう。それはこちらも同じように思っているよ。彼ら彼女らは理想とする人としての在り方から大きく外れてしまった子だ。世間では死んで然るべきだと罵られていることぐらい理解しているさ」
「……わからねぇな。それが分かってるのに交渉がしたい?ケンカの末の争いならともかく、それに子どもを喜んで巻き込んでいるようなバカ共に話す頭が残ってると思っているのか?話がしたいなら他の
バキリ、と怒りのあまり手に入る力がより強くなって大きな音が鳴った。同時に武装色の覇気がわずかに漏れ出して黒い稲妻がパチパチと音を立てて弾けている中、モノクロ野郎は目をわずかに見開いたかと思うと何かを確信したかのような笑みを浮かべた。
「あいつらではとてもじゃないけど話にならない。僕は君と交渉したいんだ。
ピタリ、と驚きで覇気が止まったのが分かったのは数秒遅れた後だった。別段隠していたわけじゃねぇ。隠す気があったのならできていたかはともかく大人しくしていたぐらいだからどこから来たのか怪しまれるぐらいはあるだろう程度は想定していた。
だが、まさか確信を持って
「……いつから気づいていた?」
「おや?とぼけないのかい?」
「神に嘘は通用しないというのは聞いている。ここでとぼけたところでテメェにはわかるんだろ?」
「なるほど。そこまでは知っていたのか」
どうせなら君のうろたえるところをもっと見てみたかった、なんてほざくモノクロ野郎だが隠す気もないのかまるで子どもに教えるかのような口調で人差し指を立てて揺らしながら口を開き始めた。
「疑問自体は君を初めて知った時から抱いていた。バベルの塔の前でのあの騒ぎ、アストレアの子たちとガネーシャの子たちの猛攻を抱えていた子に被害が及ばないようにしながらも無傷で捌ききっていたあの時からね」
まぁ、そのあとでソーマ・ファミリアを滅ぼすようなことをするとは思ってもいなかったけどね、と肩をすくめながら苦笑いを浮かべる。それでも目は面白いものを見るかのように俺を見続けていて、俺はそれを黙って睨みつけることしかできなかった。
「あんなことができるのは少なくともレベルが相当高くなければできるはずもない。それなのに君のことは誰も知らなかった。あれほどの実力者ならこの街で知られていてもおかしくないのに、文字通りこの世界の誰もが知らなかった」
モノクロ野郎はまるで演劇でも演じているかのように顔を空へを向けてすくめた肩を開くように腕を広げる。
「あまりにもおかしいことだ。あれほど強いのであれば二つ名を持っていなければ、この街にいる誰もが知っているほどに有名でなければおかしい」
クルクル、と所々ふらつきながらも回りながらクレーターの中に入らないようにゆっくりと動き回る。
「なら街の外にいたのか?いや、それもあり得ない。誰も知らない場所で強くなったにしても、よほどの辺境でなければ商人や旅人の噂にならないなんてありえない。そのよほどの辺境でもこの街以上に経験値を稼げるなんてことは絶対にない。それがありえたのならそれはこの世の理から矛盾していると言ってもいいほどにね」
ととと、とふらついた体と止めて体勢を整える。どの動きも道化じみて滑稽さが出ているはずのその動きが、どうしてかどれもわかっててやっているような不気味さを感じさせる。
「だからこそ、ありえないことを考えることにした。神が強制帰還されることを覚悟してズルをして作られた存在なのか?それとも人の姿をしたモンスターなのか?はたまた誰かの実験で生み出された人工の強者なのか?」
クルリ、と敵であるはずの俺から背を向け、語る。顔はわずかに上を向き、表情は見えないが声色はわずかに上ずっている。
「バカなことだと思いながらも考えた。ここまで来たらむしろ自分で考えたおとぎ話かとすら笑いすらも込み上がったことが何度もあったよ。けど、現実はより奇妙で神である私ですら想像もしなかった方向に行くなんて、あの時の
道化の中の狂気。喜劇の中から滲み出る悲劇。言葉の中からそんな相反するような声が聞こえてくる。
「君がどういう存在なのか、いろいろと想像していた。そして、あの時会ってみて理解した。今まで考えていたことは全部間違っていたとね。次々と思い浮かんでいた推察はどれもこれもが否定しかできなかった。どれも滑稽ですらある推論だというのに、それを否定することしかできなかった。
スッと、自然な流れで顔が俺へと向き、そして目が合った。
「この世界の住人ではない。つまり、この世界の人間じゃない、別の世界の人間であるという可能性。私の中ではそれしか残らなかったんだよ」
カツカツカツ、とマリオネットや人形劇の人形の笑う仕草のような笑い声をあげる。
「正直、髪の毛ほど細い線だと思っていた。だが、君はそれを否定しなかった。否定できなかった。なんとまぁ滑稽な奇跡だ。この世界最強を倒せる最強が、あろうことか全く別の世界から来た人間だと?こんなの、全知全能の神ですら思いもしないことだ」
滑稽だと言いながらその表情は笑っていなかった。俺を見るモノクロ野郎からは憎悪が隠れ見えていたが、同時に悲しみのようなものも感じ取れた。
「今の最強に匹敵、あるいはそれ以上の力を持つ別世界の住人。まるで神々が笑いながら語る寓話の登場人物のようだ。こういうのがいたらいいな、いたら面白いな、そんな程度で語られるだけの御伽噺の登場人物。もしかすれば君のような存在であれば世界の危険ですらも退けられるのかもしれないと。この世界を救いに来た別世界の英雄なのかと。何をとち狂ったのか私はそう思ったよ」
ハッ、と唾棄するかのような笑いを吐き出し、不満げとも愉快げとも取れるように口角を上げた。同時にその表情が自嘲のようにも見えた。
「まったく。どうしてもっと早く来てくれなかったんだろうね」
ボソリ、と何かを呟いたように口が動く。何を言ったのかまで聞こえない大きさの声に眉を顰める。そして、唐突に俺を見るモノクロ野郎の目が理性が宿ったかのように強い力がこもったのが分かる。その目はとても力強く、そして、
「だからこそ、君にはこの戦争に干渉してほしくないんだ。この世界を救えるかもしれない、異なる世界からの英雄である君には」
……これは、ふざけているわけじゃない。真剣に何かを求め、真剣に何かを想っている。何を求めているのか、何を想っているのか。その何かはわからないが、今のこいつの話は聞く必要があると感じた。
「……理由を聞いても?」
「隻眼の黒竜を知っているかい?」
「世界を脅かす最後のモンスターってことしか知らんな」
「その認識でいいよ。史上最強の双璧と呼ばれていたゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリアが共闘して立ち向かい、そしてわずかな人数を残して全員殺された、世界最強と言っても過言ではない存在だ」
忌々しい、と言わんばかりに顔をゆがめるモノクロ野郎。同時にその表情の中に死への恐怖と言ったものではない、失うことを恐れるような怯えが感じ取れた。
「今は竜の渓谷から出られないようになっているが、それもいつ壊されてもおかしくはない状態になっている。人類は、いつ滅んでもおかしくない状況にあるんだ。それなのにこの街の人間たちは、神たちはそれを知らずに、知ろうともせずに過ごしている。黒竜の討伐が世界の悲願だと知っているはずなのに、それを今ではなく未来のことだと楽観視して好き勝手にしている。人間はおろか人を救うためにここに降りてきたはずの神ですらだ」
不愉快極まりない。そう言わんばかりに顔を歪ませて唾棄するかのように息を短く吐いた。
「このままでは世界は滅びてしまう。今の世界最強ですらゼウス・ファミリアとヘラ・ファミリア以下の実力しかないままでは、抵抗すらもままならないんだ」
モノクロ野郎が感じているのはこの街の危機感の無さ。史上最強と呼ばれていたはずのファミリアが壊滅したにもかかわらず、人を救うためと言っているくせに誰も真剣に黒竜を倒そうとしていない
「だからこそ、私たちが壁にならなければならない。黒竜を倒すための第一歩たる壁にならなければこの世界は終わるんだ」
そして、その怒りは自分が泥をかぶってでも人類を生き残らせると誓う決意にもなったのだろう。
「……難儀だな」
人類の未来のために自ら進んで悪になる。こんなにも人の未来を考えているんだ、こんなことをせずに人に好かれたかっただろう。他の
「俺が黒竜を倒しに行ったとしても続けるつもりか?」
「無論だ。仮に今君が黒竜を倒しに行ったとしても私はやめる気はない。確かに君の力は未知数だ。もしかしたら黒竜に届きうるのかもしれない。でも、それは黒竜を倒せるという確たる証拠にはならない。本当に残された時間がない以上、不確定なことに賭けるよりわずかであっても確実に進める方法を執るしかないんだ」
まぁ、もっともな考えだ。ここで俺が絶対に黒竜をブッ飛ばす、なんて言ったところで誰が信じるのだろうか。もしここにいる誰かが四皇を叩き潰すと言ったところで俺は鼻で笑う程度でしかない。それと同じだということぐらいは俺でも理解できる。
「……お前の言い分はわかった。少なくとも他の
嫌悪しているはずの
「けど、それで俺がお前をブッ飛ばすのをやめる理由にはならねぇな。痛い目にあいたくなかったら大人しく捕まれ」
「……まぁ、そうなるとは思ったよ」
グッと拳を強く握る。こいつを気に入ってきているのは自覚しているが、だからと言って子どもを巻き込むような抗争を引き起こそうとしている奴を見逃すわけがない。
俺の様子にモノクロ野郎がやれやれと言わんばかりに苦笑しながら顔を横に振り、同時に背後から強い殺気が襲い掛かってきた。
「”鉄塊”」
後ろに腕をかざして”鉄塊”を使う。防ぐと同時に攻撃してきた奴に一発ぶち込むために甘めに”鉄塊”をかけたのだが、ガォン、と鋼鉄の塊同士がぶつかったかのような轟音が響き腕に鈍い痛みを感じた。
「っ!こいつ、俺の剣を素手で……!?」
「”鉄塊”を抜いただと……!?」
目の周りが爪で裂かれた痕だらけの臙脂色の髪の男が驚愕の表情を浮かべる。同時に俺も腕に感じる鈍い痛みに、この街の最強程度であれば余裕で受けれる程度の硬度だというのにそれを抜かれたことに目を見開いて目の前の男を見る。
ギィン、と目の傷の男が剣を押し込むように力を込めて跳ねるように俺から離れてモノクロ野郎をかばうように着地して剣を構える。”鉄塊”を解いて剣を受け止めた腕に視線を送ると、浅いが間違いなく”鉄塊”を抜いて俺の腕に傷が入った
「こんなのを巻き込んでいたとはな。テメェもそいつの考えに賛成しているのか?」
「そうだ。今のオラリオは腑抜けている。俺たちがいなくなってから長い時間が経つというのに、俺たち以上の強さを持つ奴らはどこにもいない。こんなことでは黒竜と戦いにすらならずに人類は絶滅する。だから俺たちが立ちはだかる」
最強が抜けない硬度の”鉄塊”を抜いたのだからこの街最強以上の実力者なのは間違いない。それでも1億を超えるぐらいの実力
「そんな奴を仲間にしているとは、お前マジで……ッ!?」
「『
目の前の男とは違う、残っていたもう1人の敵意が殺意に変わったのを感じた瞬間にその場から離れる。しかし足に力を込めると同時に鐘の音のような音が目の前から鳴り響き、振動が全身に強い衝撃となって襲い掛かり身体は空へと飛ばされてそのまま俺の作ったクレーターへと投げ出された。
「ザルドの攻撃を素手で止めただけじゃなく、アルフィアの魔法を避けた……!?」
「いや、当たってはいる。当たってはいるが、直撃は避けたようだな」
「俺の剣を素手で受け止めるだけでなくアルフィアの魔法を察知して避けれるとはな。これは、ここで戦うわけにはいかないぞエレボス」
クレーターの外から焦りを含んだ男女の声が聞こえるが、それに意識を飛ばす余裕がなかった。バカ共の血で濡れながらも俺の頭の中はさっき喰らった衝撃に囚われていた。
「……この感覚、衝撃、いや、振動?まさか、グラグラの実か!?」
全身を震わせる衝撃。脳裏に浮かぶのは白ひげの放った地震の振動だった。けれど白ひげの放った地震の振動よりもはるかに弱いそれはやろうと思えば防げる程度でしかなかった。クレーターが崩れている様子もないこともあってグラグラの実の能力ではないことはわかったが、まさか振動を操る奴がいたとは思わず、同時にこの攻撃の厄介さに思わず顔をしかめる。
おそらく魔法だろうこれは見聞色の覇気の意識を多く割く必要があるほどに発射から着弾までがあまりにも早すぎた。パシフィスタの光線よりははるかに遅いが、範囲が広い。油断していれば当たるぐらいの速度は間違いなくあった。
けれど、飛んでくる攻撃じゃなく発生させる攻撃なのが厄介だ。戦っている最中なら避けれるが奇襲で使われたら反応が遅れて直撃はしなくてもダメージは受けるぐらいには厄介だ。
「待て!」
ダン、と足元にあった血の水たまりが大きくはじけて地面を叩く音が響いてクレーターを跳び上がる。クレーターから出てモノクロ野郎たちがいた方に視線を送るとすでに逃げていたのか姿が見えない。
「逃がすか!」
だがそれは俺の見聞色の覇気から逃げられたわけではない。かなりの速度で移動してすぐに追いかけないと感知の範囲外に逃げられるぐらいの速度で逃げていく連中を”剃”と”月歩”を併用して追いかける。
ダン、ダン、と”剃”と”月歩”の強い足音が響く。気配はすぐに近づいていき、そして目視できるほどに近づけたことを確認すると連中は俺の方に顔を向け、そして驚愕の表情を浮かべて俺を見るや否や灰色の髪の女が杖をこちらへ向けて口を開いた。
「『
再び鐘の音が聞こえる。さっきは油断して受けてしまったが、何度も受けるほどのものではない。”月歩”で殺気を感じると同時にその場から離れ、すぐ後に衝撃が響く。連中は俺が完全に避けたことに驚愕の表情を浮かべたが、灰色の女はすぐに魔法を連発して衝撃をいくつも発生させるがそれを俺は”剃”と”月歩”を多用して不規則な動きで避けていく。
「『
何度目か数えるのも億劫になるほどに放たれた衝撃が俺の前方に響いた。それを”月歩”で後ろへと跳ねるように回避する。ビリビリと震える振動が肌を震わせたが攻撃と感じるほどのものではない。すぐに”月歩”で前へと進もうと足に力を入れた瞬間、さっきまで衝撃が打ち込まれた場所から一気に強い振動が発生した。
「『
見聞色の覇気で感じたのはいくつもの殺意。1つは強く、そして残りがあまりにも弱く散らばるように感じたそれを俺は甘く見ていた。さっき衝撃が発生した場所から再び破裂するかのような衝撃がいくつも襲い掛かり、強い殺意に気を取られていた俺はそれを避けきることができずに顔を含めた全身に受ける。
「いってぇ……!」
覇気のおかげで死ぬことはなかったが、それでも動けるとはいえ全身に痛みが響き、器官が剥き出しになってる箇所が多い顔面に至っては器官が剥き出しなせいで痛みが強くて顔に手を遣る。油断していた結果で不甲斐ないとはいえ、少しの間顔に手を覆わせて身動きができないぐらいには効いた。
少しして痛みが引いて手を外して見聞色の覇気で辺りを確認するが、連中の気配はなくなっていた。
「……逃げられたか」
痛みが引いて鼻から流れていた血を片方ずつ鼻を押さえて噴出させる。全身が痛むが動けないほどでも、ましてや戦闘もできないほどでもない。
改めて見聞色の覇気で辺りを確認するが敵意は感じない。控えている敵はいない。これでひと段落となったのだろうが、痛みが残る顔に再び手を遣って強く舌打ちを打つ。
「……これじゃガープさんに顔向けできねぇな」
はぁ、と自分の不甲斐なさに情けなくなり深くため息を吐く。そして再び強く舌打ちを打ってクレーターのある場所まで戻って気絶しているバカ共を服をロープにして縛る。取れない程度に頑丈に縛ったのを確認してロープの橋を掴んで屋根の上へと跳んでギルドに向かって”月歩”も併用して進み始める。
そいつらが建物にぶつかるのを気にせずウラノスへの報告のために裏の出入り口まで屋根から屋根へと跳んで移動しつつ、その最中にこの後のことについて、
エレボスこんな感じか?と言われたら違うかもなぁ……とは思う。正直に言って。
けれども必要だったりすれば道化になることに躊躇はしないと思うし、こういうことはしそうだとも思う。