元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ルーニー
ガープさんが俺を置いて帰り、仕方なくと言わんばかりに表情をゆがめながら俺を家の中に入れてくれたダダン。まぁ、いくら弱みを握られた犯罪者とはいえ、あんな風に脅されて無理やり子供を預けさせられたらそりゃ困惑もするだろうし怒りもするだろうなぁ。
『いいか!お前には嫌だと言ってもやってもらうことは腐るほどあるからな!飯も1日1回水1杯と茶碗1杯分だけしかやらんからな!』
こちらを脅すかのように悪い笑みを浮かべながらここでの生活を説明するダダン。簡潔には言ってくれたが結局のところここでの食事は少なく、手伝いもやってもらう、ということがメインだった。正直食事の量が少ないのは困るのだが、出してくれないよりかはずっとマシだ。ダダンの説明に少し考える素振りをしたものの、特に文句を出すことなく頷く。
『……なんだい。やけに物分かりがいいな』
あまりにもあっさりと頷いたことに逆に不気味に感じたのか、若干引き気味なダダン。文句を言われるとわかっている内容を自分で言っているのに、肯定をしたらしたでどうしてそこで引いてくるのか。
まぁ正直もうちょっと何とかならないのかなぁ、と思わなくはない。1日ご飯1杯だけはさすがに餓死する可能性があるから勘弁してほしいというのが正直な感想だ。けど、ダダンは山賊というアウトローではあるが何人もいる子分の衣食住を確保しなくてはならない。その上で子供を突然無理やり押し付けられた状況なのだ。限られた予算の中で育ち盛りの子供を養うのだって楽ではないのだ。それに、ここになら小動物はいくらかいるのはわかっている。最初は難しいかもしれないが、それらを狩っていけば腹も膨れていくことだろう。
『……ガープから拾われ子だってのは聞いていたけど、なるほど。お前はあのジジイと似ているよ』
さすがにそれは失礼ではないだろうか。あの自由人と同じような人間だと思われるのは俺からしても不満がある。現に初めて会った時にはちゃんと挨拶もしているし、あそこまで破天荒なことをしていない。ガープさんに拾われた子であるのは事実だけど、あそこまで自由奔放なことはしていない。
『……お前もお前で十分失礼だよ、それ』
呆れたような物言いのダダンに文句を言うが、しかしそれも聞き入れられることはなかった。
雲もほとんどない快晴の空。ワイワイ、とまでは言わないがそれなりに声をかけ合いながら畑を耕している村民に交じり、じいさんから借りてきた鍬を振り下ろす。目につく石をあらかじめ除けておいたからか鍬はスムーズに土に入り込み、鍛えておいたおかげか土を掘り起こすのにそう大きな苦労はなかった。
「……やりづらい」
ふぅ、とため息を吐いて鍬を地面につっかけて体重を乗せる。この程度で疲労するような鍛え方はしてないが、洞窟に閉じ込められた日を境に感じている視線に若干うんざりに近い感情を持っていた。
チラリと視線を感じる先へと目を動かす。そこには隠れているつもりなのか、それとも邪魔にならないようにしているのかはわからないが、弟分であるベルが俺を見ている。別に行動を阻害しているとか邪魔をしているとか、そういうわけではない。が、正直あそこまで見られているとすごくやりずらい。いったい何を期待しているのかさっぱりわからないからだ。
こっちに話しかけてくるわけでもなく、何かをしようとしているわけでもなくジッとこっちを見てくるベル。不思議を通り越して不気味さすら感じる。見聞色の覇気で感情を確認したのだが、分かるのは尊敬の念だ。こちらを害そうとは一切思っておらず、本当に陰からただ見ているだけなのだが、その視線が気になって仕方ない。
「……なんだかなぁ」
はぁ、と深くため息を吐いて再び鍬を持ち上げる。尊敬の念、ということはあの洞窟での出来事で救われたことが原因なのだろう。遊んでいるときにあぁいった事故に見舞われたのは不幸としか言いようがない。密閉されていた空間だったのかはわからないが、あのままずっと誰にも悟られることなく洞窟の中に居続けていれば誰かしら、もしかすれば全員死んでいたかもしれない。運よく見聞色の覇気で洞窟の中にそういう気配があったから助けられたものの、他の人であれば見つけることすらままならなかった可能性がある。そういう意味では俺は命の恩人であるし、頼れる人ということになる。
命の恩人。そう、俺はベルの命の恩人になるんだ。かつて俺がガープさんに命を救われたのと同じように、その時の恩と感謝が尊敬になっている可能性が非常に高い。そういう意味ではベルにそう言った目で見られるのはわからないわけではないんだが、いかんせん毎日のように隠れて見られているのは俺の精神衛生上あまりよろしくない。俺もあんな風に毎日ガープさんの後ろ姿を眺めていたわけではないんだから。
「……真意でも聞いておいた方がいいかなぁこれは」
別にこのままでいても問題は、まぁずっと見られているというストレスは少なくともあるんだが、ない。ただ、このままだとトイレにまで来るんじゃないかという恐怖すら感じるからそろそろ問いただした方がいいのかもしれない。
ちょうどいい具合に畑仕事もひと段落終え、ある程度順調に進んだ開拓もひと段落ということでここも解散になったところで『剃』でベルの後ろに移動する。正直素直にベルのところまで歩いて行ってもよかったんだけど、俺が向かって行っているときに逃げられでもしたら面倒だからこうした方法をとっている。
「ベル」
「うわぁ!?」
『剃』で移動した俺を探していたのか辺りをキョロキョロと見回していたベルに声をかける。急に後ろから声をかけたからかビクリと体を震わせてその場から転げ落ちるかのように転んだ。
「ふぃ、フィース兄さん?さっきまで畑を耕していたよね?」
畑と俺を見比べるように見るベル。今日の分の開拓は終わったということは聞こえていたはずだけど、それを聞いてから俺が移動するまでが早すぎたせいか混乱しているようだった。
「俺のこと観察するみたいにジッと見てきて気になってたんだよ。何か聞きたいことがあるなら直接聞きに来ればいいだろ?」
けど、あえて移動のことについては触れないでおく。『剃』を説明したところで理解できるとは思わないし、ベルがどうして俺をずっと見続けていたのかが気になる。まぁ、予想できないわけではないけど、こういうことは本人の口から聞いた方がいい。
「……フィース兄さん」
急に自分の心内を吐け、と言われて恥ずかしいと感じているのか、少しの間マゴマゴとしていたベルだったが、心中の意思が決まったのか姿勢を正した。
「僕を、僕を鍛えて下さい!あの岩を壊せるような強さが、僕は欲しいんです!」
そういって深々と頭を下げてくるベル。血は繋がっていないとはいえ、兄弟の間柄であるのに丁寧な言葉を使っているのは、俺を師としたいという気持ちの顕れなんだろう。
正直、想定していなかったわけではない。ベルの憧れの気持ちはあの洞窟での救出があるのだろうし、かつての自分もガープさんに救われたときそうだった。それに、年ごろの男の子が大きな岩を壊すことに憧れを抱くのはわからない話じゃない。ガープさんの戯れで拳で山を1つ崩したときに感じた、呆れとそれを上回る憧れは今でも忘れられない。
「……ベル。悪いがこの体術は、『六式』はお前が思っているほど容易に習得できる技じゃない」
しかし、それをわかっていても、いや、『六式』を理解しているからこそ、俺はベルを拒否する。『六式』の習得に時間をかけるなら他のことに集中した方がいい。そう判断できるまでに『六式』の習得は難しいものなのだ。
マンガを読んでいるときに思っていた疑問だったのが、どうして他の海兵はこの『六式』を覚えることなく戦場に立っているのだろう、ということだった。海軍でも立派な戦闘手段である『六式』は、相手が自然系の能力者であることを除けば1対1ではかなり有利になる力だ。『六式』を必須科目にすれば少なくとも戦力の底上げになるだろう、と思っていた。
しかし、下っ端時代から習得しようと頑張ったこの『六式』、実際はONE PIECE世界でも習得難易度が非常に高かった代物なのだ。人海戦術を得意とする海軍ですら『六式』を習得しているのは一握りであり、『剃』、『月歩』、『嵐脚』、『指銃』、『鉄塊』、『紙絵』のどれか1つだけでも習得できればエリートとして扱われるレベルなのだ。体術をメインとして戦っているルフィも見様見真似とはいえギア2でようやく『剃』を使えた、と思えばその難易度がわかるだろうか。つまり、『六式』は才能がある人が血反吐を吐くほど鍛錬してようやく修めることができる体術の極地の1つなのだ。
「あの岩を壊した技は『六式』の極地の技だ。習得できるまで何年かかるかわからないし、そもそも『六式』の1つですら習得できるかどうかってものだ。だから、諦めて普通に体を鍛えたほうがいい」
正直、あの技を使わなくてもあの岩程度なら壊すことはできた。時間はかかっただろうけど『指銃』である程度の穴を開ければ簡単に壊せただろうし、中の子供たちの危険性を考えなかったら『嵐脚』か『獣厳』で壊してもよかった。けど、さすがに中の子供たちに大ケガをさせないようにするには振動を流す技である『六王銃』を使った方がまだ安全だったから仕方ない。あの岩を動かすこともできなくはなかったが、下手に動かして落石状態で村に落ちていけば目も当てられない状況になっていたかもしれないことを考えれば砕いた方がよかったと今は思っている。
けど、憧れさせる結果になったことを考えたら『六王銃』を使ったのは失敗だったかもしれない。俺は海軍に所属していた経験があったがゆえにここではたった4年で『六王銃』を使うことができるようになった。しかし、才能の差もあるとはいえ普通の人は最低でも4年間血反吐を吐く鍛錬の末に『六式』の1つを使いこなせるかどうかなのだ。あまりお勧めできる体術ではない。
「でも!それでも、僕は、フィース兄さんに鍛えてもらいたいんです!」
「……辞めたいって思うような修行だぞ。血反吐を吐くような鍛錬が必要だぞ。その果てに、なにも身につかないかもしれないんだぞ」
「覚悟してます!あれだけの力を手に入れるのが簡単な道だとは思ってません!」
俺の脅しに近い説得も全く意に介さず、認めてもらいたい一心でひたすらに言葉を選ぶベル。見聞色の覇気を使うことをしなくても、強くなりたいという気持ちは確かにあることはわかる。
「僕は兄さんみたいな英雄になるんだ!だから!僕を鍛えてください!」
深々と、もう一度俺に頭を下げるベル。俺に鍛えてもらいたい。言葉だけでなく態度で、同時に気迫でそう言っていることは見聞色の覇気を使わずとも感じられた。
ガープさんから見た俺も、こんな感じだったのだろうか。サボを失ったあの時、サボのような人を作らないと誓って、ガープさんに頼み込んで海軍に入隊したあの時。あの時のガープさんはとても嬉しそうに笑っていたけど、半分サボを殺した相手への復讐心もあった俺には、純粋に強くなりたいと思っているベルはどうしてかまぶしく感じる。
「……わかった。俺のできる限りのことはしてやる」
「っ!ありがとうございます!」
かつての自分と被せてしまった。そう自覚してしまったがゆえに出てしまった言葉は、ベルを喜ばせるのに十分な言葉だった。
「……そんな堅苦しい言葉を使わなくてもいい。兄弟だろ、俺たち」
兄弟。俺にとっては重いものだ。兄弟だったサボを救うこともできず、エースたちは救えど大ケガを負わせた。一番年上だったというのに、俺は兄弟たちを救うことはできなかった。
百姓として死ぬかもしれないベルに、冒険者としての道を俺の手で拓いている。兄弟を救うことができなかった俺自らがベルを死地に送っているかのように思えているのは、果たして現実なのか幻なのか。
「っ!うん!よろしくねフィース兄さん!」
兄弟としてのベルをどうしていくべきかわかっていない今、ベルの嬉しそうな笑みが俺には少し重かった。
原作ONE PIECEでの『六式』の扱いって実際にどうなのかはわからないですけど、一般兵が習得できるようなものじゃないですよねっていうお話。コビーって時間経過はわからないですけど少なくとも1年もたたずに『剃』を使えるようになってて、しかも2年で軍曹から大佐になってるんだからすさまじい才能の持ち主ですよね。下手したら主人公よりも才能あるんじゃないだろうか。