元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:ルーニー

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『ほら、これとこれを洗っといてくれ』

 ダダンの家に到着して早々に洗い物を催促されて洗い物をする。ダダンの一味の数が多いのか、それとも食卓に上がる料理の数が多いのかはわからないが、かなりの数の食器を洗うことになった。不幸中の幸いというか、石鹸の類はあったので洗うのに苦労はなかったが、いかんせん量が多く洗い物を終えるのに少し時間がかかった。

 洗い物も終え、ダダンの手下から何かするようにも言われておらず、手持ち無沙汰だったからダダンになにかやることはないかを確認するが、

『あん?そんなもん自分で探せ!』

 の一言で終わってしまった。これは自由な時間だなと判断して堂々と外に出ることにした。
 ダダンの家の外は森だ。フーシャ村へと続く道を除いて、それでも獣道だが、道らしき道はほとんどない。意識的にやっているのかダダンたちが踏みしめているような跡はほとんどないのは、山賊としてアジトがバレないようにしているためなのか。

 とりあえず、何とかして食べられる動物を狩ろう。最初は無理かもしれないけど、数をこなしていけば何とかなるかもしれない。動物を探して捕らえる準備をしようとして、背後から幼い声がかかった。

『あれ。誰だお前?』

 後ろを振り向いて声のした方を見ると、そこにはどこから拾ってきたのか鉄パイプのようなものを持った、そばかすが印象的な5歳ぐらいの幼子がいた。
 これが、俺とエースとの最初の出会いだった。





8話

「すごい!こんな場所があったなんて知らなかった!」

 

 俺が『六式』を取り戻すための鍛錬に使っていた山の中。誰も知らない、というわけでもないだろうが誰にも言っていない鍛錬場にベルを連れてきたが、ベルは俺の作った鍛錬場に目を輝かせていた。

 

「さて。俺と同じ力を使いたいということだが、俺の使っているこの技、『六式』は特殊な体術だ。この技は体を極限まで鍛え上げてようやく使えるようになるものだ。だから、最初の何年かは基礎筋力や体力を徹底的に鍛えていくところから始めるから、そのつもりでいるように」

 

 何か月、ではなく何年。その規模の大きさに想像もつかないベルは少しだけ首をひねった。海軍でも多くの人がこの基礎鍛錬の長さとキツさで脱落していったか数えるのも億劫なほどだった。だからこそコビーの1年も経たずに『剃』を習得できたのは異常とも言える速さなのだ。あれは稀なる才能と執念で鍛錬したんだろうとしか思えない速さだ。

 

「あの、フィース兄さんがあの岩を壊すのに使った技は?」

 

「あれは『六式』すべてを極めて初めて使うことのできる技だ。今はもちろん、たとえ『六式』を使えるようになったとしても使えるかはわからないぞ」

 

 『六王銃』は『指銃』の打ち込む速度、『嵐脚』の足さばき、『鉄塊』の硬度、『紙絵』の柔軟さ、『剃』の踏み込む速度、『月歩』の踏み込む強さを絶妙なバランスで一瞬の間に打ち込む、力だけでは絶対に放つことができない技だ。『六式』を修めたからと言って容易に習得できる技ではない。

 

「やっぱり、僕の目指す道は厳しいんだね。『()式』っていうからには6つ技があるってことなんだよね?」

 

「そうだ。高速移動術の『剃』、空中歩行術の『月歩』、鉄壁の防御術の『鉄塊』、柔軟な回避術の『紙絵』、飛ぶ斬撃を放つ『嵐脚』、弾丸のごとく貫く『指銃』。この6つが『六式』の基本だ」

 

「基本?」

 

「この『六式』は基本であるがゆえに派生させやすい。習得すれば自分の使いやすい技を開発できることが『六式』の強みとも言える。これは『六式』を見せた方が早いか」

 

 ベルにそこから動かないように指示して自分は少し離れた場所まで移動する。足の調子を整えるようにその場で軽く跳ね、一定のコンディションになったことを感じたら跳ねるのをやめる。

 

「まず、これが『剃』だ」

 

 一歩で少なくとも十歩踏む。矛盾しているような言い方だが、これが『剃』を使うための基本的な歩法だ。本当ならば複雑なエネルギーの計算式があるのだが、単純に一歩を十倍以上の速度で移動している、と考えてもいい『剃』は、コツさえつかめば消えたように移動することもできる。

 

「す、すごい。本当に一瞬で移動してる……。もしかして、畑で見失ったのって……」

 

 目を離していないのに、一瞬にして自分の後ろにいたことに驚いたような声を上げるベル。見せるのはこれで2度目だったからかそこまで大きな驚きはない様子だった。

 

「これが『月歩』」

 

 特に大きな反応もなかったから続いてわずかに膝をかがめて上空へと跳躍する。高すぎるとあまりわからないためそこそこの高さで『月歩』を繰り出し、ベルが理解できるまで空中で跳ね続ける。

 

「そ、空を跳んでる!?」

 

「これは『剃』以上に習得が困難だ。なんせ空気を踏みつけることが最低条件だからな」

 

 『剃』は、言い方はおかしいが一歩を十歩にすればいいだけだから『六式』の中でも一番習得しやすい部類に入る。逆に『月歩』は空気を踏むということをしなければならず、『六式』の中でも難易度が高い部類だ。海軍にいたころは海に入らずに済むということで重宝した技だが、この世界ではあまり意味のない技になるかもしれない。

 

「次は『鉄塊』なんだが……これが一番わかりやすいか」

 

 『鉄塊』は筋肉を極限まで硬直させて鋼のごとく体を硬くする技だ。触ったところで硬いとしかわからないから、近くにあった棒をベルへと渡す。

 

「ベル。その棒で俺を思いっきり殴ってみろ」

 

「え、えぇ!?そんな、危ないよ!?」

 

 いくら死ぬことがないとはいえ、それなりに太く長い棒を握らされたベルは首を横に振る。自分が危ない、というわけではなく俺が危ないからやりたくない、と思っているのは人ができている証拠だ。けど、今はそれは邪魔になる。

 

「大丈夫だ。大ケガをするようなことにはならない。俺を信じて殴ってみろって」

 

 これも『六式』のためだと説得を重ね、ようやく頷いたベルに少しため息が漏れた。いい子に育っているのはいいんだけど、ここまで他人を傷つけることを忌憚しているのは生来のものなのか。

 

「い、行くよ!」

 

 ベルが手に持った棒を剣のように、というにはいささか構えがなってないが、構えて思いっきり打ち込む。子供の筋力程度だからそこまでの力はないが、それでも鋼鉄並に体を硬化させた俺の体に打ち込まれるとカツンッという堅い物同士がぶつかったような音が響いてベルが棒を落とした。

 

「い、痛いぃ!?」

 

 硬いものを殴った時特有の痺れと痛さを感じているのか、棒を持っていた両手を握ってその場にしゃがみ込むベル。しばらくしゃがみこんでなんとか痛みが引いてきたのか両手を握ったり開いたりを繰り返している。

 

「い、石を殴ったのかと思ったよ……」

 

「これが『鉄塊』だ。体を極限まで堅くして鋼鉄のごとく体を堅くする、いわゆる剛の受けだ。極めれば刃物なんかも体を通さなくなる」

 

 これでも少将だったころは『鉄塊・剛』でなくても剣も受け止めることはできていた。が、やはり『鉄塊』の弱点ともいえる動くことができないのは鋼鉄並の硬度があったとはいえ戦場においてかなり致命的だったからあまり好んでは使わなかった。カウンター技の『鉄塊・空木』は有効だったからよく使っていたが、それでも敵が強ければ強いほど『鉄塊』を貫通してダメージを与えてくるから使う頻度は高くなかった。

 

「次は『紙絵』だな。ベル、今度はめちゃくちゃでもいいから好き勝手に攻撃してこい」

 

 今度は痛くはないから、と付け加えて棒を握らせる。『鉄塊』での防御で身に染みたのか今度は躊躇することなく棒を握り、構えた。

 

「い、行くよ!」

 

 ベルに迷いはなかった。手に持った棒を振り上げ、めちゃくちゃに振り回してくるが、見聞色の覇気を使わずに肌や服から感じる空気の動きだけで体をしなやかに動かす。

 もともとが一緒に発動することこそが真義ではないかと思えるほどに見聞色の覇気と相性がいい『紙絵』だ。しかし、それをしてしまえば『紙絵』の本来の避け方である“攻撃から生じる空気の流れに逆らわずに避ける”ことを損なってしまうこともあるため、ベルのためにも見聞色の覇気は使わない。

 

「あ、あたら、ない!」

 

 基本も何もない、がむしゃらに振るうだけの()が掠りもせず、すべて紙一重で避けられる。当てられずにただ振るうだけで消耗していく体力は、すぐに疲労となって棒を振るう手を止めた。

 

「これが『紙絵』だ。攻撃にて生じる風圧を体で感じ、その風圧に身を任せて攻撃を回避する技だ。さっきの『鉄塊』とは真逆の、所謂柔の受け、ってところか」

 

 息も絶え絶えに地面に突き刺した棒に体重をかけるベル。全力で振るったのか苦しそうな表情をしていたが、顔はこちらに向けていて話は聞いているようだった。

 

「次は『嵐脚』だが……危ないから離れていろベル」

 

 ベルの息も整ったことを確認し、念のために木々から離れるように指示する。ベルが素直に離れていったのを確認し、左足を振るった。

 

「『嵐脚』!」

 

 手加減した『嵐脚』は木を切り倒した。自重に耐えられなかった木々は音を立てて倒れ、地面に面している枝の折れる音が閑静な山の中に響いた。

 

「す、すごい!あんな太い木を斬った!」

 

「これが『嵐脚』だ。素早く蹴ることで鎌風を起こして飛ばす、汎用性が高い技だ」

 

 切った木は加工して訓練に使えるようにすればいい。最悪薪にしてしまえば誰も文句はあるまいと倒れた木を一瞥してベルのほうを向く。ベルは『六王銃』以外にもこんなに威力の高い技があるとは思っていなかったのか目を輝かせていた。

 

「最後が『指銃』だが、しまったな。先にこっちをやっておくべきだったか」

 

 俺が使っているのは主に『指銃』の派生技だが、『嵐脚』に比べて見た目がとてつもなく地味だ。なんせやるのは指を突き刺すだけの、威力は保証できるが見た目が地味なこの技はやるなら始めか、『鉄塊』と『紙絵』をやった後でやった方がまだ見栄えはよかった気がしてきた。

 

「……まぁ、見た目は地味だが威力は結構ある。この木を見ていろよ」

 

「う、うん」

 

 遠くに離していたベルを呼び、今度は木に近づく。『指銃』はやっている規模が小さすぎて近くで確認していないと何をやっているのかわからないのがある意味で欠点だよな。

 

「『指銃』ッ!」

 

 ズキュンッと甲高い音とともに指が木に刺さった。そのままゆっくりと指を引き抜くと木には指の大きさの穴が空いていて、その周りには割れ目がなくとてもきれいな穴だった。

 

「これは見た目は地味だけど、無駄な破壊をしない有能な技だ。派生技で指撃を飛ばすこともできるが、まずはこれを習得するのが先だな」

 

 きれいな円形に穿たれた穴をマジマジと見るベル。この世界ではまだ見た事ないが、銃痕と言っても差し支えのないきれいな穴は人差し指の長さ分の深さがある。『指銃・撥』なら穴は小さくなるがさらに深く穿つことができるだろうが、今見せても仕方のないことだ。

 

「と、まぁこれが『六式』だ。これらは基本であり、同時に派生させられる強力な体術だ。これを習得するには、血反吐を吐くレベルの鍛錬をしてもらうが、覚悟はいいか?」

 

 思い起こすのはかつてガープさんに鍛えられた時の鍛錬。力尽きるまで走り、気絶するまで打ち込み、血反吐を吐くまでひたすらに鍛え続けた。今からベルはそれをしなくてはならない。

 

「うん!絶対に習得してみせる!だから、僕を鍛えてください!」

 

 それをわかっているのか、それとも想像できずに肯定しているのか。けれどベルの表情は決意に溢れているのは、見ているだけで分かった。

 

「……よく言った。それじゃ、今日からここで鍛錬をする。まずは体力作りからだ。動くことができなくなるまで走り続けろ」

 

「は、はい!」

 

 そこそこの斜角がある山道を指さす。動かなくなるまで、という言葉に一瞬身構えたベルだったが、すぐに元気よく返事をし、準備運動もそこそこに山道を走りだした。

 いないとは思うけど、害獣等がいないか念のために見聞色の覇気を展開しながら『嵐脚』の鍛錬に入る。『嵐脚』はまだ派生技を使えるようにはなっていないのだから、基礎体力を増やすだけの鍛錬をしているベルを見る必要はほぼないから並行して行ってもいいだろう。

 果たして、ベルがどれだけ耐えられるか。それが今後の見どころかもしれないな。

 




正直原作はいるまではするする書けるけど過去編がすごい難しい。
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