元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ルーニー
ダダンの家から少し離れた場所に少し拓けた場所があった。その中央に大きな岩が埋まっており、そこに俺とエースが隣りに座っていた。ダダンの家の前で偶然出会った俺とエースは、まだこの時は他人に対して警戒心も少なかったのかガープさんの紹介で今日からダダンの家に世話になることを伝えたら、お前もか、と若干同情したような目で見られながら自己紹介をした。
『お前も大変だなぁ。あのじじぃこっちのこと関係なく好き勝手振り回してくるだろ』
まだ小学校にも入ってないような幼子が疲れたような表情でため息を吐く。おっさんみたいなことを言うなぁと思わなくはないが、それほどまでにガープの自由気ままさが影響していると考えるとあのじいさんホントどうかしてるなと思えてくる。命の恩人を悪く言いたくはないが、あの自由さは確かに頭痛の種にはなるのだろう。
『けど、お前あのじじぃに救われたんだって?何したらそうなるんだ?』
エースの俺に関する疑問も、まぁわかる。さっきの自己紹介で血縁でもないことを伝えているのだから孫でもないのに世話になるようなことになったのはなぜかは気になってもおかしくはない。特に隠しておくつもりもないから気が付いたら親に何もない無人島に捨てられたと伝えたらエースが複雑そうな表情を浮かべた。
『……そうか。お前も苦労したんだな』
この時は自分の親について知らないのかはわからないが、親を知らずに生きていたエースは親に捨てられたということがどういう風に感じ取ったのかは俺にはわからない。けど、さっきよりも親密さが上がっているような気がするのは気のせいではないのだろう。
『……そうだ!お前に俺の友達を紹介してやる!』
どうしてそう思いついたのかはわからないが、俺には教えてもいいと思ったのかエースが岩から降りながらそう言った。エースの友達、と言ってパッと思い浮かばなかったが、未来の義兄弟の存在を思い出す。
あぁ。もうサボとは仲良くなっていたのか。そんな感慨深さも感じる時間もなく、エースは俺の手を取って山から下りるのだった。
俺が鍛錬をするのに使っている山の中腹にある空き地に俺とベルが相対していた。
「今から組手を行う。俺はある程度手加減はするけど、ベルは本気で俺を倒すつもりで攻撃してこい」
「はい!」
俺の言葉に気合を入れて返事をするベル。ベルも最低限、本当に最低限『四式』と認められるほどに技を習得することができたからベルの戦闘経験を積ませる意味も込めて組手を行っている。
昨日今日で始めたわけでもない組手だが、ベルの見せる動きは徐々に良くなってきてはいる。けど元とはいえ海軍少将だった俺からすればまだまだ未熟だと思う部分の方が多い。だから組手を行うことで目立っている粗を削っていく。
「合図はこの石があの岩に落ちた瞬間だ」
近くに落ちてある石を拾い、ベルに確認させるように見せる。どこにでもある握れる程度の大きさの石をベルが確認したのを見て、近くに埋まっているちょっとした岩の上に当たるように上空へ投げる。
ベルは石を見ず俺をジッと見続けている。しかし視界の端に石が映るような位置に移動していることに感心しながら石が落ちるのを待つ。そして、カツンッと石と岩がぶつかった音が響いた瞬間、ベルが動いた。
「『剃』!」
一瞬にしてベルの姿が見えなくなる。とはいっても、移動する瞬間が見えているからどっちへ行ったのかはわかるぐらいだし、着地した瞬間の足音も聞こえているからまだまだ甘いと言える。けど正直な感想、ベルがここまで『剃』を使いこなせるようになるとは思っていなかった。
「『紙絵』」
ヒラリとベルのパンチやキックを『紙絵』で避ける。ベルの放つパンチは厚さ15cm以上の分厚い板を簡単に割り、キックは岩にヒビを入れられるほどには鍛えられているが、海軍にいた時を考えればその程度はまだまだ未熟だと評価する。
何度か攻撃しても当たらないと判断したのか技を変えるのか最後のパンチを放った後で距離を空ける。10歩も詰めよればすぐに接近戦になるであろう中距離を保ったベルは右足を振りぬく。
「『嵐脚』!」
ベルの脚から鎌風が発生し、一直線に俺へと奔る。幹の太い木を切り傷をつけることのできるベルの『嵐脚』が来るが、慌てることなく左足を振った。
「『嵐脚』」
俺の脚から放たれた『嵐脚』とベルの『嵐脚』がぶつかり合い、ギィィンッと刃同士がぶつかったかのような金属音が辺りに響いた。俺の放った『嵐脚』がベルの『嵐脚』と拮抗し、しかしすぐにベルの『嵐脚』が霧散して俺の『嵐脚』がベルの下へと奔っていく。
「『紙絵』!」
鎌風によって生じる風圧を利用してベルは『嵐脚』をヒラリと避ける。しかし避け方が甘かったのかわき腹にかすめるように『嵐脚』が当たり、少しではあるが血がにじみ出ている。
「『嵐脚』!」
わき腹からの出血に顔を歪めながらも『嵐脚』を放つベル。しかし痛みで足さばきがうまくいかなかったせいかさっきの『嵐脚』よりも威力が低く粗末な鎌風が俺を襲う。
「『鉄塊』」
ギィンッと鉄を切りつけたかのような甲高い音が森の中に響いた。俺に当たったベルの『嵐脚』は服に多少の切り傷を与えただけで肉体には何一つ傷を与えることはできなかった。
「『剃』!」
『鉄塊』の発動で動けない状態であることを利用してベルは『嵐脚』を放ってすぐに『剃』で俺のすぐ後ろまで回り込んで接近する。
「やぁっ!」
空気を切る音が背後から聞こえる。ベルのパンチが背後から迫ってきているが、慌てることなく『鉄塊』を維持し続ける。
ガンッと鉄同士がぶつかるような音が響く。振り抜いたベルのパンチが俺の背中で止まり、ダメージを与えられなかったことを確認したベルは腕を引こうとする。それと同時に俺は『鉄塊』を解除してベルに対して後ろ回し蹴りを放つ。
「『紙絵』っ!」
攻撃をされることを読んでいたのかベルは慌てることなく回し蹴りから出た風圧に身を委ねヒラリとかわす。そのまま距離を離そうと『紙絵』によって宙を舞っている状態から『月歩』で離脱するが、それを逃さないようにベルの後ろに回るように『剃』で移動する。
「っ!『剃』!」
姿が見えなかったことで後ろに回られたことを悟ったのか、それとも勘なのかはわからないがベルは『剃』でその場から離れるように移動する。しかし、『月歩』のあとすぐに『剃』を使ったせいか『剃』の速度と精度が落ちているのが目に見えた。それを逃さないようにこちらも『剃』でベルの背後をとり続ける。
「っ!」
今のままでは『剃』でも逃れられないと悟ったのか腕を交差させて防御を試みるベル。まだ『鉄塊』を習得できていないが故の防御方法だが、俺が相手ではそれは悪手だ。
「フンッ!」
『指銃』の速度で放たれるパンチである『獣厳』でもないただのパンチだが、今ではただのパンチでも岩を砕くことができる。手加減はしているが岩を砕くパンチを動かないベルの交差させた腕へと殴り付ける。
「ぐぅっ!?」
パンチを食らったベルは苦悶の表情と苦しそうな声を漏らす。パンチに飛ばされるようにバランスを崩し、倒れると同時にベルの予想を上回る痛みだったせいか姿勢が大きく崩れた。
持ちこたえることができなかったベルは慌ててバランスを取り戻そうと体勢を整えるが、そのスキを逃すはずもなく、すぐにベルのそばに移動して指を喉元へと指し向ける。
「……参りました」
ピタリと喉元に指されている指を見て荒々しい息の合間に喉をならしたベルが息を吐き出すように降参の意を告げる。喉元に指し向けていた指を戻し、倒れているベルに手を差し出す。
「組手はここまでにしておくか。おつかれベル」
ベルは差し出した手を掴んで立ち上がり、鍛練場の端にある切り株まで一緒に移動する。ケガをした部分を確認するが傷は深くもなく水で傷口を洗って清潔な布を巻くだけで何とかなる。ケガの処置を終えてベルはあらかじめ置いてあった水を飲み、一息ついて切り株に座って再び深く息を吐いた。
「やっぱり、兄さんには全然敵わないや。派生技も出させることができなかったし、僕の『四式』も簡単に対応されるもん」
「たった4年しか鍛練してないヒヨッコに負けてたまるかってんだ」
4年。未熟とはいえベルが『四式』を習得できるまでにかかった時間だ。1年で『剃』を習得。残り3年で残りの『三式』を最低限とはいえ戦闘できる水準まで鍛え上げることができたのは、間違いなくベルの才能があってこそだ。
「それで、僕の『四式』はどうだった?」
「『月歩』の使い方は悪くはなかった。けど、『剃』と『紙絵』、『嵐脚』はまだまだ甘いな」
俺の『嵐脚』で打ち消したベルの『嵐脚』だが、木に切り傷をつけることができる程度には最低限の水準には到達している。しかし、手加減した『嵐脚』でも打ち消すことができる密度しかないから鎌風の密度を上げるのが課題だ。
『紙絵』も俺の『嵐脚』を避けるために使ったのはよかったが、あれは体の柔軟さが足りなかったせいで『嵐脚』が当たった。『嵐脚』を避けることがいっぱいいっぱいだったのか、それとも鎌風という刃物が向かってきていることの恐怖で体が固まってしまったのか。もし後者であるのならば恐怖に打ち勝つ鍛錬をする必要がある。
『剃』は一番初めに完成させることができた『六式』であることもあり、『六式』のなかでも完成度は高く普段使う分には問題はない。が、さっきの組手では『月歩』との併用がまだできないからかバランスを崩した状態で『剃』を使っていたせいで速度が落ちていた。『剃』と『月歩』の合わせ技である『剃刀』が使えないのは仕方ないにしても、どんな姿勢であっても『剃』を使えるようにならないと同じようなことに陥る可能性は高い。
「……まぁ、総評はまだまだ頑張りましょう、だな」
「そんなぁ……」
俺の評価を受けてベルはがっくりと肩を落とす。とは言っても、たった4年で実戦に使えるレベルまで『四式』を扱えるようになっているのは、驚嘆に値するものだ。鍛錬を始めた歳は違うが、ベルと同じぐらいの歳だと俺はまだ『六式』を使えなかったといえばそのすごさはわかるだろうか。
「お前に必要なのは心の鍛錬だ。戦いや痛みに対する恐怖や怯えが払拭できていないのは大きな問題だ」
「心の鍛錬、かぁ……」
そんなのどうすればいいかわからない、と言わんばかりの表情を浮かべるベル。まぁ、ベルの気持ちもわからないわけでもない。俺もガープさんとの鍛錬の中で恐怖心を克服するための鍛錬をどうすればいいか尋ねたら、いい方法がある!と海賊船の中に飛ばされたことがあるぐらいには俺もどうすればいいかはわかっていない。確かにあの方法を何度もとられたらある程度恐怖心はなくなったけど、さすがにあんなことをベルにはさせるわけにはいかない。
「大丈夫だ。この短期間で『四式』を習得できたお前にならできる。俺もできる限りは手伝うから、頑張ろうな」
なんにしても、まずは俺との組手の中で徐々に恐怖心に打ち克つようにしていくのが妥当だろう。心優しいベルには少し厳しいかもしれないが、『六式』を修めることができたのだから恐怖心に打ち克つことができるようにはなってもらいたい。
「兄さん……。うん!僕頑張るよ!」
俺の言葉に奮い立ったのかベルは目を輝かせて立ち上がった。この分ならやる気は大丈夫そうだな、とベルの現金な様子に苦笑いが漏れたが、純粋なベルのほうが好ましい。
今後の鍛錬をどうするかを頭の中で考えながらベルを連れて家に帰る。家についてベルがじいさんに鍛錬のことについて自慢げに話し、それを楽しそうに聞いている爺さん。特筆すべきこともない、平穏な日だったが、この日の夜にその平穏がなくなっていくことになる第一歩が近づいてきていたとは、この時の俺には想像もできていなかった。
土曜日に更新できそうにないので仕事中に更新。周りの目が怖いぜ……!
ベル君が原作より大幅に強化。正直ベル君は『六式』の才能がなくてただ体が鍛えられた、というだけでもいいかなぁっと思っていたんですが、やっぱワンピースとクロスしてるんだし多少(?)は強化されてもいいよね?という思惑の元ベル君強化が決定されました。しかしONE PIECE時空ではそこまで強くはない模様。具体的に言えば
『嵐脚』:剣で切りつける程度
『指銃』:未習得
『鉄塊』:未習得
『紙絵』:ある程度の風圧は必要
『剃』:5mの移動が限度
『月歩』:空中で30cm上がるが限度
です。動物や人間と戦うには十分強いですけど中層以下のモンスターと戦うには少し物足りないかな?ぐらいに成長しました。純粋に筋力が足りてないんですよね。
ちなみに現時点での主人公の『六式』は以下の通り。
『嵐脚』:斬鉄可能
『指銃』:鉄器を貫通できる
『鉄塊』:鋼鉄並
『紙絵』:剣の風圧にも対応
『剃』:20mの移動が可能
『月歩』:空中で5mの跳躍が可能
ONE PIECEなら少将以上になればこれぐらいが普通な気がする。
ベルの強化案に関しては、正直もっと弱いほうがいいという感想もあると思いますが、正直ONE PIECE世界で考えたら弱いぐらいじゃないかなぁとか思ったり。『嵐脚』も射程が長い剣って考えたら確かに強いけどまだ火力が全然ないですし。