元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:ルーニー

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 エースに連れられてきたのは、大きな城壁の周りに広がる、ゴミの海と言っても差し支えのない廃棄場だった。

『ここだ!ここで出会う手はずをしてきてるんだ』

 こなれた様子でゴミの山をスタスタと歩く。様々なものが小山に分かれているせいで歩きにくいが、何とかエースについていく。

『もう少しで集合している場所に着く。しっかりついて来いよ』

 見分けがつきにくいほどにゴミが詰まっているせいではぐれたら迷子になる。そう思った俺は必死になってエースを追いかけた。慣れない歩き方をしたせいで肩から息をするほどに疲れたが、しばらく歩いているとエースが喜色に満ちた表情で走っていった。

『サボ!』

 エースが走っていった先にいたのは短く刈り上げた頭に帽子をかぶり、少しブカついた服を着た子供がエースに嬉しそうにハイタッチをしていた。

『遅かったじゃないかエース!……あれ?お前、誰だ?』

 エースの後ろにいた俺がいたことに気付いた少年、サボは俺を見るなり不思議そうな表情を浮かべる。ここはゴミの山が影になって意識的にここに来ることがない限りまず出会うことはない場所だ。それに近い歳の俺がここにいることも疑問に思ったのだろう。

『こいつは俺と同じでダダンのところに世話になるんだ。名前はフィースだ』

 エースの紹介に、俺も自己紹介をする。エースが連れてきたということで警戒も解けたのか、俺に手を差し出してきた。

『そうか!俺はサボ!よろしくな、フィース!』

 同じぐらいの歳の友人ができると思ったのか、笑みを浮かべているサボ。その笑顔に俺も息を整えながら笑みを浮かべ、こっちに差し出してきている手を握った。
 これがこの先、5年間を共に過ごすことになった悪ガキ集団の4人のうちの3人が集まった瞬間だった。



10話

 

 日も沈み、ベルも寝静まった深夜の時間。いつも通りベルの成長記録を付けていると、ノックと共にじいさんの声がドア越しから聞こえた。

 

「フィース。少しいいか」

 

「じいさん?どうしたんだこんな時間に」

 

 頻繁にあることではないが、前もこんなことがあったなぁと思いながらドアを開けてじいさんを部屋に入れる。少しヨボヨボとした足取りで中に入ってきたじいさんは、すまんの、と一言言って部屋の中に入って椅子に座った。

 

「……実はな、言いたいことがあるんじゃよ。ベルは、寝ておるな」

 

「あぁ。とっくに寝ている。どうしたんだ?ベルに言えないことでも起きたのか?昔の女に見つかって追いかけられそうなのか?」

 

「……そうであったらよかったんじゃがな」

 

 クツクツと愉快気に、しかし同時に後悔を滲ませた笑みを浮かべるじいさん。

 

「……じいさん?」

 

 普段では見る事のない様子に眉を顰める。いつもなら、そんなわけがあるか!そんなことにならんように後腐れなんぞないわ!とむしろ自慢話のように話をしてくるのだが、今回はやけに静かだ。

 

「フィース。ベルの様子はどうじゃ?」

 

「ベル?ベルなら最低限様にはなってきているってところだ。まだ問題もたくさんあると言えばあるが、まぁそれも時間の問題だろう。でも、どうしたんだ急に?」

 

 明らかに様子がおかしい。ベルのことを聞くのはいつものことだが、こんな風に2人の時に聞くようなことにはならなかった。いつもなら夕飯の時に鍛錬中の様子や成果をベルの話を交えて話すだけなのに、どうして今ここで聞くのか。

 

「……今から言うことはベルには言わないでほしい」

 

 じいさんの口から出たベルには秘密の話。普段見ない表情もあってこの時点で嫌な予感がしたが、黙ってじいさんの言葉を聞く。

 

「近々、ワシは死ぬかもしれん」

 

 じいさんの言葉に頭の中が真っ白になった。次いで脳裏に浮かんだのは自分がサカズキによって胸を貫かれ、兄弟たちと死に別れる瞬間だった。

 

「……じいさん。冗談は脳みそだけにしてくれ」

 

「そう思われていたことに泣きそうなんじゃが」

 

「子供に対してハーレムだのなんだの言っている色ボケジジイにはちょうどいい評価だ」

 

 努めて呆れたような風でため息を吐く。あの世界で貫かれた胸がジンジンと疼くような気がする。それを無視してじいさんの様子を見るが、じいさんはいつものようにムキになって否定するのではなく、同じようにクツクツと笑みを浮かべているだけだった。

 

「……で、なんでそうなる。病気でもないんだろ」

 

 ここ最近じいさんが病気を患っている様子なんて見た事がない。もしかしたら隠しているだけなのかもしれないが、長期間ベルと俺の2人を欺き続けることはまずできないはずだ。

 

「……歳じゃよ、フィース」

 

 じいさんから言われたのは、特に何でもない、誰にでも起こる加齢による老衰だった。見た目はそこまで年寄りには見えないぐらいなのだが、そこは本人にしかわからないことなんだろう。

 

「もう体が思うように動かんくてな。外出もあまりできそうにないんじゃよ」

 

「……まだまだ元気じゃ、なんて言っていそうなじいさんが、珍しく弱気だな」

 

 いつもなら歳のことなんて関係なく動いてきていたじいさんだった。けど、いわれてみればここ最近じいさんが外に出る頻度が少なくなってきていたように思えてくる。もしかして、すでに加齢の影響が出ていたということなのだろうか。

 

「……ワシも長いことここにいるが、志半ばで逝った人を何人も知っている」

 

「……じいさん?」

 

「ワシも近々そうなる。今までいろんな人の死を見てきたワシの勘がそう言ってるんじゃよ」

 

 自分のことだというのに、じいさんの目はどこか達観している。言葉のとおり歳相応に人の死に際を見てきていたんだろう。俺も多くの海賊や海兵の殺し殺されを見てきたけど、寿命で死んでいった人を見た事はない。だから、じいさんの悟りはよくわからない。

 

「……それを俺に言ってどうするんだ?悪いけど、ここで俺にできることは何もないぞ」

 

 この世界には魔法があると聞いている。もしかすると魔法か魔法具か何かで寿命を長めることができるものがあるのかもしれないが、あいにくそんなものは知らないし持ってすらいない。俺にできることなんてほとんどないはずだ。こんなことを言って何をやってほしいんだ。

 

「……ベルを、頼みたい。ベルをオラリオに連れて行ってほしいんじゃ」

 

 チラリ、と隣の部屋で寝ているベルを幻視するように壁の方を見る。その表情は慈愛に満ちており、ベルを大切に思っているということがよく分かった。

 

「ベルはいい子じゃ。他人を思いやり、他人に優しくできるとてもいい子じゃ。そんな子が、祖父が死んだとなればどうなる?死ぬことに心残りはない、と言いたいが、わしはどうしてもベルが心配なんじゃ」

 

 ベルは優しい子だ。村の人たちにも優しい子だと広まっていて、小さな子もベルの優しさを頼りにしている子だっているほどだ。『六式』を習得するための鍛錬によって培ってきた身体能力も悪いことに使うのではなくみんなの役に立てるように働きかけているベルは、今では村の人気者でもある。

 同時に、まだ14歳という心が不安定な時期でもある。今はまだじいさんの教育もあって芯はあるのだが、じいさんの死がその芯をどう揺さぶるか、もしかすれば曲がって変形するかもしれない可能性がある以上、じいさんの心配もわかる。

 

「あそこには、オラリオにはいろんなものがある。ちょっとした小道具から最高の出会いまで、何でもある世界最高峰の都市じゃ。自惚れじゃなければワシはベルに好かれておる。わしが死んだあとにこの村に居続けても、きっとベルの悲しみはきっとしこりとなって癒えることはないだろう。だから、そこに連れて行ってベルの悲しみを少しでも和らげてほしいんじゃ」

 

「……そこは冒険者の街、でもあったな」

 

 冒険者の街オラリオ。俺も書物やじいさんの話でしか知らない都市だが、ダンジョンと呼ばれる地下に伸びる洞窟を探索し、そこで生まれるモンスターから採れる魔石で栄えている、という話だ。

 確かにその都市ならばいつかベルの悲しみも紛れていくことだろう。じいさんの話でダンジョンに潜って英雄になる夢を持てばじいさんの死も乗り越えてくれるかもしれない。

 

「そうじゃ。残念ながらそこにはワシの伝手はないにも等しい。ベル1人だけをそこにやるのは少々酷かもしれん。だから、フィースに手助けをしてほしいんじゃ」

 

 確かに、大きな都市にベルをたった1人だけ送るのも不安ではある。ベルは優しいが同時に他人に気を許しやすい子でもある。絆されやすいと言ってもいいかもしれない。大きな都市にはにぎやかな部分もあれば、同時に後ろめたい部分もあるのがほとんどだ。海軍だった時代も栄えている島や国に遠征することがあったが、どこの国でも闇に等しい部分はあった。オラリオもそういう部分は間違いなくあるだろう。そんな後ろめたい部分にベルが触れてしまえば危ないことになるのは目に見えている。じいさんもそういう心配をしているのだろう。

 

「……正直、ベルをオラリオに遣るのは反対だ。『六式』を完全に修めたわけでもないし、なによりあの子は戦闘向きの性格じゃない。この村で一生を終えるほうが幸せになれるかもしれないんだ」

 

 『六式』は自衛、というには攻撃的すぎる部分もあるが、手段として優秀だ。今のベルならそこらの害獣や暴漢にも負けることはない程度には鍛えてある。しかし、それもあくまで一般的なレベルでの話だ。オラリオのモンスターがどれほどの強さなのかはわからないが、今のベルの『四式』がそのモンスターに通用できるレベルではないと判断する程度にはまだまだ未熟だ。

 それに、ケンカの仲裁ならともかく、ベルが戦いの渦中に自ら入っていくほど戦闘を好んでいるわけではない。戦いが主立ってる都市に行かせるのは、あの子の性格にはあっていないと思えて仕方ないのだ。

 

「だが、内心はそうは思っておらんのだろう?わしという楔が解かれればベルはきっとオラリオへ行って冒険者になる。だからベルを何年も鍛えてきたんじゃろう?」

 

「…………」

 

 じいさんの指摘に、反論はできなかった。確かにベルは戦いに向いているとは言えない性格だが、ベルは英雄になりたがっている。かつて俺に英雄になりたいと宣言したあの日から、英雄を目指して鍛錬していることぐらいわかっている。

 

「……けど、まだベルに戦闘は早すぎる。『六式』もまだ未熟なうえ、戦いの心構えも完全じゃない。そんな状態で戦ってもいつか死んでしまうぞ」

 

 戦闘への心構えも、『六式』の習熟度も未熟なままオラリオへ行ったところで、『六式』を使えることに胡坐をかいていればいつか足元をすくわれる。俺もガープさんから『六式』を修めたと認められてから、慢心を抱いていたせいで死にかけたことがある。ベルもそうなるとは言わないが、いつか力量を見誤って死んでしまうことだってあり得る。俺も認める水準で習得しているならまだしも、まだまだなベルがそうなるのは、可能性として高いんだ。

 

「だから、ベルのことを見ていてほしいんじゃ。フィースがベルを鍛えておれば、きっと良き冒険者になるじゃろう」

 

 ……あぁ。そうか。じいさんの楽しそうな笑みを見て悟った。じいさんはベルが後世に名が残るような、そんな冒険者になってほしいんだろう。自分の孫が英雄のように名を残すほどの人物になれば、それは愉快で自慢気になるだろう。

 

「……じいさんが生きている間にベルをオラリオに連れて行く。祖父が死ぬ、なんて心の負担になることをまだ幼いベルに負担になることはしない方がいいだろう」

 

「すまんの、フィース」

 

 けど、後世に名を残すような人物になるころにはじいさんはここにはいない。俺も認められるほど『六式』を修めることができれば、ベルの心の成長が早かったら、もし爺さんの寿命がもっと長ければ。たら、れば、もし、なんて仮定を思わずにはいられない。

 

「なに、そんな辛気臭い顔をするな。ダンジョンでベルが成長すると思えば悪い話でもないじゃろうて」

 

「……そういうことを考えられるほど、俺もじいさんの死を軽くみられるほど薄情じゃないんでな」

 

 じいさんの死は、ベルにとっては向こうでいえばガープさんの死も同然なのだろう。俺はそこまでとは言わないが、じいさんの死は俺にとってもそれなり以上に心に影を差すほどだ。

 

「……本当に、近しい人の死ってのは嫌な気持ちになる」

 

 ふとサボが死んだと聞いた瞬間を思い出す。仕方ないと思うよりも先に止められなかったことに対する後悔と悲しみが大きかった俺は、しばらくの間何もできずにいた。今回はまだ前もってわかっているだけマシなのかもしれない。けど、何年もお世話になったじいさんの死は、やはり心にクるものがある。

 わかっていたとはいえ、人生ままならないものだ。窓の隙間から吹き込んだ風によって揺れるランタンの火を見て深くため息を吐いた。

 




休日なのに仕事中なので怒りの投稿。7時半まで仕事だよハッハッハ(怒)
今週の土曜日投稿できるかわからなくなるけど許してヒヤシンス。

過去編については、5歳の頃は友達の紹介ってことになれば警戒も薄いと思うんだよね。まだ海賊王のことで騒がれて人間不信になっている頃でもない時期に友達になれれば楽だなと思ったのでこうなりました。

ということで、じいさんが死なずにベルくんのオラリオ行きが決定しました。原作でも一応生死不明的な感じなのでどうしようかと展開を悩んでましたが結局じいさんの背中押しで行くことにしました。これで原作と大きく変わらずにすむ←
あと主人公の性格がなかなか定まらないのどうにかしないといけないなぁ。



どうでもいいけど、ふと「ヒトヒトの実:モデル”ギルガメッシュ”」とか「ヒトヒトの実:モデル”アルトリア・ペンドラゴン”」みたいなONE PIECEとFateのコラボを見てみたいと何度か思ってしまう。誰か書いて。
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