元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:ルーニー

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もしもの世界2

 

 アリーゼとの邂逅からしばらく時間が経った。戦闘では使えず目に見える効果もない程度ではあるが『生命帰還』を会得しているおかげかそれともここの医療技術が高いのか、傷を見てくれていた子が驚いていた様子から見るに前者のようだが、傷の治りが早くすぐに退院できた。さすがにサカズキ大将のマグマの拳を受けていた胸と背中には大きな傷跡が残っているが、胸を貫かれたことを考えたらその程度で済んでいるのなら喜びはすれど悲観する必要はないだろう。

 

 とはいえ、退院できたとしても今の俺は何も持っていない。マグマで上の服が焼けていたために服すらも病院側の厚意でもらっているほどだ。サカズキ大将の攻撃を受けて重体となったことと長期間眠っていたせいで体が衰えているのもあって全く知らない土地で生きていくには少々どころではない不安がある。海賊をかばった海兵として悪い意味で有名なはずの俺を、ましてやその原因となったマリンフォードの戦争を知らないとなれば電伝虫はおろか世界経済新聞すらも取ることができない僻地だろうことは想像できる。まさかここがラフテルなのかと一瞬思ったが、いくら何が起こるかわからない偉大なる航路だろうとマリンフォードから悪魔の実の能力者である俺が海流で流されるはずもないと否定する。

 

 そんな俺に声をかけてくれたのがちょくちょく様子を見に来てくれていたアリーゼだった。アリーゼが発見した時がよほどやばかったのか、治るのかどころかそもそも生きているのかすら不安だったと言っていた。そんな俺が退院できると聞いて喜んでくれたのだから、よほど人がいいのだろう。その時に俺が行くところがないと愚痴を言うと、アリーゼが住めるようになるのを手伝ってあげると言って本拠(ホーム)?とかいうところに案内してもらうことになった。

 

「ここが……」

 

 道中立派な街並みだったのにやけに人気が少ないことに疑問を感じながらアリーゼの後をついていくと、行く道で見た建物よりも立派な建物に着いた。

 

「そう!ここが私の主神、アストレア様がいる本拠!星屑の庭よ!」

 

 アリーゼが自慢するように手を本拠、星屑の庭に向ける。自慢するのもわかるほどに立派な居宅に関心して思わず声が漏れる。

 

「ずいぶんと立派だな」

 

「でしょう!」

 

 家として居住できる建物でもかなり立派な建物を見て、ここまで立派な建物は要人護衛で入ったとき以来だなと思い出す俺に、自慢気に胸を張るアリーゼ。道理で道中本拠の自慢するわけだと納得していると、建物の方から凛とした少女の声が聞こえてきた。

 

「アリーゼ。ずいぶんと遅かったですね」

 

 長い金色の髪に整った顔立ち、華奢な体つきの少女はパッと見どこぞのお貴族様かとすら思うほどだった。そうじゃないと思ったのは腰にぶら下げた木刀がやけに様になってたからだ。少女は俺を見ると意外そうに眼を見開いて胸を、一番の重傷だった箇所を遠くからだがマジマジと見ていた。

 

「あ~。どうも」

 

「……無事だったようですね」

 

「あぁ。アストレア・ファミリアの皆さん方のおかげで一命をとりとめることができた。感謝しかないよ」

 

 トントン、と胸を指で叩いて完治したことをアピールする。アリーゼの話を聞くに俺はここで重体の身で倒れていたらしく、見つけたのがリュー・リオンだと言っていたのだが彼女がそうなのだろうか。

 

「それで、どうして彼をここに?」

 

「うん。ちょっと訳ありみたいなの。私にも理解できなくて、だからどうしようかとアストレア様と相談しようと思って連れてきたの」

 

 アリーゼがそういうと少女はいきなり鋭い視線を俺に送って木刀を構えてくる。

 

「まさか、闇派閥……?」

 

「いえ、もっと複雑というか、私も何と言ったらいいかわからないのよね」

 

 困ったように首を横に振るアリーゼを見ても少女はこちらを警戒するように睨みつけてくる。闇派閥(イヴィルス)。また聞いたことのない単語が出てきたなと思いながらどう話したものかと思いながら口を開く。

 

「無一文の家無しのプー太郎。今の俺はそういう状態だ。正直藁にもすがる思いだったところにアリーゼからの提案があってな。他に頼れるものもないから縋らせてもらった、ってところだ」

 

 実際言っていることは間違っていない。今更正義を気取って何かする気はないが海賊行為を行う気もない。海軍の時のように身を削って誰かを助けようとも思わないし、子供の頃のように盗みを働く気もない。かと言って普通に働こうと思っても伝手すらなく身分も証明できない。そんな人間はプー太郎と言っても過言ではない。割と本当に困ってたわ。

 やれやれと首を横に振っていると警戒していた雰囲気が徐々になくなっていき、逆に胡散臭いものを見るような目で見てきていた。結構心に来るが、まぁおかしいわけではない。

 

「もし、不埒な真似をするようであれば叩き斬る」

 

「リオン!そんなこと言っちゃだめだよ!」

 

 少女の物言いにアリーゼが注意するように声を上げる。俺としては特段おかしなことを言っているわけじゃ無いから気にならないが、まぁ誰彼構わずああいった物言いをしているのなら注意はするか。それに、リオンと呼んでいたということは、予想通りこの子は俺を見つけてくれたリュー・リオンって子か。思った以上に幼かったな。

 

「いいさ。今の俺は怪しい不審者ってのは間違いじゃない。警戒するのも当たり前だ。なんなら腕を縛るか?」

 

「……いえ。そこまでするつもりはないです」

 

「そか。まぁ、いくらかわいい女の子とはいえ、縛られて喜ぶ癖なんざないからありがたいんだが」

 

 ヒラヒラと手を振って海軍では鉄板の冗談を言うのだが、そう言ったことに耐性はないのかリオンは顔を赤くして木刀に手を伸ばした。アララと思いながら悪かったと謝り、アリーゼも止めてくれているとようやく収まってくれたのか顔を赤くしながらも木刀を収めてくれた。

 さすがに時間を使いすぎたと思ったのか、アリーゼは自分を中に入れていくと言うとリオンはしぶしぶと言った様子で中に入れてくれた。からかうつもりはなかったのだが、とりあえず悪意自体はないことを認めてくれたようで一安心しながら中に入ると、やはりというか中も外に見合ったものだった。華美なものでもないが落ち着いた美しさというのだろうか。そういう表現ができるような語彙がないことを後悔したのは初めてかもしれないな。

 

「あん?テメェ、うちの前でぶっ倒れてたやつか?」

 

 中に入ると部屋の中でソファに座っていた桃色の髪の少女が怪訝そうな目で俺を睨みつけてきた。他の全員も俺が入ると同時にこちらを見てくるもんだから気まずくて仕方ない。

 

「その節はどうも。おかげでこうやって五体満足でいられているよ」

 

 リオンにやったように自分の胸を指で軽く叩く。こうして傷があった場所を叩けて不自由なく歩ける程度には回復しているとわかると桃色の髪の少女は興味を失ったように鼻を鳴らして視線を外し、他も視線が散り散りになった。そんな中黒髪の少女はずっとこっちを見ていたが、その原因らしきものを確認するようにアリーゼに聞いた。

 

「……女性しかいないな。もしかして男がいちゃまずかったか?」

 

「まぁ、今の状況で外で話し合うわけにもいかないもんね」

 

 否定せんのかい。とツッコミかけたが、まぁ見た目麗しい少女と女性しかいない中で男が入ってくるのはよろしくないのだろうと海軍本部で女海兵をいやらしい目で見ていた男衆がいたことを思い出してツッコミをひっこめる。さほど興味もない俺でも美少女と美女だと感じるのだから人によってはサンジのような反応をされてもおかしくないのだから警戒するのも仕方ないのだろう。

 

「みんな?お客様はまだ来てないの?」

 

 ここにいてもいいものなのだろうかと悩んでいると、部屋の奥から女性の声が聞こえた。声の聞こえたほうを見ると、そこには胡桃色の髪の、それこそボア・ハンコックをも上回る美しさを覚える美女が楽しそうな笑みを浮かべて部屋の中に入ってきていた。

 

「どうも。助けていただきありがとうございます」

 

「いえ。無事で何よりね」

 

 この人がここの長か。そう判断した俺は深く頭を下げて礼を言う。実際文字通りまともな服すら着ていなかった重体の俺を助けてくれたのはここの人たちのおかげなのだから、死ぬつもりでかばったとはいえせめてそれぐらいは言わないと人道に反するだろう。

 

「それで、アリーゼから聞いてるんだけど正直要領を得なかったの。だからあなたから説明してもらえると嬉しいんだけど、いいかしら?」

 

「まぁ、正直俺も現状を理解できてるわけじゃ無いですし、というかさっぱりわからないんですがね」

 

 まずここがどこなのか、ダンジョンで栄えている都市オラリオだと言うことと、冒険者のことについて、そしてここの治安のことについてある程度はアリーゼから聞いてはいるのだが、何一つ聞き覚えがなかった。現象としては身に覚えがないわけではないのだが、それを考慮に入れることはしたくはない。それすらもどういう理由で起きたのかいまだにわかっていないしな。

 

「まず、マリンフォードを知らないというころでいいんですよね?」

 

「えぇ。ここ数千年の間全く聞いたことのない名前ね」

 

「数千年?」

 

 数千年分の歴史でも知っているのか?海軍勤めでニコ・ロビンの過去を知っている身としては厄ネタにしか感じないが、公にできている時点で大丈夫か。

 

「マリンフォードで起こった戦争も、世界のパワーバランスの一角、四皇白ひげの死も?」

 

「正直に言うと、今この街でも大規模な争いが起きてて外の世界のことはあまりわかってないのだけれど、少なくともそんな戦争が起きたと言うことも、四皇白ひげという名前も知らないわね」

 

 予想通り、というかアリーゼの反応と同じだったことでどういうことだと頭を抱えるが、原因はさっぱりわからないが現象は身に覚えがある。予想したくもない予想が当たっているのかもしれない。けどあの時は幼児に近い年齢だったのに、ここでは死んだであろう肉体とほどんど同じなのはどういうことなのか。

 こういうことが可能な事象を引き起こせるものに思い当たることはあることにはあるのだが、そういうことができるようなものがあると言う話は聞いたことがない。どう説明した物かと悩ませている中、アストレアがポツリと呟いた言葉が耳に入ってきた。

 

「天界にいる時も、ここに降りてきた時も、今に至るまでの記憶を漁っても全く思い出せないわ。多分他の神も知らないんじゃないかしら」

 

 そして、それは俺から冷静さを失うのに十分な言葉だった。ここにいることで悩んでいた頭の中がアストレアの言葉を理解するまで真っ白になり、そして理解すると頭に血が上っていくのを我がことながら自覚できていた。

 

「神?」

 

「えぇ。私はアストレア。正義を司る女神よ」

 

 感情が爆発した。いや、爆発はしているが箱で無理やり抑えつけるように冷静であろうとしたが、激情が理性を壊そうと暴れ回っているのを自覚する。

 正義?正義だと?よりにもよって口にするのが、あのクソッタレ共の原因である神を僭称しているようなやつが、正義だと!?

 

「あのカス共の始祖とでも言うつもりか?」

 

 冷静になろうとしても心の底からの怒りが沸いてくる。無意識に垂れ流していた覇王色の覇気が、抑えなければと思っていても徐々に圧を増して噴き出していくのを自覚する。次々と少女たちが気を失っていく中、桃色髪の少女と黒髪の少女、アリーゼは今にも死にそうな表情を浮かべながらアストレアの前に立ち、俺の覇気を受けているはずのアストレアは冷や汗を流して真剣な表情に変えるだけだった。

 

「あなたの言うカス共が誰なのかわからないのだけど、どういうことなの?」

 

 その言葉に頭が怒りで真っ赤になった。あのカス共の祖だとほざかれていたというのに、こいつは何も知らないだと?同族以外をおもちゃとしか思っていないゴミ共を、認知していないだと!?

 

「テメェが天竜人を作り出したのかと聞いてる!テメェがあの無秩序のカス共を作り出したのかと聞いてるんだよ!テメェが、サボの、仇の、元凶なのかと……!」

 

 覇王色の覇気がさらに噴き出される。もはや自分でも制御できるギリギリのところまで感情が高ぶっている。いや、もはや俺の意志に反しているのだから制御なんてできていなかった。今ここで殴りかかっていないことが不思議なほどに腹の中が煮えたぎっていた。

 噴き出していく覇気に当てられ、ついに桃色の子供が泡を吹いて気絶した。黒髪の少女とアリーゼは顔を真っ青にして呼吸を荒くし、歯をガチガチと震わせ、今すぐにでも気を失いそうに足を震わせているが、それでもアストレアを守ろうと俺を阻むために武器を手にして構えている。

 

「落ち着いて。私はそんなことをしたことはないわ」

 

 突然空気が変わった。覇王色の覇気に似た威圧感、いや、覇王色の覇気とは別の、荘厳な空気に変わったと言うべきか。まるで包み込まれるかのような安心感すら覚えるそれに、先ほどまでの激情が覇王色の覇気と共にしぼんでいくのを自覚する。

 

「……すまない。気が荒振り過ぎた」

 

 覇王色の覇気を抑え、その場に座る。黒髪の少女とアリーゼが即座に俺を抑えるように体を地面へと蹴りつけ、踏み抑え、いつでも刎ねられるように首に剣を構える。自業自得だからそれを甘んじて受け入れ、成すがままを受けるが、あろうことか威圧された張本人であるアストレアが俺を解放するように2人を説得していた。

 とはいえ、先ほどの惨劇を思えば今こうしていつでも首を刎ねられるようにしておいた方がまだ安心できるだろう。その旨を伝えてこのままでもいいと言うが、反省をしているとくみ取ってくれたアストレアの言葉で剣を構えてはいるがお互いに椅子に座った状態で話し合いが行われることとなった。

 

「……あなた、何者なの?仮にも第二級の冒険者であるこの子たちを威圧するだけで気絶、アリーゼと輝夜すらも気を失う寸前まで追い込むなんて芸当ができる()なんて聞いたこともないわ」

 

 気絶した9人、騒ぎを聞きつけたのか外にいたはずのリオンもいた、を安置した後、アストレアは改めて俺を問う。その質問に答えてもいいのだが、その前にいろいろと確認しておかなければならないことがある。

 

「……その前に、いくつか確認したい。天竜人を知らないというのは本当か?」

 

「えぇ」

 

「世界政府も?」

 

「初耳ね」

 

「……英雄ガープ。海軍大将赤犬、青雉、黄猿。四皇ビッグマム、百獣のカイドウ、白ひげ、赤髪のシャンクス。七武海サー・クロコダイル、天夜叉、暴君くま、ゲッコー・モリア、海賊女帝、海峡のジンベエ、黒ひげ。海賊王ゴール・D・ロジャー。これらに聞き覚えは?」

 

「まったく知らないわ」

 

 見分色の覇気も使って確認し、そして嘘が一切ないことを確認した俺は剣を構えられていることを忘れて頭を抱える。動いた時に剣がピクリと動いたが、それに反応することもできないぐらいにはいっぱいいっぱいだった。

 

「……どういうことだよ」

 

「……大丈夫?」

 

「正直、まったく大丈夫じゃない。なんだ、何が起きてるのかさっぱりわからん」

 

 そして漏れ出たあまりにも情けない弱音に、この中では一番付き合いのあるアリーゼが剣の構えを解いて俺の肩に手を置いて心配する声をかけてくる。年上の男が頭を抱えて弱音を吐いているのを見てか、黒髪の少女も剣呑とした空気を出すことを止めて剣を構えるのを止める。さすがに剣をしまうことはなかったが、それでもこちらに気を遣ってくれているのか少しだが離れてくれた。

 

「こちらから同じ質問してもいい?あなた、いったい何者なの?」

 

 アストレアが真剣な表情を浮かべ、嘘は許さないと先ほどと似たような威圧をする。覇王色の覇気か?センゴク元帥に似ている気がするな、などと場違いなことを思いながらも伝えることをどうするか考え、口を開く。

 

「海軍本部少将。”空握”のフィース。マリンフォードにて、海賊王ゴール・D・ロジャーの息子のポートガス・D・エースの処刑を阻むために起こった戦争、海軍本部と四皇しろひげ海賊団との戦争にて死刑囚であるエースを救うために海軍本部大将の赤犬、サカズキ大将の攻撃を胸に受けて死んだ、はずの人間だ」

 

 かけ無しの事実を伝える。マグマによって作り出された太陽のような傷痕が残った胸に手を遣り、目をアストレアに向けるが、そこにあったのはただただ困惑しかない目で俺を見ているアストレアだった。

 まぁ、そういう反応になるのは、仕方ないわな。俺だって死んだと思ってたら生きててわけわからん状態なんだから。

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