元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:ルーニー

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忘れたころにポイ


31話

 怪物祭での出来事から早くも数日が経った。あれからダンジョンに行く前にギルドに向かってエイナさんに怪物祭であったことを伝えてみたが、ギルドから何かできることはほとんどない、ということだけを言われた。エイナさんも俺とベルのことを信じてくれていなかったわけではないが、あくまでも主観だけでの話であるし、どこかに証拠がある話でもない。大手のファミリアの話なら何かしたかもしれないが、最近できたばかりの小規模なファミリアにそんな信頼もあるわけでもなく、話半分で終わるだけでも仕方がないのかもしれない。

 そんな中、ギルドで何か情報があれば伝えてくれることだけでも約束してくれただけでもエイナさんに話した甲斐はあっただろう。担当をしているとはいえ、まだ1ヶ月が経つかどうかしか交流がないのにここまで骨を折ってくれるのは好感が持てる。

 

 あの騒動の原因が『六式』である可能性がある以上、ダンジョンで行う鍛錬も今まで通りというわけにもいかなくなった。ベルの剣術の鍛錬は特に何かする必要もないが、『六式』を使った鍛錬には今まで以上に神経を使って周りを確認する必要があったため、見聞色の覇気を常に使わざるを得なくなった。見聞色の覇気の鍛錬だと思えばいいかもしれないが、さすがに長時間覇気を使い続けるのも疲労がたまる。今までのように『六式』を使った鍛錬は難しくなったのは、正直かなり面倒だった。見聞色の覇気が鍛えられるのはいいが、俺の『六式』の鍛錬がしにくくなったのは最悪だ。せめて体を鍛えられるようなことができなければ腕は衰えていく一方だろう。そういった不安がないわけではなかった。しかし、今できることと言えばベルとの組手やダンジョンで体をできる限りなまらせないようにすることぐらいしかできない。今回の騒動で余計なことが分かったというべきか、それとも問題が浮上したというべきかは悩むところだ。

 いや、いっそのこと見られていることを覚悟で『六式』を使うことも視野に入れてもいいかもしれない。そうして鍛錬をしているところを釣って目的を吐かせるのも1つの手か。どうせ見たところで盗める技でもないし、逆に盗めるほどの実力者なら階位も高い分犯人も絞り込みやすい。まぁ、そこまでの実力者だった場合俺が敵うかどうかもわからないところもあるのがキツイか。ベルを鍛えるだけじゃなくて俺自身も鍛えないといけないな。

 

「フィースくん、今日はダンジョンに行くのはストップしてもらってもいいかい?」

 

 今日も資金稼ぎと鍛錬を兼ねてダンジョンに行こうとしたが、ヘスティア神からストップがかかった。どこかケガを負ってしばらく安静にしているべきであるわけでもないのに珍しいとは思った。

 

「別に構わないのですが、なぜです?」

 

「以前に言ってた重しの件でね。作ってくれることになってたんだけど、いろいろあってちょっと本神(ほんにん)に来てほしいって言われたんだ」

 

 ヘスティア神は申し訳なさそうにしているが、俺個人としては納得はついた。正直重しの存在を忘れていたということもあったが、ベルには俺の希望したナイフが届いていたが重しがまだだった。話を聞いてみると、どうもどんな形にするべきなのか、どれぐらいの重さにしたいのかがわからないから話を聞きたい、という話だそうなのだ。

 重しと言っても様々な形がある。リストバンドのようなものからダンベルのようなもの、大きくなればバーベルのようなものまで考えなければならない。ベルのナイフは、言ってしまえば長さだけどうにかしてしまえば形にはなるのだから作るのにさほど難しさはないだろう。しかし俺の重しの場合は種類が多岐にわたるのだから作るにも作れない、という状態なのだろう。

 

「わかりました。ベル、悪いけど今日は剣術の修行だけしててくれ」

 

「うん。わかった」

 

「ごめんね、ベルくん」

 

 俺の言葉に特に何かを言うわけでもなかったベルはそのままダンジョンへと向かって行った。重しと聞いて不思議そうな表情をしていたが、俺のためのものだと聞いて納得したような表情をしたのは、たぶん先にナイフをもらったからだろう。

 

「それじゃ、向かうとしようか」

 

 そう言ってヘスティア神は少し足取りを軽そうに動かす。その後ろを離れない程度についていき、オラリオの街中を歩いていく。移動している間最近あった出来事やこの間行っていたパーティの話やらを楽しそうに話している。その最中にやれ無乳だの細目だのとロキ神へのネガティブキャンペーンを忘れることなく話しているのだからよほど嫌いなのだろう。いや、この場合はガープさんがロジャーの悪口をいうぐらいの嫌いさ程度なのかもしれない。

 そんなこんなで目的地に着いたと言われる。そこはヘファイストス神を中心とするヘファイストス・ファミリアの店だった。

 

「ヘファイストス!来たよ!」

 

重しの話のはずなのにどうしてここに来たのだろう、と思う間もなくヘスティア神はさっきまでの雰囲気を壊さず元気よく店内へと入っていった。困惑をよそにずかずかと入っていくヘスティア神に若干呆れを感じつつ、その後ろについていく。中に入ると呆れた様子でヘスティア神を見ているヘファイストス神だけがいた。

 

「よく来たわね。待ってたわよ」

 

「……まさか、作っていただけるのはヘファイストス神なので?」

 

「えぇ。そこのおバカに頼まれてね、武器じゃなくて鍛錬のための重しを頼むなんて思ってもいなかったんだけどね」

 

 重しを作ると聞いてはいたが、まさかヘファイストス神に作ってもらえるとは思ってもいなかった。せいぜいがヘスティア神とかかわりがある人かそういった特殊なものを作っている場所にでも行く予定だったのだと思っていたのだが、まさかかの鍛冶神に作ってもらえるとは思ってもいなかった。ヘスティア神の交友関係に感謝しなければならないかもしれない。

 

「ヘスティアの頼みでこうやって重しを作ることになったけど、勘違いしないでよ?ヘスティアと私の仲でちゃんと契約したからこうやって作ってあげているってことは」

 

「いえ、作っていただけるだけでも十分ありがたいです」

 

 実際、激しく動くことが前提で欲しかったものだから有名な鍛冶神に作ってもらえるのは僥倖と言えるだろう。なにせあっさりと壊れてしまえば困るのだから壊れないというだけでも出費にも優しいし、なにより技術がある。無理だろうなぁ、と思っていたことももしかすればできるのかもしれないのだ。そう考えれば作ってくれると言ってもらえるだけありがたい。

 

「それで、どんな感じで重しを作ればいいのかしら?」

 

「そう、ですね。担当受付嬢のエイナさんにバレると困るので重い手甲や具足を作っていただけたらありがたいです」

 

 そう、と言ってメモを書いているヘファイストス神。ふと、何か引っかかる部分があったのかピタリと筆を止め、怪訝そうな表情を浮かべてこっちも見てきた。

 

「……ちょっと待って。え?もしかして重しをつけながらダンジョンに潜る気?」

 

「えぇ。そうでなくては鍛錬にならないでしょう?」

 

 海軍にいた頃は命の危険もあるということで組手という形の上でしか重し付きでの鍛錬は行ったことはないが、あの時はガープさんや様々な大佐、少将といった格上や同格がたくさんいたからできたことだ。同格がいるかどうかわからない、頼める人材もいない状態でそんな組手なんてできるはずもない。なら、多少命の危機があったとしても重しを付けた状態でダンジョンに潜る他に自信を鍛える方法はない。

 

「……ヘスティア?」

 

「いや!僕もそんな話聞いてないんだけど!フィースくん、そんなこと考えてたの!?」

 

「筋トレなんて動くのに無駄な筋肉も増やすことになるんで、鍛え始めの頃ならともかくある程度鍛え終わっている今は戦いながら鍛えたほうが効率いいんですよ」

 

「そうだった!この子求道者みたいなことをするためにファミリアに入った子だったんだ!」

 

 ヘスティア神が頭を抱えて悶えるように体をくねらせる。求道者はさすがに言いすぎだろう。体を海軍少将だったころに戻すためなのと、あわよくばそれ以上に体を鍛えるためなのだから重しで体を不自由にしてダンジョンで体を鍛えるようにしなければならない。『六式』の技術向上にもつながるのだからいいことだらけだろう。

 

「……まぁ、重い手甲と具足ならそう言った素材を使えば問題ないし、そこまで手のかかるものじゃなさそうね」

 

「そうですか。それならよかった」

 

 鍛冶のことに関しては門外漢だから具体的な時間や手間がどれぐらいかかるのかはわからないが、手甲として使えるように鉄を鍛えたり重さを調節したりするのに時間がかかるのだろう。

 

「とりあえず、どういうものがいいのかが聞けただけでもよかったわ。ちなみに重さはどれぐらいにする?」

 

「そうですね。じゃあ1つ100kgからお願いしたい」

 

「ちょっと待って」

 

 今度はペンすら動かすことなく制止をかけるヘファイストス神。信じられないことを聞いたと言わんばかりに目を見開いて俺を睨みつけてくる。

 

「待って。私の聞き間違い?100kg?100gじゃなくて?全部で100kgとか、そういうのじゃなくて?」

 

「1つにつき100kgです」

 

「あなた馬鹿じゃないの!?そんなものをつけてダンジョンに行くつもり!?ろくに動けるはずないでしょう!?というか手甲や具足をそんな重さにできるわけないでしょう!」

 

 信じられないことを聞いたと言わんばかりに声を張り上げるヘファイストス神。

 海軍にいたころは500kgの大きいバーベルを不安定ながら背負って鍛錬していたのだから腕や足に付けられる400kgなんてまだ余裕はあるだろう。

 

「できないんです?」

 

「いや、できなくはないけど、それ相応に大きくなるわ。作るとすれば大きなバーベルのようなものになるのは間違いないわ」

 

 まぁ、それもそうかとは思う。海軍は最新の技術があった場所でもあったけど、枷のような形で重しをつけて鍛錬したことはあったけど、それも厚さを増やしていく方式で最大80kgぐらいの重さまでしかなかった。それ以上重くしようとすれば動きに支障が出るほどのものだったのだからそんな大きさになってもしょうがない。

 しばらく信じられないと頭を抱えていたヘファイストス神だったが、フゥ、と結論が出たのか深く息を吐いて視線を俺に向けた。

 

「合計重量が200kg。つまり手甲と具足の1つの重さの平均が50kg。特別な素材を使ってこれが今できる最大の重さよ。これでも手甲や具足として最低限機能できるようにできる大きさと硬さでもあるわ」

 

 ヘファイストス神から出された条件としておおまかな大きさの手甲や具足の予想図をその場でスケッチして見せられる。現状では厚さ60mmほどで手甲は手首から腕の半分ぐらいの大きさ、具足は足首から膝下ほどのものだった。具体的な数値は俺の腕と足の長さを測ってないからまだないが、目測としての数値を入れられている。この後実際に測って厚さや長さを調整していくのだろう。

 

「……普通極限まで軽くするのが当たり前の業界だって言うのに、聞いたこともない重量まで重くしてほしいなんて注文初めて受けたわ」

 

 やれやれ、と言わんばかりに首を横に振るヘファイストス神。その手に巻き尺を持って俺に近づく。俺の腕や足の長さを測って作成するんだろう。

 結局、俺の腕や足の長さを測ったりその形状、長さ、厚さを詰めていくのに時間がかかり、結局すべてが決まったのは夕暮れにさしかかろうとしていた時間だった。重しが重い手甲、具足になったのはいい意味で誤算だった。出来上がるのは調整含めて2日かかると言われ、思った以上にすぐにできるんだなと思った俺はいい気分で帰ろうとしたが、ヘスティア神がヘファイストス神と話があるということで先に帰ることになった。神友同士何か話すことでもあるんだろう。そう思った俺はヘスティア神に先に戻ることを伝え、本拠へと戻った。

 

 




 合計400kgを頼むって主人公バカなんじゃねぇのって思う人もいると思います。その感性は間違っていないです。でも、でもゾロだってドラム王国前でも500kgのバーベルで素振りをしていたじゃないですか!まだそこまで有名になっていない時期でもそれぐらいのことはできるということは、有名な海兵だってできると思ってもいいじゃないですか!
 たぶんなんですけど、ONE PIECEの世界って鍛錬とかするときって100kgが基本的なラインになってると思ってるんです。さすがに海軍に入隊したての頃はそうじゃないとは思うんですが、少佐ぐらいになってきたらそれぐらいじゃないと鍛えられないような感じしません?というか、それぐらいの水準がないと悪魔の実の能力者や新世界の化け物海賊団に勝てるような未来が見えないんですけど……。
 あと、厚さ6cmの手甲で50kgもいくの?という疑問もあると思いますが、そこはダンまち世界だからそういった素材があったということでお願いします。いや、こうでもしないと成長する未来が見えないんですよ……。
 それと、長さの単位についてはCだったりMだったりするのは知っているのですが、重さがどこで出てきているのか忘れてしまって探しています。どこかで重さの単位について言っているところってありましたっけ。

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