元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ルーニー
冷静に考えたのなら、俺の知っていることが通じるはずもないとわかっていたはずだ。胸にあのサカズキ大将の攻撃を受け、仮に瀕死で留まって黒ひげのグラグラの実の能力で海に投げ出されていたのだとしても俺も悪魔の実の影響で海に浮かぶはずもない。どうなっても死ぬことは疑いようのないことだ。
アリーゼの話やこの街の様子から、少なくとも全く異なる世界でなければありえないことばかりだとは理解できるはずだった。まったく知らない街、全く聞いたことない人種、文字通り全く知らない世界。
でも、そうはしなかった。できなかった。運よく生き延びることができて、またあいつらに会えるんだと心の何処かで思い、願っていたから。ここが全く別の世界なんだと認めてしまったらまた会いたいと願っていた人たちとは2度と会えないのだから。
だからアリーゼと共にここまで歩いてきている間は俺のことについてはほとんど話していなかった。意識を取り戻してすぐに問い詰めたこと以外はぼかすように話していたし、この街についてもほとんど聞くようなことはしていなかった。せいぜいがアリーゼのことについて話を聞いていたぐらいだった。
けど、もうそれもできない。すでに俺は偉大なる航路でも、ましてやあらゆる海ではない場所にいると否応なしに受け止めなくちゃいけないのだから。だからこそ、迷惑をかけたのだからせめての誠意として話すことにしたのだ。偉大なる航路のことについて、海賊と海兵について、俺のことについて。
「……とてもじゃないけれど、信じられないことね」
アリーゼが興奮した様子を隠そうとせず、しかしどこか冷静にそう断言する。他の人たちもアリーゼと同じように胡散臭いものを見るように俺を見ながら頷いている。リオンに至ってはこちらのことを全く信頼していないと言わんばかりに睨みつけてきている。
「だろうな。俺だってなにが原因でこうなっているのか、心当たりがないわけじゃ無いが聞いたこともない。いや、本当は存在していて誰にも知られずにいただけかもしれんがな」
あるいは五老星あたりは把握しているかもしれんな。五老星についてはガープさんからかじる程度しか聞いたことがない。あの時は詳しい話を聞こうとしたのに詳しくは知らんと一蹴されたのだが、今思えばあの人のことだからあえて存在だけ教えてくれて注意を促してくれていたのかもしれない。能天気そうに見えて実のところそう振舞っている老練した人なのだから。
「アストレア様、彼の言っていることは……?」
「嘘は何一つ言っていないわ。私にとっても、とてもじゃないけど信じられないことでも、嘘は言っていない」
黒髪の少女、ゴジョウノはこちらを噓つきを見るような目で見ながらアストレアに聞くが、アストレアは頭が痛いと言わんばかりに片手を頭に乗せて苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべている。アストレアの言葉を聞いた者全員は信じられないと言わんばかりにアストレアを見るが、それを訂正するような様子がないと悟ると今度は化け物を見るようにこっちを見始める。
「彼がそう思い込んでいるだけの狂人なだけでは……?」
「ありえないわけじゃないけど、ならあの時2人以外の意識を失わせたことの理由は説明できるの?恩恵も持たない一般人である彼がどうやってその力を持ったというの?」
アストレアにそう断言されたゴジョウノは何も言えずに黙ってしまった。俺にはよくわからないが、この世界の実力者にはステイタス、というものがあるらしい。このステイタスというものは刻まれている人間がどれほどの力を持っているのか、そして誰がその力を与えたのかがわかるようになっているらしい。俺に使ったアイテムはそのステイタスを無理やり開示する道具なのだと聞いた。背中にはステイタスが書かれていて、使ったアイテムは見えなくしてあっても無理やりに見えるようにするためのものなのだとか。
「……それで、その思い当たるものってなんだ?聞いたこともない知らないものに思い当たるってのもおかしな話だけどさ」
話を逸らそうとしたのか、それとも気にかかっていたのか桃色の髪の少女、ライラはこちらを睨みつけるようにしてそう聞いてきた。確かに思い当たるものはあるのだが、俺の中でもそうだと言う確証はない。とはいえそれ以外に原因と言えそうなものは他に思いついてないのも事実だ。
「悪魔の実だ。こんな理解の外にあるような現象を起こすような力なんて、悪魔の実以外には思いつかない」
悪魔の実であればこの現状の原因であったとしても不思議とは思わない程度には何もわかっていないのだ。悪魔の実に応用を効かせて物に食わせることもできていたベガパンクですらメカニズムを究明できていないのだから、この状況を作り出したとしてもおかしいわけではない。
あるいは偉大なる航路の中でも理解のできない現象が起こっているかもしれない。けど、俺のいた場所はマリンフォードだ。そんな現象が起きていた場所であるのなら注意喚起がされていたはずだし、そんな不安定な場所を海軍本部の拠点とするはずもない。あるいは白ひげとの衝突で起こるようになったのかもしれないが、いくら空間すらも砕くグラグラの実であってもそういう現象を引き起こせるはずがない。
「悪魔の、実?」
自分の中で噛み砕いて理解しようとしているのかオウム返しのように呟くライラ。他も呟くことはなかったが同じように思い当たるものがないかを考えているのか黙って視線をあちこちに彷徨わせていた。
「食べると超常的な力を使えるようになる実だ。能力は様々だが、例を上げれば全身が炎で出来ているようになったり、ゴムになったりする力だ」
「はぁ?」
俺の説明を聞いたライラ、というかこの場にいる全員が疑わしい目で俺を見てきている。嘘がわかるらしい神であるアストレアですら信じられない目でこっちを見ているのだから、他はそれ以上だろう。
「お前、頭大丈夫か?」
見るだけじゃなく真正面から言われた。まぁ、向こうでも東の海では悪魔の実を知らず能力者を文字通りの悪魔、もしくは神の子扱いされていた奴もいた。まったく世界が違うのだから疑われてもおかしくはない、というか疑わなかったら頭を疑うレベルだろう。
「悪いが事実だ。どういう原理なんだと聞かれても俺にはわからん。あの世界の頂点の頭脳を持つ天才科学者すらも断定できる情報を持っていなかったらしいからな」
もっとも、くまを基にしたパシフィスタを作り出した天災科学者の言葉なんぞ信じてもいいのかわからないが。世界的には善良なる科学者などと呼ばれていたが改造人間ならまだしもそこから人の意志を取り除くなんぞ、正気の沙汰じゃない。上から命令されたのか、それとも喜々としてやったのか。会ったこともないやつの考えなんぞ知るわけもない。
「それじゃ、あなたがその力を?」
「この世界に来た時に使ったのか、ということなら違う。俺が食ったのはあらゆるものを掴む力だ。間違っても異世界へとつながる道を作るような能力じゃない」
俺がそういうと空気が止まったかのように全員が黙った。信じられないように俺を見て、仲間内で視線を合わせ合うと、アリーゼが恐る恐ると言ったように声を出した。
「持ってるの?」
「海賊から取り上げたものだった。処分に困ってガープさんに相談したら食ったらいいと笑いながらくれてな。マズ過ぎて吐きそうだった」
今思い出しても胃液がこみあげてきそうになり顔をしかめてしまう。おいしいおいしくないではなく、不味い。まるで食ったらダメだと体が拒否しているような気もするほどにクソ不味かった。いくら力を手に入れられると言ってもあれをまた食わないといけないとなると遠慮したくなるぐらいには不味いのだ。
「今その力を見せてもらうことってできる?」
期待に目を輝かせて俺を見るアリーゼに、嘘じゃないと保証をもらっても信じられないと俺を見るその他。まぁ、別に信じてもらえなくてもいいんだが、こちらには引け目もあるし能力を見せる程度はいいだろう。それに、幸い俺の食った実はニギニギの実。あらゆるものを掴むことができる能力だ。これがグラグラの実のように実害が大きいものだったら容易に使うわけにはいかなかったが、幸いにしてこの能力は使い方を間違えなければ被害なく使うことができる。
「まぁ、掴む程度なら問題ないか」
期待に応えるように立ち上がり、天井付近まで跳躍する。足が届かず、天井に手が届かない中途半端な位置で棒を掴むように空間を握り締める。背の高い鉄棒にぶら下がった時のように、握った空間を起点に俺の体はブラブラと力なく振り子のように揺れていた。足はもちろん床についていないし、手は天井を掴んでいない。文字通り今の俺は何もない場所で宙吊りになっていた。
「え!?」
「浮かんでる……!?」
慌てたように俺の周りに群れ、足元に何かないかを探るように手刀を切ったり、天井からなにかぶら下がってないのかを確認するように俺の手をガン見してきているが、まぁ文字通り空間を握っているだけでぶら下がっているのだからそんなものを見つけることはできない。せいぜいが掴んだ空間が歪んで歪に見えているだけだろう。
「これで理解できたか?」
空間を握っていた手を放すと何事もなかったかのように床に落ちる。音を立てずに床に着地して能力を見たがっていた全員を見ると、全員顎が外れるんじゃないかとこっちが不安になるほどに大口を開けてこっちを見ていた。
「……魔法じゃ……」
「詠唱も魔法名も、言葉一つ発していなかった。絶対にこれは魔法じゃない」
俺以外の全員が信じられないと言わんばかりに言葉少なく視線でお互いに見合っているが、幻覚でもないと理解させられたせいかついには誰もしゃべらなくなった。中には真似をして跳ねた後で空中を掴もうとしているのもいたが、当然ながらできるわけもなくそのまま落ちていた。
「この力は、普通にあった力なの?」
「普通ではなかったな。楽園では目にする機会なんざほとんどなかったし、新世界だと珍しいとまではいかなかったが、何万もの人がいた海軍でも能力者は50人いたかどうかだったはずだし、海軍よりも総数が多い海賊でも名のある海賊ぐらいしか能力者はいなかったな」
もっとも、俺も海軍で誰が能力者なのかを把握しているわけではない。名前ぐらいしか知ることがなかった組織だってあるし、名前すら知らない組織だって海軍には存在していた。そこにも能力者がいただろうが、把握もしていない組織もカウントし始めたらきりがない。
そういう意味では海軍にいた能力者は100人もいないと言ったのも嘘ではない。知らないものを数えることなんかできないしな。
「すごい能力ね。
ゴジョウノが考察するように先ほどの光景を思い出しているのかそう言っているが、それに俺は思わず苦笑を浮かべてしまう。実際はそうだろう。なんせ能力自体は空間を掴むだけで何に使えるのか初見だとわからないのは仕方ないことだが、たかが体がゴムになっただけのルフィはそれを応用して数億の賞金首になったのだ。それだけでなく他の悪魔の実にも、特に超人系は特に顕著だが悪魔の実の能力の力とはすなわち如何に応用することができるようになるのかが重要だ。俺もこれをどのように応用できるのかを探っていくことに苦労したものだ。
「言っとくが、悪魔の実の能力は1人1種類しか持てないぞ。応用や派生程度ならできるが、それでも大きく外れたことはできん」
とはいえそれをここで言ったところで使用するわけにもいかない。それを言うことなくゴジョウノの言葉をふんわりと否定する。そもそも自然系の能力自体かなり珍しいものなのだし、数えたことはないが自然系の能力者にはおそらく20人も出会ったことはない。四皇や王下七武海といった主戦力であろう能力者が多く所属しているであろう海賊と戦闘をあまりしていなかったこともあるが、だとしても自然系の能力は数が本当に少ないのだ。
「それで、これからどうしていくの?」
アストレア、命を救ってもらった上に天竜人とは違う類だとは言え神に対して様をつけるようなことはしたくないほどに嫌悪しているが、から唐突にそんなことを聞かれる。いや、まぁ確かに今の俺はずっとここにいるわけにもいかないし、だからと言って放置するにはいかないようなわけのわからんような奴なのだから聞いておかなければいけないことではあるか。
「わからん。ここが偉大なる航路や他の海だったのならまだやりようがあったんだろうけど、さすがに常識すら違う場所で力ありきとはいえこの身1つで放り出されても何すればいいのかさっぱりわからん」
もし偉大なる航路なら海軍ではなく海賊として行動していけば、少なくともすぐに野垂れ死にするようなことにはならないだろう。略奪をする気は全くないが、食い逃げや盗みぐらいはするだろうし、なんならそこらの海賊船を襲撃して船を奪ってもよかった。
しかしここは全くの別世界だ。そういうことをするわけにはいかないだろうし、そもそも海すら遠くにあるような場所なのだから略奪するような相手がいるとは到底思えない。
「最悪盗みでもやろうかなとは思っていたが、正義の組織に助けられた身でそれをやるのも居心地が悪い。何にも身分証明できないやつでもできる仕事でも探すしかねぇだろうな」
不幸中の幸い、というか目の前の子たちによって万全の状態まで回復することができたのだ。肉体労働程度はもちろん、戦闘だってこなせるぐらいには元気になれたのだし、どこか土木工事でもしている場所を探すしかねぇんだろうな。
ふとお金のことと回復したと言うことで思考が停止する。あれだけの怪我、それも死の峠を越えたとすら言われるほどの瀕死の重傷だった俺がほんのわずかな短期間で万全の状態まで回復したのだ。海軍に所属していたのなら金を払うことなく治療してきてもらっていたのだが、ここはそうじゃない。無料で出来るわけがない。
「……あまり、聞きたくないんだが、俺の傷を治すのにどれだけかかった?」
「エリクサーも使用したし、結構無理を言って入院させてもらったから尋常じゃない値段ね!具体的には数百万ぐらいかしら!」
「数百……ッ!?」
アリーゼの言葉に思わず大声を出しそうになるがギリギリで声が漏れる程度にまで抑えることはできた。しかしまさか何百万単位での借金を抱える羽目になるとは思っていなかったが故に精神的な衝撃は大きく、目の前が暗くなって足に力が入らず膝から崩れ落ちた。
まさか、目が覚めてからやることが数百万もの借金の返済からだとは、思いたくはなかった。
本編とこことで性格が違う理由:経った年月と経験が違うため。本編ではベルや村人たちとの交流で比較的落ち着いており、ここではルフィとエース、ガープの影響で割と軽い性格になっている。
謝罪と御礼
オリ主を回復させるのに数千万としておりましたが、
エリクサーを使用していたとは言え数千万は高すぎでは?(意訳)
とありまして考え直していたのですが、
①いくら正義のファミリアとはいえ顔の知らない一般人にそんな高額の治療を施すのか?
②入院も難しい状況だと思っていたが、そもそも大規模な戦闘があったわけでもないのに闇派閥による襲撃が繰り返されている状況とはいえそこまで切羽詰まるような状況なのか?
③アメリカの現代(手術、入院込)を参考に考えていたが、さすがにファンタジー世界にそれを考えるのはナンセンスがすぎるのでは?
④エリクサーの値段を間違えて覚えていた(8割)
等とよくよく考えたら数千万はいくらなんでもボリすぎだなと思い至り数千万から数百万に変更しました。
変更の謝罪と共にご指摘に感謝致します。