元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか 作:ルーニー
「やった!トータルで200オーバーもステイタスが上がっている!」
ベッドの上で上着を着ないままベルは羊皮紙を見てはしゃいでいた。その羊皮紙にはベルのステイタスが載っていて成長具合も載っているが、今回のダンジョンでの鍛錬でかなり伸びたらしく、しばらく経っても興奮が冷めそうにもないほどだった。
「へぇ。そんなにも上がったのか。ベルはすごいな」
「うん!昨日までは微々たるものだったけど、どうしてか今日はこんなにも上がってるんだ!」
見て見て!と言わんばかりに俺に羊皮紙を渡すベル。いくら同じファミリアで兄弟だとは言っても、まさかここまで無警戒にステイタスを見せてくるとは思わなかった。よほどの興奮で思考が回っていないのか、と思いながらベルのステイタスを見る。確かに昨日見た数値よりも全体的に大きく動いているのが見て取れた。パッと計算するだけで確かに200を超えているのだからあのスキルによる成長はすさまじいものだと戦慄すら感じる。
「神様!こんなに上がっているのってなぜかわかりますか?」
しかし、ベルも上がり幅がとてつもなく小さい俺と比べてはるかに大きく上がっていることが気になったのか、興奮冷めやらぬ状態でヘスティア神へ問う。しかしヘスティア神はその様子が気に食わないのか頬を膨らませてそっぽを向いていた。
「……ふんっ」
「あ、あの、神様?」
浮かれていたベルもさすがにヘスティア神の様子に気づいたのか腰が引けてきている。その様子を知ってか知らずか乱暴にクローゼットを開け、数少ない外行の服を羽織った。
「そんなこと、僕が知るもんか!」
ダバンッと力の限りクローゼットを閉めたせいか大きな音が鳴った。壊れたら誰が直すことになるんだろうなぁと少し見当違いなことを考える。怒りが収まっていないヘスティア神はそのまま外へ出ていくためか外に繋がっているドアまでズンズンと歩いて行った。
「ヘスティア神。今日はご友神と食事ですか?」
「そうだよ!僕のいない間、君たちはせいぜい豪華な食事でもしてきたらどうだい!」
ドバンッとヘスティア神は力を込めていたのか大きな音を立ててドアが閉まった。その様子を見ていたベルは呆然とした表情でヘスティア神の出たドアを見、困惑したような表情で俺を見た。
「……神様、どうしてあんなに怒ってたんだろ」
「さぁな。俺たちにはさっぱりわからないことで怒っているんじゃないのか?」
ベルにはこういっているが、俺はなんとなくヘスティア神の怒りに心当たりがあった。ベルの急激と言ってもいいほどの成長具合の原因であるスキル、憧憬一途で誰かしらを想っていることに対する嫉妬だろう。俺には到底縁のない話だとは思う話だが、ベルがこうやって誰かを想うことができるようになったのはいいことだ。ルフィやエース、ついでに俺には縁も所縁もない話なだけに興味が出ないわけではないが、まぁそっとしておいた方がいいだろう。
「それじゃ、俺たちは俺たちで食べようか。今日も俺が作ろうか?」
「あ、それならちょっと行きたいところがあるんだ。兄さんも一緒に行かない?」
ベルが外で食べようと提案をするとは、珍しいこともあるものだ。ベルの話を聞いていると、どうも俺と別れた時に酒場の店員からお弁当をもらい、いつか働いている店に来てほしいと言われているということらしい。今日はヘスティア神も外で食べてくるということからいい機会だから行ってみたいということらしい。
「それじゃ、ベルのいうところに食べに行こうか」
「ありがとう、兄さん」
中層に行ってきた際に稼いだお金がまだ残っている。お金に余裕がないわけでもないからベルと一緒にベルの言う店へと行くことにした。
薄暗くなりつつあるオラリオも、昼とはまた違った賑わいがあった。鎧を着た冒険者たちがあちらこちらにある店に入っていき、その中で酒を飲んで賑わうその様子は、ガープさん主導の勝利祝いの宴にも似たものがあった。ウォーターセブンで久しぶりにルフィに会った時にも、あんな風な宴だったな、と少し懐かしさを覚えた。ルフィ達の船員だけでなく、ガレーラカンパニーの職員、コビー、ヘルメッポといった多種多様な人たちで賑わったあの宴は、ルフィの目指す自由さを表現しているかのような宴は今でも鮮明に思い出せる。
「えっと、確か、こっちのはず」
俺がかつての宴のなつかしさを覚えている中、ベルは売り子からもらったのであろう地図を確認しながら道を進んでいく。ベルの進んでいく先に従って歩いていると、ベルは目的の店である看板を見つけたのか早足で店の前へと進んでいった。
「えっと、豊穣の女主人……ここだ。いっぱい人がいるね」
「冒険者を対象とした料理店か。人気そうだし、雰囲気も悪くないな」
中を覗き見てみると、ダンジョンからの帰りらしい冒険者やいったん拠点に戻ってここに来た冒険者らしき人がガヤガヤと食事をしていた。普通の客もいるが、多くは冒険者らしい恰好をした人が多くいることから、メインは冒険者をターゲットにした店のようだ。
「あ!来てくれたんですね!」
中を観察していると、銀色に近い髪の色をした少女がにこやかな表情を浮かべてベルに近づいてきた。どこかふんわりとした雰囲気を持つ少女にベルはにこやかな表情を浮かべていた。
「その子が昼を分けてくれた子か?」
「うん。えぇっと……」
「あ、自己紹介がまだでしたね。私はシル・フローヴァです」
「シルさんですね。僕はベル・クラネルです。よろしくお願いしますね」
「はい!」
ニコリ、と柔らかい笑みを浮かべるシル。その笑顔のまま俺たちを店内へと案内する。予約が入っているのか、大きく空いている席以外にはどこの席も空いておらず、俺たちはカウンターに座ることになった。
ジャッと厨房で焼く音が聞こえる。同時に香ばしいいい匂いが漂っている。こういったちゃんとした外食をするのは、果たしてどれぐらいぶりだろうか。とりあえずベルはシルに勧められるがままにお店のおすすめを頼んだようで、そのままシルと会話を続けていた。
「あんたがシルの言っていた客かい?」
なんとなくメニュー表を眺めていると、恰幅のいい女性が厨房の奥から笑みを浮かべてこっちへやってきた。その手には山盛りになったパスタをドンッとベルの前に置いた。
「話はシルから聞いているよ。華奢なくせに大食らいなんだって?」
「え?え!?」
女性の言葉を理解できなかったのか一瞬困惑したかのような表情を浮かべ、そして驚愕した表情を浮かべてシル・フローヴァを見るベル。見られたシルは舌をチョコッと出して笑みを浮かべている。確信犯のようだ。
「食えなくなったら俺が食ってやる」
「だ、大丈夫。注文したものぐらいは全部食べるよ……」
目の前に置かれたパスタを眺め、覚悟をしたような表情でフォークを手に取る。俺とは違ってベルはそこまで多くは食べない。かつてガープさんに、食べられるときは食べられるだけ食うことが立派な海兵になるための条件だ、なんて言われてきたが、さすがにそんな環境でもなかったからそれについては言っていない。
「女将、ベルと同じものを2人前お願いします」
「細い体のくせにいっちょ前に言うねぇ。食いきれない、なんて言ったら承知しないからね」
「うまいものは、いくらでも腹に入るでしょう?」
「……吠えたね小僧。その子の量が2人前だから合計4人前になると少し時間がかかる。できるまで待ってな」
俺の言葉を挑戦と受け取ったのか、ニヤリ、と笑みを浮かべて厨房へと戻っていった女将。シル・フローヴァも自発的にそれだけの量を注文するとは思っていなかったのか目を丸くしてこっちを見ていた。
「……お兄さん、背は高いですけどそんな細さで食べるんですか?」
「昔からよく食べる性分でな。昔は食べ物を調達するだけで苦心していたものさ」
「兄さん、昔からよく食べてたもんね」
実際、ガープさんに引き取られてからよく食べるようになったせいで、燃費が悪いわけではないが、こっちでも毎日狩りをして調達しないと腹が減って仕方なかった。狩りをして獲物を分けたり薪を余分に持ってくるようにして食べ物を分けてもらってなかったらここまで成長しなかったんじゃないだろうか。
「へぇ。ベルさんたちの昔の話、気になるなぁ」
「そんな面白い話なんてないですよ。どこにでもある農村で農業をやりつつ冒険者になるための修行をやってたってぐらいですし」
面白くない、と言いつつも『六式』のこと以外のことを話し始めるベル。歳が近そうな人と話すのも久しぶりなおかげか、ベルは楽しそうに話を進めている。それをシル・フローヴァはニコニコとしながら様々な反応をしながら聞いている。
「はいよ。4人前お待ちどうさん!」
ベルたちの様子を見ていると、ドンッと俺の目の前に大皿に乗ったパスタの山が置かれた。なるほど。4人前ともなると普通のさらには収まり切れなくなるのか。
「いい匂いだ。これは食い甲斐がある」
「残したらその分追加料金をもらうからね」
「残念ながら、追加料金はないものだと思っていてもらいましょうか」
面白そうな表情をしている女将に挑発的に笑みを浮かべる。よく言う、と言わんばかりに楽し気に笑っている女将はそのまま厨房の奥へと戻っていった。フォークを手に取り、パスタを絡めてこぶし大の球にして口へと運ぶ。うん。思った通り、うまい。
「……あんな大きい塊、一口で食べる人初めて見ました」
いつの間にかこっちを見ていたのか、ポカンとした表情をしているシル・フローヴァ。ベルは見慣れているせいかシル・フローヴァの反応に少し苦笑いを浮かべている。
「……ベル。しゃべっているとパスタ冷めるぞ」
「うん。心配しなくてもちゃんと食べてるよ」
量の違いで少なく見えるが、ベルの量は2人前はある。シル・フローヴァと話しながら食べているとそれなりに時間がかかりそうだ。それをわかってか、ベルはフォークを進めながらシルと会話をしている。
ベルが話し、パスタを食べ、たまに俺も口をはさむ。そういった時間を過ごしていると、いつの間にかベルはパスタを食べきっていた。俺はまだ1人前ぐらいの量は残っているが、話しながら食べていたと考えれば十分早い方ではないだろうか。
「そういえば、あそこの席ってどこか団体でも予約入れてるんですか?」
パスタを食べ終わり、少し一服していたベルがふと大量に席の空いている場所を見てシル・フローヴァに聞く。
「えぇ。もうすぐ来るとは思うんですけどね」
「それなりに料金がかかるってのに、あそこまで大人数となるとよほど金のある集団のようだな」
ざっと見ただけで30人は入りそうなスペースをとっている。メニュー表を眺めているときに思ったが、この店はそこそこの料金をしている。そんな店をあんな多くの席をとっているのだから、よほどここを好いている有名どころなのかもしれない。
そんなことを思いながら店の入り口を見ると、赤髪の女性が店員に話をしている。後ろに多くの人の気配を感じた。おそらく、予約をしていた団体が来たんだろう。
「ご予約のお客様、ご来店にゃぁ!」
俺の予想通り、そんな声とともに大勢の人が店の中に入った。同時に空気が変わったのを感じた。ざわざわとざわついている声の中からその集団がロキ・ファミリアであることが聞き取れた。チラリと集団を見るとその中に見た覚えのある金色の長い髪の少女がいたのを確認できた。
これは、もしかしたらいいタイミングでここに来たのかもしれない。そう思い、口の中に詰め込んだパスタをゴクリと飲み込んだ。
なんてことないような表情をしてパスタ4人前食ってる主人公の口周りはルフィとは違って汚れるようなことはないです(鋼の意志)。食事中に寝ることもしないし、口の中に入っている中に次々と食べ物を入れるようなこともしない(ワンピース世界比では)紳士的な食事をしてます。長男が口を汚して食べているのは解釈違いなのです。まぁ頬を膨らませて食べてはいるんですけどね。