元海兵がダンジョンにいるのは間違っているだろうか   作:ルーニー

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27話

 ヘスティア神が出かけてからはや数日。前もって何日か家を空けることは伝わっているから特に不安に思うようなことはないが、しかし3人で過ごしていた家が2人になると狭い家であろうとも寂しく感じるのは、ヘスティア神がいる状況に慣れてきているからだろうか。

 

「ベル。今日は組手の予定はなしだ」

 

 カチャカチャとダンジョンに出るような装備を準備していたベルは俺の言葉に目を丸くしていた。

 

「え?どうして?今日は特に何か用事があるわけじゃないと思っていたんだけど……」

 

怪物祭(モンスターフィリア)、気になってたんだろ?まだ続いているようだし、1日ぐらい鍛錬をなしにしても問題ないさ」

 

 俺の言葉が図星だったのか、照れたように頭をかくベル。

 

「あ、あはは……。バレてたんだね」

 

「お祭りに興味を持つことに悪いことはない。お前が行きたいと言えばダンジョンに行くのも鍛錬をするのも休みにしようと思っていたんだが、興味ありますって顔してたのに祭のまの字も出そうとしないからな」

 

 これがルフィなら目を輝かせてお祭りで出てくる食べ物を食べて満喫していただろう。エースなら祭の雰囲気を楽しんで食事に明け暮れていただろう。サボも、きっとルフィたちと一緒に騒ぎながら食い逃げなりなんなりしていただろう。……俺の兄弟、食い気ばっかりだな。

 過去に思いをはせて苦笑を漏らしていると、ベルが突然笑い出したことにどうしたのか、と言わんばかりに怪訝そうな表情を浮かべた。まぁ、突然笑い出したらそういう表情になるだろう。それをごまかすようにベルの頭を乱雑に撫で、わっわっわっと短い悲鳴を上げているベルにまた笑いが漏れ出してくる。

 

「ほら。その装備を外せ。祭りを楽しむのに、それは無粋だろ?」

 

「……うん。そうだね」

 

 突然のことに納得がいっていないと言わんばかりに膨れながら装備を外しているベルにまた笑いが込みあがってくる。子ども扱いされていると思っているのか、ベルはさらに頬を膨らませている。悪かった、と言ってもベルは別に、と答えるだけで拗ねているのが目に見えてわかる。子供みたいなやつだなぁ、と再び笑いがこみあげてくるが、ここでまた笑ってしまったらさらに拗ねてしまうだろう。笑いを出すのを我慢して外へと促す。ふくれっ面のまま俺と一緒に歩いていたベルだったが、お祭り騒ぎというかお祭り気分の雰囲気には勝てなかったのか徐々に表情を明るくしていき、道化師の恰好をした人が大玉に乗ってジャグリングをしているところを見れば表情を輝かせてジャグリングをしている様子を見ていた。

 

「すごいよ兄さん!あの人あんなにたくさんのナイフを一個も落とさずに投げてるよ!」

 

「へぇ、上手いもんだな」

 

 視線をナイフや足元、そして観客にも送り余裕そうな表情を見せている道化師。この世界にも道化師はいるのか、と思うのと同時に立派な赤鼻に派手なメイクを見ていると道化のバギーを思い出す。インペルダウンをルフィと大勢の囚人たちと一緒に抜け出して頂上戦争で混乱を巻き起こした一角だが、なんだかんだルフィを助けてくれていたりしていた男だ。あのロジャー海賊団の船員だってことで殺害対象認定されていたが、俺が死んでから逃げきれたんだろうか。まぁどうでもいいか。

 一通りの演技を終えた道化師がナイフをキャッチして玉から降り、大げさに一礼する。疎らながら見物客から拍手が起き、見物客が集金箱にお金を入れていく。ベルに見物代としていくらか握らせて集金係の持つ箱にお金を入れてきてもらい、そのままその場を後にする。

 改めて街中を見回してみるが、年に数回の大きなお祭りであるおかげか活気がいつもに比べてけた違いに賑わっている。そこかしこに屋台が出され、出稼ぎに来ているらしい吟遊詩人が楽器を片手にオラリオの外で起きたであろうことを歌い上げている。怪物祭の趣旨とは違う賑わいだが、ベルはそんなことを気にすることなくあちらこちらに視線を彷徨わせている。

 

「そこにいるのは白髪頭!いいところにいたにゃ」

 

 ベルと一緒に大通りを歩いていると聞いたことのある声が聞こえてきた。ベルと一緒に声のした方を向くと、そこには豊穣の女主人の店員である獣人の女性が笑顔で手を振っていた。

 

「えっと、豊穣の女主人の店員さんですよね。僕に何か?」

 

「これをおっちょこちょいに渡すがよい」

 

「え?」

 

 そういってベルに渡したのはがま口財布。ふくらみから見るにそれなりの金額が入っているであろうその財布を渡されたベルはなんのことかさっぱりだと言わんばかりに財布と店員を交互に見ている。はたから聞いていた俺も意味が理解できていないから詳細を言ってもらいたいと視線を送っているのだが、それに気づいていないのか満足げな表情をしている。

 

「アーニャ、それだけでは伝わるはずがないでしょう」

 

 それに呆れたような物言いをする金色の髪の給仕。それを聞いたアーニャと呼ばれた店員はなぜか鼻を高々としている。

 

「リューもアホニャ。シルが祭に行ったけど財布を忘れて行ってしまった、なんて言わなくても分かる話なのニャ」

 

「と、言うことです」

 

「あぁ。そういうことですか」

 

 リューと呼ばれた給仕に促されるように自白するように言ってくれたからわかったものの、あれだけでわかるはずがない。

 

「本来なら私たちが追いかけて渡すべきなのでしょうけど、私たちもお店の手伝いがあって追いかけられないのです。申し訳ないのですが、頼まれてはくれないでしょうか」

 

「そういうことですか。わかりました。シルさんに渡してきます」

 

「ありがとうございます」

 

 シルとも知らない仲でもないベルはこれを快諾した。今日は祭を楽しむために歩く予定だったから探すのにも好都合だろう。まぁ、この人ごみの中を探すとなると骨が折れそうだが、まぁ祭りを楽しみながら探しても問題はないだろう。

 

「もし俺たちに出会うことなく戻ってきていたらここにいるよう伝えてもらってもいいか?時間が経った時にまたここに来るようにするし、入れ違いになったらまた探すのは厄介になりそうだし」

 

「そう、ですね。わかりました。シルが戻ってきたらここにいるように伝えさせてもらいます」

 

 2人と別れ、ベルと一緒に人ごみの中に紛れていく。ガヤガヤと賑わっている中、あの特徴的な銀色に近い髪を探すのは、この人ごみの中では難しいだろう。

 

「ベル。ここは手分けして探そうか」

 

「え?でも、この中で別れたら僕か兄さんがシルさんに会うことができても合流することができないんじゃないの?」

 

「逆だ、ベル。この広い街中をたった1人探すなんてこと、正直無理にもほどがある。祭をやっている場所だけに限定してもそれなりの面積はある。そんな中を一丸となって探していても効率は悪いだろう?」

 

「あ、そっか。確かにそうだね」

 

「だから別れて探した方が効率がいいってことだ。集合場所も集合時間もちゃんと決めてから別れるんだから、問題はない」

 

 実際、あの2人にシルが戻ってきたら待ってもらうように言ってある。ある程度時間をかけて探した後で店で合流した方が効率はいい。そう説明するとベルも納得したのか、僕はどこから探していけばいいのかな、と探す範囲を考え始める。そこまで厳密に考えなくても、広い範囲を探すのだから多少は範囲が被っていても問題はないだろう。そう思ってある程度の探す範囲をベルと相談していると、人ごみの中から聞きなれた声が聞こえてきた。

 

「あ!ベルくんにフィースくん!奇遇だね!」

 

 人ごみの中から見慣れた黒い髪の女神、我らの主神であるヘスティア神が笑顔で俺とベルのところまで走ってきた。2つに括った髪が走るたびにパタパタと動いているその様子はさながら主人に会えて喜んでいる犬のようだと、失礼だとはわかっていてもそう思ってしまった。

 

「もう用事は済まされたので?」

 

「うん!もう大丈夫!」

 

 俺の質問ににっこりと笑みを浮かべているヘスティア神。失礼かもしれないが、ヘスティア神の用事と聞いて思い起こすのはプレゼントの件だけだ。それ以外にバイト以外で用事ができそうにないと思うから、たぶんそうなのだろう。さすがにプレゼントの話が出てからまだ1週間も経っていないのに両方とも準備ができた、というのは現実的ではない。となれば、この分だと俺かベルのどちらかのものは完成したのだろう。

 

「ベルくんとフィースくんは、祭を満喫しているのかい?」

 

「えぇ。まぁ先ほど人探しを頼まれたのでそのついでに、という感じですかね」

 

「ふぅん……?」

 

 ヘスティア神は不思議そうな表情を浮かべたが、特に問題もないと思ったのかすぐに笑みを浮かべた。本当なら俺とベルで探そうと思っていたところにヘスティア神が来るとは思っていなかった。せっかく合流したのに人探しのために解散します、というのもせっかくの祭りの中なのに味気ないだろう。

 

「ベル、ヘスティア神と一緒に行動したらどうだ?」

 

「え?」

 

「ヘスティア神にも人探しを頼もうかと思っていたんだが、よく考えればヘスティア神はシルのことを知らない。なら、知っているベルと一緒に行けば問題はないだろう?」

 

「あ、そうだね」

 

 まぁ、そういう理論でいえば俺と一緒に探してもいいんだろうが、ヘスティア神はベルに深い愛情を持っている。お気に入りと言えるだろう。なら、ベルと一緒に行動した方がヘスティア神も喜ぶだろう。俺にはそういった愛情はない、とは言わないが、俺と比べたらその比はベルに傾くぐらいには差はあるだろう。それについて俺からは特に何か言う気はないし、思うところもなにもない。ちゃんと俺にも気を配ってくれるし、大事にしてくれているというのはわかっている。同じ家族の中でも多少の差はあって当然と言えるだろう。

 

「うん?人探しの話かい?みんなで行けばいいんじゃないのかい?」

 

「こんな広い街の中をたった3人で探すとなれば散らばった方が効率がいい、ということですよ。ヘスティア神は探す対象を知らないでしょうから、ベルと一緒に行動していただきたいのです」

 

「あ~。なるほど、ね。わかった。それじゃ、ベルくん行こうか!」

 

「あ、はい!」

 

 我行かんと手を上げてベルを先導するように歩いていくヘスティア神。どこに行くのかわかっているんだろうか、と思わなくはなかったが、同時に人を探しているんだから目的地も何もないかと思い直す。

 

「集合場所は豊穣の女主人でお願いしますよ。場所はベルが知ってますから聞いてくださいね」

 

「了解だよ!」

 

 手を振ってベルと一緒に人ごみの中に紛れていく2人。見えなくなるまで2人を見送った後、改めて俺も探し人を探すために人ごみの中へと歩いて行った。見つからなくても祭りを楽しめばいい。そんなことを思いながら、辺りを見回していた。

 

 





 原作と同じように行動させてもよかったのかなぁ、とは思わなくはないですが、さすがに人を探すのに広い街中を一丸となって探すのもどうかと思ったので2手に別れました。ヘスティアもベルくんとセットにしたのは多少なりともヘスティアにも祭を楽しんでもらおうという心遣いからです。平等に愛そうとしてもどうしても差は生まれてしまうのは主人公としても理解しているし納得もしているのでまったく気にしていない主人公です。
 作中では何日怪物祭が行われているのかは言及されていなかったと思うので連日にわたる大きなものであることにします。
 ということで、みなさまお待たせしました。次回はベルくんとシルバーバックの戦闘です。来週をお楽しみに!
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